一応、時間さえあればチェックし直して、来週末には次話を上げたいと思っています。
ま、予定はあくまで予定ですけどね……年末忙し(汗)
突貫、斬撃――――
たったこれだけの、実にシンプルな左下からの逆袈裟斬りに、アルファードの表情が驚きに染まる。
相手は右手に片刃の剣型デバイスを握っており、それを飛び込んできたとはいえ、ゆらりと脱力した身の熟しで切り上げて魅せたのだ。
まるで、宙を舞う一枚の布のような躰捌き……が、アルファードは、それを寸での所で頭の位置を変えないまま後ろへと体をスライドさせてやり過ごす。
しかし、それでも尚、彼の目の前を鼻先数ミリの単位で剣の切っ先が過ぎ去っていた。
魔力は伴っているとはいえ、実にシンプルな速い動きに、アルファードは相手の実力が油断できないものだと瞬時に悟る。
だが、ここで既に、アルファードは一つのミスを犯していた。
それは、本来なら敵と相対している時に、安易に後ろに下がると言う行為をしてはならないという事だ。
何故なら、前進してきた敵に対して、こちらが後ろに下がってしまっては、勢いというアドバンテージをむざむざ相手に与えてしまうからだ。
故に相手も、このアドバンテージを捨てまいと、逆袈裟斬りで切り上げていた片刃の剣を返し、そのまま前進の勢いを殺さず右上から左下への袈裟斬りを、アルファードの右首筋へと振り下ろす。
この二刀目も敵は右腕一本で繰り出している。
対してアルファードは自身から見て右へと、相手を軸にした回り込みを行い、またしても左太腿を切り裂かれる寸での所で難を逃れた。
振り下ろされた剣筋が、アルファードが背にしていた鉄製のコンテナ群を斜めに切り裂く。
左上から右下へと、車両の天井に届くのではないかというぐらいに積み上げられたコンテナ群が斜めに切り裂かれると、その斬撃に沿って鉄が融解し、オレンジ色に溶けた液体がコンテナの中に入っていた積み荷を例外なく焼き始めた。
が、その斬撃から逃れる様に相手の左手側へと回り込んでいたアルファードは、そんな事は関係ないとばかりに切れの良い左フックを、敵の顎先へと振り放っていた。
アルファードは打撃に魔力を込めると、先天的な才能である魔力変換資質が機能して“炎”を生み出すために、この左フックの拳にも紅い“炎”が纏わされていた。
最小限の振りによって、炎を纏った拳が小さな弧を描いて、相手の顔面を打ち抜こうとする……だが。
「ふふ♪」
それを見越していた相手は、袈裟斬りをした事によって少々重心が前に傾いていた躰を、横合いから放たれた左フックから距離を取る様に傾け、そのままの流れに身を任せて右側に全身を“倒れ込ませた”。
当然、これによってアルファードの魔力と共に放たれた左のショートフックは空を切り、虚しく中空に火の粉を漂わせてしまう。
しかし、彼も並みの実力者では無いために、避けるために自らバランスを崩した相手に追撃を掛ける。
左フックを振り抜いた事によって出来た肉体の捻じれを利用して、右のローキックを、倒れ込んでいる相手の両足を刈り取る様に蹴り出す。
鉄骨の様に硬く、鞭のように撓るアルファードの蹴りであったが、これに対し、相手は倒れ込みながらも強引に横へと飛ぶと、寸での所で掠りもせずに難を逃れた。
当たると思っていたアルファードは、右足を振り切った後、そのままの余韻で一回転しながら、再び相手へと左肩を前にした構えを向ける。
相手も相手で、飛び込んだ体勢から地面に手を着くワンクッションを置いた後、何事も無かったかのように両足で着地し、再びアルファードと相対した。
(……拙いな)
自然体のまま、右手に持った剣型デバイスをフラフラと揺らしている相手を見据えながら、アルファードは無表情のまま米神に一筋の汗を垂らす。
これまでのやり取りで、彼には気づいたことがある……。
(防御魔法を展開する暇が無い……)
もともと近接戦闘で、防御魔法の様な壁を作り出す戦法をアルファードは頻繁に使うタイプではない。
しかし相手のデバイスの切れ味を見る限り、徒手格闘が主な彼には分が悪い状態にあり、それが出来なければ、いずれは身に纏っているバリアジャケットを切り裂かれ、生の肉体にダメージを負ってしまう危険性がある。
本来アルファードという魔導師は、こういった状況下でも卓越したセンスと身体能力、そしてディフェンス技術で、敵の攻撃を受け止めるのでは無く、避けたり捌いたりして切り替えしの反撃に出るという戦法を取るタイプなのだが……目の前の敵の踏み込みが鋭すぎて、その持ち味を完全に殺されかけていたために、余計に防御魔法を展開する必要性が出て来ていた。
つまりそれは、ぶっつけ本番で自身のスタイルを曲げろと言われているに等しい事であり、堅実性を好む彼にとっては苦虫を噛み潰したくなる様な状況だという事なのだ。
「ふふん♪」
所々が跳ねている黒い長髪を揺らしながら、バイザーで口元以外を隠している敵が不敵に微笑む。
その様は、まるでどう闘おうか、手探り状態であるこちらを嘲笑うかのようで……。
しかして、羽織っているコートの下に着ている、肢体のラインを露わにするボディスーツのお蔭で、一目で女性と分かる相手は、第一接触(ファーストコンタクト)の時とは違って、すぐに仕掛けてくる気配を見せない。
アルファードは、いつ仕掛けられても対応できるように、自然体では無く、後ろ脚の踵を上げた左構えを取り始めた……同時に、膝と肩でリズムを取り始める。
(鉄製のコンテナを一瞬で融解させ、内部も燃やした辺り、相手は十中八九、俺と同じ魔力変換資質を持っていると言っていい……だとすると、バリアジャケットに割り振る魔力を上げたとしても、焼け石に水かもしれないな)
今、彼が相手に抱いている警戒心は、ある意味で最大級のものであり、実戦形式の訓練を繰り返してきた管理局のエース、高町なのはに対する“それ”よりも大きなものであった。
おそらく、それは非殺傷設定というセーフティをかけているのと、かけていないのの差が出ているのであろうが、未だ相手の実力が未知数な分、これは当然と言える対応であるのかもしれない。
すると、相手が徐に、これまでゆらゆらと持っている右手で揺らしていた剣型デバイスの切っ先を、こちらの眉間に向け始めた。
両者の間合いは五歩以上離れているので、切っ先を向けられた程度でアルファードが動じる事は無いが、何らかの魔法を行使されれば、そこからでもこちらの眉間を撃ち抜く事が出来るために、彼は敵の一挙手一投足を見逃すまいと目を見張る。
しかし、彼の意に反して、敵である彼女は突きだした切っ先を、一定のリズムで左右に小さく振るという事しかしない。
「ふんふんふ~ん♪」
「……」
楽しそうに剣を弄ぶ彼女と、後の先を捉えるために心身の集中力を極限にまで振り絞っているアルファード。
両者は互いに対照的な視線で相対しているのだが、傍目から見れば、敵意を出しているのはアルファードだけで、彼女の方はただ遊んでいるだけにしか見えなかった。
捉え所がないというより、ふざけているとしか思えない相手の態度……だが、アルファードにとって、そんなことは些細な事であり、どうでも良い事なのだ。
最終的に、相手の身動きを止め拘束さえ出来てれば、それだけで今回の任務の収穫となるのだから。
ジリッと、アルファードが鉄の床と靴底をすらしながら、相手との間合いを少しだけ縮める。
それでも尚、切っ先をアルファードに眉間に向けている彼女の態度は変わらない。
もう半歩、間合いを詰めてみる。
変わらず、相手は鼻歌を交えて、こちらに笑みを浮かべているだけだ。
もう半歩――――変わらない。
周囲には先程、彼女が燃やし尽くした灰や塵が虚しく舞い、表面を切り裂かれたコンテナの中身が燃え、息を吸うだけでもむせ返りそうな光景が広がっているのだが、当の二人には何の影響も与えていない。
そして、アルファードがもう半歩、摺り足で間合いを詰めた時。
『Five Knife』
突如、アルファードのデバイスである“エクスキューション”が、男性による機械的な声音を発したかと思うと、構えを取っていた彼の右手付近に、炎で形作られた五本のナイフが発現した。
瞬間、アルファードが発現した内の四本を右手の指の間で挟み取ると、それと同時に、剣型デバイスの切っ先を揺らしていた相手に向かって、一挙動のみのモーションで横薙ぎに振り投げた。
片手で四本のナイフを投げたにもかかわらず、其々が切っ先を前にして相手の急所へと飛んでいく。
眉間、喉、脇腹、太腿と、刺さればただでは済まない箇所に、彼が投げたナイフが一直線に迫っていくなか……。
「♪」
四本のナイフが、彼女が右腕で突きだしていた剣型デバイスの切っ先を通り過ぎるや否や、刹那とも言える四つの剣閃が瞬く間に振るわれ、その尽くを短い金属の衝突音と共に打ち払われてしまった。
一直線に飛んでいた四つのナイフが、打ち払われた事によって方々に散らばっていく。
しかし、アルファードにとって、この結果はむしろ“狙い通り”であった。
敵の持つ剣型デバイスで切り払われ、切っ先を突きたてる目標を見失った、炎で形作られた四本のナイフが、突如、内部から膨張したかのように形を崩して破裂し、次の瞬間には、大量の爆炎と爆風をまき散らしながら辺り一帯を飲み込んだ。
この威力により、周囲にまだ積み上げられていたコンテナ群が一気に吹き飛び、不規則に貨物列車の鉄製の壁や天井に衝突して中身を散乱させた……が、被害はこれだけには留まらず、この車両の一部の壁や天井には、鉄製のコンテナの衝突に耐えられなかったのか、外側へとボディを拉げさせながら穴を空けられてしまっている箇所もあった。
魔法に係る者でなければ、一瞬で鼓膜が破けてしまいそうな轟音と共に発生した炎と黒煙が車両内を支配する中、至近距離で爆発を受けた敵の魔導師は、瞬時に張った防御魔法である“プロテクション”で難を逃れていた。
触れた物や衝撃に反応し、それを弾き返す性質を持つ“プロテクション”を左手一つで前面に展開していた彼女は、今しがた受けた爆発で所々が焦げてしまったコートを脱ぐために、防御魔法を解いて、左手で右胸元の生地を掴んだ。
そして、脱ぐと言うより強引に引き千切って、羽織っていたコートを脱ぎ捨てた彼女は、これまで楽しそうにしていた口元を初めて紡ぎながら周囲に目を配り始めた。
右、左、上、前、後ろ……どこを見ても、未だ濛々と立ち込める黒煙と炎が熱気を感じさせる中、さっきまで対峙していた相手の姿は見つける事が出来ない。
彼女のバイザーで隠れた顔の中で、唯一伺える口元と顎先から、一筋の汗が鉄の床に滴り落ちる……それが熱を持った床に落ちると同時に“ジュッ”という音を立てて、一瞬にして蒸発してしまった、その時――――
彼女の後ろから、煙幕の様に立ち込めていた黒煙を掻き分ける様にして、炎で形作られた一本のナイフを右手に持ったアルファードが姿を露わにする。
彼は姿を現すと同時に、まだ正面を見ていた彼女の後頭部を延髄ごと切り裂こうと、右手に持っていたナイフを横薙ぎに振り切る……が。
「ちっ!?」
「……っ!」
刹那の反応で振り返った彼女の得物で、それを止められてしまったのだった。
さっきまでとは違って、両手で剣型デバイスの柄を握り、こちらの攻撃を受け止めた敵に、アルファードも、右手に持ったナイフの“みね”を押し込むように左手で押さえつける。
互いの刃を擦らせながら、両者は全く互角の鍔迫り合いを続けている……。
その状態を維持しつつ、鋭い眼光で相手を捉えているアルファードは、この後どうするのか、後の先を取るべきなのかなどといった思考を、頭の中で巡らせていたのだが。
「クス♪」
「……」
不意に、目の前で同じくバイザー越しではあるが、こちらを見据えていた彼女が、余裕を取り戻したかのように口端を綻ばせた。
だが、それでも相対しているアルファードの表情は、一切微動だにしていない……。
すると、ここに来て初めて、敵である彼女がまともに口を開いた。
「初めまして」
「……」
「貴様は何者だ? だっけ? 私は“ファクティス”って言うんだ♪」
彼女は、体格的に劣っているアルファードと互角の鍔迫り合いを続けながらも、抑揚のある口調で、最初に彼が投げかけていた質問に答えた。
発せられる声音からして、同僚であるスバル・ナカジマやティアナ・ランスターらと同じぐらいの年齢だと判断したアルファード……しかし、それ以上に幼くも感じられる彼女の雰囲気に、彼は違和感を感じざる負えなかった。
「“やっぱり同じ炎熱の変換資質”を持ってるんだね? さっきのはビックリしちゃったよ……また、いま持ってるナイフでも同じことをするの?」
探りでは無く、単に興味があるから聞いているだけという感じのする彼女の問いに、アルファードは。
「……一つだけ聞く」
「うん? なになに?」
ボソリと囁く様な小さな声に、刃を合わせている彼女が軽い調子で首を傾げる。
それはまるで、デート最中の女性が見せる嬉々とした仕草で、一緒にいるだけで楽しいというのが伺えるものであった。
するとアルファードは、眉間に皺を寄せ、表情を険しくさせながら口を開いた。
「貴様は、今この車両に徘徊している自律兵器に関係する者だな?」
「そうだよ♪」
何の逡巡も無く、当たり前の如く答えた彼女。
それを聞き入れたアルファードは、刹那、鍔迫り合いで押し合っていたナイフを、体を左横にずらしながら引き、敵の体勢を前傾に崩した。
「おっと……」
不意に押し合っていた相手を失い、バランスを瞬間とは言え崩してしまった彼女に対し、アルファードは最小限の動きで敵の喉元を突き刺そうと、引いていたナイフの切っ先を立てて、それを突き出した。
およそ、魔法戦とは思えぬ地味な刺突であるが、無駄な動きが無い分、それは一直線に敵の喉元へと迫っていく……が、前傾姿勢にバランスを崩していた彼女はこれに対し、しゃがむ様にして、身を更に屈めることで迫っていたナイフを頭上に躱した。
同時に、彼女は再び右手一本で持った剣型デバイスを、アルファードのレッグアーマー型のデバイスで守られた脛に向かって振り払う。
アルファードは、右足の脛に迫った相手の刃から、飛びずさる様にして後ろに体を逃がした。
虚しく空を切る、彼女の地を這う斬撃……視線の先には、思わず距離を取ったアルファードの姿がある。
いや、違う。
見るべき所は、そこではない――――
視線の先ではなく、視界の隅に、さっきまでアルファードが右手に持っていた一本のナイフが、持ち主を失い重力に従って、彼女の顔の前に落ちて来ていた。
これを意味する事を、既に彼女は瞬間的に察していた。
目の前を地面に向かって通り過ぎようとしていたナイフが、内側から膨張するかのように形を変え。
そして――――
◆(1)
貨物車両の14車両目で、魔導師と思われる反応を抑える事になったアルファードと別れたエリオとキャロの二人は、時速70㎞で崖沿いのリニアレールを走る貨物車両の屋根を伝って、ロストロギア“レリック”があるという7車両目の重要貨物室を目指して直走っていた。
『多分、このまま行くと魔導師とライトニング05は、12車両目ぐらいで交戦すると思うから、二人は急いで7車両目を目指して』
「「了解!」」
機動六課隊舎内にある指令室から、通信士であるアルト・クラリエッタ二等陸士による指示を受けると、二人は強い向かい風を真に受けているにも関わらず、確りとした口調で返事をし、足を走らせ続けていた。
傍らに使役竜であるフリードを侍らせながら、両手に着けたグローブ型のブーストデバイス“ケリュケイオン”を横目で一瞥したキャロは、すぐさま前を走るエリオに向かって声を掛ける。
「アルファードさん、大丈夫かな……?」
どこか不安げにエリオの背中を見る彼女に、彼は優しい笑みを浮かべながら、首だけを後ろに振り向かせた。
「大丈夫だよ。だって、アルファードさんは僕たちの中でも一番戦闘に慣れてるし、デバイスだってさっき言ってたみたいに最新型を使ってる。リインさんやグリフィスさんだって、それを見越してアルファードさんに抑え役を頼んだんだから、きっと大丈夫」
普段から少しだけ気弱な所があるキャロを安心させるかのように答えるエリオに、彼女も少しだけ胸につかえていたものが取れたのか、ハの字に沈んでいた眉毛を元に戻し、真っ直ぐな瞳を正面に向ける。
「そうだよね、うん、大丈夫!」
両手をグッと握って、憂いを払うキャロ。
確かに、初めての出動という事で、彼女たちが感じているストレスは相当なものがあるであろうが、キャロもエリオもまだまだ子供とは言え、管理局のエース・オブ・エースと謳われる人物の訓練を受けているのだ。
そこいらの同年代よりも確りしているし、また、こういった現場での行動の仕方も、知識としてある程度は心得ている。
また、エリオの言うとおり、アルファードという同僚は、陸士訓練校を卒業後、機動六課にスカウトされるまでの二年間の間、災害担当の部隊に居たスバルやティアナとは違って、首都防衛隊という出動の頻度こそは低いものの、魔法を駆使する犯罪者との戦闘や、都市型テロ対策も想定されている、いわば武闘派と呼ばれる部隊で自らを磨きあげていたのだ。
こういった彼の背景も相まって、キャロは改めて憂いを払う事が出来たのであろう。
しかし、二人が貨物車両の10車両目辺りまで辿り着いたとき、それは突然起きた――――
「キャロ! 下がって!」
「え?」
エリオの叫びに、キャロは目を丸くして立ち止まってしまうが、その後ろで翼を羽ばたかせていたフリードが反応し、彼女が身に纏っているバリアジャケットの襟首を噛み、小さい体ながらも全身の力を使って後ろへと引っ張った。
そのお蔭で、キャロは尻もちを付いたように後ろへと倒れ込むが、瞬間、さっきまで彼女が立っていた場所が内部から強い衝撃を受けて盛り上がり、破裂させるかのように鉄板の足場が弾け飛んだ。
「っ!?」
フリードに尻もちを付かされたとは言え、彼女は最近の訓練で身に着けた咄嗟の判断で自身の前方に両手を翳して防御魔法を展開させて、飛び散ってくる鉄板の破片から何とか身を守った。
散弾の様に襲ってきた破片が止み、キャロが尻もちを付いていた状態から立ち上がって、傍らを飛ぶフリードと臨戦態勢を取ると、鉄板が弾け飛び穴が開いた場所から、6機のガジェット・ドローンがアームケーブルを展開させながら姿を現した。
6機のガジェットがキャロの行く手を阻む様に、走る貨物列車の速度に合わせて壁を作る……その先には、こちらと同じく、数機のガジェットと既に戦闘を行っているエリオの姿が見られた。
「エリオくん!!」
「大丈夫! それよりもキャロ! AMFの範囲に入る前に倒さないと、今の場所じゃ一気に不利になるから気を付けて!」
「うん!」
こちらに注意を促しながら、両手持ちで槍型デバイス“ストラーダ”を振い、一機のガジェットを落とすエリオに、キャロも目の前に集中しようと、フリードに牽制の攻撃をお願いする。
「フリード、お願い!」
「キュクルー!」
キャロの願いに答えたフリードは、口内から火の粉を漏れださせると、自身の手前に拳大の火炎球を作り出し、それを前方に浮遊しているガジェット群に向かって撃ち出した。
しかし、6機のガジェット群はほぼ密集隊形を取りながら魔法行使を妨害するAMFを展開させているため、その効力を底上げしており、フリードが放った火炎球はAMFの表面に波紋を広げながら形を失い威力を消失させてしまった。
だが、キャロもキャロで、エリオや他フォワードメンバーとAMF下での戦闘訓練を毎日の様に繰り返し受けている……故に、フリードが火炎球を再び二発三発と放ち、ガジェットの足止めをしている最中。
「我が求めるは、戒める物、捕らえる物」
得意の召喚魔法を行うために詠唱を始め、足もとに丸い幾何学模様の魔方陣を展開させる。
「言の葉に応えよ、鋼鉄の縛鎖、錬鉄召喚、アルケミックチェーン!」
そしてキャロが標的である6機のガジェット群に右手の人差し指を向け、詠唱を終えると同時に、貨物列車の側面に同じく二つの魔方陣が出現し、そこから無数の鎖が飛び出してきた。
無数の鎖は様々な軌道を描きながら標的である6機のガジェットを例外無く拘束する。
この鎖は魔法で召喚したものではあるが無機物であるために、AMFによる魔力行使の妨害に特に有効なもので、更に言えば一つ一つをキャロの意思で操作出来るために……。
「えい!」
キャロが真剣ではあるのだが可愛らしい掛け声と共に、ガジェット群を指していた右人差し指を下に振り下ろすと、鎖に拘束されていた標的も一気に下へと振り落されていき、そのまま走行中のリニアレールの壁面に叩きつけられ、凄まじい火花と共にボディを半壊させて機能を停止させていった。
「や、やった! エリオ君!」
外見の割に、意外と“えげつない”戦法を取ったキャロではあったが、自身の前を塞いでいた障害が取り除かれると共に、未だ一本の槍型デバイスで数機のガジェット群と戦闘を行っていたエリオに視線を向けた。
「いま援護するよ!」
「分かった!」
走行中の貨物列車の上という足場の悪い状況下ではあるが、数機のガジェットから伸びてくるアームケーブルを槍型デバイス“ストラーダ”で切り裂き、放たれる青い射撃は小柄な体型を活かした素早い動きで躱していたエリオは、キャロからの支援を行うという言葉に、目の前の敵に集中しながら答えた。
キャロの足下に、再び丸い桃色の魔方陣が展開される。
「フリード、ブラスト・フレア!」
使役竜であるフリードリヒ、通称フリードはキャロの指示に忠実に従い、再び先程の様に拳大の火球を開いた口の前に作りだし、それをエリオと交戦している数機のガジェットに打ち放つ。
一発、二発、三発と決して早くは無いが連射された火球が、両手でストラーダを構えたエリオの後ろから飛来し、中空を漂っていたガジェット群に回避行動を取らせた。が、それぞれバラバラに回避されたと思いきや、いつの間にか数機のガジェットはまるで箒で纏められたかのように一か所に集まっており。
「よし!」
『Stahlmesser』
その一瞬を狙ってか、ストラーダから男性の機械音声が発せられると同時に、エリオが一閃、二閃と両手で構えていた槍型デバイスを袈裟斬り・逆袈裟斬りと、流れる様に振るう。
刹那、その斬撃の軌跡に沿って発生した、彼の魔力変換資質である“雷”を纏った魔力刃が“X”の形を取って、一か所に集まっているガジェット群に迫って行った。
ガジェット群がエリオから放たれた魔力刃に対抗しようと、AMFの範囲の拡大を図るが時すでに遅し……一か所に纏まっていたガジェット群は、ただ一機を残して飛来する斬撃を消し切れずに切り裂かれてしまった。
空中でガジェットが破壊された事によって発生する無数の爆炎が視界を覆うが、エリオは冷静であった。
立ち昇る黒煙から、残された一機のガジェットが出てくるのと同時に、それを先読みしていたエリオが待っていたとばかりに槍型デバイスを敵のシルエットの中心に突き刺す。
魔力では無く物理的な刺突により、意図も簡単に正面から背面へと槍で貫かれたガジェットは、そのまま爆発を起こす事無く機能を停止させ、ただのスクラップと化してしまった。
エリオがガジェットからストラーダを引き抜くと、後ろからフリードを侍らしたキャロが駆け寄ってきた。
「やったね、エリオ君!」
現場の殺伐とした雰囲気には似つかわしくない、朗らかで無邪気な笑顔を浮かべたキャロが、エリオの左手を両手で包みこむ様にして握る。
これに振り向いたエリオは、照れ笑いを浮かべながらも「そうだね」と答える。
「だけど、まだ油断はしちゃいけない。大型のガジェットが残ってるんだから」
「うん、そうだね」
束の間、初の実戦で上手くいった事に喜びを分かち合った二人であったが、すぐにスイッチを切り替え表情を真剣なものへと戻す。
この辺は、まだ子供な所が見て取れるが、流石は既に現場の人間。切り替えの早さは一般の子供のそれではなかった様だ。
すると、タイミング良くエリオとキャロの耳に、指令室からの通信が入って来た。
『エリオ、キャロ、二人とも聞こえてる?』
「あ、はい。大丈夫です」
「私も大丈夫です」
互いの耳に直接入って来た、通信主任であるシャリオからの声に、二人が同時に反応する。
『9車両目にいた大型ガジェットの反応が動いたわ。二人とも、相手は今まで以上に固いから、注意してね』
「「はい!」」
普段なら初出動の二人の緊張を解す言葉の一つや二つ、軽い調子で掛けてくるシャリオも危機感を持った口調で注意を投げかける。
その意味を賢く理解している二人も、互いに頷き、正面を向き、次の車両である9車両目の足場に意識を向けた。
すると、その足場である屋根が突然、何者かの射撃魔法で突き破られる。
内側からの衝撃で外へと花咲く様に拉げた鉄の装甲……そして、その内側から現れたのは、二本の触手の様なベルト状の腕。
ベルト状の腕が、9車両目の残った屋根の足場に手を掛けると、更に中から通常のガジェットよりも比較的大型な、球型のシルエットをした機体が浮遊してくる。
さっきまで闘っていたガジェットとはまた違って、砲門と思われる眼の様なレンズが三つ中心に存在しており、明らかに火力も異なっている事を示していた。
これと対峙をした二人が、警戒心を最大限にまで高めて構えを取る……。
訓練では経験できなかった相手との初実戦に、二人の頬に一筋の汗が流れる。
「先に仕掛けるよ! キャロ!」
「うん!」
エリオが正面に槍型デバイスの矛先を向けた構えで、大型ガジェットへと仕掛けると同時に、キャロが両手に嵌めグローブ型のデバイスの宝玉を光らせた。
◆(2)
既に天井にまで届くのではないかと思われる程に積まれていたコンテナ群は、残骸や灰をまき散らしながら、所々の天井や壁面から外を望めてしまう様になってしまった車両内部に散乱している。
いや、それよりも今12車両目で注目すべきは、外に漏れ出ている大量の黒煙であろう。
おそらく中にいる者は、満足な視界も確保できていないであろう黒煙は、車両に開いた穴から徐々に流れ出て行くのだが、ある一定を過ぎると一気に晴れていき、中の様子を露わにさせた。
「……」
「はあ……はあ……」
無言でオーソドックスな打撃スタイルの構えを取りながら、正面を見据えている黒髪のザンバラ頭をしたアルファードに対し、身体のラインをハッキリと示していたボディスーツを所々焦がしたファクティスが、さっきまでの余裕の笑みを浮かべているのではなく、苦悶に口元を歪めながら彼と対峙していた。
右手で片刃の剣型デバイスを構え、反対の左手は破れたボディスーツから肌が露出していて、更にそこからは大量の血が流れ出ていた。また、左肩を痛めたのか、武器を構えている反対の手とは違って、ダラリと力なく左腕が揺れている。
どうやら、いくら犯人確保のためにアルファードのデバイスが非殺傷設定にしてあるとしても、爆炎による衝撃と熱に彼女の着衣や肉体が耐えられなかった様であった。
二人の距離は、およそ10m近くあるのだが、互いに警戒心は薄れておらず、いつでも相手の攻撃に対応できる間合いが形成されていたが、どう見ても15・6歳の発育の良い少女にしか見えないファクティスの方が劣勢だ。
すると乱れた息を直すかのように、一度深く深呼吸したファクティスが、アルファードの整った貌を見据えたまま、驚いたように口を開いた。
「凄いなぁ……左手で防ぐのが精一杯だったよ」
「……」
敵対関係にあると言うのに、相手を褒めるかのような口調であったが、その声音に最初の余裕はない。
「やっぱり、そういうのも“経験”しなきゃいけないんだね」
「……」
一方的に喋り、一方的に沈黙をするという光景が続く。
「最初は意外にすぐ殺せちゃうかなぁ……とか思ってたけど、中々難しいね、人って。実力はそこまで変わらないのに、一回のミスで全部持ってかれちゃった……」
「……」
「はぁ、はぁ……でも“もう覚えたよ、次は無いからね”?」
意味深な、されど勝ち誇った台詞を吐いたファクティスに、アルファードが容赦なく仕掛ける。
『Knuckle Shot(ナックル・ショット)』
彼が左構えで構えていた右腕を後ろへと絞り込むと同時に、両手足に装着されたデバイスから機械的な男性の声音が発せられる。
そして、アルファードが後ろに絞り込んでいた右腕の拳を握りしめ、全身バネとも思える動きでファクティスに向けて、10m近くも離れているというのに当たり前の如く右拳を突き放った。
刹那、その右拳から放たれた拳大の炎の塊が、直線状の軌道で剣型デバイスを右手のみで構えているファクティスへと猛烈なスピードで飛んでいく。
しかし、その彼が投げる炎のナイフよりも速いナックル・ショットは、傷つき消耗しているとはいえファクティスの右腕のみの剣閃によって切り裂かれてしまう、が――――(痛っ!)
外へと切り払うように裂かれてしまった炎の塊であったが、彼女の右腕に消し切れない衝撃を与えた。
(これ、威力もあるんだね……)
質量兵器である拳銃の弾丸と比べても差異のないスピードと、切り払っても衝撃で痛みを感じる程の威力。
これに警戒心を高めたファクティスであったが、更に第二、第三の炎の塊が直線状に飛来してくる。
どうやらアルファードのナックル・ショットという魔法は、彼のパンチの回転力を応用した連射も効く様であった。
無理に切り払うのは得策では無いと判断したファクティスが、言う事の聞かない左腕を揺らしながら、柔らかく、しなやかな身のこなしで、その直線状の魔法を躱していく。
時に身体の軸をぶらさずにスピンし、時に手も着かず側宙で難を逃れたりと、一種のサーカスの様な動きを見せるファクティス。
徐々に、徐々にではあるが避けながら距離が詰められていく。
しかし、回避行動をひたすら取っていたファクティスが、ボディスーツと繋がったヒールを地面に着地し損ねてしまい、体勢をぐらりと崩した。
瞬間、ナックル・ショットを無表情で連打していたアルファードが、一息で彼女との距離を詰める。
その爆発的な突進に驚いた彼女は、体勢を前に崩した状態ではあるが、肉薄すると同時に放ってきたアルファードの左ボディアッパーを受け止めるために、右手で持っていた片刃の剣型デバイスを体の正面に出す。
刃を向けた状態で防御として出された剣型デバイス……だが、アルファードは加速した左拳を止めることなく、お構いなしにその相手の腹部と拳の間に出された障害ごと殴り飛ばした。
剣型デバイスとアルファードの手甲が凄まじい衝突音を発すると共に、相手の肢体にその片刃のデバイスの“みね”部分がめり込み、もはやバランスを崩した両足では耐える事が出来なかった衝撃のままにファクティスは後ろへと吹き飛ばされてしまった。
連絡扉のある車両の壁に、殴り飛ばされたファクティスが背中と後頭部を強く打ちつける。
「がっ!?」
肺から一気に空気が漏れ、視界が一瞬、二重に歪んでしまうが、鉄の壁から弾かれ地面に何とか着地したファクティスは、すぐさま放さなかった剣型デバイスの切っ先を相手がいる方向へと向ける――――が、それよりも先に接近していたアルファードが、ファクティスの左米神を右フックで打ち抜いた。
魔力が込められた拳は炎を纏っており、彼女の顎から上を守っていたバイザーを一撃で焦がし、そして砕いた。
ファクティスの長い黒髪が揺れ、頭部が殴られた方向へと飛ばされる。
砕かれたバイザーの破片が宙を舞う中、アルファードの次打が放たれる……。
今度は左のレバーブロー。
これにより、ファクティスの右脇腹にアルファードの左拳が突き刺さる。
拳が刺さった個所を基点として、ファクティスの女性らしい体が“くの字”に折れ曲がる。
追撃、三発目は右のストレートだ。
流れる様なコンビネーションに、なすがままとなっていたファクティスであったが、奥歯を血が出る程に噛みしめ強引に体を前へと出すと、アルファードに抱き着く様にして迫っていた右ストレートを左頬に掠らせながらやり過ごした。
もはや右手に持っていた剣型デバイスを捨ててまでの防御……だが、右腕だけで抱き着かれた程度で動きを止めるアルファードではない。
彼は右腕をファクティスの細い腰に回したかと思うと、柔道でいう大腰を彼女に決めようとする……が、彼女は何と、アルファードが投げの動作に入ろうとした瞬間に、歯並びの良い口を大きく開けて、彼の左の首筋に思いっ切り噛みついたのだ。
「ッ!!?」
首筋の肉に彼女の歯が突き刺さるのを感じたアルファードが、痛みと驚きにより一瞬動きを止めてしまう。
その瞬間を、彼女は逃さなかった。
彼の背中に回していた右手を、すぐさま相手の腹部へと持ってくると、掌に魔力を収束させ、それを出鱈目に暴発させたのだ。
密着したアルファードとファクティスの間に、まるで大きな風船を破裂させたかのような、一瞬の爆発が起きる。
同時に、アルファードの首筋から歯を抜いたファクティスが自身の起こした爆発に吹き飛び、再び連絡扉のある車両の壁まで転がっていく。
しかし、いつまでも寝転がっていられる状況でも無いため、彼女は全身の痛みを無視しながら、右腕一本で上半身を起こすと、そのままふら付きつつも長い両足で立ちあがった。
視線の先には、魔力によって発生した彼女の炎の残滓が、鉄の床の上で燃え続けている……そして、その炎を境にした先には、ほぼゼロ距離で腹部に収束された魔力の爆発を受けたアルファードが、受けたダメージによって身体が思うように動かずとも、何とかうつ伏せの体勢から立ち上がろうとしている姿が確認できた。
これを好機と見たファクティスは、一・二度周囲を見渡すと、迷わず両足を走らせ始めた。
彼女が走る先には、今しがたの爆発の風圧で車両の壁際まで飛ばされていた片刃の剣型デバイスが落ちている。
その柄を、彼女は足を止めずに身を屈めただけで右手に取ると、そのままの勢いで、まだ立ち上がれていないアルファードへと走る足の回転速度を上げた。
「だあぁぁぁぁぁっ!!」
バイザーが砕け、露わとなった美麗な顔立からは想像できない雄叫びを上げながら、ファクティスは右腕に持った剣型デバイスを後ろへと振りかぶった。
この接近に気付いたアルファードが、たたらを踏みながらも立ち上がり、避ける事は困難と判断したのか両腕のガードを迷う事無く上げる。
そして、こちらの斬撃を受け切る事を選択した彼に、彼女は片腕による渾身の袈裟斬りを叩きつける様にして振り下ろした。
瞬間、アルファードは彼女から振り下ろされた炎を纏った斬撃を止めるために、ガードを固めた左腕に防御魔法であるプロテクションを展開させる……プロテクションは、触れたものに反応し対象を弾き飛ばす、物理防御に優れた防御魔法なのだが――――
「らぁっ!!」
「っ!?」
彼女の斬撃と、彼の防御魔法が衝突した瞬間、穴だらけの車両内にとてつもない轟音が響き渡る。
切るのではなく叩きつけたといった方が良い彼女の袈裟斬り……その片刃の剣型デバイスをよく見れば、先程のアルファードの左拳を受けたところ以外にも、一目見て分かる刃毀れが幾つも確認できた。
どうやら、彼の拳の威力によって強度が低下し、先の爆発で更に損傷を負った様であった。
故に、両手ならまだしも片手、しかも強引な彼女の斬撃は対象を切断するのではなく、破壊するといった方にベクトルが向いていたのだ。
だが、これによって単純な衝撃を受け止めきれなかったアルファードの体が、ぐらりと彼女から見て左に体勢を崩す。
ついでに、左腕のガードも吹き飛ばされていた。
袈裟斬りを振り切っていた彼女は、その隙を逃さんと、切り返しの逆袈裟斬りを相手の胴体に打ち込んだ。
刃は潰れはしたが、纏った炎に衰えが見られない剣型デバイスが、ぐらついたアルファードの右脇腹を薙ぎ払う。
「ぐうっ!?」
先の爆発のダメージが残っている腹部に強烈な打撃を受けたアルファードは、まだ踏ん張る力が戻っていない足を地面から浮かせ、そのまま既に外が吹き抜けとなっている、穴の開いた車両の壁の方まで弾き飛ばされてしまう。
外側へとボディが拉げた大きな壁の穴からは、流れる様に外の森林地帯の光景が過ぎ去っている……。
このままでは外に放り出されると気づいたアルファードは、強引に浮いていた、レッグアーマーを履いた両足を地面に戻すと、火花を散らせながらブレーキを掛ける。
焦げ付いた鉄の地面と足裏を擦らせながら、何とか止まろうとするが、腹部に残っているダメージや力の入らない足のせいでバランスを崩してしまい、思わず外へと通じる穴の方へと蹈鞴を踏んでしまう。
それでも尚、何とか足を止めて外への落下を防いだ彼に、再び片刃の剣型デバイスを右腕一本で構えているファクティスが迫る。
今度は切りつけるのではなく、まだ相手を貫ける切っ先を前にして、右腕を後ろに振り絞っている。
突きが来る……そう断定したアルファードは、穴を背にする状況から脱却するために、左へと体を動かそうとするが。
(っ!)
強引に足を動かそうとすると思うように足裏が地面から離れてくれず、上半身だけが左へと傾いてしまった。
何かに躓いてしまったかのように左へと崩れそうになってしまうが、ようやく動いてくれた左足が傾いた上半身よりも前に出てくれたおかげで無様な転倒だけは回避できた。
しかし、それと同時に既に距離を詰めていたファクティスの刺突が、アルファードの右胸へと突き出される。
避けられない……そう悟ったアルファードは致命傷だけは免れるために、更に態と上半身を左に傾け、ファクティスの突貫の勢いと全身の力を使った鋭い突きを右肩で受ける事を選択する。
身体が右半身になるほど限界まで突き出された彼女の刺突は、アルファードの右肩に刺さった瞬間、容易に彼のバリアジャケットと鍛え上げられた筋肉を貫き、纏っていた炎でそれらを焼いた。
刃先から鍔の方まで一気に突き抜けた彼女の剣型デバイス……だが、彼女も彼女で、全力の突貫を止められる程の力が足に残っておらず、そのまま右肩を貫いたアルファードに衝突してしまう。
右肩を焼かれながら貫かれ、突貫してきたファクティスの身体と不十分な体勢で衝突してしまったアルファードは、思わず堪えきれずに後ろへと飛ばされてしまう……。
彼は外へと貫通してしまった壁の穴を背にしていた。
故に、ファクティスとの激突に耐え切れなかった彼は、走行中の貨物列車から放り出されてしまう。
「くっ!?」
放り出される刹那、痛みに苦悶の表情を浮かべながらもアルファードが左手をファクティスの頭へと突き出す。
彼女も意図していないとはいえ、体当たりをしたままバランスを前に崩していたために、その突き出された左手は相手の頭部の髪の毛を鷲掴みにする。
道連れ……当初の任務を遂行できなくなるくらいなら、敵勢力の一人ぐらい減らせなければ割に合わない。
思考と言うより本能で動いたアルファードは、相手の髪の毛を掴んだ左手を思いっ切り自分の方へと引っ張り、無理矢理に彼女を自身と同じく車両の外へと引き出した。
外はそれなりの高度が有るために強風が吹き荒んでいる……。
そんな風にさらされている中、下に見える森林地帯へと縺れ合う様に落下している二人の目があった。
「あはは、風が強いね~……」
「……」
バイザーが砕け、頭部から出血の見られる彼女の笑顔は、この高度からの落下に死を覚悟している色が見られた。
無理もない、左腕は使い物にならず、頭部には強い衝撃を受けたために脳震盪によるダメージが残っており、更に言えば先のレバーブローで手ごたえを感じていたために、肋骨の二・三本は折れている筈だからだ。
だが、それよりもアルファードには、露わとなっていた彼女の顔立ちにどこか“見覚え”があった……しかし、今の状況下で頭の中に入っている記憶を辿る余裕は無いし、するつもりも無い。
何故なら、彼は彼女を道連れにしたとしても、まだ諦めていないからだ。
武装隊は何も、犯人を殺すために作られたのではない……犯人を捕らえるために存在しているのだ。
故に、彼はこの状況下で、如何に自分に有利な体勢で地面に落下し、如何に相手を死亡させずに無力化させるかを考えていた。
されど、無情にも縺れ合った二人の落下速度は上がっていく……。
そして、さっきまで下に広がっていた森林地帯の木々が、アルファードの視界にはすぐ傍までに迫っていた。
こっからようやく話が進んでいきます。
感想でもありましたが、この二次創作は話の起伏が来るまで長いです。
えぇ、私の力不足が全ての原因です。
仕方ないね……。
あと、戦闘描写に派手さが無いので、何かアドバイスを下さい。
リアルでは一応、極真で全日本に出た事はある程度の空手家なのですが(二回戦で他流派に本戦で負けるという情けない結果)、いかんせんそのせいか、想像力が凝り固まっている気がするんです。
“なろう”で書いているオリジナルの方は、別にそういう派手さは心配しなくていい世界観なのですが、魔法ものとなると話は違いますよね。
何かあったら、本当に何でもいいんで助言を一つ、よろしくお願いします。
ではノシ