崖沿いに伸びるリニアレールを進む貨物車両の上空にピッタリと合わせて、六課の輸送用ヘリ“JF704式”が飛行を続けている。
時速70㎞を維持した貨物車両に輸送用ヘリを近づけさせるために、この空域内に出現した飛行型ガジェットを抑えている高町なのは一等空尉と、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官は、依然として交戦中だ。
『さぁ~て新人ども! 隊長たちが空を抑えてくれているお蔭で、こうして無事、安全に降下ポイントに到着した訳だが……まさか、ここに来てぶるってる奴はいねぇだろうな? 準備はいいか!?』
「「「「「はいっ!」」」」」
発破を掛ける様に、パイロットであるヴァイスが、コックピットとキャビンを繋ぐ内線を使ってフォワード陣に確認をすると、彼らは即答で返事を揃えた。
既に“JF704式”の後部ハッチは、先程なのはを下した時の様に開かれており、そのキャビン内では、五人のフォワード陣と騎士甲冑を身に纏ったリイン曹長が降下準備を終えている。
降下準備を終えているとはいっても、キャビン内にいる者たちは皆、魔導師であるために、パラシュート等といった装備は着けておらず、カーキ色の六課専用の制服姿のままだ。
そして、開かれているランプドア式のハッチの前には、スターズ分隊であるスバルとティアナがスタンバイをしていた。
「……」
「……どうしたのよ、スバル?」
ティアナが、隣で珍しく表情を俯かせて、黙りこけているスバルに声をかける。
開かれたランプの縁を越えた先には、リニアレールを走る貨物列車と並走している下の様子が伺え、左に見える断崖絶壁の崖や、右に見える森林地帯が流れるように過ぎ去っていくのだが、どうやらスバルは、その一般人なら腰を抜かしてしまいそうな高所の情景を見ている訳ではないらしい。
では、どうして普段から明るいボーイッシュな彼女が、いよいよ降下という時に口を閉ざしているのか……それは、彼女の視線を追えば、一目瞭然であった。
スバルは、右手に持った新たなデバイス“マッハキャリバー”の待機状態である、青いクリスタルが装飾されたネックレスを見つめていた。
この新しいデバイスの待機状態には、マッハキャリバー以外に、常に彼女が愛用している、右腕に装着するリボルバーナックルが収納されていて、これまでよりもかなり持ち運びの利便性が上がっていた……また、同時に収納するだけではなく、自動装着機能も付けられ、更には両デバイス使用時のシンクロ率も上がっているという。
おそらく、今のスバルは、この新しいインテリジェントデバイス……魔導師にとっての相棒に向かって、胸中で語りかけているのであろう。
それを察したティアナは、暫くの間、無言でデバイスを見つめているスバルを自由にさせていたのだが。
「……よし」
「もう済んだの?」
スバルが、気合十分といった目つきで、降下ポイントに向き直る。
たったのこれだけで、相方はもう大丈夫だと感じたティアナも、降下ポイントに視線を落とした。
「うん!」
「そう、なら、行くわよ!」
ランプの端にパンプスを履いた足を合わせ、いよいよ二人が第一陣として、貨物列車の先頭車両に降下する体勢を整える。
「スターズ03、スバル・ナカジマ!」
「スターズ04、ティアナ・ランスター!」
「「行きます!」」
そして、遂に意を決した二人は、機動六課初となる現場へとダイブした。
上空を支配していた大気の荒波が、目的の降下ポイントへと落ちていく二人の身体を飲み込もうとするが。
「マッハキャリバー!」
「クロスミラージュ!」
「「セットアップ!!」」
二人がデバイスの起動を同時にコールすると、彼女たちの身体が各々の魔力光で包まれていく。
スバルを包む青い魔力光と、ティアナを包む橙色の魔力光が中空で弾けたかと思うと、次の瞬間には二人がバリアジェケットを身に纏った姿で、降下ポイントである貨物車両の先頭車両へと着地していた。
新たな足であるデバイス、マッハキャリバーの車輪で貨物車両のボディから火花を飛び散らせながら、スバルが着地の衝撃を和らげ、何事も無かったかのように停止する。
ティアナもまた、防御魔法でもあるバリアジャケットの加護に守られながら、貨物車両のボディに足を着いた瞬間、衝撃を霧散させるために脱力させた体に横回転を加えて膝を折り、膝外側がボディに着いた瞬間に大腿外部をボディに着け、尻を付き、腰、背中という順で倒れ込むと同時に、そのままの勢いで後転をして再び立ち上がっていった。五点接地という、パラシュートでの着地方法だ。
無事に降下ポイントへと着地を果たした二人は、驚いたように互いが身に纏っているバリアジャケットを見合う。
両者が防御魔法として纏っているのは、もちろん訓練中に着ていた様な、青いズボンに黒いTシャツなどではなく、六課フォワード陣のために誂えられたデザインをしていた。
体のラインをハッキリと表す、引き締まった腹部を晒したフォットネスノースリーブに、白い前開きの長袖ジャケットを羽織っているスバルは、その健康美ともいえる肉体を強調するかのような恰好をしていて、下半身にはショートパンツを履き、上に前開きの腰布を巻いて、両膝には二―パットを着けている。そしてもちろん、スバルのトレードマークとも言える白い鉢巻も、走る貨物列車の屋根に立っている彼女の青いショートヘアと供に風に靡いている。
ティアナの方は、ノースリーブスカートの上に、同じノースリーブの白いジャケットを着こみ、細い腰には丸いバックルで固定したクロスベルトと、腿の中程までしか丈のない白い前開きの腰布を着けている。また、彼女の橙色の長い髪は、白いロザリオの様な、十字の刺繍がされた黒地のリボンでツインテールにされており、優美な両足には白のオーバーニーとオレンジのラインが入った黒のブーツを履いている。そして、両手には新デバイスである二丁の白い拳銃が握られていた。
基本的に二人のバリアジェケット姿は、白をベースに、インナーは黒といった配色をしているのだが……スバルのジャケットには、彼女の髪の色と同じ青が、所々に小さなポイントとして散りばめられており、ティアナのジャケットにも、オレンジの小さなデザインが見られた。
「これって……」
スバルが相方の姿を一瞥してから、自身が身に纏っているバリアジェケットを思い思いに摘まんだり撫でたりして呟く。
彼女の右腕には、拳装着型アームドデバイス“リボルバーナックル”が、その無骨なデザインのボディで日の光を反射させている。そして両足には、シャープなシルエットと、踵部分に二本出しのマフラーがあるローラーブーツ型のインテリジェントデバイス“マッハキャリバー”が、足首の表側にある本体のクリスタルを光らせながら、その機動性を黙して知らしめていた。
二人が新たなデバイスとジャケットに感嘆していると……その束の間を狙ったかの様に、スバルとティアナが立っていた貨物列車の屋根が、一斉に内部から強い衝撃を受けたせいで、鉄板のボディの所々を隆起させ始めた。
小盛りの凹凸が彼女たちの足場を不安定にするが、次の瞬間にはスバルが両足に着けているマッハキャリバーの車輪を走らせ、近くにいたティアナを抱えて中空へと飛び上がった。
『Wing Road.』
刹那、マッハキャリバーの本体であるクリスタル部分が点滅し、女性による機械的な音声が流れたかと思うと、走る貨物列車の先頭車両から離されぬよう、瞬時に青い帯状の道、ウイングロードを形成して、そこに両側合わせて八つの車輪を着地させた。
意思を持つインテリジェントデバイスの突然のサポートであったが、これにスバルは瞬時に反応し、接地したすべての車輪を唸らせて、貨物列車の先頭車両とウイングロードを使って並走する。
右腕にティアナを抱えたままであったが、彼女は彼女で、所々盛り上がった先頭車両のボディを眺めながら、再びそこに張り付くタイミングを伺っていた。
唐突に、その時はティアナが待つまでもなく訪れた――――
これまで内側からの衝撃で変形していた鉄板のボディが遂に爆ぜ、貨物列車の屋根に歪な大穴を開けた。
同時に、内部から一斉に青い閃光が逆流した雨の如く、ウイングロードを駆っているスバルと、彼女に抱えられているティアナに向かって飛んできた。
「スバル、今!」
対して、ティアナがスバルに指示を飛ばすと、彼女はマッハキャリバーで駆っていたウイングロードから飛び上がり、弾幕の様に放たれる青い閃光に臆することなく、先頭車両の屋根に開いた大きな穴へと入っていった。
その間に、抱えられていたティアナは離され、車両内部へと侵入すると同時に行動を起こしたスバルのサポートに回っていた。
直線状の青い閃光が瞬く中、スバルは車両内部の床をマッハキャリバーで駆りながら、時に伏せ、時に横にスライドし、時に壁面を走行して、敵からの攻撃を避け続ける。
絶える事のない、先頭車両を占拠していた無数のガジェットからの波状攻撃。
本来なら、敵に囲まれたこの状況で、反撃に出る暇など存在しないのだが、生憎と、スバルは一人で乗り込んできた訳ではない。
車両内部の床に両足で着地し、体勢を整えたティアナからの援護射撃が、楕円形をしたガジェットたちの横合いを突く。
屋内だというのに、ローラーブーツ型のインテリジェントデバイスを最大限に活用して、無視できないトリッキーな機動を取っていたスバルに照準を向けていたせいで、不意を突かれた形でティアナの援護射撃に捉えられてしまう数機のガジェット。
しかし、ガジェットにはAMFという、魔法の行使を妨害する領域を作り出す厄介な機能が搭載されている。
ティアナの新しい拳銃型インテリジェントデバイス、二丁拳銃(ツーハンドモード)のクロスミラージュの銃口から放たれたオレンジ色の魔力弾が、そのAMFを展開し始めた数機のガジェットへと一直線に飛んでいき……そして、貫いた。
横合いから飛んできたオレンジ色の魔力弾に、例外なく貫かれ、様々な金属片を撒き散らしながら爆散していく数機のガジェット。
確かに、数機のガジェットは楕円型のシルエットの中央に位置する箇所にある、目玉の様なレンズを点滅させて、AMFを展開した筈であった。
だが、この機能を既に訓練で体験・攻略済みであったティアナは、馬鹿正直に通常の魔力弾を放つのではなく、多重弾核射撃という、発砲する弾に対して、更に魔力による薄い膜状のコーティングを施し、AMFでは消しきれない特殊な魔力弾を生成していたのだ。
数機のガジェットが爆散した事によって、先頭車両内には黒い煙幕が蔓延するが、それは天井に開けられた大穴から外へと、すぐに吐き出されていった。
視界が回復した先では、さっきまで両側合わせて八つの車輪を唸らせて、壁を駆け上がっていたスバルが、そこから飛び上がり、落下しながら右腕のリボルバーナックルを振り下ろすという、高さを利用した打撃を一機のガジェットに叩き込んでいる最中であった。
スバルもまた、訓練では嫌と言うほどガジェットのAMFを経験してきたために、展開されたフィールドの間合いに入る前に、繰り出す打撃に加速などの魔力を込めるという戦術を覚えていた。
彼女の場合、打撃に魔力を込めると、リボルバーナックルの手首部分にある歯車状のパーツ、ナックルスピナーが高速回転し、打撃の威力強化を行ったり、回転の力を加えた貫通力のある拳を繰り出すことができるため、今もまた、その強力な拳でガジェットの頭頂部を粉砕し、元の楕円型の形状が分からなくなるほどに押し潰していた。
傍目から見ても完全に沈黙させたと分かるガジェットもとい、スクラップから拳を引き抜くと、スバルは再び、ローラーブーツ型のインテリジェントデバイスを使ったトリッキーな機動を取り始めた。
まだ先頭車両内には3機ほどのガジェットが残っている。
そのガジェットが、今度はスバル、ティアナの両方に青い直線状の射撃を行うのだが。
『Variable Barret.』
ティアナの二丁拳銃(ツーハンドモード)となっているクロスミラージュが、機械的な男性の音声を発したかと思うと、再び多重弾核射撃による連射が行われた。
奥行きのある車両内で、直線状にいる二機のガジェットを正面から二つの銃口で捉えていたティアナの魔力弾は、こちらに発射されていた青い閃光を射線上で弾いたかと思うと、一寸のぶれも無く、楕円形をした敵の中心部でもある目玉のようなレンズを撃ち貫いていた。
同時に貫いたガジェットは二機……それらが先程と同様に爆散すると、今度はスバルが残りの一機へと迫っていた。
右に左に、まるでアルペンスキーの様に、勇ましく駆動する八つの車輪が、地面との摩擦で雪の代わりに火花を飛び散らせる。
これによって、スバルは相手に的を絞らさせずに、空中に浮遊している残りの一機へと駆け抜けていく。
彼女の横顔を掠めるかのような青い閃光が、瞬きをする間に過ぎ去ったかと思うと、こちらの機動力を奪おうと足元に放たれた青い閃光が、固い金属の床を焼く。
意外に多彩な狙いを付けてくる機械の相手に、スバルは警戒心を改めて高めるが、その時には既に、彼女は床から1mほど浮遊しているガジェットに接近を果たしていた。
そして迷うことなく、再びナックルスピナーを高速回転させながら、右のリボルバーナックルを相手に叩き込む。
マッハキャリバーによる走行の勢いと、彼女の打撃力によって、ガジェットの下半分が抉り取られたかのように殴られた方向へと吹き飛び、その装甲を飛び散らせながら爆散する。
また、残っていた上半分も、スバルが下を潜り抜けるのと同時に中空で爆散した。
その様子を横目で確認しながら、スバルは走行状態であったマッハキャリバーの車輪を横に滑らすように停止させる。
訓練であれほど苦戦したガジェットを、瞬く間に破壊した二人は、驚いたように自身のデバイスを見た。
ティアナのデバイスは、前まで使っていた無骨なアンカーガンとは違って、黒いグリップに白い銃身、撃鉄もアイアンサイトもある正に拳銃型という呼称に相応しい形状をしており、そのグリップのすぐ上にはクロスミラージュの本体であるオレンジ色のクリスタルが存在を主張していた。
「さすが最新型ね……射撃魔法の詠唱補助だけじゃなくて、照準補正や団体戦線のサポートもしてくれるなんて」
感心した様に、自身の両手に収まっている二丁拳銃型のデバイスを眺めるティアナに、クロスミラージュがクリスタルを点滅させながら答える。
『Yes. Was it unnecessary?(はい、不要でしたか?)』
「いや、アンタみたいな優秀な子に頼りすぎると、私的には良くないんだけど……でも、実戦では助かるよ」
『Thank you.』
機械的な音声からでも分かる、どこか寡黙そうな性格の自身の新しい相棒に、ティアナは微笑みかけると、すぐに行動を起こそうと、先頭車両内の最先端へと足を走らせた。
そんなティアナと同じく、自身の新しい相棒の性能に驚きを隠せなかったスバルは。
「マッハキャリバー……もしかしてお前って、かなり凄い? 加速とかグリップコントロールとか、ウイングロードまで」
先に見せたウイングロードの自動詠唱や、朝の訓練で故障してしまった自作のデバイスよりも鋭い方向転換と高い機動性を見せるマッハキャリバーに視線を落とす。
すると両足首の表面にある、マッハキャリバーの本体部分である青いクリスタルが点滅して、彼女の問いに答える。
『Because I was made to make you run stronger and faster.(私はあなたをより強く、より速く走らせるために作り出されましたから)』
事務的にも聞こえる、女性による音声に、スバルは両手を腰に当てて、優しげな表情で「うん」と頷いた。
「でも、マッハキャリバーは、AIとはいえ心があるんでしょ? だったら、ちょっと言い換えよう。お前はね、“私と一緒に走るために生まれてきたんだよ”」
インテリジェントデバイスというのは、人工知能を搭載した、物事を人間の様に捉えることが可能な、魔導師にとって本当の相棒ともいえる存在だ……だからこそ、これを作り出したシャーリーことシャリオやリイン曹長は、スバルたちに渡す際に、慈しみに満ちた母のような視線と愛情を見せていたのだ。
故の、スバルの言葉であったが……。
『I feel it the same way.(同じ意味に感じます)』
心なしか少し戸惑ったように、マッハキャリバーが答える。
もし、マッハキャリバーが人の体をなしていたのなら、思いっきり首を傾げている姿が容易に想像できた。
シャリオやリイン曹長の言うとおり、この子たちは、まだ生まれたばかり……これから、色々と付き合って教えていければ良いと考えたスバルは、仕方ないといった笑みを浮かべながら。
「違うんだよ、色々と……全く、お前はどこかの誰かさんみたいだね」
頭に浮かぶは、常に仏頂面を浮かべた、何を考えているのか全く分からない男。
根は真面目なのに、色々と配慮が足りないせいで、他人から良く顰蹙を買ってしまうあの男は、降下前のキャビン内でキャロの不安を解いてくれたかと思いきや、ただ単に任務に支障をきたしそうだったから、効果がありそうな言葉を掛けただけという態度を取っていた。
おそらく言葉通り、彼は前の部隊にいた隊長からの受け売りというのを、キャロに言っただけなのであろうが、それでもスバルにとっては嬉しい出来事であった。
何せ、あの陸士訓練校時代で孤独だった彼が、初めて訓練以外で仲間を気にするかのような行動を取ったのだ……スバルは、その彼の変化は多分、朝の訓練の後に、教導官であるなのはに残されたのが切掛けなのだろうと当たりを着けている。
まあ、事実は誰にも分からないのだが……。
『……I'll think about it.(考えておきます)』
スバルの言っていることが、あまり理解できなかったのか、マッハキャリバーがまたしても首を捻っているかのような音声を発する。
これに益々、スバルは誰かに似ていると、内心で苦笑していた。
そうこうしていると、スバルの目の前を、二丁拳銃のクロスミラージュを持ったティアナが通り過ぎる。
「車両の制御は私がやっとくから、スバルは重要貨物室の方をお願い!」
告げるが速く、ティアナは車両の制御を奪還するために、車内の奥にあるコンソールへと駆けて行く。
ティアナの指示に「分かった!」と力強く頷いたスバルは、再びマッハキャリバーの車輪を唸らせて、貨物車両の中心部へと向かった。
◆(1)
走る貨物車両の最後尾に降下するというのは、先頭車両に飛び降りるよりもシビアなタイミングを求められるものなのだが、それを難なく、アルファードは合わせてみせた。
上空で貨物車両と並走する“JF704式”の開かれた後部ハッチから、一切の躊躇をすることなく飛び降りた彼は、先に降下したスバルとティアナ同様、前髪や着ている衣服を巻き上げるほどの大気の抵抗を全身に感じながらも、自身のデバイスを起動させ、バリアジェケットを身に纏った。
バリアジェケットの装着は基本的に瞬間で終えるため、彼は彼自身の魔力光である紅い光が収まると同時に、落下スピードなど気にも留めない直滑降で貨物車両最後尾の天井を突き破った。
刹那、獣が高所から着地したかのような、身を屈めた姿勢で車両内部へと接地していた彼は、そのままの体勢で前方へと突貫して、まずは正面にいた一機のガジェットを右の貫手で貫く。
ライトニング分隊で纏まって降下するのではなく、まず初めに彼一人が現場へと舞い降りた理由……それは、まだ降下訓練などに慣れていない二人のために、降下ポイントの安全を最優先で確保することにある。
内側にひしゃげた天井の大穴をよそに、彼は明りの灯っていない車両内で、縦横無尽に一機、また一機とガジェットを落としていった。
しかしガジェットの集団も、それを黙って見過ごす訳は無く、彼の姿をモニターに収めると同時にAMFを展開させて、反攻へと転じ始めた。
楕円形のシルエットをしたガジェットの両側面から、無数のアームケーブルが伸び、アルファードへと迫って行く。
また、それと同じくして、アームケーブルを伸ばしているガジェットとは別の機体が、自身のボディの中心部にあるレンズから、青い直線状のレーザーを放っていた。
変則的な軌道で、鞭のように振るわれるアームケーブルに足元を狙われ、頭部を横薙ぎに、AMFによってバリアジェケットの効果が薄くなった胸元を貫かれそうになるが、これら全てを、彼は巧みな身のこなしによって難なく避ける……しかし、彼の前方を覆うように配置していたガジェット群から放たれた青い閃光の弾幕は、アームケーブルに対処している最中の彼の横髪を掠める程度に焼いたり、白い前開きの腰布に数か所の穴を開けたりと、決して油断できない猛威を振るっていた。
流石に正面から挑むのは不利だと判断したアルファードは、そのまま右手へと走り込んでいき、壁面に対して左斜め方向に飛び込んでいくと、左足を前に突き出した。
車両内の壁と左足が接触した瞬間、信じられないことに、彼は魔力による補助なしで壁面を早いリズムで駆け抜け始めた。
壁を登るのではなく“横”に走っていく彼の後ろへと、ガジェット群から放たれている数えきれない青のレーザーが外れていく……どうやら、今の距離ではアームケーブルの方は届かないらしく、この空間に浮遊しているガジェット全機は壁を走るアルファードを撃ち落とそうと射撃オンリーに切り替えたらしい。
迫ってきたレーザーの弾幕が、遂に彼を飲み込もうとした瞬間。
突如、壁を走り続けていたアルファードが中空へと飛び上がり、鮮やかな弧を描きながら伸身の回転を見せたかと思うと、再び地面に着地したのを皮切りに、流れるようにガジェット群が取っていた陣形の横腹を突いた。
それにより、途端に弾幕の量が減る……横一列で向き合っていた状態から、縦一列で相対するという状況を、彼が強引に作り出したからだ。
こうなれば、優れた動体視力と反射神経、そして運動能力を持つ彼に、直線状の射撃を当てるというのは困難になる。
前傾姿勢で走る彼は、時折サイドに身を避けたりしながら、正面から飛んでくるレーザーをやり過ごし、ようやく一機のガジェットを自身の間合いに捉えた。
『Load cartridge.』
刹那、彼の両腕に装着されていたガントレット型のデバイスにある右収納庫から、一個の空薬莢が後方へと弾き出される。
カートリッジ・システム――――ショットシェルの様な形状をした入れ物に、圧縮した魔力をあらかじめ溜め込み、使用(load)することで瞬間的に膨大な魔力を得るという、一種のドーピングの様なシステムである……なぜブーストではなく、ドーピングと称したのかというと、突然、自身が扱っていた魔力よりも大きな力を得るために、そのぶん制御が難しくなり、更には術者の身体や、魔力を生み出す元であるリンカーコアに大なり小なりの負担をかけるからだ。
しかし、この技術は遥か昔からあるもので、使うにはリスクが大きかったため、つい最近までは敬遠されてきたものなのだが……今では、そのリスクも軽減され、アルファードの他にもスバルやティアナ、エリオの様な新人でも扱えるぐらいにまで進歩していた。
アルファードはカートリッジ・システムを用いて、AMFの領域下で強引に練り込んだ炎の魔力を、後ろへと引き絞った左拳に纏わせていく。
そして逡巡もなく放たれた、全身の勢いや、下半身と腰の柔軟性を最大限に活かした、肩甲骨まで動員された左ストレートが、ガジェットの中心部であるレンズを叩き割り内部へと突き刺さっていく。
更に、打ち放たれた左拳の軌跡に沿って、瞬くような明りを灯していた炎が、中心部を叩き割られたガジェットの中へと吸い込まれていく。
本来なら、この程度のガラクタ、彼にとっては玩具に過ぎず、何も気にせずに戦うのであれば、ここで爆散せしめる所なのだが……アルファードという男は、ただ正面突破を図るだけの猪ではない。
ガジェットの内部へと吸い込まれていった彼の炎が、機械の血管とも言うべき全ての配線を出鱈目に焼き切る。
彼は左拳の前腕を中程までめり込ませたまま、完全に物言わぬ鉄塊と化したガジェットを、まだ前方に残っている敵から己の身を守るための盾代わりにして、その後ろに隠れた。
まるで仲間がやられた事に憤怒したかのような弾幕が、アルファードの盾となった、機能を完全に停止したガジェットの背中に襲い掛かる。
一発二発、三発目にガジェットの機体に穴が開き、そして四発目には様々な破片を撒き散らせながら、盾は上下に別れて爆発してしまった。
しかし、そこには既にアルファードの姿はなく、彼は爆発で巻き上がった黒い煙幕を掻き分けながら、車両内の天井に届くのではないかというぐらいの跳躍を見せて、再び残りのガジェット群へと迫っていた……が。
『Luftmesser』
突如、中空に跳躍していたアルファードの目の前で、こちらに銃口でもあるレンズを向けていた残り5機のガジェットが、横合いから飛んできた黄色い斬撃の衝撃波によって次々と一対に切断され、爆散していった。
最後尾の車両内に浮遊していた全てのガジェットが破壊された事によって、展開されていたAMFの領域が解消され、アルファードが身に纏っていたバリアジェケットに、本来の防御魔法の効力が戻る。
おかげで、目の前で起きた爆風に巻き込まれても無傷で地面に着地する事が出来た。
車両内に蔓延していた黒い煙が、降下の際にアルファードが開けた天井の大穴から外へと流されていく。
次第に視界が回復していく中で、アルファードは先程、ガジェット群を切り裂いた、斬撃の衝撃波が飛んできた方向へと顔を向ける。
そこには、振り切った槍型デバイスを引いた少年と、どこか焦っている様な落ち着かない表情をした少女が立っていた。
「すみません、遅れました!」
「私のせいで、本当にすみませんでした!」
外見の割に、自分の身の丈よりも大きな獲物を軽々と持った少年が、アルファードの下へと駆けだすと、およそ、こういった火事場には不向きな可愛らしい容姿をした少女も、目を潤ませながら走りだしていた……また、弱々しい印象を醸し出している彼女の後ろには、使役竜である小さな白い竜が、羽を動かしながら着いて来ていた。
アルファードは、バリアジャケットに着いた埃などを軽く払いながら、目の前で立ち止まった二人と一匹を見る。
「いや、助かった。だが、そんな事よりも、今は任務の事だけに集中した方がいい。狭い空間で複数のガジェットと交戦するというのは、意外と骨が折れる」
いつも通りの仏頂面で、少し焦げてしまった左の横髪を鬱陶しそうに引き千切ったアルファードに、ようやく降下してきた少年と少女……エリオとキャロの二人は、何かに気付いた様な顔で彼を見上げていた。
「あれ? やっぱり、アルファードさんも同じ色なんですね」
「うん?」
どこか口調の弾んでいるエリオの視線を追うと、アルファードはここに来て、ようやく自分のバリアジェケットのデザインが変わっていたことに気が付いた。
頑強に鍛え上げられた腹回りを晒した、ハイネックのノースリーブ・フィットネスシャツの上に、白い半袖の丈の短いジャケットを着込んだ上半身、黒いズボンの上に白い前開きの腰布を巻いた下半身……そして、両手足には、小振りな収納庫の着いたガントレッド型と、同じく小振りな収納庫が踝辺りに着けられたレッグアーマー型が、一対のアームドデバイスとして装着されていた。
しかし、白い腰布には既にガジェットによる射撃で開けられた、焦げた穴が数か所あったために、真新しいとは言えなくなっている。
自身が身に纏っているバリアジェケットを一瞥すると、アルファードは目の前にいる二人に視線を戻した。
「そうか、白が部隊のパーソナルカラーなのだな」
「僕、アルファードさんのバリアジェケット姿って、初めて見ました」
「訓練だけで必要なかったからな、仕方のない事だ」
そういうアルファードも、エリオとキャロのバリアジェケット姿を見るのは初めての事で、彼らもまた、こちらと同じ白をベースとした色合いをしていた。
エリオは、黒いハイネックのインナーに、赤いノッチド・ラペルの襟をしたジャケットを着て、更に白いコートを羽織った格好をしているのだが、下に履いている半ズボンのせいで、どこかボーイスカウトの少年に見えなくもない。しかし、足に履いているハイカットのレッグアーマーが、やはり魔導師のバリアジャケットなのだなという印象を保たせている。
キャロの方は、つばの無い丸い大きな帽子を頭に被り、袖口の広い桃色のジャケットに白のロングスカートを合わせて、ポンチョの様な特徴的な白いマントを羽織っている。
その組み合わせは厚着にも見えなくもないが、白と桃色という優しい色合いと、彼女が普段から身に纏っている雰囲気のおかげで、とても朗らかで柔らかな印象を与えていた。
アルファードは、とりあえず乱戦になった時に誤射などのミスはしないよう、二人が身に纏っているバリアジャケットの特徴を頭に入れると、そのまま次の車両の方へと振り返った。
「とにかく、既に最後尾を占拠していた敵は排除した。次の車両に向かうぞ」
「「はい!」」
二人が快活よく返事をすると、そのままフロントアタッカーであるアルファードが先頭に立ち、次の車両へと続く貫通路へと走り出した。
◆(2)
先頭車両と最後尾の車両の屋根に大穴を開けられ、そこから黒い煙を吐き出している貨物列車の状況を、六課隊舎内にある指令室で確認していたグリフィス。
彼は、スターズ・ライトニングの両分隊が、最初の難関を突破したことに安堵の息を吐きたい所ではあったが、それが許されるのは任務が完了した時のみのため、ひたすらに目の前の大型スクリーンを油断なき瞳で見つめていた。
現場には管制としてリイン曹長が、いまだリニアレールを直走る貨物列車と、着かず離れずの平飛行を続けている“JF704式”内で待機していたのだが、先程、先頭車両でコンソールを操作していたティアナから入った通信により、既にそちらへと降下をしていた。
どうやら、時速70㎞で走行を続けている貨物列車を止めるために、何とか先頭車両内にあるコンソールを操作していたティアナであったが、自分の手には余ると判断したらしく、再びスバルの下へと合流するために、その役をリイン曹長に委ねた様であった。
だが、それも踏まえて順調なのかもしれない……。
なぜなら、貨物列車の制御を得るために、こちらからもリニアレールの全機能を管理している中央管制にアプローチをかけてみてはいたのだが、一向に目標を止めるには至っていない……というより、もはやガジェットに占拠されてしまった貨物列車は、中央管制から独立をしてしまっている。
最悪、このまま走り続けて市街地に突入してしまっても、内部の荒事を全て片づけていれば、ある程度、周囲からの声を抑える事が出来る。
故に、グリフィスはスバルと合流したティアナが、速く中央の重要貨物室に辿り着いて、多少強引な手法でもいいからレリックの確保をしてくれるのを祈っていたのだが。
「っ! 8車両目に留まっていた魔力反応に動きあり!」
この時、指令室にいる全員に緊張が走った。
「重要貨物室の方に!?」
「いえ、違います! 歩くようなスピードで、8車両目を出て、9車両目に! 現在14車両目にいるライトニング分隊へと接近中です!」
予想外の出来事に、グリフィスは思わず歯噛みしてしまう。
確かに、今まで8車両目に留まっていた魔導師らしき人物が、作戦行動中に動き出すことは予想できていた……だが、動くとするのなら、重要貨物室の方へ動くとグリフィスは踏んでいたのだ。
理由としては簡単だ。
いま貨物車両を占拠しているガジェット・ドローンという機械は、これまでの出現例からして、ロストロギアであるレリックを狙っているという事は周知の事実であるからだ。
ガジェットは敵と判断した相手に照準を着け次第、機械らしく何の躊躇もない攻撃を仕掛けてくるという性質がある……その渦中にあって、魔力反応に一切ぶれが無いという事は、魔導師らしき人物は敵方の勢力である事が考えられる。
だからこそ、魔導師らしき人物が動くとしたら、レリックがある重要貨物室側だと予想をしていたのだ。
しかし、外してしまった。
「ライトニング05に至急伝えるんだ! あの三人の中では彼が一番、対魔導師戦に慣れている! 彼に敵側の魔導師を抑えさせて、他の二人で大型ガジェットを叩かせるんだ!」
「了解! ライトニング05! アルファード君、聞こえる!?」
指令室の中央で指揮を取っているグリフィスにシャリオが答えると、彼女はすぐさま現場にいるアルファードへと通信を繋げる。
『聞こえています』
すると間もなくして、多少ノイズ交じりではあったが、指令室に彼の生真面目な声が返ってきた。
無事に現場との通信が繋がると同時に、シャリオは先程、グリフィスから指示されたことを的確に彼に伝える。
「魔導師と思われる反応が八車両目から動いたわ! いま真っ直ぐ、君たちのいる方に向かってる! 接触までの間に、そう時間はかからないわ! だから君が先行して、この魔導師の反応を抑えて頂戴! エリオとキャロの二人には、貨物車両の屋根に出てもらって、大型ガジェットの対処に当たらせて!」
『了解! ただちに実行に移します!』
言われるが早く、アルファードは通信を切ると、直ちにエリオとキャロに事を伝えたらしく……暫くすると、指令室にある大型スクリーンの映像に、エリオとフリードを連れたキャロが、強引に天井を突き破って貨物列車の屋根へと現れた光景が映し出されていた。
それをグリフィスが確認すると、すぐさま魔導師と思われる反応がどこまで車内に残ったアルファードに近づいているのかを、通信士であるルキノに尋ねた。
「ルキノ、魔力反応の位置は?」
「9車両目から10車両目に移っています! 三人が分かれたのと同時に、進行速度が上がりました!」
自身の目の前にあるディスプレイを見つめて、コンソールと格闘していたルキノが、確実にグリフィスへと伝えるために、一度、席に座ったまま後ろへと振り返って声を張り上げる。
この報告に、グリフィスの胸中に一つの疑念が生じた。
(三人が分かれるのと同時に……いや、考えすぎか?)
生じた疑念は、もしかしたら相手は、この時を狙っていたのではないかと言うもの。
敵は、こちらの戦力が孤立した時を狙って仕掛けてきた。
タイミング的には的確であるために、そういった疑念を抱いても仕方ないのかもしれない。
しかし、グリフィスが抱いた疑念の本質は違う。
それは、元から彼一人を狙っていたのではないかという、根拠のない馬鹿らしいもの。
この疑念の説得力自体は、圧倒的に不足している……しかし、よくよく考えてみると、なぜレリックに一番近い位置にいながら、これまで全くアクションを起こそうともせずに、こちらの降下を許したのか理解に苦しむ点がある。
もし魔力反応を持つ者が、本当に魔導師だったのだとしたら、強引に重要貨物室へと続く扉を破壊できたし、更には、後方は大型ガジェットに任せて、先頭車両から迫っているティアナとスバルの二人に向かうことだって出来たはずだ。
しかし、それをしなかった……。
一体、敵は何を考えているのだと、グリフィスが思考を巡らせていると。
「ライトニング05! 接近中であった魔力反応と接触! 交戦を開始した模様です!」
事態が急を告げ、彼が余念に思考を巡らせる暇を容易には与えてくれなかった。
◆(3)
エリオとキャロ、そしてフリードと別れたアルファードが、件の魔力反応を発する人物と接触するのに、そう時間は掛からなかった。
彼は二人が天井から出ていくのを見送った後、すぐさまこちらへと向かっている相手と相対しようと、車両内を駆けるスピードを上げ、14から13、12車両目へと魔力を行使した走りで駆け抜けた。
でないと、せっかく魔導師と思われる反応との交戦から遠ざけた二人に、その件の相手が触手を伸ばさないとも限らないからだ。
故に、彼は魔力変換資質で具現化させた火の粉を周囲に散らせながら、駆け抜けた軌跡である足跡に焦げ目を残して、鉄の檻とも言える車両内を走り続けていたのだが……。
「っ!?」
12車両目の半ば辺りで、突如、彼の研ぎ澄まされた警戒心に直接訴えかけてくる警報が鳴らされた。
同時に、彼は炎を纏っていた両足を止め、周囲に鋭い視線を配らせる。
ここ12車両には、数々の四角い大きなコンテナが積まれているのだが、それが複雑に入り組んで、一種の迷路を作り出していた。
積まれたコンテナの高さは、車両の天井にもうすぐで着いてしまうのではないかというぐらいのもので……あそこから仕掛けてくることは、まず無いだろうと、アルファードはいつでも奇襲に反応できるよう、両手のガードを軽く上げ、腰を落とした構えを取りながら周囲への警戒を続ける。
バリアジェケットの防御機能に低下が見られない事から、この車両にはAMFを持つガジェットはいない事が分かる……。
つまり、こちらに威圧感(プレッシャー)を与えてきているのは、一人しかいないとアルファードが考えた瞬間――――次の車両である11車両目の方向から、炎を纏った一閃の剣筋が、目の前にあるコンテナ群を無視して横薙ぎに振るわれた。
これを刹那とも言える反応で、上半身だけを屈ませた体勢で躱したアルファードであったが……。
「っち!」
次の瞬間、目の前で壁となっていた鉄製のコンテナ群が、横薙ぎに切られた線をオレンジ色に溶かしながら、徐々に彼の方へとずり落ちて来ていた。
剣閃自体は横一線であったが、圧倒的にこちら側の方が融解の進行具合が速いため、滑る様にして高く積まれたコンテナが動いているのだ。
これに対し、アルファードは先程のガジェット戦同様に、右腕部のガントレッドにある収納庫から一個のカートリッジを使用して空薬莢を吐き出させ、魔力を強引に増大させる。
そして、全身に魔力を行き渡らせたかと思うと、奥脚であった右足を蹴り出して、前へと送り出し、傾き、崩れ始めていたコンテナの一つに、自身の右掌を添えた。
『Knuckle Bunker』
彼のデバイスが機械的な音声を発すると同時に、前に送り出していた右足で地面を踏みしめ、体勢を右真半身の“四股立ち(しこだち)”にすると……コマ送りの様な肉体の“キレ”で全身の可動部位を瞬間的に動かし、それで生まれた力の流れを、曲げていた肘を打ち出すように伸ばした右掌に乗せて、カートリッジで増幅された魔力と供に、こちらへと倒れ込んでくる一つのコンテナの面に“爆発”させた。
須臾(しゅゆ)――――何かが暴発したかの様な轟音が車両内に波紋を広げ、アルファードへと崩れ落ちていた全てのコンテナが、前面へと吹き飛ばされていた。
ナックル・バンカー……本来なら、拳を作った状態で相手の胴体に拳面を添えて、ワンインチの距離からでも真っ直ぐに、鉄杭を打ち込む様に威力を貫通させる魔法なのだが、今回は、その一直線に炸裂させる威力を、掌を開くことで分散させて、落ちてくる全てのコンテナを巻き込めるほどの衝撃波を生み出していた。
ちなみに、この魔法は彼が扱えるものの中でも最高の威力を誇っているのだが、いかんせん、打ち込む際には一瞬ではあるが、相手の目の前で体を硬直させなければならないために、あまり実戦では使わない魔法なのであった。
アルファードが起こした衝撃により、四角い鉄製のコンテナが方々で落下、衝突、または中に入っていた積荷を撒き散らしながら破壊されていく。
それは彼の前方限定で起こっている参事であり、つまり、こちらに攻撃を仕掛けてきた者を下敷きにしたのではないかという光景だったのだが。
刹那、無数の炎を纏った剣閃が、コンテナや散らばった積荷が降り積もって山となっていた場所を内部から切り裂き、それら全てを融解または、灰にしてしまっていた。
車両の床に融解したオレンジ色の液体が降り注ぎ、数えきれないほどの焦げた黒点を作り出していく中、ナックル・バンカーを打ち終えたアルファードは、四股立ちの体勢を解き、既に自然体の状態で自身の真上に左手を掲げて、傘替わりの防御魔法を展開させていた。
彼の隙のない視線の先には、あれ程の残骸を一瞬のうちに灰に帰した人物が、同じく無傷の自然体でこちらを見据えている。
コンテナが融解して出来た液体の雨が止み、アルファードが左手で展開していた紅の防御魔法を解くと、徐に目の前の敵が、口端を不敵に吊り上げた。
所々跳ねた癖毛のある黒髪を、腰辺りまで伸ばした、年頃の女性といった出で立ち……。
目鼻を隠すかのように顔に着けている黒いバイザーに、スタイルの良い体のラインをハッキリと露わにしているウエットスーツの様な着衣……その上には、黒い厚手のコートを羽織っている。
身長は160㎝後半だが、着衣の踵部分に付いているヒールのせいで、170㎝に見えなくもない……右手に持っている片刃の剣が敵のアームドデバイスなのだろと、アルファードは判断した。
二人の間合いは、魔導師ならば一呼吸で飛び込んでいける15m前後。
周囲には先程出来た、黒い灰や塵が宙を舞っている。
そんな中、アルファードが口を開いた。
「貴様は何者だ?」
「……」
答えは無い。
返ってきたのは、右手に持った片刃の剣を腰だめに構えて、こちらへと踏み込んできた、彼女の燃え盛るような闘志だけであった。
次の更新も、間が空きます。
理由は、消防士の試験が近いのと、なろうで書いているオリジナル小説を少し進めようと考えているからです。