海色の歌詞にある祈りを込めた一撃ってなんだろうって思ったの

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祈祷の一撃

 灰色の空に数多の艦載機や球体の飛行物体が飛び回り、熾烈な空戦を繰り広げている

その下では轟音と共に多数の水柱が立ち、細かい水滴がスコールのように水面へと降り注ぐ

 

『オノレ……オノレ! ガラクタドモメッ!』

 

 立ち昇る水柱の真ん中に黒い影が一つ

艶やかな肢体に長い黒髪と切れ長の鋭い目、湧きあがる怒り恨みを孕んみながらも落ち着き凛とした表情

傷だらけの体はもう自らの足では立てないのか、うなじから伸びたチューブで繋がった後ろにいる双頭の怪物の巨大な手に抱えられている

彼女は人間側からは戦艦水鬼と呼ばれている存在であり、大本営より奪還命令の出たこの海域を守護している最後の存在である

 

『アァ、ソウカ……ワタしハ、タだ、あノ人に……モう一度……ぁ』

『!?』

 

 戦艦水鬼の近くに控え、空を支配し共にこの海域を守っていた白髪の仲間、人間からは空母棲姫と呼ばれる存在が砲弾や敵機からの銃撃、雷撃の嵐に晒され水底へと消えていく

苛烈な嵐だったというのに、穏やかな声と最後に見せた微笑みを残して

 その姿を目の当たりにして戦艦水鬼の凛とした表情が遂に歪む

これで随伴していた艦はもういない

文字通り四面楚歌となったのだ

 

「貴様らにも仲間を想う感情というものはあるのだな。初めて見たよ、仲間の死に動揺する深海棲艦というものを」

 

 沈みゆく仲間に目を向けたのが仇となる

敵の声が非常に近いところから聞こえたのだ

 視線を先ほどまで向けていた場所へと戻す

誰も、何もいない

 

「ここだ」

 

 視線を下に下げる

彼女は聞こえた声が近いとは感じていたが、まさか目の前に立っていたとは思わなかったのだろう、切れ長の目が丸くなる

普段ならばただ前を見れば嫌でも視界に入るだろうが、後ろの怪物に抱えられ目線がいつもよりずっと高い位置にあるため気付かなかったのだ

 自らと同じような黒くて長い髪に凛とした佇まい

その敵は右手を彼女の顔の方へ掲げ、非常に静かな、凪いだ海のような目を向けていた

彼女は自らの死を悟る

 

『ヒカリが、見エル……。アナタは……ハィ、タだイま、帰投、シ……皆、ト』

 

 目の前にいる敵の背中にある艤装が火を吹く

砲弾が胸を貫き、視界が真っ白に染まる

彼女が最後に見たものは、彼女が何よりも愛していた情景であった

慈愛に満ちた微笑みを見せ、両手を大きく広げて彼女もまた水底へと消えて行った

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

「……作戦終了、提督に報告次第隊列を組みなおし帰投する」

 

 深海棲艦が消えたからだろうか、澄み渡った青空へと変わった空を見ながら私は周りへ指示を飛ばす

他の鎮守府とも連携して行った大規模作戦はこれで無事終了

各部隊からの報告によると私たちの鎮守府からは今回もまた犠牲者を一人も出さずに成功を収め、そしておそらく作戦を指揮した私達の提督の評価はまた上がる

本人は責任ある立場など提督業だけで充分だと言ってまた断るだろうが、昇進の通達が来るだろう

大本営……いや、国はどうも何度も深海棲艦から日本を守ってきた彼を英雄に祭り上げたいらしいから

事実、他の実績ある提督達はそうやって英雄としての階段を駆け上がりつつある

英雄というのは子どもが憧れる存在で、自ら戦地に出て敵を倒す者であり、女の子を戦地に送り出す者ではない

ウルトラマンや仮面ライダーがそうであり、俺じゃない

そう言っていつも断っている

 

「提督より伝達。みんなよく頑張った、間宮と伊良湖がご馳走を作って待っているから直ちに帰投しろ。とのことです」

 

 提督に連絡していた神通が周りにそう言うと歓声が上がる

私はその様子を見て苦笑いが零れる

今作戦は稀にみる大規模作戦であり、文字通り私達の鎮守府の総力を上げて挑み、それでもなお足りないので他の複数の鎮守府とも連携を取って作戦を遂行した

いつもなら誰かしらが間宮さんや伊良湖の手伝いをするのだが、今回ばかりは二人で全て行わないといけない

うちは深海棲艦との戦いが勃発した初期から戦っている最古参かつ今まで幸運にも誰かを失ったことはない歴戦の鎮守府だ

それゆえ所属する艦娘が非常に多い

大本営たる横須賀を除けば鎮守府一つに一人の提督というのが基本であり、その中だとおそらくここが最多の所属数だろう

それだというのにたった二人で所属する艦娘全員分の料理を作るとなるとその労力は凄まじいものになる

戦う者ゆえか大食いなのも多い

帰ったら感謝と労いの言葉をかけないといけないな

 

「隊列を組みなおすぞ、大破、中破者を中心に第二警戒航序列(りんけいじん)を組もうか」

 

 十二人による水上打撃部隊

今回敵の主力部隊を叩き潰すために編成された艦隊だ

皆それぞれ歴戦の艦娘達で、第一艦隊旗艦たる私の指示を聞くと素早く隊列を組む姿は誇らしい

 

「はぁぁぁ、やーっと帰れるわあ。忙しすぎて中々皆の顔見れんかったけど、元気やろか? うち好きやねん、皆で集まるん」

 

 隊列の真ん中で小さな背丈で大きく伸びをしながら一人の艦娘が言う

軽空母、龍驤

戦艦という艦種では私が鎮守府で一番初めに着任したので最古参になるが、それよりもずっと前から鎮守府を支えていた存在だ

 

「鎮守府近海の哨戒も他のところに任せるそうですからね、久々に全員が一緒です。……間宮さんと伊良湖さんは大変でしょうけど。私が手伝えればよかったのですが」

 

 そう言ってその隣で微笑むのは鳳翔

龍驤と同じく私よりも遥か前から鎮守府を支えていた軽空母だ

彼女や龍驤は単純な艦艇としてのスペックならば後に着任した空母達には及ばない

しかしどの軽空母、空母達も彼女達に頭が上がらない

もはや狂気と呼べる練度を誇り、長らく共に戦っている艦載機を操る妖精達も威厳を湛える

着任当時の一航戦の二人を実戦訓練で艦載機一機も落とさせずに一方的に叩きのめして完勝したという話は空母勢の誰もが震える実話だ

かくいう私も着任していくらか経った時に対空訓練で地獄を見た

ゆえに提督も私も非常に頼りにしており、今回の最終決戦でも文字通り空を制圧した

 

「長門も好っきゃろ? 皆が集まるん?」

 

 龍驤がぐるりとこちらを向いて話しかけてきた

周りにどんどん話を振って巻き込むのが彼女の長所であり短所でもあったりする

 

「そうだな、一家団欒という感じがして心が温まる」

 

 普段は誰かしらがあーだこーだと文句を言ったり喧嘩もしたりするが、やはり皆鎮守府の仲間が大切なのだろう

大規模作戦が終わった後に開かれる宴会は必ず全員出席し、そして笑っている

私が愛する光景だ

陸奥という可愛い妹はいるが、親も家族もいなかった私が思う家族の形がそこにあるからだ

 ……ふと、先ほどの戦艦水鬼の姿が頭によぎる

彼女は最後、何かしらの光景を見て何かを言っていた

否、『帰投』と確実に言っていた

彼女にも帰るべき場所がるのか、はたまたあったのか

空母棲姫が最後に言っていた『あの人』とは誰なのか?

彼女達は最後に何を、誰を見たのだ?

今まで特に何も考えずに戦ってきたが、深海棲艦とはなんなのだ?

 

「……どないした長門? 流石のあんたも疲労でグロッキーか?」

「いや、なんでもない」

 

 龍驤の声にいつの間にか下を向いていた顔を上げる

心配そうな龍驤の顔があった

頭を振って切り替える

考え事に耽って視野を狭めてはいけない

私は旗艦として皆の命を預かっているし、提督が私達の帰りを待っている

 

「それでは帰ろうか。残党がいる可能性もあるから気を抜くなよ。……大和、間宮さんのアイスが楽しみなのは分かるが最後まで集中しろ」

 

 私は若干浮かれた大和を注意し帰投の命令を出す

隊列が静かに進み始める

提督ならば私の疑問に対する答えとまではいかないが、何か知っているかもしれない

あの人は頭のキレる人だから

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 夜も深まり、ひんやりとした夜の春先の空気が開いた窓から食堂へと流れる

食堂の中はそれはもう酷い

途中寄港などをして無事全員が帰投したのは作戦終了から二日後、その後全員が入渠を済ませ、それぞれ制服から私服に着替えて揃った夜、提督の乾杯の音頭により宴は始まった

間宮さんと伊良湖が全身全霊を込めて作った和洋中入り乱れた大量の料理と様々な種類の酒が広がり、赤城や加賀は目を輝かせ、かつて豪華な食事というものを知らなかった秋月や雲龍型の三人などは夢じゃないのかと頬をつねっていた

普段は徹底して節制をしている私も酒を飲み、普段から飲んでいる呑兵衛達はいつにも増して浴びるように飲んだ

結果千歳や隼鷹は言わずもがな、普段は節度を持って飲んでいる陸奥や妙高、鎮守府一の蟒蛇(うわばみ)である武蔵までもが酔いが回ってぶっ倒れる始末

その他元々あまり強くない艦娘や、呑兵衛達に煽られて酒なんて飲まない者達も手を出して同じく目を回し、食堂の一角には死屍累々と呼べる地域が出来上がってしまった

おかげで片付けは明日に持ち越しだ

 

「いやはや、ひっでぇな。今襲撃されたら即全滅だ」

「ホント馬鹿ばっかよ。いつもなら誰かが部屋まで持っていくのに、今日はほとんど全員酔いと疲れで放置して部屋に戻ったわ。しかもまだ何人か飲んでるし。ていうかなんで間宮まで酔いつぶれてるのよ」

「いいじゃねえか、久々の全員集合だったしな。てか俺は遂に武蔵に勝ったんだが誰も褒めてくれないのか?」

 

 食堂の端で酔いつぶれて床に寝転ぶ多数の艦娘達を見ながら提督が苦笑いする

そう言いつつ右手にはウイスキーの入ったグラスを持っているので、この惨状を面白がってはいても怒るつもりはないらしい

その視線の先にいる霞は冷ややかな眼差しを酔い潰れ集団に送っているが、同時にどこかから持ってきた毛布を皆にかけていく

風邪でも引かれたら困るもの、と私の視線に気づいた霞は少し頬を赤く染めながらそっぽを向いた

 霞の言うとおり、食堂では目の前に惨状が広がっているにも関わらずまだ懲りずに飲んでいる者達もいる

イクやハチ、那智などだ

盛り上がる飲み会の空気に呑まれることなく、上手い具合に呑兵衛達を躱して自分のペースを守っていたのだろう

おそらくもうすぐ潰れるだろうが

 

「あなたも中々酷い状態だぞ?」

 

 私は隣の提督の顔を見る

少し切れ長の目のせいか、それともよく眉間に皺が寄っているからかは分からないが時たま悪人面と言われるが、部下という贔屓目を除いても整ってると言えるその顔はやはり酒が回っているからか少し赤い

そしてその顔や首筋のいたるところに赤く染まった顔よりも更に赤い部分がある

いわゆるキスマークと言うやつだ

最初は酔った金剛が付け、それを見た他の者達も負けじと続いた結果であった

とんだ淫行だと誰かが通報しても否定は出来ない状況であったが、ここの艦娘は私を含め普段の言動はともかく漏れなく彼を慕っている

嫉妬はしても通報はしない

そして、誰も唇にしなかったのは酔っても奇跡的に恥じらいが残っていたからか

 提督は私の言葉にため息をついた

 

「慕ってくれるのは提督冥利に尽きるし、男としては楽園だろうな。おかげで俺は毎日お前達を出撃させたくなくて苦しいが」

 

 艦娘達の容姿は皆整っている

そんな中に男一人で、そして何よりも皆が憎からず思ってくれているのだから確かに楽園かもしれない

だからこそ、提督の英雄観からも分かってはいたが、自分が前に出れないのが悲しいというか悔しいらしい

元々彼は提督としての『資格』を持っていた者の中では珍しく、当時はまだ見習いであったらしいがそれでも一応航空自衛隊所属の戦闘機乗りであったそうだ

ゆえに戦争当初の艦娘の数が絶対的に少なく、彼の先輩達が続々と殉死していく悪夢のような時期は自らの指揮下にあった艦娘、彼の初期艦たる吹雪達と共に戦闘機に乗って出撃していた過去もある

 

「……それで、長門。お前は何か俺に訊きたいことがあるんじゃないか?」

 

 提督はため息の後に突然悪戯っぽい表情になって私を見る

見様によっては何かを企む悪人の様だが、きっとただ私が胸の内に何かを秘めているとあっさり見破って驚く顔が見たかっただけだろう

この人はこうやってたまに子どものような顔をする

 

「まぁ、ありますが……せっかくの祝いの席でこんな質問をしてもいいのかどうか」

「無礼講だぞ? なんなら俺のスリーサイズでも教えようか、知らねえけどな」

 

 提督の言葉に私は少し笑う

この人はいつもこんな感じで皆の、私の表情をほぐすんだ

 

「あ、真面目な話なら少し待ってくれ。服を正す」

「あなたは式典以外いつも着崩しているじゃないか」

「お前の話は式典並みに大切だってことだ」

 

 提督は立ち上がり、襟を正してシャツを入れる

いつもだらしなく着崩して私が威厳が無いから正してくれと言っても直さないというのに

少し拗ねたように、皮肉っぽく、服装は気にしないと私が答えるとそう言ってウィンクをしてきた

悪人面にされてもときめかないし似合ってもない

……私には効くが

 

「最後に倒した戦艦水鬼が散り際に、幻か何かを見て微笑みながら誰かに何かを呟いていたんだ。その表情が本当になんとなくだが……」

「うちの鎮守府にいる子達を見守るお前に似ている気がした、か?」

 

 普段はっきりと物を言う私にしては歯切れが悪く、捻り出したような言葉を提督が引き取って最後まで言う

ハッとして彼の顔を見つめる

……なぜ、分かったんだ?

 

「俺だって結構な交戦経験あんだぞ? 流石に水鬼はねえけど」

 

 間違いなく見開いているであろう私の目を見て提督がまた悪戯っぽく笑う

提督はきっと誰よりも私達を見ている

深海棲艦と戦いながら、あるいは私達を送り出しながら、見てきたことについてずっと考えていただろうか

気付いたら私は今回あったことと思ったことをポツポツと話しだしていた

 

「俺達が鬼だ姫だ水鬼だとか呼んでる存在はな、初めは戦場にいなかったんだよ。ある程度時間が経ってから、突然現れるようになった」

 

 話を聞き終わると私の顔を真っ直ぐ見つめ返して提督は話し始める

 

「最初は皆新兵器とか進化したル級とかなんかそんな感じの何かかと思ったんだよ」

 

 チラリと提督はまだ飲んでいる者がいる方を見る

イクが酔いつぶれてテーブルに突っ伏して寝ているが、他はまだ飲んでいた

霞がイクにも毛布をかけて、奥から鳳翔がつまみを持ってくる

……まだ飲むのか

というか霞は酒を飲まないのにあれに付き合っているのか

 

「うちで初めて交戦したのは、まだ食堂に残っているメンツなら霞と鳳翔だな。見事にボコられて帰ってきたよ。よく全員生きて帰ってきてくれたもんだ」

「……今では考えられないが」

 

 二人とも最古参組にして現在鎮守府で最も練度の高い部類に入る歴戦の猛者だ

霞に至っては中破以上になった姿をここ最近は全く見ていない

大規模作戦の前線に一緒にいたのにだ

 

「あいつら同じ見た目してても個体それぞれで明らかに戦闘スタイル変わったりするだろ? 艦娘みたいに(・・・・・・)

「!」

 

 今回戦った戦艦水鬼は主に後方で指示を出しながら要所で攻撃を仕掛けてくる、謂わば指揮官の動きをしていた

間違いなく奴が旗艦だったから別段それが不自然には思わなかったが、そういえばまた別の時に戦った戦艦水鬼は旗艦でありながら自ら前線に突撃してくる好戦的な性格をしていた

 艦娘もそうだ

私は旗艦だろうが旗艦じゃなからろうが基本前線にいる

勿論旗艦であるなら指示も出すし周りの戦況を見ながら動きを変えるが、細かいところは補佐してくれる、今回なら鳳翔に任せていた

しかし、他の『長門』が必ずしも私と同じような形で戦闘を行うわけではない

後方で指示を飛ばすことに重点を置いて動く長門もいるし、動き回りながらひたすら砲戦を行っている長門もいる

装甲の厚さにもの言わせて近接戦に持ち込む長門も知っている

 しかし……

 

「個体によって個性があるというならば、ヲ級やル級の上位種やレ級にも言えることではないのでしょうか?」

 

 確かに多くの深海棲艦はまるで戦闘がマニュアル化されているかのように皆似た動きをする

あくまでも似ているだけであり全てが機械のように同じとは言えないが、何かに対処する場合の対処法はいくつかのパターンで別けられるくらいには持っているアイデアが少ない

 しかし、一部の深海棲艦は水鬼などと同じだ

戦況によっては柔軟な、あるいは突拍子もない行動を行うことは度々ある

特にレ級なんかは雷撃が大好きな奴や砲撃が大好きな奴など個体によって極端に変わる

 

「そうだな。だからお偉いさん達は一部の上位種や鬼以上の存在は沈んだ艦娘、もしくはそれに関連する何かが成ったものだと考えている。さっきも言った通りあいつらは最初いなかったからな。登場した時には艦娘も提督も、世界中でそれぞれ轟沈や殉職の報告がそこそこあってからだ」

 

 思わず息を呑む

ならば私は今まで、そして今回も、沈んだ艦娘達を葬っていたのか?

 

「あくまでも上位種に対する推測の一つだ。駆逐イ級とかは上もアレなんなんだよ状態だな、一番よく見るのに」

 

 私の強張った顔を見てか、提督は表現としてはおかしいが一番身近と言える深海棲艦が一番謎だ、と肩をすかして乾いた笑みを浮かべた

 

「提督も……同じように考えているのですか?」

「いいや、ちょっと違う」

 

 私の問いに提督は間髪入れずに首を左右に振る

少し、とはどういうことだろうか

 

「深海棲艦に沈められたら深海棲艦になる、なんてことはねぇだろうな。そんなゾンビに噛まれたらゾンビになる方式だったら今頃日本は壊滅してる」

「ではどう考えているのです?」

 

 もったいぶった話し方で焦らさないでほしい

いつもならおとなしく聞いているかもしれないが、今日は私も酒が入っている

 

「そうだな、全部とは勿論言わないが、鬼だとかそんなの関係なく一部の深海棲艦は沈んだ艦娘の記憶とかなんかを引き継いでると俺は考えてる」

 

 今度はあっさり結論を言った

まるで天気の話をするように、サラッと

 

「深海棲艦は幽霊みたいなもんだ。海に呑まれた人や物やそれらに関連した何かが持っていたネガティブな想いが形となって現れた存在だと思うな俺は。そしてそれは艦娘の想いも例外じゃねえよ。世界中に戦況の都合上見捨てられた部隊、泊地もあったし、俺らが助けに行って救えなかった子達もいる。上や無茶な命令を出した自分の提督を恨みながら沈んだ子なんて結構いるだろう。個人的にうちでは供養しているが、あくまでも俺らは他人だし、間に合わなかった無能な増援と恨まれている場合もあるだろう」

 

 提督の言葉に唇を噛む

確かに私達は救援要請を受けて向かったが間に合わなかったこともあるし、合同作戦の際に共に戦った子が轟沈してしまった経験もある

今回の作戦ではどの部隊でも犠牲者は出なかったようだが、前回の大規模作戦では一度共に戦った鎮守府の子が数名沈んだと聞いている

苦い記憶だ

必死に助けに向かった先にいたのが深海棲艦だけだった時の哀しみは

 それに私も今後沈む可能性はあるし、その際誰かを恨まず、未練なくして散るかどうかは分からない

いや、おそらく未練は残すだろう

私はずっとこの皆といる生活を送りたいのだから

そしてそのような想いがあのような存在を生み出すのだろうか

 

「例えがアレだが、漫画とかでは懸ける想いが強いと良くも悪くもそれに呼応して強くなるってよく言われる。これはおそらく正しいだろう。強烈な想いを持って沈んだ、死んだ存在が多少の記憶を持って深海棲艦の上位の存在に生まれ変わる。長門、お前が今回倒した戦艦水鬼もそんな存在なんだよ、きっと。空母棲姫が沈んだ時動揺したのは生前も仲間だったからかもしれないな」

「では……『あの人』とは?」

「さあな。穏やかな顔をしてたんだろ? だったら提督や仲間が迎えにきたのかもしれないな。いや、そうであってほしい」

 

 グラスに残っていたウイスキーを呷り、提督は少し悲しそうな目をしてそう言った

必ずしもゾンビ方式ではないだろう

そう言ってはいたが、それでももしかしたらかつて背中を合わせて戦った誰かを今度は自分達が撃っているのかもしれない

仕方ないとはいえ、良い気もしない

せめて倒した後に救われるという、都合の良い考えでも抱いていないとやっていけない

そういう目だ

 

「俺はずっと考えてたんだ。だからこそ、最初期はどうにも出来なかったが、ある程度慣れてきてからは絶対にうちから轟沈者を出さないように作戦指揮をしていたし、一緒に戦う他のところも守ってきたつもりだ。……前者は運良く上手くいってるが、後者は中々どうして上手くいかないがな」

 

 提督は食堂を見渡す

釣られて私も見渡すと、相変わらず酔いつぶれた者達は床の上で寝息を立てているし那智達は飲んでいる

鳳翔と霞の二人と目が合った

この二人も私と同じ質問をしたのだろうか

それともなんとなく同じような考えに至ったのだろうか

はたまた何も考えていないのだろうか

二人は何故か私に微笑む

心配するな、大丈夫だから

何故かそう言われた気がした

 

「戦争は今後も続く。今のとこ終わりは見えねえし、勿論この先も深海棲艦を沈めていくだろう。せめてお前が今回倒した戦艦水鬼のように、最後は誰かの元に『帰投』出来るように祈るしかないな」

 

 今まで多くの深海棲艦を沈めてきたが、あんなに穏やかな顔をして沈んでいった深海棲艦を私は見たことがない

それは提督も分かっているだろう

あの二人が特別だったのだ

きっと生前、私達のように提督や仲間から大きな愛を受けていたんだ

沈んだ理由も深海棲艦になった理由も分からないが、悲しい何かが起きた結果に違いない

 

「……そうですね、せめて安らかに眠れるように」

 

 あくまでもこれは提督の一つの仮説にすぎないが、私もそう願わずにはいられない

私達艦娘は戦争のために生まれた軍艦という兵器の魂を持つ存在だ

それなのに平和や安寧を願うのはおかしいかもしれない

きっとまたすぐに深海棲艦を沈める日々になるだろう

せめて安らかに、愛する人の元へ逝ってくれ

何かおかしい、矛盾したような、そんな願いと祈りを込めた一撃を今後私は彼女達に撃ちこむのだろう

 提督が静かに私の肩に腕を回した

寄りかかり目を瞑る

終わりが見えない戦いもこの人と、ここの仲間達と一緒なら大丈夫

数多の戦場と海を越え、私達は錨を降ろすことなく進むしかないのだ




 冒頭の深海棲艦側の編成のイメージは春イベE6ですが、私の艦隊で戦艦水鬼さんのトドメを刺したのは長門ではなくて夜戦で霞でした
ローマ?
すいません、俺はユーヴェが好きなんです

 あと深海棲艦についてですが、当たり前ですが独自の設定ですし、多分作中の提督が言ってる仮説も作中の世界観の真実的に正しいのかと言われれば半分正解で半分不正解だと思ってます

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