炎狼   作:ゲレゲレ

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第二話

 アイツとの出会いは、自分の無力さを痛感させられるものだった……。

 集団での訓練が可能な見通しの良い広い平野の演習場……。

 その中心で、たった一人の同い年ぐらいの少年が複数の魔導師の卵を、何の問題も無く倒れ伏せさせていた。

 辺りに漂う、雑草を燃やした際に発生した、黒煙のむせるかえる匂い。

 気づけば、雑草以外に何もなかった演習場の中心には、彼以外の者や物は誰一人・何一つとして立ってはおらず、土の地面は焦げ黒ずんでいた。

 もう一度言う……たった一人で、だ。

 眼にかからない程度の黒いザンバラ頭に、確りと隆起はしながらも均等に引き締まった、鍛え上げられた肉体が印象的な、切れ長の眼の整った顔立ちの少年。

 何の飾りけも無い訓練生用のバリアジャケットを身に纏いながらも、しかし、その佇まいは、まるで近づけば、それだけで燃やし尽くされそうな一つの紅蓮の“炎”の様で……。

 私は、あの時、アイツの姿に“畏怖”を覚えていた――――

 

 ◆(1)

 

 結成式を終え、すぐに其々の職務にへと着いた機動六課の面々。

 それは、今回の部隊編成で前線を任される事となったフォワードの新人たちも例外ではない。

 隊舎のとある廊下で、六課フォワードの新人五人を引き連れて、彼らの指導員役である高町なのは一等空尉がニコやかな表情のまま後ろへと首だけで振り返った。

「そう言えば、お互いの自己紹介はもう済んだ?」

 まだ19歳という若さで戦技教導官という役職に就いている彼女は、柔和な雰囲気を醸し出しながらも、確りとした振る舞いでフォワード達5人に尋ねる。

 茶色がかった長い髪をサイドで括り、ハッキリと見開かれた可愛らしい瞳が特徴的な女性で、160㎝の均整の取れたスタイルが彼女の立ち姿に華を添えている……しかし、そんな普通に街で見かけたら、周囲の目を引いていそうな容姿をしている彼女は、時空管理局の中でも屈指の実力を誇る空戦魔導師なのだ。

 故に、彼女の部下であるフォワード5人は、尋ねられた瞬間に姿勢を正す……ただ一人を除いて。

「え、えっと……」

 上司であり教官でもある、なのはに視線を向けられたスバル・ナカジマ二等陸士が、何やら戸惑った様子で口ごもる。

 青いショートヘアと、元気一番といった気持ちが伝わってくる大きな瞳が活発そうな雰囲気を醸し出している少女なのだが、意外に実っている女性的な膨らみが彼女のボーイッシュな容姿と反比例していて逆に印象的であった。

 すると、そんな口ごもった彼女よりも先に、隣を歩いていた同じフォワードの真面目そうな顔立ちをした少女が、なのはの問いに答えた。

「名前と、お互いの経験やスキルの確認はしました」

 橙色のツインテールに、少しだけ吊り上った瞳が、自分にも他者にも厳しそうな印象を与える少女――――ティアナ・ランスター二等陸士、先程、隊舎前でスバルと共にいた人物だ。

「あと部隊分けと、コールサインもです」

 ティアナの後に続いたのは、一人の小さな子供であった。

 癖毛のある赤髪に、10歳というあどけなさを感じさせながらも、細い顎のラインと精錬された顔のパーツが、年齢よりも確りとしたイメージを与えてくる。

 おそらく将来は相当な三枚目になる事であろう彼の名前は、エリオ・モンディアル三等陸士。

「そう、じゃあ、訓練に入りたいんだけど、良いかな?」

「「「「「はい!」」」」」

 なのはが優しげな表情で眼を細めると、5人が同時に踵を合わせて返事をする。

 スバル、ティアナ、エリオ……そして、残りの二人。

 一人は、エリオとスバルに挟まれた位置に弱々しく立っている少女で、年齢は隣に立つ少年と同じ10歳だ。

 朗らかな空気を身に纏った、桃色セミロングの少女は、荒事よりも動物を愛でている方が似合いそうな顔立ちをしていて、もしも思いっ切り抱いてしまったのなら、すぐに壊れてしまいそうな、華奢で小柄な体型をしている……名前はキャロ・ル・ルシエ三等陸士だ。

 また、彼女のすぐ後ろには、鞄に入りそうなぐらいに小さな“白竜”が飛んでいた――――白竜とは文字通り、ファンタジーものの物語にも出てくる竜の事で、二つの羽・長い首、少しだけ人間染みた胴体に長い尻尾といったシルエットをしている。

 そして、最後の一人は他の初々しい四人とは違った、無機質な顔立ちをした少年だ。

 背は172㎝、年齢は前を歩くティアナと同じ16歳なのだが、その身に纏った鋭利な空気が彼を俗世から切り離していた……三白眼の切れ長な瞳に、細く整った輪郭と顔のパーツ。

 今はカーキ色の制服をスマートに着こなしているが、彼が一度それを脱げば、彫刻の様な肉体が露わとなるであろう。

 その精錬された容姿から、女性の気を引きそうなものだが、目にかからない程度の無造作なザンバラ頭などを見ると、彼自身は周りからの評価などは気にしていない様であった。

 ふとなのはが、その四人の後ろに立っている少年に目を向けた。

(この子が、ハヤテちゃんが言ってたアルファード君……)

 なんだか、悲しい眼をした子だな――――

 事前に聞かされていた、地上本部首都防衛隊から来たという情報から、規律に厳しそうな立ち姿はイメージ通りなのだが、どうにも、なのはには引っかかる所があった様だ。

 しかし、今はそれを気にしている暇は無い。

 なぜなら、これから彼らには、どんな事情を抱えていようと自分の教導を受けてもらうのだから。

 

 ◆(2)

 

 アルファードが訓練を始めるために、更衣室でカーキ色の制服から、動きやすい衣服へと着替えていると、隣のロッカーを割り当てられたエリオが、何やらジッと彼を見上げていた。

 これに、一瞥だけ目を向けたアルファードであったが、今は勤務時間中であるために、それを無視して着替えをぱっぱと進めていく。

 しかし……。

「あの……」

「……何だ?」

 無視を決め込もうとしていた彼に、エリオが遠慮がちに話しかけてきた。

 流石に、これから一緒のフォワードとして任務をこなしていく事になるであろう相手に対して、最低限のコミュニケーションも取ろうとしないのは拙いと考えたアルファードは、一拍の間を置いてから反応した。しかし、着替えの手は止めていない。

「いえ、その……アルファードさんって、元は首都防衛隊の方だったんですよね?」

「そうだ」

 何だ、そんな事かと、アルファードは詰まらなそうにエリオに答えた。

 要は、こう言いたいのであろう……なぜ、“陸(おか)”の首都を守っていた人間が、“海(うみ)”の人間が多い、この部隊に配属される事となったのか?

 そんなもの、俺が聞きたいぐらいだと言いたいところだが、こんな子供に言ったところで、どうしようもない事は分かっている。

 故に、アルファードはそれ以上の会話をしようとはしなかった。

 しかし、エリオは歳の割には確りしているものの、子供らしい空気の読めなさで話を続けてしまう……。

「参考として聞きたいのですが、首都防衛隊の方たちって、一体どういうトレーニングをしているのでしょうか?」

「……?」

 アルファードは、自身が想定していた問いと違っていたために、一瞬だけエリオの方に気を向けたのだが、また着替えを再開する……が、この程度の事なら、彼にも別に答えないという理由はない。

「基本的に、訓練は当直の合間に各自で行ってる。何をするかは自由だが、俺はランとウエイトトレーニング、それから実戦的な訓練を続けていた」

 エリオは、アルファードとはまだ先程初めて出会ったばかりであったが、無口な人物として認識していたためか、この返しに意外そうな顔をしてしまう。

「……どうした?」

「え? あ、いえ……何でもありません」

「……どうでも良いが、さっきから着替えの手が止まっているぞ。時間が無い、早くしろ」

「は、はい!」

 思わず呆けていたエリオに、あまり他人の情感を捉える事が得意ではないアルファードは、いつの間にか自身の着替えを終え、さっきまでのやり取りなど無かったことの様に、早く彼に訓練用の衣服に着替える様に促した。

 それに焦ったように返事をして、エリオはようやく中断していた着替えを再開した。

 

 ◆(3)

 

 ミッドチルダ中央区画湾岸地区に居を構える、機動六課隊舎のすぐ近く……。

 海から吹きこんでくる潮風や、波の心地よい音、そして空を飛びまわるカモメの鳴き声が爽やかな気持ちを誘う中、機動六課のフォワード5人、教導隊制服に着替えた高町なのは、そして通信主任兼メカニックのシャリオ・フィオーニ一等陸士が集まっていた。

「今返したデバイスにはデータ記録用にチップが入ってるから、ちょっとだけ大切に扱ってね?」

 海沿いに面した船着き場から伸びる、海面に直接作られた演習場を背にして、青と白が特徴的な教導隊制服に身を包んだなのはが、目の前で横一列に並んでいる5人に向けて笑顔を見せる。

 彼らは今しがた手渡された、待機状態になっている自分達のデバイスを持って気を付けの姿勢で彼女に視線を集めていた。

「それと、メカニックのシャーリーから一言」

 そう言って、なのはは隣に立っていた、腰まで伸びたストレートの髪と大きな丸眼鏡が特徴的な女性を紹介する。

「え~、メカニックデザイナー兼機動六課通信主任のシャリオ・フィオーニ一等陸士です」

 両手を下腹部辺りで重ねて、軽く一礼をする彼女は、事務的な挨拶も早々に人懐っこい笑みを浮かべて。

「皆はシャーリーって呼ぶので、良かったらそう呼んでね?」

 フランクな物言いをしたのだが、4人はこれから控えた訓練に備えて緊張交じりの真面目な表情で彼女の自己紹介を聞いていた……アルファードに至っては、普段通りの無表情なので判断が着きづらいために、他の者達と違って落ち着いた様子を見せていた。

「皆のデバイスを改良したり、調整したりもするので時々訓練を見せてもらったりします。あ、デバイスについての相談とかあったら、遠慮なく言ってね?」

「「「「「はい!」」」」」

 シャーリーからの言葉を終えたら、いよいよ訓練の始まりなのだ。

 スターズ分隊であるスバルとティアナは白いTシャツに青のズボン、そして訓練用のブーツを履いている。

 特にスバルは額に純白の長い鉢巻を巻いて、何やら気合の入った格好をしている。

 ライトニング分隊は、黒いTシャツにダークブルーのズボン、足にはスターズと同じブーツを履いていた……また、やはりキャロ・ル・ルシエの後ろには、小さな白竜が宙を漂っている。

「じゃあ、早速訓練に入ろうか!」

「は、はい」

「……でも、ここで、ですか?」

 フォワード陣を訓練で絞り込んでいく気満々なのか、気合十分に訓練へと入ろうとなのはが告げるが、スバルとティアナが、不思議そうな顔で船着き場の様な所から直接繋がっている演習場に視線を向けている。

 二人の視線の先には、波打つ海面に直接作られた、殺風景な演習場が広がっていた。

 何も無い……本当に何もない、ただ平面の広い演習場。

 確かに、何やら特殊な材質の地面がここからでも伺えるのだが、それにしても平べったい建造物であった。

「ふふ。シャーリー」

 そんなフォワード陣の心情を知ってか、なのはが悪戯な微笑みを浮かべて、既に何かの準備に取り掛かっていたシャーリーに指示を出した。

「は~い♪」

 なのはの指示に元気よく返事をしたシャーリーは、何もない中空に右手を振った。

 すると、どこからともなく表示されるホログラムの空間投影ディスプレイ……シャーリーは、この何もないところから出現したキーボード込みのディスプレイを操作し始める。

「機動六課自慢の訓練スペース。なのはさん完全監修の陸戦用空間シュミレーター」

 これからフォワード陣5人にお披露目するのが余程嬉しいのか、なにやら誇らしげに語りながら、シャーリーは左右のキーボードをそれぞれ左右の手で素早く叩いて行く……そして。

「ステージセット♪」

 そう言って、空間に表示されていたディスプレイの中で、一際目立つ赤色のキーをタッチする。

 すると、これまで何も無かった平面の演習場の地面から光が立ち上っていき、みるみる内に一つの“街並み”が生える様にして姿を現した。

 この光景にフォワード陣5人が、其々思わず口を開けて呆けた声を出してしまう。

 それも仕方ない事であろう……彼らの目の前には、まさに一瞬の内にして様々なビル群が割拠しているミッドチルダの街の情景が威を構えたのだから、驚かない方が無理と言うものだ。

 

 

 

 

「ヴィータ、ここに居たか」

 一方、フォワード陣がいる船着き場ではなく、そこから階段を上がった高台の場所で海上の陸戦用空間シュミレーターを眺めていたヴィータに、後ろから声が掛けられた。

「シグナム……」

 声の主を、ヴィータは腕を組んだまま振り返る事無く言い当てる。

 声の主である、紫紅色の長いポニーテールが特徴的な美麗な女性シグナムは、およそ10歳程度の体型をしたヴィータの横に立つと、片手を腰に当て、彼女にとって楽な姿勢を取った。

「新人たちは早速やっている様だな」

「あぁ」

 二人が見つめる先には、海上の陸戦用空間シミレーター前の船着き場で、フォワード陣5人が、其々の体調や、起動させたばかりのデバイスの確認を行っている姿が映っていた。

「お前は参加しないのか?」

 凛々しい声音で、シグナムは5人を眺めつつ、ヴィータにそう尋ねる。

「一人は違うみたいだが、他の四人はまだヨチヨチ歩きの“ひよっこ”だ。あたしが教導を手伝うのは、もう少し先だな」

 ヴィータはフォワード陣の中でも、既に他とは壁を隔て始めている一人を眺めつつ、訳も無いと言った風に答えた。

「そうか」

 短く相槌を打ったシグナムもヴィータと同じ人物を眺めている。

「シグナムは、アイツをどう思う?」

「アルファードの事か……そうだな」

 他のフォワード陣四人から離れ、一人、自分のデバイスの調子を確かめている少年を指して、ヴィータはシグナムに意見を求めた。

 するとシグナムは、その柔らかい曲線の胸下で腕を組むと。

「私も主ハヤテから聞かされてはいたが、おそらくは“釘を刺した”つもりなのだろうな」

「勝手な事はするな、いつでも見てるってか……性格の悪いこった」

「仕方あるまい。もともと、様々な人脈を使って強引に作った部隊なのだ、“海(うみ)”を良く思ってはいないレジアス中将が過敏になるのも当然だ……」

 シグナムは嫌気がさしたような溜息を吐きつつも、その表情には逆の感情が込められていた。

「だが、あれだけ即戦力になりそうな新人を寄越してくれたんだ。それなりに鍛えて、役に立ってもらうさ」

「だな」

 面白い、来るなら来いとばかりに、強気な微笑みを浮かべるシグナムに、ヴィータは仕方ないと言った表情をしながら、同意を示した。

「だけど、アイツがもしもおかしな真似をするようなら、あたしは容赦しねぇ」

 しかし、ヴィータはすぐに表情を一変させて、思いつめた視線をデバイスのチェックを終えたアルファードに向ける。

「ヴィータ……」

「同じ分隊なんだ。あたしは空でなのはを守ってやらなきゃいけねえ……」

 遠くからではあるが、強い感情を向けられたのに気付いたのか、アルファードが、その無機質に整った顔をヴィータとシグナムの立っている高台へと露わにした。

 決してルーキーとは思えない、その油断の無い切れ長の瞳と、いつでも戦闘態勢に入れる隙の無さが感じられる立ち姿……シグナムの言うとおり、確かに即戦力に成り得るかもしれない少年は、それでいて、いつこちらに不利な行動を取るのか、中々尻尾を見せてはくれそうにない警戒心を持っていた。

「……頼むぞ」

 ヴィータの眼に込められた力強い意志を見て、シグナムは静かに告げた。

 

 

 

 

 船着き場とは言っても既に改装されてしまった所から見た感じだと、普通のオフィス街の様な印象を持っていたのだが、実際に陸戦訓練用シミレーターの演習場に立ってみると、どうやらここは、まだ状態を保っている廃墟群をイメージした場所であった様だ。

 所々に亀裂の入ったコンクリートのビルは、窓ガラスが無残にも割れていたり、蜘蛛の巣上の罅を浮かべていたりしていて、ゴーストタウンというよりも紛争でも起きたのではないかと思えるぐらいに殺伐とした風景であった。

 また、5人が立つ舗装されたアスファルトの道路にも、亀裂や地割れが入っている。

 そんな中、デバイスである自作の魔力駆動型ローラーブーツを走らせ、ボーイッシュな少女、スバル・ナカジマが、黙って辺りを見渡していたアルファードへと近づいてきた。

「アル」

 背中に感じた彼女の声に、アルファードは徐にそちらへと振り向いた。

「何だ?」

 海から吹きこんでくる潮風と、実体を持った演習場のビル群から生まれる風に、そのザンバラな黒髪を揺らしながら、アルファードはこちらを愛称で呼んでくる彼女を視界に入れる。

 外見通り明るく元気な、ボーイッシュな少女という雰囲気を醸し出しているが、その右手には無骨なデバイスが装着されており、また両足にも、ローラーブーツ型のデバイスが装着されている。

 デバイス……簡単に言ってしまえば、この世界の魔導師たちが使う、魔法使いの杖の様なものだ。

 これは、使用者が魔法を使う際の補助役として存在する技術で、魔法をプログラムとして保存して扱う、いわばハードディスクの様な機能が特徴だ。

 デバイスの種類としては、ミッドチルダ式とベルカ式といった、大きく二つに分けられるものがあるのだが、そこから更に、ミッドチルダ式には魔法を保存する機能しか持たないストレージデバイスと、自立行動し思考力おも持つインテリジェントデバイス……ベルカ式には、今、スバルが右手に着けている様な無骨なナックル型のデバイスの様な、魔力を打撃攻撃に利用する際に武器型を取るアームドデバイスや、術者と融合する事によって真価を発揮する融合型デバイスがある。

「今日から一緒の部隊なんだし、これから改めてよろしくって事で、はい♪」

 そう言って、振り返ったばかりのアルファードに、スバルはデバイスが装着された右手を開いた状態で差し出す。

 これが示す意味は、アルファードも知っている。

 握手――――つまり、スバル・ナカジマは自分と親睦を深めようと言うのだ。

 アルファードは、そんなこちらを見ながらニコニコと微笑んでいるスバルに別に断る理由もないと、差し出された彼女の右手を同じ右手で握り返した。

「よろしく頼む」

「うん♪」

 隊舎の入口の時とは違って一応は反応を示してくれるアルファードに、スバルも何だか嬉しそうだ。

 アルファードの今の格好は、訓練用の衣服に、両手両足にデバイスを装着した格好だ。

 両手にはガントレットの様な、拳と前腕を守っている無骨な防具……両足には、脛と足を覆った軽装のアーマーが日の光を反射させている。

 そして、その双方には何やら収容庫の様なフォルムも見られた。

「ティアー! ティアもこっち来ようよ!」

 アルファードと自分だけ力を込めた硬い握手を交わしながら、スバルは隊舎入口と同様、拳銃型のアンカーガンのデバイスを持っているティアナに、こちらに来るように求めたのだが……。

「今は指示を待っている最中でしょ、スバル」

 しかし、またしてもティアナは、スバルと握手をしているアルファードとは関わろうとはせず、ただひたすらに彼から距離を置こうとしていた。

 そして、アルファードも……。

「そろそろ放してくれないか」

「……え」

「訓練が始まる」

「あ……ごめん」

 ティアナ同様、冷たくそう言い放って、スバルと交わしていた握手を解いてしまった。

 同時に、彼は何の未練を見せもせずにスバルから離れて行く。

 どうして、この二人は昔っから反りを合わせようとしないのか?――――まあ、原因自体は知っているのだが、それにしても、だ。

 スバル的には、あの二人は本質こそ違えど、似た者同士の様な気がするのだが、現実は甘くは無いらしい。

 そうやって、離れて行くアルファードの意外に広い背中を追っていると……。

「あ、あの……」

 一人のか弱い少女が、彼の下に近づいてきた。

 桃色のセミロングの髪に、華奢で小柄な体型のキャロ・ル・ルシエだ。

 その小さな少女は、一生懸命にアルファードの事を見上げながら、何かを言おうと目を潤ませている。

「何だ?」

 あちゃ~、もうちょっと、優しく対応できないのかなぁ……と、その光景を後ろから、既に見守る体勢に入っていたスバルが額に手を当てていた。

 案の定、何の配慮もなされていないアルファードの対応に、小さく気弱なキャロはビクリと体を震わせていた。

「そ、その……」

「……」

 無言で、その無機質な視線を、キャロの見開かれた目に合わせるアルファード。

 仏頂面で、しかも切れ長の鋭い三白眼に、キャロは次第に後退りを始めてしまう。

 しかし、どうやらキャロは、そんじょそこらの気弱な少女とは違った様であった。

「ア、アルファードさんは、訓練中に、何か掛けて欲しい補助魔法とかって、ありますか?」

 指空きの、手の甲にレンズの様な物が着いたグローブ型のデバイスを装着した両手を、胸の前で握りながら何とか絞り出したキャロの言葉に、アルファードは。

「特には無い。必要な時は指示を出させてもらう」

「……分かりました」

 冷たい……本当に冷たい答えを返した。

 少しは“何が使えるのか”だとか“補助は頼んだぞ”ぐらいの事は言えないのだろうか?

 もしくは、“後ろは頼んだ”的な事もだ。

 今から走って行って、あの男に一発言ってやりたいスバルであったが、彼はそのままフルバックであるキャロを置いて、ライトニング分隊のフロントアタッカーの位置へと歩いて行く。

 スバルもフロントアタッカーの位置に着かなくてはならないのだが、ここはまず、キャロのフォローをするべきだろうと、既にシュンと表情を落ち込ませていた彼女にへとローラーブーツを走らせた。

 ちなみに、スバル・ティアナの二人は、高町なのはを隊長として置いた、ヴィータが副隊長の分隊、スターズ分隊に所属し、キャロ・エリオ・アルファードの3人は、フェイトを隊長として置いた、シグナムが副隊長のライトニング分隊に分けられている。

「アルは、昔からああいう感じだから、気にしちゃダメだよ、キャロ」

「スバルさん……」

 やはり、既にアルファードに対して苦手意識を持ってしまっていたキャロに、スバルは務めて明るい笑顔で声を掛けた。

「それに、もうすぐ訓練が始まるんだし、気持ち、切り替えて行こう!」

「……そうですね、分かりました!」

 グッと無骨なナックル型のデバイスを装着した右手で握り拳を作るスバルに、キャロも何とかアルファードへの戸惑いから持ち直した様だ。

 すると、そんな時であった。

『よしっと、皆、聞こえる?』

 オフィス街のゴーストタウンをイメージした演習場に立つ、フォワード陣5人其々の耳に、直接なのはの声が聞こえてきた。

 これに、5人は同時に「はい」と返事をする。

 現在、5人を教導する立場にあるなのはは、この演習場の大半が見渡せる、あるビルの屋上で状況を確認している。

「じゃあ、軽く八体から」

 ビルの屋上から、下の状況を見下ろしていたなのはが、後ろで空間モニターを操作していたシャーリーに振り返って指示を出した。

「動作レベルC、攻撃レベルDってところですかね♪」

 どっちとも、明るい声音で、これからフォワード陣5人が行う訓練の内容を決めて行く。

「うん」

 シャーリーに指示を出し終えたなのはは、再び自身が立っている屋上の下に見える5人に視線を落とした。

『私たちの仕事は、捜索指定ロストロギアの保守管理』

 スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、アルファードは、いよいよ訓練が始まるという事で、5人同時に一つの方向を注視して身構えた。

『その目的のために私たちが闘う事になる相手は……これ!』

 なのはの言葉と共に、5人が注視していた、前方の幅の広い道路の地面から幾何学的な魔方陣が生まれ、そして、そこから八体のカプセル型をした自立飛行機械が現れた。

 青の塗装に、カプセル型のシルエットの真ん中には、180度を見渡せそうなカメラのレンズが光を放っている。

(あれは……)

 そのフォルムに見覚えがあったアルファードは、既に隣で構えを取っていたスバルとエリオと共に、隙の無い半身の左構えを取った。

『自律行動型の魔法機械。これは、近づくと攻撃してくるタイプね。攻撃は結構鋭いよ』

 耳に届くシャーリーの説明を、アルファードは頭の隅に抑えながら、今回の訓練の対象である相手を思い出す。

(確か、ガジェットとか言ったか……前に、レジアス中将から聞いたことはあったが、見るのは初めてだな)

 命の鼓動を感じさせないカプセル型の魔法機械は、こちらと同様、敵となる自分たちの方に正面を向けながら、一糸乱す事無く、中空を浮遊している。

 あいにくと、空戦に対しての戦技が乏しいアルファードは、もしあれが、こちらの手の届かない高度へと上ってしまった場合の事を考える。

(牽制用の中距離魔法は、おそらくアレには“届かない”可能性がある……だとしたら、アレが低い高度にいる内にケリを着けなきゃならない訳か)

 一瞬で相手に肉薄する手段は無くは無い……しかし、あれを使用した場合、魔力量の消費が激し過ぎるために、この程度の集団相手に使う訳にはいかない――――なら、他の手段を探すべきだ。

 アレを使うか? どれを軸に立ち回っていくか?

 考えれば考える程、選択肢が狭まっていく様に思えるが、アルファードにとっては逆であった。

(丁度いい、やる事が絞られるのなら、あまり考えないで闘える)

 要は、接近して仕留めれば良い、それだけの話だ。

『では、第一回模擬戦訓練。ミッション目的。逃走するターゲット八体を破壊。または捕獲。15分以内』

 なのはが今回のミッションの成功条件を提示すると、フォワード陣は同時に「はい!」と返事をする。

 ググッと、アルファードが奥足である右足の爪先に力を込める……。

 浮いた踵に、傍目から見ても力を溜めていると分かる膝の屈め方――――スタートダッシュを決める気だなと、隣に立っていたスバル、スターズ・ライトニングの混合部隊でセンターガードという中央を陣取ったポジションに着いていたティアナが、アルファードが何をしようとしているのか勘付いた。

 そして、シャーリーが。

『それでは』

 なのはが。

『ミッション』

 訓練開始をコールした。

『『スタート!!』』

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