炎狼   作:ゲレゲレ

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第十一話

「召喚成功!」

「フリードの意識レベル、ブルー。完全制御状態です!」

 指令室に通信士である、アルトとルキノの二人の声が響き渡る。

 部屋の正面にある大型スクリーンでは、今しがた崖沿いのリニアレールを走る貨物車両から落とされたエリオを、竜魂召喚を成功させたキャロが助け出した所が映し出されていた。

「これが……」

「そう。キャロの竜召喚……その力の一端や」

 画面上で巨大な翼を羽ばたかせて、再び貨物車両へと飛翔した白銀の飛竜を見て、驚いた表情のグリフィスが言葉を漏らすと、はやてがそれに答えた。

「あの子はもともと、力が使えなかったんじゃない、使わなかったんや。AMFの効果範囲から離れさえすれば、きっとフリードの力をちゃんと制御してくれるって信じとった。まあ正直、列車から飛び降りた時は冷や冷やしたけどな?」

「はあ……」

 指令室の後方にある、指揮官専用の席に座る彼女の表情は、その言葉とは裏腹に嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 それを見て、グリフィスは胸中で『それは殆ど、博打に近かったんじゃ……』と呟くが、言わぬが花というものである。

「でも、あれならもう二人に救援は必要ないな。そろそろ飛行型ガジェットを殲滅させた隊長たちが列車に追い付く頃やろうし、ここからが詰め所や……」

 そう言って、さっきまで浮かべていた笑みを抑え込み、総部隊長らしい油断の無い瞳を大型スクリーンに向けるはやて……。

 すると、キャロの一件で歓喜一色であった指令室に、突然の緊張が走る。

「なっ!? 12車両目からライトニング05が、敵魔導師と共に落下しました!!」

 悲鳴を上げる様に、アルトが起こった出来事を簡潔に告げる……。

 大型スクリーンの端に有ったウインドウが拡大さると、さっきまで12車両目で交戦を続けていたアルファードが、敵魔導師の頭の髪の毛を引っ張って、縺れ合うようにして崖の下へと落ちて行く姿が映し出された。

 これを確認したはやてが、手前にあったデスクを両手で叩いて、一息で席から立ち上がる。

「キャロとエリオの二人は!?」

「ダメです! 完全に入れ違いで、既に距離も離れています!」

 通信主任であるシャリオが、焦った表情を露呈させながらも客観的な事実を伝える。

 大型スクリーンに映し出された映像では、指令室の混乱を更に煽る様にアルファードと敵魔導師が地上へと落下を続けている。

 この間、はやては自身の脳をフル回転させる……。

(アルファードの訓練記録を見た限り、六課に来る前にリカバリーの訓練はしとる筈や。だったら、人ひとり抱えた所で問題は無い……せやけど、見る限り右肩を負傷しとるみたいやし)

 浮かび上がるは、彼が首都防衛隊に所属していた時に行っていたとされる訓練記録のデータと、機動六課で行っている訓練内容。

 これらを思い出す限り、彼が高高度から安全に地上へと着地する術を身に着けている事は、確実なものとして捉えられるのだが……いかんせん、映像の彼は敵の物と思われる剣型デバイスで右肩を貫かれており、とてもじゃないが“絶対に大丈夫”とは思えなかった。

(いくら、なのはちゃんやフェイトちゃんかて、今からじゃ絶対に間に合わへんし、スバルやティアナだって車両内部にいるから向かう事は不可能や……これは、アルファードの技術に賭けるしかないな)

 さっき、現場を指揮する者には、たまに博打に出れる決断力も重要だとグリフィスに言ったばかりではあるが、流石に今回は、その“博打”に頼る面が多すぎるために、はやて自身も辟易し始めていた。

 だとしても、もはや彼の無事を祈る事しか出来ない彼女は、ただただ大型スクリーンに映し出された光景を見守るのであった。

 

 ◆(1)

 

(落下速度と空気抵抗の大体の感覚は掴んだ。あとは俺とコイツの総重量を計算に入れて、相対速度との誤差を修正しながら高所リカバリー魔法を掛ければ……)

 はやての祈りとは裏腹に、12車両目の壁に空いた穴から崖下へと落下を続けていたアルファードは冷静であった。

 既に森林地帯の地上との距離は、一つ一つの雑草が辛うじて確認できるぐらいにまでに迫っていた……が、それでも尚、アルファードは貫かれた右肩の痛みに脂汗を流しながらも、表情一つ変えようとはしない。

 頭から真っ逆さまに落ちている体勢ではあるが、敵であるファクティスの頭を掴みながら、彼女を抱き寄せて身動きを取れない状態にさせているアルファード。

 心なしか、こんな状況にも関わらず、更に言えば深刻なダメージを負っている筈のファクティスは、その涼やかに整った顔を嬉しそうに綻ばせていた。

「私、高所リカバリー魔法はまだ使えないんだ~……だって、訓練だってしてないし、“ナンバーズ”のみんなからも教えてもらってなかったし」

 所々が跳ねた長い黒髪が風に煽られる中、彼女は疲れた口調ながらも楽しげにアルファードに向かって話を始める。

 しかし、当のアルファードは全く持って、彼女の話に耳を傾けない。

 いや、正確に言えば、聞こえてはいるのだが反応するのが馬鹿らしいといった所か……。

 アルファードの視界が、落下速度のせいで狭まっていくのだが、彼はそれを意にも介さずに、デバイスに記録されていた高所リカバリー魔法を発動させる。

 すると、彼の周囲が炎の魔力で包まれ、落下速度の緩和を行い、まるで浮遊しているかのようにゆっくりと地上まで下りて行く……。

 高所リカバリー魔法とは、魔導師にとっては比較的初歩的な魔法で、この様に高高度からの落下の安全を確保するための技術である。

 基本的に、この魔法も飛行魔法として区別されているのだが、魔導師としての“飛行”というものは、高々度高速飛行魔法を指すのであり、別に高所リカバリーが行えるからと言って空戦魔導師になれるという訳では無い。

 また、新人魔導師だったり、こういった高所での戦闘が想定されていない部隊の場合は、あまり実戦での経験も少ないために、そこまで頻繁に使われる魔法でも無いのだ。

 しかし、初歩的な魔法という点は変わりないために、訓練の回数こそ少ないが、それなりに使えるといった者が多いのも特徴的である。

 そろそろ地上に辿り着く頃かと、自身の魔力で周囲を覆ったアルファードは感覚で悟る……。

 既に、頭が逆さまといった状況からは姿勢制御で脱しており、いつでも発動中の魔法を解除させられるのだが、降りたら降りたで、再び抱きかかえているファクティスと戦闘を行わなければならない。

 今はまだ、彼女がこちらの高所リカバリー魔法を頼っているために大人しくしてはいるが、いつ右肩を貫かれている剣型デバイスを引き抜かれるとも分からない。

 一応右肩の出血は止まっている……何故なら、貫かれたと同時に彼女の炎で傷口を焼かれた後、崖下に落ちながらもすぐに自分で傷口を再度焼いていたからだ。

 この程度なら、医療班に頼めば10日で完治させられる、という信頼があるからこそ出来る無茶である。

(さて、どうするか……このまま安全に地上へと降りるのか。それとも、自力での着地が困難な彼女の状態を利用して、今からでも魔法を解除するのか……)

 アルファードは、別にどこぞの軍の兵隊という訳では無い。

 管理局の武装隊に所属する、いわゆる公務員なのだ。

 故に、確保できる犯人を、なるだけ生かして捕えるのは義務と言える。

 どっちの選択を取っても、彼女程の実力を持っているのなら死ぬことは無いであろうと考えたアルファードは……。

「……あれ?」

 突如として、アルファードとファクティスを包んでいた炎の風船が、風に吹かれたように消え去ってしまった。

 同時に感じる、足場の無い浮遊感……そして、再び二人は落下を始めた。

「え、あれ? なんで?」

「……」

 いきなり魔法を解除したアルファードに戸惑っているファクティス……だが、彼は彼女の戸惑いなど関係ないとばかりに、相手の髪を掴んでいた左手を自由にさせ、そして――――

 迷いも無く拳を作りだし、それをそのまま彼女の肋骨が折れた右脇腹へと叩き込んだ。

「ふぐっ!?」

 縺れ合っていた状態から、そのレバーブローによって二人は引き剥がされる。

 もう少し離れるのには手間取るのかと思っていたのだが、あまりに簡単に決まってしまった拳に、アルファードは少しだけ驚いた顔を見せた。

 どれだけ油断をしていたんだ、彼女は……視線の先で、まだ動く右手で腹部を押さえて、落下しながら悶絶しているファクティスを見て、彼は少なからず呆れていた。

 12車両目で見せていた、あの鬼気迫る緊張感など何処吹く風。

 冷静に着地のタイミングを計っているアルファードとは対照的に、ファクティスの方は必至な形相でこちらへと近づこうとしている。

 いや、今からでは無理だろうと、相手の無駄な抵抗を観察していたアルファードは、地上から生えている木々の枝に身を晒されながらも、何とか両足で地面に接地して、そのまま五点着地法で落下の衝撃を和らげる。

 静かに着地したアルファードとは違い、焦りに焦っていたファクティスは迫ってきた木々の枝に対して防御魔法を展開したり、地面に足を着いた瞬間にボディースーツと一緒になっていた踵のヒールを折ったりと、散々な状態で雑草の生えた土の地面に尻もちを付いていた。

「いった~いっ!?」

「……動くな。お前の身柄は拘束させてもらう」

 そして既に着地から立ち上がり、ファクティスの所まで接近を果たしていたアルファードは、涙目で地面にしゃがみ込んでいる彼女の背中に向かって、極めて事務的な台詞を吐く。

 普段は特に、何に対しても“ツッコミ”などという行為はしないアルファードも、目の前の無防備な彼女には『いや、貴様にはまだする事があるだろう』と言いたい気分に陥っていた。

 本当に、あの戦闘の緊張感はどこへ行ってしまったのか……傍目から見ていても、そう嘆きたくなるのは仕方ない事なのであろう。

 しかし、油断こそはしていないが半ば呆れている彼の意に反して、ファクティスは至って真面目に口を開いた。

「は~い。抵抗はしませんよぉ~」

 訂正しよう……彼女は、至ってアルファードをからかう様に口を開いた。

 だが、彼はそのまま無表情に続ける。

「ならば地面に腹這いになって、動く右手を後頭部に乗せろ。……大人しくしていれば、手荒な真似はしない」

「ほいほ~い」

 軽い調子で答えて、何の抵抗も見せずにアルファードの命令に従うファクティス。

 腹這いになった瞬間、動かなくなった左腕や、肋骨の折れた右脇腹が表情を歪める程の痛みを訴えるが、それでもファクティスは素直に右腕を後頭部に回して、地面に細い顎を乗せた。

 不自然な程に、こちらの言う事を聞いてくれる彼女に、アルファードは油断の無い視線を改めて向ける。

 確かに、ざっと彼女のダメージを見て見れば……頭部外傷に左肩の脱臼、または三角筋の断裂に、第十~第十二肋骨の骨折、両足首の捻挫などがあるが、“この程度”でテロとも言える貨物列車の占領事件を起こした犯人が無抵抗になるとは考えづらい。

 故に、アルファードは彼女の頭側へと回り込み、いつでも魔法による一撃を加えられる体勢を取った。

「あはは♪ そんなに警戒しなくたって大丈夫だって~……私はもう、抵抗なんてしないから」

「どうだろうな。大抵の犯罪者は、そう言ってこちらの注意を引こうとするものだ」

「冷たいなぁ。折角会えたっていうのに……ねえ、お喋りしようよ?」

「尋問は俺の仕事ではない。貴様はこれから、拘束され輸送機に搬送された後、然るべき役職の人間から取り調べを受ける事になっている。お喋りは、その時に好きなだけするといい」

 背の高い木々の葉が、空からの日光を木漏れ日としているなか、アルファードは冷たく言い放つ。

 しかし、それでもファクティスは表情に笑みを浮かべていた。

「そう言わないでよ♪ どうせ私が話せる事なんて、そうでもないものばかりなんだし……まあ、どちらにしても間に合わないと思うけど」

「……こちらライトニング05。指令室、聞こえますか?」

 意味深な事を、まるで親しい間柄の人間と話すかのように口に出す彼女の後頭部を、アルファードは上から見下ろしながら指令室へと通信を入れる。

『こちら指令室。無事みたいね、良かったわ』

 アルファードからの通信に出たのは、通信主任であるシャーリーであり、心底安心したといった様に、こちらの無事を喜んでいた。

「はい、ご心配をお掛けしました。それと車両内にいた魔導師を落下地点で確保。今の所、抵抗を見せる気配はありませんが、なるべく早く輸送機の手配をお願いします。それと自分を含め、魔導師にも怪我が見られるので、医療班もお願いします」

 ハキハキと指令室に要望を出すアルファード。

 これを受けたシャーリーは……。

『了解。輸送機の方は、いまヴァイス陸曹に向かうようお願いしたから、すぐに到着すると思うわ。それと、フェイトさんがもうそっちに向かってるから、輸送機の着陸ポイントへの移動は、その後にした方がいいわね。医療班はすぐに出すから、それまでは我慢してて』

 普段は人懐っこい雰囲気を漂わせて、あまり出来る人間とは匂わせない彼女であったが、やはり機動六課という実験部隊とは名ばかりの実力派集団に呼ばれただけあって、手際の良さは人一倍だ。

「了解。では、テスタロッサ隊長が到着するまで待機しています」

 そう言って、指令室との通信を切る。

「終わったの?」

「貴様には関係の無い事だ。黙って下を向いていろ」

 後頭部に右手を乗せ、腹這いの体勢のまま、こちらを見上げてくるファクティスに釘をさすが、それでも彼女はこちらとの会話を続けようとする。

 どうやら、本気でアルファードとのお喋りを楽しもうとしているらしく、笑顔も見せているのだが、いかんせん肝心の相手が乗ろうとはしてくれない。

「ねえ~、お喋りしようよ~。たぶん、そっちにも有益な情報を話すかもしれないよ?」

「さっきも言ったが、俺の仕事では無い。それに、大したものは無いのであろう?」

 ぶーぶーと、唇を尖らせて、ノリの悪いアルファードにブーイングをするファクティス。

 こうして見れば、普通と言うよりもどこか抜けた少女なのだが、既に彼女は罪を犯しているために、彼に同情の心は無い。

「管理局には大した事はないかもしれないけど、“お父さん”にとっては知っておいた方が良いと思うんだけど?」

 しかし、彼女から出て来た突然のワードに、アルファードが眉間を歪める。

「“お父さん”? 貴様、それは誰の……いや、いま俺が知ったところでどうしようもないな」

 一瞬、その“お父さん”という呼び名の真意を探ろうとしたが、やはり自分自身が預かる仕事では無いと判断したのか、アルファードはすぐに皺を寄せていた眉間を元に戻す。

 その様子を見たファクティスは、彼には本当にお喋りをする気が無いと悟ったのか、開き直ったかの様に一人で話を続けた。

「そっちが乗らないんなら、いいもん。一人で勝手に喋ってるから……」

 何やら拗ねたようにアルファードを見上げるファクティス……切れ長の瞳に、現在は頭部から流れてきた血が付着しているが、透き通る様な白い肌が外面的にも内面的にも健康であることを示している。

 貨物車両の占拠……しかも、ロストロギアを狙ってきたガジェットと関係を持っている。

 こういった事情が無ければ、それなりの人生を送れたのではないかと思える、彼女の優美な容姿。

 だが、世の中とは得てして、そういうものなのだと考えているアルファードは、ただ犯罪者を捕まえただけという認識しか頭にない。

「私にはね、姉妹がいるんだ。それも、そこまで歳の変わらない子達が……」

「……」

「皆、外見はそっくりなんだけど、性格は全然バラバラでさ。私みたいにお喋りが好きなのもいれば、全く喋らない子もいるの。でもね、そんな風にみんなバラバラでも、一つだけ一緒に考えてる事が有るんだ」

 これから管理局に身柄を拘束され、厳しい尋問を受ける事は彼女も理解している筈だ……だが、彼女は腹這いになった体勢でも、笑顔を絶やしていない。

 たまに、サイコパスと呼ばれる精神異常者が、掴まっても尚、狂気に染まった不気味な微笑みを浮かべて、局員を気味悪がらせる事が有る……しかし、彼女の笑みは違う。

 本当に、その姉妹というものを慈しむ、優しい笑顔なのだ。

 されど、感情に乏しいアルファードは、それに気づけてはいない。

「“お父さん”に認められる事……“お父さん”に、自分が娘だって認めてもらえること」

 さっきから彼女がいう“お父さん”とは、一体誰を指す言葉なのか?

 それを聞き出すのは、自分の役割では無いとしているアルファードは、再び胸中で首を横に振る。

「皆それぞれ、違う方法を考えてる。だけど、親子のコミュニケーションなんて、私たちは教えられてないから分かる筈がないし、分かったとしても多分、それは通用しないんだ……だって」

 これまで笑顔だった彼女が、その時だけは表情を悲しげに沈めていた……。

 だが、その刹那であった――――

 警戒はしていた筈だ。

 しかし、アルファードの警戒を嘲笑うかのように突如として飛んできた一本のナイフが、雑草の生えた地面に腹這いになっている彼女の右首筋を、寸分の狂いなく捉えた。

「うぐっ!?」

「っ!?」

 柔らかい女性の肌を冷たいナイフの切っ先が貫く、生々しい音がアルファードの耳に入る。

 その刺さり方から、迷いなくナイフが飛んできた場所を割り出した彼は、すぐさまそちらへと臨戦態勢に入った身体を向ける。

 鬱蒼と茂った叢に、背の高い木々が立ち並ぶ光景……それ以外に、変わったところなどは見られない。

 魔力反応も軽く探っては見たが、一切ひっかかるものは無い……。

「は……はは……。もう“私の番”はお終いかぁ」

「……」

 突然の奇襲に、本来ならすぐにでも飛び出して行きたいところだが、あいにくと、今回の事件について有益な情報を持っている可能性がある人物が足もとにいるのだ、迂闊に離れる訳にはいかない……もしかすれば、これ自体が第三者を含む、彼女の演技なのかもしれないからだ。

 周囲を警戒しつつ、横目で彼女の右首筋に刺さったナイフを観察する。

 柄の短い投擲用のナイフで、刃渡りはそれ程には長くは無い……だが、刺さっている箇所が危険だ。

 おそらく、動脈はやられていると判断して間違いは無い。

 早く応急処置をして、医療班に任せなければ危険な状態だ、いや、それでも助かる可能性は無いとみていいかもしれない……。

 ナイフが刺さった右首筋から、尋常では無い血液が漏れ出てきては、緑の雑草が生えた地面を汚していく。

「折角、会えたのになぁ……嬉しかったけど……お別れだぁ」

「くそっ!」

 このまま警戒の方を優先して、彼女を放置していては拙いと判断したアルファードが、自分の右肩にした処置と同じ事をするために、地面に膝を着ける。

 医療には詳しく無いが、出血さえ止められれば、最悪脳に障害が残っても生きた形は保てる筈……そう考えたアルファードが、急いでうつ伏せに寝ている彼女の右首筋に左手を近づけたのだが。

「っ!?」

 彼が近づいた瞬間、再び横合いから投擲用のナイフが二本、こちらへと飛来する。

「ちっ!?」

 それに素早く反応したアルファードが、ガントレッド型の手甲が着いた左腕で飛んできたナイフを打ち払う。

 しかし、その間にうつ伏せで寝ていたファクティスが、最後とばかりに一気に立ち上がり、彼から距離を取ってしまう。

 踵のヒールが折れているために、つま先だけでバックステップを行った彼女は、近くの木の幹に背中をぶつけると、そこに寄り掛かる様にして身を預けた。

 不覚……偶然落ちた崖下に、もう一人いた事もそうだが、武器を取り上げたとは言え、何より彼女を確りとバインドの魔法で拘束しなかったのが仇となった。

 自分の警戒の甘さに悪態を付きそうになるが、今はそれどころではない。

 アルファードは、さっきからナイフが飛んできている方向を警戒しつつも、木の幹に背中を預けて、何とか立っているファクティスを見た。

「じゃあね。多分、またすぐに“会える”と思うから……その時まで、覚えていてね?」

 

 お父さん――――

 

 瞬間、ファクティスがまだ動かせる右腕で、右首筋に刺さっていたナイフを自ら引き抜く。

 ナイフという詮を失った傷口から、おびただしい量の血液が流れ出るが、彼女の表情には笑顔が見られた。

 そして、彼女は右手で引き抜いたナイフを、再び首筋に突き立てると……そのまま、自分の首を何の躊躇もなく、横一線に斬り捌いたのだった。

 




 う~ん……色々と予定が狂ったせいで、修正の連続でしたが、なんとかファーストアラート編を終わらせられました。
 次回は、事後処理といった感じです。
 てか、初めはエリオとキャロが大型ガジェットを倒すシーンも書いていたのですが、流石にアニメと同じ様な事を、これ以上書く必要は無いだろうと判断したために、次回の話でちょろりと出すだけに止めました。
 まあ、えぇ……私は話を作るのが、そこまで得意な人間では無いですし、文章も綺麗という訳では無いので、だらだらと長く書いてしまい、無駄に文字数が増えてしまうんですよね。
 更に言えば、アニメと同じと言っても、あのシーンは必要とか、このシーンは不要とかいう判断も出来ないんですよ。
 まだまだ、ひよっこどころか卵からも孵っていない感じです、はい。

 ですが、少数とは言え読んでくれている方々がいるので、不定期にはなりますが、なんとか続けたいと思っています。
 『小説家になろう』でもオリジナルを書いてはいますが、そちらも同じ意気込みで頑張っています。
 出来たら、そちらも読んで頂けると嬉しいです……まあ、出来たらですけどね。

 次回もなるべく早く更新したいと考えているので、楽しみにして頂けたら幸いです。
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