炎狼   作:ゲレゲレ

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 活動報告で書いた通り、書いていく内になんでか自分が考えていた物とは全く別物の話になってしまった問題話です。
 正直、どうしてこうなったと、書き終えた時に思いましたが、終わり方は事前に考えていた物に近い感じだったので、そのまま投稿しました。
 ですが、自分自身納得がいっていない戦闘の流れと描写なので、いずれ直すと思いますが、話の進み方は概変わっていないので、訂正が入っても読み直さなくてもいいかもしれませんね。
 一応、あとがきにて言い訳を書かせて頂きます。




第二十二話 後編(仮なので、そのうち訂正するかもしれません)

 模擬戦の立ち上がりは、非常に静かな物であった。

 陸戦訓練用シュミレーターが具現化した繁華街の中心地、そこにある噴水の音と、外の海から吹きこんでくる潮風だけが耳の中へと入ってくる静けさ。

 ティアナはそんな中、近接が得意なアルファードへとセオリー通りの手段を取るため、上手い射撃ポイントを探していた。

(出来れば遮蔽物の少ない所が良いわね。見つかってもすぐに逃げられるポイントを探さないと)

 この繁華街のフィールドはショッピングモールと企業ビルが混ざった、現代の都市をモデルとした造りになっており、三階層になっているショッピングモールを抜けると直ぐに、狙撃ポイントとしてはもってこいのビル群が立ち並んでいる。

 そこを選ぶかと考えたティアナであったが、ふと思い立ったことがある……。

(でも、高い所に陣取ったとして、それであいつに見つからずに狙撃が出来るの? いや、普通に狙撃するだけなら出来るだろうけど、それが当たるとは限らないし……)

 まだ4月に六課へと配置されてから2ヵ月程度の付き合いであるが、アルファードという男の戦闘能力を傍目から見続けていたティアナは、自身が持ちうるセオリーが果たして通用する相手なのかという分析を開始する。

 模擬戦の制限時間は10分と定めたが、アルファードが外部強化骨格を展開し、準備完了した後のスタートなので、まだ考える時間は存在している。

 ティアナはショッピングモールを抜け、企業ビル等が立ち並ぶオフィス街へと足を踏み入れた。

 目の前には視界の開けた大通りが横に流れており、その先には大小さまざまな建造物が所狭しに立ち並んでいる。

 隠れる場所は十分にある、建物の上に陣取って狙撃を加えられる場所もあり過ぎるほどで、どこを取っても近接特化のアルファードには有利に事を進められそうな感じがした。

 しかしと、ティアナは思考する。

(あいつは近接特化に見えて、中距離戦も出来る魔法を使えるし、何よりあのナイフがどこまで届くのか、私は把握してない……これは、下手に狙撃ポイントを絞るのは危険かもね)

 大通りと歩道の境目として建っていたガードレールを飛び越え、ビルが建ち並ぶ方へと走り出したティアナ。

 片側3車線の道路の横幅は、それだけで戦闘スペースとして使える程広く、遮蔽物も無いために、ここで狙われれば防御は困難だろうと思える……が、動きの速い相手ならば、避けやすい場所でもあり、なによりここを狙う場合、狙撃ポイントが分かりやすい位置になってしまうのだ。

(……しょうがない、やるしかないか)

 大通りを横に突っ切り、ビルが立ち並ぶ方へと侵入したティアナは、何かを決心したように目を鋭くさせると、建物と建物が生み出す裏路地へと走って行った。

 

◆(1)

 

 ティアナが離れ、繁華街の中心地である噴水のすぐ近くに佇むアルファードは、バリアジャケット姿のまま、静かに外部強化骨格を展開させる。

 瞬間、彼の背中と首をサポートする、まるで金属の骨の様なデバイスが姿を現す。

 首を固定するために、後頭部から両頬を覆う装甲は、喉の部分を伸縮性に富んだ材質で覆わせており、保持力と耐久力を向上させつつ、可動域は維持したままの状態を保っており、それは背中の肩甲骨と肩甲骨の間に存在する、掌大の大きさしかない魔力炉から伸びていた。

 この魔力炉には、プロナード・キャバリエが開発したとされる擬似リンカーコアが収められており、そこを中心として外部強化骨格の骨組みは展開されている……といっても、筋力や耐久力を向上させる骨格部分は、先に紹介した首の部分と、打撃力を向上させるために両肩甲骨と鎖骨辺りをカバーする装甲と、背筋に沿うように臀部まで伸びた、背骨の様な装甲しか存在していない。

 つまり、強化骨格とは言っても、打撃力や引き込みの力に必要な背中から腰部分しかカバーしていない事となっていた。

 また、両肩甲骨の間に存在する魔力炉に至っては、アルファードの魔力変換資質によって変えられた魔力の炎が、装甲のつなぎ目から覗き見え、今まさに擬似リンカーコアと使用者のリンカーコアが直結している事が伺えた。

(思った以上に違和感を感じるな、リンカーコアとリンカーコアを繋げるという事は)

 事前に、外部強化骨格の出力は10%に抑えてあったため、急激な魔力強化という訳にはいかなかったが、自身の根幹をなす部分……例えれば、心臓が他の心臓と直結したという、不可思議な感覚にアルファードは嫌悪感すら覚え始めていた。

 リンカーコアというのは魔素を栄養素とし、それを魔力に変換させ全身へと魔力回路を通じて流していく、いわばエンジンとポンプの役割を担っている――――つまり今、アルファードは心拍数が一気に上がり、血流が増え、魔力回路という人体で言えば血管に当たる部分が、瞬間的に増設されてしまった様な感覚を味わっているのだ。

 正直、これが10%の出力というのであれば、もしも100%で運用した場合、あまりの気持ち悪さに戦うどころではないのではないかと考えてしまう程で、アルファードであっても、この新デバイスの運用に戸惑いを覚え始めていた。

(しかし、出力自体は安定しているのか……という事は、俺の慣れ次第という訳だな)

 空間投影モニターを展開し、現在の状態を確認するアルファード。

 外部強化骨格の出力メーターはグリーンの表示であり、臨界点を示すレットゾーンには到底届く様な動きはしておらず、また安定させるためにアルファードが何か意識している訳でもないために、扱い自体は簡単なものなのだと理解する。

 デバイスが安定している事を把握したアルファードは、一つ、二つと嫌悪感を落ち着かせるための深呼吸を行うと、静かに、されど険しく正面を見据え始めた。

(魔力がいつもより、体中に巡っている感覚はある。カートリッジ使用時とはまた違う感覚だな……あれは、魔力が巡るというより、瞬間的に現れるという表現に近いからな)

 ガンドレット型のデバイスに包まれた10本の指を、ゆっくりと開いては、力強く握りしめるのを繰り返す。

 力も入る、呼吸もいつも通りスムーズだ。

「いける」

 ポツリと、アルファードは呟いた。

 正直、擬似リンカーコアの違和感はまだ拭えないが、戦っていればそのうち慣れるだろうと、彼は楽観視する事にしていた。

 準備が整ったアルファードは、既に目の前からいなくなり、どこか別の場所へと移動していたティアナへと念話を飛ばす。

『待たせたな。準備は完了した』

『そう、なら始めるわ。制限時間は10分、活動可能領域は、この訓練スペース全域。終了条件は、どちらかにクリーンヒットがあった時点でどう?』

『クリーンヒット1回か、その条件で構わない』

 ティアナとの念話が途絶えたのと同時に、彼の目の前にカウントダウンが表示された空間投影モニターが映し出される。

 カウントダウンは5から始まり、それが4、3、2、1、と秒刻みで進み、そして模擬戦がスタートされると同時に、空間投影モニターが姿を消す。

 瞬間、アルファードが火の粉を散らしながら走り出す。

 煉瓦に刻まれた彼の足跡には、炎の軌跡が残され、魔力を纏った走りで加速していくアルファードは、瞬く間にショッピングモールから外へと出て行ったのだった。

 

◆(2)

 

 模擬戦が始まって間もなく、あたしが相対すべき相手がショッピングモールの入り口から姿を現す。

 アイツの名前はアルファード・レヴィントン、陸士訓練校時代、スバルに対して心無い言葉を浴びせ、他の訓練生にも残酷な現実を突きつけた張本人でもある。

 だけど、あたしはそんな事は気にしていない――――あたしは、ただアイツが気に食わないだけなんだ。

 ショッピングモールの入り口から飛び出てきたアイツは、その勢いを殺すことなく、正面に見えるビルとビルの隙間に身を隠そうと、大通りを横切ろうとしている。

 そうはさせない――――『Variable Shoot(ヴァリアブル・シュート)』

「っ!」

 あたしは、ショッピングモールの入り口から見て10時の方向にある建物の屋上から、片道3車線の大通りを横切ろうとするアイツに向けて、多重弾殻射撃を4発行った。

 両手に握るクロスミラージュの銃口から、合成音声と共に発砲された4発の魔力弾は、進行方向を予測していたアイツへと直撃コースで飛んでいく。

 寸の所で気づいたアイツは、左手に防御シールドを張るが、そのシールドはあたしの多重弾殻射撃の殻を捲った程度で、本命の魔力弾を自身の体に通してしまっていた。

 決まったと思ったあたしだったけど、次の瞬間、あいつは空いていた右手一本で2発の魔力弾を弾き、コンマ数秒遅れてきた2発の多重弾殻の魔力弾を、身を捻じり、地面に手を付かない側宙で回避してみせた。

「ちっ!」

 大通りのアスファルトに、アイツから逸れたあたしの魔力弾4発が直撃し、土埃と破片を周囲に撒き散らす。

 すると、アイツのすぐ後方が煙幕によって視界が悪くなった事に気づいたあたしは、思わず舌打ちをしてしまう。

「案の定の行動を取るのね……」

 アイツはあたしの予想通り、煙幕が発生していた少し後方へと逃げ込むと、その視界の悪さに乗じて移動を開始していた。

 こうなると、射線上からあたしの居場所はバレたに等しい……が、次の瞬間だった。

 ショッピングモールの入り口から10時の方向に位置するあたしの立ち位置は、地上6階建の建物の屋上だ。

 その位置に向けて、アイツの18番でもある炎の魔力で形成された2本のナイフが煙幕を掻き分け、切っ先を前にして飛来してきた。

 それに対し、あたしは反応が遅れてしまい、シールドを張る間もなく、胸と眉間に直撃を許してしまう……が、アイツのナイフがあたしに触れると同時に、“屋上にいるあたしを形成していた魔力”は霧散し、あたかも元からそこには何もいなかったかのように姿を消してしまった。

 幻術……あたしの得意な魔法の一つで、今のはFake Silhouette(フェイクシルエット)という名前の魔法だ。

 精度で言えば肉眼でもセンサーでも騙せる、使い勝手のいい魔法なんだけど、一定以上の衝撃が加わるとすぐに解けてしまう、脆い幻術でもある。

 もともと、高位幻術魔法として認知されているものだから、あたしの魔法力じゃこの程度が限界だ。

 だけど、これに何かしらの攻撃魔法等を撃たせれば、あたかもそれが本物であると相手に認識させる事が出来るために、かなり重宝してるものでもある。

(ナイフはあの距離まで届かせることができるのね……正直厄介だわ。精々有効射程は20から30m程度だと思ってたから、今の飛びだと100m近くは正確に狙えるみたいね。以前はそこまで届かないとか言ってたけど、これも外部強化骨格とかいうデバイスのおかげかしら?)

 幻術を消され、次なる一手を考えていたあたしは、今いる場所から次の想定ポイントへと足を進めた。

 あたしが幻術に隠れていた場所は、幻術が屋上に立っていた建物の一階部分で、裏口から外へと出ると、狭い裏路地を走り出していた。

 薄暗く、プライベートなら絶対に通りたくない細い道も、今は姿を隠すには格好の移動経路となってくれている。

 そしてあたしは、ここでもう一つの手を使う事にした。

『Optic Hide(オプティックハイド)』――――あたしのデバイス、クロスミラージュが合成音声で心なしか小さく魔法名を発する。

 すると、室外機やゴミ箱などが置かれている、薄暗く狭い裏路地を走っていたあたしの姿は周囲から消え、走る足音以外にあたしを判別する手段が無くなっていた。

(本当ならいらないかもしれないけど、アイツに関しては油断ならないからね)

 この魔法は身体や衣服の上に複合光学スクリーンを展開し、あたしの姿を周囲から視認できなくするもので、他にもあたしが触れながら発動したのなら、その相手も透明にする事ができる、隠密行動に秀でた幻術だ。

 しかしデメリットとしては、この状態で魔法を発動してしまうと一気に効果時間が縮まってしまうために、そこまで長く使用できず、使用する際は使いどころを見極める必要がある。

 だが、今はこれが有効に働いてくれていた。

 あたしの次の狙撃ポイントは、この近辺でも3番目ぐらいに高いビルの一室だ。

 地上38階建て、その一室は、この建物群が形成する裏路地をある程度視認する事が出来る場所で、そこを抑えればアイツが隠れる場所を粗方潰す事が出来るのだ――――故に、何としても抑えなければならないポイントでもある。

 光の屈折、熱の振動もコントロールして姿を消していたあたしは、遂に目的の一室のあるビルへとたどり着いた。

(急がないと。アイツが狙撃ポイントの割出をする前に到着しないと意味が無い!)

 両手に握っているうち、右手側のクロスミラージュの銃口を、件のビルに直結している歩道橋へと向ける。

 このビルは他の建物と歩道橋で繋がっていて、一階入り口部分は車両が通るロータリーがあり、二階部分には歩行者がそのまま入れる入り口があるため、建物と建物の行き来を便利にする工夫が凝らされており、今現在一階周辺の道路に立っていたあたしは、一度二階部分の歩道橋へ登らなければならないのだ。

 右手に持っているクロスミラージュの銃口から、オレンジ色の魔力光を発するアンカーを射出する。

 それは真っ直ぐに飛んでいき、歩道橋の手すり部分に接触すると、あたしの体を引き上げながら長さを縮めていく。

 件のビルへは中に入らず上まで行かねばならないため、あたしは歩道橋へと足を付けると、そのまま同じ工程でアンカーを射出し、今度はビルの20階部分にある窓へと設置させた。

(早く! 早く着かないと!)

 アンカーを設置させた窓へと引き上げられていくあたしは、目的地へと到着すると同時に窓を叩き割り、そのまま部屋へと侵入し、振り向きながら外へとクロスミラージュの銃口を向けた。

 既に透明化の魔法は解けており、あたしは自身の姿を完全に晒している状態で、更に言えば、今割った窓ガラスの音で、アイツに居場所が気付かれた可能性もある。

(どこ……今アイツはどこにいるの?)

 この一室から覗ける全ての裏路地に注意を払い、自身の周辺にもサーチャーを飛ばしたあたしは、完全にここで迎え撃つ体制を整える。

 先の先制射撃の意味が、ようやく役に立つときが来たんだ……すぐに見つけて、仕掛けなければペースを握れない。

(こっちは幻術まで使ってブラフ張ったんだから、索敵に割く時間はまだある筈! サーチャーは魔力探知に重視させて、あたしは肉眼であいつを捉えるんだ!)

 あたしが張ったブラフ、それはいま姿を晒しているあたしが、本物では無く幻術であるかもしれないという疑問を生ませるもの。

 さっきの攻撃では、わざわざ多重弾殻の魔力弾を遠隔操作してまで幻術に撃たせ、アイツに偽物も攻撃を加えられるという錯覚を与え、こっちは幻術主体で作戦を組み立てているのかもしれないという考えを芽生えさせられたと思う。

 だからこそ、今の位置取りが重要なのだ。

 敵がいる、だが幻術かもしれない……攻撃を加えてみよう、いや本物は近くにいて、自分が姿を晒すのを待っているのかもしれない――――たったこれだけ、これだけの事を少しでも考えさせれば、ここから先の戦闘はあたしのペースに持ち込める。

(どこ? どこにいるの?)

 あたしの額から一筋の汗が、頬を伝って顎先へと流れていく。

 デバイスのトリガーに指を掛けた両腕は、適度な緊張を保ってはいるが、今にもあたしの命令を無視して威嚇射撃を開始しようとしている。

 目は瞬きを忘れ、口は乾き、心臓の鼓動が自然と早くなっていく……。

 緊張している、これは良くない流れだ。

 そう認識しつつも、あたしはその緊張という名の鎖を解けないでいた。

 それは何故か……多分、相手がアイツだからだ。

 あたしはアイツに勝ったことが無い。

 陸士訓練校時代、徒手格闘訓練や模擬戦でも、アイツに対しては何もできずに終わっている……それは、スバルが一緒にいた時でも同じだった。

 だから必要以上に緊張しているんだ。

 流れは来ている、作戦は上手くいきかけている、昔と今のあたしは違うんだ――――様々な感情が、あたしの中で渦巻いていく。

(大通りにはもういない。西側の区画にも、北側にも魔力反応は見られない……じゃあ東は?)

 東側の区画は、先ほどまであたしが裏路地を走っていた場所で、ファーストコンタクトで居場所を掴まれていれば、アイツがそちらに向かい、まだあたしを探している可能性は有るかもしれない。

 あたしは大急ぎでサーチャーを飛ばし、遠隔操作で東側の区画をくまなく探し始めた。

 残り時間は4分……これまでのアイツからの攻撃は、最初のナイフ二本を投げさせたぐらいで、それ以降は何もさせていない。

 地理的な有利、開始地点の有利、陣地を構築する速さ、相手の思考を操れる手札の豊富さ。

 それらの要因全てが、今のあたしの状態を作り上げている。

 これは勝てるかもしれない……ここで見つけ出せば、あとは一方的に遠距離射撃で仕留められる自信がある。

 自分に言い聞かせるように、あたしは胸中で“自分が有利である”と唱え続けた。

 だけど、そんな時だった。

 ジリリリリリリリ!!――――突如、このビルに備え付けられていた非常ベルが鳴り響いた。

 あまりの高音に、あたしは思わず「なに!」と叫んで後ろを振り向いてしまう。

 そこには何も無く、誰もデスクには座っていない、照明も付けられていない事務所の風景が広がっていた。

 しかし、あたしはそちらへと両手に握ったデバイスの銃口を向ける。

 煙を感知するタイプの報知器が作動したのか、それとも熱を感知する報知器が作動したのか、今は判別が付かないが、この非常ベルを鳴らさせた者がいることは確かだ。

(どこ……どこにいる?)

 目を左右に動かし、銃口を油断なく正面に向けているあたしは、自然と窓ガラスを割った壁の方へと背中を預けてしまう。

 それは後ろを相手に取らせない、最低限の行動だった。

 非常ベルがけたたましく鳴り響き、あたしの聴覚を薄れさせ、更には焦りすらも生まれさせる。

 一気に逆転された……あたしは、知らない内にあたしの陣地としていた建物の中に相手を入れてしまっていた事に、一種の敗北感を覚え始めていた。

 でも、奥歯を噛みしめ、頭を左右に振った事で、その考えはすぐに捨てる事が出来た。

(大丈夫、まだ焦る時じゃない。あたしの動きはどういう訳か先読みされてたみたいだけど、まだ接近された訳じゃない……大丈夫、まだ勝機はあたしにある!)

 割った窓からあたしの背中に海の潮風が吹きこみ、熱くなりかけていた頭を冷やしてくれている。

 冷静になれる内は、まだ余裕のある証拠だ。

 第一、アイツが現れたのなら、また窓から飛び降り、ポイントを変えればいいだけの話だ。

 むしろ、このチャンスをアイツが逃せば、もう残り時間的にあたしを仕留める事は出来ない。

 そうなれば、少しだけでもアイツの吠え面が見られるかもしれない……それは愉快な事だ、模擬戦の相手にすらならないと言った相手に、何もできずに引き分け以下に持ち込まれれば、流石のアイツだって考えを改める筈だ。

 警戒しつつ、自分の心を何とか平常心に持っていこうとしていたあたしは、再度サーチャーをこの建物の周りに集め、魔力探知を行った。

 この階はあたしが見ればいい話だし、サーチャーには下と上から同時に探知をさせる……そうすれば、いずれアイツを見つけられる筈なんだ。

 そうやって、あたしがこの建物の探知を開始した直後だった。

「っ!?」

 突然、さっきまで潮風の冷たさしか感じていなかった背中に、それとはまったく別の、嫌悪感すら覚えてしまう寒気が走り始めた。

 この直感に、あたしは急いで振り返ろうとする……が、既にあたしの視界は、あいつの掌と思われる物に覆われており、次の瞬間には筋肉で固められた太い腕を首に回され、完全に頸動脈を締められていた。

「ぐ……ぅう!」

 あたしは裸締めの状態で首を締め上げられ、苦悶の声を思わず上げてしまう。

 一体、こいつはどこから現れたのか?

 窓からなのは分かる、下の階からか、上の階からか――――いや、そんな事を考えている暇なんて無い!

 あたしの足は既に宙に浮いていて、それを無様に動かし、なんとかこいつの太い腕から逃れようともがき続けている。

 両手に持ったデバイスで魔力弾を形成しようとするが、それをしようとした瞬間、こいつはあたしの首を絞めたまま、左右に体を振り回し、壁にあたしの手をぶつけさせ、ツーハンドモードになっていたデバイスを落とさせた。

 既に脳に行く酸素も少なくなり、指先の感覚が無くなりかけていたあたしだったけど、それでも負けは認められず、両手でこいつの太い腕を掴んだ。

 すると、後ろで無言のままあたしを締め落とそうとしていたこいつは、締めている腕とは反対の手を外し、その掌に魔力で作られた一本のナイフを形成させ、それを逆手に握りしめた。

 ナイフの握り方から、あたしはこいつの右腕に締め上げられている事が分かったが、今はそれどころではない。

 ナイフの切っ先が、ゆっくりとあたしの右目に近づいてきたのだ。

 瞬間、あたしの中に恐怖が芽生え始める……それを見越したのか、これまで無言だった奴が、静かに口を開いた。

「模擬戦は俺の勝だ。異論はないな?」

 ナイフの切っ先が止まり、あたしの首を絞めていた右腕が外される。

 あたしはそのまま地面に膝を付いて俯くと、ゲホゲホと苦しそうに咳を出し続けた。

「射撃ポイントの選び方は悪くない。幻術による思考の誘導も見事だった……」

「けほ! けほ! けほ……」

「だがそれだけに読みやすい。お前の出来る事を知っていれば、本命の射撃ポイントも絞れるし、先回りして待機する事も可能だ」

「……うるさい」

 未だ喉に違和感を感じつつも、背中に浴びせられる勝者の言葉に苛立ちを覚えたあたしは、感情をむき出しにして言葉を発していた。

 忌々しい、苛々する――――途中まで勝てるかもしれないと思っていたのに、それを一瞬で覆されてしまった事にも腹が立つし、結局踊らされていたのは自分であったという事実に、あたしは自分が許せないでいた。

 眉間に皺を寄せたまま立ち上がり、振り返ると、そこにはバリアジャケットと外部強化骨格を展開させたアルファードが立っていた。

 表情は涼しげで、まるで苦戦もしていないといった様子に、あたしは両手を強く握りしめてしまう。

「しかし、それだけに不可解だ」

「不可解ですって?」

 あたしは睨みつけるように、目の前の仏頂面を見据えた。

 不可解? 何が?

 結果だけ見れば、あなたの完勝じゃない――――あたしの張ったブラフを無視して、あたしの考えを先読みして待ち伏せしていたなんて、どこからどう見てもあたしの完敗じゃない。

 勝因も敗因もハッキリしているのに、これ以上なにが分からないっていうの?

「いつものお前なら、俺にでも先回りできる作戦は立てない筈だ。いくら外部強化骨格によって、様々な能力が向上していたとしても、それを見越せないお前ではあるまい?」

「……なに分かったような口きいてるのよ?」

 絞り出すように、あたしは肩を震わせながら声を発した。

 こいつは何なの、あたしの何を知っていると言うの?

「あたしは負けた! あたしの負けよ! あんたの言った通り、模擬戦にもならなかった! もうそれでいいじゃない! ほっといてよ!」

 叫ぶように捨て台詞を吐き、あたしはアルファードから背を向けてしまった。

 これがどれだけ情けない事だったのか、今のあたしでも分かってる。

 だけど、抑えられなかった……何の力も無いあたしに、自分自身で苛ついてしまった。

 シュミレーターで作られた建物の階段へと走っていく。

 走って、走って、走って……悔しすぎて、涙が出るぐらいに顔を歪めながら、あたしは階段を降りて、走り続けた。

 すると、陸戦用訓練シュミレーターが作り出していた街並みが一気に姿を消した。

 おそらく、あの部屋に残っていたアイツがシュミレーターを切ったのであろう。

 そのほうが丁度いい、今はとにかくここから出たかったから……。

 

◆(3)

 

 シュミレーターの訓練場に取り残されたアルファードは、黙ってティアナの後ろ姿を眺め続けていた。

 バリアジャケットを解除する事も無く、走って帰っていく様は、およそ普段の彼女には似つかわしくない、逃げの姿に見え、アルファード自身、今の彼女の精神状態が正常ではない事は理解できた。

 だが、理解できただけで何かをしようとはしない……いや、正確に言えば、何をすればいいのか分からないのだ。

 模擬戦は勝った、外部強化骨格の作動テストも併用して終わらせた。

 自分のやるべきことは終わった、なら今はティアナを追うべきではないのか?

 アルファードという男に、その選択肢は浮かばない。

 浮かぶのは、彼女の精細を欠いた行動について、それだけだ。

 幻術による思考の誘導は、アルファードがティアナが幻術を使う頻度を知らなければ確実に引っかかっていたと思える程だったのだが、その後の捻りの無い射撃ポイントの選定のせいで、それが台無しになっていたのだ。

 あのビルは今回の想定で3番目に高い建物で、立地的に他の高層建物も視界に入れる事が出来る所であったし、裏路地という普段ならば死角となる筈の場所も、ほぼ一望できる位置に存在していた……ということは、遠距離系を得意としているティアナはあそこを選ぶだろうと、アルファードは最初ショッピングモールから出てきたときに当たりを付けていたのだ。

 しかし、普段のティアナならばあそこは選ばなかった。

 なぜなら、単純すぎるからだ……確かに様々な場所を視界に収められるのは便利だ――――だが、逆に言えば自分の位置も簡単に教える事になってしまう。

 ティアナは最初の訓練の際、幻術を相手の見える所に置き、自分は相手がそれに気を取られている隙に移動する様な慎重派な面を見せていた。

 そんな堅実な手を使う相手が、ただ視界が開けているからというだけで、そこを選ぶだろうか?

 いや選ばない……だが、今回は選んでしまい、ましてやアルファードは“今のティアナ”なら選ぶと思い、先回りをしていた。

 何故、人の機微に疎いアルファードがそれを察する事が出来たのか。

 それは、彼のこれまでの経験が導き出した答えであり、今日のティアナの言動を踏まえて、彼女が単純なミスを犯しそうだと判断したからにすぎなかった。

 地上本部の重鎮、レジアス中将に拾われる前までの彼が経験してきた事によって磨かれてきた勘が、その判断を可能にしたのだ。

 また、その勘が確信に変わったのは、ティアナが焦る様にビルをアンカーガンで登っていき、相手に居場所を知らせかねないほどの音を、窓ガラスを割る事で発した時であった。

 あそこまで露骨に急いでいれば、いくらアルファードでもそこが本命だと気付くし、あとはサーチャーに引っかからない様にバリアジャケットを解除し、素の姿のまま息を潜めてチャンスを伺っていただけで、他に特別な事は何もしていない。

 故に、アルファードはティアナに向けて不可解と口走ったのだ。

 彼はティアナ・ランスターという隊員を一応は認めている。

 彼女には自分には無い状況判断能力があり、現場指揮能力も高い水準で持っている……また、術の豊富さもあり、下手をすれば単独行動が出来る射撃系魔導師であると評価していた。

 なのに、今回の結果が生まれてしまった。

 それは何故なのか?

 彼女の精神状況が不安定だったからというのがアルファードの見解なのだが、それ以外の事が彼には浮かばない。

 何故精神状況が不安定なのか、何故自分に対し目くじらを立てているのか、何故逃げるようにしてこの場を去って行ったのか……アルファードという男には、その部分が理解出来なかったのだ。

 そして彼は、ティアナについて考える事を放棄してしまう。

 仲間の精神状態が不安定なのを知りながら、仲間が追い詰められているのを気付かないまま、自分がやるべき仕事へと戻ってしまう。

 アルファードという男は、“そういう男”なのだ。

 

 

 




 うん、自分でもどうしてこうなったって感じですよ。
 もうね、頭がパンパンなの。
 考えがまとまっているようで、全くまとまってないの。
 だって、こんな静かな戦いを書くつもりは無かったんだもん。
 当初の予定は、弾幕を張るティアナに、アルファードが外部強化骨格の出力を利用して接近を果たして、得意の近接戦闘に持ち込むってのが流れだったのに、なんでこんな感じになったのか、自分でもわかりません。
 一方的な戦いは嫌いだし、どんな相手でもティアナってある程度は戦えそうだから、こんな展開になる筈はないって思ってたし、なんでだ?
 そんなこんなで、文章もチェックしてないから読みづらい感じになっちゃったし、もう最悪ですよ。
 だけど、話を進めるためには投稿していかないと間に合わないし、どっちつかずになってますよね。
 何か、これは納得いかないという方がいらっしゃれば、もう一度投稿し直します。
 折角のタイマンだったのに、これじゃあねえ……。
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