文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活   作:ぐにょり

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ダンゾウ!ダダンゾウ!
は出なかったけど、柳生さんと酒呑が三枚づつ出たので剣豪ガチャ終了です
……でも欲しかったなぁ、対魔忍ダンゾウ……
名残り惜しきは電脳ファック感度三千倍ダンゾウ……
最終的にバイクに改造して暴漢に襲われている女性をミサイル発射して助けるぐだ夫……


六十二話 男女二人が同じ空間に、何も起きない筈もなく

「にゃぁ、にゃ、にゃあああ」

 

人語を話す機能を何処かに置き忘れてきたのかと思う程に本能直結の声。

姉様がソファに寝そべりながら、チョコバーを齧りつつテレビを眺めている。

これがマスコットの様なSD形態なら良かったのかもしれないけれど、残念な事に今の姉様は私よりも少し年上の女性の姿を取っている。

……実年齢として見た場合の話であって、私の外見年齢の少し上、という訳ではない。

 

それはともかく、ある程度の力持つ妖怪としては珍しくもない人間に似た姿。

多くの擬人化した妖怪の例に漏れず、その姿は美しい。

美しいと断言できる外見なだけに、ソファーに仰向けに寝そべり逆さまな状態でテレビを見ながら、口にチョコバーを咥えてガジガジと少しづつ咀嚼している姿は実に怠惰。

世の黒髪巨乳好きの男性の方々が幻滅することこの上ない姿だけれど、たぶん彼等はシャッツがめくれ上がって見えているお腹とか、その大きさでシャツがそれ以上ずり上がるのを抑えている巨乳だけで大体は許してしまうのだろう。

 

「姉様、だらしない」

 

「にゃあ」

 

人語ですらない鳴き声を一言、私の方にお尻を向けたまま、形の良い尾てい骨の辺りから伸びたスラリとした尻尾をくるくると振る。

別に猫系妖怪特有の良くあるジェスチャでもなければ猫魈にのみ通じる暗号でもない。

が、ニュアンスとしては生返事である、という程度の事は解る。

だらしないという事を抜きにしても猫らしさすらおざなりだ。

まだ先日目撃した禍の団に潜伏中であるらしい姉様の偽物の方が猫らしさはあるのではないだろうか。

 

―――――――――――――――――――

 

「にゃーん!」

 

「キメラ……いや、鵺か? だが、ハムスター……?」

 

「和尚だっけか? あ、でもこんなジャンル成立したって話は聞いたことがある気がするぜい」

 

顔はインコ、体は犬の怪しい獣が首から『ハムスター』と書かれたプレートを下げ、たしたしと地面を四本の脚で叩く。

それを真剣な表情で見つめる白龍皇ヴァーリ・ルシファーと美猴。

二人の解答を受けた謎の獣がびたんびたんとその場でのたうち周り、二人は冷静に三歩ほど後退し、観察を続ける。

激しく振動しながら尻尾を軸に起き上がり、そのまま地球の重力を無視してX軸Y軸Z軸を問わずに不規則に回転。

 

「人参を要求する……人参を要求する……」

 

外見と口調と行動の上で完全に擬態を放棄した偽黒歌は、それでも声色だけは律儀に黒歌のものを模倣し続けている。

いっそ恐怖すら感じさせるその振る舞いを見て、ヴァーリは得心行ったとばかりに頷いた。

 

「なるほど。さてはその姿……ドラゴンだな?」

 

『待て、何故その結論に至ったか順序立てて説明してみろ』

 

「こうして思うけど、やっぱ黒歌はコミュ力高かったんだなぁ……」

 

トランス状態に入った偽黒歌の奔放な自己表現を前に、戦いを求める二人は黒歌の奔放ながらも細やかな気配りと常時真っ当に会話ができる常識人ぶりを思い出していた。

 

―――――――――――――――――――

 

まぁ、見たこともない人の話をした所で仕方がない。

が、少なからず姉様には生活態度を改めて貰いたいのも確かだ。

けれど困ったことに、私が普通に注意してもこの様に生返事を返されるだけで改善の兆しは見えない。

そもそも、姉様はどの段階でこれ程迄に怠惰な生活に適応してしまったのか。

……原因に、一つだけ思い当たるものがある。

 

「姉様、書主さんの家でどれだけ甘やかされてたんですか」

 

「にゃ? ……なうぅぅ~……」

 

「すいません人語でお願いします」

 

すると姉様はソファーからごろりと転げ落ちながら下に設置してあったクッションにうつ伏せに寝転がり、ばしばしとカーペットの敷かれた床を平手で叩く。

 

「言っておくけど、私はぜんっっっぜん! 甘やかされてなかったにゃ! 人権、いや、猫権無視も甚だしい扱いだったにゃ!」

 

「はぁ」

 

「信じてなーい! 白音つめたーい!」

 

ゴロゴロとその場で転がりだす姉様。

グラマー美女の姿でそういう振る舞いは流石に妹として居た堪れない気持ちになるし、やるならマスコットの姿で全身に粘着面を外側にしたガムテを巻きつけてから埃が集まりやすそうな場所でやってほしいんですが。

 

「そうは言っても……。書主さんはそういう無体をする人では無いので」

 

別に姉様を信じていない、という訳ではなくて。

態々無実を証明するために保護した相手に意味もなく非道な真似をする人ではない、という程度には、私は書主さんを信頼しているのだ。

 

「にゃぁぁん」

 

にまぁ、と、姉様が猫丸出しな嫌らしい笑みを浮かべている。

……姉様に限らず、私がこういう話をすると、こういう表情を浮かべる人がそれなりに居るのだけれど、皆ちょっと邪推が過ぎるんじゃないでしょうか。

私は単純にこれまでの書主さんの振る舞いと友人としての贔屓目で信頼しているだけだというのに。

 

「まぁ、白音があいつの事を信じてるなら信じてるでいいよ。うん、うんうん。私があの家でどんな風に扱われてたかなんてー、別に聞く必要もないだろうしー」

 

「……」

 

「例えば私がまるでペットー、みたいに扱われて、このメス猫めー、みたいな事を────にゃ! にゃっ! 鼻は……割り箸はやめるのにゃ! 穴、穴増えちゃうにゃー!」

 

―――――――――――――――――――

 

「という話をしまして」

 

ペット虐待かな?

お姉さんの指名手配が解除されて小猫さんのドメスティックなお話が気兼ねなく聞けるようになったのはいいのだが、長らく共に過ごす家族もなく生きてきたせいか、小猫さんのお姉さんへの振る舞いは中々に体当たり的だ。

お姉さんの方も受け入れているから現状は特に問題ないのだろうけれど、将来彼女の家族に成る男性は苦労するかもしれない。

まぁ、流石にしばらくすればお姉さんに対する、というか、身内に対する距離感の図り方も覚えられるだろうからそれは考え過ぎかもしれないが。

 

「でも、ううん、猫権侵害と来たかぁ」

 

帰り道から少し逸れたところにある駄菓子屋で買った串カステラを齧る。

 

「本気で言ってる訳でもないでしょうけど、姉様も」

 

棒ゼリーをちゅるちゅると啜りながら、小猫さんはなんでもない様に言う。

それほど気にしていないのだろう。

そりゃあ、部屋でぐーたらしてる時に言い訳として言われた台詞なら信憑性もクソもない。

 

「本気で言われても困るけどね」

 

猫砂、猫草を始め、短い滞在期間中の為だけに猫グッズを揃えた手間を考えれば、文句を言われる筋合いは無い。

というか、

 

「実際、寝てるか食ってるか、ちょっと離れたところからこっちを観察してるかしかしてなかったし……」

 

普通の飼い猫であったと仮定しても、外に自由に出さないところも最近は多い。

その点で言っても、此方は冥界限定とはいえ、外をある程度動き回れる時間があるだけまだマシな方ではないかと思うのだが。

 

「姉様は野良猫気質らしいので……最近はそうは見えませんが」

 

「現状が結構気に入ってるんじゃないの?」

 

追手を気にすることもなく、誰憚る事無く唯一の肉親と共に過ごす事ができる。

そこまでわかるほど彼女と心の交流があったかと言われると困るが、少なくとも此方が読んだ彼女の性格面での記述から考えれば、今暫くは妹の元で妹に構い続けるのではないかな、と。

勿論、妹だけが人生ではないだろうから、暫くすればあちこちを、それこそ野良猫の様に彷徨き始めるのは目に見えているのだけど。

 

「なら、良いんですけど……」

 

僅かな沈黙。

 

「……あ、ちょっとそこの公園寄っていきましょう」

 

「うん、うん?」

 

唐突な方向転換。

なんとなく久しぶりに駄菓子が食べたいという事での寄り道だったが、小猫さんは更に寄り道を重ねたいらしい。

一瞬付き合うかどうか悩んだが、まぁ、ここまで来て帰りを急ぐというのも付き合いが悪い。

 

「鳩に餌でもあげにいくの?」

 

「いえ、普段家で猫に餌をあげてるのでそれはいいです」

 

おっ、辛辣ゥー!

間違っちゃいないが。

 

「あ、因みに公園の鳩とか鴨は勝手に捕獲すると犯罪なので」

 

「姉様が猫形態で捕獲する分には裁かれませんよね?」

 

「人間社会に潜むなら法律は守ろう」

 

「姉様はまだ馴染めてないと思うのでセーフでは?」

 

「もしかしてお姉さんのこと嫌い?」

 

「大好きですよ。当たり前じゃないですか」

 

「そっかー」

 

姉妹という関係は中々難しいものだ。

一人っ子なのでそこら辺の機微が分からないのだけど、父さん母さん、妹とか弟作ったりしませんかね。

そんなことを話しながら歩いている内に、件の公園へと到着した。

池も林も無い、住宅地の中にある、ちょっとした生け垣に囲まれたこじんまりとした公園だ。

聞いた話では兵藤先輩やモリゾー先輩も早朝のトレーニングでこういう公園を経由地としていたりするらしい。

何故トレーニングなのに付近の山の山頂まで全力ダッシュしたりしないんだ……。

此方の運動場所と被っても困るからそこら辺は変えなくてもいいけれど、謎だ。

悪魔の身体能力で、普通のランニングとかはどれくらい鍛錬の意味があるのだろうか。

 

ともあれ、この公園自体には見所も特に無い。

小さな砂場、遊具、まばらに雑草の生えた広場、そしてベンチがある程度か。

見なくても空気の反響とか匂いとか各種センサーとか第六感で大体の配置は解るが、それだけにこの公園が目を開けて見てもそうそう挿絵にならない場所である事は解る。

猫のたまり場という訳でもなく、猫の好物の小鳥が多く訪れる訳でもない。

小猫さんが唐突に訪れたくなるような場所でもないと思うのだけれど……。

 

「よいしょ。……書主さんも、どうぞ」

 

小猫さんは微妙に土埃や枯れ葉が乗ったベンチを軽く手で払い、腰を下ろすと、自分のすぐとなりをポンポンと叩いて此方に着席を促してきた。

促されるままに腰を下ろすと、少しばかり近すぎたのか互いの腕が少し当たる。

これは小猫さんが此方との距離を図りそこねたというより、単純に腕が短かったので近くしか叩けなかったのではないかなと思う。

 

「……でゅくし、でゅくしっ」

 

「どこで覚えてくるんですかそういうの」

 

此方の内心を察したのか、打撃音を口にしながら割りと強めに肘打ちをしてくる小猫さん。

それならと少し身体を離すと、小猫さんの方から距離を詰めてきて、また腕が当たる。

 

「近くない?」

 

「寒いので」

 

「そっかー、秋だもんね」

 

まだ紅葉には少し早いけれど、朝昼に比べて夕方の気温が低い季節に差し掛かってはいるので、そういう事もあるのかもしれない。

よく猫がPCに乗ってくるという話を聞くがあれと似たようなものだろう、小猫さんは正真正銘の猫系だし。

でも、寒いならなぜオモシロコーラを買ってしまうのか。

倣うように駄菓子の入ったビニール袋から同商品を取り出し、中の容器の口を歯で噛みちぎる。

流石に夕ご飯まで時間が無いので、今日の間食はここまでにしておこう。

無炭酸のコーラっぽい何かを啜りながらそんな事を考えていると、小猫さんが此方を見上げながら唐突に口を開いた。

 

「で、どうです?」

 

「どうって、いつも通り外れ」

 

「私もです。……そうではなくて、姉様がそっちに居た時の話です」

 

互いに空き袋の中身を見せあい(此方は見ていないが、そもそもハズレを直感で選んでいるし、小猫さんがハズレのやつを選んだのも買う前から知っているので見ていても意味はない)、そうではないと小猫さんが首を振った。

姉様の、黒歌さんの、つまり、家に居た頃のサバミソの話か。

 

「いや、ほんとにね、話すこともそんなに無いのよ。喋る猫相当の振る舞いしかしなかったし」

 

「だとは思うんですけど、一応、聞いておきたいなぁと」

 

「じゃあ、家に慣れてきた頃に猫形態で毛繕いしすぎて此方のやりかけの宿題に毛玉を『かっ、かっ! ゔぇぇ!』って吐き出した話とかする?」

 

あれ、態々モンスターボールから出てきて勉強机の上に飛び乗ってからやったのは本気で草も生えないんだけど。

 

「それは今度姉様にごめんなさいしてもらいますけど、もっと他に」

 

「じゃあ、錬金術で使うために用意した霊酒の樽の中にマスコット形態で頭突っ込んで溺れかけて、助けられた後に目ぇぐるぐる回しながら『わ、吾輩は猫であるのまねぇ……』とかやった話は」

 

しかも微妙に間違ってるし。

 

「これもしかして私も一緒に謝らないと駄目なやつですかね。そうじゃなくて、なんというか、ですね。ほら、姉様、美人で、スタイルもいいですし……」

 

「ああ、なるほど」

 

確かにグラマラスであるし、顔もそれほど見たことはないが美人なのだろう。何しろ小猫さんの姉だ。

香り立つ女の香り、というのも、まぁ間違ってはいない。記述を読む限り小猫さんよりはだいぶ成長している。文字列のシルエットとかでもそれはわかる。

 

「つまりエッチな話が聞きたいんですね小猫さん!」

 

爽やかな笑顔で小猫さんが言葉を濁していた部分を代弁してあげる。

静けさが支配していた公園に、さほど大きくない此方の声はよく響いた。

近所の住民の耳に届くまでワンチャンあるかもしれない。

 

「えい」

 

足の甲を踵で踏み抜かれた。

ずん、という音と共に此方の脚が地面に数センチめり込む。

恐ろしいほど早くて重いスタンピング……、此方でなきゃ骨折しちゃうね。

 

「ジョークじゃないですか……」

 

「私でなきゃ訴えられてましたよ」

 

一理ある。

冗談はさておき、小猫さんの懸念も分からないではない。

唯一の肉親である姉が、世間一般で言えばお猿さんとそう変わらないような性欲を持っているであろう年頃の男の家で過ごしていたのだ。

嫌らしいことをされていないかとか、それで弱みを握られて肉奴隷的な扱いをされていないか。

 

「……逆に」

 

「はい」

 

「黒歌さんが此方を襲ったりする危険性の方が高かったのでは」

 

「そこを踏まえて」

 

「踏まえていいんだ……」

 

「姉様は肉食なので……。今更聞くのも何ですけど、大丈夫でした? 姉様が何か、嫌らしい意味での粗相をしていたりは……?」

 

心配そうに、それでいて少し恥ずかしそうな声で聞いてくる小猫さん。

 

「ふぅむ……」

 

粗相。

意味としては不注意、そそっかしさから過ちを起こすこと、或いはその過ちそのもの。

或いは大小便を漏らすこと。

嫌らしい粗相、つまり嫌らしい過ちや、嫌らしい大小便を漏らす事。

家に居た最後の方だと、わりとあるな。

ボールから出て過ごす時間もままあったし。

寝ぼけて人型の時に猫砂を敷いてある方のトイレを使ったり……。

いや、それを暴露すると、小猫さんの家で愛され系ニート同様の扱いを受けているサバミソが今度こそ本当にペット同様の扱いになりかねない。

逆パターンの家に元からあるトイレを猫形態で使おうとして便器の中に滑落して危うく流されそうになったとかも避けるべきだろう。

家の中でのマーキング行為も、しっかり注意した後は止めてくれたからいいとして。

 

まぁ、粗相に限らずちょっとエッチな迷惑行為があったかと言われると……。

 

―――――――――――――――――――

 

部屋の中、ぎしり、と、軋む音が響いた。

安物でも高級品でもない、少しだけ此方が手を入れた既製品のベッドの上、日影さんとは異なる此方以外の誰かの重みを感じ取る。

原子時計に匹敵する体内時計によれば、まだ夜中、丑三つ時。

ガチャを引かない此方が起きている意味のない時間だ。

意図しない時間に眠りから無理矢理覚まされた苛立ちを込めながら口を開く。

 

「何のつもりですか、サバミソ」

 

見た目よりもやや軽い、術に特化した妖物特有の奇妙な軽さ。

それと同時に、此方を起こさないように配慮したのか、何らかの術で軽身功にも似た作用を生み出し、その重みはそこらの猫程度。

 

「あら、起きちゃったにゃん?」

 

妙に艶のある声。

小さく笑うような、悪戯がバレてしまった悪童の様な音色の声。

鼻を擽るミルクにも花の蜜にも似た甘い香り。

常にある程度発している匂いだけれど、今は一層香りが強い。

理由は簡単だ。

服を着ずに覆い被さってきているのなら、より強く香りを感じるのは当たり前だろう。

日頃ある程度記述を見て糖尿の気が無いのは確認しているので、どちらかと言えばエストロゲンの分泌量が多くなっているのも原因か。

 

伸し掛かる、というより、既に此方の身体に跨っている様な状態なのだろう。

跨がられた太ももを挟み込む柔らかな感触、ズボン越しでも解るしっとりとしたきめ細やかな肌から熱が伝わり、にちゃりとした体液がパジャマを濡らす。

 

「フートンとパジャマが汚れるでしょう」

 

「ムードの無いヤツだにゃあ……、白音はそういうのが好みなのかにゃ?」

 

囁く様な声が、匂いが、呼気が近づき、頬がぺろりと舐められる。

 

「ん……、雄の味にゃ」

 

そのまま首元に吸い付かれ、ぷちり、ぷちりと、胸元を愛撫するような手つきでパジャマのボタンが外されていく。

シャツが捲り上げられ、剥き出しになった胸元に、腹部に、触れるか触れないかというフェザータッチ。

 

「だから、どういうつもりで」

 

「こども、作らせてくれない?」

 

熱い吐息と共に、耳元で囁かれる。

瞼を開けば、そこに文字列は無く、見慣れた天井を背景に、興奮からか顔を紅潮させ瞳を潤ませ、肉食獣の笑みを浮かべるサバミソの……いや、小猫さんのお姉さんである黒歌さんの顔。

匂いから察するに化粧をしている訳でもないのに唇がやけに赤いのは血流が活発化しているからか。

 

「此方はドラゴンじゃないですよ」

 

「知ってるにゃん。あなたは唯の人間、ちょっと違う血が流れていても、人間。……無限を踏み躙れるだけの、ただの人間」

 

言葉が紡がれる毎に、不思議な香りの吐息が顔に掛かる。

明らかに息が荒い。

太腿の上に跨ったままゆっくりと身体を捩り、その度に水気のある柔肉が強く擦り付けられる。

自らの欲望を満たすための動きであり、相手の欲望を煽る動きでもある。

意識的に行ったものなのか、無意識にしている事なのかは、今ははっきりと見えている顔を見ればよく分かる。どっちもだ。

 

「大丈夫、お姉さんが気持ちよく導いてあげる……」

 

あぁ、と、大きく開いてみせ、口の中を見せながら焦らすように顔を寄せる。

かぷり、と、耳が甘噛みされ、顔を逸らそうとすると後頭部に腕を回されて逃げ道を塞がれる。

既に身体は密着し、胸元には豊満な感触が押し付けられ、身体と身体の間に挟まれたもう一本の手は此方の股間へと伸ばされた。

 

「にゃ……硬いし、おっきい……」

 

生理現象として膨張を始めた此方の股間をズボン越しに指先で撫で擦る黒歌さんに、理性を保った上での事だと期待した上で問いかけてみる。

 

「ドラゴンの子供じゃなくて良いんですか? ちょっと忍術と錬金術に天賦の才能があるだけの人間では満足できないのでは?」

 

「あっちのドラゴンは逃げないにゃん。でも、ふふ、お姉さんには、隠しても無駄なのよ(・・・・・・・・・)?」

 

「なるほど」

 

本能の裏に隠した知性が垣間見える……ようで、明らかに何かに強く影響されている。

あてられて(・・・・・)いるのだろう。

 

「にゃぁんっ!」

 

ごろん、と、伸し掛かっている身体を抱えて半回転。

頭を拘束していた腕、股間を弄っていた腕を両方とも手首を掴んでベッドに押し付ける。

跨がられていたのがひっくり返った為、此方の身体は丁度彼女の両足の間に。

互いの熱を持った部分が布越しに擦れ合い、温かい水気がより染み込んできた。

 

「食べられちゃう? なーんて……」

 

にゃぁ、と、種族に違わぬ猫の笑みを浮かべる黒歌さん。

掴んだ手首から、生体エネルギーが誘導されそうになる。

勿論阻止。

 

「にゃ?」

 

仙術が通じなかったのが不思議なのだろうか、口をωの形にした間の抜けた顔。

既に彼女の記述は読破済み、彼女の持つ術程度、対策できない筈もなし。

そのまま形の良い首に噛みつき、八重歯──牙を突き立て、経絡に干渉。

 

「にゃ、あ、にゃあ……」

 

熱の篭った息が喉からするすると溢れだした。

びくん、びくん、と、足先をピンと伸ばして痙攣する黒歌さん。

体内を、気の流れを()される感覚は、古来より陶酔感の強い性的快楽に似ていると言われている。

潜在的に母さんの特異体質を受け継いだからこそ出来る技だ。

血を分け与え眷属を作る様なもので、異物である此方の生体エネルギーに全身の経絡を侵された以上、暫くは仙術を使うどころか気や魔力を練る事すらできないだろう。

つまり……、人外としての力は、今暫くは使えない。

これから此方がこの術を解除するまで、彼女は見た目そのままの膂力しか駆使する事はできない。

いや、一般人が無意識に身に帯びる気すら乱されている以上、それにも届かないだろう。

 

首から口を放し、おもむろに、彼女の胸の頂きに噛み付く。

こり、というより、ごり、という音すら聞こえる程強く。

僅かに血が滲んでいる。

 

「に゙っ゙」

 

濁った声。

痛みから、と思うだろう。

だがその身体は一般人未満になった筋力をフルに発揮し、微痙攣を繰り返しながら大きく仰け反っている。

さっきから度々ズボンを汚してくれた箇所に手をやれば断続的に体液を撒き散らしている。

まぁ、そういう事だ。

 

「流石に、さして親しくない相手と子供は作りたくないので……」

 

ぐちり、ぐちり、水気の音を慣らしながら、複雑な形の柔肉を弄る。

噛みつき、血の滲んだ箇所を舐める。

塩気、鉄っぽさもあるが、甘みも。

 

「にゃあ、にゃ、にゃあ、にゃああん」

 

指の動きに合わせ、人語になれなかった切なげな猫の鳴き声が部屋に響く。

まだ挿絵を保っている顔は、焦り、興奮、屈辱、好奇がないまぜになり、どろりと淫らな欲に濁り溶けた瞳が何かを期待しているように見える。

にちり、と、指を差し込み中を探りながら、耳元に口を寄せ、近所迷惑にならないように、小さな声で囁く。

 

「ちゃぁんと、あぶない記憶が無くなるように、何度も、何度も、真っ白になるまで、飛ばしてあげますね。なにしろほら、朝まで、まだまだ、時間はありますから……」

 

―――――――――――――――――――

 

……という様な事があったけれど。

そそっかしさから来た過ちでは無いな。漏らしてはいるが。

お漏らし系の話は唯でさえ下がり気味らしいサバミソさんの株を下げてしまいかねないので武士の情けで黙っているつもりだし。

そも、説得でも拘束でも撃退でもなくああいう処理をしたのだって、黒歌さんが気付いてしまった、この世界の存在が知るべきでない恐るべきロードオブナイトメア真実を隠蔽する為だ。

仙術とか妖術とか使う連中は記憶の書き換えに固めのプロテクトを付けている場合が多いから、精神防壁を何らかの方法で構築できないほど思考を司る機能をぐちゃぐちゃにする必要がある。

小猫さんへの引き渡しまでに、時間圧縮技術が搭載されたジオラマ魔法球を使ってまで記憶処理を成し遂げた此方の苦労を無駄にするべきではない。

何故そんな事をしたのか、に、確実に言及されてしまうから、この話を伝えるという選択肢はない。

が、友人に嘘を吐く、というのも問題があるので……。

 

―――――――――――――――――――

 

味わい深い顔で空を仰ぎ、腕を組んで考え込んでいた書主さんが、顔を下ろして、口を開いた。

 

「何も無かった、という事は無いけど」

 

「けど?」

 

「黒歌さんの名誉の為にも、ここは黙秘権を行使させて貰おう」

 

「無いものに使うんですか?」

 

「いや、なんかシャブラニグドゥ戦で頑張ったって聞いたから……」

 

「むぅ」

 

それを言われてしまうと、私としてもなんとも否定し難くなってしまう。

小さい頃も、そして、大きくなって袂を分かっていた現在でも、姉様は私のために命懸けで動いてしまう。

そんな姉様の名誉の為、と言われては、引き下がらざるを得ない。

……そんな名誉すら貶める様な振る舞いをしたのだなぁ、という、なんとも言えないもやもやは残ってしまったのだけれど。

 

「実際、家族でもない男女が、同じ屋根の下で生活すれば、互いに何かしらの迷惑を掛けてしまう、というのは、仕方がない事なんじゃないかなって」

 

「それは、そういうものでしょうけれど」

 

「小猫さんも気を付けてね」

 

「……同居するような異性、居ませんので」

 

「頭の隅に留めておけば、いざという時に役立つかもでしょ?」

 

「だいぶ先、でしょうけどね」

 

「そりゃね。普通は高校生で異性と同居とかしませんし」

 

「鏡出します?」

 

「此方は小学生の頃から一緒に住んでるので例外ですー」

 

「それは半ば家族なのでは」

 

「十割家族ですよ」

 

「すごい」

 

すごい。

とはいえ実際、書主さんの様な特殊な例やホームステイとかでも無ければ、私達の年頃で異性の他人と同居するなんて事はありえない。

私も、ちょっと先の未来でそういうリア充な生活を送る時が来たのなら、そういう事もあるのだな、と、心の隅に留めて、ちょっとだけ寛容な心を持って生きていきたい。

寂れた公園のベンチで甘いジュースを飲みながら、男女間の問題というのは甘い話ばかりにはならないのだなぁ、と、そんな事を考えた。

 

 

 

 

 

 

 





という、五十二話の裏面から五十三話になるまで辺りのお話なのでした
時間的には小猫さんがイミテーション部下Sを重破斬IN神滅斬でMVP決めた後から諸々の処理が終わってモンスターボールから完全に解き放たれて小猫さんの家に移住するまでの間くらい
次の次の巻辺りで小猫さんにもようやくこういう役回りが回ってくるので、その予行演習とドタバタ同居ラブコメ(を、やりたいなという、あくまでも希望)への前フリ回
回想はともかく、基本帰り道と公園で二人で会話をするだけなので地の文は少なくなってしまうのです
以下ちょっと解説

☆サバミソ改め黒歌さん
直前に魔王の魔法で瀕死状態→生存本能から子孫を残そうと発情→あれ、なんだかこいつの気配、あの魔王に近いというか、似てる?→え、無限でバスケ? シュートヘジテーションでオーディンのディフェンスを抜いてゴールを決めた!?→スケベしようや……
というような事があって逆レ敢行
妹が狙ってるみたいだけど種貰うだけだからへーきへーき、寝てるとこを仙術で拘束して裸で迫れば楽勝でしょ、性欲も普通にあるみたいだし
あへぇ♥
りゃめぇ♥
おなかのなか恋しちゃうにゃぁ♥ ♥ ♥(ダブルピース)
というテンプレからに素直な即落ち二コマ
記憶の洗浄後は体外体内問わず特殊な薬液で物理的に洗浄されたので種は貰えなかった

☆主人公
精神が崩れてる間に金色の魔王に関する勘付いた部分は消した
逆レ失敗の記憶もちょちょいのちょいしちゃおう
なんだこの催眠エロゲ主人公……
変なちょっかいを掛けない限り悪党を殺して回って恋人とセックスして過ごすだけなのでそんなに害はない
後、友達にお姉さんが性的に襲ってきたよー、という事を告げ口するのはちょっと気が引けた

☆小猫さん
男女の同居って大変だなー私には難しそうだなー
という、次回本編再開への前フリ


因みに、具体的な単語は一切使っていないので、幾らでも言い訳が効く
柔肉や液体が年齢制限に抵触する理由ってなんですかーおしぇーてくださーい
胸の頂きを噛んだり舐めたりするのが駄目なら赤ちゃんはご飯食べれないとおもいまーす
だから見逃して下さいお願いしますなんでもしませんから!



そんな訳で次回から修学旅行はパンデモニウム編突入です
突如としてクラスで一番仲の良い男友達の家で生活することになった小猫
お風呂場での接近遭遇!
部屋を開けるときにはノックが必須!
肌色率高め!
因みに故あって修学旅行側も多めに描写します
後の展開にも関わりますので

感想や諸々の指摘、そして勿論、感想など募集しております
それではまた次回更新で


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