炎狼   作:ゲレゲレ

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 すみません、例のごとくチェックなしです。
 書く時間も飛び飛びで、話も飛び飛びになってしまいましたが、ストーリーを進めたいがために投稿しました。
 また感想であった修正点にも手を付けられていない状況です、最近忙しいんです勘弁してください。
 いずれ直します、ただ5月中はアホみたいに忙しく眠いので、無理っぽいです。
 もうね、あれっすよ。
 何々会とか5年未満の職員を対象とした研修とか無くなればいいんだ!
 ついでに無理矢理出席&飲ませる飲み会も、俺が偉くなったら絶対に潰してやる!



第二十三話

 夕暮れ時の、空が茜色に染まった頃。

 あたしは一人、寮の一室で電気も付けず、机の上に突っ伏していた。

 格好は白いタートルネックのセーターに、黒のフリルスカートっていう、昼の散歩に行った時のままだ。

 ブラインドを落としていない窓から、暖かくなる空の光が刺し込んできているが、あたしはそれを嫌って反対方向に頭を向けながら、ひたすらにアルファードとの模擬戦や、ホテル・アグスタ襲撃事件の事を考えていた。

 アルファードの模擬戦も、アグスタの事件も、そのどちらも中途半端に戦い、最終的には何もできずに失敗してしまったというのが、今のあたしの考え……というより、悔しいと言う思いが先行して、自分は情けない人間なんだというネガティブな思考しか巡ってこない。

 シャワーも浴びずに、今までこうしていたせいで汗臭いし、昼食も食べてなかったからお腹も空いているし、行動をしようという理由づけは既に出来ているのに、動くことが出来ない。

 何やってるんだろう、あたし……。

 これが放心状態というものなのか――――今までの努力を全て否定された様な感覚に、あたしは苛まれている。

 だけど、こんな時こそ気張らなければならない。

 じゃないと、あたしのやるべきことは達成されないから。

 徐に、机の引き出しを開け、中から一つの写真立を取り出す。

 その写真立に入っていた写真には、小さいころのあたしとあたしの兄さん、ティーダ・ランスターが笑顔で写っていた……。

「……」

 暫く、あたしはそれを力無く、無言で見つめていた。

 あたしが幼いころ、不慮の事故で父さんと母さんを亡くした時、まだ若い空戦魔導師だった兄さんは自分の時間も犠牲にして、男手一つであたしを育ててくれた。

 あの時のあたしは、肉親二人を同時に亡くしたショックでかなり塞いでたけど、兄さんはそれでも何とかあたしを元気づけようとしてくれて、その甲斐あってか、いつ頃かは覚えてないけど、あたしも本来の自分を取り戻しつつあった……だけど、ようやく二人だけの生活に慣れてきたところで、兄さんは職務中に殉職してしまった。

 当時のあたしには全く理解が出来なかった――――だってそうでしょ?

 父さんも母さんも同時に亡くして、そのあとようやく立ち直れそうだった時に兄さんもいなくなってしまったのよ?

 我ながら、あの時に自暴自棄にならなかったのが不思議なぐらいよ。

 だけど、理由は何となく分かってる……あたしは、少しだけではあったけど魔導師の仕事に憧れを持っていたんだ。

 明確に言えば、優しくてかっこよかった兄さんに憧れてた、だけどね。

 そういった憧れが決意に変わったのは、写真に写ってる兄さんの葬儀の時だった。

 両親を亡くし、世話をしてくれていた唯一の肉親である兄さんを亡くしたあたしは、葬儀の場で天涯孤独の身として周りから見られてた。

 両親の知人から、兄さんの知り合いや友人たち、そして同僚の武装隊員達……親族も少ない葬儀にしては、かなりの人が来てくれたんだけど、それら全員はあたしの事を“可哀想”だとか、“お気の毒にね”といった目でしか見てなかった……誰一人として、あたしに対して本当の手を差し伸べてくれる人はいなかった。

 それだけなら良かった、それだけならただ施設に預けられて、大人しく生きていくだけの子供になってただけだった……だけど、あの時あたしは耳に入れてしまったんだ。

『武装隊が犯罪者に殺されちゃ、かっこつかねえよなぁ……』

『信頼の回復が大変だよ、全く……』

 棺桶に入った兄さんが墓地に入れられる間際、そのどさくさに聞こえてきた、心無い大人たちの話声……いや、本心は分からない。

 ただ、死んでしまった同僚に対して別れ際の皮肉を言っていただけかもしれない……それでも、あたしには我慢ならなかった。

 だって、あんなに優しくてかっこよかった兄さんが、遠回しに無能呼ばわりされた事に、一番近くで見ていたあたしが我慢できるわけないじゃない――――だから決意した。

 あたしも兄さんと同じ空戦魔導師になって、兄さんを無能呼ばわりした奴らを見返すんだって。

 兄さんは強かったんだって、認めさせるんだって――――

 不意に、あたしの眼から一筋の涙が頬を伝って零れた。

「……何が見返すよ」

 小声で呟く、誰にではなく、自分に対する言葉。

「今のあんたに、兄さんの魔法を認めさせるだけの力があるのかって……」

 自問自答……本当に笑っちゃうくらい、勝手に自分を蔑み始める。

 決意の弱さ、意志の弱さ、戦闘技能の弱さ――――あげればきりが無くて、常日頃のあたしなら時間の無駄と切り捨てる行為。

 それでもあたしは止められなかった。

 一日の疲れに負けて、その瞼を閉じるまでの間、ずっと止められなかったんだ。

 

◆(1)

 

 アルファードとティアナの模擬戦から三日後……機動六課の寮がある場所の近くの広場で、早朝からトレーニングをする人影が見られた。

 昨日はあいにくの雨で、草木にも水滴が残る中、天然芝の地面を荒らしながら、只管に自分を追い込んでいく女性……二つに纏めたオレンジ色の髪を揺らし、拳銃型デバイスを両手に持って、次々にターゲットへと銃口を向けていっているのは、機動六課スターズ分隊所属のティアナ・ランスターだ。

 彼女は自身の周囲半径5メートルの範囲に白い球体のターゲットを浮遊させ、銃口を正確に向けると赤く変色するそれを使って、照準を素早くつけるトレーニングを行っている。

 一つ、二つと流れるように素早く球体の色を変色させていく照準は、ティアナにとって一つの武器とも言えるもので、近距離を主とする者達には到底真似できない技術を既に身に着けていた。

 そんなトレーニングを1時間以上、彼女は闇雲に続けている。

 本日も午後から訓練があり、体力を温存させるべき場面であるのだが、彼女は後先考えずに集中し、動き続けた――――その表情からは気迫が感じられ、三日前にアルファードにやられ、意気消沈していた者とは思えない迫力が発せられていた。

 横を振り向けば汗が散り、激しい動きの繰り替えしを行えば荒い息が漏れる。

 それでも彼女の照準速度に乱れは無く、一つ一つ確実に球体の色を染め上げていたのだった。

 時刻にして7時過ぎになると、彼女のトレーニングも終わったようで、近くの木に掛けてあった白いタオルを取り出すと、汗を拭きながら足を寮の方へと進めていった。

(足りない……まだまだ足りない。あたしが目指す場所にいくためには、スタンドアロンで戦える手段が必要になる。なら、近距離での照準速度を上げるだけじゃ足りないわ)

 広場から土手の階段を上がり、自身のデバイス“クロスミラージュ”を待機状態で右手に握りしめながら、思いつめた表情で歩くティアナ。

 思い出すは、アルファードとの模擬戦。

 内容的にはまともな接触は二回しかなく、中距離からの幻影を利用した射撃と、不意を突かれ後ろを取られたぐらいしかアルファードとは交戦しておらず、自身の実力を出し切る前に決められてしまったのだが、彼女にはそれでも得られる事があったようだ。

(あたしに必要なのは、接近戦でも戦える武器と技術だ。でないと、幻術魔法と射撃魔法を抑えられた時に何も出来なくなる)

 相手を惑わしつつ、正確かつ強力な射撃で仕留めるというのが常套手段のティアナは、自身の欠点であり、唯一対応できなかった接近戦について考え始めていたのだ。

 実際、チームを組んでの戦闘であれば、彼女が接近戦に参加する心配は無い……何故なら前衛にはスバルがおり、またライトニング分隊と組めばエリオ、そしてアルファードも前を固める要員になってくれる。

 その三人が前を固めるのであれば、ティアナとキャロは後方での活動に集中できるのだが、今の彼女が考えている事は、チームを想定したものでは無く、個で戦闘を行った場合でのことであった。

(空戦魔導師でも、執務官でも個人スキルは絶対に試験項目の中に入ってるし、何よりあたしの手数を増やす為にもいずれ必要になる筈だから……)

 個人戦闘の想定……。

 その思考を巡らせると、彼女は不思議と活力を湧き出させることが出来ていた。

 おそらく、今までの自分を否定されたショックに対し、新しく行動しようとしている事で思考を前向きにさせているのであろう。

 本人は気づいていないが、これも精神活動上での防衛行為であった。

 しかし、それは決してネガティブな事では無く、そのおかげで彼女は一つの結論を既に見出していたのだ。

(だから、今日の夜から試してみよう……あたしの接近戦専用魔法を)

 頭の中にイメージされた魔法を考えると、彼女は思わず心を躍らせそうになる。

 それは新しく玩具を買ってもらった子供の様な感覚であったが、彼女の場合、この感情を表に出すことはしない……ただ、必ずその魔法を実践レベルにまで押し上げてやるというやる気が、今の彼女の気力に繋がっていた。

 寮へと続く道を歩きつつ、心ここに非ずといった目つきで物思いにふけっていた彼女は、目の前から来ていた人物に気づいてはいなかった。

 目の前から近づいてきた人物……青い髪のショートヘアに、美少年といっても信じてしまいそうな顔立ちはしているが、体つきは女性として良好の同僚、スバル・ナカジマ。

 彼女はティアナの前までくると「おはようティア。朝練やってたの?」と笑顔で尋ねた。

 スバルの声に気づき、そちらへと視線を向けたティアナは、まず彼女のだらしのない寝間着姿に目を奪われるが、今はそれを注意するだけの余裕がないためにスルーしていた。

「ええ、まあね」

「えー、だったら私も誘ってよぅ! 一人でやるなんて水臭いじゃん」

「一人でやりたかったのよ。あんたとやると、静かに出来ないし」

「そんな事ないって! むしろ一人より二人の方が効率良いんだよ!」

「はいはい。あたし汗かいてるから、そんなにベタベタしてると匂い移るわよ」

 季節も梅雨入りし、気温・湿度共に上がり始めているために、現在のスバルの格好はインナーのキャミソールに青のホットパンツというラフにも程があるもので、そんな彼女は朝練終わりにティアナに腕をからめ、自分も朝練に参加したかったと駄々をこねはじめる。

 しかしティアナは、彼女の行動にも慣れたものだとばかりに、絡まれた腕を不快に思われない程度に振り払うと、そのまま寮の入り口へと向かってしまう。

 スタスタと歩いていくティアナを、スバルはクロックスを履いた足で追いかけた。

「別に匂いが移ったって、朝シャンすれば済む話だし。というより、ティアの汗って不思議と匂わないし」

「なに恥ずかしいこと言ってんのよ。それよりもまず、男の眼が無いからって無防備な格好しすぎなんじゃない?」

「えへへ、寮母さんの朝ご飯が出来たから。起きてそのままティアを呼びに来たんだ」

「一応、男性寮とは距離があるからいいかもだけど。あんたそれ癖になってるんじゃない? 六課に来てから、いつもその格好で朝うろついてるでしょ?」

「まあね」

「まあねじゃない。たくもう……」

 寮の廊下を歩きつつ、ティアナはまずはシャワーを浴びようと浴室へと向かっていたのだが、途中でスバルが「あれ、寮母さんの朝ご飯食べないの?」と聞いてきたので、「食べるわよ。先にシャワー浴びたいだけ」とだけ言って、自分一人で浴室へと入って行ってしまった。

 浴室へと入っていく彼女を眺めていたスバルは、一瞬だけ寂しそうな顔をするが、それをすぐに崩して笑顔を見せると、ティアナを追って自分も浴室へと入っていく。

「あんた、なに着いてきてるのよ」

 引き戸が開いた音で、スバルが入ってきたのだと判断したティアナは、脱いだ衣服を入れる籠に汗で濡れたTシャツを投げ込むと、あからさまな不満顔を乱入者に向ける。

 風呂場前の脱衣所で既に下着姿間近になっていたティアナをマジマジと眺めたスバルは「あたしも入るね、朝シャンって気持ちいい」と勝手に言いだし、その場で下着姿と変わらない寝間着を脱ぎ始めた。

 言いだしたら聞かない事は既に承知していたティアナは、スバルの行動に呆れつつも「勝手にしなさい」とだけいって、先に衣服を脱ぎ終えて風呂場へと入っていった。

 それを追いかけてスバルも風呂場へと入ると、ティアナは広い風呂場の壁際にあるシャワーを浴び始める所であった。

「そういえばティア、この前、反対番の人たちから聞いたんだけどさ」

「うん? なによ」

 シャワーで全身の汗を流し始めたティアナの横に立ち、自身もシャワーを浴び始めたスバルは、世間話を切り出すかのように話を始めた――――ここでスバルの言った反対番とは、六課の交代人員の事だ。

「三日前ぐらいにさ、アルと模擬戦したんだって?」

「……まあね」

 おそらく本人は興味本位なのだろう。

 ティアナもまさかあの時の模擬戦がもう知られていた事に驚きを見せたが、まあ訓練場の使用履歴は残るものだし、24時間の使用履歴を日誌に書くのも下っ端の仕事なので、反対番の人間が自身とアルファードが模擬戦をしていたのを知っていしても不思議ではない。

 またスバルの場合、誰とでも仲良くなるため、交代間際の申し送り時しか接点の無い反対番の者達と、いらない無駄話をしていても疑問には思わないため、ティアナも何故知っていたのかという問い返しはしなかった……が、本人としては気分のいいものでは無いので、生返事しか出なかったのだが。

 そんなティアナをよそに、シャワーで瑞々しい肌を流していたスバルは話を続けた。

「で、どうだったの? アルとの模擬戦は?」

「どうって、負けたわよ」

「どうやって? 今のティアなら勝てるかもしれないって、あたしは思ってたんだけどなぁ」

「ふん……」

 しつこいわね、という言葉を、ティアナは胸の奥で押し留める。

 言ってしまえば、それはただの八つ当たりになってしまうからだ……。

 横で髪を洗っているスバルには関係の無い話で、感情のままぶつかってしまえば、彼女に限ってそういった事にはならないとは思うが、人間関係というものがギクシャクしかねない。

 そうなると部隊活動に支障が出かねない……故に、ティアナは事実のままアルファードとの模擬戦を語り始めた。

 時間にして1・2分程度の説明――――自分がどういった戦術を取り、相手がどう動いてきたか、それを簡潔に説明しただけだったのだが、スバルの表情には曇りが生まれていた。

「そっか。やっぱりアルって、単純には戦ってくれないんだね」

「そうよ。もうホント嫌になるわ」

 スバルは思い出していた。

 陸士訓練校時代に、ティアナと組んでアルファードのチームと模擬戦をした時の事を。

「アルって、訓練校時代も真正面から戦うのを避ける癖があったよね。実際、真正面からぶつかっても簡単に勝てるって状況でもさ」

「あたしには言えないけどね、似たようなやり方じゃないと“今は”戦えないし……」

 スバルはティアナの言葉の含みに気づかぬまま、先を続けた。

「でも最近は、どうしても真正面で戦わないといけない状況になってるから、怪我も多くなってきてるんだよね。ちょっとあたしとしては心配だよ」

「あいつのどこに心配する要素があるっていうのよ? 本当に拙くなれば、簡単に撤退を選べる性格よ絶対」

「それもそうなんだけどね……訓練校時代は、アルが怪我するところなんて見たことも無かったし」

「初めて見たから心配になってきたって事? そんなもの、本人にとっては大きなお世話じゃない?」

「だよね。多分、心配して声を掛けてみても、帰ってくる返事なんてあたしでも想像出来ちゃうし」

 二人は体を洗い終え、そのまま湯船の方へと進み、ゆっくりと爪先から湯の中へと入る。

 湯船の壁際に背中を預け、髪先から水滴や汗が滴る中、彼女たちは話を続けた。

「あいつには、あいつのやり方をやらせれば良いのよ。最低限のチームワークを発揮してくれれば、それで十分だし」

「あたしは悔しいけどね。だって、まだアルはきっとあたし達の事を認めてないよ。個々のスキルについては認めてくれてるみたいだけど、あたし達自身を信頼してくれてない気がするんだ」

「……かもね。だけど、それは別の話よ。今あたしたちがしなきゃいけないのは、一刻も早く強くなって、機動六課の仕事を十分に熟せるようになるだけなんだから」

「でも、それだってアルの協力が必要だし、アルにとってもあたし達の協力が必要になると思うんだけど?」

「そりゃ部隊なんだから当たり前じゃない。あたしが言ってるのは、まず個々のスキルを一人前にしなければいけないって事よ。スバル、あんただって前回の事件で敵の魔導師とやりあったんでしょ? ああいう場面が今後増えて来たら、部隊で戦うなんて言ってられない状況になるかもしれない。そのために個々のスキルアップが必要だし、訓練の内容も個人スキルに割り当てられてきてるんじゃないの?」

 スバルは痛い所を突かれて押し黙ってしまう……。

 前回の事件――――とはいっても、まだ一週間も経ってはいないのだが――――で、スバルは以前にアルファードが交戦した“ファクティス”と名乗る敵魔導師と交戦し、そこで自身の実力不足を痛感させられる出来事があったのだ。

 スバル自身、そこに思う事があったために、ティアナの現状は個人を優先すべきという意見に、これ以上の反論は出来なかった。

「どちらにしたって、あたしたちは足りないことだらけなのよ。もう穴だらけって感じ?」

「そこまでかな……」

「そうよ。個々のスキル、思想、チームワーク、コミュニケーション……その全てが足りないの」

 自分で言って、何故だか胸中に嫌な感じが巡ったティアナは、そこで話を切り、湯船から腰を上げた。

「出るわ。流石にこれ以上、寮母さんを待たせる訳にもいかないし」

「……だね。じゃああたしも上がるよ」

 ティアナに続いて、スバルも湯船から出ると、そのまま脱衣所へと向かった。

 

◆(2)

 

 朝食も終え、午後の訓練まで休息を取っていたティアナは、一足先に六課の更衣室で着替えると、陸戦訓練用シュミレーターの所まで足を進めていた。

 基本的に、彼女は訓練前には軽食しか口にしないため、今は昼食を控えてゼリーを飲みながら歩いていた。

 白のTシャツに下は紺色の訓練服と編み上げ靴といういつもの格好、胴体に装備されたサスペンダーとホルスターには、すでにツーハンドモードとなったクロスミラージュが収納されていた。

(少し早すぎるかしら……まあ、先に行ってアップでもしてればいいんだけど)

 普段はもう少し遅く向い、他の面子と共にアップを行って教官たちを待つのだが、今日のティアナは妙に気持ちが高ぶっていたために、いつもより1時間近く前に寮を出発していたのだった。

 故に、到着する時間も普段より1時間近く早く、彼女は早々に陸戦訓練用シュミレーターの上でアップを始めていた。

 この訓練場の広さは都市型テロを想定した訓練もするため、それなりの広さを誇っているので、彼女はまずその外周に沿って走る事にした。

海を眺めながらのランニングというのは、潮風も相まって非常に気持ちのいいもので、最近荒んでいた彼女の心を少しだけ癒してくれていた……のだが、彼女がふと、この訓練場の入り口にもなっている船着き場へと視線を向けたとき、その感情は一変する。

 そこには、ライトニング分隊の訓練服に身を包んだアルファードがストレッチを行っており、向こうは既にこちらに気づいているのか、ただ茫然と走っているティアナの事を眺めていた。

(何見てるのよ……あたしが早く来て走ってるのが、そんなに珍しいっての?)

 開脚で内またを伸ばすアルファードと違い、剣呑な様子で彼の視線を受け止めるティアナ。

 理由は簡単だ、まだ昨日の模擬戦での事が吹っ切れてないからだ。

 この二人を会せれば、確実に場の空気が悪くなるというのは六課では既に周知の事となっており、また二人が能動的に会話し、関係を改善させようと努力する様な事を期待する者は、もはやいないとまでされている。

 また、ここ3日間は訓練中でも会話をすることがなく、周りは更に二人の事を心配する様になっている。

 故に、第三者が一生懸命に取り持とうとするのだが、一向に二人が歩み寄る事は無く、今もこうして互いに喋りかけずに、只管に自分たちがやりたいことを続けていた。

 そうして暫くの時が経つと、陸戦訓練用シュミレーターに他の面子も続々と集まってきた。

 教導官である高町なのはと、スターズ分隊副隊長のヴィータ、ライトニング分隊隊長であるフェイト・T・ハラオウン、その副隊長のシグナム達が、各々訓練服に身を包み、アルファードがストレッチをしていた船着き場へと降りてくる……その後に続き、残りの新人フォワード陣も船着き場へと到着した。

 全員が集まるのを確認したティアナは、走るのを止めて訓練場から出て、連絡路を渡って船着き場へと辿り着く。

「訓練前からそんなに走って、大丈夫なの? ティアナ?」

 既に白のTシャツも、ツインテールに纏めたオレンジの髪も汗だくのティアナを見て、ライトニング分隊の紺色Tシャツを着たフェイトが心配そうに駆け寄ってくる。

「大丈夫です。早く着きすぎたので、アップがてら走ってただけですから」

「そうなんだ。でも水分の補給だけはちゃんとしておいてね」

「はい、ありがとうございます」

 新人ならではの無茶の仕方にフェイトは若干の気掛かりを残すも、本人が大丈夫と言ったので深追いする訳にもいかず、最低限の注意だけ伝えると、教官役が集まっている方へと歩いていく。

 そして、教導官である高町なのはを筆頭に、フェイト・シグナム・ヴィータの四人が円になって、其々空間投影モニターを開き、何やら話し合いをし始めた。

 彼女たちの様子を横一列になって整列しながら眺めている新人フォワード陣……最左翼にはスターズ分隊のティアナが付き、最右翼にはライトニング分隊のアルファードが付いていて、その間に他の3名が並んでいる。

 すると、ティアナの隣に並んでいたスバルが、話し合いをしているなのは達には聞こえない程度の小声で声を発した。

「なのはさん達、何を話してるのかな」

 単純に気になった事を口にしただけだったのだが、その問いはティアナが念話で答えた。

『あたしからだと、何かの割り振り表が見えるわね……あたしとなのはさん、スバルとヴィータ副隊長、エリオとフェイトさん、シグナム副隊長とキャロ、それにアルファードね。あと、小声で話すぐらいなら念話にしなさい』

『ごめんティア……って、なんの割り振りだろう? 個人スキルなのは分かるけど、アルとキャロのペアって珍しいよね? しかもシグナム副隊長が見るなんて』

 胸中でスバルが首を捻っている中、アルファードの隣で使役竜のフリードリヒを右腕に乗せたキャロが、徐に視線を横に向けた。

 そこには直立不動でなのは達の話し合いが終わるのを待つアルファードが立っており、先ほどのスバルからの念話が新人フォワード陣のみに向けられたものだとしても、一切のリアクションも見せていない。

 彼の横顔を、ペアとなったと知ったキャロがマジマジと眺めていると、どうやら隊長陣の話し合いも終わったようで、訓練に関する説明が始まった。

 同時に、キャロもハッとなって前方の隊長陣へと顔を向け直す。

「はい。じゃあ今日はこれまでと同様に個人スキル関連の訓練をやるね。今から誰が誰を担当するか伝えるから、よく聞いてね?」

「「「「「はい!」」」」」

 なのはの喋りだしを皮切りに、周囲の雰囲気が一気に訓練モードに変わる。

 非常にピリピリとした空気……キャロやエリオは、最初こそこれに慣れてはいなかったが、今やスバルやティアナ、そしてアルファードと変わらない顔立ちで、その場に参加できている。

「まずはティアナは私とだね。これまで通りのインターセプトをやるんだけど、負荷は上げるから、確りと集中していこうか」

「はい!」

 なのはの言葉に、ティアナが鬼気すら感じさせる返事をした。

 インターセプトとは、簡単に言ってしまえば迫ってくる魔力弾を迎撃する訓練なのだが、内容は非常に集中力と体力を必要とするものであり、一つでも間違えば訓練用の威力とはいえ魔力弾の直撃を受けてしまう危険性のある訓練だ――――色分けされた魔力弾は、それぞれ弾速や軌道が異なり、それが射出されるや否や、対応できる魔力弾で迎撃しなければいけないという内容で、これまでもティアナはなのはと続けてきたのだが、今日はどうやら難易度が上がるという事で、これまでの事も相まって、彼女のやる気は最高潮に達していた。

「次にスバルはヴィータ副隊長と近接戦の技術訓練をやるよ」

「はい!」

「今までの防御魔法の基礎を忘れてなければ、十分やれるかもしれないけど、一つでも間違えば怪我に繋がるから、ティアナ同様に気を付けて」

「はい! 分かりました」

「エリオはフェイト隊長と、回避トレーニングを引き続きやってもらうね。内容はフェイト隊長に任せてあるから、訓練の説明はこの後にちゃんと聞くように」

「はい!」

「アルファードとキャロは、シグナム副隊長と模擬戦をやるよ」

「「はい!」」

 模擬戦と聞いて、ティアナの視線がアルファードへと密かに向けられる……が、なのははそれを目端に収めた。

 しかし、それを認めつつも、なのはは構わず話を続ける。

「内容はツーオンワンで自分たちよりも強力な魔導師を食い止めるっていう想定訓練で、キャロの支援を受けつつ、アルファードが前衛でシグナム副隊長を止てもらいます。シグナム副隊長には魔力制限が掛かってるけど、それでも簡単に防御魔法は抜いてくるから、その突進力に注意して訓練に臨むように、分かったかな?」

「「はい!」」

「よし、いい返事だね。それじゃあ、各自別れて訓練を開始します」

 そう言って、なのははピシリと気を付けをすると「別れ」と告げて右手による挙手敬礼を行う。

 これに、新人フォワード陣が同じ動作で答えると、なのはは手を降ろし、陸戦訓練用シュミレーターへと踵を返した。

 

◆(3)

 

 激しくも頭を使う訓練を終え、瞼すら重くなる程の疲労感を背負いながら、あたしは寮へ辿り着き、何とか寮室へと戻る事が出来た。

 正直、なのはさんの訓練はこれまでよりも更にというより、もはや別物レベルに激しくなってて、流石にあたしももう集中力なんて皆無だし、体力に限っては限界を通り越してる……これでもし出動なんかがあれば、確実に足を引っ張ってしまうだろうけど、今は非番だからそれも問題ない。

 まあ大災害が起きたり、大規模なテロが起きれば関係なく召集されるんだろうけど、そんな前兆も無ければ予知もない……つまり、今日は安心して眠れるということなんだけど――――正直、そんな気分にはなれなかった。

 あたしの訓練は別にいい……ただやるだけだし、続けていればいずれ慣れるものだから。

 だけど、アイツ……アルファードは違う。

 今日で本当に、嫌になるぐらいにハッキリわかった……アイツは、もうあたし達とは違う次元にいる事が。

 いくらキャロの支援を受けているからとはいえ、アイツは訓練中、シグナム副隊長を防衛ラインから先に行かせる事は無かった。

 決してアイツ一人だけの力でないことは分かってる……キャロの支援や、その使役竜のフリードだってシグナム副隊長の突進力を抑えてた。

 それでも、アイツの戦い方はあたし達のよりも、更に先へと精錬されてた。

 正面から当たったと思えば、いつ仕掛けたのかも分からないナイフのトラップでシグナム副隊長の動きを止め、ベルカの騎士相手に近接戦で競り合ったり、そうかと思えばまた距離を取って、キャロとフリードに指示をだし、自分が戦いやすい状況を作り出す……いくら副隊長に様々な制限が掛かってるからと言っても、あのツーオンワンの慣れ具合はあたしとスバル以上のものがあった。

 なぜあたしがアイツとキャロの訓練内容を知っていたかと言えば、訓練場所が近かったために、休憩中は横目で眺めていたからだ。

 ぶっちゃけると、その訓練配置ですらあたしは恨んだ。

 ただでさえアイツとの模擬戦で自信を無くしてたのに、今日またアイツとの差を見せつけられて焦りを覚えている……本当に、もううんざりするぐらいにだ。

「……シャワー、どうしよう」

 汗と土に汚れた訓練服と体は、今すぐにでも綺麗にしてサッパリしたいとことなんだけど、そんな気分にもなれない自分がいる。

 これから夕食もあるし、とっとと浴びて綺麗になった方が良いのに、頭では分かっているのに体が動いてくれない。

 あたしは考える……こんなモヤモヤとしたまま一日を終えても、気持ち悪いだけだし、なにより今なにかしないとアイツにも追いつけないし、キャロみたいなレアスキル持ちの子たちにも追いつかれてしまう。

 それだけは嫌だ……隊長達やあたしの周りには、それこそ才能で溢れた人たちが一杯いる。

 あたしみたいな何もない、どれも平凡な人間は色々な物を犠牲にしながらのし上っていくしかないのに、才能のある人たちは、それだけで誰かから重宝される。

 厳しい現実だと思うけど、それが正しい事なんだってあたしも理解している……だから、あたしは考えた末に寮室から出た。

 外に出て、デバイスを起動させ、自主練習を始めた。

 食事なんて後でいい――――まだ訓練の熱が収まってない今なら、どんなに疲れていても、教えられたことの感覚が残っている今なら、もっと成長できるかもしれないと考えたからだ。

 腕が上がらないなら、体を振って上げればいい……気持ちが進まないなら、自主練を初めて無理矢理進ませればいい、すぐに息が切れるなら、これも体練だと思えばいい。

 そうやって、あたしは自主練習に没頭した。

 何度も、何度も照準精度を上げる訓練を続けた……でも、次第に不安が湧き上がった。

 こんな事をやってて、キャロみたいな召喚魔法や、スバルみたいな身体能力と魔法力、エリオとアイツみたいな魔力変換資質のある子たちに、本当に追いつけるのか、食い下がれるのか?

 不安になった……ツーハンドモードになっているクロスミラージュを握り、訓練を続けながらも不安に押しつぶされそうになった。

 才能の無いあたし、才能のあるあの子たち。

 何が違うのか、何が一緒なのか、何が足りないのか……考えても考えても、もう何も分からなくなっていた。

 そうなると、次第に訓練へと気持ちが逃げはじめる。

 だけどあたしは、それを集中力があがったと錯覚し、益々訓練へと没頭していった――――だけど、そんな時だった。

「……夕食の時間なのに、まだ自主練してたんだ」

 あたしと同じ分隊のスバルが、街灯が明かりを灯す広場に現れたのは。

 





 お願いします、私に英知を授けてください。
 話を矛盾なく、そしてスムーズに進ませる方法を授けてください。
 あとスバルのお風呂シーンエロかったですありがとうございました。
 お嬢様キャラ好きなんで早く出してくださいお願いします。
 信長の野望楽しいね、そのせいで色々カツカツだよ。
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