炎狼   作:ゲレゲレ

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 意味も無く前後編に別けてしまって、本当にすみませんでした。
 やはり、2万文字以内はきついです。
 そして、例に漏れずチェック無の本文ですので、もしも拙い文章や可笑しな所があれば、感想などで報告して頂けると嬉しいです。
 本当は、人任せはダメなんですけどね……。



第十三話 後編

 ビュッフェ形式の機動六課食堂では現在、様々な部署から昼休憩に入った者達が五人掛けの丸テーブルに座って、其々に談笑などを交えながら、その空腹を満たしていた。

 もちろん、この中には六課新人フォワード陣も顔を見せており、スターズ分隊の二人とライトニング分隊の三人が、山盛りなどとは生易しい盛り方をされた、まるでオブジェの様なナポリタンの皿が中央を陣取っている丸テーブルを囲んでいた。

「あ~昨日の今日でっていうのもあるけど、個別訓練がこうもキツイと、体力の無さっていうのを嫌でも感じるわね……」

 右肩を左手で押さえてグルグルと回し、項垂れる様に椅子の背もたれに身を預けるティアナ。

「しかも、あれで“ちょっと”だもんね」

 フォークで大口サイズに纏めたナポリタンを一口で食しながら、スバルも朝訓練での出来事を思い出す。

 隣では、さっきまでアルファードやヴァイスと一緒にシャワーを浴びていたエリオが、一心不乱になって昼食を貪り続けていた(一応、最低限のマナーは守っている)。

「キャロとエリオも、フェイトさんに教えてもらってたよね?」

「はい」

「きつかった?」

「それはもう……」

 もはや乾いた笑いしか出ないキャロの疲弊感を見れば、二人も二人で限界まで追い込まれたのであろうと、自然に頷けてしまうのが怖い所だ。

 ふと、スバルが対面に座っているアルファードに、ナポリタンの影越しに視線を向けた。

 彼はエリオとはまた違って、黙々と自分で盛り付けた昼食メニューを利き腕では無い左手で食している。

 そんな彼の姿を見ると、なんだか自然と笑みが零れる……何故なら、つい最近まで彼は持参した昼食を持って、休憩中にも関わらずデスクワークをしながら一人で食事を済ませていたために、スバル達とは離れて昼の時間を過ごしていたからだ。

 流石に同じチームを組んでいるというのに、これは少し問題ではないかと感じたスバルが、彼に注意がてら昼食を一緒に食べようと誘ってみると、意外にもすぐに納得してくれて、それからはこうして食堂で昼を過ごす様になっていた。また、彼が持参していたという弁当の中身を見た彼女は、即刻食堂のメニューで済ます事を強制する……理由は簡単だ、弁当の中身が卵黄の無いゆで卵5個と、熱中症防止のための少量の塩、ブドウ糖摂取のための少量の砂糖、タンパク質とグルタミン摂取のためのプロテインとくれば、嫌でも強制せざる負えない。

 そうした過程を経てか、いま彼のトレイの上に乗った盛り皿と茶碗には、白身魚のフライにほうれん草のお浸し、少量の白米に、卵黄を抜いた卵白のみの卵といった、まあ前よりはマシなメニューが盛られていた。

 見た目によらず大食漢なスバルは、自身よりも体格のある彼が、そんなメニューで足りるのかと最初こそは疑問に思っていた……が、ここ1週間ちょい一緒に食事をしてみて、実は彼が2時間周期で間食を入れている事が分かり、少し異常だが、ある程度食生活にも気を配っていた事が分かったのだった。だとしても、前の様な食事を許す訳にはいかないが。

 すると、ナポリタンの横から見ていた彼と突然目が合った。

 朝の訓練で消化しきった胃の中を満たしている最中だと言うのに、まるで目の前に敵でもいるかの様な、油断の無い目をしている彼は、目の合ったスバルと見合った後、徐に口を開いた。

「なんだ?」

「え、いや、何でもないよ」

 不機嫌……違う、今のが彼の自然体なのだ。

 低いながらもまだ少年の面影のある声音に、スバルが上擦りそうだった声を何とか抑えて場をやり過ごす。

 陸士訓練校時代から知っているとはいえ、ここまで距離感を縮めた事は無かったために、まだスバルといえども慣れていないのだ。

 スバルの反応を可笑しいとも思わず、アルファードは再び高タンパク低脂質な食事に戻っていく。

 胸中で一先ず溜息を付いたスバルは、とりあえずフォークでナポリタンを大口サイズにまとめて、それを口に運んだ。

 その引き締まった体のどこに、これだけの食欲を満たすだけの胃袋が有るのか?

 傍目から見れば、かなり胸焼けしそうな光景であったが、スバルと右隣にいるエリオは構わず炭水化物を口内に放り込む。

 暫く、フォワード陣が囲む丸テーブルに沈黙が流れる……スバルは、その間も腕と口を動かし続けながら、チラチラとアルファードの様子を上目で伺っていた。

 すると皆の不意を突く様に、フォークが皿の上に置かれる音がフォワード陣の耳に響く。

「ごちそうさま」

「ふえ?」

 左隣から聞こえてきた、どこか冷めきったティアナの声に、スバルは思わずナポリタンを口に入れたまま振り向いてしまう。

 見れば彼女は、自分が使っていた食器をそそくさとトレイに纏めて、丸テーブルと同色の椅子から立ち上がっていた所であった。

「ふあ?」

「口に入ってるのを食べてから喋りなさいよ」

 椅子から立ち、トレイの両端を持って食堂のカウンターまで歩いて行くティアナ。

 ここ最近というより、アルファードが一緒に食べるようになってから、毎日がこうだ……。

 アルファードを連れてくるまでは、ティアナも楽しそうに食事をしていたし、そこで同じチームなのに他人行儀なエリオとキャロに普通にする様に注意もしていた。

 なのに今は、食事中に少しでもアルファード以外の会話が途切れてしまうと、彼女が他人行儀に近い態度を取り始めてしまう。

 あからさまに場の空気を低くしているのは、たぶん納得が行ってないからだ……アルファードと一緒にテーブルを囲むというのが、ティアナにとっては和を乱すよりも嫌な事なのだ。

 スバルは一端、去り際に彼女から言われた通りに口に入っていたナポリタンを飲み込むと、何か思いつめたように表情を伏せてしまう。

「スバルさん? どうかしたんですか?」

 それに気づいたキャロが、目をパチクリとさせてフォークを持った手を止める。

「え? あぁ、いや、何でも無いよ……」

「……?」

 浮かない顔をしながらも、何事も無かったかのように食事を再開するスバルに、キャロは首を傾げてしまう。

(悩んでたって仕方ないけど……ホントにどうしよう。ティアはアルと話す気も無いみたいだし、アルはアルで何も気にしてないみたいだし……う~ん、良い考えが全然浮かばないよぉ)

 結成式前には、何とかして訓練校時代から続く二人の険悪ムードを解消してみようと意気込んでいたのだが、ここ最近はパタリと、その自信も鳴りを潜めてしまった。

 原因は分かっている……ティアがアルを気に入らない理由は、私にあるのだから。

 自分は気にしてない、アルも悪気があって言ったわけじゃない。

 されど、それを何度ティアに話そうとも、彼女は納得してくれない……。

 それ程に怒ってくれたのだし、それ程に私の事を考えていてくれていたのは本当に嬉しい事なのだが、自分としては二人が仲良くなってくれた方が理想的だ。

 ほとんど本能の様に、頭を抱えたくなるほどに悩みながらもナポリタンを口に入れて行くスバル。

 そうこうしていると、今度は対面に座っていたアルファードが「ごちそうさま」と言って、左手一つでトレイを持って席を立ってしまう。

 取り残されるスバル・エリオ・キャロ……自身とは一つしか違わないのだが、年長者二人が置いて行った居た堪れない雰囲気に、三人は思わず食事の手を止めてしまう。

 本当に、このままでいいのか?

 答えは分かっているが、なにも手が浮かばない状況に、スバルは唯々頭を悩ませるのであった。

 しかし、その時であった。

「おう新人ども! ちゃんと飯、食ってるか?」

 そこに、整備班のユニホームであるツナギと黒のジャケットを羽織った、両手で自分のトレイを持ったヴァイスが通りかかったのだ。

 どうやら彼も昼食を終えたばかりの様で、トレイの上にある食器は全て空になっていた。

「あ、ヴァイス陸曹」

 別の事を考えていて、少しだけ上の空であったスバルが驚いた様に目を見開く。

「ていうか、これは盛り過ぎだろ……いつも完食はしてるって聞いちゃいるが」

 丸テーブルの中央を陣取るナポリタンの“山”を見て、引き攣った笑みを浮かべるヴァイス。

 その見ているだけで食欲が失せそうな盛り方に、既に食事を済ませていた彼の胃が更に縮まった。

「皆~朝の訓練で疲れてなぁい? お、ヴァイス陸曹だ。おはようございます」

「おう。おはよう」

 ヴァイスが話に聞いていたスバルとエリオの胃袋に若干引いていると、唐突に後ろから通信主任兼メカニックのシャリオ・フィニーノが、眼鏡越しに人懐っこい笑みを浮かべて現れた。

 休憩中とは言っても業務時間内なので、統一された挨拶を交わす二人。どちらも人当たりの良い性格なので、醸し出される空気も和気藹々としている。

 スバルが(あれ? シャーリーさんって、さっきまで食堂に居たっけ?)と首を捻るが、よく見ると彼女が持っているトレイの皿には、まだカウンターで盛り付けしたばかりの料理が乗せられており、どうやらこれから昼食に入る様であった。

「あれ? シャーリーさんは、今からですか?」

 それに気づいたキャロが、珍しいと彼女に聞く。

「そうなの。朝の訓練があるからっていってフェイト隊長が抜けた後も、昨日の事件について調査をしてたんだけど、八神部隊長とリイン曹長が外回りに行くっていうから、さっき御見送りしてきたの……仮眠は取ってたんだけど、ほぼ徹夜でテンションが可笑しなことになってるんだ~」

 彼女の言葉通り、目元には化粧で誤魔化しているのか、薄らと隈の様なものが見え隠れしている。

 まだ十代だというのに、昨日から今まで眠気を我慢して無理をしてきたのであろう……そんな彼女は、キャロの問いに答えつつも辺りを見回していた。

 フォワードの三人も、彼女の目線に釣られて辺りを見回してみると、現在の食堂には余っている席が無いという事が分かった。

 休憩時間も中頃を過ぎていると言うのに、入れ代わり立ち代わりで席が埋まっているのは、たぶん昨日の事件によって、皆のリズムがバラバラになっているのが原因だと考えられる。

 そうと分かれば話は早い。

「シャーリーさん、ここ空いてますけど座ります?」

 スバルがさっきまでティアナの席であった場所を、左手で引き出した。

 これにシャーリーも断る理由がなく「ありがとうね♪」と、過剰なまでにわざとらしいウインク混じりで好意に甘えた。どうやら、本当に“ハイ”になっている様であった。

「あれ? そういえばティアナとアルファードは?」

 トレイを置き席について早々、彼女が不思議そうに丸テーブルを囲むスバル達を見る。

「あはは……もう食べ終わって戻っちゃいました」

 片手で後頭部を掻きながら、困った笑みを浮かべるスバルに、何となく状況を察したシャーリーは「なるほどねぇ」と、細い顎に人差し指と親指を添えて大きく頷く。

「なるほどねって、なんだよ?」

 まだトレイを持ったまま立っていたヴァイスが、後ろから彼女に問いかける。

 彼女は、それに振り返りもせずに、確信めいた声音で答えた。

「いつも通りって事ですよ。ティアナが不機嫌そうにして、アルファードはそれに気づいても気にも留めない。それで、あまり量を食べないティアナが先に帰っちゃって、アルファードも食べ終わっちゃって……これで、今の状態の出来上がりって事でしょ? あってる?」

 片眉を上げて、眼鏡越しの瞳を光らせるシャーリーに、スバルは溜息を吐きながら頷いた。

「はい、その通りです」

「なんだよ。そこまで酷いのか? あの二人って」

「そうなんですよ~。ティアナもティアナで、もうアルファードの事が気に入らないっていうのを隠そうともしてませんし、アルファードも、そんなものは知ったこっちゃないって感じの態度ですし」

「ふ~ん。見たところ、ティアナは確りしてそうだし、アルファードは真面目野郎そのものなんだから、気が合いそうなもんなんだがな」

 分からないと顔で語りながら、徐に食堂出入り口の方を見るヴァイス。

 既にティアナとアルファードは、自分達が普段待機所としても使っている仕事場へと戻っており、そこには他の者達が出入りしているだけであった。

「まあ、そんなものですよ、子供なんて」

「俺からしてみれば、お前も十分子供なんだがな……と、そうだ。俺もヘリの整備終わってなかったんだった」

 悟ったように語る、いつもよりハイなシャーリーに対して気の毒に思う所もあったが、そろそろ持ち場に戻って作業を行わなければ、昨日から続く業務時間に残業が発生しかねないので、ヴァイスは急いで持っていたトレイをカウンターに戻しに行った。

 その後ろ姿を楽しそうに眺めるシャーリー。

「いや~、ヴァイス陸曹も大変だね~」

 変に気分が上擦っているせいか、そう言いながら自分が持ってきた昼食に手を付け始めるシャーリーであったが、よそ見をしながらであったために、右手で持っていたフォークの先は、虚しくも皿の底に突き立てられてしまう。しかし本人は気づいておらず、そのまま何も刺さっていないフォークを口に運んでしまった。

「うん? あはは……何も刺さってないや」

(うわ~、シャーリーさん相当疲れてるんだなぁ)

 その一部始終を隣で見ていたスバルも、流石に苦笑いを浮かべてしまった。またエリオとキャロは、どうしていいのか分からないといった様子でオロオロとしている。

 昨日の事件の影響で、普段は何の苦労も感じなさそうな彼女ですら、この状態なのだ……つまり、さっきまで一緒に訓練をしてくれていた隊長・副隊長陣も、同じように疲れていた筈だ。

 なのに、いつもと変わらず声を張って、自分達を指導してくれていた。

 これは、夜に待っている訓練も気合を入れなきゃな……と、スバルが気持ちを入れ直して、中央のナポリタンの皿に置いてあるトングに手を伸ばそうとすると。

「で? スバルは、そろそろ教えてくれないのかな~? なんで、あの二人の仲が悪いのか」

「うえ!? いきなり、どうしたんですかシャーリーさん?」

 突然、眠気や疲労に頭をやられていたシャーリーが、意地悪な笑みを口元に見せながら、こちらにフォークの先を向けてきた。

 不意を突かれた形で聞かれたスバルは、一瞬ビクリと身を跳ねさせてシャーリーに視線を向ける。

「いきなりって、別にいきなりでも無いでしょ? ずっと気になってたのよ。前に聞いた時は、結局大雑把な答えしか返ってこなかったし」

「大雑把って……」

 そろそろ瞼も重くなってきたのか、目が座ってしまっているシャーリーは、不満そうにスバルに向けたフォークの先をグルグルと回している。

「大雑把でしょ? えっと、なんだっけ……ああ、そうそう。確か、訓練校ではティアナとアルファードが直接話したのって、実は一回しか無くて、それが何だかわからないけど喧嘩に発展したって話だったわね。私が聞いてるのは、その喧嘩になった理由よ」

「喧嘩になった理由ですか……う~ん」

 どうなの? どうなの!?――――と、徹夜明けの勢い任せに攻めてくるシャーリー。

 確かに話してしまっても構わない事ではあるのだが……どうしようかと、エリオとキャロに助け舟を期待するも、何故か彼らも興味津々といったふうに、こちらへと真剣な眼差しを向けている。

 まあ気持ちは分からないでも無い、同じ分隊の仲間同士の仲が悪いなど、他のメンバーとしては放っておけないのは当たり前だ。

 しかし、本人の了承なしに話してしまっても良いのだろうか?

 あの時、アルファードにちょっとだけ辛い事を言われたのは、スバル自身であるのだが……。

 シャーリーに言い寄られ、エリオとキャロの視線に煽られていたスバルが、暫く戸惑いながらも考えていると。

「……分かりました、話します」

 何事も、始めようと思わなければ始まらないと思い立ち、とりあえずシャーリー達に、ティアナと自分、そしてアルファードの間に何があったのかを話す事にしたのであった。

 

 ◆(1)

 

 あれは陸士訓練校に入学してから暫く経ってからあった、一期試験の後でした。

 その日は、午前に予め決められていた組が別れて個別スキルの試験があったんです。私はベルカ式の皆と一緒に、ティアはミッド式の皆と一緒に教官の前で、それまで訓練してきた内容の試験をしていました。

 予め決められてた組っていうのは、入学した後にすぐ部屋割りも一緒にさせらるやつだったから、ティアとは初めから卒業まで一緒だったんですよ。

 最初は、私が色々とティアの足を引っ張っちゃって迷惑をかけてましたけど、その一期試験の頃には校内でも4位の成績になってたし、周りからは“凸凹コンビ”とか“また32番か……”とか言われてましたね。

 え?――――あぁ、32番ていうのは私たちの組番で、大抵ティアと何かしてると、どこから聞こえてきたんですよ。

 まあ要するに、その頃にはもう、私とティアもお互いに信頼できる仲になってたって事です。自分で言うのも、なんだか恥ずかしいですけどね。えへへ……。

 午前の試験が終わると、昼休憩を挟んで午後の試験に移りました。

 内容はペアのコンビネーション関連で、最後には二対二の模擬戦まで用意されてる、結構本格的なものでした。

 私とティアも、障害物を避けてフラッグで陣形を展開するラン&シフトとかは、かなり練習していたのでタイムだけなら参加組の内2位って感じで、中々いい成績を残したんですよ?

 タイム1位はどこ?――――それはアルの組だったよ。アルの組は、基本的にアルが先頭を切って、ペアの子が一生懸命に着いてくって感じだったから、タイムだけならティアのスピードに合わせてた私たちよりも上だったんだ。でも、総合ではアルの独断専行もあったから2位になってて、私たちが1位に繰り上がったんだけどね。

 で、粗方の試験が終わって、遂に模擬戦だ! どんな組が相手でも頑張ろうって、二人で気合入れてたんだけど、その相手がアルの組だったんですよ。

 アルと組んだ子って、それまでの間に2人も自主退学しちゃってて、連携に至っては参加組でも最悪に近い状態だったんですけど、それでもアル自身の能力が高かったから、皆の予想じゃ私たちが負けるんじゃないかって言われてたんです。

 なんで2人もって……それは、その……簡単に言ったら、アルが凄すぎたって感じかな。

 確かに私やティアみたいな性格だったら、頑張って着いて行こうとか、なにくそっとか思うんだろうけど……アルって基本的に、組んだ子達に対して無関心だったから、足を引っ張ってても何も言わないんだ、本当に何も。だから、辞めてった子達は、自分で自分を追い詰めちゃったのかもしれません。

 そんな状態のアルと、私たちが実際に模擬戦をやったんです。

 結果は私たちの負け……最初に、アルを私が抑えようとしたんですけど、簡単に抜かれちゃって、逆に後ろにいたペアの子に足止めを喰らっちゃったんです。

 ペアの子を行動不能にするまで、あまり時間は掛からなかったんですけど、その間にティアナがやられちゃってて、そこからは私とアルの一騎打ち……絶対に勝ってやるって思ってたんですけど、簡単にやられちゃいました。

 今やれば、また結果が変わってたと思うんですけど、あの時のアルは近接(クロスレンジ)に滅法強かったから、まだ体が出来上がってなかった私じゃ相手にもならなかった。

 模擬戦が終わった後、私はアルの所にいったんです。

 礼に始まり礼に終わる……格闘技をやってれば当たり前の事で、相手をしてくれた人に勝っても負けても一回は顔を見せに行くんです。

 アルと直接話したのは、それが初めてでした。

『お疲れ様でした! あの私、スバル・ナカジマっていいます! 今日はありがとうございました!』

 何だか出待ちって感じになってましたけど、丁度アルが男子用更衣室から出て来たところで、私とティアは彼に会ったんです。

 ドアを開けて、いきなり大きい声を聴いたからか、一瞬アルも足を止めて私の事を見てましたが、すぐに何事も無かったって顔に戻ってました。

『こちらこそ、良い経験になった』

 言葉数も表情の変化も少ないですけど、いま思えばアルなりに柔らかく返したんだと思います。

 私を見た後、アルは次にティアの方に目を向けてました。

『そっちは怪我は無いのか?』

『お生憎様。それなりに身体は鍛えてるのよ』

 そういうティアの顎先は、多分アルにやられたんだと思うけど、肌の色に近い絆創膏が貼られてて、あまり恰好が付かなかったんだよね……後で聞いたけど、肋骨にも罅があったみたいだし、結構やられてたみたい。

 あぁ、私は軽い脳震盪と腹部に二か所の打撲で済んだんだ。

 言うほど軽くない?

 ううん。その前にも後にも、実戦的な模擬戦はあったんだけど、アルとやった人たちで私たちより軽かったっていう人はいなかったんだ。まあ、私たちの場合は、それ以降、怪我も無しでいけるようになったんだけどね。

 こんな感じで、アルとの初めての会話は進んでったんだけど……確か、私がアルの進路を聞いた時かな?

 アルは即答で首都防衛隊って返してたけど、ティアがちょっと不思議に思ったみたいで……。

『あんたの成績なら、本局の武装隊にだっていけるでしょ? なんで地上に拘るのよ?』

 ティアはもともと航空武装隊を志望してて、執務官を目標にしてたから、いくら地上本部にとって重要な部隊だからといっても、アルの成績ならもっと上を目指せると思ってたんじゃないかな。

 それに、ティアの言うとおり、アルは入学当初から何で士官学校じゃなくて陸士訓練校に来たのかって、周りから疑問に思われてたんです。

 成績優秀、実技に関しては初めから、もう現場に出ても問題ないって教官から褒められてたぐらいだから、それも当然の事だったんだ。教官の褒め言葉に関しては、一応『連携には難があるがな』って釘は刺されてたんですけどね。

 そんなティアと私……っていうか、同期の皆の疑問は、やっぱりアルにとっては何の意味も無いものでした。

『本局に興味がないだけだ。守るなら、俺は地上本部を守りたい』

『変わってるわね、あんた』

『よく言われる』

 一言で、アルが本当の事を言ってるのは分かったんだ。

 確かに初めて面と向かって話した相手ではあるけど、その時もアルは今と変わらず、本当に真剣に答えてたんです。

 え? ティアとアルがまともに会話してる?

 あはは……流石に、この時はティアも普通でしたよ?

 ていうか、私から見ても似た者同士って感じで、実際にコンビとか組ませてみたら、結構うまく連携とか取れるんじゃないかなって思うぐらいでしたから。というより、あの時の私のレベルだったら、ティアとアルが組んだ方が良い成績を収めてたかもしれません……悔しいですけどね。

 でも、良い雰囲気もそこまででした……。

 場の空気が変わったのは、アルが私に“何を目指してるのか”って聞いてきたときです。

 私は当然、災害担当で救助に直接関われる部隊に就きたいって言ったんです。

 それは、なのはさんに憧れた時から考えてた事だし、迷いは無かったんだ……だけど、アルにとっては意外だったみたいで。

『そうか、だが君の様な性格で救助活動など出来るのか?』

 初め聞かれた時は、え……って、まともな声が出ませんでした。

 多分、その時は後ろにいたティアも面を喰らっていたのかもしれません。

 アルは、そんな私たち二人の反応なんて知らないかのように、ただ淡々と続けました。

『火災現場や洪水もそうだ。命の現場にいる限り、確実に迫られるのが選択だ。君は、もしその場に二人の要救助者がいるとして、こちらは周りの状況が酷いせいで一人しか運べない、どちらかは応急処置をすれば高い確率で助かる可能性があり、またどちらかは至急専門的な治療を受けなければ助かる見込みがないといった場合、助け出すべき一人を冷静に選べるのか?』

 諭す……違うかな。

 たぶんアルは普段通り、当たり前の事を聞いただけだったのかもしれません。

 それでも、あの時の私は答えられなかったんです。

 確かに、アルの言っていた事は救助隊では当たり前で、一番身に着けなければならない考え方でした。

 火災現場じゃ助かる可能性の高い人間から救助し、一人じゃ動けない人は後回しにしなくちゃならない……でないと、本来なら助かる可能性が高かった人が逆に命を落としてしまう危険性があるから。

 更に言っちゃえば、瓦礫に足とか挟まれていた人がいたら、最悪の場合その足を切断して救助しなくちゃならない時だってあるって、先輩から聞いた事があるんです。

 あの時の私に、その選択をする覚悟があったのかって言うと、たぶん無かったんだと思います。だから、アルから聞かれた事に、私は全く答える事が出来なかった。

 いつまでも口籠って、何も答えを出せないでいる私に、アルはもう、それは容赦なく言い放ったんです。

『ここで答えが出せない時点で、君は救助隊には向いていない。諦めて、その恵まれた才能を活かせる武装隊を目指した方が良い。そうすれば、相手をするのは“管理局にとっての悪人”だ』

 理解が出来ませんでした……面と向かって、人の目標に対して“向いていない”なんてハッキリと言える人を見たのは初めてでしたから。

 怒る事も、泣く事も出来ません。だって、ただただ目の前が真っ暗になってたから……。

 普段の私なら、他人に何て言われようと関係ないって思えたかもしれません。だけど、それを言ったのは私よりも遥かに強い人で、私よりも勉強してた人で……説得力って言うのかな? 違かったんです、そういうのが。

 何も返せなかった私の代わりに怒ってくれたのが、後ろで聞いていたティアでした。

『アンタね! まだ一回しかまともに喋ってない相手に、そんな事がよく言えるわね!』

 アルを凄く睨みつけて、一緒の部屋で生活してた私ですら初めて聞いた、ティアの本気の怒鳴り声。

 それを向けられたアルよりも、私が思わずビックリしちゃったぐらいに怖かったです。

『俺は俺なりに、彼女が救助隊には向いていないと感じただけだ。別に、君が怒る事では無い』

 ホントに一切表情を変えずに、憤りを見せるティアと向き合うアル……板挟みになってた私は、なんだか借りてきた猫みたいに、どうしたらいいのか迷ったまま二人を見ていました。

『なら、向いてる向いてないなんて、アンタが決める事じゃないでしょ! 大体、アンタだってまだ現場に出てないのに、なに偉そうに言ってんのよ! この子に言った事、訂正してよ!』

『別に訂正をするつもりはない。俺がどうこう言おうと、最終的に判断するのは彼女だ。それと現場を知っていれば良いと言う理屈なら、俺は君よりも火事場には精通している』

 次第にヒートアップしていくティアに、困った様子でしたが、自分の考えを曲げようとしないアル。

 傍目から見れば対照的でしたが、我の強い二人の言い合いは、何だかテンポが良くて……いま思えば、本当に二人のリズムは合っているのかもしれませんね。

 そうこうしていると、騒ぎを聞きつけた教官たちが、物凄い勢いで廊下を走ってきました。

 私たちが口喧嘩をしてたのは、男子更衣室からすぐ出たところの廊下だったので、たぶん模擬戦を終えた他の組の人たちが呼んでいたのかもしれません。実際に、二人の男性教官の後ろには、顔に痣を作った同期の人が二人ついてきていましたから。

 教官たちが駆けつけてくれた事によって、まずはアルが姿勢を正して、次に私がティアを宥めようとしました。ティアはまだ納得がいかない様子でしたが、教官たちの姿を見つけるとアルを睨んだまま、悔しそうにしながら口を紡いでいました。

 結局、アルとの話はそこで終しまいって感じで、私たち三人はその後、騒ぎを起こした罰として其々にペナルティを与えられちゃったんですけどね。

 

 ◆(2)

 

「ふ~ん……そういう事だったのね」

「はい。だけど私は、別にもう気にしてないですし、アルとは仲良くやって行きたいと思ってます。だから、ティアにもアルと何とか話をして欲しいと思ってるんですが……あはは、これが上手くいかなくて」

 食堂のカウンターで自らが盛り付けしたサラダをフォークで口に運びながら、シャーリーが納得したように頷くと、話し終えたスバルは頬を掻きながら、苦笑に似た笑みを浮かべていた。

「アルファードが言ってる事も分かるには分かるけど、確かにティアナの言うとおり、あの子が言うべき事でも無いのよね。どっちの肩を持つとか、そういうのじゃないけど、ここはアルファードがちゃんとスバルとティアナに謝るべきね……そうしないと、いつまでも二人の関係は悪いままになっちゃうし」

 一件簡単そうに見えても、実は難しい年頃男女の問題。

 これが甘酸っぱい恋愛話なら、いくらでもやっていろと言えるのだが、事がスバルという一人の少女を挟んだ口喧嘩であったがために、それしかシャーリーでも解決させる方法が浮かばなかった。

 更に言えば、二人とも見るからに頑固そうな性格であるために、シャーリーが出した解決案が簡単に出来るとも思えない……いや、おそらく今の状態では不可能と言える。

 何故なら、まずティアナがアルファードと向き合おうともしなければ、アルファードもティアナやスバルに対して“仲間”という意識を持っていないからだ。持っているとすれば“仕事仲間”程度のもので、本当の意味での信頼関係は構築される気配すらない。

 昼食を進める手は動いているが、中々頭が回らないシャーリーとティアナ。

 すると、これまで黙って話を聞いていたキャロが、傍らに座っているフリードの頭を撫でながら口を開いた。

「あの、それでしたら一度、今度のオフにティアナさんとアルファードさんを一緒にしてみたらどうでしょうか?」

「「え?」」

 突然キャロから出された提案に、スバルとシャーリーが思わず声を合わせる。

「一緒にすると言っても、私たちも一緒に出掛けて、なるだけお二人が喧嘩しないように見守るだけなんですけど……やっぱり、それも無理そうですか?」

 エリオも含めた三人から、一斉に視線を向けられたキャロは、少々自信なさげに声を萎めていってしまう……が、彼女からもたらされたヒントに、シャーリーの頭の中で何かが弾けた。

「それよ! その手があったわ!」

「うわっ、ビックリした……」

 両手でバンッとテーブルを叩き、勢いに任せて椅子から立ち上がったシャーリーに、スバル達は目を丸くさせていた。

 しかし、そんな皆からの視線など徹夜明けの人間には何ら影響もない。

「あ~なんで、この私ともあろうものが、そんな簡単な事を失念してたんだろう……これも老いってやつかしらね」

「いや、シャーリーさんはまだ10代じゃないですか……」

 そんな事を言ってしまったら、隊長たちはどうなるんだろう……というスバルの心の声は、外に出る事無く胸の内にそっと仕舞われていた。

 天井を仰ぎ見ながら、憂いげな表情を真新しい照明器具に向けていたシャーリーは、立った時の勢いが嘘なくらいに力なく椅子へと腰を下ろした。

「でも、そうと決まればこうしちゃいられないわね!」

 何が決まったのか分からないが、そう覇気を取り戻しながら言い放ったシャーリーは、うら若き乙女とは思えないガツ食いで、自分が盛り付けた昼食を胃袋の中に放り込むと「ごちそうさま!」と手を合わせて、そのまま嵐の様に食堂を去って行った。

 去っていく彼女の後ろ姿を茫然と眺めていた三人であったが、ふとキャロが時間を見ると、昼休憩終了まであと15分程度しかなかったために、急いで残っていたナポリタンの山をスバルとエリオで片付け、何とか間に合ってくださいと祈りながら午後の仕事へと移るのであった。

 

 ◆(3)

 

 利き腕である右腕が動かせないながらも、特に生活には支障がないアルファードは、個別訓練を行っている他のメンバーとは違い、朝と同じメニューを夜訓練で熟した後、昼前同様にシャワーを浴び、いまは割り当てられた寮の部屋で自由な時間を過ごしていた。

 寮とは言っても、六課の隊舎からそこまで離れている訳でも無く、有事の際はすぐにでも駆けつけられるシステムが構築されているため、あまり普通の人間にとっては寛げる空間では無い。が、慣れている者にとっては、そういった自宅が近くにあるというだけでも恵まれていると感じているそうだ。

 現にアルファードも、予め部屋に備え付けられていたベッドに腰掛けながら、珍しくリラックスした様子で自分のデバイスの具合をチェックしていた。

(カートリッジの残弾数には問題は無い。バリアジャケットの自動展開速度にも変化は見られない。魔力伝導率は……これも問題はなさそうだ)

 ベッドのマットに体重を預け、手前に花瓶でも乗せられそうな丸テーブルを持って来て、その上に自身の待機状態になっているデバイスを置いて作業をしているアルファードは、中々に慣れた手つきで目の前に展開させている空間モニターを操作していく。

 基本的に、最低限のメンテナンスなら自分で出来てしまう彼は、定期的にこうしてデバイスの状態を確認しているのだ。また、今回の場合は前日に激しい戦闘を行ったために、普段はあまり目を通す必要のない項目にまで注意を配っている様であった。

 冷蔵庫や洗濯機の様な最低限の物しか置かれていない、彼の部屋は殺伐とした雰囲気を醸し出しており、まだシャッターを閉じていない窓から見える、暗い外の様子が更に静かな光景を演出している。

 壁紙は明るい色彩な筈なのに、アルファードが空間モニターのキーを叩く電子音以外に雑音が存在していない。

 静寂……アルファードは、まさに夜の静けさを室内だというのに完璧に表していた。

 彼のアームドデバイス“エクスキューション”の待機状態はメンズファッションとしても使えそうな、リングネックレス型を取っていて、スバル達が扱う様うなAIがあるデバイスとは違って、一切機械的な音声を発しようとはしていない。

 それもその筈……彼にとってデバイスというのは一種の武器であり、そこに自分以外の思考が介在する事は不自然であると考えているために、開発者にAIの搭載は最低限でいいと自己申告していたのだ。

 確かにアルファードもインテリジェントデバイスの様に、魔導師の相棒の様な存在も便利だとは考えているのだが、それでも“昔からの考え”故に自分で扱おうとは思えないのだ。

 暫く、彼は部屋の隅に設置されたベッドに腰掛けたまま、念入りにデバイスのチェックを行っていく。

 問題があれば、すぐにでも対処し、自分の手に余る様であれば開発者に連絡を取るつもりであったが、しかして彼の作業を遮る様に、傍らに置いてあった携帯端末からデフォルトの着信音が流れ始めた。

 彼は、その白いシーツの上に置いていた折り畳み式の携帯端末を手に取ると、すぐさま誰から来たのかを確認するためにディスプレイを開き、通話ボタンを押して耳元にそれを当てた。

「お久しぶりです、プロナード・キャバリエ陸曹長」

 ディスプレイに表示されていた名前を見ても、一切表情を崩さなかったアルファードは、やはり無表情の仏頂面のまま、携帯端末の向こう側にいる人物に対して普段通りの口調で答えた。

 すると彼の耳元に、電話越しだというのに一発で不健康だと分かる、気怠そうな声が聞こえてきた。

『よう……元気にしてたか? うん? お前のキャリーさんだぞ~キャハハハ』

 笑っている……筈なのに、電話越しの相手の声音に抑揚は無い。

 知っている者でなければ、幽霊を模した悪戯電話かと勘違いしそうな女性の声であったが、慣れているアルファードには特に問題も無い。

「はい、お蔭様で体調は崩しておりません。それで、ご用件はなんでしょうか?」

『おいおい……5歳離れたお姉さんからの電話だぞ~? もうちょっと、何かないのか~……』

「いえ、特には」

 不満そうな言葉……だが、やはり声音に抑揚は無い。が、もともとアルファードが気軽な冗談に乗れるほど柔らかい人間では無いと知っていた彼女は、もういいと諦めた様に案外すんなりと本題に入った。

『まあ、お前がそういう奴だとは理解しているから、私も執拗にはしないがな……。とまあ、ふざけるのはここまでにして……昨日、出動があったのだろう? ご苦労な事に、お前の部隊のデバイスマスターから、わざわざ報告書が送られてきたんだ』

 デバイスマスターというのは、デバイスの管理や制作を行える資格の事であり、自分でキャリーと名乗った彼女が言う人物は、おそらくメカニックのシャリオ・フィニーノ一等陸士だとアルファードは当たりを着けた。

『で? 私からお前に送った“玩具”の具合はどうなんだ? 性能には問題は無いと思うが、実戦での使い勝手はどうだった? あぁ、それと実戦でのデータは貴重だからな、今から私宛に送れ。間違っても部隊宛に送るなよ?』

「了解しました。では今から送らせて頂きます」

 彼女からの指示を、すぐさま実行に移した彼は、携帯端末を左肩と左耳で挟み込むと、そのまま左手で空間モニターを操作し、赤く点滅しだした決定キーを押した。

 すると、昨日の戦闘データを全て送信するために、空間モニターにどれだけ進んでいるのかのパーセンテージが表示され始めた。

 見たところ、送信完了まで時間が掛かりそうだったので、彼は左手で携帯端末を持ち直して話を続けた。

「ただいま送信中ですので、もう少々お待ちください」

『それで? 私の質問に答えていないぞ?』

「失礼いたしました。デバイスの性能には問題はありません。集束系の魔法を使用するまでの時間も、前に扱っていたデバイスより確実に向上しています。問題があるとすれば、性能を活かし切れていない自分にあると考えています」

『そうか、それなら別にいい……が、そんな事は聞いていない。お前の問題は、お前が解決すべきものだ、私に話すな』

「申し訳ございません。以後、気を付けます」

 相手が目の前にいないというのに、目を伏せて頭を下げるアルファード。

 そうこうしていると、目の前の空間モニターに表示されていたパーセンテージが100を示し、電話越しのキャリーの下へと昨日の戦闘データの送信を完了させた様であった。

『お、きたきた……なるほど、それなりに扱えているじゃないか。リミッターを掛けているというのに、中々やるな……ほう、第一段階の出力限界に近い魔力を行使したのだな。相手はそれだけ手強かったという事か……うん? なんだ、カートリッジを全然使ってないじゃないか。何のために私が予備弾倉も送っていると思っているのだ……次からはもっと盛大に使え』

 おそらく彼女の事だ、送られてきたデータを常人では真似できないスピードで目に入れて、そして理解しているのであろう……証拠に、先程から一方的にぶつぶつと喋りつづけている。

『ふむふむ、相手の攻撃にバリアジャケットが耐え切れなかったのか……なら、もう少し魔力をそちらに振ってみるか? いや、残念だがお前の魔力総量はそこまで多くは無いからな、これが今のところの限界か……待てよ? 定期的にカートリッジを使用させれば、それも一時的に補えるか。いやだが、それでは負担が……構わんか。作戦時間だけの辛抱だ、お前なら耐えられる筈だ』

 何やら不吉な事を口走っているキャリーであったが、アルファードは特に口を挟もうとはせず、ただ黙して彼女が満足するのを待っていた。

 彼は、彼女が地上本部でも有数な技能を持つデバイスマスターだと知っている……故に、下手に意見を挟むべきでは無いと決めているのだ。

 そして、体感時間にして大体12分の時が経つと、ようやく彼女が自分の思考世界から帰ってきた。

『さて、一通り読み終えては見たが……とりあえず今度、私の所まで来い。少しお前のデバイスを調整する必要が出て来たからな。次のオフに必ず来い、アポはいらん、受付にお前の名前だけ伝えておけ。そうすれば会えるようにはしといてやる』

「了解しました」

 こちらの意思など関係ないとばかりに、さっきまでと同様、一方的に言い放つキャリーに、アルファードは一切反論しない。

 上の階級である彼女に反論をしようとも思えないし、したところで無駄だと分かっているからだ。

 すると、言うだけ言った彼女は、相変わらず不健康そうな抑揚の無い声音であるが、満足した様子で電話越しの彼に言葉を続けた。

『私からは以上だ。今日は疲れたんだろ? 声で分かるぞ。私にとって睡眠ほど人生を無駄にしている時間は無いのだが、武装隊のお前にとっては大事な仕事でもある。今日は早く寝ておけ……緊急の出動があったとしても、別に気にする事は無い』

「いえ、それは……」

『冗談だ、何を真に受けている……? 出動があったら、今度はカートリッジを弾切れになるまで使え。それで、どれだけお前のリンカーコアに負担がかかるのか、データが取りたいていうか取らせろ。いいな?』

「はっ、了解しました」

 電話越しに問われたアルファードは、無意識の内に背筋の姿勢を正して答えた。

『そろそろ私は新しい研究に戻らせてもらう。これが成功しデバイスとして完成すれば、きっと愉快な事になる。だから楽しみにしておけ……ではな』

「はっ、お疲れ様でした。では」

 耳元に当てた携帯端末の部分から、キャリーが電話を切った電子音が聞こえてくると、アルファードもまた停止ボタンを押し、左手に持っていたそれをベッドの上に置いた。

 相変わらず掴みどころの無い方だと、耳元が静まっていくのを感じながら、しみじみと思うアルファード。

 彼女は自身のデバイスを手掛けてくれた人物であり、地上本部でも一目置かれたデバイス技師でもある……が、その性格と作成するデバイスの偏り方から、周りからは奇人扱いされているらしく、わざわざ彼女にデバイスの制作を依頼する者はいないとされている。

 それでも彼女の腕は確かであるために、現場に出ず、ましてや一般的な事務仕事もしていないにも関わらず、それなりの階級を与えられているのだ。

 そんな彼女に、アルファードが眼を着けられたのは首都防衛隊に入隊してすぐの事で、いまでも思い出そうと思えば、すぐに情景が浮かび上がるほどに鮮烈な出会いを二人は経ていた。が、それは語るほどの話でも無く、ただたんに皆の前で新人として挨拶をしていたアルファードに、彼女は突然整列していた列から離れて近づき、彼の首筋に噛み付いた後『お前は私の玩具だ』と、強引に宣言しただけの事だ。

 デバイスのチェックが粗方終わったアルファードは、とりあえずキャリーに言われた通り、怪我と疲労の回復のために睡眠を取ろうと、無地の黒いTシャツとトランクス一丁の格好のままベッドの上に寝転がり、枕元に置いてあった照明用のリモコンを取り出した。

 見上げれば眩しいほどに光を放っていた照明が、リモコンに付いているボタン一つで部屋を暗闇に染めてしまう。

 夜の暗さと、部屋の暗さが混じり合う中、彼はゆっくりと瞼を閉じ、静かに睡魔へと身を委ねて行くのであった。

 




 実は、今回の話はかなり書き直しています。
 没になったシーンは五つに上ります……本当に精神的に来ました。

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