次回はティアナとか書いておいて、今回は一回も出てきません。
ティアナ編の始まりという事で勘弁してください。
また、間をかなり空けてしまって申し訳ございませんでした。
正直、消防の一年目がここまでキツイとは思ってもいなかったので。
まあ2年目も、早速辛いんですけどね。
しかし当直生活で時間もあるので、またちょいちょいと連載していきたいと思ってます。
また改めて、よろしくお願いします。
未だ胸に残る、熱の籠った火傷痕は懐かしい感覚を与えてくると共に、自身が敗北したのだという事実を生々しく心に訴えかけてくる。
無様だとは思わない、あの場で殺されなかっただけでも運が良かった事なのだと、自分は納得できてしまう。
それだけ、生と言う言葉に縛られているのであろう……。
約8年前……あの時に比べれば、自分は格段に生きようとしている事が分かる。
これも自分を拾ってくれた“あの方”がいたからこそ抱けた、あの頃の自分には無かった、人にとって最も重要な妄信だ。
しかし、自分は“あの方”――――レジアス・ゲイズ中将のためならば自らの命も爆薬として使う覚悟は出来ている。
これは矛盾なのか、そうではないのか……いまいち判断は着かないが、こんな所でジッとしている時点で、その覚悟も戯言どころか、虚言であると捉えられても仕方がないのは理解できる。
ふと、右手側に見える窓の外の風景を眺めてみる。
ミッドチルダの中央区画であり首都であるクラナガンと比べ、いささか建物と建物の間隔が広いオフィス街が広がっているが、その先に聳える岩肌が露出した山々に比べれば、首都郊外と言えども人の営みが盛んな事が伺えた……だが今現在、管理局の武装隊という事で病院の個室を割り当てられ、そこのベットの上で上半身を起こしているだけの自分には、街の風景よりも山の先、ホテル・アグスタがある場所にしか意識を傾けられなかった。
今頃は調査班や鑑識が動き、現場検証が只管に続いている頃か……それとも、特殊な事件性ゆえに機動六課もしくは時空管理局本局の捜査官などが出張ってきているのか、末端である自身にはセオリー以外の判断は出来ないが、事後処理に携われないというのはこうも口惜しいものかと痛感させられる。
思えば三日前のリニアレール車両占拠事件の時も、自分は負傷してしまったために事件後の捜査に参加できていなかったので、これで二度目の不参加という事になる。
報告書などの作成には携わったが、戦闘をするだけして後は全て他人任せというのは、その辺の――――とは言っても、ミットチルダなどの主要都市には存在すらしないが――――傭兵と変わりはしない。
これでは8年前と変わらないではないかと自傷に浸ってしまうが、ふと自分の脳裏に昨日の事が過り始めた。
敵魔導師が転移魔法で逃走した直後に森の広場へと到着した高町隊長は、その場で負傷していた自分を見て、自責の念に駆られた様な複雑な表情をしていたのだが、既に魔力枯渇と疲労、そして痛みによって意識を朦朧とさせ始めていた自分には、状況報告などといった義務を果たせなかった――――なら何故、隊長の表情を読み取れたのかと言えば、あまりこういう表現は好きではないのだが“今思えば”というやつである。
尤も、様々な人達から人の感情を読むのが下手だと言われている自分の感性を鑑みれば、それも気のせいだったかもしれない可能性は拭いきれないのだが。
更にいえば事件後、あの森の中にあった広場に着陸する事が出来た輸送ヘリでストレッチャーに固定され、この病院へと運ばれてきた自分は、輸送されている最中に睡眠状態へと移ってしまったらしく、その後の事すらまともに覚えていないために、やはり隊長がそういう顔をしていたという記憶も信憑性に欠けていた。
気づけば呆然と窓の向こう側を眺めていた自分は、一度頭を左右に振って意識を整えると、とりあえず視線を動かそうと顔を正面に向ける。
個室の窓と並行にして並べられたベットの上で身を起こしている自身の正面、そこには壁に埋め込まれた液晶テレビが電源すら着けられていないまま静かに黒い画面を晒していたが、俺はその横に埋め込まれたデジタル表記のカレンダーに目を見やった。
6月2日、昨日の日付は1日であったために、自分が寝ている内に事件は過去のものとなっている。
こういった明確な事実を突きつけられると、再び自らの不甲斐無さに飽き飽きしそうになる。
自分が行動不能に陥った後、敵魔導師の追跡はどうなったのかだとか、ホテル側の損害や味方の負傷者の数は、結局敵の狙いは何だったのかだとか、余計に心が山の向こう側へと急いてしまうのは、管理局の武装隊員として必然的な心理だと思う……ピクリと眉毛に前髪が掠めたかと思うと、また自分は同じことで自傷に耽ろうとしていたのかと、自らに驚きを見せ現実へと意識を引き戻す。
いかんいかんと気持ちを切り替えるために左手側を見てみれば、病人用のチェストがベットに横づけされており、その上には自分が普段から使用している通信用の携帯端末と、アームドデバイス“エクスキューション”が待機状態で置かれている。
当たり前だが、デバイス関連は病院では待機状態が厳守とされており、損傷具合を目視で確認する事は出来ないが、損耗率などの数字を見る事は出来るために、起きてからすぐにそれらのチェックは終えていた。
また、自身が目を覚ましたという報告もシャマル主任医務官に報告済みだ……。
返信は待つ間もなく来た。
『昨日はお疲れ様。現場検証に捜査、それと報告書作成は私とリイン曹長でやっておくから、アルファードは体力の回復に努めて頂戴。退院許可が出るまで、大人しくしているのよ?』
内容は公私が入り混じった文面であったが、要は怪我が治るまで大人しくしておけという事だ。
確かに魔力枯渇を起こしてしまったせいで、まだ頭は重く、全身に血の巡りが足りない気がする……だが戦えないという訳ではないし、ましてや絶対安静と言われるほど大怪我をした訳でもない。
自分が今着ている衣服は、入院患者が一様に着させられる黄緑色の薄いローブなのだが、肌蹴た胸元から見える、右胸から左脇腹に掛けてまで伸びる火傷跡は、おそらく人工皮膚による治療でもしない限りは一生残るものであると自分でも分かる程で、周りの皮膚よりも少しだけ膨れている様に見える。
しかし、やられた当初は裂傷に沿って肉が焦がされる程に焼かれていたために、最悪皮膚や筋肉に機能不全が出てしまうかとも思っていたが、筋肉が引っ張られる感覚も無ければ、火傷跡を触れても少し痛むという感覚は生きているために、この病院の魔法治療の高さと、輸送ヘリに同乗していたであろう救護班の応急処置能力には驚嘆と感謝しか覚えなかった。
その他には目立った外傷も無く、今から出動だと言われても多少動きが悪くなる程度で、周りに迷惑をかける事も無いと断言できるぐらいに自分は回復をしている。
故に、シャマル主任医務官のメールを見た時は、自分は今すぐにでも現場復帰をする事が出来ますと具申してしまいそうになったが、それは流石に出過ぎた真似であると踏み止まった。
主任医務官とは謂わば、六課隊員全員の健康管理を司っていると言っても過言ではない立場の人間であり、自分の右肩を昨日の作戦前に治療したのもシャマル主任医務官であるために、その人の判断なしでは怪我人が勝手に現場復帰する事など有ってはならない事なのだ。
これは階級云々ではなく、割り当てられた役職が持つ固有の責任であり権限であるために、自分勝手な行動で、それらを侵害してはならないのだ……もしも侵害してしまったのであれば、それは組織の崩壊に繋がる第一歩と言わざる負えない。
故に自分は、とりあえず部屋に病院の医師か看護師が訪れた際に、怪我の具合も問題ない事をアピールし、一刻も早く退院許可を貰う事が最善の手だと判断したのだった――――が、その矢先であった。
「入るぞ~。とっとと起きろ~」
自身から見て左側、部屋の入口であるスライド式ドアの向こう側から、随分と聞きなれた気怠げな声が聞こえてきた。
女性による声……これはと気づき、どうぞと声を掛けようとする前にドアは勢い良く横に開けられ、その向こう側にいた女性の姿を露わにした。
「そーら、お前の所有者でありデバイスマスターのキャリーさんだぞぅ」
病室の白い壁紙よりも不健康な白さを持つ肌に、170㎝はありそうな背丈の割に女性としては貧相な体つきが特徴的な人物……自分が所属する機動六課ライトニング部隊の隊長、フェイト・T・ハラオウン執務官の様な色彩が濃い艶やかな金髪ではなく、所々がばさついた、最低限の手入れをしているのかも怪しい、腰まで伸びた淀んだ金髪は、彼女が公私共に相当なズボラである事を言外に語っていた。
そんな白衣を来たズボラな女性、プロナード・キャバリエ陸曹長(愛称キャリー)は部屋に入って来て早々に掠れた声でおどけつつ、右手に持った車のキーをこちらへと投げつけながら、履いているサンダルを鳴らして自分が身を起こしているベットへと近づいてくる。
キャバリエ陸曹長は身長の割に肩の力は貧弱なのか、結構な腕の振りで投げた車のキーは緩やかかつ弱々しい放物線を描いており、そのままベットには届かずに手前で落ちかけるが、自分はそれを身を乗り出して難なくキャッチすると、目の前で足を止めた彼女を不思議そうに見上げた。
「退院の許可は取ってやった。今からお前がいる部隊に一緒に行くぞ」
白衣の上からでも分かるぐらいに細い腕を組み、チューブトップから見える僅かな膨らみを若干上に押し上げたキャバリエ陸曹長は、下から見上げている自分を何故か誇らしげに見下ろしている……とは言っても、普段から人と接しようとはせず、自分と同じで表情を作る事をしないためか、怠そうな垂れ目の眼尻は一向に吊り上りはしない。
一応、彼女の名誉のために付け加えておくが、キャバリエ陸曹長は決して容姿が他者よりも劣っている訳ではない――――根拠は首都防衛隊に所属していた時の同僚から、『確かに貧相な体つきをしてるけど、あの人を見下したような目と虚弱そうな顔つきはそそられるものがある』という言を取っているため、間違いは無い筈だ。
「お久しぶりです、キャバリエ陸曹長。退院許可ですか? 自分は何も聞いていませんが」
左手でキャッチした車のキーを布団を掛けた膝元に置きながら、何のことか分かりかねる自分はキャバリエ陸曹長に質問を投げかける。
すると彼女は自分が寝ているベットの縁に腰を掛け、スラックスを履いた長い脚を組むと、こちらへと身を捻じりながら顔を近づけてきた。
「当たり前だ、何故ならさっき話を付けてきたのだからな」
「担当医の方からですか?」
「そうだ。もともとお前の場合、外的損傷以外は魔力枯渇程度のものだったからな、傷さえ塞がれば普通に退院させても良かったそうなんだが、担当医は大事を取って入院させたらしい……まあ、お前が気を失っていたからという理由もあるそうだが、この際どうでも良い」
鼻の先と先が触れ合いそうな距離で、まじまじとこちらの眼を見つめて口を動かすキャバリエ陸曹長は、そう言って白衣のポケットから一つのカギを取り出す。
こちらは先ほどの車のキーとは違って、ロッカーや机の引き出しなどに使われる小さなカギで、その円形の頭部分には一つのタグが紐で取り付けられていた。
「お前の所持品が入ったロッカーのカギだ。そこに制服も置いてあるから、とっとと着替えて出る準備をするぞ。ロッカールームは受付の奴らに身分証を見せてから場所を案内してもらえ、急げよ」
差し出されたロッカーキーを受け取ると、ベットの縁に腰掛けていたキャバリエ陸曹長は自分に迫らせていた顔を引いて不健康そうな肢体を「よいしょ」と立ち上がらせる。
そしてそのまま後ろを振り向きもせずに、無言のまま、こちらに有無も言わせずに部屋から立ち去って行った……もちろん彼女の性格上、退室の際には部屋のドアを閉めるなどといった事はしていない。
ロングコートの様な白衣を揺らして部屋から出て行った彼女の背中を、暫し呆然と眺めていた自分であったが、上官からの命令である事に気が付くと、すぐさま意識を切り替えベットから飛び降りる。
裸足の両足を室内の冷たい床に着地させると同時に、ベットの左側にあった入院患者用のチェストの上からリングネックレス型のデバイスと通信用携帯端末を取り出した自分は、そのまま身を右側に反転させて個室から飛び出していったのであった。
◆(1)
病院のロッカールームでカーキ色の制服に着替え終えたアルファードは、早速退院時の手続きを受付で済ますと、病院敷地内にある有料駐車場の方へと足を走らせた。
入り口であるゲートを通り過ぎ、大型車も駐車できる広さがあるアスファルトの駐車場へと到着したアルファードは、まず大型車専用スペースに停められた2tトラックへと視線を向け、そこへ走り込んだ。
「8分23秒か、やはりお前は行動が速いな。取りあえず運転席へ乗れ。話はそれからだ」
グレーの塗装で塗り固められた無骨なトラックの運転席側……そこに立っていたキャバリエことキャリーが左手首に巻いたシックな針時計を眺めながら、アルファードに対して顎で指示を出した。
これに普段通り「了解」と答えたアルファードは、退院早々に2tトラックの運転席側のドアを開けると、そこに吸い込まれるようにして乗車し、あらかじめ手渡されていたキーをハンドル脇にある鍵口に刺し込んだ。
すでにシートベルトを締め発進準備を整えたアルファードに、開かれた運転席側のドアを抑えていたキャリーが「いいか、よく聞け」と前置きを加える。
「これから私は、お前のデバイスから昨日の記録を抜き取り、それを元に予てから設計していた改造を施す。ここから六課のあるミッドチルダ南駐屯地内A73区画までは車で約3時間だから、それまでには修復作業も無事に終わる予定だ。一つ文句があるとすれば、本来ならお前が地上本部に来る筈だったのが、急な入院のせいで私自ら出向くことになった事だ」
「申し訳ございません」
「いや構わんさ。あの電話からまだ二日しか経っていないからな……ただ私の貴重な時間を使わせたのだ、それなりの埋め合わせは覚悟しておけよ?」
「了解しました」
キャリーの言う電話とは、二日前の夜にアルファードへと掛けられたもので、その際に次の作戦ではデバイスに装填されたカートリッジを全て使用しろだとか、これから行った交戦記録は全てキャリー本人へ転送しろだとか色々な指示を出されていた。
また次のOFFには地上本部を訪れ、キャリーにデバイスを弄らせるなどの約束をしていたのだが、どういう訳か本人が直接入院先の病院にまで押しかけたために、その約束は強制的に前倒しされてしまったのだ……だというのに、埋め合わせを要求すると言う図々しさに普通の人間ならば辟易する所ではあるが、上官が黒い物を白と言えば、それは白い物になるという考えを地で行くアルファードは、この要求に「は、了解しました」の一つ返事で納得してしまっていたのだった。
「では、私は荷台の方へ乗る。あまり揺らすような運転はするなよ?」
「了解です」
「だがなるべく急いでくれ……私は揺れる乗り物は長い時間乗りたくないのだ」
「心得ました」
随分と矛盾した無茶な注文に、やはりアルファードは文句一つ言わずに全てを飲んでしまう。
ここまで来ると出来ない事は出来ないと言えと注意したくなるものだが、元々彼の性格を知っていたキャリーは「なら頼んだ」と言って、早々に荷台の側面に備え付けられていたハッチを開閉レバーを引いて開けると、そのままボロボロなサンダルを鳴らして中へと入って行ってしまった。
荷台側面にあるハッチのロックが掛かったのを、運転席で確認したアルファードはキャリーと会話をするために開けていたドアを“バン”っと閉め、ブレーキとクラッチペダルを踏みながらエンジンをかける。
軽油車特有のエンジン始動音を耳に入れつつ、周囲から人や車が近づいてこないか確認すると、ギアをニュートラルからセカンドへと一気に移し、ハンドブレーキを降ろして巧みなクラッチ操作とアクセルコントロールで2tトラックを無駄に揺らすことなく発進させた。
50台程度が駐車できる駐車場を指示標識に従って進み、ドアポケットに入っていた駐車券を取り出し、トラックを停車させてからゲートの料金所にそれを入れて支払いを済ませると、アルファードは再びトラックをスムーズに発進させ、一般道へと合流した。
アルファード自身、ここがどの辺りにある病院なのかは既に把握していたために、機動六課までの道のりは頭の中の地図に書き込み終えており、まるで知った道の様に2tトラックを走らせていた。
また、ミッドチルダの道路は管理局の専用車などが頻繁に走行しているために、一車線の幅は相当に広く設けられており、今アルファードが運転する幅広な2tトラックサイズの専用車両も難なく走行を出来てしまうのだ。
暫く運転を続けていると、横幅がワイドになっているトラックの座席と座席の間から、突然キャリーの細腕が飛び出してきた……とは言っても、荷台と運転席を繋ぐ連結路からカーテンを押しのけて腕を出しているだけなので、運転中のアルファードが驚いて操作を誤るなどといった事は無い。
「準備完了だ。運転中すまんがデバイスを受け取るのを忘れていたな。出せ、早くしろ」
「どうぞ」
ハンドルを握ったまま左の端に映るキャリーの掌に、胸ポケットから取り出した待機状態のデバイスを差し出す。
これまでの話を整理する限り、この専用車両の荷台部分はデバイスマスターである彼女の専用ラボとなっている様で、地上本部にある一室とは別の、いわば移動式ラボとして使用されている車である様だ。
確かに言われてみれば、通常のトラックよりも運転時に感じる揺れは少なく、更に言えば荷台部分は走行中でも妙に安定している様に感じる……おそらく、トラックのフレーム部分に何らかの仕掛けがあるのであろうが、今運転をしているアルファードには時折聞こえてくるエアの噴出音から空気圧によるものだとしか判断は出来なかった。
そうこう無駄な考えを巡らしているうちに、いつの間にか左手で差し出していたリングネックレス型のデバイスがキャリーに取られていた事に気づいたアルファードは、再びトラックの運転の方へと意識を傾けた。
ミットチルダ中央区画の南東地区から西側、つまりミットチルダ中央区画の南の方にある海岸沿いへ繋がっている高速道路のインターチェンジへとアルファードは侵入すると、料金所を電子料金による自動支払いで通過し、トラックを加速させながら上手くギアチェンジを行い、大体の車が110㎞程度で走行している高速道路へと合流する。
管理局員と言えども私人が経営している有料駐車場などの施設は一般と変わらずに個人が支払わねばならないが、こういった管理局、つまり公的組織が経営している一部公共財は組織が完全負担する事になっているために、例え大型車両で侵入しようともアルファードの懐に直接響くものでもないのだ。
『高速に入ったか。ならそのままでいい……取りあえずデバイスからの記録は既に私の頭に叩き込んだわけだが、数字だけでは心もとないのでな、お前の声を聴いておきたい。昨日の戦闘で感じた負担を教えろ』
運転席に座っているアルファードの耳に、キャリーからの念話が届く。
別に念話ではなく、荷台から直接声を掛けるだとか、荷台と運転席側に其々設置されている通信装置を使うなりすればいいのにと思う所ではあるが、高速を走行中のトラックから聞こえる騒音や、居眠り運転を防止するための段差による揺れなどで生じる雑音を考えれば、こうして頭の中で会話をしていた方が聞き逃しも無いので、ある意味で効率的と言えるのかもしれない。
片側3車線の高速道路から見渡せるミットチルダ中央区画南東地区の都会風景を目端で眺めながら、アルファードはキャリーに念話を返す。
『了解しました。戦闘中には特に負担は感じられませんでしたが、拘束され動きを止めてしまった時に一気に疲れと魔力の枯渇を感じました。他は特にありません』
『カートリッジを使用した際、運用できる出力レベルに誤差は感じなかったのか? 数字ではデバイスの
『申し訳ございません。自分では気が付けませんでした』
『そうか……まあ戦闘なんていうのは、そういうものなんだろうな。私は知らんが』
生粋の技術屋であるキャリーにとって、アルファードの様な現場で荒事を専門にする者達の感覚は理解し難い部分があるので、若干の溝はあるのだが、彼女にとってそれはあまり重要な事ではない。
むしろ彼女にとって重要なのは、明確な事実と自身の趣向を貫き通す事であり、今回の場合はアルファードがデバイスの変化に気付けていたのか、また自身の体の変化に気付けていたのかが知りたかった事なので、その他の事はどうでもよかった様だ。
『聞きたかったのはそれだけだ。とりあえず到着10分前には念話を飛ばしてくれ……間違ってもブザーを鳴らすんじゃないぞ、あれは不快な音だ』
『了解しました。では運転を続けます』
一方的に念話が切れるが、アルファードはそれに対して特に気にした様子も見せずに、緩やかなカーブを描いている高速道路の道をハンドルを微調整させながら走行していく。
途中にサービスエリアが3つほど存在するのだが、アルファードは首都防衛隊の頃から良くしてもらっているキャリーの性格を考え、それらに寄るのは緊急時以外は避けた方がいいなと判断すると、このトラックの規定速度である110㎞をキープしたまま、只管に単調な運転を続けるのであった。
◆(2)
機動六課隊舎に到着したのは、丁度お昼時でもある12時前後。
出発したのが9時過ぎだった事から、まあ妥当な到着時間だと言える。
六課隊舎前にある広大な敷地を活かした駐車場に、首都防衛隊が所有する2tトラックサイズの専用車両を停車させたアルファードは、すぐさまキャリーに到着したことの旨を伝える念話を飛ばす。
指示された通り、10分前には事前連絡を終えていた訳だが、その時には既に自身のデバイスの改修を終えていたために、『そうか、ご苦労だったな』という返事はすぐに帰ってきた。
ハンドブレーキを引いているのを再確認したアルファードは、シートベルトを外し、キーを抜いてからトラックの運転席から外へと出る。
運転席側のドアを開けた瞬間、湾岸地区特有の潮の匂いが混じった海風が全身を包むが、彼は風の圧力に前髪を揺らすだけで、嫌そうに瞬きなどをする事も無く、両足を黒いアスファルトの上に降ろすと、ドア下に収納された車輪止めを右側前輪に設定し、荷台側面にあるハッチの前まで歩を進ませた。
周囲は駐車場を囲むように設置された花壇の花が風に揺られ、花弁を数枚散らせている程に風が強い状態なのだが、彼はただ只管にキャリーが荷台から出てくるのを“休め”の姿勢で待ち続けていた。
彼女が「あ~眠い」と頭を掻いて、ぼやきながら荷台のハッチを開けて出てきたのは、アルファードが待機してから約2分後の事であった。
「待たせたな。後片づけをするのに手間取ってしまった」
「いえ、問題ありません」
車高の高いトラックの荷台から飛び降りたキャリーは、早速手にしていたアルファードのアームドデバイス、“エクスキューション”を彼に手渡す。
待機状態のリングネックレスのまま左手に落とされたそれを見て、アルファードは不思議そうに正面のキャリーを見た。
「リングが二つになっていますが……これは一体?」
「あぁ、まあデザインを変更する必要は無かったのだが、やはり何かしら目印が無いとパッとしないのでな。リングを一つ付け足した訳だ」
「はぁ」
「安心しろ。何も待機状態の外見を変えただけでは無い……お前のデバイスに、新しい装備を追加したんだ」
「新装備ですか? お言葉ですがキャバリエ陸曹長、現行のままでも十分な性能を持っていた様に自分は思うのですが」
素直に感じた疑問を、病的なまでとはいかないが華奢な体と胸を自慢げに張っているキャリーに投げかけるアルファードであったが、この疑問に待ってましたと言わんばかりの笑みを彼女は見せる。
全体的に貧相な彼女ではあるが、もともと憂いげな垂れ目が特徴的な整った顔立ちをしているために、嬉しそうに微笑している様は中々に異性を意識させるものがあった……しかし、目の前の朴念仁にとっては関係なく、彼女が何に対して嬉しそうにしているのかさっぱり分からないといった顔をするだけであった。
「外部強化骨格。私がお前のデバイスを製作する際に、いずれ追加しようとしていたブーストデバイスだ。それも従来の他者への支援魔法を目的としたものではなく、使用者本人の能力を底上げする機能を持っている」
「使用者本人の能力を底上げするだけなら、カートリッジシステムで事足りる様な気がするのですが」
「ふん、そんな一時的なドーピングと一緒にされてもらっては困るな」
今一ピンと来ていないアルファードに、キャリーはトラックの荷台に背を預けて腕を組み、普段は垂れている目尻と眉毛を気持ち吊り上げて話を続けた。
「この外部強化骨格には擬似リンカーコアという、まあいわば追加エンジンの様な物が搭載されている。これはリンカーコアの機能である、大気中から魔素……つまり魔力を集め、それを蓄積させ魔法を使用する際には放出させるという基本的な構造と機能を模したものだ。それを使用者のリンカーコアと直結させる事によって、従来使用できる総魔力量を推定で1.8倍に引き上げる効果を見込んでいる」
「1.8倍ですか……」
推定ではあるが、その仕組みと数字を聞いたアルファードは“休め”の姿勢を取ったまま漠然とした理解をする。
「そうだ。まあまだ実戦での記録は取っていないから、持続時間や本当の数字は出ていない訳だが……武装隊員10人からなるテストには成功している、安心しろ。仮に1.8倍以上の魔力運用が可能になったとしても、外部強化骨格にある擬似筋肉内には、それを安全に運用できるようサポートする魔力回路が通っているから、強すぎる魔力に酔ったり、集束魔法の際に自滅する事は無い」
「なるほど……」
「それにお前の体が扱える限界魔力量は既にデバイスに記録されているから、その外部強化骨格を運用した状態での基準値を超える事があれば、
だから、安全装置を外す時は1分半でデバイスを解除する様にしろよ――――と、キャリーが面白そうに告げた時、ふとアルファードの後ろから誰かが近づいてくるのが見えた。
その人物は駐車場の三つある出入り口の内、六課隊舎の入り口方面から現れ、何やら驚いた様子でこちらへと駆け寄ってくる。
「っと……いいタイミングだな」
「?」
トラックの荷台に預けていた背を起こし、ボサボサかウェーブが掛かっているのか、一見では判断の付き辛い長い金髪を揺らしてアルファードの横を抜けていくキャリー。
これにアルファードも目を追わせていくと、こちらへと見覚えのある女性が駆け寄ってきていたのが確認できた。
カーキ色の女性用制服に茶色がかった黒髪を腰辺りまで伸ばした、眼鏡をかけた人当たりが良さそうな女性……機動六課通信主任兼メカニックのシャリオ・フィニーノ一等陸士だ。
彼女は何やら焦った様子で六課隊舎の入り口方面から走ってきており、アルファードの前へと出たキャリーの三歩手前で止まると、“海”式の敬礼をしてみせた。
「機動六課通信主任兼メカニックのシャリオ・フィニーノ一等陸士です。書類やメールなどのやり取りはありましたが、こうして顔を合わせるのは初めてですね」
若干肩で息をしている様に見えるシャリオことシャーリーは、“海”式の敬礼をしたままキャリーの後ろに立っていたアルファードへと視線を移すが、それを遮るようにキャリーが“陸”式の敬礼を返した。
「そうだな、シャリオ・フィニーノ一等陸士。ミットチルダ首都防衛隊技術主任のプロナード・キャバリエ陸曹長だ。改めてよろしく」
互いに敬礼をし合い、そして降ろす時もほぼ同時であった二人だが、浮かべている表情はどこか対照的だ。
背の高いキャリーは相も変わらず興味が無さそうな、精力の無い目つきで相手を見下ろしているのだが、相対しているシャーリーは人懐っこい彼女にしては珍しく、普段ならおっとりとした目尻を微妙に吊り上げて敵意を滲ませている。
しかし敵意を滲ませているとは言っても、それを明確に外へと表している訳でもなく、この様子をキャリーの後ろから眺めていたアルファードからしてみれば、普段通りのシャーリーがそこに立っている程度にしか思えなかった。
「さて、早速本題に入りたいのだが、いいかな?」
「本題と言うと、昨晩メールに書いてあったことですね? ここでは何ですし……」
「いや、ここで構わない。というより、私は早く終わらせて本部に戻りたいんだ。なあに、時間は取らせんよ」
え……と、思わず声を漏らしたシャーリーの返事を聞くよりも早く、キャリーは白衣の袖を揺らしながら自身から見て斜め右に空間投影モニターを展開させた。
角度的にアルファードからも見えるように開かれたモニターには、項目から読み取るにどうやら外部強化骨格についての記録が映し出されている様で、デバイスに関しては最低限のメンテナンスしか出来ないアルファードであっても、ある程度は理解できるように画像やグラフなどを添付して整理されていた。
「概要自体はメールで説明した通りだが、これの整備については少々専門的な知識が必要になるのでな、アルファード、お前もよく聞いておけ」
「了解しました」
キャリーの指示にアルファードは“休め”を取る事で答えると、彼女がこれから話すことを一語一句逃さぬように耳を全力で傾ける。
一方、既に展開されている空間投影モニターの内容は事前メールで把握していたシャーリーであったが、やはりブーストデバイスという枠組みで見ても、擬似リンカーコアという今ままでに前例のないキャリーの技術に、感心していいのか、それとも糾弾するべきなのか微妙な表情を浮かべていた……何故なら、空間投影モニターに表示された外部強化骨格のデータが、メールで送られてきた物とは少しだけ違っていたからだ。
ここで指摘をするべきか、それとも本人からの説明を待つべきか、流石に文面でのやり取りはあったとしても初対面の相手であるために、シャーリーもどこか普段とは違って遠慮がちになっていた。
そんなシャーリーの葛藤など、正にどこ吹く風とキャリーは説明を始める。
「基本的な機能構造は二人とも把握したと思うが、それよりも重要なのは使用者本人の体調管理だ。といっても、その辺の奴らがやる様な健康診断を毎日やれという訳ではない。やる事は二つだけで、リンカーコアの稼働率チェック、それと全身の魔力回路が正常に機能しているのか、それだけだ」
説明をしながらキャリーは空間投影モニターに映る画面を切り替え、今度は外部強化骨格本体の画像を二人に見せた。
外部強化骨格の外見は、使用者の顎のラインに沿った装甲以外は全て後ろ、つまり背中側に装着されるタイプの様で、後頭部から背骨・尾骨に掛けて伸びる、まるで人の背骨の様な装甲を挟む様にして両肩甲骨をカバーするための三角形の装甲が取り付けられており、その両肩甲骨の間には先の説明であった擬似リンカーコアを収納するドーム状の外殻が異様な存在感を放っている。
また画像の横に記載された項目を読む限り、外部強化骨格にある擬似筋肉は装甲内部に搭載されているらしく、どうやら肉体的な補助を受けれるのは首や背中、そして腰のみに限る様であった。
「この二つを診断する理由も二つ。一つはリンカーコアの稼働率チェックだが、まあ簡単に言ってしまえば魔導師の調子次第で擬似リンカーコアが引き出せる出力も決まってしまう、という理由だ……二つ目の魔力回路だが、これは後ろにいるアルファード・レヴェントン二等陸士を例にすると分かりやすい」
突然、キャリーの右親指で後ろ指を指されたアルファードは、一瞬だけ驚いたように眉を上げる。
この技術的な話の内容に、なぜ現場専門の自分が出てくるのか……確かに使用者ではあるのだが、そこが理解できなかったアルファードはキャリーの説明に更に意識を傾けた。
「魔力回路とは言わば魔力が通る血管みたいなものだ。つまり、昨日コイツが負傷した時の様な状態というのは、負傷した箇所の魔力回路が寸断された状態になっているため、体を動かすばかりか魔法を行使する事だって常時よりも辛くなる。これは私が作った外部強化骨格にとってはある意味で致命的なものなんだ」
「致命的? どういう事ですか?」
キャリーから出てきた欠陥点とも取れるワードに、彼女と相対しながら厳しい視線を向けていたシャーリーが言葉を返した。
これまでの説明を聞く限りでは、昨晩に届いたメールと大差ない様に感じられる……だが、問題はここからだ。
何故なら、昨晩のメールには記載されていなかった外部強化骨格のデメリット部分について、これから触れていこうと言うのだから――――実際、横目で空間投影モニターを覗いても、その部分には『デメリットについては最大限のリスク管理で解消される』という、およそ技術者として曖昧というか漠然とし過ぎた文章しか書かれていないのだ。
それに意図はあるのか、それともただの気まぐれなのか測りかねていたシャーリーは、次にキャリーの口が動くのを待った。
シャーリーの困惑にも似た険しい表情に、普段表情を無暗に崩さないキャリーがニヤリと口端を吊り上げる。
「外部強化骨格に搭載された擬似リンカーコアというのは、使用者が持つリンカーコアと直結させて従来の出力を底上げさせるものだ。つまり、魔力回路に流れる魔力も従来のものを大きく超えるものとなる……」
「……そういう事ですか。要は、水が流れているホースの口を思いっきり摘まむ様な感じになってしまうという訳ですね」
「あぁ、だがそれはまだ良い方だ。せき止められた魔力が一応は再び流れに戻るのだからな……最悪は、魔力回路が内部から破裂する事だ」
「っ!?」
精気の無い顔立ちで笑みを作りながら、とんでもないことを平然と言い放ったキャリーにシャーリーが目を見開く。
そして次の瞬間、普段は人柄のよいシャーリーが眉間に皺を寄せ、正面のキャリーに向けて静かに感情を怒りに染め上げた。
「そんな危険なデバイスをアルファードに使わせようとしているのですか?」
声を怒りに震えさせながら相手を睨むシャーリーに、腕を組み始めたキャリーは一切動じずに答えた。
「だから事前の診断が重要なのだ。これを怠れば、最悪の結果しか待っていないからな」
何ともない、まるで行きつけのカフェで何時も通りの注文をするかの様なキャリーの口調。
実際、キャリーはなぜ目の前のシャーリーが自身に対して怒りを向けているのか理解していた……何故なら彼女自身が、元々こうなる様に意図的に態度や言動まで取り繕って、相手の感情を悪い方向に昂らせる様に仕向けていたからだ。
理由は至って単純で、ただ六課のデバイスマスターよりも自身の方が優れている事を、本気の討論で証明しようとしているだけの事であり、それだけのためにメールに添付してあったデータを直前になって微修正し、わざと相手の神経を逆なでる様な口調と言動を行っていた。
身に纏った衣服や手入れの行き届いていない長髪を見る限り、プロナード・キャバリエという女性にそういった自己顕示欲はありそうに無いと思えるのだが、やはり人並み……いや人以上の欲求が彼女にはある様であった。
キャリーの子供染みた欲求にまんまと引っかかったシャーリーは、魔導師と言う管理局どころか次元世界でも重要な存在を預かるデバイスマスターとして、あまりにも杜撰で粗暴な考えを持つ彼女に対し、遂に声を荒げた。
「診断をすれば良いと言うものでは無いと思います! デバイスは魔導師にとってのパートナーでもあるんですよ? 出動要請があれば体調に限らず一緒に現場に出なければなりませんし……だというのに、そんなリスクの高い機能を搭載するなんてっ!」
「確かにリスクは高い……が、それ故にリターンは絶大だ。これが上手くいけば、総魔力量の少ない魔導師だって、前線で高ランクの魔導師と同等の活躍が望めるようになるのだぞ?」
「その過程でアルファードが事故を起こしてしまったらどうするんですか? デバイスのせいで術者が命を落としてからでは遅いんですよ!?」
「そうならない様に、この外部強化骨格のデータを“君”に開示しているんじゃないか。本来なら私は、これらの記録を黙秘しながらアルファード・レヴェントン二等陸士に外部強化骨格を手渡す事だって出来たんだぞ? しかも特許申請前で、私が開発したがまだ誰の技術かという明確な証明は無いと来ている……これ以上に素晴らしい対応があると思うのか?」
「対応の問題ではありません! 第一、この擬似リンカーコアという物自体が曖昧すぎます!」
「ほう、それは何故かな?」
激昂したシャーリーの言葉に、キャリーは面白いとばかりに口角を吊り上げる。
一体全体、この技術のどこに曖昧な点があるのかと興味が湧いたからだ……他人の評価を一々気にするタイプではないが、同じ技術者からの意見なら少しは聞こうと言う意識なのだろう。
シャーリーは、そんな挑発的なキャリーに向けて、昨日から資料だけは目を通して理解していた擬似リンカーコアの曖昧な点について喋り出した。
「まず、その生成方法からして不透明です! 先天的に魔導師の体に存在するリンカーコアについての研究は、今でも続いているものです。それがどうして生物の体内に生成されるのか、それの本当の必要性はなんなのか、キャパシティは何が起因して決められるのか、こんな事だって未だに研究中の代物を、擬似的とはいえどうして生成出来るんですか!? 資料には魔素を集めるコンデンサとしてカートリッジシステムを応用し、常時周囲から魔力原を収集する装置としか書かれていませんでした。これで納得しろというほうが無理な話です! リンカーコアの構造は、そんな単純なものでは無い筈です!」
「リンカーコアではない、擬似リンカーコアだ。要は使用者の持つリンカーコアとは別の燃料とエンジンを付随させただけだよ。これのどこが曖昧なんだ、至ってシンプルな構造だと私は思うが?」
「貴女の資料での説明のみなら、そう捉えていました。ですが作動時の映像も見せられれば、誰だって“それだけじゃない”って気づきます。あれは、そんな単純なものでは無い筈です。じゃなきゃ、使用者の魔法力を実質1・8倍に引き上げる事なんてできません。精々1・2倍がいい所ですし、ましてや常時使用し続ける事なんてできません。いくら応用をしたからといって、今の技術で魔力を精製し続ける装置を作る事なんて無理な話です。出来るとするのなら、それは……」
「それ以上は言わない方が良いな。シャリオ・フィニーノ一等陸士。あまりにも短絡的な発想だ」
「……」
シャーリーが次の言葉を発するのを遮る様に、キャリーが蠱惑的な笑みを浮かべて釘を刺した。
それに対し、ぐっと押し黙ったシャーリーの顔は、怒りに震えていたのかもしれない……かもしれないというのは、確信を突けなかったからという訳ではない、ただ断定できない気持ち悪さに、どういう顔をしていいのか本人も分かっていなかったからだ。
このやり取りをキャリーの後ろで見ていたアルファードは、シャーリーから出てきた映像という言葉に、自分が見た資料には、そんなものは無かったなと首を傾げていた。
押し黙ったシャーリーを見て満足したのか、キャリーが彼女に背を向け、先ほどまでアルファードが運転していたトラックの運転席へと歩いていく。
「キャバリエ陸曹長、どちらにいかれるのですか?」
自身を通り過ぎて、勝手にトラックのドアを開けてしまったキャリーに、アルファードが後ろから尋ねた。
すると彼女は、アルファードへと左の掌を差し出すと「キーを寄こせ。帰る」と答えた。
「……はい。お疲れ様でした、デバイスの件、ありがとう御座います」
「別に構わんさ。ただデータの送信は怠らないでくれ。いくら私が作った物だからと言って、まだ完璧ではないからな」
「完ぺきではない、ですか」
アルファードからキーを受け取り、キャリーがトラックのドアを開ける。
彼の言葉を背中で受けたキャリーは、最後にとばかりに歯を見せて笑みを浮かべた。
「ああ、完成していないものを渡すのは、私にとっても不本意な事ではある。だが、お前に動かしてもらわねば、外部強化骨格は完璧な状態にはならないんでな……まあ、最終的な譲渡の決済をしたのはグレコ隊長だ。喜べよ、あのゴリラはお前を大層心配していたからな。それはもう“アレな関係”を疑うぐらいに」
トラックに乗車しエンジンを掛けた彼女は、およそ女性がすべきではない下劣な含み笑いを見せた。
これに、アルファードの後ろで立っていたシャーリーが何らかの触手を反応させるが、当の本人はグレコという名前を聞いた瞬間、自然と姿勢を正し、表情を引き締めていた。
「グレコ隊長がですか。分かりました、データの送信や諸々の事は、必ず定期的に送らせて頂きます」
「そうしてくれ。では、私は行かせてもらう。正直、本来であるなら出向としてではなく、当直明けに済まさなければならなかった仕事だったんでな、今頃課長が不機嫌になっているかもしれん。あ、車輪止めを外してくれないか」
言葉の割に、全く悪びれていない彼女に対し、アルファードは決して何かしらの注意をしようとはしない。
何故なら彼女は自身より階級が上であり、何より今回は自分のために動いてくれたからだ……まあ、もともと彼は上の人間に盾突くような事はしないのだが。
アルファードが車輪止めを外し、それを収納すると、キャリーが「ありがとう」とだけ言って、トラックを発進させてしまう。
意外にも彼女はMT車の運転に抵抗は無く、2tというそこまで大きくないトラックとは言っても、スムーズな発進と走行のまま、軽油を使用するエンジン特有の音を鳴らしながら、六課の駐車場から悠々と去って行ったのだった。
正直ブランク空きすぎて、原作の流れどころか自分がどこまで書いていたのかも分からなかったのですが、なんとかここまで書けました。
ところでvivid始まりましたね、可愛い。
スバル早くでねえかな、スポーティーな美少女は好物なんです。
基本好き嫌いは無い性格なので、魔女っ娘も好きです。
20歳以下はリアルでは勘弁ですが、二次元では別です、最高です。
あ、前書きの通り、また改めてよろしくおねがいしますね、皆さん!
※今回、シャーリー下げしてしまいましたね、正直原作キャラクターを下げるのは不本意なんですが、どうもすみません、話の内容的にそうなってしまいました。
まあ、下げというよりは、考えの違いを書きたかったのですが、力量不足でした。