イタリアで深海棲艦のレジスタンス活動をしている傭兵、ジャック・バッティにとってそれはまたとない大きなビジネスチャンスだった。
「ある企業の敵拠点へ戦力を輸送する仕事か」
自分の右腕と認める男が先ほど持ってきたこの話。
ジャックは当初訝しみながら話を聴いたが、部下が調べた話を聞いて更に眉を顰めた。
「どうやらこの元鎮守府を改装した企業は最近になって稼働したようで。海軍の鎮守府欄には登録されていませんが、企業、会社として運営されているようです」
「つまり、海軍のゴロツキか野盗崩れが宿代わりに使ってるだけか?」
「いえ、それが、深海棲棲を打破し得る戦力が存在することもまた事実です。リーダー、これを」
渡されたタブレットには黒い軍服を着た少女が映っていた。
当初こそ海軍の鎮守府の代名詞とも言える艦娘かと思ったが、どうも様子が違う。
なぜなら海軍の主戦力である艦娘は主に背中部分に艤装と呼ばれる装備を背負っているが、画面上の娘は何も装備していなかったからだ。
しかし、その代わりに胸、肩、腕、脚部分に全く見たことのない装備が取り付けられていた。
いや、装備というよりはアーマー。
敵の攻撃から身を守る鋼の鎧。
「なんだ……これは」
「企業の社長を名乗る者からの情報ですが、ネクスト娘空と呼ばれる、艦娘とは別の存在なのだとか。彼女達の他にもノーマル娘鴉という戦力もあるそうです」
更にシーンは進む。
格納庫に置かれていたPDW程の大きさの黒い兵器を右手に、左手には腕を覆う籠手の様なものを嵌めていく。
そして背中に折り畳まれた小型の装置をドッキングする。
『アリーヤ、出撃準備完了です』
自分をアリーヤと呼んだ少女はつい、と隣を見やる。
そこには黒い少女と打って変わって、水色のマフラーをたなびかせた少女が。
彼女もまた形こそ違うものの、胸、肩、腕、脚部に水色の装備を取り付けている。
そして手に持っているのは連装砲とも機銃とも似付かない異形の兵器。
『アクアビットちゃん!コジマ粒子準備万端っ!いつでもいるよー!!』
水色の少女はアクアビットというらしい。
天真爛漫な笑顔で傍の少女に笑いかける。
『分かりました。それじゃあ、行きましょう』
格納庫の隔壁が開き、2人の少女が大空を背景に立った。
すると彼女たちが背負った兵装から緑色の粒子が漏れ、青白い光がその背丈を覆う。
そして次の瞬間少女達の姿が掻き消えた。
「……あー、いかん。俺ももう歳かな」
私の目にはさっきまで画面に映っていた少女2人が瞬きした間に消えたように見えたんだが。
「いえ、リーダー。消えたように見えますが、単純に膨大な推力で前方へ直進しただけのようです」
「なん……だと……」
レオンの言葉を俄かには信じられなかった。
しかし画面が格納庫のカメラから少女達の視点に切り替わったことでソレが真実だと知れた。
「な……」
愕然とした。
少女達は戦闘機と見紛う速度で海を駆けていた。
景色はグングンと加速して少女達がどれだけ非常識な存在なのかが容易く見れた。
『敵艦視認しました。交戦に入ります!』
遥か向こうにポツンと見える黒い点が、数秒後には2、30メートルまで距離を詰められる。
海面に浮かぶ深海棲艦は突然の強襲に慌てふためき、まともな迎撃態勢も取れないまま黒い少女の左手から伸びた紫色の斬撃に両断された。
『コジマァバーストー!』
打って変わって水色の少女が撃った緑色の光が直撃。
深海棲艦がいた海面は蒸発した。
「………嘘だろ?」
「編集などの細工は見当たりませんでした。全て事実です」
レオンは実直さを絵に描いたような男だ。
そんな彼が嘘をつく筈など俺も思ってはないさ。
「リーダー。彼らと契約を結びましょう。我らにとっても彼らにとってもメリットはあります」
「聞こうか」
「まず彼等の戦力のネクスト娘空。ノーマル娘鴉は海上での展開力は艦娘を凌ぎますが、元々水上だけでなく地上や地下施設などの戦場を選ばない汎用性を特化させているため、艦娘に比べると長時間の海上運用は得意ではないと思います。その為に我々にコンタクトを取ったのではないかと」
成る程、その為の輸送手段か。
艦娘よりも遥かに機動力や戦闘力が上であっても海上を戦うように出来ている艦娘と海上でも運用は可能なネクスト娘空、ノーマル娘鴉では運用にも違いはある、ということか。
推力はズバ抜けてるが、使ってる……エンジンか?或いはジェネレータの燃料が切れた場合艦娘と違って浮き続けることは出来ないのだろう。
それを補う為に作戦領域までは輸送ヘリを使って推力を温存する……ということか?
「成る程、面白い」
執務室
「そういえば。アンタ、なんで輸送ヘリなんかを用意するわけ?ぶっちゃけネクストのジェネレータなら息切れ知らずでしょ?」
「え?だってV系のACつったらヘリ移動が当たり前じゃん。それ以外なんかある?てか輸送程度だったら普通にスティグロ使うわ。ブレード光波で撫で斬りにして鬼も姫も体当たりバーンで一発じゃん。分かるか?こういうのは雰囲気なんだよ。雰囲気。想像してみろ。輸送ヘリ内で待機するノーマル娘鴉もいれば輸送ヘリに対して迎撃態勢の深海棲艦をヘリに吊られながらオートキャノンやガトリングを撃ちまくるノーマル娘鴉もいる。分かるだろ!?最っ高じゃん!凄えー絵になるじゃん!だったらやるしかねえじゃん!つーかやらなきゃダメじゃん!!」
「アー。うん。もうそれで良いわ。ウン、もう喋んないで」
「更にこの会社。どういう金策をしてるか知りませんが、かなりの資金を持っているようです。契約金もかなりの額を提示されました」
そう言ってレオンは一枚の紙を広げた。
その紙に書かれている額はまるで小国の国家予算。
思わず目をゴシゴシと何度も擦って確かめてしまう。
「…………コイツ、正気か?」
信じられん。
一介の傭兵、それもたかが輸送程度の仕事にこれほどの額を回す馬鹿がいるのか。
「それに、彼等と協力関係になればこの鎮守府の戦力を逆に此方も利用出来るかもしれません」
「ああ」
「そうなれば膠着状態のイタリア戦線も容易く押し返すことが可能でしょう」
レオンの言いたいことは分かった。
俺にもそのビジョンがーーー輸送ヘリから投下されたネクスト娘空、ノーマル娘鴉がイタリアに巣食う深海棲艦どもを叩き潰して回る光景がありありと見えた。
そしてそれは、そう遠くない未来であることが。
「リーダー。俺はこの案件、絶対に成功させるべきだと思います」
ほう、いつも冷静なレオンらしかぬ興奮した表情、相当入れ込んでるな。
「分かった。先方にも此方が契約を結ぶ気が十分にあると伝えてくれ」
「はい」
「欲を言えば輸送手段と引き換えに彼方の戦力を幾らか貸与して欲しいんだが。今は無理だろうな」
レオンも小さく頷く。
圧倒的な戦力を持つとはいえ、自分たちを優先するのは当たり前だ。
ましてや此方はまだなんの信頼も得ていない。
これから少しずつ信頼を積み重ねるしかない。
「契約は結ぶ。ただし、島へのルートを確保することが条件だと伝えてくれ」
「分かりました」
レオンは頭を下げると早足で部屋を出て行く。
さて、私の方も輸送ヘリのパイロットを選別しなければならない。
相手も納得するベテランを起用しなければならんだろうな。
だとすれば、暇だ暇だとバカンスを決め込んでる我が社きっての幸運の男でも派遣するか。
「……それに、イタリアはまだ戦線が不安定。なら、あの娘達も共に預けた方が良いかもしれんな」
「お、返信来た」
転生して2日目。
昨日送った契約依頼に対してジャックパパの会社から『こちらこそ宜しく。ただね、輸送ヘリを送る為のルートをそっちで確保してくれない?』っていう条件が来た。
まあ、それはそれで分かってたことだし一応強引に航路を開かせる方法もある。
「ただ今は領地奪取が先決かな。そっちの準備もあることだし」
キャロリンに聞いたけど大型建造の部類に入るからアレを建造すんのにかなりの資源がいるってんだよねー。
まあ、速度はカテゴリー中最速だから燃料を多めに資材突っ込めば作れる訳で、その大量の燃料を手に入れるためにこれから油田を攻略するのだが。
ふ、と机に置かれた端末を操作する。
画面上から編成のボタンを、編成人数など艦娘にはあろうが、山猫と鴉にはその概念など無いに等しい。
しかしその欄には未だ3つの名前が寂しく残るのみ。
されど一つ、2人からまた1人増えた。
当初こそ期待していた娘空ではなかったが、彼女もまた、それを補って余りある装備を持ってきてくれた。
その生い立ちが所以か、アリーヤにひっつき過ぎていて、他者にはーー俺に対してもーー冷めた感情を向けるきらいがあるものの、彼女もまたネクスト娘空であり、その速さは風見自身、ゲームを通して知っていた。
「今回はアリーヤ。アクアビット。そしてライールの3人に行ってもらう」
TYPE-LAHIRE
4の主人公、アナトリアの傭兵に壊滅に追い込まれた新興企業レイレナード社から生き残った技術者をオーメルサイエンスが取り込み、アリーヤの性能を受け継ぎつつもホロフェルネスの特性を残し、軽量化させたオーメルの新しい標準型ネクスト。
F-1カーに似たアリーヤとは趣を異にした戦闘機を彷彿とするそのアンバー色のフレームは空力抵抗も優れている。
その彼女だが、利発そうでいて実に冷めた目をしていて、クールな娘なのかな?と思ったら居合わせたアリーヤに凄くべったりというなど、非常にキマシタワーな性格をしている。
レイレナードの技術を用いて開発された後継機故の性格なのかもしれないがーーー実にイイと思います、ハイ。
因みに武装はレザバズとオーメルショットガン、PM四連ミサに近距離レーダー、更に横追加ブースターと、肩武装以外は仮想ラトナに負けず劣らず最新兵装ばかりでかなり良し。
しかしながらやはり横追加ブースターは害悪である。
そもライールは軽くてQB性能も高いのだから横追加ブースターは不要。
寧ろ燃費の悪化に繋がるしヴィジュもあんまと思うので着任早々即取り外す。
その際に、
「……チッ」
とゴミを見る目で舌打ちされた時のあのゾクゾク感(白目)自分の性癖の一端が……むしろ新しい世界への扉が開いた瞬間だった。
「いずれはレザバズも外して霧影みたいなアセンにしたいな。両手ショットガンと3連ロケで」
フレームも両者同じ軽量機だし、テクノロケットは1.30から魔改造されるからフォグシャドウを凌ぐ強さになるかも知れん。
んで外したレザバズと今度開発しようと思ってるあの師匠の背部兵装をアリーヤに搭載すれば………と考えていたところでアリーヤたちが油田基地に強襲を仕掛けるとの通信が入った。
『こちらアリーヤ。敵をレーダーに捉えました。情報を送ります』
戦闘モードに移行した端末上に敵のデータが映し出される。
駆逐イ級をベースに陸戦型の改造を施された歩兵い級、歩兵ろ級が大勢に砲兵ち級もいた。
コイツらは多分アーマードコア要素が増えたがための戦力調整とか領地戦開始のための措置だろう。
数もさることながらこちらの戦力は3人だけ、それでも俺はアリーヤたちが苦戦を強いられるとは思えなかった。
唇を舌で湿らせ、開いた目を獲物を刈り取る山猫のように細めた。
「全ネクスト。敵情報を更新。ーーーー敵部隊を殲滅せよ」