昔々あるところにマドルチェという小さなお菓子の国がありました……
遊戯王の二次創作ですがデュエルはありません
短編ですのでお気軽にどうぞ

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登場人物

プディンセス・・・・・・マドルチェのお姫さま。おてんばな女の子。
マーマメイド・・・・・・侍女。真面目な性格で姫のことをいつも心配している。
エンジェリー・・・・・・プディンセスの幼馴染。おっとりとしている。
マジョレーヌ・・・・・・プディンセスのお姉さん分の魔女。竹を割ったように明るい。
シューバリエ・・・・・・姫のお気に入りの騎士。いつも踊りの相手をさせられている。
バトラスク・・・・・・・シャトーで働く使用人。シニカルな笑い方が印象的。
メッセンジェラート・・・元気な郵便配達人。最近はフェスタの招待状を配るのに忙しい。
ティアラミス・・・・・・マドルチェの心優しき女王。ハッピーフェスタを企画する。

ミィルフィーヤ・・・・・マドルチェの住人その1。
クロワンサン・・・・・・マドルチェの住人その2。
ピョコレート・・・・・・マドルチェの住人その3。
メェプル・・・・・・・・マドルチェの住人その4。
ホーットケーキ・・・・・マドルチェの住人その5。



はじまり、はじまり……

1 クィーンマドルチェ・ティアラミス

 

 昔々あるところにマドルチェという小さなお菓子の国がありました。マドルチェの住人はみんな優しい心を持っていて、お互いに助け合いながら平和に暮らしていました。

 マドルチェの女王ティアラミスはそんな住人たちを深く愛していました。そしてみんながいつまでも楽しく笑っていられますようにと、まつりごとに心を砕いてきました。彼女もまたマドルチェにふさわしい優しい女王だったのです。

 ある日のことです。ティアラミスは玉座で考えごとをしていました。平和なのは素晴らしいことですが、ともすればそれは退屈になりがちなものです。マドルチェのみんなのために何か楽しいことはできないかしら。ティアラミスは難しい顔をしていましたが、しばらくして良いことを思いつきました。

 このシャトー(※お城のこと)に住人たちを招いて、おいしいお菓子をふるまうのはどうでしょう。さくさくミルフィーユ。色とりどりのゼリー。まんまるホットケーキにはメープルやマーマレードを添えてもいいでしょう。もちろんティラミスも忘れてはいけません。それから、それから……。

 おいしいお菓子を食べればきっとみんな喜ぶはずです。考えれば考えるほどティアラミスにはそれがいいアイディアのように思われました(※決して自分が食べたいからではありません)。

 そうと決まればさっそく準備に取り掛からなければなりません。どんなお菓子を出すのか執事のバトラスクと相談しなければいけませんし、チケット(※招待状)も用意しなければいけません。配達はメッセンジェラートに頼むことになるでしょう。

 さあ、忙しくなりそうです。ティアラミスは立ち上がり、ふと肝心なことを決めていないのに気がつきました。この催しの名前です。ティアラミスはまた難しい顔になりました。国のお祭りなのだからマドルチェは必要として、あとはみんなでお菓子を食べながら楽しく笑い合うこと。こういうのを何と言ったでしょう……ハッピー! そうハッピーです。

 こうして近日、「マドルチェ・ハッピーフェスタ」というお祭りがシャトーで開かれることになったのです。

 

 

2 マドルチェ・プディンセス

 

 窓から差してきた光に照らされて少女は目覚めました。きらきらと輝く金色の長い髪が可愛らしいこの女の子はマドルチェの王女、プディンセスです。プディンセスはもぞもぞと起き上ると寝ぼけ眼で辺りを見回し、ベッドの脇にメイド服を着た女が立っていることに気がつきました。

 

「おはようございます、姫」

 

 ぺこりと頭を下げる彼女はマーマメイド。お城で働くメイドさんであり、プディンセスのお世話係兼教育係でもありました。

 

「うー、もうちょっと寝る」

 

 マーマメイドの朝のあいさつに、プディンセスは再び寝ころがり毛布をかぶりました。二度寝を決め込もうとしたのです。

 

「いけませんよ、姫。ちゃんと起きないと」

 

 ゆさゆさ。ゆさゆさ。マーマメイドがプディンセスの体を揺すりますが、彼女は起きようとしません。強情なプディンセスに、しかたのない子ですねとマーマメイドはため息をつきましたが、しかし彼女の表情は柔らかいものでした。マーマメイドはかわいいお姫さまの世話を焼くのが大好きだったのです。

 

「そういえば今日の朝食はフレンチトーストです」

 

 ぽそりとマーマメイドが呟きます。するとプディンセスの体がぴくりと揺れました。フレンチトーストはプディンセスの大好物なのです。

 

「でもおねぼうさんは食べそこねてしまうかもしれませんね」

 

「起きる」

 

 マーマメイドの意地悪な言葉に慌ててプディンセスが起き上ります。マーマメイドはくいんしんぼうなお姫さまを見てくすりと笑いました。マーマメイドに手伝ってもらいながら、プディンセスが顔を洗い、お気に入りの真っ白なドレスに着替えると、マーマメイドはドレッサーの椅子を引きながら言います。

 

「さあ、姫。こちらへ」

 

 その声にプディンセスはいそいそとドレッサーの前に座ります。するとマーマメイドはブラシでプディンセスの寝起きで乱れた金髪を優しく梳かし始めました。プディンセスはこうしてマーマメイドに髪を梳かしてもらうのが大好きでした。マーマメイドは、プディンセスの髪をすっかりきれいにすると、髪型を整え、最後に銀色のティアラを頭に載せました。

 

「どうですか、姫?」

 

「ばっちりよ」

 

 プディンセスがマーマメイドににっこり笑いかけます。今日もプディンセスの一日が始まりました。

 

 

3 マドルチェ・エンジェリー

 

 プディンセスが朝食をとりに広間へ降りると、ゆるふわウェーブのロングヘアーをした少女が食卓についていました。少女の名前はエンジェリー。シャトーで暮らすプディンセスの幼馴染です。

 

「おはよう、プディンセス」

 

 エンジェリーがふわりと微笑みながらそう言いました。エンジェリーのほわほわとした声を聞いているとまた眠たくなりそうです。おはようと返事しながらプディンセスが席につくと、マーマメイドが朝ごはんを運んできました。使用人のバトラスク特製のフレンチトーストです。ふわりと甘い香りが漂ってきます。

 プディンセスはさっそくフレンチトーストを一口食べてうなりました。百点満点の味です。プディンセスは皮肉屋のバトラスクのことが苦手でしたが、彼の作る料理は大好きでした。一口、さらにもう一口。口の中を甘いフレンチトーストでいっぱいにしながらプディンセスは幸せそうな顔をしました。

 そんなプディンセスの様子をマーマメイドは複雑な気持ちで見ていました。幸せそうな顔のプディンセスを見るのはマーマメイドにとって至福のひと時ではありますが、今は喜んでばかりもいられないのです。

 見てください。プディンセスはお世辞にも上手とは言えない食べ方をしているのです。エンジェリーはテーブルマナーを守ってきれいに朝食をとることができているのに、プディンセスときたら、ぽろぽろとたくさん食べこぼしをしてしまっています。テーブルマナー以前の問題です。

 

(ああ、姫……食べかすが頬についています……)

 

 普段からマーマメイドはプディンセスに「マナーに注意するように」と口を酸っぱくして言っているのですが、いっこうに改善の兆しは見えていないのが現状でした。以前このことをバトラスクに相談すると、「君が姫様に甘すぎるからダメなのさ」と呆れられてしまいました。マーマメイド当人としてはそれなりに厳しくしているつもりなのですが、彼からするとなっていないらしいのです。

 

「ハッピーフェスタも近いのに……これは少し考えなければなりませんね」

 

 マーマメイドは悩ましげな声を出しました。たくさんのお客様の前で姫の恥ずかしい姿を見せるわけにはいかないのです。しかし、当人のプディンセスはどこ吹く風でした。朝食を終えると

 

「それじゃあ、あたしはお散歩に行ってくるわ」

 

「はい……お気をつけて」

 

 すたすたと出て行くプディンセスをマーマメイドは難しい顔で見送ります。姫のマナーを改善させるにはどうしたものでしょうと思考にふけること数分、はっとマーマメイドは我に返りました。

 

「お散歩? この後はお勉強の時間――」

 

 しかし、すでにプディンセスの姿は広間にはありませんでした。やられました。まんまと姫に逃げられマーマメイドはがっくりと肩を落とすのでした。

 

 

4 マドルチェ・チケット

 

 シャトーの中庭に小さな女の子の姿がありました。長い金色の髪に真っ白なドレス。マドルチェの王女、プディンセスです。彼女はお勉強しなさいと言う侍女のマーマメイドから逃げてきたところでした。プディンセスはマーマメイドのことが大好きでしたが、あれこれうるさいのは玉に瑕でした。

 こんなに天気のいい日にお勉強なんてどうかしているわ。プディンセスは中庭の木陰に座り込み足を投げ出しました。こんな格好をもしマーマメイドが見ていたら、はしたないですよと怒るに違いありませんでした。

 プディンセスがしばらくそうして木陰にいると、女王の宮の方から配達人の少年、メッセンジェラートが走って来るのが見えました。

 

「姫さま。おはようございます」

 

 メッセンジェラートがはきはきとあいさつしました。彼はいつも元気です。

 

「ごきげんよう。メッセンジェラートはいつもあわてんぼうだけど、それにしても今日はずいぶんと急いでいるのね」

 

「ええ。今から国のみなさんにお届けものをしないといけませんので」

 

 メッセンジェラートが肩掛け鞄からお手紙を取り出しました。上等な白の封筒は王室のマークが描かれた赤のシールで閉じられていて、手紙の差出人が女王ティアラミスであることがわかります。

 

「あら。大事なお手紙なのね」

 

 プディンセスの言葉にメッセンジェラートは深くうなずきます。

 

「もちろんです。これはマドルチェ・ハッピーフェスタのチケットなのですよ、姫さま」

 

「ハッピーフェスタ? なにそれ?」

 

「ティアラミス様が国民のために開かれるお祭りです。このシャトーでお菓子をたくさんふるまってくださるそうですよ」

 

 プディンセスはほとんど聞き流してしまっていましたが、そういえばマーマメイドが先ほどハッピーフェスタがどうとかつぶやいていたような気がします。

 甘くとろけるチョコレート。しっとりとしたマドレーヌ。ひやりと冷たいジェラートに……そうそうプディングも忘れてはいけません。ハッピーフェスタできっとふるまわれるスイーツたちを思い浮かべると、プディンセスはそれだけでわくわくしてきました。

 

「それは楽しそうなお祭りね」

 

「ええ。ボクも先ほどティアラミス様から直々にチケットをいただきました。今からフェスタが待ち遠しいです」

 

 メッセンジェラートがにかっと笑います。彼の頭の中もきっとお菓子のことでいっぱいなんだろうなとプディンセスは思いました。

 

「けれど国中に配達なんて大変ね」

 

「いいえ。ボクはティアラミス様のお役に立てるのがすごくうれしいのですよ。それでは、姫さま。よい一日を」

 

 メッセンジェラートはそう言い残すとぱたぱたと城門の方へとかけていきました。

 

 

5 マドルチェ・マナー

 

 お昼のことです。午前中遊び倒して戻って来たプディンセスのお腹はもうぺこぺこでした。ああ、お昼ご飯はなにかしら。プディンセスはご飯を楽しみにしていました。

 ところがです。今日に限って、どういうわけかマーマメイドがやけに細かくマナーを注意してきます。どのフォークから使えだとか、スープの飲み方がどうとかうるさくて、楽しく食事なんてしていられません。プディンセスはむしゃくしゃしました。

 

「もう、なんなのよ。どうしてマーマメイドはそんなにうるさいの」

 

「いつもどおりです、姫」

 

「うそ。いつもはこんなにうるさくないもの」

 

「……ハッピーフェスタが迫っていますから。たくさんお客さまがいらっしゃいますので、姫には礼儀正しくしていただかないといけません」

 

 マーマメイドから思わぬ答えが返ってきました。ハッピーフェスタ。楽しいお祭りが、まさかこんなところに影響しようとは思ってもいませんでした。プディンセスはむーっと顔をしかめていると

 

「そうそう。ちゃーんとしないとねえ」

 

 テーブルの向こうからも声が飛んできました。シャトーの魔女のマジョレーヌでした。彼女はにやにやとからかうような笑みを浮かべて言います。

 

「プディンセスもおチビとはいえ一応はこの国の王女なんだからマナーくらい、ねえ?」

 

「マジョレーヌ、うるさい」

 

 プディンセスがマジョレーヌをにらみました。すかさずマーマメイドがたしなめます。

 

「いいえ、マジョレーヌさんの言う通りですよ、姫。ほら、マジョレーヌさんの方を見てください。昼まで寝ているようなちゃらんぽらんな人でもちゃんとテーブルマナーを守っています」

 

「マジョレーヌはちゃらんぽらんでも魔女だもの。マナーくらいできて当然よ」

 

「魔女とテーブルマナーは関係ありませんよ、姫」

 

「あんたらねえ」

 

「まあマジョレーヌさんはどうでもいいんです。そんなことより――」

 

 顔を引きつらせるマジョレーヌをマーマメイドはさらりと無視しました(姫のことをおチビだなんてからかったからです)。マーマメイドはお説教を続けます。

 

「今朝のことを思い出してください。エンジェリーさんだってちゃんとできていましたよ。だいたい姫はさっきだってお勉強もせず遊びに行かれてしまって――」

 

「それとマナーは関係ないもん……」

 

「一つ一つちゃんとしなさいと言っているのです。いいですか、姫。今日は言わせてもらいますけど、姫はもっと姫としての自覚を持ってください。お勉強はしない、マナーもだめ、朝も一人で起きられない。そんなことではティアラミス様のような立派な女王には――」

 

「あー、もうっ。うるさい、うるさ~いっ」

 

 プディンセスは癇癪をおこして声を荒げました。びしっと指を突きつけてマーマメイドに言います。

 

「うるさいマーマメイドなんてきらい。ううん、大きらいよ!」

 

 

6 マドルチェ・マーマメイド

 

 プディンセスが癇癪をおこした、その翌朝のことです。マーマメイドはプディンセスを起こしにマジョレーヌの部屋へ向かいました。ふだんプディンセスは自分の部屋でマーマメイドに添い寝をしてもらいながら眠るのですが、マーマメイドとケンカした日の夜は、添い寝相手を求めてマジョレーヌの部屋で寝ます。

 昨日ケンカしたばかりではありますがマーマメイドの歩みはいつもと変わりません。マーマメイドとプディンセスのケンカはよくあることで一晩たてば自然と仲直りしているのが常でした。だから、今日もいつものようにぐずる姫をベッドから引っ張り出して、いつものように身支度のお手伝いをする。マーマメイドはそのつもりでいたのです。ところが今朝は様子が違いました。

 コンコンと部屋をノックしてから中に入ろうとすると、なんと内側からドアが開き、ねむそうな顔をしたマジョレーヌが出てきました。これは驚くべきことです。プディンセスはたいていマーマメイドが起こすまで寝ていますし、マジョレーヌにいたってはいつも昼まで寝ています。

 

「おはようございます、マジョレーヌさん」

 

「ふぁ~あ、おはよ」

 

 マジョレーヌがあくびをしながら答えます。

 

「珍しいですね、こんな朝早くに起きているなんて」

 

「たたき起こされたのさ。アンタの相手しろって」

 

「どういうことですか?」

 

 マーマメイドが尋ねるとマジョレーヌが肩をすくめます。

 

「こっちが聞きたいくらいさ。アンタたちのけんかはよくあることだけど、今回は姫さまがずいぶんとご機嫌ななめでさあ。しょうがないから今朝はアタシがめんどう見るわ。メンドーだけど」

 

「え、しかし――」

 

「マジョレーヌにしてもらうからいい!」

 

 部屋の奥からプディンセスの鋭い声が飛んできました。まだ姫が怒っている……? マーマメイドがあっけにとられていると、マジョレーヌがポンと肩に手を置いて

 

「ま、そういうわけだから。ドンマイよ、マーマメイド」

 

 目の前でぱたりとドアが閉まりました。マーマメイドは呆然として、閉じたドアの前にしばらく立ち尽くすのでした。

 

 

7 マドルチェ・マジョレーヌ

 

「マジョレーヌ下手」

 

 マジョレーヌがプディンセスの髪を梳かしてやっていると、プディンセスが文句を言いました。

 

「はあっ!? お世話してもらっといてよくそんな口がきけるわね」

 

「だって下手なんだもん。ううん、ド下手ね。これはド下手よ!」

 

 プディンセスがよりひどく言い直します。マジョレーヌは強張った笑みを浮かべました。

 

「ふ……ふふふふふ。悪いのはこの口かしら~?」

 

「いひゃひゃひゃひゃっ。ひゃにひゅんひょよ!(痛たたたた。何するのよ!)」

 

「あのねえ、アタシは侍女じゃないの。あくまで魔女なのよ。そこのところわかってる?」

 

 プディンセスのやわらかいほっぺをつねりながらマジョレーヌが不機嫌そうに言い返します。実際彼女は不機嫌でした。当然です。いつも昼まで寝ているマジョレーヌからすれば、輝かしい朝日が差し込むこの時間帯はまだ夜なのです。眠るための時間なのです。そこをプディンセスに叩き起こされたわけですから、マジョレーヌからすれば迷惑なことこの上ありませんでした。

 

「だいたいこんなの誰がやったってかわりゃしないわよ」

 

「全然違う! マーマメイドはもっと――」

 

 そこでプディンセスは口をつぐみました。マジョレーヌは意地悪そうに目を細めました。

 

「マーマメイドはもっとなに?」

 

「べ、べつになんでもないもん」

 

「ふ~ん? さあ、おしまいよ」

 

 鏡に映っている自分の姿を見て、プディンセスはがっかりしました。マジョレーヌはプディンセスのいつもの髪型を作ったつもりのようですが、どうにもうまくありません。いつもマーマメイドがしてくれるのとは出来栄えがぜんぜん違ったのです。

 

「おや? ご不満ならマーマメイドに頼みな」

 

「……やだ」

 

「あのさあ、もういいかげん機嫌直しなよ。あの娘だってアンタのためを思ってやってるんだからさ」

 

「そんなことたのんでない」

 

 強情なプディンセスにマジョレーヌはため息をついて

 

「あの娘のことだから、すっかり落ち込んでいるでしょうよ」

 

「……知らないもん」

 

 プディンセスは寂しそうにそっぽを向きました。

 

 

8 マドルチェ・バトラスク

 

 マジョレーヌが予想した通り、マーマメイドはすっかり落ち込んでいました。姫とケンカしたことはこれまでに何度もありましたが、いつも次の日の朝には元通りだったのです。それが今回は違っていたものですから、マーマメイドはどうしたらよいかわからなくなったのです。

 今にして思えば昨日、プディンセスは大きらいと言っていました。マーマメイドはきらいと言われたことはありましたが、大きらいと言われたのは今回が初めてのことでした。ひょっとすると自分は本当に姫に嫌われてしまったのかもしれない。そう思うと、マーマメイドは泣きたくなりました。

 

「ひどい顔だ」

 

 マーマメイドが廊下の掃き掃除をしていると、執事のバトラスクがそう声をかけてきました。

 

「さっきから君は同じ所ばかり掃いている。それでは掃除にはならない」

 

 言われてみればそうでした。私事で仕事に身がはいらないなんて。マーマメイドは自分にあきれてしまいました。

 

「原因はプディンセス姫とケンカしたことかい? そんなことでなにを今さら落ち込むことがある? 君は姫とよくケンカしているじゃないか」

 

 バトラスクの率直な言葉にマーマメイドは顔をしかめました。バトラスクは仕事のできる優秀な青年でしたが、同僚のマーマメイドに対しては物事をずばずばと言うところがありました。

 

「大きらいと言われました」

 

「うん?」

 

「きらいではなかったんです。大きらいだったんです。私は今度という今度は本当に姫に嫌われてしまったのかもしれません」

 

 バトラスクは一文字増えただけで大して変わらないと思いましたが、口には出しませんでした。マーマメイドがいまにも泣きそうな顔をしていたからです。やれやれ、これは重症だとバトラスクは思いました。

 

「姫様は意地っ張りなところもあるけれど優しい心を持ったお方だよ。だから君の気持ちだってちゃんとわかってくださるさ。心配しなくてもいい」

 

 バトラスクはそう言ってマーマメイドを慰めましたが、どん底の状態のマーマメイドにはなんの効果もありませんでした。

 

 

9 マドルチェ・シューバリエ

 

 マーマメイドが落ち込んでいるころ、プディンセスはシャトーのダンスホールでワルツを踊っていました。ダンスの相手はシャトーの騎士シューバリエです。プディンセスはシューバリエが城門の警護に向かおうとしていたところを捕まえたのです。プディンセスはシューバリエのことを気に入っていて、たまにこうして遊び相手をさせていました。

 

「姫様、私にも一応仕事があるのですが」

 

「いいじゃない。平和なこの国じゃ騎士なんてただの暇な人でしょう? 畑に立っているカカシみたいなものだわ」

 

 プディンセスはシューバリエの心をざっくりと抉る一言を無邪気に言いました。プディンセスに悪意がないから、逆に強烈でした。あまりの威力にシューバリエはステップを乱してしまいました。

 ステップ、ターン。ステップ、ターン。プディンセスはダンス好きでしたので、踊ることは良い気分転換でした。けれど今日はちがいました。踊っているといつもは自然に楽しくなってくるのですが、今日はどうにもそういう気分にならないのです。

 

「姫様は何かお悩みですか?」

 

 そんなプディンセスの様子に気がついたシューバリエが言います。

 

「どうして?」

 

「普段なら姫さまはもっと楽しそうに踊られますから。私でよろしければお話を伺いますよ?」

 

 ステップを刻みながらシューバリエが言います。プディンセスはぽつぽつと事情を話しました。

 

「そうですか。マーマメイドさんとケンカを……。姫様はマーマメイドさんと仲直りしたいのですね?」

 

「別に私は……」

 

「したいと顔に書いてありますよ。姫は正直者です」

 

「……昨日すごくひどいこと言っちゃったの。だから、いつもはケンカしても次の日の朝には仲直りするのに、今朝は顔を合わせにくくて……またひどいことしちゃった。どうすればいいと思う? シューバリエ」

 

 困ってしまったプディンセスにシューバリエは答えます。

 

「自分の気持ちを誠実に伝えることが大切なのではないでしょうか。姫様。私はいつだって誠実さこそが何ものにも勝る美徳と考えているのですよ」

 

「せーじつ? びとく? シューバリエの言うことはむずかしいわ」

 

「ふふっ、わからなくても姫様ならきっとそうなされます。私は姫様がそういうお方であることを良く知っていますから」

 

 だから大丈夫です、とシューバリエは微笑みました。プディンセスは不満げに頬を膨らませました。

 

「……わからないことばかり言って。シューバリエは役に立たないわ。役立たずよ」

 

 プディンセスのストレートな物言いにシューバリエは再びステップを乱してしまうのでした。

 

 

10 マドルチェ・ティーブレイク

 

 昼下がり、お庭に面したベランダでティーブレイクの時間です。プディンセスはバトラスクが入れてくれた紅茶を一口飲んでから、バトラスクに話しかけました。

 

「ねえ、バトラスク」

 

「何でしょうか、姫様」

 

「もしバトラスクが誰かとケンカして、その後仲直りしたいと思ったら、バトラスクならどうする?」

 

 バトラスクが少し眉をあげました。ふむ、と顎に手を当てて

 

「それは姫様がマーマメイドとケンカされたことを言っていらっしゃるのでしょうか?」

 

「知ってたの?」

 

「ええ、まあ。しかし困りました。私は生まれてこのかたケンカなどという愚かな行為をしたことがありませんのでそのようなことはわかりかねます」

 

「……バトラスクは今、私にケンカを売っているわ」

 

「大安売りでございますが買いますか?」

 

「いらない。もう間に合ってるわ」

 

「それは賢いことでございます、姫様」

 

 くっくっくっとバトラスクが笑いますが、プディンセスは少しも面白くありません。ふてくされて、マカロンを口に入れました。

 

「姫様はマーマメイドのことがお嫌いですか?」

 

 もぐもぐとマカロンを食べているとバトラスクがそんなことを言いました。プディンセスは慌てて首を振りました。

 

「そんなわけないじゃない!」

 

「では好きですか?」

 

「それはその……大好きよ」

 

 プディンセスは少し照れたようにそっぽを向きました。バトラスクは彼にしては珍しく、優しげに目を細めました。

 

「それをそのままマーマメイドにお伝えになればよいのではないでしょうか。あれは単純な娘ですのでそれだけですっかり解決すると思いますよ」

 

「それがむずかしいのよ」

 

「おや。姫様はお得意だと思いますが」

 

「そんなことないわ」

 

「そうでしょうか? ちなみに姫様、私のことは――」

 

「バトラスクはイジワルだからきらい」

 

「やはりお得意ではございませんか」

 

 バトラスクがまたくっくっくっと笑いました。今度はプディンセスも愉快でした。

 

「マーマメイドにも今のように――」

 

「話は聞かせてもらったわ!」

 

 その時です。バトラスクの声をかき消すようにバーンと扉がきました。マジョレーヌが部屋からベランダに出てきます。

 

「マジョレーヌさん、扉はもう少しお静かにお開けください」

 

 バトラスクがため息交じりに注意しましたが、マジョレーヌはちっとも気にもしませんでした。空いている椅子に座ると、アタシにもお茶よろしく~とバトラスクに注文します。バトラスクはマジョレーヌの態度にわずかに眉をひそめましたが、どうぞとティーカップに紅茶を注ぎました。

 

「ようやく謝る気になったのねえ」

 

 にやにやと目を細めながらマジョレーヌが言います。どういうわけか見ていてすごくいらいらする笑顔でした。

 

「悪い?」

 

「なんで? いいことだわ。でも姫さまは素直になれなくてお困りなのよね。大丈夫。アタシにいい考えがあるわ」

 

「ホント!?」

 

 得意げに言うマジョレーヌにプディンセスが食いつきます。そばで聞いていたバトラスクはどうせロクな考えじゃないと思いましたが、面倒なことに巻き込まれるのはごめんだったので、口には出しませんでした。

 

 

11 マドルチェ・メッセンジェラート

 

 もう夕方だというのにマーマメイドの調子は戻りませんでした。私はこれから先ずっと姫に口もきいてもらえないのではないでしょうか。悲観的な考えばかりがくるくると頭の中を回って、マーマメイドは他のことにまったく集中できませんでした。同じ窓をもう三回も拭いていることにさえ、マーマメイドは気がついていませんでした。

 

「マーマメイドさん!」

 

「きゃあ!?」

 

 背後からふいに肩を叩かれてマーマメイドはびっくりしました。何事かと振り返ると、配達人のメッセンジェラートが心配そうな顔をして立っていました。

 

「メ、メッセンジェラートさん。どうかされましたか?」

 

「どうかしているのはマーマメイドさんの方だと思うな。何度も声をかけたのに全然気がつかないんだもの。大丈夫かい?」

 

「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていて。私は大丈夫です」

 

「ならいいけど……。はい、コレ。キミに手紙だよ」

 

「私に? 誰からでしょう?」

 

「プディンセス姫からさ」

 

「ひ、姫から?」

 

 マーマメイドの声がわずかに高くなります。

 

「うん。同じシャトーに住んでいるのにわざわざ手紙にするくらいだからよっぽど大事なことがかいてあるんじゃないかな!」

 

「大事なこと……」

 

 一体なんだろう。メッセンジェラートから手紙を受け取るとマーマメイドはすぐに封を切りました。おそるおそる手紙を取り出し、中身を読んであぜんとしました。そんなマーマメイドの様子を見たメッセンジェラートが尋ねます。

 

「どうしたんだい?」

 

「見ていただけますか?」

 

 マーマメイドが手紙を差し出します。

 

「いいのかい?」

 

「ええ」

 

「じゃあちょっと失礼して」

 

 

 私の部屋にて待つわ。逃げずに来るのよ!

                        プディンセス

 

 

「……」

 

「どういうことだと思いますか?」

 

 マーマメイドが尋ねるとメッセンジェラートはパチンと指を鳴らしました。

 

「これはずばり果たし状だね!」

 

「ええっ!?」

 

 メッセンジェラートの言葉にそんなまさかとマーマメイドが驚きます。けれどメッセンジェラートは間違いないと力強く言い切りました。

 

「さっきも言ったけど同じ城に住んでいるのにわざわざ手紙にしたんだよ? そこにこの文面ときたら他には思い当らないよ」

 

「それは……どうなんでしょう?」

 

「配達人としてのボクの勘にマチガイはないよ。いったい今までボクが何千通のお手紙を運んできたと思っているんだい? ボクくらいの配達人(はいたつにん)……いや配達人(はいたつじん)になると持っただけでわかるんだ」

 

「は、配達人(はいたつじん)ですか?」

 

「そうさ。たとえばこれは年賀状だなとか――」

 

「年賀状くらい私にもわかります」

 

「暑中見舞いだなとか――」

 

「それも達人じゃなくてもわかると思います」

 

「か、寒中見舞いとか――」

 

「さっきから季節限定のハガキばっかりじゃないですか! そんなの一目瞭然です! 配達人の勘とやらは本当にあてになるものなのですか? 私にはとても――」

 

「と、とにかく!」

 

 マーマメイドの言葉を遮るようにメッセンジェラートは少し大きな声を出しました。びしりとマーマメイドを指して言います。

 

「キミには果たし状が送りつけられるような心あたりがあるはずだYO!」

 

 これにはマーマメイドはどきりとしました。心当たりはありました。言うまでもなくプディンセスとケンカしていることです。途端にマーマメイドは不安そうな顔になりました。それを見たメッセンジェラートはにやりと笑いました。

 

「おや? 心当たりがあるんだね。じゃあ、これはやっぱり果たし状だよ。キミは姫さまに白い手袋を投げられたのさ」

 

「そんなっ」

 

「一体何したんだい? 果し合いなんて尋常じゃないよ」

 

「ど、どうしましょう? メッセンジェラートさん」

 

「そりゃあ、腹をくくって果し合いに応じるしかないんじゃないかな」

 

 深刻なマーマメイドに対して、メッセンジェラートは軽く応じました。

 

「他人事だと思って!」

 

「ま、他人事だからね」

 

 メッセンジェラートは軽く肩をすくめました。なんて冷血漢なのでしょう。マーマメイドはメッセンジェラートが恨めしく思えました。

 

「メッセンジェラートさんは薄情者です……」

 

「働き者さ。それじゃ、ボクはまだ仕事があるから」

 

 そう言うと、メッセンジェラートはひらひらと手を振りながら去っていきました。

 

 

12 マドルチェ・プディンセス・ショコ・ア・ラ・モード

 

 プディンセスの部屋にやって来たマーマメイドは、ドアの前で一度深呼吸しました。彼女の頭の中には先ほどメッセンジェラートに言われたことでいっぱいになっていました。本当に果し合いをすることになったらどうしましょう。姫にひどいことなんてとてもできません。その時はこの命を差し出すしか……ああ、短い人生でした。真っ青な顔でマーマメイドはドアをノックしました。

 

「入ってもいいわ」

 

「し、失礼します」

 

 マーマメイドは部屋に入ると、プディンセスを一目見て呆然としました。プディンセスの装いはいつもの白いドレスと銀のティアラから一変していました。プディンセスは肩と腕を露出させた黒のドレスに身を包み、金色の髪の上ではドレスと同じ色をしたティアラを乗せていました。普段の純白の姿が天使だとすれば、今のプディンセスはどこか挑戦的で小悪魔めいた印象をマーマメイドに与えます。

 

「マジョレーヌとエンジェリーに協力してもらったの。どうかしら?」

 

 プディンセスは不敵な笑みを浮かべてマーマメイドに問いかけます。しかしマーマメイドは返事をしません。マーマメイドは目を見開いたまま固まっていました。

 

「マーマメイド? どうしたの?」

 

 そんなマーマメイドの様子にプディンセスは戸惑いました。おそるおそるといった声色で再び声をかけると、マーマメイドはようやく口を開きました。

 

「ひ……」

 

「ひ?」

 

「姫がグレてしまわれました」

 

 震える声。マーマメイドの眼にはうっすら涙が浮かんでいました。

 

「あ、あれ?」

 

「ドレスが……黒く……私が至らないばかりに……姫が悪い子に……」

 

 マーマメイドが泣き崩れます。マーマメイドが泣き出すというまさかの事態にプディンセスは慌てました。どうしようとひとしきりあたふたした後、マーマメイドに向かってプディンセスは言いました。

 

「ちがうわ、マーマメイド! 私はグレたりしてない。これは私の誓いの証なのよ!」

 

「誓いの証……?」

 

 マーマメイドが顔を上げます。プディンセスはぺこりと頭を下げました。

 

「昨日はひどいこと言ってごめんなさい。私はマーマメイドのこと好きよ。大好き。マーマメイドが私のことをいつも心配してくれていること、私は知っているわ。ちょっと口うるさいけど……。そうよ、口うるさいのよ!」

 

 思い出したようにプディンセスが怒ります。けれど、びくりとマーマメイドが肩を震わせたのを見て、プディンセスはまた慌てました。これ以上泣かれてはたまりません。

 

「今のなし! なしだから! あのね、マーマメイド。私は決めたの。ちゃんとするって。マナーも覚えるし、朝だって一人で起きて見せるわ。これはその証。今日から生まれ変わるという決意の表れってわけよ」

 

 それはマジョレーヌの提案でした。普段の自分と違う装いをすれば、気分が変わって、うまくできないと思えることも案外簡単にできるかもしれないわとマジョレーヌは言ったのです。なるほどと思ったプディンセスは、マジョレーヌと、あとエンジェリーにも手伝ってもらって、いつもとは真逆の黒のドレスで着飾ることにしたのでした。

 

「私はマドルチェの王女プディンセス。未来のクィーンよ。必要とあればなんだって完璧にしてみせるわ!」

 

 プディンセスは高らかにそう宣言しました。どこまでも迷いのない表情でそう言い放った彼女はどこからどう見ても一国の立派なお姫さまです。マーマメイドはじわりと胸が熱くなりました。

 

「姫……姫っ!」

 

「ちょっ……マーマメイド!?」

 

 マーマメイドはプディンセスに抱き付きました。いきなりのことに慌てるプディンセスの耳元でマーマメイドがささやきます。

 

「少しだけこうさせてください、姫」

 

「う、うん。大丈夫? マーマメイド」

 

 気遣うプディンセスにマーマメイドは答えます。

 

「もちろんです。私はうれしいのです。ちょっと見ない間に姫が大きくなられたことがうれしくてたまらないのです」

 

「大きくなった?」

 

「ええ、とっても。私はそんな姫を誇らしく思います。今の姫より立派なお姫様なんて世界中のどこを探したって見つかりません」

 

「マーマメイドは大げさだわ。大げさよ……」

 

 プディンセスはふて腐れたように言いましたが、それは照れ隠しでした。プディンセスの頬は赤みが差していて、口元は褒められた嬉しさでゆるゆるでした。

 

「でもドレスは白に戻してほしいのです」

 

「え?」

 

 ぽつりとマーマメイドが呟きます。似合っていなかったかしらとプディンセスが尋ねるとマーマメイドはいいえと首を振りました。

 

「その服も大変お似合いです。ええ、本当によく似合っていらっしゃいます。けれど今はまだ、姫には白いドレスを着ていてほしいのです。お願いします」

 

「? よくわからないけど、マーマメイドが言うならそうする」

 

「ありがとうございます、姫」

 

 姫が成長してくれることは嬉しいけれど、心のどこかにそれを寂しいと思う気持ちがあって、だからもうしばらくは変わらず手のかかる姫のままでいてほしい。昨日しっかりしなさいと叱っておきながらマーマメイドはそんなことを考えてしまっていたのです。我ながら自分勝手なものです。マーマメイドは心の中で苦笑しながら、愛しいプディンセスを抱きしめ続けました。

 

 

13 マドルチェ・ハッピーフェスタ

 

 ハッピーフェスタの日はすぐにやって来ました。フェスタにはたくさんの住人が参加しました。ミィルフィーヤ、クロワンサン、メェプル、ピョコレート、ホーットケーキ。シャトーを訪れた住人たちは、おいしいお菓子をたーくさん食べて、たくさんおしゃべりして、たくさん歌って、踊って、誰もがみんな幸せそうに笑っていました。

 練習したおかげでプディンセスのマナーはばっちりでした(少なくとも食べこぼしをしない程度には)。プディンセスもたくさん食べて、たくさん笑いました。シューバリエとワルツも踊りました。この間と違って踊るのが楽しくてしかたがありませんでした。

 フェスタの場にはもちろんティアラミス様もいました。みんなと気さくに談笑しながら、おかしを食べています。たくさんの笑顔に囲まれているティアラミスを見て、こんなにたくさんの人を幸せにできるお母様はやっぱりすごいな、とプディンセスは思うのでした。

 そうしてハッピーフェスタは大盛況のうちに終わりました。

 その夜のことです。たくさんはしゃいだプディンセスはすっかりおねむで、ベッドに入るとすぐに心地の良い眠気がやって来ました。隣で添い寝してくれているマーマメイドが、とん、とん、と優しく胸を叩いてくれるのでいっそう瞼が重くなります。

 

「ねえ、マーマメイド」

 

 夢見心地でプディンセスが言うと、「なんでしょう、姫」とマーマメイドが静かに囁きました。プディンセスは今日のハッピーフェスタの様子を思い出しながら、おずおずと尋ねます。

 

「私もなれるかな。みんなを笑顔にできるような立派な女王さまになれるかな?」

 

 マーマメイドは胸を叩いていた手を止めて、代わりにプディンセスの頭を優しく撫でました。そして、言いました。

 

「なれますよ。姫なら絶対に」

 

 マーマメイドが自信たっぷりだったのでプディンセスは照れくさくなりました。そのうちにプディンセスは目を開けていられなくなり、深い眠りへ落ちて行きました。すやすやと眠るプディンセスの顔はとても幸せそうです。彼女はきっといい夢を見ているに違いありません。

 

                (おしまい)




最後までお読みいただきありがとうございます。

本作はマドルチェシリーズのカードイラストを元にストーリーを構成したものです。
当初はマドルチェ使いの主人公が普通にデュエルする話を書くつもりだったのですが、いつの間にやらデュエル皆無のおとぎ話に……どうしてこうなった(笑)

短い話でしたがお楽しみいただけたなら幸いです。感想お待ちしております。

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