書けたので投稿。
当直明けに一気に書いたので、正直ミスが多々あると思います。
また話を進めるために、少し時間が飛び飛びです。
プロナード・キャバリエ陸曹長と別れ、まだ彼女の言動に納得がいっておらず、目が座っているシャーリーと共に機動六課隊舎へと戻ってきたアルファードは、最低限の荷物整理を終えると、そのままの足で六課の総隊長である八神はやての下へと向かっていた。
既にシャマル主任医務官にもメールという形ではあるが戻ってきた事は伝えており、返信待ちの状況ではあるが、今はそれよりも隊舎に戻ってきたという報告を済ませる事が先なので、彼は八神はやてを優先したのであった。
隊舎を歩いている最中、職員たちは殆どホテル・アグスタ襲撃事件の事後処理に追われているために、おそらくはデスクに張り付いているのであろう、そのせいで一度もアルファードと遭遇するという事は無く、彼は一切足止めされぬまま、八神はやてのいる部屋の前へとたどり着く。
総部隊長という役職は、他の部隊や部署も統括する立場であるために、基本当直勤務ではなく日勤として毎日出勤するため、本来の当直員の様にややこしい出勤体系ではないのだが、こと八神はやてに至ってはそのセオリーは通用しない。
何故ならアルファード自身、彼女が帰宅する姿をそこまで見ていないからだ。
おそらく、新部隊の発足から携わり、まだまだ各部隊、各機関との連携もままならないために、色々と動いているのだろうとは予想が付くが、それにしても休まなすぎであるとアルファードですら思う程だ。
多分、今もスライド式の扉の向こうでは、八神はやてが事後処理等に追われているのだろうと考えたアルファードであったが、彼は服装に乱れが無いかを確認した後、4回ノックをして「入ります」と中にいる者へと言葉を発した。
「どうぞ~」
何か作業をしつつの返事だとはすぐに分かった。
アルファードは扉横にある開閉ボタンを押し、部屋の中へと足を踏み入れ、まずは一礼。
「ええよ、そういう堅苦しいのは」
その様子を、部屋の執務机に座りながら見ていたはやては、苦笑しつつも作業中という事で開いていた空間投影モニターを閉じた。
はやてにやらなくてもいいと言われたアルファードであったが、そのまま入室要領通りの行程を続行する。
部屋の奥、ブラインドの掛かった大窓の前に設置された執務机の二歩程前に立ったアルファードは、基本の姿勢である気を付けを取り、そこでまた一礼を行う。
「アルファード・レヴェントン二等陸士、ただいま戻りました」
一礼後、顔を上げたアルファードは、礼式に乗っ取った活発な口調ではやてに告げる。
事前にやらなくてもいいと言ったはやてであったが、一応相手が要領通りに礼を取っていたため、こちらに軽い一礼を返して「お帰り」とだけ言葉を発した。
「しっかし、内線でアルファードが戻ってきたって聞いた時は、正直ビックリした。まだシャマルから復帰の知らせも来てないから、もう少し掛かると思ってたけど」
執務机の椅子に座りながら、正面に立つアルファードを見上げるはやて。
彼女は小柄なため、座高も低く、どうしても相手を見上げる形になってしまうのだが、今回の場合は見上げるだけではなく、制服越しの彼を細かく観察するかの様な視線の動きをしていた。
はやてにじろじろと見られつつ、休めの姿勢を取ったアルファードは、彼にしては若干申し訳なさそうな口調ではやての言葉に答えた。
「はい、そのことなのですが、実はまだシャマル主任医務官には許可を頂いておりません」
「そうなのか? 退院したって聞いたから、てっきりシャマルも了承してるものだと思ってたわ」
独特な訛りの効いた喋り方には、アルファードの無許可の復帰に対する怒りは感じられない。
というより、なら何故戻ってきたのかという疑問の方が言葉には乗せられていた。
「私自身、復帰についてはシャマル主任医務官から許可を得てからと考えています。なので、本日は戻ったという報告にだけ参りました」
「そうか。なら、今日は休暇扱いでええから……と、言いたい所なんやけど、折角隊舎まで来たんや。一度シャマルの所に行って、メディカルチェックを受けてくるとええ。一応病院側から退院許可は得てるみたいやけど、報告を聞く限り、そう簡単なもんでもないって、私もシャマルも考えてるから、こっちでもやっとかんとな。正直、そんな状態でも今は猫の手も借りたいぐらいなんや。出れるのであれば、出てもらった方がこっちも助かるしな」
苦笑し、若干疲れの見えるはやては、右肩を摩る仕草をしながら、目の前で休めを取っているアルファードに冗談交じりの弱音を吐いた。
実際、忙しいのは事実なのだろうが、末端である自分に彼女の仕事を手伝えるものは極僅かだ……何せ権限が無いのだ、自分にできる事など、図面を書き、質問調書を取り、自らの活動記録を文章に起こすぐらいしかない。
「はい、なら今からシャマル主任医務官の所へ向かいます」
「ちょっと待って。そろそろお昼やし、アルファードも食事にせん? シャマルには13時には向かわせる様に伝えとくから」
早速と切り出した彼に、はやてが左手首に巻いた腕時計を見ながら提案した。
「昼食ですか?」
「せや、取ってへんやろ? 丁度わたしもお腹すいてきたところやし、二人で食堂にでもいこか」
そう言って、アルファードの言葉も待たずに席から立つはやて。
彼女は今、六課の女性用制服のジャケットを脱ぎ、白のワイシャツとカーキ色のタイトスカートという姿で、動きにもどことなく疲れが見てとれ、事件後まともに休んでいない事が伺えた。
そんな上司に対し、下手に話を伸ばして休憩時間を削らせる訳にもいかないと、アルファードもはやての提案に二つ返事で乗っかったのであった。
◆(1)
現時刻11時53分……そろそろ隊舎内にいる職員たちが食事をするために食堂へと集まる時間帯だ。
そんな中、六課隊舎へと戻ってきたばかりのアルファードと、ワイシャツとタイトスカート姿の八神はやては、一足早いお昼の時間を過ごしていた。
「こうして二人でいるっていうのは、実は初めてやんな」
フォークでミートスパのパスタを纏めつつ、正面に座るアルファードに笑顔を向けるはやて。
「そうですね」
丸テーブルに上司と対面で座り、本日のA定食であるカツカレーを食べていたアルファードは、口に含んでいた物を飲み込むや否や、たったの一言だけ彼女に返した。
辺りに人の影は無く、窓際で日光を浴びていた観葉植物が、空調の風に煽られるぐらいの音しか聞こえてこない空間で、二人は食器の音を静かに立てつつ食事を続けている。
「実をいうと、アルファードとは一度、こんな風に話して見たかったんや」
「自分とですか?」
「そうや」
フォークでまとめたミートスパを口に含み、咀嚼し、飲み込んだはやては、首でも傾げそうなぐらいに疑問符を浮かべている彼に笑顔を浮かべる。
「もう六課に入ってもらってから2箇月か……どや? 首都防衛隊の時と大分違うと思うんやけど、もう慣れた?」
首都防衛隊というワードを出されて、少しだけ身構えたアルファードであったが、流石にこの状況でいきなり“陸”と“海”の話は持ちださないだろうと思い、素直に彼女の質問に答える事にした。
「確かに首都防衛隊とは大分違いますが、似ている部分もあるので、そこまで問題ではありません」
「そうか。それは良かった」
そう言って、二人は再び食事へと手を戻し始める……。
数分が経ったであろうか、アルファードは既にカツカレーを食べ終える寸前で、既に皿の上にある残りを一か所に集めつつある状態だ。
一方、はやての手は何故か止まっていた……もう口に通らないのか、意外に小食だったのかとも思ったが、そうではなく――――
(あかん、会話が続かへん……)
体面上は笑顔を浮かべつつも、はやての内面は既に顔を引きつらせている状態で、これから何を話せばいいのか決めあぐねていたのだ。
それもそうだ……最初から、なぜ“陸”の人間であるアルファードが自分の部隊にねじ込まれたのかだとか、シャーリーの報告から知る事が出来た強化外部骨格の事についてだとか、そういった諸々の事を聞くわけにはいかないからだ。
はやてはアルファードが退院したと報告を受け、六課に向かっているという情報を得た時から、今の食事会を企画していたのだが、話す内容自体は世間話に限定しようというルールも自分なりに設けていた。
そのために、事前にリインには席を外す様にお願いし、また食堂も13時までは使えない様にしていた――――他の職員には、近くの弁当屋に人数分の物を既に注文してあるため、時間内には届く予定であり、この無茶な要求も皆受け入れてくれている。
(もう趣味はとか、そんなものは聞いてもうたし……てか趣味聞いた時、体を鍛える事って帰ってきたときはやっぱりなとか思ったし。家族構成や陸士訓練校の話もしてもうたし、休日の過ごし方も聞いたし……あと何話せばええんや?)
しかし、肝心のはやてはアルファードとの会話に攻めあぐねている。
何故なら彼は、本当に最低限の事しか答えないからだ。
一つ聞けば一つだけ返し、二つ聞けば二つ返す……聞き手がどんどん掘り下げなければ、深く話してくれないタイプだったのだ。
(これは、本当にどないしよ……アルファードって、結局どんな話なら食いついてくれるん? というより、真面目な感じを崩してくれるん?)
以前、陸士108部隊隊舎に出向した際、ナカジマ一家二人と話たのを切っ掛けに、いずれは今回の様な場を設けなければならないなと画策していた彼女であったが、こうも砕けてくれないアルファードに対し、無意味な苦戦を強いられていた。
残酷な事に時間も待ってはくれないため、この折角用意した食事会の制限時間も刻一刻と近くなってきている。
これは、もはや自分が更に砕けるしかないなと決断したはやては、遂に俗物的な会話を持ちだすことにした。
「なあ、アルファード?」
「はい、なんでしょうか?」
さっきまでの大人の女性としての体裁とは一転し、悪戯心に支配されたにやけ面を正面の彼に向けるはやて。
もう、どうにでもなれというのには早いが、これは致し方ない決断であると彼女は無理矢理自分を納得させていた。
「ちょっと硬い話は置いて、ここからは単純な私の興味なんやけど……聞いてくれるか?」
「はあ」
心なしか小声になった上官に、流石のアルファードも何事かと、最後の一口となったカレーを乗せたスプーンを止めた。
「まだアルファードが六課の雰囲気になれてないのも分かる。訓練でも、首都防衛隊の人たちとやるのと、うちの子たちとやるのは全く違うのも頷ける……せやけどな、これならどんな部隊に行っても分かる筈や」
「分かる、ですか? 一体何をでしょうか?」
「それはな、ズバリ! アルファードが“良いな”って思ってる女の子が誰かって事や!」
自身が持っていたフォークをマイクに見立て、アルファードへと“ズイ”っと向けたはやては、内心で自分が何を言っているのかとセルフ突っ込みを行っていた。
だってしょうがないんやもん、もう時間もないし、会話もネタ切れやし、これ以上は“これ”しかないんやもん……と、自分で納得するしかないはやては、もうヤケクソとばかりにアルファードへと続けた。
「正直、私もこの六課にいる女の子のレベルは相当高いと思ってる。スバルにティアナもそうやけど、隊長・副隊長陣からサポート陣まで、言い方は悪いけど選り取り見取りや。そんな中で年頃のアルファードが無関心を気取れる訳ない! いや、私がさせない! てな訳で、誰が好みなん?」
もうどうにでもな~れ!
これが、今のはやての心の声である。
しかし、ヤケクソになっているはやてにとって、アルファードは意外にも真面目に答えて来てくれた。
「好みの女性ですか? これは以前にもヴァイス陸曹に聞かれたことがあります」
それは以前のシャワールームでの事なのだが、当然女性であるはやてにそんな話は来ておらず、思わず意外そうな顔を晒してしまったのは仕方のない事であった。
「ヴァイス君から? なるほどなぁ、ヴァイス君なら聞きそうやな。で、その時は何て答えたん? やっぱり年が近い二人か? それとも年上の二人か? いや、ここは大穴のヴィータとキャロか! いやいや、サポート陣も捨てがたいなぁ……は、まさか寮母さんとか!? ううん、シグナムやシャマル、リインだっておるし……」
食いついてくれるかもしれないという期待と共に、ここぞとばかりに饒舌になるはやて。
正直、年下の男の子に対し、こんな俗物的な質問をする上官というのは、異性という事も相まってセクハラに該当するのではないかと、理性というストッパーが働きそうであったが、連日連夜の忙しさにより、そのストッパーも錆びついていた様だ。
答えてくれるのだろうか、それとも先ほどまで同様、あまりパッとしない答えが返ってくるのであろうか……どちらにしても、はやての上官としての体裁を犠牲にした行動は、彼女の望む結果をもたらしてくれたらしく。
「はい、シグナム副隊長です」
「シグナムか! 確かに顔は怖く見えても美人さんやし、なによりスタイルもええしって、ええ!?」
望んでいた結果だとしても、あまりにも簡単に出てきた答えに、思わずはやても動揺してしまう。
シグナムやて……そりゃ確かに、美人で面倒見も良い子やけど――――存外、アルファードも“男の子”だったちゅうことか。
心の中で、自分の家族とも言える
これに対し、への字口の仏頂面を貫き続けているアルファードは、補足としての言葉を付け足した。
「シグナム副隊長には、どこか首都防衛隊の方々と同じ雰囲気を感じますからね。何となく気が楽なのです」
彼の言葉に、どっちに判断するべきかという迷いが生まれるが、はやてはもう少し掘り下げてみようと質問を重ねた。
「それは仕事中の接しやすさってことやな。なら、シグナムを異性として見るならどうや? 同じ職場で働く者同士じゃなくて、そうやな……プライベートで接するならで考えてみて」
「プライベートですか? いえ、分かりません。自分は身内以外の異性と、プライベートでの交遊を持ったことが無いので」
「ふ~ん、そうか。ならシグナムは、仕事上でだけってことか?」
「そうなります」
はやての表情から、みるみると諦めの色がにじみ出てくる。
期待こそはしていなかった……アルファードという部下を、様々な交遊ルートで下調べしていた彼女は、彼が俗世間とは少し離れた感性の持ち主であることを知っていたからだ。
しかし、彼の口から特定の異性が接しやすいと聞いて、少しだけだが彼女は期待を持ってしまった。
ここから切り崩していけば、ある程度のコミュニケーションを取れるようになるかもしれないと……されど、その希望も二・三の質問で容易く打ち砕かれてしまう。
はやての前のめりになっていた内面が、外見同様に座っている椅子に腰を落とした。
(はあ、やっぱそうなるか……まあ、アルファードが気を許せるかもしれない相手がシグナムってことなら、むしろ好都合って考えないとな。同じライトニング分隊やし、なのはちゃんに言えば、今よりもう少しやり易くなると思うし)
急遽考えつき、全員に少しだけ協力してもらって開くことが出来たアルファードとの食事会であったが、少しでも成果があったのなら、それはそれで成功なのだろうと無理矢理納得するはやて。
そうこうしていると、アルファードが皿の上にあったものを全て食べ終え、暫くしてはやてもミートスパを完食する。
時間は既に13時になろうかというところ。
そろそろアルファードをシャマルの所に向かわせねば、自分の我儘で待ってもらった彼女を、更に待たせる事になってしまう。
故に、はやては「もう時間やな。アルファードはシャマルの所に向かってくれへん? 私はもう少しここにおるから」と、彼を次の場所に向かわせるよう促す。
するとアルファードも「分かりました。では、お先に失礼します」と言って、食器の乗ったトレイを片付け、この食堂を後にする。
話し相手がいなくなった事で、広い食堂スペースで一人となってしまったはやては、ゆったりと背もたれに背中を預けると、一度ため息を付きながら天井をぼーっと眺めるのであった。
◆(2)
はやてが数十分ほど食堂で休んでいると、彼女の後ろから「お疲れ様、はやてちゃん」という聞きなれた声が掛けられた。
そちらの方に「うん?」と反応しながら振り向くと、そこには教導隊の白い制服に身を包んだ高町なのはが、手を後ろに組みながら立っていた。
「なのはちゃんか。ごめんなぁ、私の我儘で食堂使えなくしてしもうて」
「良いって。それよりも一対一で話せて、どうだったの?」
なのはは昨日も現場に出て、調査にも参加し、その後の事後処理も現在継続中であるにも関わらず、一切の疲れを見せない笑顔を見せながら、はやての対面……つまり先程までアルファードが座っていた席を引いて腰を下ろした。
「可も無く不可も無くって、言ってもいいんやけど……少しは収穫がありました」
「へぇ、どんな収穫があったのかな?」
丸テーブルに両肘を突け、両手の指を合わせながら、はやてに首を傾げるなのは。
その際、彼女のサイドテールが日に光を反射させながら揺れるが、生憎と相対しているのは同性であるはやてであるために、見惚れるなどの反応は無い。
「今度からアルファードの訓練については、シグナムに任せた方が良いかもと思ってな。本人も、シグナムに関しては首都防衛隊にいた人たちと同じ感じがするって言ってたし……まあ、最終的な訓練内容の決定権はなのはちゃんにあるから、何とも言えんのやけど」
「シグナムさんにかぁ……まあ、個別スキルの向上を目的とする訓練なら、都合が合えば面倒を見てもらうのも良いんだろうけど、隊のコンビネーションを上げる訓練なら、やっぱり話は別になっちゃうから。丸投げはできないかな」
「せやろなぁ~、まあ参考程度にって事で勘弁してな」
「うん。私自身、アルファードとはちゃんと話さないといけないって思ってるし、今日は助かったよ」
「そか、それなら良かったわ。まあ、今回のは私の都合もあったんやけどね……」
「うん、分かってるよ」
はやてが背中を預けていた背もたれから体を起こし、なのはに向けて苦笑を浮かべはじめた。
「まあ、今はアルファードの事もそうやけど、ティアナの事も考えなあかんしなぁ」
「ティアナか。うん、そうだね……」
はやてから出た言葉に、なのはがバツが悪そうな笑みを見せる。
ティアナと言えば、先のホテル・アグスタ襲撃事件の終盤で、魔力・体力・集中力共に精彩を欠き、現場管制を務めていたシャマルに前線から後方へと下げられ、かなり悔しい思いをしていた筈だ。
確かに、あの状況でアタッカーを欠いたセンターガードが、何のミスもなく戦線を維持し続ける事は、高ランクの魔導師でも苦労するとは思う……前線から下げられたのがベテランであったのなら、その判断は的確であったと納得してくれたであろうが、いかんせんティアナは若く、そして活力のある魔導師だ。
自身が下げられた本当の意味を理解していても、プライドや使命感がそれを良しとはしてくれない筈だ。
故に、いま精神的に追い詰められているのはティアナ自身であることは、なのはのバツの悪そうな表情から見て明白な事実であった。
「現場の戦闘が収まった後、ティアナと少しだけ話したけど、多分本人の悔しさは消えてないと思う。もともと訓練でも結果を求めて無茶をしちゃう所があったし、成長を急ぎ過ぎてる感じもあったから、今回の事はかなり堪えてると思うんだ……例え、頭では仕方のない事だって理解しててもね」
「せやな、ああいう性格の子って思いつめると、とことんまで思いつめちゃうから、これから気を付けないとあかんな」
「うん、正直次の訓練が怖いよ。幸い、今回の事後処理が終わればOFFを挟めるから、少し時間を空ける事は出来るけど……」
合わせていた両指の人差し指を、クルクルと回して本能的に気を紛らわすなのは。
そんな彼女の姿を見て、はやても困ったように微笑を零しながら口を開いた。
「まあ、なのはちゃんだけじゃフォローが難しいなら、私たちもいるし、あまり気負わんといてな?」
「ありがとう。肝に免じておきます」
どう見ても悩みがあると分かる表情に、はやては本気で大丈夫かと心配してしまうが、こればかりは積極的に手出しできる領域ではないために、なのはに任せるしかないのが現状だ。
ここは親友を信用するところだと心に決めつつ、はやてから見て高町なのはという女性も、ティアナと同じく思いつめやすく、自分の体調等も無視して行動してしまう節があるために、周りのフォローが重要な時だなと考えたのであった。
◆(3)
アイツが退院したという情報が入ったのは、私達が自分たちのデスクで昨日の襲撃事件の事後処理を進めてたところで……その時の内線を取ったのは、私の隣でモニターとにらめっこしていたスバルだった。
内線は八神部隊長からのもので、もしも私が取っていたら少し緊張していた相手だったけど、当のスバルは知人という事も相まってか、素直にアイツの退院を喜びながら、楽しそうに応対をしていた。
当の私は、現場の案内図から拡大図までの図面を作成しながら、その様子を横目で見てたんだけど、正直、アイツの退院は早すぎるんじゃないかって考えてた。
大体、リニアレールの事件からそこまで間も空いてなかったし、今回の事件で負った怪我も軽くは無かったって聞いてたから、自然とそういった考えになってたんだと思う。
なのはさんが発見した時、重度の火傷があり魔力も枯渇寸前だったって聞いてたし、皆、事件の調査中は心配ばかりしてたっけ……。
でも、あの時の私はそれどころじゃなかった……。
現場の状況が続いていて、しかも悪化したにも関わらず、シャマル先生の張った防御魔法の中に下げられ、防衛から途中離脱してしまったから、あの後はもうその事で頭がいっぱいだった。
もちろん、私もアイツの事を聞いた時は心配したわ……ただ、ずっとそれを考える余裕が、私の頭には無かったってだけ。
事件の事を考えながら、徐に部屋に備え付けてある針時計を見る。
深夜の3時22分……当直中の時なら、たまに起きているときのある時間帯だけど、明日は久しぶりのOFFで、体を休められる日になってる。
だけど、だからといって私は素直に喜べなかった。
実は、今日の仕事が終わった後、寮に帰ったらすぐに着替えて、今まで自主練をしていた……内容は照準の正確性を上げるものと、ひたすら反射神経を鍛えるもので、その二つを只管繰り返してた。
あの時の失敗は、体力的にもそうだけど、なにより集中力を欠いたのが原因だと思ってるから、とにかく今は反復練習をするしかないって考えて、そればかりやっていた。
だから、今はもうヘトヘトで、シャワーを浴びた後、下着とシャツだけ着てベットに横たわってる。
デバイスの整備はもう済ませて、ベットの近くにあるチェストの上に置いてあるし、食事もストックしてあった軽食で済ませてある。
後は寝るだけ……明日は、スバルが街に出ようって誘ってくれてるから、それまでは休んでいよう。
ベットの上で身動ぎしながら、横向きになって枕に顔の半分を埋める。
その体勢のまま目を瞑り、何十分が経っただろうか、またふと瞼を開けてしまう。
眠れない……仕事は終わらせたとはいっても、それは今日の交代の時間までの間にやるべき部分であって、全体を見ればまだ全然終わっていない状態だ。
アイツが戻ってくれば、その分を回して私の負担も軽くなるんだろうけど、今はいないし、事務仕事の苦手なスバルや、まだ慣れていないキャロ達二人に任せる訳にはいかない。
それに、今回は四方向に分かれての防衛任務だったけど、まだまだ私達フォワードのコンビネーションは完璧ではないし、アイツが怪我をし続けているせいで、まともな部隊訓練は出来ていないのが現状。
自分自身の事もそうだし、スバルたちの動きに関しても突き詰めるべきところは多々あるし、アイツとキャロたちの連携もやってもらわないと困る――――駄目だ、全然眠る事に集中できてない。
いや、寝るのに集中という言い方は可笑しいか……言うなれば、今考えるべきではない事が、勝手に浮かんできてしまう、かな。
時間を見ると、もう4時に近づいてきてる。
スバルが出かけようといった時間は11時だから、ギリギリまで寝るとしてもまあ無難な時間は休める筈。
だけど、今は一向に眠れる気がしない。
それは何故なのかは分かってる、自分が想像以上に悩んでいるからだ……。
自分の力量不足、そこから来る不安と焦りに。
じゃあどうするか、決まっている……。
そう考え、眠る事を諦めた私は、再びベットから起き上がると、クローゼットの方へと足を進めた。
眠れないなら、その時間を有効に活用した方が良い――――今は、とにかく成長して強くならなければならないんだ。
そうでないと、笑われるのは私だけじゃないから。
既に着ていた下着とシャツの上から、訓練用の衣服を着こみ、編み上げ靴を履き終えると、私は長い髪を何時も通りに纏め、ベットの近くのチェストに置いてあったデバイスを取り出し、それをホルスターに収めて外へと出た。
止まってられない、今はとにかく、強くならなくちゃいけないんだ……。
ようやくティアナは出せましたが、まだ導入といった感じです。
時系列を少しだけ無視するかもしれませんが、まあそれは二次創作という事で勘弁してください。
また、いくつか書こうとしていた場面を端折っているので、あれ、これは結局どうなったのって思う方がいらっしゃれば、感想等で出してくれると幸いです。
まあ、いずれは補完しようとは考えていますがね……今は、話を進める事が先決ですから。
では、また書けたらチェックもせずに投げ込むと思いますので、その時もよろしくお願いします。