炎狼   作:ゲレゲレ

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 すみません、次で終わるとか言っておいて、二万文字以内だったことを忘れてしまっていたために、現在修正中です。
 一応、切れるところで切っては見ましたが、次で色々とおかしい所が出て来てしまうかもしれません……ですので、あまり期待しないで読んでください。
 はあ~、早く終わらせられないかなぁ。



第十話

 9車両目の屋根を突き破り、未だ崖沿いを伸びるリニアレールを時速70㎞で走行中の貨物列車の外へと姿を現した大型のガジェット。

 従来の楕円形とは違い、完全な球体をしているシルエットと、中心に逆三角の配置でレンズを光らせている三門の砲門が無機質な冷たさを感じさせている。また、球体の左右からベルト状の長いアームが別の生き物の様に動いているために、どこかアンバランスな存在感を漂わせていた。

 その大型ガジェットは、目の前でデバイスを構えているエリオとキャロの二人と対峙しながら、後ろにある車両への道を塞いでいた。

 前衛に槍型デバイスを両手で構えたエリオ、後衛に使役竜であるフリードと共にサポート体勢を取っているキャロといった陣形で相手の出方を伺う。

 10車両目の中頃に立つ二人から見て、右は見上げても頂上が伺えない、傾斜の少ない岩肌が露出した崖で、左は下に広がる森林地帯の景色が流れる様に過ぎ去っていて、落ちればただでは済まないという事を容易く想像させる高さがあった。

 エリオとキャロの二人に、この足場を無視できる飛行魔法は無い……確かにエリオには、槍型デバイスの柄から出てくる二機の噴射口から魔力をロケットの様に噴射させて飛行する手段はあるのだが、いかんせんまだ直線状でしか進めないために、こういった場面では使いづらい。

「先に仕掛けるよ! キャロ!」

「うん!」

 槍型デバイスの矛先を正面に構えながら、前衛であるエリオが持前の運動能力を活かして道を塞いでいる大型ガジェットへと突貫する。

 後ろではキャロが、グローブ型デバイスを嵌めた手の甲にある桃色の宝玉を光らせ、先行したエリオに対していつでも強化魔法を施せるようにしていた。

 貨物列車の連絡路を飛び越え、9車両目に足を踏み入れたエリオに向けて、大型ガジェットが二本のベルト状のアームを差し向ける。

 先端が鈍器の様に平らになっている二本のアームは、双方とも不規則な軌道を描いて接近してくるエリオの迎撃に出るが、彼はそれを持っていた槍型デバイスの刃を左右に振って切り払う。

 甲高い金属音が二度・三度繰り返される中、エリオはアームによる攻撃などお構いなしに相手との距離を一気に詰めて行き。

「でりゃぁぁあっ!」

 ガジェットとの間合いを己の物とした瞬間、両手で槍型デバイスを振り上げ、その白銀の刃に“雷”の魔力を込め、それを気合と共に振り下ろした。

 大きな球体のシルエットの中心に、エリオの魔力を纏った槍が切り下されるがボディに接触した瞬間、斬撃の勢いが虚しくも消され、その装甲に傷をつける事すら出来なかった。

「か、固い!?」

 エリオの男の子とはいえ、まだ小さな両手に痺れるような衝撃が走る……ガジェットと己のデバイスが起こした衝撃の余波が、長い柄を通じてエリオにまで伝わったのだ。

 されど、それでも尚、一切の傷を受けなかったガジェットは、シルエットの中心に逆三角の配置で着けられている黄色いレンズを光らせる。

 すると、さっきまで“雷”の魔力を纏っていたエリオの槍から、付加効果が取り除かれてしまう。

 AMF……それも、今まで闘ってきたガジェットよりも強力なもので、一瞬にして刃と結合していた魔力効果が消しされれてしまう程のものだ。

 これに目を見張ったエリオは、すぐさま近くにいるのは拙いと感じ、正面を向いたままバックステップで距離を取る。

 後方で控えていたキャロが、これの支援をするためにフリードに対して指示を出す。

「フリード! ブラスト・フレア!」

 足下に桃色の魔方陣を展開し両手の甲にある宝玉を光らせているキャロの指示通り、フリードが口元に拳大の火球を作りだし、それを大型ガジェットに向けて放つ。

 しかし、その火球はエリオの周辺で蛇の様に動いていたベルト状のアームに弾かれ、右手に見える崖の岩肌に直撃してしまった。

 これによって崩れた岩が、走行中の貨物列車の最後部に落ちて行くが、大した大きさの破片は無かったために大事には至らなかった。

「もう一度! フリー……え?」

 キャロがエリオを安全に下がらせるために、再度援護攻撃を行おうとした瞬間、まるで照明器具の電源を落としたかの様に、彼女の足下に展開されていた魔方陣と、宝玉に灯っていた光が消えた。

 大型ガジェットのAMFが、まだ10車両目の中ごろにいるキャロの位置まで届いたのだ。

「うそ、こんな距離まで……」

 彼女がAMFの展開範囲の広さに驚いていると、ガジェットから距離を取っていたエリオが声を張る。

「キャロ! ここで闘うのは危険だから、僕は車両内部に入るよ!」

 そう言うと、9車両目と10車両目の境目まで下がっていたエリオが、槍型デバイスを両手で横に寝かせた状態で身体の前に突き出し状態にして前に走り出した。

 彼の突進は瞬く間にガジェットのアームによる攻撃を躱しながら接近を果たす。

 すると、ガジェットの懐まで到達したエリオが、正面を塞ぐ相手に向けて、身体の前で寝かしていた槍型デバイスの柄部分を、曲げていた肘を突っ張って叩きつけた。

 これにより、大型ガジェットの浮遊している球体が一瞬後ろへとぐらつく。だが、エリオはこれだけでは済まさず、突進した直後も足を走らせ続け、自分よりも大きな相手を下がらせていく。

 そして、エリオの押し込みによって大型ガジェットが、再び最初に出て来た大穴へと落ちて行く。

 いや、落ちて行くというより、大穴に差し掛かった瞬間、エリオが巧みに槍型デバイスを動かしてガジェットに伝える力の流れを変えていたために、落とされたといった方が妥当か……。

 縺れ合うように9車両目の内部に落ちて行くエリオとガジェットであったが、ガジェットが二本のベルト状のアームを、まるで足の様に地面に着けると、あと一歩という中途半端な位置で落下が止まってしまった。

「くっ!?」

 本来ならエリオは、このまま魔法の行使が困難になったキャロからガジェットを引き離し、彼女の安全を確保したかったのだが、不十分な結果に歯噛みをしてしまう。

 すると、さっきまで押し込んでいた正面のガジェットが、目の前にいるエリオに向けて、シルエットの中心に逆三角の位置で設置されている三つの砲門を光らせた。

 直射上の熱線が来ると気付いたエリオの表情が強張る。

 ゼロ距離での直撃は耐えられない……そうエリオが考え、次の行動に出る瞬間であった。

「きゃあっ!?」

「っ!?」

 突如、貨物列車の後部の方から大きな爆発音が轟き、これまで安定した走行を見せていた車体にに大きな衝撃が与えられた。

 一瞬、レールから外れたのではないかと思えるぐらいの揺れが発生し、屋根に立っていたキャロに尻もちを付かせる。

 そして、これによって地面に接地させていた二本のアームのバランスを崩した大型ガジェットが、放とうとしていた熱線の照準を、エリオから大幅に外してしまう。しかし、もともと浮遊しているのが主な状態のガジェットは、すぐさまズレた照準を正面にいたエリオに戻そうとする……だが、そこには既にエリオの姿は無かった。

 何故なら既にエリオは、ガジェットの正面から離脱し、地面と接地した二本の内、一本のアームを切りつけようとしていたからだ。

「だりゃぁ!」

 地面に踏ん張った両足のスタンスを広げ、身体の可動域を最大限にまで発揮した全力の横薙ぎは、ガジェットのベルト状の太いアームを強引に弾き飛ばし、車両内部にあったコンテナを跳ねながら壁面へと激突した。

 これにより、無理矢理アームを限界にまで伸ばされたガジェットは、その勢いに引っ張られるようにして中空から車両の地面に落下し、跳ね上がっていたコンテナ群の下敷きにされ埋められてしまう。

 車両の内部は、大型ガジェットが入って少し余裕のある程度の横幅しかないので、いまエリオの前には出鱈目に山積みにされたコンテナと舞い上がった埃で塞がれていた。

「キャロ! 今の爆発音は!?」

 いくら何でも、この程度で相手が機能停止する訳が無いと考えていたエリオであったが、それよりもまず、10車両目の屋根にいるキャロに状況確認を行った。

 おそらく、今しがた車両の後方部で起きた爆発音は、アルファードと魔導師と思われる者が戦闘を行っている12車両目で発生したものだ……そのエリオの予測は当たっていた。

「12車両目で煙が漏れてる! 多分、中で起きたものだと思う!」

「分かった! キャロはそこにいて! すぐに終わらせるから!」

 そう言って、再び意識を正面に向けるエリオ。

 すると、目の前で山積みになっていたコンテナ群が一気に崩れ出し、中から再び大型ガジェットの丸いシルエットが姿を現す。

 ダメージは、おそらく無い……確かに、ボディの所々にちょっとした傷跡はあるが、それだけでは中身に支障を来す事はないであろう。

 正直キャロにああは言ってみたものの、このAMF下で相手の装甲を抜く手段がこちらには無い。

 どうにかして、この範囲の広いAMFから彼女と共に離れ、強化魔法を施してもらわなければ勝ち目は見えてこない。

 本来なら、こちらで無理に大型ガジェットを倒す必要は無い……先に前方の車両へ降下していたスバルとティアナが無事自分たちの役割を終え、7車両目の重要貨物室内にある“レリック”を回収しさえすれば、救援として加勢してくれる筈なのだ。しかし、今のエリオにはその選択肢は選べない、というより頭に浮かんですら来ない。

 何故なら、部隊としても個人としても初陣である今回の任務で、自分の役割を全うできなかったという後味悪い結果は残したくないという思いがあり、更に言えば、いま目の前で対峙している相手と闘い、救援を待てるほど自身が持つとは思えないからだ。

 ここは何とかして、相手のAMF下からキャロと共に離れなければならない……そう決心しているエリオは、腰を落とし、両手に持った槍型デバイスの矛先を相手へと向け、左肩を前にした真半身の構えを取った。

(分は悪いけど、何とかする方法がきっとある筈だ……それに、キャロは絶対に僕が守る!)

 コンテナの山から出て来た大型ガジェットの砲門がエリオに向けて輝きを放つ。

 彼にとって、初めての実戦で最も厳しい時間帯が始まろうとしていた。

 

 ◆(1)

 

 先頭車両にいたガジェット達を掃討し終えたティアナとスバルは、片方を市街地へと向かっている貨物車両の制御に、もう片方を7車両目にある重要貨物室へと向かわていた。

 先の戦闘で鉄屑と化した十数機のガジェットの残骸が、もの悲しく所々に横たわっている中、ティアナは先頭車両の前方にあるコンソールを忙しなく両手で操作している。

 しかし、いつも冷静かつ勝気な彼女の表情は鳴りを潜め、何やら車両の制御に苦戦をしている様であった。

(ダメ……これ多分、制御プログラムを操作するためのパスワードが変えられてる)

 彼女のデバイスに送られてきていたパスワードとは、このリニアレールを管理する中央管制からは独立した、緊急時にしか使わないシステムを起動させるためのもので、それさえ操作できれば時速70㎞で走行し続ける貨物車両を止められる筈だったのだが、どうやら先に占領していたガジェット達に何らかの細工をされていた様であった。

 もともとデスクワーク自体は得意で、何事も器用にこなすティアナであったが、専門的な電子戦となると手も足も出ないのが現状だ。

『ティアナ、どうです?』

 すると手詰まりなティアナ耳に、デバイスを介したリインの声が聞こえてきた。

 彼女は現場管制の役割を八神総隊長から一任されているために、今は上空で貨物列車と並走しているJF704式ヘリコプターのキャビン内でスターズ分隊とライトニング分隊の状況を確認している。

「ダメです、パスワードが書き換えられてて、私には……」

『ガジェットが車両の制御を奪うために使用していたケーブルは破壊してありますか?』

「はい、それは全て確認済みで、効果はありませんでした」

 リインと通信を行いながら、後ろを振返って先頭車両内部を見回したティアナの眼には一つも取りこぼしが無く、数十機にのぼるガジェットの残骸から伸びる赤いケーブル類は全て、鉄板が剥がされ中身が露出した壁面から取り外されていた。

『了解。車両の停止は私が引き受けるです。ティアナはスバルと合流してください』

「了解!」

 現場管制であるリインは、このままティアナを先頭車両に残していても意味は無いと判断し、すぐさま7車両目へと先行していたスバルとの合流を指示する……これに対して、プライドの高いティアナではあったが、的確な判断だと自らも認めていたために、何の不満も見せずに足を走らせて先頭車両から出て行った。

 2車両目は既にスバルが通過した後で、無人で動いている貨物車両の緊急時として必要な大型の予備バッテリーや、常時稼働し続けているモーターや速度調整・油圧管理などを行うコンピューターがあるために、他の車両よりも狭い通路での移動を強いられるのだが、ティアナが通過していく途中に、破壊されたガジェットが数機横たわっているのが見えた。

 相も変わらず、直線的な突破力はずば抜けているわね……と、ティアナは自身の相棒が残した軌跡を見て、呆れ混じりの感心を示した。

 3車社両目……ここには貨物である大型のコンテナが左右に分けて並べられているだけでガジェットの姿は見られなかった。

 4車両目、ここは先の車両とは違って要冷蔵と書かれたコンテナ群が並んでおり、その注意書き通りティアナが車内に足を踏み入れた瞬間に、かなりの冷え込みを感じたもので、堪らずといった様子で早々に次の車両へと走り込んでいた。

 5車両目……ここに来て再び、3機程のガジェットの残骸が見られ、車両内に積んであったと思われるコンテナ群が多少散らかっているのをティアナは一瞥した。

(もうそろそろね)

 スバルの機動力なら、既に7車両目に到達していると思うのだが、“レリック”確保の報が未だない事から、おそらくは重要貨物室の扉で何らかの障害が発生したのだろうとティアナは予想する。

 正直、初出動という響きから、もう少しトラブルが有っても不思議では無いと思っていたティアナは、ここまでの順調さ加減から、ちょっとした肩すかしを喰らっている所であった……が、彼女の眼に油断の色は見えず、それはあくまで“ここまでの話”という事で落ち着いていた。

 6車両目へと続く連絡口を通って、ティアナは既に手に持っていたクロスミラージュを二丁拳銃(ツーハンドモード)からワンハンドモードへと移行させている。

 腋を閉め、肘を曲げた右手に持った新しい相棒の銃口を上に向けながら、何時でもどの方向にも対応できる体勢を取っているティアナが、6車両目へと入るために連絡路の扉の前に立とうとする……。

「っ!? なに、この揺れ……」

 横にスライドして開く扉の赤外線センサーが反応する範囲の一歩手前で、突然立ち止まったティアナは、足もとに感じた不自然な揺れに警戒心を高める。

 すると、再びティアナの耳にリインの声が通信として入って来た。

『ティアナ、聞こえてますか?』

「はい、聞こえています。今の揺れは……」

『私も今、先頭車両の内部に降下した所なんですが、どうやらアルファードが魔導師と思われる相手と交戦を開始した様です。外の映像を見るからに、12車両目から煙が上がっているので、中で何らかの爆発が起きたのかもしれませんね』

 おそらくは今、状況確認を行いながら先頭車両のコンソールを操作しているであろうリインから聞こえてくる声音は、真剣さこそ感じはするものの、そこまで緊迫したものでは無い。

 だからといって、大した問題では無いという訳でも無いのだが、今はライトニング分隊の方よりも自分達に与えられた役割を優先させなければならないために、ティアナは再び正面を見る。

「リイン曹長。車両停止の方は……」

『大丈夫です。この程度なら、もう少し時間を掛けさえすればすぐにパスワードの割り出しが出来ます。問題は、ガジェットが車両の配線系にまで損傷を与えていないかという所なのですが……一応、そうなったときの指示もはやてちゃんから出されているので、ティアナは心配せずスバルと合流して“レリック”を回収してください』

「了解!」

 そう言うと、ティアナは一端リインとの通信を切り、再び扉の手前で止めていた足を走らせ始めた。

 6車両目と連絡路を隔てていたスライド式の自動扉が、エアを抜く音を発しながら開いて行く。

 正面には、やはり貨物車両というだけあって、先程までと同様に大型のコンテナや、小さなダンボールに札の着いたキャリーバックなどが揺れで落ちないように伸縮性のあるゴムで固定され積まれていた。

 それが左右に避けられ、中央には人が5人ぐらいは並んで通れる通り道があり……そこでは今まさに、自身の相棒であるスバルが一機のガジェットに右手のリボルバーナックルを叩き込んでいる姿があった。

 彼女の周囲には、まだ二機のガジェットが浮遊している。

 幸い、スバルの突破力に警戒をしていたガジェット二機は、今入って来たばかりのこちらに気づいてはいない。

 おそらく、あの周辺には既にAMFが展開されている筈だ。

 故にティアナは、すぐさまワンハンドモードにしていたクロスミラージュを二丁拳銃に持ち替えて、双方の銃口をスバルの周囲に浮遊しているガジェットに向ける。

 アイアンサイトではなく、ほぼ感覚で照準が合わされた二つの銃口の前に、二つのオレンジ色の魔力弾が形成される。

『Variable Shoot』

 瞬間、クロスミラージュから機械的な声音が発せられ、短時間の内に形成されたAMFを突破するための多重弾殻をティアナが引いた引鉄と共に発射される。

 本来の魔力弾を膜状バリアで包んだそれは、今ようやく、こちらの魔力反応に気づいて振り返ったガジェット二機に、回避不能な弾速で一直線に飛んでいき……そして、一気に楕円型のガジェットのボディを貫き機能を停止させた。

「ティア!」

 後ろから突如飛来した、見慣れた色の魔力弾が敵を貫いた瞬間に、誰が来たのか理解していたスバルが嬉しそうな明るい表情で振り向き、ローラーブーツ型のインテリジェントデバイス“マッハキャリバー”を走らせた。

「車両の停止はリイン曹長にやってもらってるから、私たちは早く“レリック”の確保をするわよ!」

「分かった!」

 スバルよりも現実的なティアナは、合流を喜ぶ彼女に釘を刺すように言い放って、5車両目から入って来た連絡扉から7車両目に入れる反対側の扉へと走り始めた。

 これに、合流の喜びで思わず八つの車輪を走らせていたスバルは、急いで後ろへと急旋回し、ティアナの前に付く形で同じ7車両目を目指した。

 そして二人が7車両目へと続く扉を開け、短い連絡路を通って、目的地である重要貨物室の前に辿り着いた。

「あれ……ガジェットがいない?」

 最初に重要貨物室の扉前に辿り着いたスバルが、マッハキャリバーの走りを止め、首を捻る様に疑問を漏らす。

 7車両目の連絡扉から入ってすぐの所にある重要貨物室の扉の前には、一切のガジェットの姿は見えず、代わりに配置された物なども見当たらない……。

 そして、二丁拳銃の銃口をいつでも正面に向けれる構えを取っていたティアナも、ここに辿り着いた。

「……多分、前後から攻め込まれて戦力を分散させたんじゃない? ほら、重要貨物室の扉の横、カードリーダの所なんか、ガジェットに剥がされてるし……開けるのに時間が掛かるって判断して、私たちを排除する方を優先させたのね」

 ティアナの言うとおり、重要貨物室の分厚そうな扉には、物理的に開こうとした跡が有ったりと、少し荒れた様子が見て取れる。

「だけど、それじゃあ私たちも開けられないんじゃ……」

「ちょっと待って。いま指令室に聞いてみるから……」

 目の前の状況を見て、少しだけ不安を感じた二人は、これからどうするのかという指示を仰ぐために指令室と通信を行う。

「こちらスターズ04。重要貨物室前に到着したのですが、扉を開くためのカードリーダが壊れているため、安全にロックを解除する方法が取れません。強引に扉を破壊して中に入る事も出来なくはないのですが……」

『ちょっと待ってね、いま確認してみるから……』

 ティアナの通信に出たのはシャリオことシャーリーで、彼女は自分では判断しかねるために、今現在、指令室で最も決定権のあるグリフィスに指示を仰いぐ様だ……。

 

 ◆(2)

 

「どうしますか、グリフィス准陸尉?」

 大型のスクリーンから振り返り、通信士用のマイクを右手で押さえながら、後ろにいるグリフィスに尋ねるシャーリー。

 紫色の髪と知的な容姿をした彼は、暫く顎先に人差し指と親指を添えて思考を巡らせる……。

 確かにティアナの言うとおり、強引に開ける以外に、迅速な方法は考えられない。かといって、それをやってしまった場合、もしもロストロギアである“レリック”に何らかの影響が出てしまったのなら、取り返しの着かない事態に陥るのも可能性としてはある……最悪、あの領域一帯が火の海と化してしまうかもしれない。

 それだけ、ロストロギアという機動六課が追うべき物は、リスクを伴う存在なのだ。

 しかし、いつまでもスバルとティアナを、あそこに留まらせる訳にはいかない……既にライトニング分隊の三人は激しい戦闘を開始しているために、すぐにでも救援に向かわせたいのだ。

 リスクを無視してリターンを取りに行くのか――――

 それとも、リスクを考えて、近くの空域で戦闘を行っている隊長たちの到着を待つべきか――――

 こうやって考えている間にも、貨物列車は市街地へと向かい、ライトニング分隊の戦闘も動いて行く。

 どうする……どうすれば、全て事が上手くいく……。

 若いグリフィスが、手を拱いていたその時、指令室の入口である扉の開閉音が後ろから聞こえてきた。

「皆、遅れてごめんな! 状況は!?」

 入って来たのは、機動六課の総部隊長でもある八神はやて……彼女は、カーキ色の女性用制服姿で、そのまま入って来て早々に、自身が指令室で腰を落ち着けるべき席に座る。

 その席の位置は、この指令室全体を見渡せる場所で、巡航船でいう艦橋の艦長席といった部屋の後方にあり、通信士たちとは段差違いの高さにある。

「スターズ01、ライトニング01が近隣空域で戦闘を継続中、あと数分で敵飛行型ガジェットを殲滅出来る早さです。スターズ03、スターズ04は現在重要貨物室の扉前で待機中。ライトニング03、ライトニング04は9車両目で新型の大型ガジェットとエンカウント、敵AMF下でライトニング03が押さえている状況です。ライトニング05は12車両目で敵魔導師と交戦中、現在は映像にもノイズが入っていて、中の状況は確認できません」

 はやての状況確認に、シャーリーが自身専用のコンソールとディスプレイに目を向けて答える。

 普段は和やかな微笑みが似合う女性である八神はやては、任務中の緊張感を身に纏いつつ、真剣な眼差しで大型スクリーンの様子を頭に入れながら、シャーリーからの情報を整理した。

「なのは隊長とフェイト隊長には敵ガジェットを殲滅次第、エリオとキャロの救援に……アルファードの所は、とにかく映像の回復と状況確認を最優先。グリフィス君、スバルとティアナは何で待機中なん?」

 彼女の出身世界にある地域特有のイントネーションが、先程までどうするべきかと悩んでいたグリフィスに向けられる。

 グリフィスは、至って冷静に答えた。

「扉のロックを解除するためのカードリーダが破壊されているため、安全に重要貨物室に入る方法が無く、強引にスターズ両名に突破させようにも、中にロストロギアである“レリック”がある事を考慮すると、迂闊に強い衝撃を与えるべきではありません。そのため、私では判断に詰まってしまいました」

 彼の考えを聞き、少しの間、はやても頭の中で思考を巡らせる。

 そして、答えは意外にも早く決まった。

「グリフィス君の言う事も一理ある。だけど、一応、聖王教会からの情報では、“レリック”はケースの中に入っていて、封印も施されてる。確かに“レリック”は“超高エネルギー結晶体”で、外部から強い魔力を受けると爆発する可能性もあるけど、大丈夫……扉を壊すだけの手加減なら、管理局の魔導師なら誰でもできる筈やし、ましてや、なのは隊長の指導も受けてる。二人には強引に入ってもらうで」

 はやての決定に通信士であるシャーリーが、すぐさま現場で待機している二人に指示を出す。

 その最中、ふと表情をいつもの様に和らげたはやてが、先程まで自身の代わりに指揮を取っていたグリフィスに視線を向ける。

「慎重になり過ぎるのは決して悪くは無いんよ? まあ確かに、なり過ぎて決断できないのは困りもんやけど、要所で駆けに出る事も時には必要や。次からは、その慎重さを良い方向に活かせるといいな」

「はい、ありがとうございます」

 明らかに補佐官として決断できなかった自分をフォローしてくれていると、グリフィスは気づきながらも、その優しい声音ながらも痛いところを突いてくる指摘を真摯に受け止めた。

 

 ◆(3)

 

 敵の広範囲に渡るAMF下の中、ガードウイングとして大型ガジェットを一人で抑えていたエリオは、案の定、劣勢に立たされていた。

 飛び交うベルト状のアームを槍型デバイスで弾き、それを掻い潜って一撃を加えたと思えば、固い装甲に刃を阻まれ、再び距離を取るも三門ある砲門から放たれる直射上の青い熱線を回避する……。

 先程から何度も繰り返された、この攻防。

 確かに、まだ凌ぎ切る余裕はあるし、攻撃のパターンも少ないために対処するのは簡単だ。だが、こちらの攻撃は魔力の行使が困難なために通らず、それと同じく身に纏っているバリアジャケットの防御も心もとない。

 もしも、あの分厚い鉄板おも溶かす熱線に身を晒されれば、いかに魔導師といえどもエリオでは耐えるという事すら出来ないし、ベルト状のアームも受け損なえば、一気に形勢があちらに傾く事は、考えなくても分かる事だ。だというのに、その驚異から未だにキャロを離せないでいる……。

 彼女はまだ、10車両目の中頃で待機している筈だ。

 しかし、いくら9車両目の内部に大型ガジェットを押し込んだとしても、敵には優れた浮遊機能が備わっており、こうして機械である相手の注意をこちらに引き付けていなければ、すぐにでも彼女は標的にされてしまう。

 故にエリオは、ダメージを与える術なく、魔導師の天敵とも言える装置を持った相手と一対一で闘う事を強いられていた。

 二本のアームが放物線を描いて、エリオの頭上から攻撃を仕掛ける。

 その平たくも太い腕を、エリオは槍型デバイスの柄を横にして防御する。

(くっ! 重いっ!?)

 ガツンと両手、両肘、両肩、腰、両足に衝撃が伝わるが、子供ながらも尋常では無い体力を誇っているエリオは何とか耐え切る。

 一本なら、まだ弾く事は出来た様だが、二本同時となると避けるか受け止めるしか防ぐ手立てがない……それに気づいたのか、ガジェットは鈍器の様に先が潰れた二本の腕で、小さなエリオを上から押し込み、足を止めさせる。

「ぐっ!?」

 思わず、ガジェットの両腕から生み出された重量に足を踏ん張らせ耐えてしまうエリオ。いや、耐えていなければ、その重さが一気に体に落ちてきたかもしれない。

 エリオは、このままの体勢で耐え続けるのは拙いと判断し、身体を前傾姿勢に変え、両腕を突っ張りながら大型ガジェットに力比べを挑む。

 両者の距離は5mも離れていない。しかし、ガジェットも正面にいるエリオに、これまで避け続けられていた熱線を迂闊には放てないでいた……どうやら、機械的なAIで情報を処理しているとは言え、何度も同じ失敗を繰り返さない程度には賢い様だ。

 大きさ的に言えば、大型と付くガジェットの方が有利に見えたが、両者の力比べは徐々にエリオが押し始めていた。

 踏ん張る両足を一歩ずつ、確実に前に踏み出す。

 金属で出来た車両内部の地面を、エリオの両足が少しだけ凹ます……すると、大型ガジェットが本来は電子機器の調査やハッキングに使う無数の赤いケーブルを、二本のアームがある球体の頭とは反対の下側から這い出し、足もとの地面や車両の壁などにそれを伸ばした。

 赤いケーブルが地面や壁にくっ付くと、後退していたガジェットを止め、エリオの押し込みも耐えきった。

 拮抗する両者の力……だが、それはすぐに崩される。

 エリオの前進を止めた大型ガジェットのAIが、遂に煮えを切らせたのか、彼の頭部に狙いを定め、熱線の発射準備を行い始めたのだ。

 野性の勘とでも言うのか、それを感じ取ったエリオが、すぐさま突っ張っていた腕を引き、同時に落ちてきた二本のアームから逃れるために後ろへと下がる。

 今しがたまで自分が立っていた場所に、ガジェットのベルト状のアームが突き刺さり、車両の地面を拉げさせるが、それには目もくれず、エリオは相手の頭上へと飛び上がっていた。

 瞬間、彼を追うように放たれた熱線が車両の天井を焼き、外の景色を露わにさせる。

 自身の頭上を放物線を描いて飛び越えて行くエリオに、球体のガジェットは、そのフォルムを活かして熱線を動かしていたのだが、まんまと相手に逃げ切られてしまう。

 ガジェットを飛び越えて着地したエリオは、早速距離を取って槍型デバイスを構える。

 そして再び、ジリ貧とも言える一方的な攻防が始まった。

 

 ◆(4)

 

 中心に大穴が開いた9車両目の前方から、ガジェットによるものだと思われる青い熱線が内部から屋根を焼く……これを、エリオが心配になって9車両目の大穴へと近づいていたキャロが目撃する。

「エリオくん……」

 その光景は、本来ならこういった火事場の似合わない彼女を不安にさせるには十分過ぎるものだ。

 故に、キャロは目の前に見える大穴まで歩いて行き、そして中を覗き込んだ。

 視線の先では、エリオが狭い車両内でありながらも、なんとかガジェットの攻撃を凌いでいる姿が伺えた……が、彼の表情には余裕が見られず、絶えず額から大粒の汗を流している。

 自身の傍らにいるフリードは、先ほどから寂しげにこちらを見ている。

 しかし、熟練の魔導師でも魔力の行使に相当な労力を使うAMF下で、エース・オブ・エースから英才教育を受けているとはいえ、まだまだひよっこの彼女にエリオの支援をする事が出来ない。

 フルバックとしての役割も満足に努められず、ただただ大事な人が目の前で苦しむ姿を眺める事しか出来ない自分に、キャロは歯噛みを通り越して途方に暮れるしかなかった。

 何も出来ない、何の力にもなれない……今、この貨物列車には自分と同じ部隊の仲間が、其々に与えられた任務に身体を張っているというのに、自分はたかがAMFの領域内に入っただけで使い物にならなくなってしまう。

 嫌だ、こんなのは嫌だ――――されど、目の前で徐々に押されていくエリオを見る度に、幼いキャロには現実が重く圧し掛かっていく。

 その時であった……再び後方の車両から、大きな爆発音が聞こえたのは。

 走行中の車両を大きく揺らす衝撃は、先のものよりも大きく、あまりの威力に12車両目のボディを突き破って、中からどこかに輸送途中であったコンテナ類が粉々になった形で外へと放り出されていた。

 おそらく、訓練中にも見せていた、炎で形作ったナイフをアルファードが爆破したのであろうと、付き合いの短いキャロでも理解する事が出来た。

 しかし、あれ程の規模だと、爆発を起こした自分自身も危ないのではないか……普段、冷静にリスクやリターンを考えているように見える彼にとっては珍しい光景。それは、暗に彼が抑えている魔導師が、どれだけの危険性を孕んでいるのか示している様にも見えた。

 キャロの小さな胸に、言い知れない痛みが走る。

 それは鋭い痛みと言うより、どろどろとした気分の悪いものであった。

 ふと、エリオの方に視線を戻す。

 彼は、いま起きた衝撃でバランスを崩しながらも、何とかガジェットの二本のアームを槍型デバイスを振って弾き、敵の正面に立たぬように、相手を軸にして周りをステップで回っていた。

 だが、それも長くは続かない……。

 相手は、その球体のフォルムを活かして、周りを回り始めた相手を弾き飛ばすように、二本のアームを地面と水平にしながら独楽の様にスピンをし始めた。

 回転と共に付いてくる太いアームが、エリオを襲う。

 一撃目は、相手の予想外の行動に反応が遅れたために、何とか両手で構えた槍で受けきろうとする……しかし、その遠心力の付いた金属の打撃は、彼が想像したのよりも遥かに重く、たったの一撃でガードを弾き飛ばされてしまう。

 それでも、何とかアームを上に弾き、槍型デバイスも放さなかったエリオであったが……。

「エリオくん!?」

 間髪入れずに襲ってきた二撃目に、遂にエリオが捉えられてしまう。

 胴体に固い金属による猛烈な打撃を受けたエリオは、その小さな体を中に舞わせ、車両の壁面に背中を打ちつけてしまう。

「がぁっ!?」

 あまりの威力と衝撃に、エリオは肺から漏れだした空気に大口を開き、目を見開いてしまう。

 体の表面から骨と内臓を通り越して、背骨まで響いた鈍重な衝撃に、エリオは完全に動きを止めてしまう。

 そこに、ガジェットからの追い打ちが襲ってきた。

 今度は鈍器のようなアームの先端を立て、エリオの腹部に強烈な一撃を突き刺す。

 壁を背にして、エリオの小さな身体が“くの字”に折れ曲がる。

 常人なら上半身と下半身が切り離されても可笑しくは無い金属の衝突に、どういう訳か子供のエリオは耐えて見せた……が、既に彼の体には傍目から見ても力は感じられず、腹部に突き刺さったアームの上に上半身をうつ伏せていた。

 意識を失っている大事な人を見ても、何も出来ない。

 キャロは、何も出来なかった。

 

 ◆(5)

 

『確かに、凄まじい能力は持っているんですが……制御が碌に出来ないんですよ』

 白くて、眩しくて……ただただ広い部屋の真ん中で椅子に座っていた私は、目の前の大人たちから来る視線から逃げるために、顔を俯かせてた。

 だけど、それでも目の前で何かの記録が書かれた紙を持った男の人は、私に向かって呆れたとも違う、嘲るような口調で話をしている。

『竜召喚だって、この子を守ろうとする竜が勝手に暴れまわるだけで、とてもじゃないけど真面な部隊でなんて働けませんよ。せいぜい、単独で殲滅戦に放り込むくらいにしか……』

『はあ……もう結構です。ありがとうございました』

 まるで不良品の最後の使い道とばかりに、私の事を話していた男の人に、その話を聞いていた綺麗な女の人が疲れたように言い放った。

 遮る形で話を止められた男の人は、それでも表情一つ変えずに口を動かし続けた。

『はあ、では……』

『いえ』

 男の人が何かの確認をしようとすると、もうその人の話なんて聞きたくないのか、綺麗な金髪の女の人はさっきと同じように言葉を遮ってしまう。

『この子は予定通り、私が預かります』

 ハッキリと聞こえた、この言葉に、私は俯かせていた顔を上げて、少しだけ目を見開いた。

 そこにいたのは、赤い眼と腰まで伸びた金髪が特徴的な、他の人たちとは違った黒いスカートの制服を着た、本当に綺麗な若い女の人。だけど、表情はどこか怖い。

 私は、その人に連れられて、少しの間だけ居た施設を出る事になった。

 

 

 なんだか重々しい鉄製の門がある私設の入口を出ると、そこは一面雪景色で、灰色の空からも大粒の雪が吹雪くほどではないけれど、私の頬を冷やしながら降り続けていた。

 目の前には、さっきまで怖そうな顔をしていた綺麗な女の人が、黒い制服の上に白いコートを羽織って、雪の地面の上に跪いている。

 そうやって私の目線に合わせてくれていた綺麗な女の人……フェイトさんは、黙って私の首にスカイブルーのマフラーを、少し女の子らしい蝶結びで巻きつけてくれた。だけど私は、優しく微笑んでくれているフェイトさんに『私、今度はどこへ行けばいいんでしょう?』としか聞けなかった。

 それまでの私は、他の人たちから強すぎる力を持っているとか言われて、何も分からずに居場所を追い出されてきたから、今度も同じなんだろうなとしか思えなかった。

 でも、フェイトさんは私の予想していた事とは違う事を話し始めた。

『それは、君がどこに行きたくて、何をしたいかによるよ』

『え……?』

 言われていることが、私にはよく分からない。

『キャロは、どこへ行って、何をしたい?』

『あ……』

 フェイトさんが、ニコリと笑って立ち上がる。

 差し出される黒い手袋が嵌められた手……私も、さっきフェイトさんに貰った青いミトンを嵌めた手を出して、静かに手を繋ぐ。

 考えた事も無かった……。

 私の前には、いつも私がいちゃいけない場所があって、私がしちゃいけない事があるだけだったから……。

 

 ◆(6)

 

 目の前で、エリオ君がガジェットのアームに掴まってしまった。

「あ、あぁ……」

 何も出来ず、それを見ているだけの私……。

 そうこうしていると、壁に押し付けられ意識を失ったエリオ君の体に、ガジェットのアームが巻きつけられる。

 エリオ君の体が殆ど覆われてしまう程にガジェットのアームは平たく、そのまま彼は持ち上げられ、さっきレーザーで焼かれた天井の隙間から無理矢理外へと出されてしまう。

 私も、思わず車両の屋根から外へと持ち上げられていく彼を視線で追ってしまう……。

 このままでは、彼がリニアレールの下に見える崖底へと放り投げられてしまう。

 嫌だ……そんなのは嫌だ。

 でも、AMFの中にいる限り、魔力の行使が出来ない私じゃ何もできない。

 フリードにだって、指示が出せない……。

 折角出会えた、私と同じ様にフェイトさんに保護されたっていう男の子。

 最初は全然、お互いに会話も無かったけど、つい最近になってスバルさんやティアナさんに言われて、ようやく普通にお喋りも出来る様になって……まだまだ仲良くなりたい男の子。

 もっともっと、一緒の時間を過ごしたい。

 そうしたら、本当に親友とか、家族とか……そういう風に思えるようになるのかな。

 嫌だ――――失いたくない。

 私が見上げている目の前で、ガジェットのアームに掴まれていたエリオ君が、車両の屋根の外側へと放り投げられてしまう。

 下に見えるのは、一面緑の森林地帯……だけど、その陸地までの距離は十分に高高度と言えるもので。

「エリオくん!!」

 私は思わず、ガジェットに放り投げられてしまったエリオ君の名前を叫びながら、彼を追いかけてしまった。

 そして、何の迷いも無く屋根の外側へと飛び降りる――――

 するとさっきまで車両の屋根の上で感じていた時の風よりも、遥かに強い大気の抵抗が私の身体を吹き上げる……だけど、それでも私は、視線の先で意識を失いながら崖底へと落ちて行くエリオ君を追いかける。

 隣には、空を飛び慣れたフリードが着いて来てくれている。

 大丈夫、届く、もう少しで、エリオ君の所に辿り着く……そうすれば、大丈夫。

 確かに怖いけど、それでも私の心は一つに落ち着いていた。

 こんな高高度からのリカバリーなんて、まだ教わってないし、教わっていたとしても、運動が得意じゃない私じゃ一発で出来る筈がない。

 それでも、今の私に不安は無かった――――だって私は、もうあの頃の、ただ受け入れるだけの子供じゃないから。

 私は自分の右手を、ようやく追いついたエリオ君の手を掴もうと伸ばすけど、あと少しの所で届かずに何も無いところを掴んでしまう。

(守りたい、優しい人……)

 もう一度……今度は小指を掠めた。

(私に笑いかけてくれる人たちを、自分の力で守りたい!)

 私の全身を打ちつける風の音が耳に入ってくる中、遂にエリオ君の左手を掴むことが出来た。

 すると、私のためにシャーリーさん達が作ってくれたブーステッドデバイス、“ケリュケイオン”が光り出す。

『Drive ignition.』

 指の空いたグローブの甲側にある大きな宝玉から、まるで血管の様に私の魔力光が五本の指へと伸びて行き、そして人工知能を持つデバイスだからこそ出来る魔法の自動発動が行われた。

 瞬間、落下速度を抑えるために丸い魔力の風船が、私とエリオ君を包み込む。

 さっきまで目で追えないぐらいに流れていた景色が、途端にハッキリと見える様になるけど、私は手を取ったエリオ君を自分の胸に抱き寄せた。

 そこに、私に着いてきたフリードが目の前に姿を見せて、一対の翼を羽ばたかせている。

 こちらの指示を待つかのように、ゆっくりとした落下速度に合わせて、私に目を向けているフリード。

「フリード。不自由な思いをさせてて御免……私、ちゃんと制御するから」

 私がフリードに語りかけていると、胸に抱き寄せていたエリオ君が目を覚ました様で、こちらに驚いた様な目を見せている。だけど、それよりも今は、私が変わるべき時だから――――

「行くよ! 竜魂召喚!」

 高らかに告げた、フリードの真の姿を解放する魔法。

 これに呼応するかのようにフリードの周囲が桃色の魔力光で覆われ、その魔力の塊が下へと移動したかと思うと、私とエリオ君の足下に大きな魔方陣が描かれる。

「蒼穹を走る白き閃光。我が翼となり、天を駆けよ。来(こ)よ、我が竜フリードリヒ!」

 熟練の召喚士なら、詠唱なんかせずに魔法を発動させることが出来るんだけど、今の私じゃ確りと唱えなくちゃ集中が出来ないから、一言一言に思いを込めて本当のフリードを呼ぶ。

 私の魔力光に包まれたフリードが、その呼び声に答えるかのように、まずは魔方陣から、その巨大な翼を外に出て大きく一度羽ばたかせる。

 初めてフリードの本当の大きさを見たエリオ君が「わぁ……」と口から感嘆の声を漏らしている。

 その気持ち、私も分かるよ……だって、本当のフリードはとても大きくて、とても綺麗な竜なんだもの。

 翼が出ている魔方陣から、遂にフリードが顔を出し、纏っていた魔力光を弾けさせながら、その長い首と屈強な胴体の繋ぎ目に私たち二人を乗せて、一気に姿を露わにする。

 さっきまで私の傍らにいた小さな竜からは想像もできない、翼長10m以上を誇る白銀の飛竜。

 赤い眼に、鋭さの中に獰猛さと優しさを兼ね備えた、面長な竜の顔……鼻先にある大きな角には、竜魂召喚前から付いていた金色のリングが日の光を反射させている。

 大きな牙のある口元には、私のデバイスに予め記録されていた手綱のハミが咥えられていて、私たちが乗せられた場所にも、乗馬で使う鞍が着けられている。

 そして、魔方陣から出て来て早々、久しぶりに力を解放したフリードは、いつの間にか鞍に跨がされ、手綱を握らされていたエリオ君を無視して、両腕である一対の翼を大きく羽ばたかせ、再びリニアレールを走行中の貨物列車へと飛翔していった。

 フリードが飛ぶ事によって生まれた、全身に伸し掛かる様な重力と風の強さに、エリオ君の後ろに座っていた私は思わず目を細めてしまう。だけど、目を覚ましたばかりのエリオ君は、落ちている時も放さなかった槍型デバイスを握りながら、何事も無いかのようにフリードの手綱を掴んでいる。

 みるみるうちに上がっていく高度と速度に、何だか嬉しそうなエリオ君……正直、初めて乗ったっていうのに、私よりも手慣れている感じがして、自分の基礎体力の甘さを痛感させられている気がする。

 後ろを見て見れば、フリードの揺れる長い尻尾の先に、私たちがもう少しで落ちるところであった森林地帯が見渡せる。

 もしも落ちていたなら、絶対に助からなかったであろう地面が一瞬にして遠ざかっていく光景は、どこか複雑な気分を私に与えるが、今はそれよりも中断させていた任務を果たすことが先決だ。

 そう心の中で決意して、視線を正面に戻すと、エリオ君に手綱を任せたフリードは既に、時速70㎞で崖沿いのリニアレールを走行中の貨物車両に追いついていた。

 こうして横から見ると、15車両もある貨物列車の所々から黒い煙が出ているために、これ以上の損害は避けた方が良いんじゃないかと思うけど、そうも言ってられない。

 フリードの背中に乗っている私たちは、先程まで大型ガジェットと交戦していた9車両目へと近づいて行く……すると、9車両目の屋根の真ん中辺りに空いた大穴から、ベルト状の2本のアームを展開させている大型ガジェットが浮遊してきた。

 相も変わらずAMFを発動させているんだろうけど、今の私たちは空を飛んでいるために、完全に領域の外で対峙している。

 今度こそ、私もエリオ君の役に立てる。

 そう考えると、とても嬉しい気持ちになる。

「フリード、ブラスト・レイ!」

 何の妨害も受ける事が無くなった私は、フリードに大型ガジェットを攻撃するよう指示を出した。

 

 





 前書きでも書きましたが、現在、この話の後半部分を修正中です。
 今日中は無理です、明日早いんで……。
 なので、明日の深夜か、明後日の午後には後半部分を更新させたいと思っています。
 ご迷惑をおかけします、ホントに……。
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