次にある話のチェックで、力尽きてしまい、こちらはノーチェックです。
所々におかしな点があるかもしれないので、余裕がある時に、こちらは直します。
機動六課専用のヘリポートには現在、管理局武装隊に正式採用されている輸送ヘリ、“JF704式ヘリコプター”が搭乗者たちの搭乗を待っている。
この“JF704式ヘリコプター ”は、まだ他の部隊に普及しきれていない最新鋭機であり、メインローターに取り付けられた四枚一組のブレードとは不釣り合いな形状と機体サイズを誇っている。
基本的に角ばったフォルムに、中型コンテナを積載できる程のスペースが確保されたキャビンサイズ……また、そのキャビンへの後部入口にはランプドア方式が採用されており、ランプの床部分両端のタイヤ・履帯が通る位置に補強材が当てられている事から、車両を自走格納させる事も可能となっている。
また、この機体にはタイヤというものが無く、機体中央下部に取り付けられた台の様な出っ張りがこの役割を担っている。
傍目から見れば、中々に大型の輸送ヘリだと思われる本機体であるが、その機動性は非常に高く、やろうと思えばビルが割拠する都市部の中でもスムーズな飛行が可能と言われている。
機体後部にある下に折れ曲がった尾翼や、独特なフォルムが個性的ではあるが、その性能は正に折り紙つきだという事だ。
そして、そんなヘリの周辺には離陸をサポートするために待機している三人の整備員の他にも、一級警戒態勢を受けて、デバイス専用のラボから移動してきた機動六課の新人フォワード5人と、高町なのは一等空尉とリイン曹長の姿が見られた。
「皆、ヘリの準備が出来次第、すぐに搭乗して出動するから、詳しい状況説明や作戦行動の確認はヘリの中でやるよ」
「「「「「はいっ!」」」」」
機動六課設立後、初アラートという事もあり、なのはの緊迫感のある指示に気合の入った返事をするフォワードの面々。
特に、アルファードの鋭い眼光は凄まじく、その溜まっていたフラストレーションがようやく吐き出せる時が来たかと、珍しく勇ましい感情を漏れさせていた。
すると、先程まで“JF704式ヘリコプター ”が置かれていたガレージの中から、カーキ色の繋ぎの胸元に黒いシャツとドッグタグを覗かせた、一人の男性隊員が駆け足で黒のジャケットを羽織りながら現れた。
「いま発進させますんで、搭乗お願いします、なのはさん!」
「分かった、それじゃあ皆、行こうか!」
「「「「「はいっ!」」」」」
どうやらガレージの中から走って現れたのは、このヘリの操縦者であった様で、“JF704式ヘリコプター ”のすぐ横で待機していた彼女たちを通り過ぎると、すぐに操縦席の方へと姿を消して行った。
それを確認すると、なのはは指示を出してフォワード陣とリイン曹長と共に、機体後部ですでに開かれていたランプから搭乗して行く。
ランプを上がって行き、機体のキャビンへと足を踏み入れると、そこには横幅約3m、高さ約1.9mに奥行きのある空間が広がっていた。
壁際に沿って設置されている、人員を輸送する際に使う折畳式の座席が左右合わせて14席ある他に、天井に取り付けられた手摺や、操縦席との連絡を取るための内線が取り付けられている。
乗り込んだフォワード陣とリイン曹長、そしてなのはは、まずは離陸のために座席の方へと席に着いて行くと、各自でシートベルトを迅速に装着し始めた。
浮遊しているリイン曹長以外の全員がシートベルトをしたのを確認すると、なのはは自身が座っていた座席のすぐ横にある内線ボタンを押し込み、壁に埋め込まれたマイクに向かって「離陸準備完了。ヴァイス陸曹、離陸お願い」と操縦席に座っている人物に向けて指示を出した。
すると間もなくして、外から聞こえてくる四枚一組のブレードの回転音。
壁沿いに取り付けられた座席のすぐ後ろにある、丸い縁取りをした窓を覗けば、さっきまで待機していた整備員が手信号で操縦席のヴァイス陸曹に上昇するように指示を出していた。
機内に聞こえてくる、メインローターの駆動音が一際唸りを挙げると、スムーズな流れで“JF704式ヘリコプター”が機動六課のヘリポートから離陸する。
その機体の後ろ姿を見ていた三人の整備員たちは、離陸を終えた“JF704式ヘリコプター”が前方へと進んでいくのを、直立不動で右敬礼をしながら見送っていた。
◆(1)
機動六課のヘリポートから離陸し、ヘリの機体が安定し始めたのと同時に、なのはが自身を座席に固定していたシートベルトを外してから立ち上がって、横一列に座っているフォワード陣の前まで、手摺を使って歩み寄ってきた。
横には、やはりふわふわと浮遊しているリイン曹長が付き添っている。
「じゃあ、状況説明をするんだけど、皆、準備はいい?」
「「「「「はい」」」」」
この返事になのはは一度、微笑みながら頷くと、スッと目の前の空間に手を翳してホログラムの空間投影ディスプレイを発現させた。
フォワード陣となのは、リイン曹長の間に現れたディスプレイの数は三つで、一つは現在の状況を映し出した中継画面、二つ目は静止画像が何枚か表示されている画面で、最後の一つには総部隊長である八神はやてが画面の中にいた。
『こちら八神はやて、皆、聞こえてるか?』
「「「「「はい」」」」」
画面に映っている八神はやての後ろには、どこか見慣れない、西洋の洋室といった壁紙やインテリアが置かれており、彼女が機動六課の隊舎内にはいない事を示していたのだが、ここにはそれに対して発言する者は一人もいなかった。
『事前にグリフィス君から大体は聞かされているとは思うけど、もう一度詳しく説明するな?』
彼女が独特のイントネーションが効いた喋り方で問いかけると、キャビン内にいる全員の表情が真剣なものとなる。
確かに、この現場に向かっているヘリに乗り込む前に、新デバイスを手渡されたラボ内で、ある程度の説明を受けていた面々であったが、それはただ何が起こったかと言うだけであり、詳細は知らされていなかった。
故に一言一句逃すまいと皆、これから喋り出す、はやてに向かって耳を傾けていた。
『出動の要請が掛かったのは聖王教会本部からで、教会騎士団の調査部で追ってた“レリック”らしき物が見つかった。場所はエーリム山岳丘陵地区、対象は山岳リニアレールを走る貨物車両で移動中』
「移動中って事は、まさか……」
『そう、そのまさかや』
なのはが深刻そうに呟くと、はやてが正解とばかりに眉間に皺を寄せた。
『このリニアレールを走る貨物車両には、既に内部に侵入したガジェットのせいで全車両の制御が奪われてる。システムを奪われる前に入手した車内カメラの映像によれば、その数は最低でも30体……うち、大型のタイプが一体確認されてる。でも、もしかしたら未確認の飛行タイプも出てくるかもしれないから、油断せんといてな』
「「「「「はい!」」」」」
はやての説明通り、状況を映した中継画面では、崖沿いに敷かれた立体線路のリニアレールを直走る貨物車両の先頭車両に張り付いたガジェット群が、一体一体でケーブルの様な触手を使って、ボディの鉄板を抉じ開けて内部に侵入している光景が見られた。
また、静止画を映したディスプレイの方には、他のガジェットよりも一際大きいシルエットをした機影が車内に佇んでいる事が確認できた。
しかし、はやての説明はこれだけでは終わらなかった。
『最後に一つ……これが一番厄介なんやけど、車両中心部付近に魔力反応があるんよ』
「魔力反応? それは人の?」
『うん、せや。聖王教会の調査部からの報告では、車両内部に非常に安定した魔力反応が一つ確認されたらしい。調査部の人達は、確証は持てないって言うてるけど、魔法の使用を乱すガジェット群の中で一切、魔力反応が乱れる事が無いって事から、まず人間によるものだって断定できる。それも、一般市民やない、魔導師のものや』
はやての断言に、陸戦用空間シュミレーターで仮想ガジェットとの訓練を繰り返してきたフォワード陣、その指導をしてきたなのはやリイン曹長は、この状況の意味を瞬時に理解した。
ガジェットというのは、AMF(アンチ・マギリング・フィールド)と呼ばれる、自機の周辺に魔法の行使を妨害する領域を作り出し、魔導師が扱う射撃魔法や移動系魔法などの効力を無力化または無効化する機能を有しており、対魔導師に向ける兵器としては非常に厄介な性質を誇る、自律行動が可能な機械である。
また発見した敵に対して自動的に照準をつけ、警告無に射撃を行ってくる性質から、確りとした判別機能が備わっているのであろう。
そんな厄介な機能を持った兵器が約30機、今はリニアレールを走る貨物車両を占拠して内部を闊歩しているという……だというのに、貨物車両の中央部付近にいるとされる魔導師は、遠くから様子を伺っている調査部に乱れの無い魔力反応を感知させた。
つまり、内部にいる魔導師とは、貨物車両を占拠したガジェット群と何らかの関係がある、またはその指揮管理を行っている人物かもしれないという事だ。
『これらの事を踏まえて任務の内容は三つ。車両内部に潜入した約30機のガジェットの掃討、ロストロギア“レリック”の確保、そして車両中央部付近にいる魔導師と思われる人物の確保や。皆、いきなりハードな任務やけど、いけるか?』
「「「「「はい!」」」」」
はやてがフォワード陣に確認をする様に問いかけると、彼らは揃った返事で頼もしく答えた。
この様子に満足したのか、はやては一つ微笑んで頷くと。
『シフトはA-3、グリフィス君は隊舎で指揮を取ってて、リインが現場管制に付く。現場指揮官はなのはちゃんやけど、途中でライトニング分隊の隊長、フェイトちゃんが合流するから、二人が臨機応変に指揮を取る事になる。だからスバル・ティアナ・エリオ・キャロ・アルファード、皆、安心して全力で任務に当たってくれな』
「「「「「はい!」」」」」
『そしたら、私もすぐに戻るから、なのはちゃん、リイン、お願いな』
「うん」
「任せてくださいですぅ♪」
なのはとリイン曹長が答えると、空間に表示されていた、はやてとの映像通信が切れ、同時に他の2つのホログラムのディスプレイも、テレビの電源を切ったかのように彼らの眼の前から消えていた。
◆(2)
機動六課初の出動に、隊舎内にある指令室では大型スクリーンに映された現場風景を前に、通信主任兼技術主任のシャリオ・フィニーノ他、通信士であるアルト・クラリエッタ二等陸士、ルキノ・リリエ二等陸士が、自身の持ち場であるデスクに座りながら、リアルタイムでの状況確認を急いでいた。
また、彼女たちの後ろには八神はやて総部隊長が戻ってくるまでの間、部隊長補佐官としてグリフィス・ロウラン准陸尉が後ろ手に組んで、黙して正面の大型スクリーンを見つめている。
大型スクリーンに映っているのは、未だガジェットにコントロールを掌握され、リニアレールを走行状態にある貨物車両だ。
「問題の貨物車両、速度70㎞を維持、依然進行中です」
茶色い髪をショートヘアにしたアルトが、自身が受け持っているデスクに取り付けられたディスプレイの画面に表示されている観測データを、後ろに控えているグリフィスに報告する。
グリフィスは、彼女たちがいる場所よりも一段程、段差のある場所に立っており、本来なら総部隊長であるはやてが座る場所を空けて、その眼鏡越しに見える切れ長な視線を通信主任であるシャリオに向けた。
「車両中部付近にいる、魔導師と思われる人物に動きは?」
「まだありません。魔力反応も、最初に観測された場所から一切動いてはいません」
普段はフランクな性格のシャリオことシャーリーも、この非常事態に普段の砕けた口調は鳴りを潜め、正確にグリフィスに求められた情報を報告する。
「重要貨物室の突破は、まだされていないようですが……」
紫色のショートヘアと、落ち着いた物腰のルキノが、まだ油断はできないと、車両内部に入り込んだガジェットの動向を伺っていた。
一応、車両のコントロールは掌握されていたとしても、通信士である彼女たちは何とか内部の情報だけでもと、車内カメラの映像をジャックしていたのだ……が、なぜか魔導師がいると思われる車両の映像だけ見る事が出来ず、先程からスキルの高いシャリオがコンタクトを続けているのだが、一向に内部の様子を伺う事が出来ないでいた。
「いずれにしても、時間の問題か……」
グリフィスは現状を考えて、歯噛みしたくなる気持ちを抑えるのだが、思わず厳しい状況に立たされているというに事に表情を曇らせてしまう。
しかし、ここで更なる状況の変化が起きてしまった。
指令室内に突如鳴り響く、異常事態を伝えるアラート。
これにシャリオが素早く反応すると「アルト、ルキノ! 広域スキャン! サーチャーを空へ!」
「「はい!」」
シャリオから指示を受けた二人が、すぐさま現場付近の上空に探査魔法技術によるスキャンをかける。
すると、アルトとルキノの表情が一変して驚愕に染まる。
「ガジェット反応! 空からです!!」
「航空型現地観測体を補足!」
これまで山岳リニアレールを走る貨物車両を映していた大型スクリーンの映像が切り替わり、二人が観測したという新たな機影が指令室にいた全員の眼に映り込んだ。
上空を固まって飛行する、戦闘機とは違った、少々サイズの小さい全翼機の集団が、リニアレールに進路を向けている。
まずいなと、グリフィスが状況の悪化に冷や汗を垂らすと。
『こちらフェイト。グリフィス、こっちは今パーキングに到着、車を止めて現場に向かうから、飛行許可をお願い』
指令室に、ライトニング分隊隊長、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官の声が聞こえてきた。
通信越しに聞こえてくる、道路に車のタイヤを滑らしている音から、彼女が運転中かつ、かなり急いでいる様子が伺える。
この飛行許可の申請に、グリフィスは即答で「了解! 市街地個人飛行、承認します」と許可を出した。
同時に切れる、彼女との通信。
これでようやく、フェイト隊長も現場に合流できると、グリフィスはいよいよ任務に向けて戦力が揃いつつある事を認識する。
だが実際、大型スクリーンの映像で見る限り、上空を飛行しているガジェットの数は相当であり、あれを全機撃墜するとなると、空戦魔導師である二人の隊長の戦力を、そちらに回さざる負えないため、グリフィスは不安を覚えてしまう。
(隊長お二人が向かうとなると、貨物車両内にいるガジェット群はともかくとして、魔導師と思われる人物はどうする……おそらく必然的に、二人しかいないスターズ分隊ではなく、三人いるライトニング分隊が対応する事になるが)
相手の情報が、あまりにも未知数すぎる。
貨物車両内に向かう事になるフォワード陣が、5人固まって行動するという事はあり得ない……何故なら、ロストロギア“レリック”を回収するということ以外に、コントロールを掌握された貨物車両の制御を元に戻さないといけない。
理由としては行動を円滑に行えるようにするためもあるが、何より、このままリニアレールが直走ってしまうと、ミッドチルダの市街地に入り込んでしまう可能性が有り、それだけは何としても避けたいからだ。
流石に、新設部隊であり、実験部隊でもある機動六課が、初任務で市街地へと戦闘を持ち込んでしまうというのは、対外的に拙い印象しか与えない。
故に、グリフィスは魔導師と思われる人物には、人数の多いライトニング分隊を当てることを決断した。
◆(3)
標高の高い山々の山頂付近に、まだ解けていない雪が積もっているため、現在ヘリで飛行を継続しているヴァイスの視界を、白く霞がかった大気が覆っている。
しかし、彼のインテリジェントデバイス“ストームレイダー”を、管制デバイスとして搭載した“JF704式”にとって、この程度は何の問題にもならず、四枚一組のブレードを唸らせながら、順調なペースで現場へと急行していた。
ヴァイス・グランセニック陸曹……目にかからない程度に整えられた黒髪や、ハッキリとした顎のラインが好青年といった印象を醸し出し、普段は人当たりの良さそうな青い瞳を、今は任務中という事で、眼光に真剣さを宿している。
また、インテリジェントデバイスとは、人工知能を宿した意思のあるデバイスであり、その自動的に行う高い処理能力や状況判断能力で、使用している魔導師が持つ技術以上の能力を発揮する事が出来る、正に魔法使いのパートナーといったもので、会話・質疑応答もこなせる機械の範疇を越えた道具である。
その高性能故に、かかるコストが高いため、一般的には普及していない……代わりに、魔法と言うプログラムを記録し、使用するだけの媒体として広いニーズを誇っているのがストレージデバイスという物で、これは意思を持つインテリジェントデバイスとは違って、使用者の実力差が如実に表れるものであり、ベテランの魔導師が良く好んで使うデバイスなのだが、コスト面でもお手軽なために、一般的な管理局員に広く普及している。
ちなみに、これらはミッドチルダ式の魔法を使う魔導師達が一般的に扱っているデバイスであり、アルファードが使用しているデバイスはアームドデバイスという、ベルカ式の魔法を使う騎士達が扱っている物だ。が、アルファードは管理局に自身の立場を“魔導師”として登録しているため、別に騎士などとは呼ばれることは無い……また、スバルも同じくリボルバー・ナックルというアームドデバイスを使っているのだが、魔導師として登録している――――閑話休題。
右側の座席で操縦桿を握り、ヴァイスがそろそろ視界が回復するエリアに入る頃だと考えていると。
「ヴァイス君、ファイト隊長が個人飛行で向かってるみたいだから、私も出るよ! フェイト隊長と、現場空域内に現れた飛行型ガジェットを抑える!」
コックピットとキャビンを隔てていたスライド式のドアが開き、そこからなのはが直接、自身が取る行動を彼に伝えてきた。
これにヴァイスは、頼もしい笑みを浮かべながら振り向いて、操縦桿を握っていない右手でサムズアップを送り「うっす、なのはさん、お願いします!」と言って、正面にホログラムのディスプレイを呼び出し、後部にあるメインハッチを解放する操作を行った。
本来なら、こういったやり取りは内線を使うべきなのであろうが、切迫した状況下で送られてくる指令室からの通信を混乱しないよう正確に把握させなければならないため、言葉で直接伝えたほうが早いし確実なのだ。
ランプドア方式の後部ハッチが、鯨の顎の様に解放されていくと、今まで機内に籠っていた空気が一気に外へと放出され、外からは高高度の暴風が猛り狂っている轟音が聞こえてきた。
茶髪のサイドテールと前髪を風に舞わせながら、なのはがキャビンの天井に取り付けられた手摺を伝って、ハッチの前までゆっくりと慎重に歩を進める。
他の5人は、まだシートベルトを着けて座席に座っているために、なのはが解放されたハッチの前まで行く姿を視線で追っていた……リイン曹長は最初から浮遊しているために、シートベルトなどと言った物は着けずに、キャビン内の中空に漂っている。
「それじゃあ、先に出るけど、みんなも頑張って、ズバッとやっつけちゃおう!」
解放されたハッチ手前で彼女は後ろへと振り返り、壁沿いの座席に座っている5人のフォワード陣に笑顔を向ける。
するとフォワード陣5人が同時に「はい!」と口を揃える……が、エリオとアルファードの間に座っていたキャロの表情が、どこか浮かない。
おそらく、初出動の緊張からか、上手くプレッシャーのコントロールが出来ていないのであろう。
これに気付いたなのはは、手摺を伝って、キャロの目の前まで戻ってくると。
「キャロ、大丈夫」
優しげな声音で、キャロの両頬に両手を添えた。
キャロもまた、少し驚いたようになのはを見上げる。
「そんなに緊張しなくても、離れてても通信で繋がってるし、一人じゃない。ピンチの時は、助けてもらえるんだから」
「あ……」
なのはの包み込むような柔和な眼差しと言葉に、キャロは改めて左右に目を向けた。
そこには、仏頂面で只管に腕を組みながら瞼を閉じて、任務のために集中力を高めているアルファードはもとい、左隣にいるエリオ、ティアナ、スバルの三人が、頼もしい表情でこちらを見ていた。
更に、自身の膝元に座っていた使役竜フリードも、任せろとばかりに翼を広げて、キャロを勇気づけてくれていた。
「それにキャロの魔法は皆を守ってあげられる、優しくて強い力なんだから……ね?」
「……はい!」
今しがたまでの浮かない表情が嘘かの様に、明るい笑顔を浮かべて頷いたキャロに、なのはは満足そうに頷くと、今度は我関せずといった様子で、黙々と任務に備えていたアルファードに視線を向けた。
「アルファードも、ライトニング分隊じゃ年長者なんだから、キャロとエリオのフォロー、お願いね?」
すると、はやての通信の後、任務内容の最終確認を行ってから、これまで“へ”の字口で無言を貫いていたアルファードが、上官の指示にパチッと瞼を開けて、同時に口を開き始めた……もちろん、組んでいた両腕は解かれ、両手を膝の上に置いた体勢でだ。
「はっ! 了解しました!」
「うん、いい返事だ♪」
彼らしいユーモアの欠片もない生真面目な返事に、なのははキャロの時と同様に頷くと、今度こそ、解放されたハッチへと振り返って、手摺も使わず駆けて行き、高高度の暴風が吹き荒れる大空へと両腕を広げてダイブした。
カーキ色の六課専用の制服に、パラシュート無しでのスカイダイビング……。
解放されたハッチからは、草原のあちこちに岩肌が露出した高台があり、もしも落下してしまった場合、確実にまともな死体は残らないであろうと断言できる地面が伺えたのだが――――彼女は管理局でも有数の実力を誇る空戦魔導師。
生身でダイブしたかと思えば、一瞬の内に自身のインテリジェントデバイス、レイジング・ハート……正式名称“レイジングハート・エクセリオン”を起動させ、いつも訓練で見せている白に青いラインが所々に入ったローブ型のバリアジャケットを身に纏う。
この姿になった時の彼女は、杖型に変形したレイジング・ハートを持ち、サイドテールだったヘアスタイルが、大きめの白いリボンを使ったツインテールとなっている。
また胸元にある大きな赤いリボンや、両踝付近にある、桜色の魔力光を放つ小さなスタビライザーの様な羽が特徴的だ。
上空に身投げした彼女は、そのまま飛行魔法を使用すると、皆を輸送している“JF704式”よりも早い速度で現場へと急行した。
飛行型のガジェットが出現したという非常事態に、現場指揮官を欠いたフォワード陣五人……が、こういった時のために、現場管制を行っているリイン曹長や、六課隊舎内の指令室で指揮を取っているグリフィス准陸尉がいるのだ、特に問題は無い。
しかし、まだ現場に到着する時間では無く、フォワード陣は少々時間を持て余してしまう。
なのはを先に飛ばすために解放していたハッチが閉じて行く間、キャビン内には沈黙が支配していたのだが、痺れを切らしたスバルが徐に口を開いた。
「なんだか、新デバイスの事もそうだけど、色々とぶっつけ本番って感じだね」
これに反応したのが、隣に座っていたティアナだ。
彼女は、譲り受けたばかりの新たなデバイス、“クロス・ミラージュ”の待機状態であるカードを手に持ちながら、話を振ってきたスバルに視線を向ける。
「こういった部隊の出動なんて、大抵こんなものでしょ……もともと、ロストロギアなんていう危険物を取り扱う部隊なんだから、イレギュラーが飛び込んで来るのが普通なんじゃない?」
「ははは、そうかもね……エリオは、緊張とかしてないの?」
ティアナの隣でキャロと同じく、表情を硬くしていたエリオは、スバルの問いに「緊張はしてます、ですが不思議と自信はあります」と、言葉に違わない“失敗はしない”といった気迫の籠った男の子の貌を見せる。
続いて、キャロが「はい、私も頑張ります」と言って、先程のなのはの言葉が効いたのか、ハッキリと見開かれた青い瞳を張りながら、これから向かう任務に全力を尽くす事を誓う。
そして、スバルはそのまま、キャロの隣、キャビンの奥にある席に座っていたアルファードに「アルは?」と尋ねた。
彼は、スバルから向けられてくる、何やら期待の籠った視線を素でスルーしながら、当然と言った口調で答える。
「緊張をするのは当然だ、だが、やる事は変わらない」
「アルファードさんも、緊張するんですか?」
隣にちょこんと座るキャロが、珍しいものを見たとばかりにアルファードの事を見上げてくる。
その視線に、ようやくアルファードも自身の仲間である者達へと、普段通りの面を向けた。
「俺も人間だ、これから命の現場に向かうのだから、緊張もする……もし緊張すらしない人間がいると言うのなら、そいつは人では無い。ただの機械だ」
いつもは“機械の様に仏頂面”な男が、周りの予想に反して“それらしいこと”を述べた光景に、他の4人は皆一様に眼を丸くしてしまう。
しかし、これまで黙って五人の様子を眺めていたリイン曹長だけは違った。
「そうです。どんなに熟練された魔導師も、任務を前にすると多かれ少なかれ緊張をしてしまうもの。だから、キャロもエリオも、そのままが自然なんですよ♪」
本当に手乗りサイズと言っても良い彼女は、そう言いながら、キャロとエリオの目の前で静止した。
リイン曹長は、その外見のせいで幼い性格をした明るい子供だと勘違いされがちだが、意外にも持っている階級に恥じる事の無い精神年齢をしている。
「緊張するのが自然……」
「そうです。ですからキャロもエリオも、適度に緊張して、適度にリラックスして、思いっ切り任務に当たれば良いです♪ まあ、それが一番難しい事なんですけどね」
気にする事は無いとばかりに、エリオとキャロを解していくリイン曹長であったが、次の瞬間には、六課隊舎内の指令室にいるグリフィスからの通信が来た事によって、表情を一変させる。
『リイン曹長、聞こえていますか?』
「はいです。どうしましたか?」
この突如現れた、グリフィスのアップ映像が写されたホログラムのディスプレイに、フォワード陣も一斉に視線を集める。
先程も、こうやって現場領空内に飛行型ガジェットが現れたと知らせていた映像内のグリフィスは、現場管制を務めているリイン曹長に、早速要件を述べ始める。
『現場到着後に、貨物車両に突入させる分隊編成ですが、車両後部から人数の多いライトニング分隊、前部には連携の取れたスターズ分隊を向かわせます』
「はい、出来れば、理由をお聞かせください」
上官であるグリフィスに、現場管制を任されているリイン曹長は、降りてくる指示に対する漏れを無くすために、その理由を尋ねた。
『まず始めに優先すべきことは、当然“レリック”の確保になりますが、それよりもまず市街地に向かって走り続けている貨物車両を止める事が重要です。流石に市街地に戦闘を持ち込む事だけは避けたいですから。また、重要貨物室を安全に開けるためにも、車両の制御を取り戻す必要があります。この役割を担う場合、迅速に車両前部を占拠したガジェット群を排除出来る能力と、正確な状況判断能力が求められます……だからこそ、フォワード陣でも突出した連携が出来るスターズ分隊が適任だと考えています。後部の場合は、車両中央部にある重要貨物室へ向かう途中に、魔導師と思われる人物と、大型のガジェットと接触する可能性が高いので、フロントアタッカー・ガードウィング・フルバックとバランスの取れたライトニング分隊が適任です。更に言えば、単純に人数が多いからという事もあります』
グリフィスの整然とした説明に、リイン曹長が「そうですか」と思案顔で頷く。
確かに、魔力反応があったという場所を見る限り、車両中央部より一車両後ろに魔導師らしき人物がいる事が分かる。
また、グリフィスの説明以外にも、ライトニング分隊には接近戦を得意とする人員が二人いて、更にはその能力を強化できるキャロの存在もある……対ガジェット戦ならともかく、対魔導師戦となると、スターズ分隊よりもライトニング分隊の方が適していると言える。
(それに、フォワード陣の中でも能力の高いアルファードもいますです……)
上官であるグリフィスからの提案に、リイン曹長は少しの間だけ黙考していたが。
「そうですね、でしたら、スターズとライトニングで前後同時に仕掛けて、重要貨物室のある七両目を目指す形にします。スターズは一両目を占領しているガジェットを撃破した後、貨物車両の制御を奪還し、そのまま七両目を目指しながらガジェットを一機残らず破壊して行ってください。ライトニングは後方から突入した後、大型ガジェットの破壊と魔導師らしき人物の確保、または状況によって拘束・撃破してください。それが済んだら、スターズと同じく七両目を目指して、“レリック”を確保してください」
もしも魔導師らしき人物が、ガジェットと関係のある者だった場合は、必ず拘束を最優先でお願いします……と、リイン曹長は青い眼を真剣に見開いて、フォワード陣に今回の任務内容を伝えた。
ようやく伝えられた具体的な作戦内容に、フォワード陣も無言で頷く。
すると、リイン曹長が自身のデバイスを起動させ、白いノースリーブとミニスカートに腰布を着けた軽装の“騎士甲冑”を身に纏い始めた。
騎士甲冑とは、ミッドチルダ式の魔導師にとってのバリアジェケットと同じ様なもので、性能も差して相違はなく、自身の身を守るためのフィールドタイプの防御魔法だ。
また、リイン曹長は蒼い魔導書型のストレージデバイスを左手に持っている。
「作戦内容は、これでよろしいでしょうかグリフィス准陸尉?」
『はい、後は現場管制であるリイン曹長に一任します』
「了解しましたです」
『でわ』
そう言って、グリフィスが通信を切ると、リイン曹長たちの前からホログラムのディスプレイが音も無く消えた。
明るいグレーに近い銀髪を風に揺らし、白い騎士甲冑を身に纏ったリイン曹長がフォワード陣へと向き直る。
「皆さん、あとはなのは隊長とフェイト隊長が現場の空に到着するのを待つだけです。空の安全が確保され次第、この機体が現在走行中の貨物車両へと接近するので、そこから皆さんのお仕事になります」
「「「「「はい!」」」」」
『リイン曹長! なのはさんとフェイトさんが合流! そのまま敵方に向かって高速飛行を続けてます! この感じなら、すぐにでも貨物車両にくっ付けられそうです!!』
丁度いいタイミングで内線のスピーカーから、パイロットであるヴァイス陸曹の景気の良い声が聞こえてきた。
あまりにも速い二人の合流に、いよいよキャビン内に切迫した緊張感が漂い始める……が。
そのせいで、また再びキャロが不安そうに表情を俯かせてしまった。
逸早く彼女の様子に気づいたエリオとスバルが、勇気づけようと口を開いた瞬間……意外にも、あまりにも想定外の人物が先に口を開いていた。
「心配するな、初めての出動なら、誰だってそんなものだ」
「え?」
声を掛けられた本人も、これには流石に呆けた顔を晒してしまうが、彼は構わず、相変わらず視線すら合わせない仏頂面のまま続けた。
「どうしてもダメだと言うのなら、自分が背中を預けている同僚の貌を見ろ……そいつらは、信用に足らないか?」
一拍の間、アルファードの意外な言動に何を言われているのかすら分からなかったキャロであったが、すぐに我を取り戻すと、フルフルと頭を横に振った。
「ならば安心して、任務に臨め。そいつらはきっと、お前をサポートしてくれる」
「はい! ありがとうございます!」
ひたすら正面を向いたまま、そう締めくくった彼に、キャロは両手を胸の前でグッと握って、もう大丈夫とばかりに目をキリッと見開いている。
この光景に、エリオは「うん、頑張ろうね、キャロ」と彼女に同調し、その隣のティアナは、まるで信じられないものを見たとばかりに、ポカンと口を開いて眼を瞬かせている。
そして、アルファードとは一番離れていた席に座っているスバルは、嬉々とした表情で。
「そうだね、アル! 皆で、この任務を成功させよう!」
と、右拳を思いっ切り握って、彼女らしい爽やかな眼差しを、彼に向けていた。
しかし、当の彼はというと。
「まあ、前にいた部隊の隊長から、俺が初任務の時に掛けてもらった言葉の受け売りで、今でも俺は理解出来ないのだがな。効果があったのなら、それは良かった。流石に、その程度の事で任務に支障をきたしてもらっては困るからな」
「……へ?」
眼を点にさせて、肩すかしを喰らった形となってしまったスバルは、彼の“よかったよかった”と、感慨深げに頷いている様子を、暫くの間、放心状態にも似た心境で眺めていた。
隣では、ティアナが額に手を当てて「やっぱりね、そんな事だろうと思ったわよ……」と、小声で呟いている。
だが、キャロとエリオの二人は、そんな三人の事など関係ないかの様に、手と手を取り合って「絶対に私、皆のこと守るから!」や「うん、僕も確りと闘って、キャロをサポートするね」などと初々しい掛け合いをしながら、互いのやる気を高め合っていた。