文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活   作:ぐにょり

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八話 夜に集い

「次に邪魔をしたら、その時は本当に殺すわ。まぁ、そんな気を起こすほど馬鹿ではないでしょうけど。じゃあね、イッセーくん」

 

アーシアを腕に抱え、嘲笑いながら空の彼方へと消えて行く堕天使。

この場に残されたのは堕天使の翼から抜け落ちた黒い羽と、取り落とされて地面に転がるラッチュー君人形。

そして、何も出来ずに居た俺。

友達なのに、友達が危ないのに、何一つできない俺だけが残された。

今日初めて友達が出来たと喜んでいたアーシア、俺なんかと友達に成れたことを泣いて喜んでくれたアーシア、俺の命を助けるために、あんな危ない奴に身を預けてしまったアーシア。

行ってしまった。手がとどかない場所へ。

 

「待て、待ってくれ、アーシア、アーシアぁッ!」

 

連れ去られ、空を行かれて追いかける事すらできない。

悪魔の羽も上手く使えない飛べない悪魔だから?

何故飛べない、飛べない筈がないのに、下級悪魔だからって、■が飛べない理由もないのに。

俺の手は彼処に届かない。

あの堕天使に、アーシアに、友達に届かない。

守ると言ったのに、守ろうと思ったのに、今日に見たあの笑顔を、あんな綺麗で、可愛くて、楽しそうに笑うあの子を、守らなきゃって思ったのに。

神様にできなくたって、友達ならできるって、一緒に居られるって、彼女の願いを、ほんの小さな、ささやかな願いを叶えてやれるって。

 

「アーシアァァァァァァァッッ!!」

 

返事はない、声も届いていないだろう。

喉が震える、涙が溢れる、目の前が赤い。

悔しい、力が無いのが、今、彼女を助けるだけの力が、俺に無いのが。

何時かじゃない、仕事を熟して出世する為なんかじゃない。

今、今この時に、必要なのに!

 

離れていく彼女を追い掛ける翼が!

《大気を引き裂き空を制する翼が!》

堕天使に捕まった彼女を助ける為の力が!

《あの憎い堕天使を引き裂く爪が!》

彼女を、アーシアを守るための力が!

《忌々しい羽虫を食い千切る顎門が!》

足りない!

《欲しい!》

 

天を呪う、神を呪う。

アーシアに与えられた過酷な運命を呪う。

あの堕天使の薄汚い儀式とやらを呪う。

そして何よりも、己の非力を呪う。

今までにない事だ。力が無い事を呪うなんて、真っ当に生きてきて、考えもしなかった。

だからだろうか、体が熱い。

怒りに頭に血が登りすぎたのか。

全身の細胞が余さず怒りに震えている。

体の感覚がおかしい。

 

手が、指が、俺のものではないように強張り。

背は今にも何かが皮膚を突き破り飛び出さんばかりに痛み。

叫びすぎたのか、顎が、口が、歯がみしみしと音を立てている。

おかしい、いや、おかしかった。

そうだ、何を不思議に思う事がある。

願うなら、彼女を、アーシアを助けたいのなら。

そんな事を考えている場合じゃない。

 

助けなきゃ。

《殺してやる》

俺の命に代えても。

《俺のこの身を変えても》

 

『アーシアを助け出す/レイナーレをぶち殺す』

 

何かがおかしい。

喉から出した声は俺の声か?

何かおかしな事を言わなかったか?

おかしかった、おかしくなくなった。

不自然に足りなかったものが足りた。

そうだ、おかしいことなどなにもない。

受け入れただけだ。これがあるべき形なんだ。

 

鱗に包まれた空を飛ぶ翼。

固く厚く長い引き裂く爪。

食い千切るべく長く、鋭い牙を並べた顎門。

頭を支配する赤い赤い感情。

俺の姿で、俺の心だ。

 

驚愕する『人の心』は遠く、ただ願うままに翼を広げ、『アーシア/レイナーレ』目掛けて空へ──

 

【その腕は龍に寄りながら人の形に纏まり】

【龍翼は未だ開く時でなく収まり】

【龍の如き顎門は人の姿を保ち】

【心は燃えても龍の激情に飲まれず】

【兵藤一誠の思考は龍に侵されない】

【今起きた事を怒りと現実逃避から来る幻覚と思い、深く考えない】

 

空へ……空へ?

空を飛ぼうと思ったのか、飛べないのに。

そうだ、そんな妄想をしている場合じゃない。

助けに行かないと。

だけどどうやって、奴らの行きそうな、儀式とかいうのが行われる場所は、助けられそうな人は。

 

「おやおや、何やらお困りのようで」

 

声が聞こえる。すぐ後ろからだ。

振り向くと、そこには俺と同じくらいの年齢だろうか、嫌に目の細い、まるで目を閉じているかの様な男。

手には何故かマジックペンを持っている。

 

「よろしければ、事情を教えて頂けますか? 何か、力になれるかもしれません」

 

【読手書主という人間への警戒心が薄い】

 

うっすらと開いた瞼から、気遣わしげな視線が向けられる。

心配そうな表情でペン先を揺らしながらそんな事を言う男が悪魔や堕天使の事情を知っているかはわからない。

普通に考えればそんな事を通りすがりの男が知るはずもない。

だけど、俺は不思議と目の前の男の言葉を疑えなかった。

話してみれば、本当に力になってくれるかもしれない、と、そんな考えが頭に浮かんだ。

 

「あんたは、一体……」

 

男は細い目をしならせ、僅かに笑みを浮かべながら告げた。

 

「ただの学生ですよ、自主休校中のね」

 

―――――――――――――――――――

 

ぱしん、と、乾いた音が部室の中に響く。

広めの部室にこだましたその音を立てたのは、兵藤先輩の頬と部長の掌。

兵藤先輩が部長に頬を叩かれました。

部長の顔は何時になく険しく、それに相対する兵藤先輩の表情は真剣そのもの。

 

「何度言ったらわかるの?」

 

「何度言われてもわかりません」

 

部長が二の句を告げる前に、兵藤先輩が口を開きます。

今まで部長の言葉に素直な、それこそ噂通りのスケベ全開な素直さで頷いてきた兵藤先輩とは思えない反抗。

話を聞けばそれもわからないではありません。

でも、副部長も、祐斗先輩も、私も、二人の話に口を挟むことができません。

副部長は、たぶん、悪魔としての立場と、部長の本心を知っているから。

祐斗先輩も部長の性格は良く知っている筈ですから、きっと最後には兵藤先輩の熱意に押されてしまう事を予感しているから。

私も似たようなものです。

でも、それだけじゃなくて、私は、兵藤先輩の言葉に惹かれる物を感じていた。

 

「俺はアーシア・アルジェントと友達になりました。アーシアは大事な友達で、見捨てるなんてできません」

 

「それは立派ね。そういう事を面と向かって言えるのは凄いことだと思うわ。だけどね、悪魔と堕天使は何百年、何千年と互いに睨み合ってきたの。あなたが考えている以上に悪魔と堕天使の関係は複雑で、隙を見せれば殺される。彼等は敵なのよ」

 

「アーシアは堕天使じゃありません。堕天使に利用されてるだけじゃないですか!」

 

「そういう事を言ってるんじゃないのよ。いい、イッセー。彼女は元とは言え聖女、神側の存在なの。私達とは根底から相容れない存在なのよ。例え追放され堕天使に飼われていても、それは変わり様が無いわ」

 

「友達に! ……友達に、そんな立場なんて、関係ないじゃないでしょう」

 

そうだ、と、思う。

兵藤先輩はまだ悪魔と天使、堕天使の関係をよく知らない。

でも、兵藤先輩が全てをしっかり学んで覚えていたとして、最初から、アーシアという女の子が敵の側の存在である事を知っていたとして、友達にならずに居ただろうか。

きっと、それでも彼は彼女と友達になった。不思議とそう思える。

それは馬鹿だからとかそういう話じゃなくて、さして付き合いがある訳でもない私でも察する事ができる彼の人柄故に。

 

友達だから助ける。

友達だから立場も種族も関係ない。

そんな事を、心の底から信じて口にしているから。

 

──じゃあ、彼は?

 

一瞬だけ浮かんだ疑問を振り払う。

彼は今、この問題には関係ない、一々考える必要もない。

そして私も今、何かをする必要はない。

きっと部長は表向き兵藤先輩の提案を却下して、祐斗先輩にフォローを頼む筈。

私はそれについていくだけでいい。

 

「もういいです。部長達には頼みません」

 

兵藤先輩が部長に背を向けて歩き出し、部長がそれを呼び止めます。

 

「待ちなさい。そんな勝手な真似が許されると思っているの?」

 

「みんなに迷惑はかけません。俺の事は眷属から外しておいて下さい。それでいいでしょう」

 

「いいわけないでしょう!? 落ち着きなさいイッセー! 待ちなさい!」

 

部長の声が届いていないかのように振り向きもせずに部室の外に出て行く兵藤先輩。

許す許さないの話が終わる前に決裂してしまいました。

その背を追おうとする部長に、副部長が耳打ちします。

部長の顔は険しく、最初は邪魔をされて苛立たしげだった顔が別種の険しさに変わっていくのが見て取れます。

 

「祐斗、小猫。イッセーのフォローをお願い。それと、プロモーションの事も伝えておいて」

 

そう言ったきり、部長と副部長は魔法陣を使って何処かへ消えてしましました。

……少し、予想外です。

兵藤先輩はもう少し粘り強く部長に交渉すると思っていたし、あそこまで躊躇いなく一人で行くとは思ってもいませんでした。

兵藤先輩を追い掛け、さして離れていない廊下で追いつくと、祐斗先輩が呼び止めました。

 

「行くのかい?」

 

「行く。アーシアは友達だ。行かないわけがない。俺が助けなくちゃならないんだ」

 

「殺されるよ。いくら神器を持っていたとしても、悪魔と戦い慣れたエクソシストの集団が相手じゃ分が悪いなんて話じゃない、それも、たった一人でなんて」

 

「一人じゃない」

 

断言。

勿論、私達の事ではない筈です。

あそこまで啖呵を切っておいて、私達が力を貸してくれるだろうと考えていたとは思えません。

でも誰が?

 

「手を貸してくれるって通りすがりの奴が言ってたんだ。途中で合流する」

 

「もしかして、生徒会の人?」

 

「なんで生徒会が出てくるんだよ。たぶん、違う。学生だって言ってたけど、1年らしいし、同じ学校だったとしても生徒会には入ってないだろ」

 

「それは……」

 

「どんな人でした?」

 

訝しむ、というか、明らかに顔を顰めて怪しんでいる祐斗先輩の言葉を遮る。

1年で、学生という話しか出ていないのに、妙に胸騒ぎがした。

通りすがりで、いきなり攫われた少女の救出を手伝ってくれるという、明らかに怪しい人。

男ではなく女かもしれない。

学年は1年ではなく生徒会の役員でシトリー眷属の誰かかもしれない。

そもそも学生というところから嘘かもしれない。

単純に、悪魔を教会に誘い込む為の嘘を吐いた神父かもしれない。

何一つ繋がるところがないのに、頭に知った顔が思い浮かぶ。

気のせいであればいい、と思いながら兵藤先輩の返答を待つ。

 

「こう、口調が丁寧語でさ、『邪魔になるエクソシストとかを退かしておく程度の事はできますよ』って。赤っぽい黒髪の、目が細い野郎だったな。名前は聞いてない」

 

「…………そう、ですか」

 

「小猫ちゃん……?」

 

祐斗先輩の気遣わしげな声が、嫌に遠くに聞こえる。

 

「大丈夫、です。……祐斗先輩は、プロモーションの話を」

 

答えながら、頭の中が真っ白になっている。

何故? ただそれだけが頭の中を占めて、他の事をまともに考えられそうに無い。

祐斗先輩が兵藤先輩にプロモーションについての説明をしている声を聞きながら歩き続ける。

……この先に、居る。

私の知らない、私の友達が。

 

―――――――――――――――――――

 

教会の見える位置で祐斗先輩の用意した図面を見て、突入後にどうするかを話し、いざ聖堂に近づいた時点で、ふと違和感を覚えた。

目的地である聖堂はある。

だけど、目的地から外した宿舎が見当たらない。

見当たらないというより、無くなっている。

少し注意して見れば、宿舎の跡に細かく刻まれた建材が積み上がっているのがわかった。

それに、もう一つ明らかにおかしな点がある。

 

「これ、この間の」

 

ペンキか何かの塗料が、あちこちにぶち撒けられた跡。

はぐれ悪魔の討伐依頼で向かったあの異常な廃墟と同じ状況。

教会の入り口を中心に、放射状に広がるように、まるで入り口から外目掛けて塗料の入ったバケツを振り回して撒き散らしたかのよう。

あの時程にくまなく塗料で染められてもいなければ、乾いて分厚くなってもいない。

でもその分、液体のまま散乱した塗料はより強く匂いを放ち、歩く度にびちゃびちゃと音を立てる。

そして、その只中に、彼は居ました。

学校指定のジャージに身を包み、何かが入ったズタ袋を無造作に手に下げた、赤みがかった黒髪の男性。

手から下げたズタ袋は塗料の水たまりにその底面を浸され、呆けるように空を見上げている。

 

「やあやあ、遅かったですね兵藤先輩。……後ろのお二人は?」

 

顔を下ろし、振り向いたのは、見覚えのある、いや、殆ど毎日見ている、今日は学校を休んでいた──

 

「読手、さん」

 

私の声に応えるように、にこりと微笑む読手さん。

 

「なあんだ。ちゃんと頼りになりそうなお仲間さんが付いてきてくれているんじゃあないですか」

 

瞼を開け、これまでにないほどにはっきりと瞳を見せながら、見たこともない程に晴れやかに笑みを浮かべ、兵藤先輩に冗談めかして言う。

夜の中にありながらなお黒く暗く、月の光を浴びながらそれを打ち消すように爛々と煌めく星を散りばめた瞳。

初めて見た時と変わらない不思議な、ともすれば魅力的だとすら思える瞳。

だけどそこに初めて見た時の様な複雑な色は見当たらない。

愛想笑いの中にあり、どこか痛ましさすら感じた悲しい色を秘めた瞳は今、今まで見たこともないような苛烈な感情を宿している様に見える。

咲き誇るような喜び。燃え盛るような楽しみ

まるでそれしか無い様な、酷く印象の異なる瞳だ。

 

「君が、読手君かな?」

 

いつも通りの穏やかな口調で、でも警戒心を滲ませた祐斗先輩の確認。

読手さんは警戒されている事に気付いてもいないような楽しげな態度で、目尻を下げて笑みを深くしながら応える。

 

「ええ、ええ、はじめましてですね、悪魔の方、リアス・グレモリーの騎士、魔剣の創り手にして操り手、二年の木場祐斗先輩。此方の名は『読手(よみて) 書主(ふみぬし)』と申します。覚えておく必要もない、何の変哲もない人間で、そこの塔城さんのクラスメート。一応、友人なんてのをやらしてもらっています」

 

「……はは、ちょっと、謙遜が過ぎるんじゃないかな」

 

より深くなった祐斗先輩の警戒心を意にも介さず、読手さんはズタ袋を肩に担ぎ直し、私の方に視線を向けてきました。

……酷く、酷く透き通った視線。

悲しみも痛みも迷いも無い、ただただ楽しげな瞳。

何もかもを見透かし、何もかもを見据えずに見抜き見捨てる、そんな瞳。

見たこともない、この人がこんな目をするなんて、想像したこともない目だ。

その瞳を、瞼が覆い隠す。

 

「塔城さん、この間はすみません。少し言い過ぎました。もう少し、柔らかい断り方もあったとは思うんですが、ついカッとなってしまって」

 

瞳を隠し、いつも通りの声で、いつも通りの口調で謝る読手さん。

眉を八の字にしての謝罪の言葉、それを紡ぐ読手さんは、何時も学校で話している読手さんと変わらない様に見えた。

 

「……いいです。私も、私達も、読手さんの気持ちはあまり深く考えていませんでしたから」

 

「そうですね、そう思います。じゃあ、今日此方が塔城さんと木場さんの作業分を負担する、という事で、チャラにしてしまいましょう。そしたら、明日から何時もどおり、ということで」

 

そう一方的に告げると、最後に兵藤先輩に向き直ります。

 

「それじゃあ兵藤さん、心の準備は出来ましたか? 此方の言った手順と分担は覚えていますか?」

 

「あ、ああ、大丈夫だ。でも、今は木場も小猫ちゃんも居るし、分担は少し変えたほうがいいんじゃないか?」

 

「分担って?」

 

祐斗先輩の言葉に、まず兵藤先輩を指差し、

 

「彼、シスターさんを助ける役」

 

そして、と、自分を指差す。

 

「此方、邪魔な方々を退かす役。ね、簡単でしょう?」

 

確かに簡単だ。

簡単で単純、策も何もない、やることを決めただけの、本当にただそれだけの役割分担。

 

「馬鹿ですか、読手さん」

 

「あっはっはっは! 甘党なのに辛辣ですねぇ、塔城さんは」

 

上を向き、顔の上半分を掌で多いながら大仰に笑う読手さん。

でも本当に、笑ってなんていられない程無謀だ。

読手さんが何かしらの戦う力を持っているのは、もうなんとなく察している。

あの日のあの夜、日影さんが言っていた言葉から考えれば、はぐれ悪魔を一人で一方的に殺してしまえるだけの力ではあるんだろう。

でも、たった一匹のはぐれを殺すのと、戦い慣れ、統率のとれたエクソシストの相手をするのはわけが違う。

余程の事が無い限り、数の力は跳ね除けられない。それは悪魔でも変わらないし、まして人間ともなれば言わずもがなというもの。

シスター……アーシアさんを助ける途中で兵藤先輩がいくらかエクソシストの相手をするとしても、読手さんが相手をする数が圧倒的である事は変わりない。

まして、敵の中にはエクソシストだけでなく、堕天使まで混ざっているのだ。

こんな策とも言えない役割分担、ただ死ににいくようなものでしかない。

 

「いいんですよ、馬鹿で。馬鹿になれる、馬鹿なままに馬鹿をやれる今、この状況がいいんじゃあないですか」

 

顔から手を退け、黒曜の瞳を惜しげも無く晒す。

死ににいく悲壮感も、気狂いの様な異常性も見えない、澄んだ瞳と微笑。

楽しみにしていた映画を見に行くような、休みの日に遊園地に行くような気軽さすら見える。

 

「でも、今は僕も小猫ちゃんも居る。どうするんだい、役割分担とやらは」

 

祐斗先輩の問いかけを聞きながら、読手さんは無造作に聖堂への入り口を押し開く。

見えるのは、一見して普通の聖堂と変わらない内装。

長椅子があって祭壇があって、安っぽい作りのステンドグラスから薄く明かりが差し込んでいる。

一目でわかる普通の聖堂との違いは、内装の至る所に刀傷が走り、電灯と燭台が砕かれ、外と同じく荒々しく極彩色に染め上げられているという事。

迎撃は、まだ来ない。

すぐに来てもおかしくない筈なのに。

 

「何にも、何も変わりません。彼が助けて、此方が退かす。潰して、刻んで、殺すだけ。たったそれだけの話なんです、今日のこの場は。簡単で単純で、ややこしいことは一つも無い」

 

お二人は、兵藤さんの護衛でもしていてくださいな。

そう言いながら迷いなく聖堂奥へと歩いて行く。

余りにも余りな物言いに絶句して立ち尽くしていた私達に振り向き、呆れるように告げる。

 

「目当てのシスターさんはこちら、祭壇下の隠し階段から行ける地下の祭儀場に居るそうです。……早く行かないと、死んじゃいますよ?」

 

まるで買い物に出かけるように気楽に、目当ての品が無くなる可能性を示すように気軽に。

慌てるようにその背を追う兵藤先輩、読手さんへの警戒を維持しながらそれを追う祐斗先輩に並びながら、私は普段と余りにも変わらないその態度に軽い目眩を覚えた。

 




PCで見ないと前書きに入れた文がサブタイの前に来ないんですね、残念
前回あとがきで書いた決意と共にパートは次回に挿入できる筈
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