碇ゲンドウは、苛立っていた。
碇シンジと再会してからの、自分が晒してしまった醜態への苛立ちである。
―――何故、あんなことになってしまったのか。自分の息子なのに、何故ああも―――取り乱し、怯えてしまったのか。
命をやり取りする経験ならば、何度でもある。頭のいかれたチンピラから、殺しを生業とする者や強大な権力を持つ者まで、様々な人間を相手に、命など簡単に吹き飛んでしまうような駆け引きを繰り返してきた。
もちろん死への恐怖はあった。その自分の中の恐怖を否定せず、認め、制御する。そして思考を働かせる。そうやって自分は生き残ってきた。“彼女”と出会うまで。
“彼女”を失ってからは、己の命を失うことへの恐怖は薄れていったはずだった。
その自分が、何故―――。
「碇君」
男の声がゲンドウの思索を妨げた。
ゲンドウは、暗い部屋にいた。男の声の響き具合から、ある程度の広さを持つ部屋であることがわかる。大きな長方形のテーブルを囲むように五人の男たち―――ゲンドウを含めれば、六人―――が座っている。
だが、注意深く見てみれば、ゲンドウ以外の男たちの姿は半ば透けており、座っているはずの椅子の形が男たちの体を通して見えていることがわかっただろう。
男たちの姿は、立体映像として映し出されたものであった。
「ネルフとエヴァ、もう少しうまく使えんのかね」
ゲンドウの右手奥に座っている、エラが張り出した体格のいい男が、高圧的な口調でいった。
うるさいわこのエラ太郎が、魚類かお前は、と苛ついているゲンドウは心の中で毒づいた。
「零号機に引き続き君らが初陣で壊した初号機の修理代及び兵装ビルの補修―――国がひとつ傾くよ」
同じく高圧的に、口髭を生やした黒人の男がいった。眼鏡をかけている。
金が惜しいならわざわざ立体映像使って会議するな黙ってヒゲダンスでも踊ってろ、と苛ついているゲンドウは心の中で毒づいた。自分もヒゲオヤジであることは、思考から外れていた。
「オモチャに金をつぎ込むのもいいが肝心なことを忘れてもらっては困る」
人間の骨格からは考えられないような、鼻が鳥のくちばしのように突き出ている男がいった。
オモチャはお前の鼻だ、とゲンドウは心の中で毒づいた。そもそもお前の言う“オモチャ”がないと“計画”は頓挫するのではないか?
「君の仕事はそれだけではないだろう?」
先程の男と同じくらい鼻が突き出た、長髪の男がいった。外見的には五十を越えているように見えるのだが、男は妙齢の女性のように髪を伸ばし、後ろに流している。
「髪切れ」
とゲンドウは心の中で毒づいた―――つもりだったが、苛立ちのあまり無意識のうちに声を出してしまった。
「何?」
その場にいた男たちが一斉にゲンドウを睨み付けた。
内心の動揺を色の濃いメガネで隠しながら、ゲンドウは手元にあった書類をつまみ、持ち上げた。
「……いえ……ただこの紙切れが気になったもので」
男たちがため息をついた。呆れたようだった。長髪の鳥鼻男のため息はとりわけ大きかった。ゲンドウは体内の血液が逆流するような感触を覚えた。
「まあいい」ゲンドウの正面に座っている男がいった。男は、目から耳までを覆うヘッドセットを身につけていた。「“人類補完計画”。これこそが君の急務。我々にとってこの計画こそがこの絶望的状況下における唯一の希望なのだ」
男の声には威圧感があった。
「承知しております」
ゲンドウは答えた。
―――アンタの事情は知ってるが……。
ゲンドウは思った。
何だその怪しい機械は。もう少しなんとかならなかったのか。その格好で外出するのか? ヘッドマウントディスプレイに超小型カメラつけて覗きをやっているようだ。誰かいってやれ。アンタの格好はおかしいと。
「いずれにせよ」ヘッドマウントディスプレイ男が言葉を続けた。「使徒再来による計画の遅延は認められない。予算については一考しよう」
「碇、ご苦労だったな」
「はい」
ゲンドウが答えると、男たちの姿が消えた。ゲンドウは眼球だけを動かして、男たちの座っていた席を一つ一つ確認した。男たちの姿は完全に消えていた。
ゲンドウはべロリと舌を出した。うっぷんを晴らすためである。
「碇」
突然、ヘッドセットをつけた男の姿が浮かび上がった。ゲンドウは慌てて舌を戻した。「もう引き返すことはできないぞ」
ヘッドセット男がいった。わかっております、とゲンドウが答えると、ヘッドセット男は頷き、姿を消した。照明で照らされているゲンドウの周りを除き、部屋は闇の中に沈んだ。
たっぷり三十秒ほど待ってから、ゲンドウは鼻で笑い、改めて舌を出した。
「碇」
いきなり、ヘッドセット男の姿が浮かび上がった。ゲンドウは慌てて舌を引っ込めた。
「裏切るなよ」
「はい」
男の姿が消えた。
今度は一分待った。ゲンドウは立ち上がり、席の一つ一つをじっくりと見てまわってから、自分の席へ戻った。
そして、舌を出すべく口を開こうとして―――立ち上がった。
フェイントのつもりだった。ヘッドセット男の姿は現れなかった。ゲンドウは僅かに唇を歪ませた。
それからしばらく、ゲンドウは暗い部屋の中を落ち着きなく動き回っていた。椅子に座り、突然立ち上がり、口を半開きにした瞬間にまた座る。そんな動作を繰り返していた。
全ては、フェイント―――。
「フッ」
ゲンドウは唇を歪ませ、さらに三十分近く暗い部屋で一人“フェイント”を続けていた。額に汗を浮かべ、生き生きとした表情で。
やがてゲンドウは、“気づいた”。何の意味もない動きを止め、ばつが悪そうに辺りを見回した。
「フッ」
ゲンドウは笑った。笑ってごまかすつもりだった。自分自身をごまかしたかった。
「問題ない」
と呟いた。
そう、問題ない。何事もなかった。何でもない。
自らにそう言い聞かせ、このことは一刻も早く忘れようと思いながら、ゲンドウは暗い部屋を出た。
『正午のニュースをお伝えします。
まず第三新東京市近郊の爆発事故についての続報です。
昨日のちょうど正午頃、第三新東京市近郊十五キロの地点で爆発事故が起こり―――』
碇シンジが、広いロビーでテレビニュースを見ていた。周りにはシンジ以外誰もいない。
ニュースでは、使徒の事も、エヴァの事も触れられてはいなかった。
―――情報操作。
ネルフあるいは政府の指令であるのか、国連の決定であるのか。いずれにせよ、大半の人々に事実が歪められて伝えられている。
もちろん、何かの媒体を通した時点で既に“事実”は歪められているのだが、今回のそれは実際に起こったことからは余りにもかけ離れていた。
そんなことを考えているのか、ソファに座りながらも睨み付けるようにしてテレビをみていたシンジは―――あくびをかみ殺した。
シンジにとっては、このテレビニュースなどどうでもいいことであるようだった。
シンジは白い服を着ていた。検査や入院の時に着る、病衣である。
昨夜、使徒との戦闘を終えエヴァを降りると、すぐに病棟へ向かうようにと指示を受けた。
そこでシンジは様々な検査を受けた。検査は深夜まで続いた。そのままシンジは病院のベッドで眠った。翌朝朝食を取ると、再び検査が始まった。
長い検査は先程ようやく終わった。そしてシンジは病院のロビーで―――とりあえず―――テレビをみていたのである。
「シンジ君」
シンジの後ろから、女性の声がした。シンジは振り向いた。
葛城ミサトだった。
シンジは黙ったまま軽く頭を下げた。
「体のほうは大丈夫?」
ミサトが訊いた。頭の方も大丈夫かしら、と付け加えたかったが、堪えた。
「大丈夫です」
シンジは体をミサトの方へ向けた。ミサトは視線を僅かにシンジの頭へと移した。
髪型が変わっていた。暴走族を連想させるリーゼントのような髪型ではなく、少し長めの髪の毛がただ無造作に下ろされていた。昨日の戦闘で髪型が崩れたままになっているのだろう。その所為かもしれないが、シンジから伝わってくるのは、昨日の様子とはかけ離れた、静かな雰囲気だった。
「肩はどう? 大丈夫かしら」
同じ様な質問をミサトは繰り返した。使徒との戦闘の際、エヴァ初号機は左肩を傷つけられていた。
「大丈夫です」
右手で肩を押さえて、シンジはいった。
「そう……よかった。じゃあ言わせてもらうけど」ミサトの眼差しが厳しいものへと変わった。「昨日のようなマネは、もう絶対にしないで。必ずこちらの命令に従ってちょうだい。私もきちんと話してなかったけど、私たちは組織で―――みんなで戦ってるのよ。一人の勝手な行動が、皆を危険に陥れてしまうこともあるの。その事を、忘れないで」
結果だけみれば、シンジは見事使徒を撃退した。そして組織で戦っているといっても、実際に身を危険にさらしながら使徒と戦うのはシンジなのだ。ミサトにはそのことがよくわかっていた。だがそれでも、現場を指揮する立場にある者として、命令に従い組織や集団を意識するようシンジに言っておかなければならなかった。
「―――すみませんでした」シンジが目を伏せていった。「昨日は興奮してしまって。次からは気を付けます。申し訳ありませんでした」
静かな口調だった。
「……そ、そう。わかってくれれば、いいんだけどね」
拍子抜けする思いだった。
昨日のゲンドウへの態度や、戦闘中の様子を考えると、もっと違った反応が返ってくるのではとミサトは思っていた。
「気をつけます」
シンジは顔を上げ、同じ言葉を繰り返した。少し間をおいてから、ミサトは頷いた。
「それじゃあ、あなたの宿舎に案内するから、ついてきて」
ミサトがいうと、シンジは立ち上がった。
「本部のほうで、あなたの個室を用意しておいたんだけど……」
「わがままを言って、すみませんでした」
ネルフ本部であらかじめ碇シンジの宿舎は用意されていた。ジオフロント内、ネルフ本部内部の宿泊施設である。
しかし、シンジはその施設に住むことを断った。
直接日の光を浴びることができる場所がいい、というのがシンジの希望だった。
本部はシンジの希望を受け入れた。エヴァのパイロットといっても、正式な軍属というわけではない。居住する場所は、ネルフ本部から一定範囲内であるならば自分で自由に選ぶことができた。
「本当に、一人でいい……わよね」
エレベーターを待ちながら、ミサトがいった。
「ええ」
シンジはエレベーターの階数を表示するランプを見ている。
ゲンドウという家族がいるにもかかわらず、シンジは一人で暮らすことも希望していた。もっとも、昨日のゲンドウとのやり取りを考えると、当然のことかもしれない。
「シンジ君」少しためらってから、ミサトは続けた。「お父さんとは―――」
ちょうどその時、「チン」というエレベーター到着を告げる電子音がした。
エレベーターのドアが開いた。
「ぬッ」
碇ゲンドウがいた―――が、ゲンドウは驚異的な速さでエレベーター内部の“閉”ボタンを押していた。
ドアが閉じられた。
「父が、何ですか?」
移動を始めたランプの光を見たまま、シンジがいった。
「……何でもないわ」
何でもない、としか言い様がなかった。ミサトはそれ以上言葉が出なかった。
背後のエレベーターが到着した。
「こっちのが来たわね」
わざわざ口にする必要はないのだが、ミサトはあえて言った。そして到着したエレベーターに乗った。だが、シンジはミサトに背を向けたまま、ゲンドウが乗っていたエレベーターの前でランプを見上げていた。
「シン……」
シンジに声をかけるミサトの口が、途中で止まった。
鏡面のように仕上げられているエレベーターのドアに、シンジの顔が映し出されていた。
シンジは笑っていた。僅かに開かれた口の両端が吊り上がり、瞳がやや細められていた。
ミサトは瞬間的に、サーカスの道化師の仮面を連想した。仮面に刻まれた、半月形の作り物の笑み―――。
これまでミサトが見てきた獣の笑みとはまったく違うものであった。
あの笑みとは違う意味で背筋が寒くなるような、不気味な笑みだった。
「シンジ君?」
ミサトは何とか声を出した。
「―――ああ、すみませんでした」
シンジが振り返った。笑みは消えていた。
ミサトは、シンジを宿舎として利用することになるマンションへ連れていくと、再び本部へ戻った。
様々な仕事が残されていたが、ミサトはそれらに取り組むこともなく、デスクの上に置かれた一枚の紙をボンヤリと眺めていた。
紙は、一見履歴書のようなものである。しかし、ほとんど全ての欄が“UNKNOWN”という文字で埋まっていた。
碇シンジ。
性別、男。
年齢、14。
紙に書かれている情報といえるものは、それだけだった。顔写真すら載せられていない。
「一体……いえ……」
ブツブツと呟きながら、ミサトは椅子の背もたれに体重を預け天井を見上げた。
紙は、ミサトが端末からとあるデータベースにアクセスして手に入れた、碇シンジのデータだった。
それなりに苦労して手に入れたデータだったのだが、無駄な努力に終わったようだった。
―――碇シンジとは何者なのか。
サードチルドレンが“発見”されたと聞いたときから、ミサトの中で生じてきた疑問がそれである。
とにかく、名前と年齢以外の情報を手に入れることができなかったのだ。もっとも名字年齢から、ゲンドウに関わりのある者―――子供―――であることは想像できたが。
エヴァの搭乗適格者の存在は、ある意味エヴァそれ自体に匹敵する機密である。対外的に存在が隠されることは、不思議ではない。だが、サードチルドレンの場合は、ネルフ作戦部に所属している、いわば身内であるミサトにすら、ほとんど情報が伝わってこなかったのだ。
シンジが第三新東京市に来る直前になってようやく、保安部の人間を介して接触するようにという指示を受けた。
そしてミサトはシンジを迎えにいった。使徒の侵攻が始まった危険な状況下で、初めてミサトはサードチルドレンの顔をみることができた。もっとも、シンジと一緒にいた少年久保ナオヤがサードチルドレンであると勘違いしてしまったのだが。
まあ、あの状況であの二人の顔をみたら、誰だって間違える―――。
ミサトは思った。
あの二人なら―――二人―――ふたり?
では、碇シンジについているはずだった保安部の人間はどうなったのだろう?
シンジに確認することをミサトは忘れていた。十五年ぶりの使徒襲来という事態に、自分も冷静さを欠いていたのだ。
仮に、何らかの不都合が生じていたとしても、保安部が一々作戦部のミサトに知らせてくることはない。同じネルフという組織に属していても、保安部は実質上別の組織といっていいのである。ネルフ内部の人間にすら、面が割れることを嫌う部署もある。
だが何故か、ミサトには、姿を見せなかった保安部の人間のことが気になった。
『葛城一尉、赤木博士がお呼びです』
デスクの上にあるインターホンから声が聞こえた。
いくつかの疑問をとりあえず心の中にしまい、葛城ミサトはデスクから立ち上がった。
やるべき仕事が、いくつも残されていた。
使徒襲来から数日後。
第三新東京市の比較的郊外に位置する、第三新東京市立第壱中学校が、朝を迎えていた。
この時間から、既に日差しは強かった。
半袖のワイシャツやブラウスを着た生徒たちが、校舎へ向かって歩いている。
校庭では、ジャージ姿の生徒たちがサッカーボールを追いかけていたり、トラックを走っていたりしている。部活動の朝練が行われていた。
いつもと同じ、日常があった。
始業五分前になると、二年B組の教室にも生徒の姿が増えてきた。
ギリギリになって教室に入ってくる生徒も何人かいるのだが、二年B組に属している生徒のほとんどがそろっていた。
朝練習を終え着替えている男子生徒、忘れていた宿題に気づき慌ててノートを見せてもらおうとする生徒、ボンヤリと席についている生徒、楽しそうに、そして騒がしく喋っている生徒たち―――。
第三新東京市立第壱中学校二年B組でも、いつもと同じ日常がくりかえされる―――はずだった。
女子生徒たちの話題の中心は、転校生についてである。
誰が何処から聞き出してきたのか、このクラスにも転校生がやってくるとのことだった。しかも男子であるらしい。
このクラス“にも”、ということは、別のクラスにも転校生が来ているということになる。
隣の二年A組には、既に転校生が登校していた。
ぱっとみたところ女の子のような、中性的な顔立ちの大人しそうな男子生徒である。
A組を覗いてきた女子生徒たちは、
「ウチのクラスにもああいうカワイイ(かっこいい、優しそうな等、意見が割れたが)人が来るといいのにねぇ」
と勝手なことを話している。
始業のチャイムがなった。
同時に、担任の教師が教室に入ってきた。白髪で痩せており、メガネをかけている。学者然とした定年間近の教師である。
生徒たちが急いで自分の席につく。
起立、と日直の生徒が言うと、クラスの皆が立ち上がって教師に挨拶した。
「はい、皆さんおはようございます」
のんびりとした声で教師が答え、ゆっくりと教室を見回した。「ええと、“甲斐”君に“草壁”君、“早川”君は今日も休み、それに……綾波くんも休みかな……」
教師は綾波レイのことも“君づけ”していった。
「先生」
メガネをかけた、やや茶色がかった髪の毛の男子生徒が手を挙げた。よく見ると、顔にそばかすがある。
「相田くん何かな」
「トウジ、遅れてくるっていってました」
「ん、はいわかりました。……“鈴原”遅刻と……」
教師は出席簿に出欠状況を書き込み、椅子に座った。「はい、それではね…」
「あの、先生」
教卓の前に座っている女子生徒がいった。
「何ですか」
「あの、転校生が来るって聞いたんですけど」
「ああ…もう知ってましたか。来ますよ、転校生。今の時間にね、皆さんに紹介しようと思っていたのですが、どうも遅れているようですねぇ」
教師の言葉を聞くと、やっぱり来るんだ、という具合に、生徒たちが喋り始めた。教室の中が騒がしくなった。
「でも今日来るということは確かですからね、すぐ会えるでしょう」
生徒に注意することなく、やはりのんびりとした口調で教師は言葉を続けていた。
ちょうどその時、教室の前の引き戸が開かれた。
半袖のワイシャツと黒い学生ズボンを履いた、大きな男が引き戸の傍に立っていた。
生徒たちの視線が、男に集中した。
身長、服の間からみえる所々の筋肉、得体の知れない数々の傷、眼差しは暗いが、よく整っている顔―――人の目を引くのに十分なものをその男は幾つも持っていたが、生徒たちの目を最も引きつけたのは、男の頭髪だった。
左右の髪を後ろに流し、前髪を勢い良く上げている、前世紀のいわゆる不良や暴走族を連想させる髪型。
教室内が静まり返った。
時折、多数の人々の意識が一つになることがある。
完全に同一化する、ということではない。人々の意識が、同じ方向・目標へ向かって集中する場合がある、ということである。
例えば、スポーツにおける国家の代表チームの試合を観ている観客の、大多数の意識は同じ方向へ向かう。
代表チームの勝利。
これを願う意識が多くなる。
あるいは、戦場の場合、多くの兵士たちの意識は、“敵の排除”や“自らの生存”という方向へ向かう。突き詰めれば、“恐怖・不安の解消”を求めるということになる。
同じ方向へ向かう多数の意識が、その場に異様な緊張をもたらしたり、恐怖を呼び起こしたりする。人々の心理に大きな影響を与えてしまう。
ここ、第三新東京市立第壱中学校二年B組でも、同じことが起こった。
暴走族的な髪型の大男―――碇シンジの姿を見て、二年B組の人々の意識は一つになった。
「ゲッ悪人だ」
という思いの下に。