炎狼   作:ゲレゲレ

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 今回テンポを意識してみました。
 更新速度が遅いので、こういった面でカバーしないと間に合いそうにありません。
 それに伴って、描写不足が出てきたら本末転倒なのですがね。


第十六話

 ホテル・アグスタの宿泊施設屋上にあるヘリポートから既に指定された持ち場へと到着していた機動六課フォワード陣は、周囲を緑の自然に囲まれたホテルの警備に着いていた。

 地元部隊が張っている正面のロータリー付近を除き、建物の東・西・北を担当するフォワード陣の配置は、東がスターズ分隊のスバルとティアナ、西がライトニング分隊のアルファード、北が同分隊のエリオとキャロ、そして使役竜のフリードだ。

 また、宿泊施設とオークション会場のある建物を挟んでいるエントランスホールの屋上には、機動六課主任医務官であるシャマルが騎士甲冑を身に纏って警備に参加していて、他にも総部隊長である八神はやての守護騎士が防衛ラインを広げるためにホテルからは離れた所で待機している。

 リミッターを付けてるとはいえ魔導師ランクAを超える者達が防衛ライン際を固めているために、ホテル周辺を守っている者達は幾分か緊張を和らげる事ができる……更にいえば、エントランスホール屋上にいるシャマル自身も高ランクの騎士であり、オークション会場内を直接警備している三人の隊長陣も管理局では指折りの戦力である。

 本来なら、この布陣は戦力過多になり気味と思われるのだが、今回行われるオークションで取り扱われるロストロギアや、それを狙ってくると予測されたガジェット・ドローンの特殊性を踏まえると、専門的な知識や戦技などを知っている者達が必要になってくるために、AMF下での訓練を行っていない地元部隊では対処しきれないのが現実なのだ。

『各員、現状報告をお願いします』

 大型ホテルの見えない所にしては、割と清掃の行き届いている屋上に立つシャマルは、自身のデバイス“クラールビント”を介して六課全体に念話を送る。

 八神はやての守護騎士である彼女のアームドデバイス“クラールヴィント”は二対の指輪型デバイスで、彼女の両人差し指と薬指に装着されており、人差し指の方には青い宝石が、薬指の方には緑の宝石が嵌め込まれていた。

 現在は右人差し指の青い宝石が指輪から分離して振り子の様な形状となり、それが彼女の広範囲に渡る探索と通信の補助として機能していた。

『スターズ02、異常なし』

『ライトニング02、同じく異常は無い』

 白い服の上に着た浅緑のジャケットと同色の帽子が目立つシャマルの騎士甲冑は、屋上風に揺られる緑のロングスカートも相まって随分とゆったりとした印象を持つもので、いま彼女の目の前に展開されている空間投影モニターに映る二人の副隊長たちとは違い、攻撃的というよりも抱擁感のある色合いをしている。

 スターズ分隊副隊長のヴィータ、ライトニング分隊副隊長のシグナムの応答に続いて、他のモニターに映っていた者達からも答えが返ってくる。

『スターズ04、こちらも異常はありません』

『ライトニング05、異常なし』

『ライトニング03、異常はありません』

 順にオークション会場の外壁を背にした東のティアナ、その建物の地下駐車場入り口付近にいる西のアルファード、宿泊施設の搬入口を背にした北のエリオ達が持ち場に変化が無い事をシャマルに伝えてきた。

 ホテル東側をティアナと一緒に警備しているスバルは彼女が答えたために省略、同じく北側をエリオと共に守っているキャロも定時連絡は省略され、シャマル達と同じ守護騎士である犬、ザフィーラのいる山岳地帯の山道付近もモニターで見る限り異常はない。

『会場内部はどうでしょうか?』

 シャマルの呼びかけに展開させているモニターの内、コンサートホールの様な会場内部を背景としている、普段しているサイドテールを下ろた、肩を露出した青のドレスを着飾っている高町なのはが答える。

『こっちも異常はありません』

『そうですか、では各員引き続き警戒を怠らないでください』

 シャマルの言葉に、モニターに顔を映していたザフィーラ以外の全員が『了解』と返事を返す。

 定時連絡を終えたシャマルは、そのままドレスアップしているなのは以外との通信を一時的に切ると、彼女に仕事中のものとは違った至ってプライベートな微笑みを見せる。

『そのドレスとっても似合ってますよ、なのはちゃん』

『ありがとう、シャマル先生』

 いつも着ているカーキ色の制服姿とは違い、確りと女性としての魅力を引き出す煌びやかなドレスを身に纏ったなのはは、モニター越しから見てもオークション会場に馴染んだ艶を醸し出しており、傍から見てもVIP関連の令嬢か、それかオークション参加者かと見間違う程であった。

『アクセサリもなのはちゃんにピッタリだし、私も選んだ甲斐があったわね』

『あはは、でも少し派手じゃないですか? 私、こういうの着けるのは慣れてないんで』

『ううん、そんな事は無いわ。なのはちゃんの綺麗な鎖骨と肌に合うように、アクセサリの類はあまり大きくない物を選んだから大丈夫よ』

『そうかなぁ』

 モニターに映る彼女に、妙に誇らしげな顔を見せるシャマル。

 少しだけ困ったように眉毛をハの字に垂らしているなのはは、とりあえず話題を反らそうと表情を教導官としてのものに切り替えた。

『そういえば、フォワードの子たちはどうしてるかな? こっちじゃ人の眼もあるから、あまりモニターを開けないんだ』

 一応、会場内部の警備という名目ではあるが、なのはやフェイト、はやての場合はオークション参加者の警護もしなくてはならないために、あまり一般人に緊張感を与えない様に管理局の制服は控えてくれと事前にホテル側からお願いされていたのだ……故のドレスアップであるのだが、それ以外にも警護をしているという物々しい空気も出さないでほしいという事で、こういった定時連絡だけでも注意を払わないといけない状況になってしまっていた。

 その事情を把握していたシャマルは、話の流れを変えられたことを気にする事も無く、彼女から聞かれたことを周囲に散布したサーチャーから送られてくるフォワード陣の映像交じりで答えた。

『見る限り緊張している子はいないみたい。さっきティアナがホテルの見取り図と、いま私が探索している周辺地域の映像を自分のデバイスとリンクさせたから、たぶん指揮に関しては問題ないと思う。エリオとキャロも地元部隊の人との連携を確認してたし、スバルも気合十分って感じで頼もしいわ。アルファードに至っては流石首都防衛隊出身って所かしら、みんながやった事はすぐに済ませてたし、警備と言うより警戒態勢に近い状態で待機してるわ』

『皆それだけ出来てれば上出来かな? でも、これだけオークションに影響が出ないようにしてるところを見ると、ガジェットが襲撃してきてもオークションを中止させる気はホテル側には無いかもしれない。守る対象を一か所に集められるのは楽なんだけど、こうなると私やフェイトちゃん、はやてちゃんは外に出れないかもしれないから、現場の指揮はお願いしますね』

『分かったわ、任せて頂戴』

 ぐっとモニター越しに右手を握って見せたシャマルに、なのはは一度頷くと『じゃあ、そろそろ通信を切ります。何かあったら連絡をします』とだけ言って、空間投影モニターのウインドウを閉じた。

 これにより、シャマルの前にはホテル外部を警備している者達だけが空間投影モニターで映し出されている状態になってしまったのだが、なのは以外の隊長陣との通信も常にオープンにしているために、向こう側の都合さえ合えばいつでも情報の交換が出来る体制は整えられている。

 私的な会話を終えたシャマルは、再び周囲の索敵へと移った。

 ホテル・アグスタは周囲を森林地帯に囲まれ、更にその先は山岳地帯となっているために宿泊や今回の様なイベントでも無ければ普通の人間には用のない建物だ。

 故に、少しでも不審な動きをする影がシャマルの索敵に引っかかれば、彼女は即座にサーチャーを飛ばして映像を拾える準備は出来ているし、それを迅速に遂行するだけの技量も持っている。

 またホテルに一番近い山岳地帯の山道には守護騎士であるザフィーラが陣取っているために、何かあればすぐに連絡が来る手はずになっているし、他にも防衛ラインを広げるためにホテルから離れた所に待機しているシグナムとヴィータもいる。

 この布陣で敵のホテルへの到達を許す筈は無いと確信しているシャマルは、ジッとエントランスホールの建物の屋上からホテル正面に広がる森林地帯を眺める……。

 そして、暫くの時が経ちオークション開始時刻間近となった時――――

(来た)

 彼女が索敵用に展開していた空間投影モニターの図面に、森林地帯を移動する影が数個現れる。

 明らかに森の中を移動しているそれは、時間に遅れたオークション参加者の車である事はありえない。

 場所はシグナムが待機している場所に近い――――いや、更にヴィータが待機している場所にも新たな機影が現れた。

 これ程までに不審な出現の仕方をするのであれば、確認するまでも無く機影の正体はロストロギアを狙ってきた者達に違いないとシャマルは判断する。

 そして、彼女は映像を拾うためのサーチャーを飛ばすと同時に各員に緊急連絡を行う。

『不審な機影を確認。各員戦闘態勢に移行してください!』

 

 

◆(1)

 

 エントランスホールの建物屋上にいるシャマルからの念話は、ホテル近辺を警備していたフォワード陣と防衛ラインギリギリに展開していた守護騎士たち二人と一匹にもハッキリと伝わっていた。

(大型2機に通常サイズが8機か……問題は無いな)

 木漏れ日が差し込む木々に囲まれた場所で待機していたシグナムが、右手に持っていた片刃の長剣型アームドデバイス“レヴァンティン”を右足を前にした八相で構える。

 デバイスの鍔付近にある排出口を見る限り、彼女のアームドデバイスにもカートリッジシステムが搭載されているのが伺えた。

 刃物を思わせるかのような切れ長の目と、涼やかで凛々しい顔立ちを正面に向けるシグナム。

 木の葉を揺らす風に紫のポニーテールを靡かせ、デバイスの刀身で木漏れ日を反射させる……桃色の騎士甲冑を纏った彼女の佇まいは、まるで森の静けさと一体となった様に微動だにせず、また鋭い眼光を宿した目に瞬きは見られなかった。

 前方からは今まで点でしか見えなかったガジェット達が、森の木々の合間を縫って自律飛行でこちらへと向かってきている。

 前開きの腰巻と丈の短いジャケットが僅かに衣擦れ音を発し、両手に装着された手甲とブーツ型のレッグアーマーがカシャリと音を立てた、刹那であった――――

 彼女は地面に生えていた雑草を踏込と共に飛び散らせたかと思うと、こちらへと接近してきていたガジェット達に八相の構えのまま突貫を加えた。

 両者が互いに前に出ているために肉薄の時は短く、大型の前方を単横陣で固めていたカプセル型のガジェットとシグナムが接触するまで数秒と掛からない。

 先陣のガジェットがAMFを展開……いや、それよりも早くシグナムが8機いる単横陣の中央に切り込んできた。

 狙いは中央、シグナムが息を短く吐き出すと共に左上から右斜め下に袈裟斬りをし、AMF展開前のガジェットを一機、斜めに切り裂いた。

 内部構造の部品の破片を飛び散らすことなく二対にされたガジェットは、そのまま空中で爆発……爆炎に森が揺れたかと思えば、シグナムは既に隣にいたガジェットを切り上げの逆袈裟で仕留めていた。

 一歩の間合いが長く、一つ一つの動作に無駄が無い。

 先日アルファードと戦ったファクティスも、シグナムと同じようなデバイスを扱っていたが、ここまで洗礼された足捌きや太刀筋は再現できなかったであろう。

 瞬く間に二機のガジェットを落とし、容易く単横陣を切り崩したシグナムは、そのまま防衛ラインを抜けようとする敵と並走し始める。

 AMFは既に展開済みであり、魔法力にリミッターを掛けている彼女は残り8機のガジェットと魔法を行使することなく走り続け、そして再び剣の届く間合いまで足を踏み込ませる。

 確かにAMF下でも魔力を行使することは出来るが、今回の任務は防衛であるために、無暗に魔法を使って魔力量を消耗させる訳にもいかず、鍛え上げた肉体で行えることはそれで済ますのがベストなのだ。

 そしてシグナムは、そのまま魔力の付加を行う事なく左側に並走していたガジェットを追い抜き、右手に持っていた長剣型デバイスで正面から背面へと横薙ぎに両断する。

 多少強引に斬ったために、切り口から鉄片が散らばるがそれも少量だ。

 再び一機のガジェットが爆炎を起こしたかと思うと、遂に相手も彼女を無視して通り抜けるのは困難と察知したのか、通常サイズのカプセル型が反転し、後方を飛行していた大型と共にシグナムを包囲した。

 残りは大型を含めて7機、木々が障害物となって全機が彼女に熱線の銃口を向けられている訳ではないが、AMFは確実に周囲に展開しており、並みの魔導師ならこの状況に陥ってしまった時点で万事休すとなる所であるが、これまでの動きで一切息を乱していないシグナムに焦りと言う色は見えない。

 むしろ防衛ラインの突破から標的をこちらに移してくれた事を好都合と捉えていた。

 片刃の長剣型デバイスを右手一つで持った彼女は、構え一つ見せていない……包囲された事によって、全面を対象とするために自然体となったのだ。

 シグナムは周囲を視線のみで見渡すと、大型2機を正面に、カプセル型5機を後方に置いた。

 単純な火力を比べて、ベルト状のアームや高出力の熱線を持つ大型を正面にした方がやり易く、また、カプセル型は木々の障害物によって機動は制限されているために、現状ではそれほど脅威ではないと判断したためだ。

 シグナムがAMF下だというのに、カートリッジを使用することも無く足元に髪の色と同色の魔方陣を形成し始め、その右手に持ったデバイスの刀身に魔力変換資質で具現化させた炎を纏わせる。

 そして、この魔力反応に7機のガジェットが一斉に彼女へと熱線を照射するが、それが地面の土や雑草を焼き尽くした頃には既にシグナムは、二本のベルトアームを展開させた大型ガジェットの真正面でデバイスを上段に構えていた。

 後ろを見れば熱線の射線から一度だけ避けた足跡が地面に刻まれており、どうやら彼女はたったの二歩で直線状の熱線を避け、ガジェットの正面までたどり着いていた様であった。

 そしてシグナムが、上段に振りかぶっていた刀身を正面の大型ガジェットに一息で垂直に振り切る。

 炎を纏った刀身が通過した事によって、左右に両断された球体の大型ガジェットの装甲と内部構造はオレンジ色に融解しており、この熱が電気系統をショートさせ機体を爆発させる。

 一瞬で包囲を破られたガジェットたちは、再び彼女に攻撃を加えようとするも一機、また一機と容易く切り伏せられてしまう。

 残りは大型一機にカプセル型3機……それらが接近戦のみ仕掛けてくるシグナムから距離を取る中、彼女にシャマルからの念話が届く。

『敵機増援を確認。3人から少し離れた所から防衛ラインに侵入してきたから、こっちは私とフォワードの子たちに任せて!』

『分かった、だがここを片付けたらすぐに援護に向かうがいいか?』

 牽制射撃が飛んでくる現場にいながらも、冷静にシャマルと応対をするシグナム。

『構わないけど状況次第ね。また増援が来るとも限らないから』

 それだけ言うとシャマルは一方的に念話を切った。

 実際そこでシグナムの言葉を聞いたとしても、シャマルには防衛ラインを崩す考えはないために押し問答になりかねないからだ。

 シグナム自身もそれは承知しているために、彼女に対して一々念話を仕返す真似はしない。

 とにかく、今は前に見えるガジェットを殲滅することが優先であると、シグナムはカートリッジが収納されているために通常よりも太い柄を握り直した。

 

 

◆(2)

 

 防衛ラインを越えてきたガジェットがこちらへと接近している事を、シャマルのものとリンクさせた索敵マップで察知したティアナが、新人フォワード各員に指示を飛ばす。

『全員戦闘態勢! 通常型の他に大型も何機か紛れ込んでるから、AMFの展開領域に注意して!』

 自身の拳銃型インテリジェントデバイス“クロスミラージュ”をツーハンドモードに切り替たティアナに、前で構えを取ったスバルの他、エリオ・キャロ・アルファードの『了解』の念話が返ってくる。

『数は全部合わせて22機、内7機が大型。一番数が多いのはティアナたちの東側よ。副隊長たちには防衛ライン際で引き続き増援を押さえてもらいます。だからここは私たちで対処するしかないから、気を引き締めてね』

 背の高い宿泊施設があるため裏は直接確認できないが、それでもホテル周辺の大半を肉眼で見渡せるエントランスホール屋上にいるシャマルが、念話を使ってフォワード陣と地元部隊の人間にも状況を伝える。

 フォワード陣のやや後方、オークション会場であるホテルを間近で守っている地元部隊も杖型のデバイスを構えて、六課が敵を打ち漏らした時に備え始めた。

 今回の防衛任務には三つのラインがあり、第一ラインは副隊長陣が守る広い円状のもので、第二ラインはフォワード陣が守るところ、第三ラインはホテルに張り付くようにしている地元部隊のものだ……しかし、実質第二と第三は抜かれればアウトとなってしまうために、その二つが最終防衛ラインとも言える。

 地元部隊には事前にガジェットのAMFについての対処法を伝えていたために、射撃時には一発でもいいから多重弾殻射撃で応戦する事になっているため、彼らは既に杖型デバイスの先端を接近してくるガジェットの方向へと向けていた。

 その下の様子をエントランスホール屋上で確認したシャマルは、内部にいる総部隊長である八神はやてに念話で連絡を取る。

『ガジェットが数十機、こちらに接近してきますがホテル側は何と言っていますか?』

 念話を繋げると同時に、はやてのデバイスに外の情報を送ったシャマルは面倒な説明は省き、知りたいことだけを彼女に尋ねた。

 また、はやての方もシャマルから敵機出現の報を受けてから外の情報は自前で調べていたらしく、既にホテル側とは話を付けていた様で即座に念話が返ってくる。

『オークションは中止にせんようや。まあ最初の対応からして分かってた事やから驚かんけど、外の状況を知っている人間としては会場内の雰囲気は好きになれんな』

『そうですか……では、フォワード陣にもう少し前で戦うように指示を出しますね』

『いや、事前に決めていた場所でええよ。上げた所でガジェットの戦闘に慣れてない地元部隊じゃ、もしもの時に対応できないかもしれないし、練度的には相手がガジェットでなければ中々のものなんやけど、今回ばかりは固定砲台になってもらうしかないと思う』

『分かりました。では現状維持で通します』

『あと、もしかしたら“ファクティス”みたいな魔導師が敵に紛れてるかもしれないから、気い付けてな』

『はい、分かりました』

 こちらに警笛を鳴らすかのような総部隊長の言葉は、普段の八神はやてのものではなく管理局員としてのもので、シャマルも普段はおっとりとした印象の強い顔立ちを、主の声を聴いたことで更に険しく引き締めた。

 必要な事は伝えたはやては既にシャマルとの念話を切っており、また彼女も再び戦況を逐一把握するために防衛ライン内外に散りばめたサーチャーを忙しなく動かし、未だ止まる事のない敵の増援を察知し、それを他の守護騎士やフォワード陣、そして地元部隊までもに伝達し続ける。

 空間投影モニターに映るシグナムやヴィータ、そしてザフィーラは出来うる限り敵を撃ち漏らさずに防衛ラインを維持しているのだが、やはりたった二人と一匹で広域にわたる範囲をカバーすることは出来ず、無数に湧いて出ているガジェットを何機か後方へと逃してしまっていた。

 しかし、その逃したガジェット群は東西北を守っている六課フォワード陣の活躍で何とか足止めは出来ているし、地元部隊の援護射撃もあってかホテルへと接近を果たした機影は今のところは確認できていない。

 ここでシャマルは、ふと疑問を感じた。

(いくらなんでも出現しているガジェットの数が多すぎる……近くに製造工場でもあるのかしら。いえ、それは事前に周辺を地元部隊が探索していた訳だし、ましてや、そんな簡単に足を掴ませてくれるはずはないからありえないわ。なら、転送装置……ううん、だとしたらどこかで反応を探知できるから、それも違う)

 戦況は五分五分、いやガジェットの行動が単純であるために、いくら数がいようとまだこちらが有利である様に感じる。

 だが、このまま何時終わるとも分からない増援を押さえ続けていれば、いずれはどこかに歪が出来てしまうのは必然だ……それはキャロとエリオの所か、それとも地元部隊以外に支援要員のいないアルファードの所か。

 シャマルは思考する――――ここで不自然な増援を押さえ続けるのではなく、その原因を知るために打って出るべきでは無いだろうかと。

 確かに、まだ始まったばかりの防衛戦で早々に行動を起こすというのは早計に感じられる……更にいえば、索敵範囲を広げた所で、ただ接近してきているガジェットの数がこれまでよりも多かったというだけだったら、自身が無駄な消耗をするだけになってしまう。

 探索範囲を拡大するか否かシャマルが思案していると、耳の穴に入れたインカムから六課隊舎の管制室にいる焦燥に駆られたシャリオ・フィニーノ通信主任の声が飛び込んでくる。

『こちら管制室! シャマル先生、召喚魔法です! 防衛ラインの4㎞外側から反応がありました!』

「召喚魔法ですって!?」

 瞬間、シャマルの表情が驚きに染まる。

 それはフォワード陣の中でもキャロ・ル・ルシエが得意とする魔法で、何もないところから無機物である鎖を呼び出したり、やろうと思えば人員の転送すら可能とするものだ。

 敵側に魔導師が存在している事は、ファクティスの件で把握済みではあったが、召喚魔導師までいたとあっては問題は更に深刻さを増してくる。

『ガジェットはここから出現していて、現在も数十機単位で召喚を繰り返しています!』

「敵魔導師は確認できましたか?」

 インカムから聞こえてくるシャーリーの声を受け止めつつ、シャマルは自身の平常心を取り戻すために一つ一つの事実を確認していく事に徹し始めた。

『いえ、サーチャーを接近させたとしても酷いジャミングで映像を得る事は出来ませんでした。おそらく近辺にAMFを展開させていると思われます』

「だけど、それじゃあ召喚魔導師の魔法使用に弊害が出るんじゃ?」

『それも考えて反応があった場所から更に半径1㎞程度の範囲を探索しているのですが、不自然に魔力反応が点々としていて、どこに魔導師がいるのか判別に時間がかかる状態なんです』

 魔力反応が点々としている……それは一体どういう事だろうか。

 魔導師が複数人で召喚魔法を繰り返しているのか、だがそれなら六課管制室の索敵能力をもってすれば敵の姿を映しだした映像の一つや二つ、既に捉えられている筈だ。

 ならダミーの召喚魔法陣を展開させて、魔力反応のみをこちらに捉えさせているのか?

 いや、それもただの時間稼ぎに過ぎないし、それをやるなら大規模な召喚を繰り返していた方が相手に攻め込む隙を作らせないので有効だ。

 確かめようにも、管制室が防衛ライン外の索敵に躍起になっているために、自身がライン内の戦況把握と指揮を一時的とはいえ手放すことは出来ない――――だからといって、このまま物量で押し切られるのを待つほどの余裕は無い。

 ならばどうする……?

 シャマルが奥歯を噛みしめながら、この状況を打破するための策を練り出そうとするが、不用意に防衛戦力の人員を動かすことも出来ないために、悪戯に時間が過ぎていく。

 しかし、そんな時であった。

『こちらアルファード。シャマル主任医務官、自分に心当たりがあります』

「え?」

 突然脳内に直接入ってきた男の念話に、シャマルは思わず呆けた声を発してしまう。

 声の主は、ホテルの西を守っていたアルファードのものだ。

 シャマルが展開していた空間投影モニターの向こう側にいる彼は、複数のガジェットと地元部隊の援護を受けながら交戦している最中であるにも関わらず、いつも通りの仏頂面を貫いたまま確実に一機ずつ敵機を落としていた。

『心当たりって、聞いてたの?』

『はい、管制室との通信は基本的にオープンにしていますから、他の方との通信も耳には入れています。それよりも、少しだけ自分の話を聞いてもらえませんか?』

 念話を続けながらではあるが、画面上の彼は一機の大型ガジェットが伸ばしていたベルト状のアームに炎で形作ったナイフを中距離から投げ込み、それが突き刺さるとともにナイフを起爆させ、相手の戦力を着実に削っていた。

 どうやらティアナなど射撃が得意な魔導師が使う多重弾殻をナイフにも応用しているらしく、AMF下であってもその形状を変化させる事は無かった……が、普段は5つ展開するナイフが一本ずつである事から、まだナイフを包む殻を生成するのには慣れていない様だ。

 その様子を眺めつつ、シャマルは彼の話を聞くことにした。

『いいわ、続けて』

『ありがとうございます。端的に言ってしまえば、その反応は全てダミーです。首都防衛隊の戦技講習で聞いたのですが、管理外世界のゲリラには、召喚魔法を行っている場所を察知されないように、埋め込み式の装置を使って相手をかく乱する者達もいるようです。おそらく、防衛ラインの外側にはそういった装置が無数に設置されている筈です』

『魔力反応を追う索敵を逆に利用されてるって訳ね』

『はい。おそらく魔導師はダミーを散りばめた近辺にいる筈です』

『根拠は?』

『知識と経験、それと勘です』

 普段は無口で上官に対しては具申すらあまりして来ない彼が、確信を得た様子で念話を飛ばしてきている。

 これにシャマルは、その細く白い顎先に右手の人差し指と親指を当てて黙考する……。

 理屈は通っている、つまり召喚魔導師は自身の居場所をかく乱させる為に、特殊な機械を使ってこちらの索敵に対しダミーを展開させているという事だ。

 また周囲が森林地帯という事もあり、航空戦技があったとしても上空からの眼は避けられるし、ましてやAMFもあるために上手く使えばサーチャーの機能を停止させながら、自らは召喚魔法を使用し続ける事だってできる。

 だとしたら厄介だ……これを見つけ出すためには地上からアプローチを掛けなくてはならないし、出来なければ消耗戦は避けられない。

 左頬に一筋の汗を垂らしながら、シャマルが歯噛みをしていると念話を続けていたアルファードが一つの提案を持ちかけてくる。

『シャマル主任医務官。もし手が無いのであれば、自分に敵魔導師を直接叩きに行かせてください』

 この提案は、シャマルにとっては意外どころか思わず――――え?――――と声を出してしまうものであった。

『森林地帯での行軍なら、この部隊の中では自分が一番だと自負しています。許可して頂けるのなら、確実に敵魔導師を探し出せると断言できます』

 彼の教導官であるなのはから聞いていた話だと、アルファードという人物は基本的に受動的な性格であり、上官からの命令を確実に熟すが自分からは中々行動に出ないと聞かされていた。

 しかし今の彼は、それとはまったくもって逆……完全に能動的な言動に出ており、自分なら確実に出来るとまで唱っている。

 シャマルは再び黙考する。

 確かに今の状態では、索敵に関しては手詰まり状態であり敵魔導師の発見どころか物量で押し切られかねない状況だ。

 されど、もしも彼を動かしてしまった場合、西の守りはどうする?

 六課フォワード陣は基本的にスターズ・ライトニング共に、スバルとティアナ、エリオとキャロという二人一組を想定した構成であり、アルファードはある意味で遊撃に位置する戦力であると考えられている。

 今回はホテル正面以外は、この三組をそれぞれの持ち場に着けているために、戦力バランス的にあまり陣形を崩すことはしてはならないのだ。

 本来であるならば、こういった場合はホテル内部にいる八神はやてか、管制室にいるグリフィス・ロウランかが決断し実行するのだが、シャマルは自身の現場管制という立場も踏まえて、本当に陣形を切り崩してもいいものかと悩んでしまう。

 すると、シャマルとアルファードのやり取りに割って入る者が現れる。

『シャマル先生、ティアナです』

『ティアナ? どうしたの?』

 それは、今現在もパートナーであるスバルとホテル東を守っていたティアナであった。

 驚いたように目を見開いたシャマルの前にある空間投影モニター内で彼女は、自身の周囲に誘導制御型の魔力弾を複数浮遊させながら、そのうちの二発を多重弾殻射撃としてツーハンドモードとなっている拳銃型インテリジェントデバイス“クロスミラージュ”を介して発砲し、森林地帯の木々の隙間を蛇の様に縫ってAMFを展開しているガジェットの数を着実に減らしていた。

 またパートナーであるスバルは、ローラーブーツ型のインテリジェントデバイス“マッハキャリバー”がサポートとして周囲の森林の上に生成した帯状の青い道、ウイングロードを陸戦魔導師という肩書を覆すかのように縦横無尽に駆りながら、ガジェットが展開しているAMF領域に入るギリギリの所で飛び上がり、自前の魔力による加速と筋力、そして重力を加えた右のリボルバーナックルの拳面を敵のボディに叩き込んでいた。

『私もライトニング05の提案に賛成です。こっちは私だけでも何とか持ちそうなので、西側にはスバルを回します』

『持ちそうって……ティアナは中遠距離型なんだから、ガジェットに接近されたらアウトなのよ? なのに壁になってくれてるスバルを回すなんて、私には無茶にしか感じられないわ』

 スバルとティアナが守っている東側は、地元部隊の援護もあってかガジェットの進行を安定して受け止めている様に見えるが、それは前線で敵の注意を引き続けているスバルの役割が大きく、いま彼女を持ち場から離すのは得策ではないように思える。

 実際、自律飛行といっても機動はAI頼みのガジェットは、よく観察すれば動きも読みやすいために照準も付けやすい……だが、それでも前線を張る人間無くして射撃特化型の魔導師が単独で戦うには厳しい面があるのは、相手にAMFという機能があるのも含まれるが、何より従来の命中率が維持し辛くなるのと全体を見渡せなくなる事が大きい。

 管理局のエース・オブ・エース、高町なのはの様に航空戦技があり、接近戦であっても拘束魔法を駆使してスタンドアローンで戦える射撃特化型魔導師なら話は別だが、生憎とティアナにそこまでの実力があるとは、厳しいようではあるがシャマルにはまだ思えない。

『大丈夫です。多重弾殻射撃なら、多少無理をすれば4つまで制御出来ますし、後ろには地元部隊の方達がいます』

『だけど、あなたが抜かれれば大量のガジェットを抑えるだけの経験は、失礼だけど彼らには無いわ。訓練を受けていたのなら話は別だけど、対AMF下での専門的な戦いを出来るのは、ここには私たちしかいないのよ?』

『それでも、今は何よりこの状況を止める事が先決だと私は考えています』

 先程からずっとエントランスホール屋上から、魔力弾が飛び交い、爆炎が巻き起こっている下の様子を索敵を行いながら見ていたシャマルは、ティアナの言い分も確かではあるが許容は出来ないと首を横に振る。

『ホテル側は、外がこういった状況でもオークションの開催を強行しています。今はまだ防音環境の整った会場のお蔭で、こちらの様子は内部には伝わってはいないけど、もしもティアナが抜かれて建物に損害が出たら、何らかの要因で内部にいる人たちにもこの混乱は伝わってしまう。そうなった場合、彼らは確実にパニックに陥り、私たちが想定していた最悪の行動を取りかねない……ティアナは、そのリスクもちゃんと考えてる?』

『はい。ですが、そのリスクなら今も背負っているのに変わりは無いと思います』

 近接戦を旨とする魔導師よりも、多くのガジェットに対応しながら確固たる決意の籠った具申をするティアナ……どうして普段は周りの新人たちよりも冷静な彼女が、リスクを度外視した博打に近いアルファードの提案に賛成しているのかシャマルには分かりかねるが、彼女の言い分も一理ある事は既に承知しているのだ。

 現に、地元部隊だけで防衛している正面エントランス付近は、先ほどから他の場所とは違って劣勢に立たされているのは上から見ていれば一目瞭然であった。

 通常の防衛任務であれば、彼らは六課新人たちよりも統制の取れた練度を見せつけられる実力はあるのであろうが、こと対AMFとあっては多重弾殻射撃などの難易度の高い対処法を知っていなければならないために、初見では苦戦が必至である事は始まる前から分かっていた事だ。

 故に、今のままを維持するというのは愚策に近く、アルファードやティアナが押すような打って出る戦法を取るときが来ているのだが、シャマルは安易な決断を避けるべく、1分に満たない熟考をする。

 そして考えがまとまると、彼女は六課管制室に地元部隊や内部にいる隊長たちを含めたすべての人員に念話ではなく通信回線をオープンにした。

『……現場管制から全員へ通達です。西を守っていたライトニング05を30分だけ持ち場を離れさせ、敵召喚魔導師の探索へ向かわせます。それに伴い、東側にいるスターズ03は西の防衛にシフト、スターズ02は防衛ラインを一時的に下げ、なるだけスターズ04の援護に回ってください』

 これをインカム越しに耳へと入れた者達は、各々“了解”の一つ返事を返す。

 全員に通信が終わるや否や、早速オークション会場にいたはやてからシャマルに向けて念話が飛んでくる。

『アルファードを探索に向かわせるのはええけど、少しだけ待ってくれんか? こっちからリインを出すから、アルファードと合流させてから探索に向かわせて』

『分かりました。では、彼にそう伝えておきます』

『よろしくな。それとVIPのお客さんの何人かが状況に勘付いたみたいやから、いつまでも防衛に徹することは出来んかもしれん。管制室にも召喚魔導師の探索を急がせるから、ホテル近辺はシャマルに一任するで』

『はい』

『あと、本当に不味くなってきたら、なのはちゃんとフェイトちゃんにも出てもらうから安心してな』

 はやてからの通信はそこで切れる……。

 シャマルは即座にアルファードとの念話を繋げると、まだ探索へは向かわないようにと総部隊長からの言葉を伝える。

『こちらシャマル。いま八神総部隊長から念話があって、リイン曹長と合流してから探索に向かって頂戴。すぐにそっちに着くはずだから、それまでは防衛に徹して』

『了解』

 伝え終えると、シャマルは防衛ライン外の探索を一時的に切り、遠距離からの召喚魔導師の索敵を六課管制室へと一任させる。

 そして、彼女は両人差し指と薬指に嵌められた二対の指輪型デバイス“クラールヴィント”を全て起動させ、それらに埋め込まれていた宝石をペンデュラム(振り子)型へと変形させながら、東西南北に広がっている防衛戦力への封印魔法や転送魔法による本格的な後方支援を開始した。

 

 

 





 少し遅れましたが、一応の更新です。
 ちょっと無理のある話の展開だとは思いますし、原作では防衛ラインは転送魔法以外では抜かれていませんし、地元部隊も防衛に参加している気配はありませんでした……普通、それぐらいはするよね。
 何か気になる事、これ違うべ?――――って事があればご指摘ください、なるだけ努力して直してまいります。
 ではノシ
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