向こうで書いているオリジナル作品がメインなので、更新は遅めです。
ただストックはあるので、少しずつ手直ししながら投稿していく予定です。
※基本的に三人称ですが、時たま1人称が入ります。
※現在、再び文章直しを再開。戦闘描写にある効果音とかを何とか無くしていこうとしています。
※年単位で休載していましたが、2015年4月9日再開。
横転したセダンタイプの車から燃え上がる、赤い炎と黒い煙が印象に残っている。
その日は一日中、局地的な豪雨が続いたために硬いアスファルトの地面は身が凍える程に冷たかった。
鍛え上げられた大の男二人が、まだ子供だった俺の腕の間接を極めながら、雨で出来た水たまりが冷たい道路に組み伏せている。
そんな状態でも、あの時の俺は必死に男たちの拘束から逃れようとジタバタともがいていた……しかし、子供の力で訓練された男達を振り払える訳も無く、ただ延々と雨が降る中、無言で抗っていた。
すると、組み伏せられている俺の目の前に一人の男が近づいてきた。
恰幅の良い体格……おそらく、もう前線から身を引いた者なのであろう。
男は、地面にうつ伏せで組み伏せられながらも、顔を上げている俺の前で立ち止まると、こちらを鋭い眼光で見下ろす。
『ふん……こんな眼の子供に、護衛の魔導師が三人もやられるとはな』
厳格な顔立ちに、威厳のある風格を持つ男は、そう吐き捨てる様に言って俺の顎を革靴のつま先で持上げた。
もとから胴体を固定された状態だったために、無理矢理上へと反らされた頸椎に負担がかかるが、幸いにも俺には子供の頃から備わっていた柔軟性があったために、そこまでの痛みは感じられなかった。
『小僧、名前は?』
さして興味なさげに、しゃがれた声で俺の名前を聞き出そうとする偉丈夫。
『危険ですレジアス中将!』
『構わん、気にするな』
まだ組み伏せている俺が、何か行動を起こすかもしれないと危惧した男が、偉丈夫に注意を促すが……それを、偉丈夫は大丈夫だとばかりに突っ撥ねた。
『もう一度聞くぞ? 小僧、名前は?』
身に叩きつけられる大粒の雨に濡れながら、偉丈夫は俺に問い続ける。
しかし、俺に答える様子は見られない。
暫く、無言の時が続く。
滝のように激しく降り続け、アスファルトの路面を打ちつける豪雨の音がやけに鬱陶しい。
すると、徐に俺が口を開いた。
『……シン』
『そうか』
絞り出すかのように発せられた言葉に対して、偉丈夫はそれだけ言うと俺から踵を返し。
『その小僧を連行しろ。事後の処理は、私が受け持つ』
『で、ですが……』
『私が受け持つと言った』
『……りょ、了解しました』
渋っていた二人の男たちが、俺の両肘関節を極めたまま強引に立たせると、この幅の広い道路の端まで俺を引っ張っていった。
辺りには俺が殺した、同じ衣服を身に纏った三人の人間が、雨で出来た水たまりに血を滲ませながら倒れていた。
寒い……あの時は、ただそれだけしか俺の頭には浮かんでこなかった。
◆(1)
必要最低限の生活家電と家具用品しかない殺風景な部屋のベッドの上で、一人の少年がムクリと起き上がった。
壁一面と、無駄に広い窓から差し込む朝の日差しが、起床したばかりの少年の眼を細めさせる。
(……懐かしい夢を見るものだな)
ふと、少年は枕元に置いてあった、自身の携帯端末を手に取ってみる。
そして、手慣れた様子で操作していくと。
(もう、こんな時間か……)
自身が起床した時間を確認すると、少年は身体に掛かっていた掛布団をどかして、ベッドから寝起きとは思えないスムーズな動作で出て行く。
よく掃除がなされた床に足を着けた少年は、大体170㎝ぐらいの身長で、一枚のトランクスだけを身に纏った格好をしている……彼の肉体は、16歳という年齢からは考えられない程に凝縮された筋質量を誇っており、洗礼された逆三角形の上半身や、ダイヤモンドにカットされた脹脛が、まさに筋肉の芸術を思わせていた。
ベッドから出た彼は普段の生活で身に着いた習慣に従い、洗面所へと向かった後、顔を洗って歯を磨く。
そして、一通りの流れをこなしていくと、彼はさっきまでトランクス一丁だった恰好から、これから新設されたばかりの部隊へと赴くために、カーキ色の制服を身に纏っていた。
少年は筋肉質ながらもソフトな体型なために、どうやら厚い生地を着ると思った以上に着やせをするタイプであったようだ。
出勤の準備が整うと、少年は確りと首元に巻いた指定のネクタイを上げ直して、現在一人で暮らしている住居から革靴を履いて外へと出て行った。
◆(2)
その隊舎はミッドチルダ中央区画湾岸地区に、まだ建てられたばかりの雰囲気を醸し出しながら居を構えている。
現代的なデザインの立派な建物ながらも、視覚的に優しい緑が所々に見られたり、車で通勤をしている者達のために造られたエントランス前の広い駐車場や、そのまま首都の交通へと合流が出来る道路が敷かれていた。
また海岸の方には、何やら見た事の無い建造物があり、外見だけでは判断がし辛い外装をしている。
「ここか……」
カーキ色の制服を身に纏ている男……いや、少年は。
邪魔にならない程度に延ばされた、働くものとして最低限の手入れしかされていないザンバラ頭の黒髪や、細い輪郭に整ったパーツの顔立ちの中でも、一際隙のない光を放っている鋭い目が特徴的で、また、身に纏っている厚手の生地からでもバランスの良い体格をしているのが印象的だった。
彼は今、近くの海から来る潮風に髪を揺らしながら、目の前の隊舎を見上げていた。
(流石は新設された部隊の隊舎だな……窓ガラスが綺麗だ)
確かに快晴とも言える太陽の日差しを反射させている一部ガラス張りの壁面が眩しいが、他に思う所は無いのかと言いたくなる少年の感想……だが、あいにくと彼は胸中で静かに呟いただけなので、誰にも聞かれる事も突っ込まれる事も無い。
(しかし、古代遺物管理部機動六課か……強引に本局から手練れの執務官と戦技教導官を引っ張ってきた辺り、エリート部隊になるのだろうか?)
まだ結成式が控えているのだが、隊舎に入る前から何やら考え込み始めてしまう少年。
すると、思考に耽っている彼の後ろから、まだあどけなさの残る二人の少女の声が聞こえてきた。
「うん? あれ? あれってアルじゃない?」
「え? うわ本当だ……」
妙に聞き慣れた声と、こちらの“名前”の愛称が聞こえてきたが、別段、振り向く必要も無いと判断した少年は、そのまま目の前の隊舎の入口に入ろうと両開きの自動ドアへと歩を進めたのだが。
「ちょ、ちょっと待って!! アルでしょ!? 久しぶり!」
「げ……(なに話しかけてるのよ)」
「……」
すると二人の内の一人、元気な声音の少女が、後ろから慌てて駆け寄ってくるのが分かる……だが、それでも尚、確りとした体格の少年は歩を進めようとしてしまう。
しかし、それは許さないと駆け寄ってきた少女も少年の肩を掴む。
「ま、待ってよ! どうしてそう、人の呼びかけを平気で無視するかな」
利き腕でもある右肩を掴まれてしまった少年は、仕方ないといった表情をしながら、後ろへとようやく振り返った。
そこには青いショートヘアの、活発そうな顔立ちをした一人の少女がこちらを嬉々とした表情で見つめていた。
「久しぶり、アル。アルも機動六課に?」
「そうだ」
どことなくボーイッシュな少女が嬉しそうに尋ねると、アルと愛称で呼ばれた少年は静かに、されど瞬時に答えた。
彼女もまた、こちらと同じカーキ色の、女性用の制服を引き締まった体に纏っていて、確りと見開かれた眼と、少女らしい膨らみが年相応の雰囲気を醸し出している。
しかしアルは、そんな人のよさそうな青い髪の彼女から、話す事は無いとばかりに早々に離れようとしてしまう……が、異性とは思えない尋常ならざる握力が、彼の僧帽筋を圧迫したので、思わず足を止めてしまった。
流石に外見上、肉体派と思われるアルも、これには嫌そうな眼を少女に向けるのだが。
「ティアー! いつまでそこにいるの~? ティアも早く来なよ~!」
「……はぁ」
既に青い髪の少女はこちらを向いておらず、少年の、仏頂面ではあるが明らかに不機嫌そうな視線には気づいていなかった。
その変わり青い髪の少女は、視線の先に立っている橙色の髪をした、大体同年代ぐらいの少女をこちらに呼ぼうとしている。
しかし、当の本人は乗り気ではないと言外に語る様に、深い溜息を付いていた。
「……」
未だ隊舎前のエントランスで足止めを喰らっている少年は、その青い髪の少女にティアと呼ばれた、吊り目がちの真面目そうな顔立ちをした人物を、特に興味なさげに眺めていた。
また、こちらへと仕方なしに歩いてくるティアと呼ばれる少女も、青い髪の少女にアルと呼ばれている少年へと、決して友好的な関係ではない視線を向けていた。
そして、二人が丁度肩を並べる位置に重なると。
「久しぶり、それじゃ」
「え? ちょっとティア!?」
それだけ言うと、橙色の長い髪を両側に括った細身の少女は、入口である両開きの自動ドアを通り抜けて行ってしまった。
これに、青い髪の少女が驚いたような声音で、少年を素通りしていったティアという人物を引きとめようとするが、それよりも先に開いていた自動ドアが彼女との間を遮るように閉じられてしまった。
「……もういいのか?」
「え? あ、ごめん……」
ティアと呼ばれる人物を見送った少年が、今まで右肩を掴んでいた青い髪の少女に尋ねる。
青い髪の少女は、さっきまでの明るい雰囲気が嘘のように縮こまった様子で、少年の肩から手を引いた。
掴まれていた肩が解放されると、少年は一度グルリと右肩を回して具合をチェックしてから、先程のティアなる少女と同じく、両開きの自動ドアに近づき中へと入って行った。
二人が隊舎へと入って行ってしまったため、一人取り残された青い髪の少女は一度だけ表情を伏せるも、すぐに力強く「うん!」と頷くと、何かを決意した様な顔つきで先に入口を跨いだ両人へと続いた。
(せっかく一緒の部隊になったんだもの。二人には、絶対に仲良くなってもらわないと!)
◆(3)
少年少女達のちょっとしたやり取りが隊舎前のエントランスで繰り広げられていた頃、その建物内にある総部隊長のオフィスでは、二人の女性が真新しい執務机を前に笑顔を浮かべている。
「リィンのデスクも、丁度ええのが見つかって良かったなぁ」
茶色がかった地毛を、肩にかからない程度のセミロングにした物腰が柔らかそうな女性が、部屋に設けられた自身の執務机を椅子に腰かけながら嬉しそうに撫でている。
それなりに実った女性らしいラインにカーキ色の制服を纏った女性は、すぐ傍に置いてある、まるでミニチュアの玩具を思わせる執務机へと優しげな眼を向けた。
「リィンにピッタリな机です~♪」
そこでは、何やら一人……いや、これは人の単位として数えて良いのかと勘ぐる、一体の小さな、本当に人間の掌に乗れそうなぐらいの小さな少女がいた。
彼女は何やら自分の執務机の前で、これまたミニチュアサイズの椅子に座りながら万歳をして歓喜を露わにしている。
銀色の真っ直ぐに伸びた髪に、未成熟な華奢な体型……まるで幼児を思わせる、その少女も同じくカーキ色の制服を身に纏っている。
すると、来客を知らせる短いブザーが聞こえてきた。
これに、さっきまで執務机にご執心であった二人が入口へと視線を向ける。
「はい、どうぞ」
ここ部隊長室の入口であるスライド式のドアが、静かな音を立てながら自動で開く。
開かれた部隊長室の入口から「失礼します」と断って、二人の女性が入ってきた。
そして入ってきた二人が、執務机を挟んだところにいる物腰が柔らかそうな女性へと一糸乱れぬ横並びで整列すると。
「本日ただいまより、高町なのは一等空尉」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官」
確りとした綺麗な姿勢で、同時に右敬礼をし。
「両名とも、機動六課に出向となります」
執務机に座る女性から見て、左からサイドテールの女性が事務的な言葉を発すると、一つ右に同じく背筋を伸ばした姿勢で立っていた、きめ細かな長い金髪の女性が「どうぞ、よろしくお願いします」と続いた。
「はい、よろしくお願いします」
堅苦しい出向表明をする両名とは違って、フランクな物言いで答えた執務机の椅子に座る女性は、微笑みを浮かべて二人を迎えた。
「二人とも、お着替え終了みたいやな」
そう言って、二人を迎えた女性が執務机の椅子から立ち上がり、カツカツとパンプスを鳴らして歩み寄る。
「お二人とも素敵ですぅ♪」
また小人の様な少女も、燥いでいた机から“浮き上がり”、入ってきたばかりの二人へと近づいた。
「あはは」
「ありがとう、リィン」
部隊長室の奥から近付いてくる二人に、出向表明を行った二人も、さっきまでの堅苦しい雰囲気を取り払った様子で賛辞を受け取った。
「三人で同じ制服は、中学校の時以来やね。なんや懐かしい」
二人の目の前で立ち止まった女性の感慨深い言動の通り、ここ部隊長室に集まった四人は同じカーキ色の制服を身に纏っていた。
膝から少し上辺りまでの丈のタイトスカートと、ピシリとした同色のジャケット。
ただ、執務机から歩いてきた女性だけが、首元にネクタイを着けていた。
「まあ、なのはちゃんは飛んだり跳ねたり出来る教導隊制服でいる時間が長くなるかもしれんけど」
「そうだね。だけど、事務仕事とか公式の場ではこっちって事で」
長い髪をサイドテールに括った、均整の取れたスタイルをしている高町なのはと名乗った女性は、そう言って愛嬌のある笑顔を浮かべる。
それに連れられて、他の三人も微笑む。
すると再び、この部隊長室に来客が訪れた事を知らせるブザーが鳴った。
これに四人が入口の方へと視線を集めると、自動ドアが横にスライドすると同時に、一人の知的な好青年が姿を現した。
真ん中で別けた紫の髪に、知性が感じられる切れ長な眼……細い輪郭とスマートな体型から、荒事よりもデスクワークの方が得意そうな印象を持たせ、どこか生真面目そうな雰囲気を醸し出している。
「失礼します、あ! 高町一等空尉、テスタロッサ・ハラオウン執務官。ご無沙汰しています!」
入って来て早々、一瞬だけ驚いた表情をした青年であったが、すぐに姿勢を正すと、彼女たち二人に右敬礼を行った。
しかし、敬礼をされた二人は“ご無沙汰しています”という言葉にピンと来なかったのか、暫しの間、自身の記憶を辿り。
「え~と……」
「……もしかして、グリフィス君?」
少々不安げではあったが、パッチリと見開かれた眼が愛嬌を感じさせる高町なのはが、記憶の隅から相手の名前を引っ張り出した。
なのはから名前が出て来てくれた事に、ちょっとだけ安堵した表情を浮かべながら、グリフィスは挙げていた敬礼を解く。
「はい、グリフィス・ローランです」
「わ~! 久しぶり! ていうか凄い! 凄い成長してる!」
「うん、前見た時は、こんなにちっちゃかったのに……」
どうやらグリフィスが小さな頃に面識があった二人は、フェイトと名乗った白い肌とモデルも顔負けなスタイルを誇った女性が、片手で表した高さの小さな子供では無い事に、感慨混じりの驚きを示していた。
「そ、その節は、色々お世話になりました」
まだまだ若くはあるが年齢的にお姉さん的な二人の反応に恐縮するグリフィス。
「グリフィスも、ここの部隊員なの?」
「はい」
「私の副官で、交替部隊の責任者や」
「運営関係も、色々と手伝ってくれてます♪」
懐かしげなフェイトが尋ねると、代わりに、この部屋の主である女性と小人が補足を加えた。
「お母さん、レティ提督は元気?」
フェイトの問いに、グリフィスは「はい、おかげさまで」と笑顔を浮かべて答えた。
このやり取りから見るに、彼は“提督”という高い地位を持った人間の息子であるようだ。
すると、グリフィスが何かを思い出したかのように表情を切り替える。
「あ、報告をしても宜しいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
部屋の主である上官の許可を得たグリフィスは、当初の目的であった報告を行う。
この間、公私を切り替えたなのはとフェイトの二人は、無駄な口を挟まぬように一端口を閉ざした。
「フォワード5名、機動六課部隊員とスタッフ全員揃いました。今はロビーに集合、待機させています」
直立不動で報告を終えたグリフィスに、部屋の主である茶色がかったセミロングの女性が嬉しそうに答えた。
「そうか、結構早かったなぁ。ほんなら、なのはちゃん、フェイトちゃん。まずは部隊の皆にご挨拶や」
「「うん」」
三人とも新しい部隊の始まりに笑顔を浮かべて頷くと、グリフィスが途端に表情を険しいものへと変えた。
これに、部屋の主である女性が気づく。
「うん、どないしたん?」
「いえ、それが……こちらをご覧になってもらえますか?」
そう言って、グリフィスはこれまで左手で持っていた、一台のタブレットを部屋の主に差し出す。
部屋の主である女性が差し出されたタブレットを受け取り、暫し眺めると。
「……なるほどな」
「どうしたの? ハヤテちゃん?」
さっきまでの和気藹々とした雰囲気が、ガラリと変わった事に気付いたなのはが、心配そうな面持ちで部屋の主……八神ハヤテに尋ねた。
ハヤテは、なのはの問いに、一拍の間を開けると。
「……なのはちゃんとフェイトちゃんには、知っておいてもらった方がええかもな」
「何のこと?」
「ハヤテ?」
タブレットを片手に、顎に人差し指と親指を当てていたハヤテが、真剣な目を首を傾げているなのはとフェイトに向ける。
また、ハヤテの隣で浮いていたリィン……リィンⅡ(ツヴァイ)も、ハヤテ同様、何やら思考を巡らせている様であった。
「今日からうちのフォワードを務める五人……その内の一人がな、地上本部の首都防衛隊に所属してた子なんよ」
「え? それって……」
「そう、レジアス中将が代表の部隊や」
「よく引っ張ってこれたね、そんな子……」
この世界……第一管理世界であるミッドチルダは、時空管理局と呼ばれる組織に対して大きな影響力を持つ世界で、“魔法”という文化が最も発達している場所であもある。
管理世界とは、次元を渡る技術を持つ世界の事を言うのだが、ここは次元世界の事から説明すべきであろう。
この世は、次元世界と呼ばれる、数多の世界を内包した領域からなっている。
世界と世界の間には、次元空間と呼ばれる通り道の様なものが存在しており、これを次元空間航行船という特別な艦船を使って行き来するのだが、先も記した通り、この航行技術が有る世界の事を管理世界と呼ぶのである――――また、その逆を管理外世界と呼ぶ。
それら広大な次元世界を守る、または管理している組織が時空管理局であり、これは次元世界における司法機関や、ミッドチルダ他、幾つかの世界で運営されている。
この時空管理局とは、大抵が管理局と縮めて呼ばれているのだが、主な仕事を挙げるには様々な案件に対して関わっているためにキリが無い……なので、簡単に説明すると、管理世界や管理外世界で起こった事件の解決や、文化管理、災害救助などを行う公的機関という事だ。
そして今しがた、なのはが言った“よく引っ張ってこれたね”という言葉の真意だが、管理局には次元の“海(うみ)”を担当する部隊、次元航行部隊と、各世界に駐留して治安維持を務める“陸(おか)”の地上部隊という二大勢力が存在する。
この二つの勢力は、同じ管理局の組織ではあっても、決して一枚岩ではなく、様々な禍根を通じて中々相容れない思想を持っている。
そして、今回新設された古代遺物管理部機動六課は、古代遺物……またの名を古代遺産(ロストロギア)を専門に扱う部隊であり、その任務の内容故に、地上部隊の“陸(おか)”よりも次元航行部隊である“海(うみ)”寄りな趣があるのだ。
だと言うのにも関わらず、地上本部の首都防衛隊から一人の若手を引き抜くことが出来た……。
なのはの感心したような様子に、ハヤテは苦笑しながら。
「引っ張ってきた言うより、引っ張らされたって感じやけどな……」
「引っ張らされた? もしかして、何か問題を起こした子なの?」
自分がこれから関わっていく事になるためか、物静かな顔立ちのフェイトが、不安げな様子でハヤテに尋ねる。
「いやな、推薦状が来たんよ、首都防衛隊の代表から……」
「わざわざレジアス中将直々にですぅ」
ハヤテの言葉に、リィンⅡが補足を加える。
「なんだか、きな臭いを通り越して、警戒してくださいって言ってるようなものだね。能力的には、ハヤテちゃんは把握してるの?」
呆れたような声音ではあったが、表情こそ真剣に、この件について考えていたなのはがタブレットを持ったハヤテに戦技教導官としての質問をする。
戦技教導官とは、いわば戦時のエースが戦争の無い時期に就く仕事で、正式な役職名は戦技教導隊という。
主な仕事としては、装備や戦闘技術のテスト・研究、演習での仮想敵役や技能訓練などが挙げられ、役職名のおかげで隊員に戦闘技術を教える役割を担った者だと思われそうだが、意外にそちらはメインでは無いらしく、教えたとしても1週間から2週間ほどである。
まあ、今回の場合はどうやら例外らしく、一年間の長い期間が設けられている様ではあるが。
なのはの質問に、ハヤテは一度頷く。
「推薦状が来たっていうても、一応この眼で確認せな私が納得できんからな。ちゃんと、その子の模擬戦は見て来たよ。なあ、リィン?」
独特なアクセントの利いた喋り方で、なのはの心配に答えたハヤテ。
すると、隣で浮いていたリィンⅡがハヤテの説明を引き継いだ。
「はいです! 彼の名前はアルファード・レヴェントン、16歳。身長172㎝で、体重は75㎏、魔法術式は近代ベルカ式で、デバイス名はエクスキューション。陸戦Bランクの新人さんで、魔力変換資質を持っていますぅ」
「魔力変換資質……」
「フェイトちゃんと一緒だね」
「ちなみに、彼の魔力は『炎熱』に変換されるのでシグナムと同じですね。あ、それとフェイトさんの部隊に入る予定ですぅ」
リィンⅡの説明に、フェイトが不思議そうな顔をする。
「あれ? ティアナとスバルと一緒じゃないの? 年齢も近いんだし」
「それなんですが……」
フェイトの疑問に、リィンⅡが気まずそうな雰囲気を醸し出す。
それに見かねたのか、ハヤテが仕方ないと苦笑をして、リィンの代わりに口を開いた。
「仲が悪いみたいなんよ、このアルファードって子と、特にティアナがな」
「仲が悪いって事は、どこかで一緒だった時があるの?」
「第四陸士訓練校でな、アルファード君が主席で、ティアナとスバルが次席卒業……まあ、話に聞く限り、それが原因じゃないみたいなんやけど」
「そうだね、あのティアナが、その程度の事で人を嫌いになるとも思えないし」
なのはが考え込むように、表情を俯かせる……。
この部隊長室は、まだ新築という事で、真っ白に光る埋め込み式の蛍光灯や、窓から入ってくる日の光を反射させる綺麗な床が、非常に明るく爽やかな雰囲気を醸し出しているのだが、一人の若手隊員のせいで、5人の面持は暗いものとなってしまう。
しかし、ここでハヤテが「あ、と……そろそろ行かな。皆を待たせすぎるのも悪いし」と言って、無理矢理に漂っていた空気を一蹴するかのような微笑みを浮かべる。
他の四人も、このハヤテの笑顔に、確かに今考える事ではないと、一端その若手隊員の事を置いておいて彼女の提案に同意を示した。
「そうだね、じゃあ、行こうか」
「うん、皆の所へ」
「レッツ・ゴーですぅ♪」
そう口々に言って、なのは・ハヤテ・フェイト・リィンⅡ・グリフィスの五人は、これから始まる結成式のために部隊長室を後にしたのであった。
◆(4)
外からの日差しが一面ガラス張りの壁から入り込んでいる、機動六課隊舎の広いロビーでは現在、交替部隊も含めた全人員が集結していた。
事務や技術関係、現場関係を担当する男性隊員や女性隊員を始め、近くにある寮を管理する寮母たち、食堂を運営する料理人たちの姿も見られた。
彼らは、これから機動六課の代表者である人物が立つ壇上を前に、規律正しく、横三列で整列している。
(やはり、見ない顔ばかりだな……)
そんな中、男性隊員が整列している場所に紛れている一人の少年が、仏頂面一つ変えずに胸中で呟いた。
(知っていると言えば、正面にいるシグナム二等空尉に、ヴィータ三等空尉。壇上に今さっき立ったエース・オブ・エース高町なのは一等空尉に、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官。そしてこれから来る八神はやて陸上二佐ぐらいか……あとは、あの二人か)
一面ガラス張りの壁越しに見える、よく手入れのされた植物や、ロビー内にある観葉植物、新品のタイルの床などには一切目もくれず、ひたすらに集まっている面子について考える少年。
(確かに、知っている人物を並べただけでも層々たるメンバーだ……異常なくらいに)
正面に見える壇上の横に立つ、二人の女性と一人の少女。
一人は、刃を思わせる切れ長の鋭い瞳と、紫紅色の長い髪をポニーテールに結っている、武人を思わせる空気を身に纏った美麗な女性――――名をシグナムと言う。
隣にいるのは、どう見ても10歳に満たない少女の外見をした、吊り気味のパッチリとした眼に、橙色の長い髪を二つの三つ編みにしている勝気そうな顔立ちをした少女――――名をヴィータと言う。
そして、そのヴィータをシグナムと共に挟むようにして立っているのが、癖毛のあるセミロングの金髪と、おしとやかな顔立ちが特徴的な、どこか母性を感じさせる女性――――名をシャマルと言う。
(高町なのは一等空尉だけですら、相当な戦力なのにも拘らず、それに匹敵する程の実力を持ったフェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官にシグナム二等空尉……一体、これだけの面子を揃えて、何を考えているのだ)
隙のない切れ長な三白眼を細めて、思考に耽る少年……。
思い出すのは、戦技披露会という定期的に開かれるイベントで行われた、高町なのはとシグナムの血戦とまで謳われている激しい映像記録。
中・遠距離を得意とする高町なのはの弾幕や誘導弾などに対し、時に巧みに、時に愚直に寄って斬り込んでいくシグナム。
また、それに対応し、時に狡猾に、時に大胆な一撃を加えようとする相手……。
見ているだけでも、仏頂面の少年ですら手に汗握り、そして心が躍った、あの闘い……。
それ程の死闘を繰り広げた二人が同じ部隊で、更に同程度の力量を持った騎士や魔導師がまだ数人いる。
いくらなんでも、戦力を集中させ過ぎではないかと誰でも疑問に思う部隊編成に、少年は益々違和感を抱いて行く。
そうこうしていると、壇上に一人の女性が現れた。
(あれが、八神はやて陸上二佐……)
壇上に立った女性は、バッテンの髪留めをセミロングの茶髪に着けた、小柄な体型ながら、それなりに実ったスタイルの女性……同じ位置に立つ、なのはとフェイトと比べると、どこか幼い雰囲気が漂っているが、その眼には強い意志が感じられた。
また、彼女の肩には、大体成人女性の頭部ぐらいの身長しかない、銀髪の少女が浮遊している。
ハヤテが壇上から、目の前に整列している全員を一通り見渡すと。
「機動六課課長。そして、この本部隊舎の総部隊長、八神はやてです」
自身が到着すると同時に、独特なアクセントの利いた喋り方で、結成式を始めたハヤテは、これから自分の部下となる隊員たちの顔を眼に焼き付けながら言葉を紡ぐ。
「平和と法の守護者、時空管理局の部隊として事件に立ち向かい、人々を守っていくことが、私たちの使命であり成すべきことです。実績と実力に溢れた指揮官陣。若く可能性に溢れたフォワード陣……」
瞬間、ハヤテと目が合った少年であったが、彼は直立不動の姿勢で、話に耳を傾けている……いくら疑問を持ったとしても所属したからには、そこの上官に従うのは当たり前の事であり、厳しい規律で有名な地上本部から来た彼が反抗的な態度を取る事は有り得ない。
しかし、対面では従順でも、内面は違う。
「それぞれ優れた専門技術の持ち主の、メカニックやバックヤードスタッフ。全員が一丸となって、事件に立ち向かっていけると信じています。まぁ、長い挨拶は嫌われるんで、以上ここまで。機動六課課長及び部隊長、八神ハヤテでした!」
ハヤテが話し終えると、ロビーに集まっていた機動六課の全人員が一斉に拍手を彼女へと送る。
それに、笑顔で答える機動六課課長……しかし、この中でただ一人、心からの拍手を彼女に送っていない人物がいた。
(ぬるい……これだけの人員を集める手腕がありながら、全く覇気や威厳が感じられない。本当に、彼女がこの部隊を作ったのか? 本当に、俺はここにいなければならないのか?)
教えてください、レジアス中将――――少年が、心の中で縋るかのように絞り出した言葉は、やはり、誰にも届くことは無かった……。
呼んでくれた方から、感想等の反応があると非常に励みになるので、よろしくお願いします。