皆さん、お久しぶりです、ゲレゲレです。
無事、消防試験に合格して帰ってまいりました。
随分と長い間、この二次小説を放置していたのですがお気に入り件数もほとんど変わらず、読んでくださっている数少ない方々が、予想外にも待っていてくれたことを勝手に感謝しています。
久しぶりの執筆という事で、色々と中途半端な手応えしか感じられないのですが、一応区切れるところまで書けたので、ためにし更新してみました。
何か間違っている所があれば、指摘してもらえると嬉しいです。
また、もう開き直って原作通りの台詞ばかり使うのは止めました……まあ、一部引用って感じになってますがね。
基本的に原作通りがモットーなので、こればかりは完全に無視できないんですわ。
陸士108部隊隊舎……ミッドチルダ西部に拠点を置く部隊で、英字略称として現場ではよく“GAS-B108”と呼ばれている。
機動六課の様な遺失物を管理する特殊な任務では無く、密輸ルートの捜索やそれに関与したグループの割り出し・逮捕などを得意としており、組織犯罪を取り締まる部隊として知られている。
豊かな緑に囲まれながらも隊舎の敷地内は訓練場や車・輸送ヘリなどを収容するガレージなどが設置されており、隊員たちにとって恵まれた施設といえる外観をしていた。
隊舎は三階建て鉄筋コンクリート造の建物で、隊員たちは普段からここで当直任務や事務仕事などを行っている。
そして今、その隊舎の部隊長室では、同隊の部隊長ゲンヤ・ナガシマ陸上三佐と、機動六課部隊長八神はやて一等陸佐が一つのテーブルを挟んで、其々横長のソファーに腰かけていた。
「新部隊、なかなか調子いいみたいじゃねえか」
ゲンヤ・ナカジマ陸上三佐は、白いスラックスにカーキ色のジャケットを着こなし、肉付きの良い体格をした白髪の人物なのであるが、その顔に刻まれた皺と浮き出た頬骨が階級に見合った年季を醸し出していた。
しかし彼には目の前にいる八神はやての様な魔力資質は無い……だが身に纏った雰囲気や、少しだけ目尻の下がった眼から感じられる勇ましさは、例え魔導師でなくとも現役隊員として十分に活躍できる力強さを示していた。
また、彼は“ナガシマ”というミッドチルダでは珍しい苗字にある通り、機動六課フォワード陣にいるスバル・ナガシマとは親子関係にある。
「そうですね。今のところは」
カーキ色の制服に白のストッキングを履いた八神はやては、上官である彼を前にしているとしても随分と落ち着いた様子で、腿の上に両手を乗せて微笑みを見せた。
「だがまあ、一発目の出動で出す損害にしちゃあ、随分と派手にやらかしたみたいだがな」
そんな彼女が面白くなかったのか、ゲンヤ・ナガシマは意地悪に口元を歪める。
「あはは……まあ、それは触れないでくれると助かります」
彼に痛いところを突かれたはやては、今しがたまでの余裕を早々に崩し、困ったように笑いながら頬を掻く。
「しかし、今日はどうした? 古巣の様子を見にわざわざ来るほど暇でもねえだろうに」
軽口を叩きながらも、どこか嬉しそうに彼女を見るゲンヤ・ナガシマはテーブルに置いてあった湯飲みを手に取り、それに注いであったお茶を一口啜る。
「えへへ。愛弟子から師匠への、ちょっとしたお願いです」
自ら愛弟子と名乗ったはやては、少しだけ甘えた声で師匠である彼に上目を向ける。
「いまや若手の中でも出世頭と呼ばれてるお前が、俺にお願い事か? なんだよ言ってみろ」
湯呑をテーブルに置き、背もたれに体を預けてはやてを見る。
彼が快く聞く体勢に入ると、はやても早速本題に入ろうと口を開きかけた……すると、部隊長室の自動扉が横にスライドし、外の廊下から一人の女性とリインⅡ空曹長が部屋の中へ足を踏み入れた。
「失礼します」
この声にはやてが振り返り、ゲンヤ・ナガシマが眼を入り口の方へと向ける。
「ギンガ、久しぶりやなぁ」
「八神二佐、お久しぶりです」
宙に浮いているリインの隣に立っているギンガと呼ばれた女性は、腰まで伸びた青紫のストレートロングが特徴的で、ハッキリと見開かれた空色の眼と、緩やかな放物線を描いた眉毛を見れば、十分に美人と言える容姿をしている人物であった。
また彼女もカーキ色の女性用の制服を身に纏っており、女性としてのお洒落として後頭部辺りに髪の色よりも少しだけ濃い色をした大きなリボンを着けている。
そんな彼女は、久しぶりの再会に喜ぶはやてに対して一度微笑むと、リインと共に二人が座っていたソファーの横まで足を進めた。
「丁度いい、ギンガ、お前もそこに座れ」
「はい」
部屋へと入ってきたばかりの彼女に、ゲンヤははやての隣に座るように促す。
ゲンヤに言われた通り、自分よりも小柄なはやての隣に腰掛けるギンガ。
「久しぶりに会って話したいこともあるだろうが、八神、とりあえず本題に入ってくれねえか?」
「分かりました。じゃあ、これを見てくれますか」
そう言うと、はやては対面式のソファーの横、自身の左手側に座っているギンガにも見える右手側に空間投影モニターを展開させる。
横に広いモニターの中央に映し出された画像は赤い柱型の宝石、ロストロギアである“レリック”の物だ。
この“レリック”とは超高エネルギー結晶体として認識されており、もしも外部から強い衝撃を受けた場合は周囲一帯を巻き込む大爆発を起こす恐れのあるロストロギアで、先の機動六課初出動の際に確保した物である。
「これは、お前のとこで扱ってるロストロギアか?」
「はい。お願いしたいんは、これの密輸ルートなんです」
「密輸?」
「先日の初出動で確保した際、この“レリック”は貨物列車の他の荷物に紛れて、厳重な封印処置を施された箱の中に保管されてたんです。また、この箱は一つのキャリーケースの中に隠されてました」
「随分と下手な隠し方だな……まあ麻薬や質量兵器とは違うか」
座ったまま二人に目を配っているはやては、空間投影モニターの画面を横にスライドさせ、今度はこの“レリック”が入っていたとされているキャリーケースの輸送ルートが映し出された。
「六課で今のところ分かっているのは、このキャリーケースが通る可能性のあるルートが幾つかあるという事だけです。詳しくは、後でリインがデータを送ります」
いつの間にか画面横に浮いていたリインが、ゲンヤに「この話が終わったら、送らせていただきます」と主であるはやての言葉に付け足した。
「そこまで分かってんなら、まあうちの捜査部を使っても別に構わねえし、密輸ルートの捜査はうちの本業っちゃ本業だ」
そこでゲンヤは一度言葉を切り、テーブルに置いてある湯呑を手に取って一口啜る。
一つ深く息を付き、ゲンヤは湯呑をテーブルの上に戻すと、はやての眼に真っ直ぐ、相手の真意を探る様な視線を向ける。
「八神よ、他の機動部隊や本局捜査部じゃなくて、わざわざうちに来るのは何か理由があるのか?」
この試すような問いかけに、はやては毅然とした態度で答えた。
「密輸ルートの捜査自体は、彼らにも依頼しているのですが、地上の事は、やっぱり地上部隊が一番よく知っていますから」
迷いのない、相手に何も探らせない様な笑みまで浮かべているはやて。
まだ20にもなっていないというのに、この腹の座り様は流石一つの部隊を持っているだけの事はあると、第三者を納得させられるものであった。
「ふむ。まあ、筋は通ってるな……」
一拍の間、ゲンヤは目を瞑り、自身の頭の中で思考を巡らせる。
愛弟子と言っても過言ではない彼女からの頼み以前に、確かにこれは自分たちが受け持っても構わない仕事だ……ましてや、彼女のような人物が身内に対して腹芸を仕掛けてくるとも思えない。
だとしたら、これは彼女の本心から来る頼みごとなのであろう。
甘やかす訳ではないが、特に断る理由も無いゲンヤは、一度はやての隣に座っているギンガに目配せした後、自身で作り出した堅苦しい空気を払拭するかのように溜息をつくと。
「いいだろう、引き受けた」
「ありがとうございます」
ゲンヤから承諾の言葉を受けたはやては、ニッコリとさっきとは違った柔らかい笑顔を浮かべて礼を述べる。
「捜査主任はカルタスで、ギンガはその副官だ。二人とも知った顔だし、ギンガならお前も使いやすいだろ」
「はい。よろしくな、ギンガ」
「よろしくお願いします」
自身の部隊から六課へと送る人員を即決したゲンヤは「そっちは誰が担当してるんだ?」とはやてに尋ねる。
「うちの方はテスタロッサ・ハラオウン執務官が捜査主任になりますから、ギンガもやり易いと思います」
「なるほど。だったら、こいつにも良い刺激になるかもな」
ニヤリと口端を歪めて、はやての隣に座るギンガを見やるゲンヤ。
すると、彼女も嬉しそうに顔を綻ばせた。
「フェイトさんとお仕事をさせてもらうのなら、これは凄く頑張らないといけませんね」
女性らしい容姿とは打って変わって、右手を確りと握って答えるギンガ。
外見の割に、意外とおてんばな面も併せ持っていそうだ。
「それと捜査協力に当たって、ギンガには六課からデバイスを一機プレゼントするですよ」
はやてが展開していた空間投影モニターから離れ、テーブルの上に降り立ったリインは、右手の人差し指を立てて彼女を見上げた。
「デバイスを?」
「スバル用に作った同型機を、ちゃんとギンガ用に調整した物を送る予定です」
「それは凄く嬉しいんですが……いいんでしょうか?」
左手を頬に当て、遠慮というより若干困ったように眉を下げるギンガ。
それを見たリインは、両手を後ろに組んで、気にしなくてもいいと笑顔を見せる。
「大丈夫です♪ 機動力の高いフェイトさんと一緒に行動できるように、ちゃんと立派な機体にするですよ」
「ありがとうございます。リイン曹長」
相手からの厚意を素直に受け取る事にしたギンガは、本当に楽しみといった表情で軽く頭を下げた。
その様子を横目で見ていたはやては、テーブルの上に置いてある湯呑を持って、ゆっくりとお茶を一口だけ喉に通した。
いくら見知った相手だとは言っても、仕事上の頼み事となると多少は喉が渇くもので、承諾が取れた安堵感からか喉を流れていく熱いお茶が妙に心地いい。
はやては湯呑をテーブルに戻し、再びゲンヤへと目線を戻す。
「スバルに続いて、ギンガまでお借りする形になってしもうて、ちょっと心苦しくはあるんですが……」
「なあに、スバルは自分で選んだことだし、ギンガもハラオウンのお嬢と仕事が出来るんだ、別に気にすることはねえよ」
既に足を組み、ソファーの背に片手を回す寛いだ姿勢を取っているゲンヤは軽い口調で答えた。
ちなみに、先に述べたがゲンヤ・ナガシマ陸上三佐はスバルの父であると同時に、実は今現在はやての隣に座っているギンガ・ナガシマの父でもある。
故に、次女のスバルに続いて長女のギンガも借り出してしまう事に、はやては少しだけ悪いことをしたなと思っていたのだが、どうやらそれは彼女の思い違いであったようだ。
実際、愛娘とはいえ捜査官や救助隊の道に進もうとしている彼女たちに対して、ゲンヤは多少砕けているとしても他の隊員と同じ接し方を心がけているし、そんな彼女たちが“あの隊長陣”に揉まれてくるとあれば、むしろこちらから願い出たい所であったのだ。
「しかし、気づけばお前も俺の上官なんだよな……魔導師キャリア組の出世は早いなぁ」
とりあえず話は着いたなと判断したゲンヤは、湯呑に入っていたお茶を飲みきると、外見と相応なしみじみとした様子で愛弟子を見る。
この視線に、はやては困ったように小首を傾げる。
「魔導師の階級なんてただの飾りみたいなものですよ。中央や本局に行ったら、一般士官からも小娘扱いです」
「だろうな。それに、話に聞く限りじゃ厄介な新人が首都防衛隊から来たんだろ?」
飲み干した湯呑をテーブルの上に置き、再びソファーの背もたれに片腕を回すゲンヤの表情が、どこか相手をからかう様な色をしている。
空になった湯呑をギンガがテーブルの中央にある給水ポッドにまで寄せて、おかわりのお茶を注ぐ中、はやては彼からの問いかけに苦笑しながら答えた。
「確かに肩書きやレジアス中将直々の推薦状ってところを見ると、怪しんでくださいって言ってる様なものですが……スカウトしてきたリインから色々聞いた限りじゃ、そういう探り合いは得意そうな子じゃないので、私はそこまで心配はしていません」
「どうだろうな……実際、お前の事を面白くないと思ってる連中は中央には結構いる筈だからな、注意するに越したことはねえんじゃねえのか?」
「肝に銘じておきます」
彼女特有のイントネーションの効いた返事は、心の隅の箪笥の裏にしまっておきます程度のもので、あまり危機感が感じられない。
それもそうだろう……今ゲンヤが話している厄介な新人とはアルファードの事であり、いくらまだ直接は話したことが無いとは言っても、他人からの情報を整理すればスパイや監視活動が得意な人物ではない事ぐらい察することが出来るからだ。
まあ、これまで彼が取っていた行動や言動が全てブラフであったのなら話は別だが……そうした場合は、既に主である彼女のために目を光らせている“守護騎士”たちが報告している筈だ。
確かに分からない点は多々あるが、今はまだ警戒する時ではないために、はやて自身そこまで心配する時期ではないと判断していたのだ。
「まあ、お前がしたいようにすりゃいいさ。一応、ギンガ経由でスバルから大体どんな奴かは俺も聞いてるしな、アイツが信頼してるって事は、悪い奴ではねえのは確かだ」
「ギンガ経由?」
「はい。スバルからよく連絡が来るので、その時に色々と」
「そうか。実際のところスバルはアルファードをどう思うてるん? 身内だからこそ話せることもあるだろうし、そういうのも総部隊長としてある程度は把握しておきたいんやけど……ダメかな?」
裏話的な事が大好物な年頃の女子とは違った目的で新人たちの内情を探ろうとするはやてに、実の妹が通信越しに喋っていた内容は特に後ろめたい事も無いと考えていたギンガは、それを掻い摘んで彼女に教える事にした。
常識的に教えるべきではないのだろうが、相手が信頼に足る人物なので、それは問題ない。
「そうですね……話を聞く限りだと、スバルは彼を随分と気にかけているみたいですね。よくティアナとの仲をどう改善させていけばいいのかとか相談されますし。個人的には彼に対して信頼はしている様ですが、やっぱりそっちが気になるみたいです」
「そうか……う~ん、私も直接話せる機会があれば、アルファードの事が少しでも分かる気がするんやけどなぁ。アドバイスするにしても、そっからやし」
腕を組み、困ったように唸りながら首を傾げるはやて。
本来なら、総部隊長である彼女が前線にいる新人たちに対して直接的な指導をするという事は、分業された組織構成的にあまり必要のない事なのであるが、どうにも性格ゆえに現状の前線メンバーの雰囲気を気にせざる負えない。
それにスカウトの際もリインや他の隊員に任せてしまっていたせいで、アルファードの性格や思想、身体的な特徴や魔法資質の情報などは集められても、人間的な本質の部分はまだ掴みきれていないのだ。
これは、本格的に一度ちゃんと面を合わせて話さないとダメなのであろうかと、はやてが一人で悩んでいると。
「なんだ、それだったら飯でも食いに行けばいいじゃねえか」
体育会系というよりも男性社会人としてのコミュニケーションを心得ているゲンヤが、目まで瞑って唸っていた愛弟子に『何をそんなに難しく考えているんだ』とばかりに軽く言い放った。
これに、はやてが目をカッと見開いて反論する。
「そう簡単にいいますけど、いきなり上官が“一緒にご飯でもどうや!”とか新人に言ったら、逆に恐縮されて楽しむどころじゃないと思うんです。それに隊長たちから話を聞く限り、相当“頭の固い子”みたいですから、逆効果が目に見えてます」
アルファードは地上本部の中でも“タカ派”の多いとされる首都防衛隊出身であり、また上がってくる情報からしても重度の軍人気質を持つ人間だ。
故に、もしも10階級以上も上の人間と食事を共にした場合、十中八九本心を語らないことは火を見るよりも明らかで、またアルファードが置かれている状況上、もしかしたら自分たちが彼の事を警戒しだしたのではないかという疑いが掛けられてしまう危険性すらある。
そうなってしまっては、今よりも更に酷い関係性が築かれてしまうかもしれないのだ。
しかし、ゲンヤはそんな事を気にする方が馬鹿なんだと言外に語るように鼻で笑う。
「ふん、話す前からそれじゃあ時間の無駄だな」
愛弟子が部下に対する接し方で苦悩する様を眺めつつ、ゲンヤは左手首に巻いた腕時計を見やる。
「丁度いい、そんなに悩んでんだったら今から飯でもどうだ? その新人も呼んでよ」
「え? だから無理です。いま理由を言ったばかりじゃないですか」
「無理も何も、その調子じゃいつまでたっても進展はしねえだろ? だったらいっその事、無理矢理に機会を作ればいいんだよ。そうすりゃ嫌でも接することになるからな。リイン、そのアルファードとかいう奴のスケジュールは?」
「えっと……午後は訓練を行って、その後は自由時間になっていますね。でも訓練が終わるのは19:00以降なので、今からと言うのは無理みたいです」
はやて達が展開するものよりも小さな空間投影モニターを開いて、新人フォワード陣のスケジュール表に目を通したリインは、残念そうに眉を垂れさせる。
これにゲンヤは、間が悪いなと公務員の忙しさを理解しているにも関わらず舌打ちをする。
「なんだよそうか……じゃあ八神、次のOFFにでもそいつを誘ってやれ。どうしても気まずいってんなら、他にスバルやギンガを連れて行けばいい」
「……あまり気が進みませんが、まあやってみます」
ソファーから立ち上がったゲンヤに軽く指を差されながら肩を落とすはやては、言葉通り本当に大丈夫かなと不安を覚えつつも、師の様な存在である彼の言葉に押し負けた。
「よし、じゃあギンガも休憩に入って一緒に飯食いに行くぞ」
「はい、父さん」
妹のスバルもそうだが、自身の一家は押しが強いことを理解していたギンガは、この光景を口を綻ばせながら見ていたのだが、ゲンヤに誘われ彼女もソファーから腰を上げる。
続いてリインも後を着いていこうとするのだが、主であるはやてが頭を悩ませながら立ち上がる姿を見て、思わず心の中で同情をしてしまうのだが、これからの事を考えるとゲンヤが言っていたことも大事であるので、頑張ってくださいという言葉を内心で掛けるのであった。
◆
ミッドチルダ首都グラナガンにある時空管理局地上本部。
ここはミッドチルダにある地上部隊だけではなく、他の管理世界にある地上部隊の本部でもあることから時空管理局でも地上……つまり次元の“海”ではなく“陸”を統括している場所である。
中央の超高層ビルを囲むように、それよりもやや低い数本のビルが威を構える外観は、現在夜間という事もあってか、夜の闇を照らすように所々から明かりを灯し自らを装飾していた。
また、中央の超高層ビルの最上階は展望台になっており、時折ミッドチルダにいる一般人や観光客に公開されることもある様だ。
そんな巨大な建造物内では、アルファードが所属していた首都防衛隊の他にも様々な部署や課が存在しており、またミッドチルダの地上の象徴的な人物でもあるレジアス・ゲイズ中将も普段はここにいる。
しかし、これからスポットを当てるのは彼ではなく、超高層ビルから見て三時の方向にあるビル内で先日のガジェット・ドローン貨物車両占拠事件について調べているフェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官と、シャリオ・フィニーノ一等陸士である。
新設された機動六課隊舎にも無い様々なアーカイブスを閲覧できるコンピューターが数十にも列挙した薄暗い室内で、大きなディスプレイの前でコンソールを叩くシャリオは、椅子の後ろに立っているフェイトに視線を向けずに口を開いた。
「先日の事件で確保されたレリックは、ちゃんと本部の保管庫に厳重な封印と共に保管されている様ですね。まあ技術転用が今のところ不明な物体をいきなり得ても、とりあえず蓋をするしかないっていうのは、技術者としては歯痒いところですが」
「まあ、だからこそ“ロストロギア”として指定されているんだし、仕方ないよ」
「う~ん、そうなると超高エネルギー結晶体の存在意義が無くなっちゃいますね。専門の人が見てもさっぱりな機構があったり、動力機関としても何だか変な所があるし……でも、下手にいじって事故を起こすよりはマシですかね」
正面に映し出されたレリックの画像と、それを収めている入れ物の詳細を眺めていた二人は、互いにロストロギアという古代の遺失物の不明瞭さに若干の呆れを覚えていた。
なぜ、こんな使用用途を誤れば大事故を起こしかねない物を古代の人間は作り続けていたのか……確かに、今よりも政治・民衆・国家などが不安定で戦争などが多発していた古代では、こういった危険物も必要だったのかもしれないが、それにしても現代人にすら手に余るものを作り出すとはやり過ぎもいいところである。
「だね。とりあえずレリックの事は本部の解析班に任せるとして、シャーリー、事件で回収したガジェットの残骸データを出してもらえるかな?」
「了解しました♪」
地上本部の施設を正式な手続きの上で六課隊員として使用するために、執務官の制服ではなくシャーリーと同じカーキ色の六課制服を身に纏ったフェイトは、椅子の背に左手を添え、コンソールの縁に右手を置いて身を画面へと乗り出した。
シャーリーがコンソールのキーを叩き、先日の事件で回収したガジェットの残骸画像をディスプレイに表示させる。
画像には所々のポイントに番号が表示されており、その番号を入力すれば任意の箇所を拡大できる仕組みになっていた。
映し出されているガジェットの残骸は、エリオとキャロ、そしてフリードが協力して大破させた大型のもので、丸いシルエットを真っ二つにされた状態で撮影されていた。
報告には聞いていたが、自身が保護している二人が成し遂げた成果を見て、フェイトは心なしか嬉しい気持ちになるが今はそれどころではないのは彼女も当然理解している。
「じゃあ35番を拡大して」
「はい」
フェイトの指示にシャーリーが短く応じると、画像がガジェットのカメラ部分である黄色いレンズの方へと拡大される。
「データだけを見れば以前にシグナムさんやヴィータさんが鹵獲してくれた物と変わりはありませんね。戦闘中に発揮されてた出力やAMFの効果領域などは強化されていたみたいですが、それ以外は別にって感じです」
「24番は?」
次にフェイトは、ガジェットのボディに見られる破損個所を拡大するよう指示を出す。
すると彼女の注文通り、ガジェットのボディに開いた穴へと画像が拡大される。
「新型のこれも、内部機構の変化は他のと大差ないですし、おそらく強化されたのはAI面だと思います」
「うん? シャーリー、そこから更に1番を拡大してくれる?」
シャーリーが淡々と説明をしていると、突然フェイトの表情が険しくなる。
これに多少驚いた彼女は、横目でフェイトの白く優美な横顔を眺めつつも、指定された1番を拡大させる。
「これは……」
拡大された画像には、半導体の様なコンデンサなどが取り付けられた板の中心に、一つの青いクリスタルがはめ込まれたチップが映っていた。
「フェイトさん、これに何かあるんですか? 見たところエネルギー結晶の様ですけど」
「うん、これはジュエルシードっていって、随分昔に私となのはが探し集めてた物で、今は局の保管庫で管理されているはずのロストロギアだよ」
フェイトの説明に、シャーリーはなぜ彼女が突然顔を険しくさせていたのか瞬時に理解する。
「局の保管庫で管理されていたものが、どうしてガジェットに着いているんですか?」
「分からない……本局の保管庫をテロリストが誰にも悟られずに破るなんて考えづらいし、たぶんどんな魔導師でもそれは不可能だと思う。だから、あまり考えたくは無いのだけれど」
「内通者がいるかもしれないってことですか? でも、探し集めていたって事はジュエルシードって複数あるものなんですよね? だったら……」
「それも考えられない。このジュエルシードは次元干渉型エネルギー結晶体でシリアルナンバーが振られている物なの。全部で21個あって、それらすべてが保管庫にあった筈なんだ」
「……これはちょっときな臭くなってきましたね」
「うん……一応あとで本局に数を確認してもらおう。もしかしたら模造品って可能性も捨てきれないしね、うん? シャーリー、3番を拡大して」
「え? あ、はい」
再びフェイトが何かに気づいたのか、菱型のクリスタルであるジュエルシードがはめられた半導体の近くを拡大するようシャーリーに指示を出す。
言われた通りに拡大すると、そこには伝導率に優れた金で作られたネームプレートの様な物が取り付けられていた。
「これは……人の名前ですね」
「ジェイル・スカリエッティ」
金のネームプレートに刻まれた名を呟いたフェイトは、シャーリーの横からコンソールを操作して、ディスプレイ上に一人の男性の記録を表示させた。
紫色の長髪に、ゴールドの瞳……一見して白衣の小奇麗な優男と思われる若い男性の写真は、その横にある名前欄の上に超広域指名手配犯と記述されていた。
「Dr・ジェイル・スカリエッティ……ロストロギア関連の事件を始め、そのほか様々な罪状を重ねている次元犯罪者だよ」
「大物ですね……でも、どうしてフェイトさんはそんなに詳しいんですか?」
「ちょっと事情があってね、この男のことは何年も前からずっと追ってるんだ」
操作していたコンソールから手を放し、ディスプレイをジッと見つめるフェイトの顔には、いつもの柔和な雰囲気は感じられない。
むしろ、その紅い瞳と飴細工の様な長い金髪が他者に対して触れがたい空気を醸し出していた。
これを見たシャーリーも、初めて彼女の事を一瞬だけ怖いと感じてしまったほどだ。
「そんな次元犯罪者が、どうしてこんな分かりやすい目印を残したんですか?」
「本人だとしたら挑発、他人だとしたらミスリード狙い。どっちにしても、私やなのはが事件に関わっているのを知っているんだ」
視線や口調、言葉の内容からみても浅からぬ因縁があると理解できるフェイトの様子。
普段なら気を紛らわす一言でも投げかけるところであるが、流石のシャーリーもこの時ばかりは黙して彼女の横顔を眺める事にしていた。
「それに本当にスカリエッティが絡んでいるのなら、彼の技術を考えるにロストロギアを使ってガジェットを製作出来たのも納得できるし、レリックを集めている理由も何となくだけど想像がつく……だけど、どうやってジュエルシードを手に入れたのかが分からない」
心配そうに眺めるシャーリーを置いて、暫くの間一人で思考を巡らせていたフェイトであったが、何か一つの結論を導き出せたのか、さっきよりも気持ち小さめの声で口を開き始めた……また、口元をシャーリーの耳の近くまで寄せてきている。
「シャーリー、スカリエッティの件はデータをまとめて隊舎に戻ってからにするよ。ちょっと、ここで話せる内容じゃないかもしれないから……」
「はい、分かりました」
フェイトと同じ声のトーンで答えるシャーリー。
スッとフェイトが制服の衣擦れ音を鳴らしながら、シャーリーの耳元から口を放すと「じゃあ、次はアルファードが交戦したファクティスって魔導師について調べようか」と、強引に話題を転換し始めた。
ここで話せる内容じゃないとは、一体どういう事なのかと勘繰ったシャーリーであったが、とりあえず彼女の指示通り、コンソールを操作してファクティスについての情報をディスプレイに表示させる。
映し出されているのはアルファードが見た情報を電気信号としてデバイスに記録させていた画像で、口元しか見えないバイザーを被った状態の彼女と、バイザーが取れた状態の彼女の姿がディスプレイに表示されていた。
「解析班と鑑識が彼女の戦闘データや遺体を調べた結果なんですが、ちょっと気になる所が出てきたんです」
「気になる所?」
「はい」
フェイトがさっきまで醸し出していた空気を潜めさせた事に安心したシャーリーは、肩の重りが取れたかのように軽快にコンソールを操作する。
しかし、これから表示させる情報は自分でも上手く説明できるか分からないために、少しだけ気乗りしない部分もあるのだが、さっきの様な気まずさを味わうよりかはマシだと開き直り、シャーリーは一つのウインドウを開いた。
「これです」
「これは……魔力の波長と色素、それにDNA情報?」
新しく開かれたウインドウには2つのグラフと、遺伝子発現情報・核酸配列・タンパク質のアミノ酸配列などの生物情報や、DNA構造が分かりやすく3D化された画像などが表示されており、若干専門的な知識が無ければ理解できない情報が記述されていた。
「はい。アルファードとの戦闘中にファクティスと名乗る女性魔導師が発していた魔力の波長なんですが、どうも似ている様なんです、アルファードと……」
「似ている? でも、それってたまにある事なんじゃないの?」
「近距離タイプの魔導師は、基本的に魔力の発動が速いので、結構似たり寄ったりな波長をしているんですが、解析班によると少し度が過ぎるらしいです」
「それって、通常よりも波長が重なってるってこと?」
「はい、また魔力変換資質や魔力の色もほぼ同じで、攻撃魔法に込められた魔力の総量こそアルファードよりも少し大きいものの、解析班も驚いたぐらいに色んな面で共通点が見られる様なんです」
「……シャーリー、これって珍しい事なの? それとも“ありえない”事なの?」
「前者ですね。ですが、これだけなら偶々って事で片付けられるんですが……」
シャーリーは自身なさげに言いながら、コンソールを操作して3D化されたDNA構造の画像を重ね合わせた……重ねあわされたDNA構造の画像は、一つはファクティスのものであり、また一つは件のアルファードのものである。
このDNA構造は二本鎖や塩基が水素結合している様が3D化されていて、よくTVでも見られる分かりやすいものとなっていた。
故に、その重なり具合も鮮明な物であり、フェイトの眼を驚愕の色に染め上げるには十分な物であった。
「多少似ているのなら問題も無いんです。まあ珍しいなぐらいで済みますから。ですけど、DNA構造がほとんど似ていて、違うのは性別や性格ぐらいというのはあり得ないんです。それに、鑑識から言われて、これは本人に確認しなければならないことなんですけど、ファクティスの遺伝情報にアルファードのものが発見されたそうです」
「つまり、ファクティスはアルファードの子供って事? ありえない。だってアルファードはまだ16歳で、ファクティスはどう見ても同い年ぐらいの外見なんだよ?」
「私にも分かりません……ですが、遺伝子操作をされたクローン体という線なら考えられないこともありません。倫理的に問題があって、普通の研究者では手が出せない技術ですが、テロリストならあるいは」
シャーリーから出てきた言葉に、フェイトは一瞬言葉を詰まらせる。
表情こそ口を閉ざした無表情に見えなくもないが、その紅い眼には怒りが込み上げているのがシャーリーには分かった。
詮索はしない……するべきでないと理性で察したシャーリーは、開いていたファクティスの情報が記述されたウインドウを自己判断で閉じた。
「シャーリー、これも隊舎に戻ってから他の隊長たちと一緒に調べる事にしよう。たぶん、私たちが考えている以上に今回の事件は深いかもしれないから」
「はい、分かりました」
フェイトに促されたシャーリーは、先ほどまで閲覧していたデータを全て管理局指定の小型補助記憶装置にコピーさせ、これを既定の方法でコンピューターの差込口から引き抜くと、それを急いで自身のバッグへと仕舞い込んだ。
彼女の言う通り、今回の事件は自分が想像しているよりも黒い部分がある事に気づいたシャーリーは、既にこの部屋から出ようと歩き出していたフェイトの後ろを追いながらも、一抹の不安を覚えずにはいられなかった。
本当は幕間的なものも書こうとしたんですが、ストーリーを進めていく事にしました。
更新速度も遅いですしね、これぐらいが丁度いい。
まあ、次回はかなり詰め込むと思うので、今回は活動報告に書いた文字数よりも少ない1万4千文字程度で許してください。
もっとこうした方が良いんじゃないとか、今後こんな事をする予定はあるんですかとか、質問があれば感想で受け付けるので、暇があるときにでも書いてってくださいな。
では今後とも、改めてよろしくお願いします。