アルと初めて出会ったのは、第四陸士訓練校での時だった。
最初に訓練校側から決められていたペアと組んで、基本的な障害物をクリアしていく訓練で、私が張り切り過ぎちゃって失敗して、ティアに迷惑をかけた後に、アルが次の組として障害物にチャレンジしてた。
スタートから序盤こそは、ペアを組んでいた女の子も何とか着いて行ってたけど、次第にアルの異常なペースに着いて行けなくなっちゃって、最終的にはアルに背負われる形でゴールを迎えていた。
訓練を見ていた教官から、なぜペースを合わせようとしなかったのかって聞かれてたけど、アルってば、あの時『ペースを合わせるよりも、背負った方が速いと考えたからです』って、大真面目な顔で言ってたっけ。
確かに、クリア条件は二人一緒にゴールする事だったけども、そんな屁理屈、教官に通用する筈も無くて、アルの組だけもう一回やらされてた。
だけど、それでもアルは女の子のペースに合わせようとしないで、壁登りとか二人必要な障害物でも一人で駆け上がって、そこから女の子を引き上げて……結局、アルの足を引っ張ってるのに負い目を感じちゃった女の子が泣いちゃって、最終的にその女の子、完全に自信無くして訓練校を辞めたって後から聞かされた。
その後も、アルのペアになる人は、みんな自信を無くしてしまったり、教官に対してペアを解消して欲しいって訴えてたり……。
本当に、アルは自分から孤独になってた。
◆(1)
アルファードが奥足である右足で、アスファルトの地面を蹴り抜く――――
瞬間、舞い上がる火の粉の影。
先制のダッシュを決めるために、アルファードは魔力を使用して突貫したのだ。
右手の隣では、ローラーブーツ型のデバイスを魔力で駆動させたスバルが、アスファルトの地面から火花を散らして疾走している。
左手の隣では、子供にしては驚くべき身体能力で駆けているエリオの姿がある。
それぞれが一斉にスタートしたのだが、対象である八体のカプセル型の自立行動型の浮遊魔法機械は、蜘蛛の子を散らすように彼らから背を向けて後ろへと逃げ出した。
しかし、これに追随する様にスバル・エリオの二人から、火の粉を巻き上げたアルファードが突出する。
彼は、ローラーブーツを両足揃えて走っているスバル、槍型のデバイスを片手で持ってアスファルトの道路を駆け抜けるエリオと共に、炎の形跡を残しながら、通常よりもストライドの広い走りで対象を追っていたのだが、どうやら横の線を合わせる気はない様であった。
一気に二人を引き離して、対象である八体のカプセル型の浮遊体に接近していくアルファード。
しかし、その対象は彼に追いつかれる前に、3・3・2といった具合に、オフィス街の脇道や裏通り、そのまま大通りに分散してしまった。
「スバルは左にいった3体! エリオは右の道に入った2体を追跡、居場所を見失わないで!! アルファードは……」
センターガードであるティアナが指示を出す前に、アルファードはそのまま大通りを逃げて行く3体を追ってしまっていた。
「……一人でやってなさい」
その大通りを直進していくアルファードの背中を見て、吐き捨てる様に呟いたティアナであったが、すぐに他のメンバーに対して指示を飛ばすために、後ろを着いて来ていたキャロに視線を向けた。
正直、支持する立場である自分が単独行動に対して目を背けるというのは、あまり褒められたことではないと自覚してはいるのだが、相手が相手だけに、構うのも馬鹿らしいとティアナは考えている様だ。
「チビッ子、私たちは建物の屋上にいって、まずはスバルの援護に回るわよ!!」
「はい!」
二人は自分達のやる事を決定すると、迅速にティアナが近くのビルに向けて、自身のデバイスであるアンカーガンを向けた。
アンカーガンの銃口をビルの屋上付近の壁面に合わせると、そのまま発砲――――強靭なワイヤーを引いたアンカーが、真っ直ぐに狙った場所へと突き刺さる。
そして、近くにいたキャロの手を取ると、アンカーガンが発砲したワイヤーを使ってビルの壁面を登って行った。
三体の機影は完全に捉えている。
(一度、様子見をしてみるか……)
炎の足跡と火の粉を残しながら疾走していたアルファードが、ガントレット型のデバイスを装着した両手の内、右手を腰だめに引き始めた。
そして、走っていた体勢から、左足を前に突っ張って急ブレーキを掛けると共に、一気に引き絞っていた右の拳を解放した。
【Knuckle Shot】
アルファードのデバイスの元である赤い結晶が点滅し、機械的な男性の音声が“ナックル・ショット”という言葉を再生する。
刹那、アルファードが走っていた体勢から、全身を鞭のように使って突きだした右拳の面から、丸い一発の火球が放たれる――――
その火球は弾丸の様な速度で彼に背を向けていたカプセル型の浮遊体へと迫って行き、そして。
高温の鉄板に水滴を垂らしたような蒸発音を発して、アルファードが右拳から放った火球を完全に消し去ってしまった。
「……フィールド系か、厄介な」
気づけば、さっきまでアルファードに対して背を向けていた三機の浮遊体が、こちらに正面を向けていた。
よく見れば、先程アルファードが放った火球が衝突した場所に、何やら空間が波打つような波紋を立てている。
おそらく、あれが浮遊体の防御魔法なのであろう。
一方、この現象はスバルたちの方でも起こっていた。
「だぁぁぁッ!!」
三体の浮遊体を、ゴーストタウンの薄暗く狭い裏路地に追い詰めたスバルが、ローラーブーツ型のデバイスを、まるで自分の足の延長線上の様に操り、近くにあったビルの壁面を駆け上がった。
そして、彼女の右手に装着されていた無骨なデバイス――――リボルバーナックルのリボルバーが高速で回転すると、勇ましい駆動音を鳴らし始め空気の気流を生み出した。
スバルは、そのまま駆け上がっていた壁から跳躍すると……。
「ぇんッ!!」
三体の浮遊体の中心に目掛けて、その右の拳を思いっ切り振り切った。
瞬間、リボルバーの回転によって生まれていた空気の気流が、三体の浮遊体にへと迫っていく……が、それは三体の浮遊体に掠る事も無く、既に通り過ぎていたアスファルトの地面に衝突した。
中空から両足に履いているローラーブーツ型デバイスを揃えて着地すると、スバルは驚いた様子で、複雑な機動を取りながら彼女から逃げて行く三体の浮遊体を見送る。
「なにこれ、動きはやっ!?」
スバルが三体の浮遊体を取り逃がす中、エリオもまた、その素早い機動に悩まされていた。
ようやく正面に捕えた二対の浮遊体を、エリオは槍型のデバイスを構えて迎え撃つ。
すると、二対の浮遊体がカプセル型のシルエットの中心から、青い射撃魔法を放ってきた。
これに対して、エリオは横に避けるでもなく、勇敢にも正面に打って出た。
「でやぁぁぁぁっ!!」
前進しながら二体から放たれる射撃魔法を躱していくエリオは、右手に持っていた槍型のデバイス、ストラーダを両手で振りかぶると、それを一気に間合いの外にいる浮遊体にへと横薙ぎにした。
瞬間、エリオが横薙ぎにした槍型のデバイスから剣閃が放たれる。
一直線に飛んでいく黄色い剣閃であったが、これもスバルの時と同様、二体の浮遊体に難なく避けられてしまう。
目標を失ってしまった剣閃がビルの壁面に直撃すると、コンクリートの砕ける音と共に、凄まじい量の土埃と破片が辺りに飛び散っていた。
そして、そのまま二体の浮遊体は、槍型のデバイスを再び振りかぶろうとしていたエリオを通り過ぎて、彼を置き去りにしてしまった。
「ダメだ、ふわふわ避けられて当たらない!」
この二つの光景を、ビルの屋上から見ていたティアナとキャロは。
「二人とも、折角相手が纏まってるんだから、そんなに分散しないで!! ちょっとは後ろの事を考えて!!」
厳しい口調で二人を咎めるティアナは、鋭い目つきでスバルとエリオをやり過ごして合流していった5体の浮遊体を視線で追っていた。
「は、はい!」
「ごめん!」
スバルとエリオが、目標をむざむざ取り逃がしてしまった事に謝るが、ティアナはそれを無視して膝を着いていた体勢から立ち上がり、自身のデバイスであるアンカーガンを両手で構えた。
すると、アンカーガンの銃口の前に、オレンジ色の魔力弾が形成されていく……もちろん、狙いは二人が取り逃がした5体の浮遊体だ。
「チビッ子、威力強化をお願い!」
「はい!」
ティアナの指示に、キャロも立ち上がって答えると、両手に着けている指空きのグローブ型デバイスを構えた。
すると、彼女の足もとに円形の魔方陣が現れる、色は髪の色と同じ桃色だ。
「ケリュケイオン」
彼女が自身のデバイス、両手で一対のケリュケイオンの名を呼ぶと、手の甲にある桃色のレンズの様な結晶が点滅し【Boost Up. Barret Power】と女性の機械的な音声を発した。
更に、そのまま左手をティアナの方に振ると、彼女の足もとで発現していたオレンジ色の魔方陣が更に光を増し、同時にアンカーガンの銃口の前で形成されていたオレンジ色の魔力弾が一回り大きさを増した。
そして、ティアナが両手で身体の正面に構えていたアンカーガンのグリップに力を籠め。
「シュート!!」
ティアナが叫ぶと同時に、一発・二発・三発・四発と、アンカーガンから四発の魔力弾を発砲した。
瞬間、さっきまで背を向けて逃走していた5体の浮遊体が一斉に、ティアナが発砲した魔力弾の方へと振り返る。
そして――――アルファードの時と同様、浮遊体へと接近した魔力弾が、何もない空間で蒸発するように消え去ってしまった。
「バリア!?」
この光景を目の当たりにして、魔力弾を発砲したティアナの顔が驚愕に染まる。
「違います! フィールド系?」
「魔力が消された!?」
キャロが今起こった現象に思考を巡らせ、浮遊体を追っていたスバルはティアナ同様に驚きの声を挙げていた。
『そう。ガジェット・ドローンには、ちょっと厄介な性質があるの』
なのはの声が耳に届く中、四人同様、浮遊体……ガジェット・ドローンの性質を目の当たりにしていたアルファードは。
(魔法が消されたか……言い得て妙だな)
既に目標の動きを先読みするほどに慣れたらしく、先を飛んでいたガジェット・ドローンの前へと躍り出るべく、狭い裏路地の中を前方斜め45度に跳躍し、罅割れたビルの壁面を更に蹴りだし、三角飛びで想定通り相手の目の前に着地した。
『攻撃魔力をかき消すアンチ・マギリング・フィールド、“AMF”。普通の射撃は通じないし……』
ティアナの魔力弾をAMFで防いだガジェット・ドローンが、再び4人から逃れるために、ビルの屋上にへと滑る様に登っていってしまう。
「あぁ、くそ! このぉ!」
スバルが悪態を付くと、彼女の足もとから青い魔力光が現れ、その青の魔力光が、まるで一つの道(ロード)を作り出すように伸びて行く。
「スバル、バカ危ない!」
『それに、AMFを全開にされると……』
しかし、その青の道は屋上に逃げたガジェット・ドローンへと伸びて行くが、途中、一体のガジェット・ドローンが展開していたAMFの範囲を広げ始めた。
既に、スバルは自身で作り出した青い道にローラーブーツ型のデバイスで乗り込んでいる。
帯状の青い道が、あと一歩でガジェット・ドローンのいる屋上に届くと言った所で。
「あれ? おわたたた!」
順調に伸びていた青の道が突然途切れ、ゆらゆらと安定を崩していく。
それに足を取られてしまったスバルは、ローラーブーツで走っていたバランスを崩し、そして……。
「きゃああああぁぁ!!」
帯状の青い道からコースアウトしてしまい、そのまま近くのビルの窓ガラスに突撃してしまった。
『飛翔や足場作り、移動系魔法の発動も困難になる。スバル、大丈夫?』
「っ~……なんとか」
ガラスに突っ込んだものの、無傷で頭を押さえて立ち上がったスバルは、なのはの問いかけに答える。
『まぁ、訓練場では皆のデバイスにちょっと細工をして擬似的に再現してるだけなんだけどね。でも、現物からデータをとってるし、かなり本物に近いよ~』
全員の耳にシャーリーの自慢げな声が届くが、“四人”には、それに対して何かを言う余裕が無かった。
AMFとかいう領域に入ったら、魔力が乱されたり、消さたりしてしまう……。
この状況に、四人が思考を巡らせていると。
『対抗する方法はいくつかあるよ。どうすればいいか、すばやく考えてすばやく動いて! アルファードはもう一機撃墜してるよ!』
「アルが!? 流石だなぁ~……」
「チームで動かないで、単独で勝手してる奴に何が流石よ……」
なのはの言うとおり、既にアルファードは一機のガジェット・ドローンの装甲を、その右の拳で貫いていた。
(まずは一つ……)
3体の内、中心のガジェット・ドローンを貫いたために、必然的にアルファードは残りの二体に挟まれていた。
しかし彼は、残りの二体が射撃魔法を発砲するより早く、仕留めた目標から右腕を引き抜き、左手に見える目標にへと飛びかかっていた。
(魔力が乱されるのなら、射撃魔法に頼るのではなく、直接的な打撃に魔力を込めた方が効率がいい)
ようは、そのAMFとかいう領域に入る前に、魔力で打撃の速度・威力を強化して繰り出せばいい。
そうすれば、領域に入る前には既に、打撃の威力や速度は魔力によって強化されていて、消されたとしても加速の余剰で潰せるのだから……。
アルファードは、飛びかかった勢いそのままに魔力で強化した左足を横薙ぎにしてガジェット・ドローンを蹴り抜いた。
その飛び廻し蹴りは、目標が作り出したAMFを無視して、カプセル型のガジェット・ドローンの形状を“くの字型”にひしゃげさせ、そのまま真っ二つに切り裂いた。
(二つ……)
アルファードは、ガジェット・ドローンを左足で蹴り裂いた勢いそのまま後ろへと振り返り、最後の一体へと接近するために地面に着地、同時に炎の残照を残して突貫した。
ガジェット・ドローンが、悪あがきとばかりにAMFを最大にする……アルファードの体を舞っていた火の粉が一斉に鳴りを潜めるが、彼には関係が無い。
(三つ……)
瞬間、アルファードの右の貫手が、3体目のガジェット・ドローンの中心にあるレンズを貫いた。
◆(2)
「凄いですね、彼……」
「うん、もう新人のレベルは超えてるかな」
単独行動を取っていたアルファードの映像を、他の4人を見ているホログラムのディスプレイとは別のウインドウで観察していたなのはが笑顔でそう答える。
確かに、彼は既に他の四人がいる場所には立っていない。
しかし、彼には他の案件がある。
「流石、地上本部首都防衛隊出身って言った所ですかね?」
「あの年齢で、あれだけの動きが出来るんだもん。相当頑張ってたと思うよ」
そう、彼はなのは達が身を置く“海(うみ)”の人間では無く、“陸(おか)”側の人間なのだ。
海と陸の関係は、そのトップからして決して友好とは言えない。
それは末端の隊員にまで、たまに見られる程にだ……。
だが、どうやら彼らの教導官であるなのはにとって、その程度の事は些細なものでしか無いらしく。
「でも、部隊で行動をしなくちゃいけないのに、いきなり単独行動を取る様じゃ、まだまだ教育が必要だね」
「お厳しいですね、なのはさんは」
「ここで厳しくしないと、いざって時に、きっと大きなミスをしちゃうから……」
中空に表示されている空間モニターの中では、既に三体の目標を撃墜したアルファードが、次なるガジェット・ドローンを仕留めるために行動を起こしていた。
しかし、それを見ていたなのはの表情には、さっきまでの笑顔は無い。
シャーリーが、そのなのはの背中から感じる気配に、彼女には似合わない暗い表情を浮かべる。
「なのはさん……」
その悲しげな声は、今のなのはには届かない。
彼女は、ただただ訓練に臨んでいる5人の様子を見守るのであった。