炎狼   作:ゲレゲレ

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 少し違和感を覚える構成ですが、まあとりあえずの更新です。
 あと、批評募集を始めましたので、何か気になる所があればご指摘ください。



第十七話

 ホテル東側をスバルや地元部隊の者達と守っていたティアナは、ただ只管に迫り来るガジェットの群れに自身の二丁拳銃型デバイスの銃口を向け、魔力で形成した誘導制御型の魔力弾を発砲し続けていた。

 無数に立ち並ぶ木々の間を蛇の様に縫って、ティアナが撃った二発の魔力弾がAMFを展開していた二機のガジェットに迫る……が、本来ならAMFによって蒸発するかのようにかき消されてしまう筈の魔力弾は、その展開領域に侵入した途端に、予め自らを覆っていた弾殻とAMFを反応させ、その障害を完全に中和させてしまった。

 多重弾殻射撃――――対AMFに優れた射撃魔法の一種であり、生成した魔力弾の周りに薄皮一枚程度の外殻を形成し、これとAMF(アンチ・マギリンク・フィールド)を反応させることによって力場を突破させ、本命を標的に直撃させる事のできる射撃特化型魔導師の奥義とも呼べる高等技術だ。

 ティアナはこれを一度形成するためにカートリッジを二発消費させるが、その一度だけでも無理をすれば4発は作れるために対AMFに関しては主力的な魔法として置いている。

 更に、今しがたAMFを突破した二発の魔力弾は寸分違わずカプセル型ガジェットの中心を射抜き、爆散させたために本命の威力を損なわせている様子も無かった。

 彼女は再び、両手に持った一丁につきカートリッジが四発装填されている二丁拳銃型デバイスから、左右其々一発ずつカートリッジを消費させると、多重弾殻がなされた魔力弾を三発形成し始めた。

(弾殻が一枚ずつじゃ迎撃に間に合わなくなってきた……なら弾殻の枚数を増やして、出来るだけ一発で数機仕留めるようにしないと、いずれこっちが押される!)

 以前の自作デバイスなら三発も生成する事など出来なかったが、今は六課の技術力を集めたインテリジェントデバイス“クロスミラージュ”の魔法補助のお蔭で、形成するまでの時間や弾自体の質など目を見張るほどの向上を見せている。

 そして、その処理能力の高い会話も可能なAIを積んだデバイスが機械的な音声で『Variable Shoot』と声を発すると同時に、ティアナが周囲に形成した三発の魔力弾が再び背にしたホテルへと接近してくるガジェットに発砲される。

 草や枝などを散らしながら、またしてもAMFを突破し三機のガジェットを貫いた弾は、今度はそれだけに留まらず付近にいた大型ガジェット一機に吸い込まれるようにして誘導され、その球体のフォルムに3つの風穴を開けた。

 大型ガジェットは確かにカプセル型よりも出力のあるAMFを展開させていたのだが、ティアナが事前に生成した魔力弾を覆う殻を数層多くしたために、本命を無力化させることが出来ず防御シールドを展開する暇もなく直撃を喰らってしまったのだった。

「はあ……はあっ!」

 今の射撃で四発装填されていたデバイス内のカートリッジが切れてしまったために、ティアナは荒い息遣いをしながらも腰に巻いたベルトに収納されていたカートリッジバレルを取り出す。

 拳銃型デバイスのクロスミラージュは、通常の拳銃とは違って銃身であるバレルごと交換することでカートリッジのリロードを完了するために、今現在の彼女の足元には空になったカートリッジバレルが九個ほど散乱していた。

(ばててる暇なんて無いのよ! 増援は止まないし、もう少ししたらスバルが西側の守りに回るんだから、今からへばってちゃ持ちこたえる事なんて出来やしないじゃない!)

 自らを胸中で鼓舞しながらも、もともと勝気な眼を険しくさせて二丁の拳銃型デバイスを構えるティアナ。

 魔力弾を形成すると同時に、殻で包み込んでガジェットの群れへと発砲する。

 先ほどからずっとこの繰り返しであり、いくら地元部隊の援護が後方からきていたとしても、射撃特化型である魔導師が前線で防衛し続けるというのは近接特化の者達とはまた違った負担がある。

 白い眉間に皺を寄せ、細い顎のラインに汗の滴を流している彼女は、自身の集中力が徐々に削られていく心境に陥り始めていた。

 現に、今も誘導制御を行っている三発の内一発が狙いから逸れ、急な方向転換を余儀なくされている。

(誘導弾の精度が落ち始めてる……集中しろ! ただでさえ特別な才能の無い私が六課で戦っていくには、この程度で音を上げてらんないのよ!)

 両手に持つクロスミラージュの引き金に掛けた指に、思わずいらない力を入れてしまうが、気持ちが高ぶっている今の彼女はその力みに気付くことは出来なかった。

 発砲しては威力が生きている限り誘導弾を制御しながら、また新しい魔力弾をカートリッジを消費して生成し、デバイスのアイアンサイトを覗くことも無く何度目とも分からない引き金を引く。

 息も切れ、額に大量の汗を浮かばせ、バリアジャケットのインナーを濡らした彼女は、まるで何かに憑りつかれたかのように自らの肉体を酷使させながら敵を撃墜し続ける。

 そんな時、ふと彼女の脳裏に今回の配置についたばかりの時の事が忌々しく過った――――

 

◆(1)

 

 前回のガジェット・ドローンによる車両占領事件から中一日という短期間での出動だというのに、一切の疲れを見せていないスバルが、ホテル東側の配置に着いた途端に軽いストレッチを行い始めた。

 付近は宿泊者などが外を歩く際に視覚的な癒しを得やすいように、アスファルトで舗装された道の両脇には手入れの行き届いた天然芝や葉色のよい木々などが風に揺られながら立ち並んでおり、そんな中でスバルは気合十分な面持ちで左右の伸脚を繰り返している。

 ローラーブーツ型のインテリジェントデバイス“マッハキャリバー”を履いたままだというのに、アスファルトの上で一切体をぶらす事無く膝裏やハムストリングスを伸ばす姿は、傍目から見ればかなり器用な事のように思えるが、“マッハキャリバー”の片方4つの車輪《ウィル》は任意でロックが掛けられるために、それほど難しい事でもない様であった。

 そんなバリアジャケット姿のスバルが、白い腰巻が地面に垂れていようと関係なく長時間のヘリの移動で固まった体を解していると。

「そういえば、六課の前線メンバーが全員揃っているのって珍しいね」

 徐に何かを思い出したかのように、スバルは後ろでホテル近辺の地図を空間投影モニターで確認しているティアナに話をかけた。

 背中を向けながら声を掛けられたティアナも、スバルに対してではなく地図に視線を固定したまま答える。

「確かにそうね……」

 副隊長陣の配置場所や、フォワードメンバーの位置関係、地元部隊がどういった陣形を取ってホテル正面を守っているのかなどを頭に入れながら返事をしたために、ティアナの声はどこか心ここに非ずといった様子だ。

 本来であるならば、こういった情報は前日に確認すべきものなのだが、今回は前回の出動との間が非常に短い出動要請であったために、こうして無理矢理にでも現場の状況を頭に叩き込まなければならない……故に彼女は、今しがたエントランスホール屋上で現場管制を行っているシャマルから送られてきた、リアルタイムで魔力反応や人員の位置関係などが更新されるマップを食い入るように見つめていた。

 そんな彼女に対して、白い鉢巻を揺らして立ち上がったスバルは特に機嫌を損ねたわけでもなく、そのまま話を続けていた。

「それに八神部隊長の守護騎士団も全員集合だし、会場警備にしては凄い面子だよね」

「守護騎士団ね……そういえば、あんたは結構詳しかったわね。八神部隊長や副隊長たちの事」

 空間投影モニターに映し出している情報を粗方頭に入れたティアナは、ワンハンドモードで右手に持っている拳銃型インテリジェントデバイスを操作して、一旦目の前に展開していたモニターを閉じながら、ようやくスバルの方へと目を向けた。

「うん、父さんやギン姉から聞いたぐらいなんだけど、私が知ってるのは八神部隊長の使っているデバイスが魔導書型で、それの名前が“夜天の書”っていうこと」

 ここでスバルが両手を後ろに上げて組み、肩と大円筋のストレッチをしながらティアナへと体を向ける。

 健康的な腹部やボーイッシュな外見の割に実った胸が、彼女が筋肉を伸ばす度に異性の視線を集めるように動くが、生憎とここにはティアナ以外に人はおらず、地元部隊の人間もまだホテル内部で待機兼警備を行っていた。

 ちなみに彼女が言った父さんとギン姉とは、先日六課総部隊長である八神はやてが捜査協力要請のために尋ねた陸士108部隊隊舎にいた、ゲンヤ・ナガシマとギンガ・ナガシマの二人の事である。

「副隊長たちやシャマル先生、それにザフィーラは八神部隊長個人が保有している特別戦力だっていうこと。で、それにリイン曹長を合わせた6人が揃えば無敵の戦力ってこと。まあ、八神部隊長たちの詳しい出自とか能力の詳細は特秘事項だから、私もよくは知らないんだけどね」

 スバルはようやく満足したのか行っていたストレッチを止めて、乱れたバリアジャケットをちょいちょいっと手直しをする。

 ティアナも少しだけ吹いている風で乱れた橙色のツインテールを軽く整えながら、自身の上司である八神はやての謎だらけの情報に達観した表情を見せる。

「レアスキル持ちの人は皆そうよね……」

「ティア、なんか気になるの?」

 そんなティアナの様子にスバルは何事かと首を傾げるが、彼女は「別に」と溜息をつく様に突っぱねた。

 こういう時、あまり彼女に構いすぎると逆に怒られてしまう事を長い付き合いの内に理解していたスバルは「そう、じゃあ私は時間だから一度周りを回ってくるね。異常があったらすぐに連絡するから」とだけ言って、ホテル東側の定時哨戒に向かった。

 定時哨戒の場合、対AMF戦闘の訓練を行っている者が必ず持ち場に一人はいなければならないために、二人一組のスターズ03と04のスバルとティアナは、こうして時間が来ればどちらか一人が東側の決められたルートを回る事にしていた。

 もっとも、何かあればエントランスホール屋上にいるシャマルが誰よりも早く異常を察知してしまいそうなために、今回に限っては定時哨戒もどこか形式的なものとなっている。

 ローラーブーツ型の“マッハキャリバー”の車輪《ウィル》に掛けていたロックを外し、軽快な走りで定時哨戒へといってしまったスバルの後ろ姿を眺めながら、ティアナは何やら思いつめた様に目線を一点に集中させてしまう。

(正直、六課の戦力は異常よ……)

 誰に伝えると言う訳でもなく、胸中のみでティアナは呟き始める。

(八神部隊長がどんな裏技を使ったのかは知らないけど、隊長格全員がオーバーS、副隊長たちもニアSランク……他の隊員たちだって、前線から管制官たちまで未来のエリート候補ばかり。あの年でBランクを取ってるエリオと、レアで強力な竜召喚が出来るキャロもフェイト隊長の秘蔵っ子。危なっかしくはあっても潜在能力と可能性の塊で、家族のバックアップもあるスバル。それに陸士訓練校を主席で卒業して、そのまま規律に厳しい首都防衛隊に引き抜かれたアルファード……)

 一つ一つの事実を確認していく度に、ティアナの心には嫉妬心とは違う焦りの様な何かが蠢き始める……が、それを彼女が口に出して説明できるわけもなく、ただただ肯定していいのか分からない対抗心が胸の奥から湧き出してくるのを感じていた。

(やっぱり、この部隊で凡人なのは私だけか)

 しかし、次第に熱くなってくる心を鎮めるかのようにティアナは一度視線を固定させてしまっていた眼に瞼を閉じると、再び決意の籠った青い眼を快晴の日差しに晒す。

(だけど、そんなの関係ない……)

 頭に浮かぶのは、輸送ヘリの中で見せられたアルファードとファクティスの戦闘映像。

 訓練校時代に苦渋を舐めさせられ、今でもまだ対抗できる自信が無い実力を持つ彼が、右肩に重傷を負う程の苦戦を強いられた相手が自分たちの敵なのだ。

 凡人だから、他の者達の方が才能が豊かだからといって、元々勝気な性格のティアナが諦められる訳がないし、気持ちで引いてしまっては命を落とす危険性だってあるのだ……故に彼女は、自らの身体に直接刻み込むかのように(私は、立ち止まってなんかいられないんだ)と胸中で決意を口にした――――

 

 

◆(2)

 

『ヴィータちゃん、そろそろリインちゃんがアルファードと合流するみたいだから、あなたはそのまま後退してスバルが抜ける東側の防衛に回って』

 森林地帯を下にして、上空から地上を自律飛行で移動しているガジェットの大群を殲滅し続けていたヴィータに、シャマルからの念話が届く。

『分かった。しっかし、飽きもせずにウジャウジャと湧きやがって!』

 悪態を付ながらも、デフォルメされた可愛らしいウサギの装飾が施された大きな帽子と赤いゴシックロリータの様な騎士甲冑が特徴的なヴィータは、右手に持った長柄のハンマー型アームドデバイス“グラーフアイゼン”を握る手とは反対の手を目の前で横に振るうと、そこに八発の鉄球を出現させた。

 八発の魔力弾とは違った質量のある鉄球は、浮遊魔法を使用しているヴィータの目の前で上下四つずつに並べられており、彼女はこれに対して本来であるならば両手で振るう“グラーフアイゼン”を右手一本で真後ろにまで振り被った。

『Schwalbefliegen(シュワルベフリーゲン)』

 そしてデバイスがAIにしては珍しく気性の荒そうな音声を発すると、彼女は振りかぶっていた長柄のハンマーで目の前で静止させていた上下四つずつの鉄球の内、下一列の四発を横薙ぎに打ち払った。

 ハンマーと鉄球の衝突音が上空で響き渡った瞬間、彼女が振り抜いたハンマーの打撃力と飛翔・誘導制御・バリア貫通・着弾時炸裂の効果を付与された四発の鉄球が一気に地上にいたガジェットの群れに打ち放たれた。

 これに気づいたカプセル型のガジェット四機が前進を止めてAMFを展開するも、ヴィータが打ち放った四発の鉄球はそのAMFの力場を強引に抉じ開けると、そのまま目標であったガジェットにまるで隕石の様に落下し、決して常人では破壊できない装甲を容易く貫いて爆散させた。

 彼女の鉄球はガジェットを貫いただけでは留まらず、土の地面にまで落下すると周辺の木々よりも高く土砂を巻き上げる程の威力で、これがもし魔導師に対して放たれていたとしたら、並みのシールドでは防げないであろうことが伺える。

 ガジェット四機を瞬く間に破壊した結果には目もくれず、ヴィータは右から左に振り抜いていたハンマーを腰の回転と共に切り替えし、残りの四発の鉄球も横薙ぎに打ち払う。

 先ほどと同様の効果が付与された鉄球四発は、別のガジェット四機へと直線的な軌道で落下していく……が、これに対しガジェット四機が別々に回避行動と取り始めたために、鉄球の直撃コースから標的が外れてしまった。

 しかし、ヴィータが打ち放った四発の鉄球には騎士にしては驚異的な誘導制御が付与されているために、敵が散ってしまった事を確認した彼女が通常の魔導師が誘導弾を扱うような操作を感覚に近い形で行うと、四発の鉄球其々が散ってしまったガジェット四機を逃がすことなく貫き爆発させ、装甲や部品などを森の中で飛び散らさせた。

『とりあえず、あたしは敵を迎撃しながら下がるから、そっちはちゃんと持たせろよ?』

『大丈夫、フォワードの子たちが頑張ってくれてるし、地元部隊の人たちも私が何とか援護しながらだけど戦えてるから暫くは持つと思う。ただ状況によっては、シグナムとザフィーラもホテルの方に下がらせることになるかもしれないわ』

『はいよ』

『気を付けてね』

 そこでシャマルとの念話は途絶える。

 おそらく、向こうは対AMFに慣れていない地元部隊の援護や増え続ける増援の把握などで手一杯になりかけているのであろう。

 いくら八神はやてが所有する最高に近い戦力の内、索敵や現場管制などを務められるシャマルだとしても、リミッターを掛けられた状態では行える事に限度がある。

 ましてや、こちらは彼女のお株でもある転移魔法を使う場面ではないというのに、相手の召喚魔導師は未だ発見されないまま一方的に大量のガジェットを送り込み続けているのだ、戦局は確実に向こうへと傾いている。

 その事実にヴィータは歯噛みしつつも、シャマルに伝えたとおりに浮遊魔法を使用したままホテルの方向へと下がりながら、接近してくる地上のガジェット群を迎撃し続ける。

(始まる前は後ろには通さねえって考えていたが、流石にこの量はキツイな。一体、これだけの数をどうやって場所も知られずに転移させてんだ)

 今現在、リミッターを掛けられている守護騎士四人にはレベル2までの解除が許されており、全開とまではいかなくともそこらの部隊長クラス以上の出力を出すことが出来るのだが、こうも物量で押されると防戦一方になってしまうのは集団戦……いや、歴史上を見ても戦の基本とも言える数の暴力を痛感させられる。

 確かに古代遺失物管理部機動六課が保有する戦力は他の部隊と比べても異常だ……しかし、保有できる総魔力上限を考える限り、隊長陣・副隊長陣・フォワード陣の人数自体はどうしても少数精鋭となってしまうために、こういった物量で押し切られる事は弱点とも言えるのだ。

(うちの管制やシャマルの索敵からも逃げながら魔力を使い続けるなんざ、どういう手品を使ってんだ……)

 思考をしながらも誘導制御が可能な鉄球を打ち続け、接近戦を旨とするシグナムよりも撃墜数を稼ぐが、それも射程外の所から後ろに抜かれてしまえば意味は無い。

 別に敵は無尽蔵に湧くわけではない、確実に限りはある――――だが、その限りがいつになるのか分からないというのは通常感じるよりも疲労感というのは重く圧し掛かり、身体よりも心が疲弊してしまうのは目に見えている。

 自分は慣れている、こういった状況には“昔から”慣れている。

 されど、まだ実戦経験の浅い新人たちはどうだ?

 あのアルファードとかいう得体の知れないのは兎も角、スバルやティアナ、エリオやキャロは確実にいずれ綻びを見せてしまうとヴィータは確信している。

 それまでに、何とか決着を付けたい所なのだが、相手が見つからなければ自身の戦力も思うように振るえない。

 ヴィータは思う――――自身の主や信頼する仲間、そしてまだまだ危なっかしい新人たちの安全を守るには、今は地上本部の重鎮レジアス中将直轄部隊である首都防衛隊から来た、あの素性の分からない男に任せるしかないと。

 癪で癇に障る事だが、ヴィータはアルファードの事を一時的ではあるが信じる事にしたのであった。

 

◆(3)

 

 ホテル西側を地元部隊の援護射撃を受けながら守り続けていたアルファードは、大型ガジェットのベルト状のアームを魔力を使う事なく巧みな体捌きで躱しながら相手へと接近し、右腕のガンドレットにあるカートリッジの収納庫から一発を消費して強引に右拳へと炎を纏わせると、球体のど真ん中に炎の軌跡を残しながら右ストレートによる一撃を叩き込んだ。

 いくらAMFを展開しているからといって、発生した魔力を一瞬で掻き消すには至らず、ただ局部付与をし辛くしただけに効果は留まっていたために、アルファードの拳をまともに装甲内部へと到達させてしまっていた。

 キャロが自身の使役竜フリードリヒの真の力を引き出した状態でも、砲撃魔法では中々抜けなかった防御シールドと装甲ではあったが、もともと防御魔法を砕くのに最適な接近戦を得意とする彼にとって、この程度の結果は造作も無い事である。

 実際、反対の東側を守るスバルも同じような形で大型ガジェット、通称“ガジェットⅢ型”を破壊しているために、むしろシールド破壊が得意な魔導師の方が戦いやすい相手でもあった。

 だが一機を破壊したところで敵が攻勢を止める訳もなく、アルファードは球体のど真ん中を破壊した拳を引き抜くと同時に、その場から退避して次の標的へと足を走らせる。

 炎の足あとをアスファルトの路面に刻みながら駆ける彼の背に、今しがた機能停止させた大型ガジェットが爆発した衝撃が届くが、彼はそれよりも目前に迫った3機のカプセル型に向けて一本の炎のナイフを生成し、それを横投げで放り投げていた。

 ティアナや地元部隊が使用している多重弾殻射撃と同じように、AMFの力場を中和させる魔力の膜を重ねられた炎のナイフは、単横陣で並んでいた三機のガジェットのうち中央の機体に刺さると、その形状を沸騰させたかのように膨らませ、次の瞬間には周囲に植えられた木々の葉を大量に散らせる程の爆炎と爆風を巻き上げる。

 舗装されたアスファルトの路面の中央に黒煙が立ち昇る中、前方から更にガジェットが接近してくるのが見えるが、それは後方で援護射撃を行ってくれている地元部隊の面々が放った射撃魔法で何とかアルファードが対応する前に破壊する事が出来ていた。

(この間髪を入れない増援の投入、質ではなく数で押し切ろうとする手口。相手は中々に現実主義だな……対AMF戦闘が行える人員が少ないこちらにとって、一番やられたくなかった戦法だ)

 まともな射撃魔法はなく、誘導弾などの術式もデバイスには組み込まれていないために一機ずつ、または爆発に巻き込んで最大で3機ずつしか破壊できないアルファードは、その額に若干の汗を浮かべはじめていた。

 腹回りを晒した黒いノースリーブのインナーの上に前開きの丈の短い白い半袖ジャケットを着込み、ベルトで固定された前開きの腰巻と黒いズボンといったものが彼のバリアジャケット姿であり、デバイスである“エクスキューション”は両前腕に装着されたカートリッジ収納庫のあるガンドレッドと、両足に装着された同じく収納庫のあるブーツ型のレッグアーマーが展開時の武装となっている。

 このデザインは六課のパーソナルカラーに合わせるために、他の新人たちの新デバイス開発に携わった者達が本来なら首都防衛隊のものであったデータを上書きしてまで設定した物なのだが、額の汗同様に晒された腹回りにも汗が滲み始めているために、彼の鍛え上げられた腹直筋や脊柱起立筋などの筋肉群が艶を帯びて、どこか他の少女たちとは違った暑苦しい疲労感を醸し出していた。

(だが敵の手腕は、どこか懐かしさすら覚えるな……確か、第38管理世界での時だったか、これと同じような手を使ってゲリラが当時駐留していた管理局員たちと敵対していたな。あの時は特に何も感じなかったが、こうしてやられると厄介極まりない)

 後方からの地上部隊による援護射撃のお蔭で、時間にして1分程度のものであったがアルファードは足を止める事が出来た……しかし、攻め込まれ続けて多少弱気になっていたためか、普段なら思い出そうともしない過去の出来事を反芻してしまっていた。

 自身の精神力が気付かぬうちに削られていた事にアルファードは舌打ちをしながら認識するが、そんな事で苛立ちを見せる程、彼は年齢の割に子供ではない。

 再びガジェットの迎撃に移った彼は、先ほどのシャマルとの通信を思い出す。

(そろそろリイン曹長が到着する筈だが、まだか……)

 敵の光学兵器による射撃が飛び交う中、一機のガジェットに炎のナイフを投げる傍ら、チラリと後ろの地下駐車場入り口を見やるが、そこにはまだ合流予定のリインの姿は見られない。

 マイナーな敵の手法を経験のお蔭で逸早く察知したが故に、上官であるシャマルに思わず具申してしまったのは部隊に貢献するためなので許されるとしても、こう消耗戦に持ち込まれてしまっては自分がやろうとしている探索や奇襲に支障が生まれかねない。

 息は切れていないが、次第に元々それほど多くも無い魔力量を削られていくのを感じていたアルファードが、敵よりも合流予定のリイン空曹長に意識を傾け始めていた丁度その時、後方の地下駐車場入り口から浮遊する小さな少女が普段とは違う作戦時の顔つきを見せながら姿を現した。

「お待たせしましたです!」

 カーキ色の六課制服ではなく、白を基調とした肩を露出したノースリーブや腰巻が特徴的な騎士甲冑を身に纏った、腰まで伸びた長い銀髪が見る目を誘う少女リインフォースⅡは、地元部隊員たちの横を抜けてくると一直線にアルファードの隣へと風を切って飛んでくる。

 それに伴い、彼女の合流を確認したアルファードがエントランスホール屋上で現場管制と指揮を行っているシャマルに通信を入れる。

『こちらアルファード、リイン空曹長との合流を完了しました。これより敵召喚魔導師の探索へと移行してもよろしいでしょうか?』

『少し待って。今からそっちにスバルを転移させるから、彼女が戦闘行動に入ったら探索へ向かって頂戴』

 耳の穴にいれたインカムを右人差し指で押さえながら、シャマルからの通信を一句も逃さずに把握したアルファードは、左腕で防御魔法であるシールドを展開して隣に並んだリインをガジェットの光学兵器から守った。

「これからスターズ03が西の防衛を引き継ぐそうなので、もうしばらく戦闘継続との事です」

 大体、人の頭程度の身長しかないリインを防御魔法で守りながら、アルファードは目の前で浮遊している彼女にシャマルとの通信内容の要点だけを話す。

「分かりました、戦況は中で確認していたよりも厳しそうですね」

 先程まで主であるはやてと共にいたリインは、ホテル内で外の様子を伺っていた時よりも現場の空気が緊迫している事に眉をひそめた。

 その言葉を正面のガジェットを見据えつつ聞いたアルファードも、珍しく深刻そうに頷く。

「はい、戦況は確実に向こう側に傾いています。正直、こちらに綻びが出るのは時間の問題かと」

「一番最初に崩れるのは、多分ホテル正面を守ってる地元部隊の方々です。練度は問題ありませんが、やはり対AMF戦闘に慣れていないと厳しいようですからね」

「隊長達は出られないのですか?」

「出そうと思えば出せますが、今は会場警備と一緒に外の状況を中に伝えないようにするだけで手一杯です。本当なら、こういう事はオークション開催を強行したホテル側が受け持つ筈なんですが……」

 蒼い魔導書、自身の一部とも言える“蒼天の書”を両手で抱えたリインは、戦闘が続く外とは違った事情で厄介なホテル内部の状況に何やら悩んでいる様であったが、現場で動いているアルファードにとっては関係のない話であるために、彼はそれ以上突っ込むような真似はしなかった。

 すると、リインを守るためにシールドを張っていたアルファードの後ろに、緑色の魔力光を放つ三角形の転移魔方陣がアスファルトの上に形成される。

 これに同時に振り向いた二人の前に、バリアジャケット姿のスバルが緑光に包まれながらホテル東側からの転移を果たした。

「お待たせ! 後は任せて!」

 言うが早く、スバルは自身のローラーブーツ型デバイスの車輪をフル稼働させ、アルファードとリインを追い抜いて前方から光学兵器による射撃を行っていたガジェットの群れへと突貫していった。

 アルファードとしては後方に控える地元部隊の人数や射撃精度、アスファルトの路面の左右に広がる森林地帯の中でガジェットを視認できる距離などを教えてから引き継ぎたい所であったが、そんな悠長な時間も無いために早速防御魔法を解いて前方へと走り出した。

 リインを横に、スバルの突貫に乗じて正面突破を図ろうとしているアルファードのインカムにシャマルからの通信が入る。

『もう一度確認するけど、時間は30分までよ。魔力反応が点々としている場所はそこから約6㎞地点にあるけど、大体どれくらいで着ける?』

 念話とは違い、インカムによる通信なのでアルファードは直接声に出して答えた。

 また、周囲は戦闘に伴う雑音などが響いているために、敵に聞かれることなど構わずにアルファードは声を張り上げていた。

「魔力を使用すれば5分以内で到達できますが、目的地より1㎞前の地点で一度自分の魔力反応を消すためにデバイスを解除します。なので、8~9分程度で着けるかと」

『デバイスを解除するって、大丈夫なの?』

「危険は伴いますが、こちらの方が確実に敵に接近する事が出来ます」

 スバルが切り開いた道を駆け抜け、ガジェットの波を通り抜けたアルファードは自信に満ちた様子でシャマルの心配を受け入れる。

 まだ前回の怪我が治って時間もそう経ってはいないために、シャマルは彼の身を案じずにはいられなかったが、今は実際の所、何やら考えのある彼に任せる他ないため、彼女は個よりも集団を取った。

『分かったわ。でも危なくなったら即時撤退するのよ?』

「了解」

 シャマルの念押しに、一言でアルファードが答えると通信はそこで途切れた。

 時間はそう無い……前方はアスファルトで舗装された路面が続いているために、まだペースは保てるが防衛ライン際にいけば、そこには森林地帯しか無く足場は木の根などが埋まっている土の地面になるために非常に走りづらくなる。

 ならばと、アルファードは隣を飛んでいたリインに「リイン曹長、こちらに掴まっていてもらえますか」と一言掛ける。

 突然掛けられた言葉に、一瞬戸惑ったようにキョトンとした顔をしたリインであったが、小さな彼女は飛びながら言われるがままに、アルファードの右肩辺りのバリアジャケットを確りと握りしめた……瞬間、彼の両足に装着されたブーツ型のレッグアーマーの踝辺りにある収納庫から、左右合わせて二発のカートリッジが使用され排出口から吐き出される。

 すると、彼の両足は魔力変換資質で具現化された炎を纏い始め、走っていた速度が肉体強化系の魔法で格段に跳ね上がる。

 いや、これは走るというよりも、地面を抉るように進む一つの弾丸と表した方が適格で、彼が通り過ぎて行ったアスファルトの路面には炎による熱で融解した破片などが散らばっていた。

「リイン曹長、大丈夫ですか?」

 邪魔にならない程度のザンバラな髪の毛を靡かせながら、アルファードは右肩に掴まっているリインに確認を取る。

「はい、一応は大丈夫です。私だってシグナム副隊長やヴィータ副隊長で慣れている事ですから」

 言葉とは裏腹に、必死に両手を離すものかと顔を強張らせているリインは、おそらく上官としてのプライドだろうか無理矢理に笑顔を作って見せていた。

 元々、アルファードは移動だけに専念するのならば、新人フォワード陣の中でもスバルと互角を張れる機動力を持っており、更には直線のみのダッシュ力ならば彼はエリオに少し劣る程度ではあるが、それだけの速度を出せる能力を持っている。

 故に、ホテルへと接近していくガジェット群が彼らに気づいた時には既に射程外へと間合いを離されており、先ほどから一度も敵からの攻撃に晒されてはいなかった。

 自身が振る右腕の余韻でタオルの様に体を揺らされているリインの強がりを受け、アルファードは一瞬スピードを落とそうかとも考えたが、今はそういった気遣いをしているほど悠長な状況ではないので、とにかく目的地への到達を急ぐことにしたのであった。

 

◆(4)

 

 森林地帯の中にしては、ある程度周辺が開けた場所に四人の男女が一方を見つめながら静かに佇んでいた。

 方角にして11時の方向を黙して望んでいた四人の正面に、まるでTVの電源を着けたかのように一つの空間投影モニターが展開される。

『御機嫌よう騎士ゼストにルーテシア、それに二人も。経過は順調の様だね』

 そこに映っていたのは、男性にしては髪の長い優男……髪の色は紫、切れ長な怪しい光を放つ金色の瞳は底知れない人間性を現しており、白い肌に細い輪郭、スーツの上に着こんだ白衣から彼が戦闘ではなく智謀に長けた人物であることを伺わせていた。

「はいDr、もう暫くすれば防衛網に穴を開けられるかと」

 一方を望んでいた四人の内、黒いバイザーで口元以外を隠した女性が落ち着いた口調で答える。

 癖毛の目立つ黒い長髪に、女性として恵まれた曲線を晒すヒール付のボディスーツを身に纏い、肩に白いコートを羽織った女性の隣には、髪の長さと羽織っているコートが黒い事以外は瓜二つの人物が口を瞑って黙していた。

 すると、長い黒髪の女の隣に立っていた、茶色いローブで身を隠した大男が静かに口を開く。

「何の様だ」

 低く、相手を威圧するかのような声音であったが、画面上の優男は不敵な笑みを浮かべたままだ。

『冷たいねえ。まあ一応依頼した身だからね、ルーテシアにアインスとエンデの様子を見に来たのさ』

「……」

 探りを入れてくる相手を逆に弄び、それを悦とするかの様な優男の態度に、騎士ゼストと呼ばれた大男はローブの陰越しに歴戦の積み重ねにより得た本物の眼光を向ける。

 しかし、優男にたじろぐ様な気配はなく、一方的な嫌悪感を向けられたとしても他者の評価など気にしないと言った図太さが感じられた。

『アインスとエンデには目的の相手がいるみたいだけど、ルーテシア。事前に伝えてあるとは思うけど、あそこに君の探し物は無いんだ……だけど、こうして協力してくれて私は嬉しいよ』

 優男にルーテシアと呼ばれた、白いローブで顔を隠した小柄な人物は、ゆっくりとした動作で左右に首を振った。

「ううん、Drにはお世話になってるから」

『君は優しいね。そのデバイス、“アスクレピオス”に私が欲しい物のデータを送ったから、それを頼りにしてくれたまえ。吉報を待っているよ』

「うん、御機嫌ようDr」

『御機嫌ようルーテシア。アインスとエンデも、今回は顔合わせ程度で済ませてくれよ。君たちが本当に必要になってくるのは、もう少し先だからね』

「安心してくださいDr、それは私とエンデも心得ておりますから」

『そうかい、私は君たちにも期待しているよ。ではまた』

 癖毛の目立つ黒い長髪を持つアインスと呼ばれた女性が、顔の殆どが隠されたバイザーから覗く口元だけで笑みを作ると、それまで正面に展開されていた空間投影モニターが音を立てもせずに中空から形を消す。

 優男の声が途絶えたことによって、一拍の間だけ静寂が辺りを包むが、ふと白いローブを被っていたルーテシアがそれを脱ぎ、隣に立っていたゼストという大男に軽く畳んで預けた。

「本当にいいのか? レリック以外の事に関しては、互いに不可侵を決めていた筈なんだぞ」

 フードを被ってまで全身をローブで隠していたルーテシアは、ゼストの言葉に表情一つ変えず……いや、表情という物が存在しないかのように答える。

「ゼストとアギトはDrの事を嫌ってるけど、私はDrの事そんなに嫌いじゃないから」

 コスモスの様な鮮やかな色をした長髪に、まだ幼さの残る瑞々しい肌と力なく見開かれた紅い瞳。

 真ん中に分けられた前髪から覗く額の模様は、魔法術式的な意味があるのかは分からないが、肩や鎖骨を露出した黒いワンピースと彼女が持つ儚げな印象も相まって、ルーテシアという少女は見る物の眼を引くミステリアスな雰囲気を醸し出していた。

「そうか……」

 ルーテシアの言葉に、もう何も言う気は無いとばかりに一言呟いたゼストは、そのまま一歩後ろへと身を引いた。

「ではルーテシア、私たちも動きます。また後で会いましょう」

「うん、アインスもエンデも気を付けて」

「ありがとうございます、ルーテシアお嬢様」

 前者は白いコートを羽織ったロングヘアのアインス、後者は黒いコートを羽織ったショートヘアのエンデ、二人はそれだけ言うと、ヒールを履いていたとしても女性にしては長身な肢体をしなやかに前へと動かし、鬱蒼と地面から生い茂る雑草を踏み鳴らしながら、自分たちの役割と願望を果たすために木々が立ち並ぶ森林地帯へと姿を消していった。

 その後ろ姿を見送ったルーテシアは、手の甲に着いている紫の宝玉が輝いているために既に起動状態となっているグローブ型のデバイス“アスクレピオス”を嵌めた両腕を左右に広げた。

 瞬間、彼女の足元に宝玉の色と同色の魔力光を放つ魔方陣が出現する。

 大きな四角形の魔方陣が展開されるのを彼女の後ろで見ていたゼストは、その魔力反応の大きさに危うさを感じていた。

(先程までは小出しの転移魔法のみであったために、ダミー装置のお蔭で居場所を割り出される事は無かったが、今ので大体の位置はばれてしまったな……もっとも、ここまで到達できる人員が向こうに余っているとは思えないが)

 襲撃を行っているホテルは自分たちが立っている場所から11時の方向に約6㎞地点の位置にあり、先程からの攻勢に対しての対応を見る限り、向こうには対AMF戦闘の訓練を積んだ者達が少ないように感じていたゼストは、防衛に専念している相手がわざわざ人員を削ってまでこちらの探索に来る事は無いと踏んでいた。

 実際、相手の探索魔法に引っかからない様に後方で事前に待機させていたガジェットを三機単位でダミー装置が大量に埋められた地点に転移させ続けた結果、多少魔力量を削る事になるが一回の転移魔法による魔力使用量を最小限に抑え、更には相手の魔力反応を探る索敵をかく乱する事に成功し、間髪を入れない謎の増援を演出する事が出来たために、ホテルを守る防衛部隊は大量のガジェットに対応する事以外に手が回っていない。

 更に、これからルーテシアが行う事を考えれば、相手から戦力を分断するという選択肢を奪う事になるのは明白だ――――が、これまでの流れを可能とするのはルーテシアの常人を凌駕する魔力と召喚魔法という特殊技能があってこそのものだともゼストは認識していた。

「我は乞う、小さきもの、羽ばたくもの、言の葉に応え、我が命を果たせ」

 ゼストが後ろで見守る中、ルーテシアは一つ一つの言を静かに告げていく。

 彼女の足元に広がる四角い魔方陣、これは召喚魔法陣によるものだ――――故に、魔方陣の中からゆっくりと透明な触手が三本出現し、まるで地面から生えてきたかのように上へと先端が昇っていく。

 液体の様に透明な触手の中には、小さな丸い物体が大量に浮遊しており、詠唱を終えた彼女が「召喚、昆虫小隊(インゼクトツーク)」と呼び寄せた者の名を発した瞬間、これまで生き物のように動いていた透明な触手が一気に弾けた。

 すると、液体の様な触手の中で浮遊するだけであった小さな丸い物体の中から、正に卵から生命が羽化するかの様に小型の羽虫が姿を現す。

 羽虫……いや、自然で生まれた生物としての形ではなく、人の手によって作られた様な、若干画鋲の様なフォルムをした小型のそれは、大量の数で自らを召喚したルーテシアの周りを飛びまわっていた。

「ミッション、オブジェクト・コントロール。いってらっしゃい、気を付けてね」

 そしてルーテシアは召喚した羽虫たちに指令を与えるとともに、まるで家族の身を案じるかのように言葉を掛けた。

 彼女の言葉に答えたのか、大量の羽虫たちは一様に紫色の発光現象を起こすと、そのまま周辺の木々の高さを越えて空へと飛び立っていった。

 次に彼女は、これまで小出しにしていた転移魔法を中断し、今までで最も大きな魔方陣と魔力反応を周囲に広げ始めた。

 これから彼女が行おうとしている事……それは、副隊長陣が守っていたラインを通り越し、ホテル周辺に直接大量のガジェットを転移させるというものであった。

 

◆(5)

 

「流石ルーテシアお嬢様ですね。バイザーの機能を使わなくとも察知できる魔力反応をここまで届かせるなんて」

 黒いコートを肩に掛けたショートヘアのエンデが、既に1㎞後方となった位置からルーテシアの反応を感じたことに驚きを見せた。

「当然でしょう、なんせ彼女はレリックウェポンの完成形第一号なのですから」

 エンデの前を先行していたアインスが、近くにあった木の幹に右手を添えながら嬉しそうに語る。

 二人は魔力を行使した走りで森の中を疾走していたのだが、そろそろ二手に分かれる時が来ていたために足を止めていたのだ。

「では、私たちも本格的に動くことにしましょう。ルーテシアお嬢様ばかりに負担は掛けられませんから」

「ええ、まあそれは良いのだけれども……エンデ、本当に私が“お父様”と会ってもいいのね?」

 手を添えていた木の幹から体を離し、後ろへと振り返ったアインスはどこか申し訳なさそうにエンデを見やっている……。

 そのバイザー越しの視線に対し、エンデは待機状態にしてあったチョーカー型のデバイスを起動させながら向き合った。

「はい。今回は私たちの中でも一番長く“父”の事を想っていたアインスに譲ります。私はガリューさんのサポートに回りますので、気にしないでください」

 体のラインを露わにする黒いボディースーツの上に装着されたエンデのデバイス――――両腕にはガンドレッド型の防具、両足にはブーツ型のレッグアーマーと、まるでアルファードやスバルを思わせるかのような近接型の装備であった。

「そう……分かったわ。じゃあ今回はあなたの言葉に甘えさせてもらいます、ありがとう」

 バイザーで隠れた目鼻立ちは分からないが、口元を見ればアインスが微笑みを浮かべているのは一目瞭然であり、それを見たエンデも「どういたしまして」と口元に笑みを浮かべていた。

「じゃあ、ここで別れましょうか。また会うのは撤退時ね」

「はい、では参りましょう」

 それだけ二人は告げると、木漏れ日が差し込む森の中で別れた相手に振り返る事も無く、両者は互いに目的の場所、そして人へと足を走らせるのであった。

 

 




 この話が終わるのは後2話くらいかな?
 なるだけ話を早く進められるように頑張ります。
 では、感想があれば書いてくださると嬉しいですノシ
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