Penance   作:多田川 厚吉

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第三章 出 撃

 

 男が、薄暗い通路を走っていた。

 背中に誰かを背負っている。しかし、男の動作からは、人一人を背負った重さなどは全く感じられない。時折、通路全体が強く揺れた。埃が天井から落ちる。それでも男は止まることなく、走り続けた。

 

 

 

 目を開けると、綾波レイは自分が誰かの背中の上にいることに気がついた。

大きく広い背中の上だった。太い腕がレイの足をしっかりと抱えていた。

 初号機の前でケイジが強く揺れ、ベッドから落ちた。そこまでは覚えている。おそらく、それからずっと意識を失っていたのだ、とレイは思った。

「気がついたか」

 声が聞こえた。その声を聞いて、レイは今更ながら自分を背負っているのは男、男性であることに気づいた。レイからは、男の後頭部しか見えない。

「大丈夫か」

 レイの返事を待たず、走りながら男がいった。

「……あなた、誰」

 男の髪から僅かに整髪料の匂いを感じながらレイがいった。男は答えなかった。

 また、通路が強く揺れた。男はバランスを崩さず走り続けていたが、揺れのせいでレイの身体に痛みが走った。

「……乗らないと……」

 痛みに耐えながらレイが呟いた。この振動は、使徒が攻撃を続けているということを意味していた。

 ―――使徒を倒せるのはエヴァだけ。そして、あの人は私にエヴァに乗れといった。あの人がいったから、だから、乗らなければならない。

「今のあ―――あんたには無理だ」

 男が言った。「その怪我じゃ死ぬだけだ」

「…戻って」

「無理だ」

 この男は何を言っているのだろう、とレイは思った。無理だとか、怪我だとか、死ぬだとか、そういうことは問題ではない。関係のないことだ。乗れと言われたから乗る。それだけのことなのに。

 男が急に立ち止まった。薄暗い照明の光の下、前方に人影が三つ見えた。

 

 

「Third children碇シンジ、First children綾波レイだナ?」

 人影の中の一人が近づいてきて言った。英単語の部分がネイティブな発音で、日本語は英語のアクセントに引きずられた発音になっていた。

「いかり…?」

 碇、という名前を聞き、レイが呟いた。レイを背負っている男―――碇シンジが小さく頷いた。

「ワレワレはNERVの保安二課の者ダ。君タチは逃げるイケナイ、ドゥーユーアンダスタン?」

 シンジたちに話しかけてきたのは、ネルフの制服を着た小柄な男だった。黒い髪をきっちりと七三に分け、黒縁のメガネをかけている。発音はともかくとして、見た目は前世紀後半の高度成長期を迎えた日本的サラリーマンのようだった。男は右手に特殊警棒を持ち、その先端部分を軽く左手に乗せていた。

「イカリ司令の命令ネ。君タチchildren、gobackネ」

 言いながら、小柄な男は特殊警棒をシンジたちへ向け、立ち止まった。僅かに間合いを外した距離である。踏み込めば即座にシンジに警棒を叩き込むことができ、一歩退けばすぐに逃げることもできる、そんな距離だった。

「逃げるつもりはない」

 シンジが口を開いた。

「ならば、ケイジへ戻ってもらいたい」

 小柄な男の後ろにいた、短髪の男が言った。シンジよりもやや背が低いが、体つき、肉の厚みはほとんど変わらない。

「俺は戻ってもいい。だがこの娘は無理だ。それにケイジではガスが出てる」

 シンジがいった。

「わかっている。しかしチルドレン二名をケイジへ戻せというのが我々に下された命令なんだ」

「へぇ」

 男の言葉などどうでもいいかのようにシンジは答え、歩き出した。

「待テッ!!」

 小柄な男が怒った猿のように歯を剥いて、特殊警棒をシンジの喉元に突きつけた。「命令に従エッ! サモナイとコチラも手荒ナ手段を取らザルを得なくナルッ」

 シンジが小柄な男を睨んだ。度の強い眼鏡ごしに、小柄な男もシンジを睨み返した。後ろの男たちがベルトから特殊警棒を抜き、構えた。おそらくは使徒の攻撃の為だろう、また通路が揺れた。

 

「はおっ!!」

 

 いきなりシンジが叫んだ。口と目を一杯に開き、シンジは驚愕の表情を浮かべた。視線は三人の男たちの後ろへ向けられていた。この世のものならざる何かを見てしまったかのような衝撃が、シンジの顔面に広がっていた。

「何ダッ?!」

 シンジの顔を見て、男たちは振り返った―――振り返ってしまった。

 一瞬の隙が生じた。

 その隙をついて、シンジが動いていた。

「シッ!」

 という鋭い呼気と共にシンジの右足が跳ね上がり、小柄な男の後頭部に炸裂した。そのまま動きを止めずに、地に着いた右足で勢いをつけてシンジは短髪の男の顔面に後ろから手の平の付け根の部分―――掌底を叩き込む。

 瞬間的に意識を弾き飛ばされた二人の男が、床へ崩れ落ちた。

「へっ?!」

 異変に気づいた最後の一人が、間抜けな声を上げ振り向いたときには、シンジの左足が跳ね上がっていた。

 ほんの僅かな時間で、人一人背負ったまま、シンジは三人の男を倒していた。しかも、彼らは素人ではない。

「大丈夫か」

 シンジがレイにいった。

 僅かな時間とはいえ、激しく動いた。怪我をしているレイの身体にかなりの負担がかかったことは確かだった。

「どうして……こんなことをするの」

 レイは紅い瞳を細めた。

「こんなこと?」

「……降ろして」

 レイが手足に力を入れ、シンジの背中から離れようとした。レイのギプスをはめた腕が震えた。無理に動かそうとしたためか、レイの口から痛みを堪える声が漏れた。

「無理をするな」

 シンジがしゃがみ込み、レイを背中から降ろした。通路の壁に身体を預けて、レイは床に座り込んだ。

「ジッとしてろ」

 そういって、シンジは周りにある振動で床に落ちてしまった機材を拾い始めた。壊れたライト、鉄パイプ、金属の塊……。

 ある程度の量を集めると、シンジはそれらを倒れている男達の頭の側へ置いていった。そして、

「俺はただ、あんたを治療ができる所へ連れていこうと思っただけだ」

 といった。

 

「本当にそうか?」

 

 突然男の声が響いた。レイとシンジが通路の奥をみた。声はそこから聞こえた。

 今まで誰もいなかったはずの場所に、大きな男が立っていた。シンジよりも大きい男だった。身長においても、身体を包んでいる肉の量においても、シンジを上回っていると一目でわかる。

 男は腰の無線機を手に取った。

「こちら山田三尉。B−02と初号機ケイジの間の通路だ。ファーストチルドレンとサードチルドレンの身柄を“確保”した。それと怪我人が出てる。至急救護班をよこしてくれ」

「確保?」

 男を睨み、低い声でシンジがいった。

「ああ、そうだ」

 男は無線を腰に戻し、シンジとレイに近づいた。「君たちの身柄は確保した。―――それとも、抵抗するか? そこに転がっている連中のように、俺もぶちのめすか?」

 男の顔がはっきりと見えた。男は彫りの深い精悍な顔立ちをしていた。髪は黒かったが、日本人の顔つきではないようだった。顎先が割れており、ややたれ気味の目がうっすらと光っていた。床に倒れている保安部の男たちとは違い、男は特殊警棒を持っていなかった。

「勘違いしないでください」

 シンジがいった。先程とは口調が変わっていた。ただ、声は低いままだった。

「俺は何もしてません。通路がひどく揺れて、天井からライトとかが落ちてきて…それが当たったんです」

 シンジは倒れている男たちの側に転がっている鉄材―――シンジが自分で置いていたものだ―――を見た。

「本気で言ってるのか?」

「ええ」

 通路が揺れた。シンジたちから少し離れたところで、埃と一緒に鉄材が落ちた。シンジはその落ちた鉄材を見、それから男の目を見た。ほら、確かに落ちてきただろう、と言わんばかりに。

 男は俯き、やや癖のある、短い髪の頭の後ろに手をあて、薄く笑った。

「面白い奴だな……まあいい。今は時間がないからな」

 男の後ろから、移動式のベッドや担架を持った男たちがやってきた。男が無線で呼んだ救護班だ。

「やったにせよやってないにせよ、今は君を営倉にぶち込むわけにはいかないんでね」

 男は、“今は”という言い方をした。その言葉は、裏を返せば“今”でなければいつでもシンジを営倉送りにできる、という意味に捉えることもできた。また、捉えられるような言い方を男はしていた。

「へぇ…」

 いつの間にか、シンジの口調が元に戻っていた。

 二人の間に生じつつある緊張に気づくことなく、救護班のネルフ職員たちは床に倒れている男たちを担架の上に乗せていた。

「すまないが」

 男はいきなりシンジに背を向け、救護班の職員に話しかけた。緊張が途絶えた。あっさりと、男は間を外したのである。「ファーストチルドレンも連れていってくれ。怪我がひどい」

「私は…」

 男の言葉を聞いて、レイが立ち上がろうとした。しかし、身体を起こすことも出来なかった。そのままバランスを崩し、床に倒れるような格好になってしまった。救護班がすぐにレイをベッドの上に乗せた。

「無理をするな」

 そう言って、シンジはレイを見た。レイはシンジを見返すことなく、目を閉じた。

 救護班はレイや気絶した保安部の男たちを連れ、その場から立ち去っていった。

「命令違反じゃないのか?」

 シンジが男に尋ねた。

「あの怪我じゃ無理だ。下手すりゃ死ぬ。貴重なチルドレンを失うわけにはいかない」

 淡々と男は答えた。「それに、君とファーストチルドレンを一緒にしておくのはまずいと思った」

「どういう意味だ?」

 シンジの顔から表情が消えた。男を見る眼差しが暗いものになった。

「そのままさ。ただそう思っただけだ」

 男は真顔でシンジの視線を受け止めた。

「知らなかったよ」

「何が?」

「あんたみたいな人がネルフにいたなんてな」

「そうか」

「あそこまで近寄られたのに気づけなかったのは、久しぶりだった」

「俺は何も特別なことはしてない。君が気づかなかっただけだろう?」

 その男の言葉を聞き、無表情だったシンジの顔に笑みが浮かんだ。といっても、唇の片端だけが吊り上がる笑みだった。

 またもや通路が強く振動した。常人であれば、立っていられないほどの揺れだ。しかし二人は、床にしゃがみ込んだり、壁に手を付いて身体を支えることなく、その場に立ち続けていた。

「時間がない。戻ってもらえるかな」

 男が訊いた。

「ああ」

 頷き、シンジはケイジに戻ろうとして、立ち止まった。

「忘れてたよ」

 シンジが振り返る。「あんた、名前は?」

 男が答えた。

 

「ジョンだ。ジョン・ランボー・山田」 

 

 

 確かに、シンジは知らなかった。

 かつて―――シンジにとっての、“かつて”だ―――戦略自衛隊がネルフ本部を強襲したとき、たった一人で先頭に立ち戦略自衛隊の包囲網を突破し、一時的であったにせよ、数十人のネルフ職員を救った男がいたことを。

 

 その男の名も、ジョン・ランボー・山田といった。

 

 

 

 

 初号機ケイジの中は、うっすらと煙った状態になっていた。

 といっても、立ちこめているのは煙ではない。

 塩素ガスである。

 碇シンジが破壊したパイプから大量に漏れだした液体と、初号機が浸かっている液体とが化学反応を起こし、この有毒ガスを発生させているのだった。

 黄色い防護服を着た人間達の姿が、ケイジの所々で見られる。ガスが充満している中で、彼らは赤木リツコ博士の指揮の下、初号機発進の為の作業を進めていた。

 ケイジの外から入ってきた、防護服を着た男が、大きく手を振った。男の視線の先には、初号機と、男と同じように防護服をきた人物が何人かいた。その中の一人が、男に手を振り返した。

 ケイジの天井のハッチがゆっくりと開き始めた。巨大なモーターが回転するような音が響く。ケイジ内のガスが、天井へ向けて流れていく。

 ケイジ内の空気に対して、強制排気を行ったのだ。同時に初号機が浸かっている赤い液体も、水位を下げ沈んでいく。

 次第に、ケイジの中の有毒ガスが薄れていった。

「うまくいったわね、リツコ」

 初号機の前にいたミサトがリツコにいった。もちろん、二人とも防護服を身に着けている。

「そうね…とりあえずはね」

 リツコがいった。他の作業員の間から歓声が上がっていた。まだ使徒を撃退したわけではないのだが、一つの困難な状況を打開できたという達成感があったのだろう。

「ひえええっ!!」

 他の作業員の間から悲鳴が上がった。

「何なの?!」

 ミサトが悲鳴が上がった方向を見る。

 一昔前のアクション映画で、テロリストが身につけていたようなガスマスクを装備した男が立っていた。体格から、大きな男であるとわかった。全身黒ずくめの格好をしている。ガスマスクの間から髪の毛がボサボサとはみ出していた。異様な姿であった。

 その男を見て、リツコがため息をついた。ミサトが顔を引きつらせながら、

「…シンジ君?」

 と訊ねた。

 ガスマスクを通しての呼吸音が聞こえてくる。

「あなた何処行ってたの!! レイはッ!! それにその格好は何!!」

 ミサトが怒鳴った。リツコは呆れているのか、黙ったまま自分の作業を続けていた。こういう形で理解の範疇を超えてしまったものは相手にしないつもりであるようだった。

「シュコーシュコーこれは持参したマスクですシュコーシュコーそれより葛城さん、時間がないシュコーシュコー」

 シュコーシュコーいわせながらシンジが答えた。

「あなたはッ…」

 興奮の収まらないミサトが言葉を続けようとしたが、リツコが遮った。

「ミサト、確かに時間がないわ。シンジ君、操縦システムを説明するから、ついてきて」

 絶対にシンジとは視線を合わせないようにしながらリツコがいった。

「赤木さんシュコーシュコー父はシュコーシュコーどうしましたか」

「司令は発令所に戻ったわ」

 宙を見つめ口を大きく開いたまま動かなくなってしまったゲンドウを、冬月副司令自らが発令所へ連れて戻った、という部分を省略してリツコはいった。

「そうですかシュコーシュコー」

 それきり、シンジは口を開かなかった。

 シンジはリツコの説明を黙って聞き、初号機に乗る準備に取りかかった。シンジの、マスクを通した呼吸音がやけに不気味に響いていた。

 

 

 

 

 ミサトとリツコは発令所へ戻った。

 発令所中央の巨大なモニターに、街を破壊し続ける使徒の姿が映し出されていた。

 慌ただしい雰囲気で緊張感が漂う中、発令所のオペレーターたちが、被害状況を報告し続けている。

「エヴァンゲリオン初号機、パイロット、エントリープラグ内コックピット位置に着きました!」

 ショートカットで、やや童顔の女性オペレーターが報告した。

「初号機エントリープラグ、モニターして!」

 ミサトが指示を出した。中央モニターの右半分に、エヴァンゲリオン初号機のコックピット内の画像が映し出された。

「げっ」

 眼鏡をかけた短髪の男性オペレーターと、長髪の男性オペレーターがそんな声を出した。

「ふぬっ」

 発令所内の中心部、周りよりも一際高い司令席に座っていたゲンドウがそんな声を出した。

「ゲホゴホン」

 ゲンドウの傍らに立っている、白髪の副司令冬月コウゾウは、咳払いをした後、何も見なかったかのように、よそ見をした。

 中央モニターには、ガスマスクをつけた黒ずくめの人間が映し出されていた。

 異様な姿であった。

「シンジ君マスクを取りなさいッ!!」

 ミサトがこめかみに血管を浮き出させて怒鳴った。

 モニターの中で、シンジは黙って、しかしシュコーシュコーいわせながらガスマスクを外した。マスクを被っていたせいで少し崩れてはいるが、十分に迫力のある暴走族的な髪型が現れた。既にその姿を見ていたゲンドウ、ミサト、リツコらは何も言わなかったが、オペレーターたちは驚き、またもや奇声を上げていた。冬月は顔面を硬直させていた。

「エントリープラグ、LCL注水!」

 場を引き締めるかのように、リツコが凛とした声で指示を出した。オペレーターがリツコの指示を復唱する。シンジのいるコックピットの下部から、オレンジに近い色をした液体―――LCL―――の流入が始まった。かなりの早さで、コックピット内部がLCLで満たされていく。シンジが外したマスクが浮いていた。

「落ち着いてるわね」

 リツコがいった。

「あれでうろたえられたら困るわっ」

 興奮冷めやらぬミサトがいった。「―――でも、確かにそうね」

 コックピット内がLCLで満たされた。シンジの髪型はLCLのせいで完全に崩れていた。強力な整髪料で髪をセットしていたためだろう、長めの髪の毛が、上向きになってユラユラと揺れていた。さながら、ホウキのようだった。

 

 

 LCLの中で揺れているシンジの髪を見て、ふと長髪のオペレーターは、「イソギンチャクみたいだな」と思い、吹き出しそうになった。だが耐えた。場の雰囲気というものがある。人類の存亡がかかっているという時に、いきなり笑い出すわけにはいかない。けれども、笑ってはいけない、笑っていい場所ではない、と思えば思うほど、腹の底から笑いがこみ上げてくるのであった。

 笑っちゃ駄目だ、笑っちゃ駄目だ、笑っちゃ駄目だ、と長髪オペレーターは自らに言い聞かせ、どういうわけか右手を開いたり閉じたりしながら懸命に耐えていた。

 

 

 ショートカットの女性オペレーターは、LCLの中で、ワカメのように揺れているシンジの頭を見て、何故かワカメと同時にイソギンチャクのことを思い出していた。

 小さな頃、ショートカットの女性オペレーターは、前世紀の番組の再放送で、昆虫の姿に改造された男の話を見た。その敵として、イソギンチャクの姿に改造された怪人が登場していた。イソギンチャク怪人が人間の姿をしているときの名前はチャックといい、イソギンチャクの姿に変身すると「イソギン“チャック”だァ!!」と叫んでいた。

 その話を見た当時にはくだらないとしか思っていなかったのだが、今この状況でイソギンチャックのことを思い出すと、可笑しくてたまらなかった。もしサードチルドレンの名前がチャックだったらどうしよう。これがホントのイソギン“チャック”だ、などということを何故か考えてしまい、ショートカットのオペレーターは吹き出しそうになった。しかし、ここで笑い出すわけにはいかない。人類が滅亡するか否かが、この戦いで決まるのだ。馬鹿みたいに笑い出すことは出来なかった。それに、もし尊敬する先輩が同じ状況だったら、絶対に笑わないだろう。だが、笑ってはいけないと思えば思うほど、余計に笑わずにはいられなくなるのであった。

 笑っちゃ駄目よ、集中するのよ、と女性オペレーターは自分に言い聞かせ、懸命に笑いを堪えていた。

 

 

 眼鏡をかけた短髪のオペレーターは、LCLの中で揺れているシンジの髪の毛を見て、言った。

 

 

 

「オイオイあれじゃイソギンチャクだよ」

 

 

 

「ぶはっ」

 吹き出した。

 溜まっていたものが、吹き出した。

「プ、プププププププッ…」

「ブワハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

「アハハハハハハハ…ヒー、ヒーッ…ギャハハハハハハ」

「サ、サイコーイヒヒヒヒヒヒヒ…イ、イソギンチャクだってヒヒヒヒヒ」

 発令所にいたオペレーターたちが一斉に笑い出した。

 長髪のオペレーターやショートカットのオペレーターだけではなく、皆おかしいと思っていたのだ。

「笑ってる場合じゃないでしょう!!」

 と声を上げたミサト自身、大笑いしていた。リツコは、手を当てて表情を隠し、顔を伏せていた。一見、呆れているかのようであったが、肩が大きく震えていた。

「しょ、初号機起動スタート…ププププ」

 ミサトが腹を押さえながら、指示を出した。

「りょ了解…ヒヒヒ…初号機ププッ起動スタート…し、しかしイソギンチャクかよプププ」

 涙を流しながらオペレーターが復唱し、手元の端末を操作する。

 モニターの中の、コックピット内部の壁面が光った。エヴァンゲリオン初号機の起動が開始された。

「A10神経接続ブハハハ異常あり」

「…ククク初期コンタクトギャハハハ全て異常…もー駄目だオレモニター見れないわブハハ」

「ハ、ハ、ハ、ハーモニクス異常…も、モニター消してくれ…し、死ぬハハハ」

 懸命にオペレーターたちは報告した。それらを涙を拭いながらミサトが聞き、頷いた。

「はー、はー、よし、エヴァンゲリオン初号機、リフト…ええっ?! 今何て言ったの?!」

 ミサトがオペレーターに確認した。

「イ、イヒヒ…全部異常です困ったなコリャアハハハハ…」

「シンクロ率ゼロですブブブッ頼むからモニター消して」

 笑い事ではなかった。

 サードチルドレンが乗っているはずなのに、エヴァンゲリオン初号機は起動しないのだ。

 笑い事ではない。使徒に対抗できるのは、このエヴァンゲリオンだけである。そのエヴァが動かなければ、どうなるのか。

 笑い事ではない―――はずなのだが、発令所のオペレーターたちはミサトも含めて笑い続けていた。リツコの肩もまだ震えていた。司令席にいる冬月もリツコと同じような姿勢で、肩を振るわせていた。

 碇ゲンドウだけが、笑っていなかった。

 ゲンドウは、中央モニターの右部分を凝視していた。ゲンドウの顔に脂汗が浮かんでいる。

 

 

 ゲンドウの見つめるモニターの中に、鬼がいた。

 

 

 碇シンジは、LCLに髪を揺らしながら、鬼の表情を浮かべていた。

 

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ジョン・ランボー・山田…(CV:さ◯きい◯お)

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