これほどまでに相性のいい物はあるだろうかッ!?
初心者向けに説明を入れながら、対戦させてます。
承太郎 VS ポルナレフ です。
時間軸は、DIO戦を終え、全員無事で戻ってこれたというifストーリーです。
フォーマットは2012年12月24日時点のスタンダードです。
使用エキスパンションはイニストラードブロック(イニストラード・闇の隆盛・アヴァシンの帰還)、ラヴニカへの回帰ブロック(ラヴニカへの回帰)、基本セット2013(M13)です。
デュエル自体は、デッキを作った後、cockatirice(コカトリス)で実際に対戦を行い記録していく、いわゆるリプレイのような形を取っています。
「……じゃあ僕のターン。アタック入ります」
「ぐわぁぁ負けたあああ!!」
片やポーカーフェイスを崩して笑い出す桃色の髪の青年。
片や非常に悔しそうに頭を抱える円筒形の髪型の男。
非常に微笑ましくみえる光景が広がっていた。
「……ん? 花京院、ポルナレフ。何してんだ?」
「あ、承太郎。……そうだ、承太郎もやってみない? MTG」
「えむてぃーじー?」
そこに現れたのはとんでもない長身の美男子だが、出で立ちは番長のような改造学ランを身にまとっている、いかにも不良という風な男であった。
「おーそうだよ! お前もやれよ承太郎!」
ポルナレフと呼ばれた、特徴的な髪型の男も笑みを浮かべて勧誘するが、承太郎はただただ首をひねるだけであった。
「……カードゲームか?」
「うん。面白いよ」
「ちょっとルールは複雑だが、承太郎なら大丈夫だろー!」
承太郎はあまりゲーム自体それほどやったことがなく、カードゲームと言われても最近CMでやっているヒトデやカニみたいな髪型をした主人公が戦うアレしか思いつかなかった。そのカードゲームにしてもよくは知らないのだが。
「あれだよなー。承太郎ん家なんて金持ちなんだろ? そんなにあったら『タルモゴイフ』だろうが『モックス』だろうが買い放題! くぅぅ~、羨ましいッ!」
ポルナレフがからかい半分悔しさ半分な表情を浮かべても、承太郎には何が何だかさっぱりであった。
「とりあえず基本的なところだけでも説明しようか?」
「……まぁ、とりあえず頼むぜ」
承太郎はひとまず花京院の説明を聞いてみることにした。何事も情報が多くて困るということはないだろう。
「じゃあ説明するね。マジック・ザ・ギャザリング、略してMTG。このゲームはプレイヤーがプレインズウォーカーという魔法使いになって戦うゲームだよ。プレインズウォーカーはクリーチャーを召喚したり、スペルを駆使して相手のライフをなくすことを目標として戦うんだ。まぁ、勝ち方は例外もあるけど、基本的には20あるライフを0にすることが勝利条件だと思えばいいよ」
「(……テレンス・ダービーの時も思ったが、さっさとスタンド同士で殴りあった方が早いと思うんだがな……)」
「……承太郎、今スタンド同士で殴った方が早いって思ったでしょ……」
「……さぁな、何のことだ花京院」
「……まぁいいけど」
そう言って花京院はカードの束から何枚か抜き出し、足りないと見るやいなや妙に長く黒いボックスを開けた。そこにはカードがぎっちりと詰まっており、爪を使ってなんとかカードを取り出さないといけない有様であった。
「……花京院、カードがちっと多すぎやしねーか?」
「うん? これでも少ないほうだよ?」
「……ついていけねぇぜ」
はぁ、と溜息をついた承太郎を尻目に、花京院はカードを五枚、並べてみせた。そこには様々な美しい風景が描かれており、下にはシンボルマークのような物が薄くプリントされているくらいで何の説明もなかった。
「で、これが土地カードっていうんだけど、基本的にこのゲームは五色の勢力があって、それぞれ特徴があるんだよ」
「おー、これいいなぁ! 花京院、この土地くれよ!」
すっとポルナレフが白と黄色で描かれた大地のカードに手を伸ばしたが、一瞬早く花京院がその手をはたいた。
「ゼンディカー土地なんてあげるわけないだろうポルナレフ。君は馬鹿か」
「ちぇー、ケチくせーな」
口を尖らせて不満気な様子のポルナレフだったが、花京院はすぐに承太郎に説明を始めた。
「えっと、まずこれが『森』。色は緑で、自然のあるがままのカードが多いんだ。ただ自然という以上、基本原理は弱肉強食。自然淘汰が当たり前となっている以上、勝ち残るのはやっぱり大きくて強いクリーチャーだ。だからビーストとかワームなんていう、通称『ファッティ』と呼ばれる大型クリーチャーがたくさんいるのが特徴だよ。他にも森で暮らしている種族としてエルフや、狩人として暮らしている人間も少しはいるよ。あとは自然なだけあって、マナを生み出す能力に長けているカードが多いね」
「マナ?」
すでにファンタジー全開な雰囲気についていけなくなり始めている承太郎だったが、逆に花京院は妙に生き生きとしていた。
「ええと、このゲームは何をするにもマナっていうのが必要なんだ。ほら、このカードとか右上にちっちゃく数字と木のシンボルが書いてあるだろ?」
花京院が見せてきたカードには、右上に小さく①と木のシンボルのマークが一つ描かれていた。
「これか」
「そうそう。この木のシンボルマークは、この森から生み出される緑のマナが一つ必要ってことで、①っていうのはなんでもいいからとにかくマナを一つ、不特定マナって言うんだけど」
「つまりこのカードを使うには、合計2マナ必要、そういうことか?」
「そうそう、やっぱり承太郎はポルナレフと違って飲み込みが早いね!」
「花京院さっきからひでぇ!! 何で俺ばっかり!?」
ポルナレフが抗議した途端、花京院の周囲の温度がすっと下がった。
「……僕のFOILタルモ」
それだけでポルナレフには何のことやら通じたらしい。ポルナレフは急にドッと汗をかいた。
「お……おお、その、すまねぇ…………」
「で、何か文句が?」
「……ねぇ」
必死にポルナレフは目線を逸らしながら、それだけをどうにか言うと、花京院はくるっと承太郎に向き直って笑みを浮かべた。
「ごめんね承太郎。次の説明するね」
「……あ、ああ(ポルナレフは一体何をしたんだ……?)」
何やら怯えている様子のポルナレフは、意識を逸らそうとするかのように手元のカードの束をいじり始めていた。
「次はこれ、山だね。色は赤で、広大な土地だけど荒れ気味だったり、火山の周辺だったりするよ。こんな荒地に暮らせるのは、マグマなど物ともしない強靭な肉体を持つドラゴンとか、とにかく暴れまわるのが大好きなゴブリンとかオーガ、デビルくらいな物だよ。稀に人間もいるけど、たいていそういう人間はアナーキーな人たちばっかりだね。あと血のイメージからか、吸血鬼もいるよ」
「吸血鬼……?」
「……DIOだったら赤というより黒じゃないかな。赤黒でもいいけど。せめてDIOが『オリヴィア・ヴォルダーレン』くらい美人な女性だったらな……」
「『オリヴィア』?」
「うん……えーと、あったあった。これこれ」
花京院が承太郎に手渡したカードには、ワイングラスを片手に空を優雅に舞うドレス姿の高慢な女性が描かれていた。下の方では部下なのか、騒いでいる様子の人々が固まっていた。
「……美人、か?」
「僕は美人だと思うけどな……あんな筋骨たくましい可愛げのない吸血鬼なんて始めて見たよ……吸血鬼のイメージが壊れたよ、ホントにもう」
花京院はややげんなりしながらそう言ったが、すぐにカードを手に取り説明に戻った。
「脱線ばっかりしてごめん承太郎。それと、赤の特徴にはもうひとつ、直接的な火力があるよ。例えば普通はクリーチャーで殴ることでダメージを与えるのに対して、カード一枚唱えるだけでダメージを与えることが出来るんだ。例えばこれ、『ショック』だね」
花京院の見せてきたカード、『ショック』には、何やらのけぞって苦しんでいる様子の人が描かれており、絵の下には「インスタント」と書かれ、更にその下には「クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。ショックはそれに2点のダメージを与える」と書いてあった。
「クリーチャーにもダメージは与えられるのか?」
「うん、さっきの『オリヴィア』の右下を見ると、3/3ってあるだろう?」
なるほど、花京院の言うとおり『オリヴィア・ヴォルダーレン』の右下には小さく3/3と書いてあった。
「その左の3はパワー。そのまま力だね。殴る時に与えるダメージがそれくらいってこと。で、右の3がタフネスって言って、要は体力だね。それ以上のダメージを食らうとオリヴィアは死ぬんだ」
「……吸血鬼の割りには弱そうだな。ショック二枚でこいつ死ぬじゃねーか」
「まぁオリヴィアは後から強くなるからね……」
花京院が眉根を下げて笑っていると、承太郎は何やら不思議そうな顔をしていた。
「花京院、『インスタント』ってなんだ?」
「あー、『インスタント』……は、多分今説明するとこんがらがると思うから後でもいいかな?」
「ああ、構わないぜ」
「とりあえず今は色の特徴の紹介をしていくよ。はい次。これは島だね。色は青。孤立した島国や海で、水生生物や島で暮らす生き物がいる。海ではマーフォークとか魚とか、あとは空を飛ぶ鳥とかかな。島では人間や妖精が暮らしているよ。暴力的で野蛮な赤とかと違って、知性を表す色でもあるから、ちょっとトリッキーなカードが多いかな。正面切って殴るってわけでもないから、どちらかと言うとサポートや防御的な戦い方が向いてるね。カウンターとかも特徴かな」
花京院が手にとったカードには、美しい空と海が描かれていた。
「絵が随分綺麗だな」
「そうそう。イラストも綺麗だから、コレクターも多いみたいだね」
「ルールや世界観やらはまだ理解出来てないが……絵は気に入ったぜ」
「ふふ、いいことだね。気に入ったカードで勝てるようにデッキを作るのも楽しみの一つだからね」
「……デッキ?」
再び目を瞬く承太郎を見て、花京院はしまったという顔をした。
「あー、そっか。承太郎はカードゲーム用語分からないか……えーと、デッキっていうのは実際のカードゲームで使う、カードの束のことだよ。MTGでは基本的に60枚以上で一組だよ」
「ほー、色々用語があるんだな……」
承太郎は机に散らばっているカードを一枚一枚見ながら呟いた。
「うん。じゃあ四枚目行くね。これが平地。色は白で、まぁ基本的に人間が暮らしている土地だと思えばいいかな? 法と正義を重んじる色で、統率とかも表してるよ。だから、軍隊とかをイメージしてもらうといいんだけど、小粒だけどよく働くクリーチャーがたくさんいるよ。あと、正義ってことで天使とかスピリットとかもいるね。基本は人間が多いけどね。あとはそうだね……リセットとかも多いかな。聖書にあるノアの方舟みたいなエピソードみたいに、すべてのクリーチャーを破壊したり、あるいは敵を無力化したりとか。結構万能な色かな……」
「よさそうな色だな」
「まぁ白だけだと出来ないこともたくさんあるけどね。それじゃ最後。沼だね。色は黒。沼ってだけあって結構ひねくれてたり、代償を求めるカードが多かったりするかな。最近逆贔屓がひどいけど、それでもみんなに愛されてる色だね。生息しているクリーチャーはゾンビとか吸血鬼とか、インプやデーモンとかだね。相手のライフを吸い取ったり、直接クリーチャーを殺したり生贄に捧げさせたりもするね」
「DIOみてーな色だな」
「そうだね。マナ・コスト物凄くかかりそうだけどDIOがクリーチャーだったら強いかも。ちょっと使ってみたいかな」
大真面目に言っているらしい花京院に、承太郎は何も言えなかった。
「あとは色がなくてマナさえ払えば使えるアーティファクトっていう機械とか、そもそも色がないなんていう勢力もいるけど……とりあえずこの5種類を抑えておけばいいかな。一旦まとめるね。
緑:土地は森。自然の色。弱肉強食。大型クリーチャーやマナを生み出すカードが多い。攻撃的。
赤:土地は山。暴力の色。無秩序。アナーキーなカードや直接的な火力が多い。攻撃的。
青:土地は島。知性の色。策略を巡らせる。トリッキーなカードやサポートカードが多い。防御的。
白:土地は平地。法と正義の色。統率を取り協調する。小粒なカードや様々なことが出来るカードがある。平均的。
黒:土地は沼。血と汚物の色。犠牲を強いたり貪る色。双方に代償を払わせることで強さを保ったりする。攻撃的だが自分にもダメージ。
例外:色のないアーティファクト(魔法機械)や、そもそも色のない勢力など。色のない勢力は少数なので説明は省く。
こんな感じだね。承太郎、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。ところで、今までの話聞いた限り、白使ってりゃ強いんじゃねーか?」
「それがそうもいかねぇんだよ承太郎……」
今まで花京院と承太郎だけの対話だったところに、ポルナレフが乱入してきた。
「俺のデッキ、白単って言って、白だけしか使わねーデッキなんだけどよ……」
「おお、ポルナレフらしいな」
「だろぉ!? それなのに俺一度も花京院に勝てた試しがねーんだよ……」
がっくりとしているポルナレフだったが、花京院は冷ややかな目線を向けるだけだった。
「教えてる側が負けるわけにいかないだろう?」
平然とそう言い放つ花京院に向かって、ポルナレフは半分涙目で抗議し始めた。
「だからって一枚ウン千円とかするようなカードを大量投入してるようなデッキ使うのやめろよな!? なんなんだよその札束デッキ!!」
「何言ってるんだいポルナレフ。勝つためには当然のことじゃあないか」
それを聞いた途端、ポルナレフも必死に言い張った。
「大事なのは結果よりも過程だろ!?」
「だから僕なりに過程を大事にした結果が当然の勝利じゃないか」
「金バラまくのが過程か!?」
「足りない運を金で補っているだけだけど、何が悪いんだい」
「ホントのカードゲームっつーのはよぉ~? パックから出てきて一緒に戦ってくれるカードたちでデッキを作って戦うべきだと思うんだよ俺は!?」
「そんなにパックから出てきたカードを大事にしたいならリミテシールドでもやってればいいじゃないか。僕は大会でも勝ちたいからこそ、精鋭を選りすぐりたいんだ。そのためには無駄金使うわけにはいかないよ」
花京院とポルナレフの議論に、きょとんとするばかりの承太郎だったが、承太郎も口を挟んでみることにした。
「……カードに金を使うのは悪いことなのか?」
なんとなく困ったような顔の承太郎に、花京院が答えようとした時だった。
「おお、承太郎も花京院もポルナレフも、なんじゃこんなところにおったのか」
向こうから歩いてきたのはジョセフ・ジョースターだった。機嫌のよさそうな笑みを湛えている。
「あ、ジョースターさんこんにちは」
「なんじゃ、MTGか! わしも混ぜろ!」
いそいそとデッキを取り出す様子を見た承太郎は深く溜息をついた。
「テメーもかじじい」
「何を言っとるんじゃ承太郎。二人にMTGを教えたのはワシだぞ」
そういえばこの祖父はサブカルに目がなかったな、と改めて思い出した承太郎だった。
「ところでじじい。今花京院たちがカードに金を使うのは悪いことなのかっていう話をしてたんだが」
「んん? つまりシングル買いのことか?」
「そうだぜジョースターさん! こいつ大金つぎ込んでデッキ作って、何が楽しいんだって話だ!」
ジョセフは両腕を組むと、ふーむ、と一言うめいた。
「どちらがいい悪いというのはないと思うんだがのう」
「じじい、そもそもシングル買いって何だ」
「おお、承太郎もはじめるのか。いいじゃろう、ワシが説明してやろう。そもそもカードはどうやって売られておるのか分かるか承太郎?」
「……よく分からん」
「だろうな。基本的にMTGのカードは17枚入りのパックで売られておる。内訳は、宣伝カード1枚・土地1枚・レア1枚・アンコモン3枚のコモン11枚だ。たまに宣伝カードの代わりにトークンカードというのが入っておったり、FOILと呼ばれるキラキラしたカードが入っておるがな」
「レアは絶対に入ってるのか」
「もちろんだ。レアも、ただのレアと神話レアというのがある。神話レアのほうが格は上だな。ところが、当然のことじゃがパックを一つ買ったところで目当てのカードがそうぽんぽん出てくるわけがない。そこでカードショップではカードのバラ売りをしておる。値段もカードパワーの強さや、大会での使用頻度や活躍ぶりによって変動するし、ピンからキリまである。一番安くて十円、高いと万を超えたりもするがな」
「……めちゃくちゃだな。そういや、パックはいくらなんだ」
「これもまたショップによって変わったりもするからなぁ。カードショップで買うと定価よりも安いのはしょっちゅうだ。定価自体は今は350円じゃが、店によっては320円だったり、330円だったり、場合によっては400円を超えたり、あるいは生産中止になればもっと高くなったりもするし、昔のパックなら1000円超えなんてのはザラだな」
「……なるほど。パックに金を使う総額を考えると、シングルで買った方が安いことが多いってことか?」
「もちろん運に自信があるならパックで買うのもいいがな。一枚5000円のカードが320円で買えたなんてのもあり得なくはないからな」
「もうほとんど宝くじじゃねーか」
承太郎の冷静なツッコミをものともせず、ジョセフは自慢げに言った。
「余談じゃが、ワシは友人とシールド戦をやろうと思って6パック買ったのじゃが、6パック中5パックが神話レアじゃったぞ。しかも一枚はFOILじゃった」
「……ジョースターさん、冗談キツいです」
「いやいや、ホントじゃぞ花京院?」
ニヒヒ、と笑うジョセフをやや疑わしげに見る花京院だった。
「ちなみに総額いくらだったんだ」
「1万円くらいかの。当時の時価でな」
「ジョースターさん、エキスパンションは?」
「『アヴァシンの帰還』じゃったぞ」
「結構最近じゃねーですか!? すげー!」
わいわい盛り上がる三人だったが、微妙についていけていない承太郎は何の感情もこもらない目で三人を見ていた。
「えーと、ところで何の話をしていたんじゃ?」
「ああ、今承太郎に5種類の色の役割を教えたところです」
「ふむ、それなら次はカードの種類かな。花京院、すまんが一通り出してもらってもいいか?」
「もちろんですよジョースターさん」
そう言うと、花京院はてきぱきとカードを並べ始めた。
「承太郎、まずこれがクリーチャーカードだ。ここにクリーチャーと書いてあるじゃろ」
ジョセフが指さしたのは、イラストのすぐ下、テキストボックスに挟まれた狭いスペースだった。そこには「クリーチャー――人間」と書いてあった。
「クリーチャー、人間」
「そうだ。こいつはクリーチャーで、種族は人間ということだな。戦闘の要となる奴らだ。もちろん、このクリーチャーを用いないデッキもあるがな」
「クリーチャーを用いない? じゃあどうやって戦……」
ふと承太郎が机に視線を落とした。そこには先程見ていた『ショック』というカードが置いてあった。
「……こういうので戦うのか?」
承太郎が『ショック』をつまみ上げると、ジョセフは顔をほころばせた。
「そうだ。さすがワシの自慢の孫だ。あえてそういった火力カードだけでデッキを構成し、勝つというデッキもあるのじゃが……まぁ、やや上級者向けか。あまり初心者にはオススメは出来んな」
次にジョセフは、その横に並べてあったカードをつまんだ。
「そしてこれが『ソーサリー』だ。今承太郎が持っておるのはその仲間の『インスタント』じゃな。どちらも使い捨ての魔法であることには代わりがない」
「……どう違うんだ?」
「『ソーサリー』は大規模な魔法じゃからの、自分のターンでだけ使える。対して『インスタント』は小回りの利く軽い呪文じゃから、相手のターンだろうがなんだろうがいつでも使えるんじゃ」
「じゃあ『インスタント』をたくさん入れておけばいいってことか?」
「これがそうもいかん。『インスタント』だけでは窮地に対処しきれんこともあるから、ある程度『ソーサリー』も欲しい。バランスが大事ということだ」
「なるほどな」
「似たような物として、これは『エンチャント』。破壊されない限り、場に残り続ける結界じゃの。特定の対象につけるタイプの物は『オーラ』と呼ばれるが、場全体に付くのは『エンチャント』と呼び名が違う。これもまた準備がいるから、使えるのは自分のターンだけじゃの。基本的には強化するものが多いか」
「『怨恨』とかいやらしいことこの上ないですけどね……」
ぼそりと花京院がつぶやき、手に持っているカードには、何やら両手から電気のような物を出している人らしき姿が描かれていた。
「あとこれが『アーティファクト』。これは場に置いておいて、何かしらのコストを払ったりすることで能力を使う、通称『置物』だ。他にも、場に出してから装備コストを支払うことでクリーチャーを強化する『装備品』だとか、アーティファクトでありながらクリーチャーでもある、『アーティファクト・クリーチャー』なんてのもいる。色はないからどんなデッキでも入れられるのが魅力じゃな。コストはやや高くなるが」
「置物」と呼ばれたカードには綺麗な光を出すランプが描かれており、 『装備品』には剣が描かれ、『アーティファクト・クリーチャー』には何やら人の形をした機械が描かれていた。
「あとは……ううむ、これは説明するべきか……?」
ジョセフが手に持っているカードには、『プレインズウォーカー』と書かれていた。
「あれ? ジョースターさん、プレインズウォーカーって俺達プレイヤーのことじゃねーんですか?」
ポルナレフも不思議そうな顔をしてそれを眺めていた。どうやら彼も知らないらしい。
「何じゃ花京院、ポルナレフに説明しとらんのか?」
「ええ、僕の今使ってたデッキには入ってませんし、説明するとややこしくなるかなと思って」
「ポルナレフはまだ始めて日が浅いのか?」
「おう、俺はまだ始めて二週間程度だな」
承太郎の質問に、人懐こそうな表情を浮かべて言うポルナレフ。承太郎はポルナレフも初心者だと知って内心少し安堵していた。
「まぁ、ならついでに説明してしまおう。この『プレインズウォーカー』というカードはな、もう一人のプレイヤーなんじゃ。プレインズウォーカー仲間のよしみで助っ人に来てくれておる。まぁ、呼ぶのにマナはかかるがの。移動費払っとると思えばいいじゃろう。そして、大概能力を三つ持っており、発動するにはこの左下にある数字の忠誠度の増減が必要じゃな。上から順にプラス能力、小マイナス能力、大マイナス能力と並んでおる。もちろん、下に行くほど強力だ。この忠誠度はライフも兼ねていることには注意が必要だな」
「……ん?」
ポルナレフは首をひねり出した。
「まぁ理解しづらいじゃろうがの……。相手にしてみれば的が増えたということかの。それでもプレイヤーのライフがゼロになればやはり負けは負けじゃから、時にはいても無視されたりもするがな」
「例えばポルナレフ、君とDIOがスタンドで戦っているとして、君がプレイヤー、助っ人である『プレインズウォーカー』はシルバー・チャリオッツだと思えばいい。違うのはシルバー・チャリオッツに入ったダメージは、君には反映されないということ。でもだからと言って、シルバー・チャリオッツが重傷を負ってしまえば戦えなくなるだろう? でも君がいる限り、例え戦いの場に出てこれなくともシルバー・チャリオッツの存在は消えない。逆に言えば、シルバー・チャリオッツがいても君本体を殺されればシルバー・チャリオッツもいなくなってしまうじゃないか?」
花京院の助け舟に、ポルナレフの眉間に寄っていたシワがすっとなくなった。
「おー、分かりやすいな。でもDIOは本体も強いぜ?」
「そこは考慮しない方がいい。DIOもただの人間だと思えばいい」
「うーん」
「……なるほどな」
承太郎も少し分かりづらかったが、花京院の説明のおかげでなんとなく理解することは出来た。
「ではまとめるか。おっと、土地は一枚でマナを1つ出せるが、1ターンに1枚しか原則置けないぞ。それと、マナは持ち越しは出来ん。1ターン以内に使い切らないと出しても消えてしまうからな。
クリーチャー:戦いの要。能力でサポートしたり、直接殴りあったりする
ソーサリー:大規模な呪文。唱えるには準備がいるので自分のターンでないと無理。
インスタント:小規模な呪文。準備がいらないのでいつでも唱えられる。
エンチャント:結界。対象を取るならオーラ、取らないならエンチャント。準備が必要なのでソーサリーと同じ、自分のターンでしか唱えられない。
アーティファクト:魔法機械。マナさえ入れれば動く。装備品は装備コストが必要。破壊されない限り場にとどまる。
プレインズウォーカー:要は自立型スタンドのような物。三つの能力でサポートしてくれるが、この自立型スタンドが死んだだけでは本体は死なない。
土地:マナを生み出すが、1ターンに1枚しか置けない。生んだマナはそのターンで使わないと、次のターンに移る時に消える。
これでいいか?」
「なるほど……色々あるんだな」
「さて、とりあえずこんな物か? あとはスタックなどもあるが……これは実際にやってみたほうがいいじゃろう。さて承太郎。気に入った色はあるか?」
「そうだな……緑・白・赤は俺に合いそうだな」
「ふむ、なら緑白か赤緑か。承太郎のスタープラチナもパワータイプでありながら精密作業も得意だしな」
「承太郎はどっちがいい? 緑白だと緑のパワーを白で守ったり出来る、攻守バランスが取れたデッキになるけど、赤緑だと攻撃特化みたいになるかな。もちろん、デッキの組み方次第でその限りではなくなるけど」
「……三色っていうのはあるのか?」
「あるけど……最初だから1・2色でデッキ組んだ方がいいと思うよ。事故も多くなるし、何より動きが複雑になるからちょっと厳しいかも」
「なら……緑白にするか」
そう承太郎が言った途端、花京院とジョセフはにんまりした。
「じゃ今から買いに行こうか承太郎。お金ある?」
「ないならワシが貸してやってもいいぞ?」
「おー、俺も行く行く!」
ポルナレフもうれしそうに騒ぎ出し、あっという間に男四人でカードショップに行くことになった。
「……やれやれだぜ」
――某カードショップにて
承太郎にとっては初めて訪れたカードショップは、やたらと人がいて混雑していた。妙にざわざわしているスペースでは、椅子と机が延々と並んでおり、そこでは人々が思い思いにカードゲームをしていた。
カードを陳列してあるウィンドウでは、いくつものカードが並べられており、それぞれ値段がついていた。英語版と日本語版、という風にあるように、言語によって値段が違うらしかった。決して広くはないスペースに、人がぎゅうぎゅう詰めになってカードを眺めている様は、承太郎の目にはややシュールに見えた。
また、カードの詰まった箱から束を取り出し、一枚一枚を見ている人もいた。その束も、保護のためらしいプラスチックのシートのような物がかけられているのとかけられていないのと分けられていた。
「どうしようか? とりあえずポルナレフみたいにスタンでやってみる?」
「スタンって何だ」
先ほどから耳慣れない単語ばかりと今の目慣れない環境で、さすがの承太郎もやや混乱気味であった。
「フォーマットの一つで、スタンダードの略だよ。最大で最新ブロック2つと、基本セット2つのカードでプレイするんだ。今はイニストラードブロックのエキスパンション三つとラヴニカへの回帰ブロックのエキスパンション一つ、基本セット2013のカードでやるのがルールだよ」
「……いい加減頭が痛くなってきたぜ」
「まぁ要は最新セットだけで遊ぶ、古参新参問わず出来るルールということじゃ。他にもフォーマットはあるが……まぁ今は混乱させるだけだからいいか」
そういうと、ジョセフはひょいと何か箱を手にとった。箱には「潜行と征服」と書かれていた。
「これは黒緑じゃが……これを買って黒を抜いて白にして遊ぶのがいいか」
「そうですね、『スラーグ牙』も入っててお得ですし。……承太郎、じゃあとりあえずこれ買ってデュエルスペースの場所取っといてもらえる?」
承太郎は「潜行と征服」というデッキを持ってレジに並び、会計を済ませてデュエルスペースなるところへ向かった。適当に四人で座れそうなところを見つけ、そこに陣取ると、スペースをぐるりと見渡した。
壁一面にポスターが貼られていて、綺麗なイラストもついている。よくよく見ると、カードリストを兼ねているらしいポスターもあった。暇つぶしにちょうどいいと、承太郎はじっくり見始めた。
カードリストをポスター三枚分ほど見終わった時、花京院たちがこちらに向かってきた。
「おまたせ、承太郎」
「このカードは綺麗だな花京院」
「どれどれ? ……ああ、『天使の壁』か。確かにイラストは綺麗だよね」
「それはそうと、承太郎、ほれ」
ジョセフが承太郎に手渡したのは、たくさんのカードパックだった。
「現行スタンのイニストラード・闇の隆盛・アヴァシンの帰還・M13・ラヴニカへの回帰のパック3つずつじゃ。これでそれぞれ緑と白のカードを選りすぐってデッキを作るといいじゃろう。あと土地くらいならくれてやろうかの。小遣い代わりじゃ」
「……」
無言でパックをぴりぴりと開け始める承太郎を見て、花京院が承太郎の後ろに回り込んだ。
「じゃあジョースターさんはポルナレフに助言してあげてもらえますか。僕は承太郎側に付きます」
「わかった。どれポルナレフ、デッキはどうなった……」
数十分後、ポルナレフも承太郎も、デッキを整えることが出来た。
「承太郎、君そのパック運はおかしいよ」
「そんなことを言われてもな」
「正直不安じゃが……いいかポルナレフ、相手はあの承太郎じゃ。何が飛び出してくるか分からんぞ」
「悪いな承太郎、最高のデッキが出来ちまったぜ!」
「じゃあ承太郎、先攻後攻を決めるためにダイスを振ろう。はい」
花京院の手に握られていたのは、妙に面の多い安定感に欠けていそうなダイスだった。
「……こんなダイス初めて見たぜ」
「20面ダイスって言ってね。まぁボードゲームとかカードゲームではよく使われたりするかな?」
花京院の細い指先から、承太郎のごつごつとした手のひらにダイスが落とされる。承太郎は何も考えずにひょいとダイスを落とすように振った。
「……2」
「おいおい承太郎、20面ダイスでそれはねーだろ。6面じゃねーんだし、さっ」
ポルナレフはさっと奪い取るようにダイスを掴み、ひょいと投げた。
「……7」
それを見てポルナレフはどことなく拍子抜けしたような、花京院は微妙な表情をした。
「ポルナレフ、君もあまり人のことを言えない数値だぞ」
「なんでだよ!? 6面ならデねーだろこの数字はッ!」
「20面なんだから偉そうなことを言うなら10以上は出せよ」
「う、ウルセーな! 先攻はもらうぜ!」
そう言うとしゃっしゃっと適当にポルナレフはシャッフルを始めた。
「これを切ればいいのか?」
「ああ、承太郎。さっきデッキを組んだばっかりだから、なるべくよく混ざるように、十箇所に分けて切るようにするといいよ。枚数確認にもなるし」
「十箇所? こうか?」
承太郎はまずカードを上段五枚、下段五枚と並べてみせた。
「そうそう。それで上に順番にまた重ねて行くといいよ。こうしたほうがよく混ざるから。特にデッキ作った直後ってカードが固まってるからね」
承太郎はあまり慣れない手つきであったため、速度は早くはなかったがなんとか切り終えた。その頃にはポルナレフはもう手札を引いてぼーっとしていた。
「おいポルナレフ、いくらなんでもそれはマナー違反だろう。後攻のマリガンチェックだってしてないし」
「カテーこと言うなよ花京院、どうせ先攻がマリガンチェックしてOKなら後攻がマリガンチェックじゃねーか」
「マリガンって何だ、花京院」
機嫌が悪そうな表情をしていた花京院は、質問を受けた途端に穏やかな顔に戻って答えた。
「ああ、ごめんよ承太郎。マリガンっていうのは、最初に手札を7枚引くんだけど」
「こうか?」
「そうそう……あー、なんとも言えない手札だね……まぁ悪くはないけど。ここでもし手札を変えたいと思ったら、マリガンって言ってもう一回この手札を山札……残ったカードの束のことで、ライブラリーとも呼ぶんだ。そこに混ぜて、切り直して、一枚減らして6枚引くことが出来るんだ」
「もしそこで手札が悪かったら?」
「そしたらもう一回出来るよ……まぁ、一枚ずつ減っていくから次は5枚、4、3、2と減っていくし、正直ダブルマリガンくらいまでが許容ラインだと僕は思うな……」
ふんふん、と承太郎は頷いた。が、自分の手札の良し悪しは結局分からなかったため、聞いてみることにした。
「花京院、俺のこの手札はいいのか?」
承太郎手札:森×3、怨恨、忘却の輪、国境地帯のレインジャー×2
「うーん、まぁ悪くはないよ。とりあえずこれで行ってみようか」
「分かった」
承太郎がふっと前に向き直った時、ジョセフとポルナレフが何やら言い合いをしていた。
「ポルナレフお前正気か!? この手札をキープじゃと!?」
「いや大丈夫ですってジョースターさん、見てて下さいよ俺のトップデッキ力!」
「ええいフラグを建てるのはやめろ! 素直にマリガンした方が……」
「いやいや、大丈夫ですって! ジョースターさんは心配性ですねぇ!」
「どうなってもワシは知らんぞ……」
ポルナレフは得意満面、ジョセフは不安そうな表情という、なんとも両極な態度の二人だったが、承太郎にとっては都合がいいだけだ。特に祖父のアドバイスを聞かずにポルナレフが暴走しているのなら。
「(ジジイのことだ……まさか初心者相手にイカサマとかはやってこねーとは思うが、抜け目ないジジイのアドバイスをポルナレフが無視したってことは……勝機が見えるかもしれねーな)」
「じゃあ、ポルナレフが先攻だね。出来るだけゆっくりやれよ、承太郎は初めてなんだからな」
「変な言い方すんなよ……俺のターン、先攻だからドローなしで、平地セット。で、エンドだ」
ポルナレフセット:平地
これはどういう状態なのか、全くわかっていない承太郎がひょいと上を向いて花京院の表情を見てみると、花京院はやや目を丸くしていた。
「……ジョースターさんの言ってたことが正しそうだなぁ……あ、承太郎。後攻の人はまずターン始めにドローが出来るよ。ドローっていうのはカードを引くことだ。さぁ、1枚引いて」
「引いたぞ」
承太郎ドロー:東屋のエルフ
「おっ、結構理想的なドローだね。じゃあターンが始まったら、まずやることは土地を置くことだね」
「土地……この森って奴か?」
ひょい、と扇状に広げていた手札から『森』というカードを一枚つまむと、花京院は頷いた。
「そうだね。土地を置くことをセットランドって言うんだ。最初はとにかく色々忘れるし、また相手に行動を宣言して不正がないことを証明するためにもいちいち口に出して行動宣言することをオススメするよ」
「じゃあ……セットランド」
承太郎セット:森
「土地は自分のターンにだけ、一枚しか置けないから注意してくれ。そしたら、今度は森一枚で出せるカードを探すんだ。どれだか分かるかい?」
「さっき引いたこいつか?」
承太郎は、手札から今度は『東屋のエルフ』をつまみ上げた。
「それだね」
「これはダメなのか?」
つんつん、と承太郎が手札にあった『怨恨』というカードをつついたが、花京院は首を横に振った。
「これはまだ先。先にこっちだね。クリーチャーを呼ぶ時はキャスト、って言ったり、~を唱えます、って言ったりするよ。あ、先に森をタップ、横向きにして使いますってことを宣言してね」
「ふーん……なら、森をタップして『東屋のエルフ』をキャストするぜ」
承太郎キャスト:
東屋のエルフ (緑)
クリーチャー — エルフ(Elf) ドルイド(Druid)
(T):森(Forest)1つを対象とし、それをアンタップする。
1/1
「おっ、調子良さそうだな承太郎!」
ポルナレフは笑顔で褒めてくれているらしいが、承太郎は喜ぶべきなのかどうかすら分からなかった。
「やってる当の本人の俺にはよく分からねぇんだけどな……」
「さて、説明と行こうかな。クリーチャーは、別の世界からみんな呼び出されてるから、召喚したそのターンには『召喚酔い』してるんだ。長距離移動で気持ち悪くなっちゃってとてもじゃないけど動ける状態じゃないんだ。だから、動くには次の自分のターンまで待たないとダメだよ」
「じゃあこいつは酔ってるのか」
承太郎は『東屋のエルフ』を指さした。
「うん。だから、今承太郎が出来ることは特にないよ。ターンを終える時には、ターンエンドって言うんだ」
「ターンエンド」
そう言った途端、ポルナレフはぱっと顔を輝かせた。
全体場:
ポル土地 平地
承太郎クリーチャー 東屋のエルフ
承太郎土地 森
「よーし俺のターン! ジョースターさん見てくださいよこの神引きをッ! アンタップアップキープドローワンッ!」
やたらと大げさにポルナレフはバッ! とカードを引いた。
「……」
ポルナレフは何も言わずに、うつむいて『平地』をセットし、承太郎に向かって手のひらを上に向けて伸ばした。どうぞ、というサインのつもりらしい。
「何が神引きじゃ……」
ぼそっとジョセフがそう呟いた。
ポルナレフセット:平地
ポルナレフ場:平地×2
「……ひょっとして土地事故起こしてるままスタートしたのかいポルナレフ」
「そ、そんなわけねーだろー」
「……ハァ。というか君単色デッキなのにどうやったら事故が起こるんだ? さては二色目でも入れたか」
「さーなァー」
口では強がって見せていたが、明らかにポルナレフは動揺しているようだった。やはり図星らしい。
「おい花京院、俺はどうすればいいんだ?」
「おっと、ごめんごめん。さっきポルナレフがドローする前に言ってたセリフ覚えてるかい?」
そういえば何やら長ったらしい呪文のような物を言っていた、何だったか、と承太郎は記憶をたどった。
「アンタップアップキープドローワン、だったか」
「うんそれ。フェイズの進行を表してるんだ。まずアンタップステップっていうのがあって、それを説明するにはタップについても説明しなくちゃいけないんだけど。さっき森をタップって言って横にしたよね? それと承太郎、場に出ている『東屋のエルフ』を見てくれるかい」
「こいつか。なんか矢印がついてるな」
『東屋のエルフ』のテキストボックス内には、右に向かって曲がっている小さな矢印がついていた。
「そうそうそれ。それはタップシンボルって言って、カードを横向きにする行動を必要とすることを表しているんだ。タップする、つまり行動する・行動中ってことなんだ。これもクリーチャーの場合、召喚酔いの影響を受けるから注意してくれ」
「つまり召喚したばかりのクリーチャーはとにかく行動が出来ない、と」
「うん。攻撃にも行けないよ。動くのが辛いからね。それで、アンタップステップは、ターンの始めにタップ状態になっている物すべてを元の縦向きに戻すんだ。縦に戻すことをアンタップ、っていうんだ」
「アンタップ」
そう言うと、承太郎は森と「東屋のエルフ」を縦向きに戻した。
「そうそう。で、アップキープなんだけど、今は特に何もないから無視して大丈夫だよ。何かある場合は、『アップキープに~』とか『アップキープの始めに~』なんて書いてあるカードが場にあった場合だけだからね」
「じゃあ今はいいんだな。アップキープ」
「うん。で、ようやくドローだね」
「ドローワン」
承太郎ドロー:森
「まぁそうそう良いドローが続くわけないか。さて承太郎。まずやることは?」
「セットランド、だな」
承太郎セット:森
承太郎場:森×2
「そうそう。そうしたら、この『東屋のエルフ』も動けるようになってるから、能力を見てみてくれるかい?」
東屋のエルフ (緑)
クリーチャー — エルフ(Elf) ドルイド(Druid)
(T):森(Forest)1つを対象とし、それをアンタップする。
1/1
「……タップ、して森をアンタップする?」
「どういうことか分かるかい?」
「こいつをタップすると、森をアンタップ出来る……?」
ひとまず読みあげてみたが、承太郎にはどういうことなのかさっぱり分からなかった。
「まぁよく分からないよね。例えば、森を2枚タップすると、出るマナは2つだろ? ところが、こいつで森をアンタップしてやると、森がもう一度使えるから3マナ出る。まぁ、東屋のエルフが1マナ出してるような物かな。実際には細かいところが違ったりするけど」
「なるほど、緑はマナを生み出すのに優れているってこういうことか」
前に花京院が説明していたことを思い出して言うと、花京院は嬉しそうにした。
「そうだよ承太郎。さて、3マナ出ると分かった今、出来ることは?」
「……こいつをキャストか。『国境地帯のレインジャー』をキャスト」
承太郎キャスト:
Borderland Ranger / 国境地帯のレインジャー (2)(緑)
クリーチャー — 人間(Human) スカウト(Scout)
国境地帯のレインジャーが戦場に出たとき、あなたはあなたのライブラリーから基本土地カードを1枚探し、それを公開し、あなたの手札に加えてもよい。そうした場合、あなたのライブラリーを切り直す。
2/2
承太郎場:
タップ状態→東屋のエルフ、森×2
アンタップ状態→国境地帯のレインジャー(召喚酔い)
「花京院、こいつが戦場に出た時……はどういうことだ?」
「うん、『国境地帯のレインジャー』が場に出たら、ライブラリーを見て、そこから基本土地カードを一枚手札に持ってくることが出来るんだ。これのいいところは足りない土地があれば持って来られるし、先に土地を取り出しておくことで欲しいカードを引く確率をあげられるし、何よりその効果に平均的な能力のクリーチャーがついて来るっていうのは魅力だよね」
「ライブラリー、ああ山札か。見ていいのか」
山札を豪快に掴みあげたはいいが、少し見ていいのかと逡巡する承太郎に、花京院は頷いた。
「うん、いいよ。基本土地って書いてあるカードだけだからね、持って来られるのは。今はそうだね……バランスが悪いから、平地にしようか。あ、『公開する』から、一応ポルナレフに見せてね」
承太郎手札入り→平地
「オッケー、確認したぜ」
「そしたら、またやることがなくなっちゃったからエンドかな」
全体場:
ポル土地 平地×2
承太郎クリーチャー 東屋のエルフ(タップ)
国境地帯のレインジャー
承太郎土地 森×2(タップ)
「結構下積みの時間がかかるんだな」
「かからないデッキもあるけどね」
和気あいあいと二人が喋っているのに対し、完全にお通夜ムードなジョセフと、一人やたらとハイテンションなポルナレフという絵面が出来上がっていた。
「よーし今度こそッ! アンタップアップキープドローワンッッ!! ……ほーら見て下さいよッジョースターさんッ! 引いてきたじゃないですかァッ!」
「今更遅いわい! どうするんじゃこれから!? 現行スタンの緑の爆発力を舐めてないかポルナレフッ!?」
「だーいじょうぶですって! ってことでセットラーンドッ!」
ポルナレフセット:沼
「『沼』……!? ポルナレフ、どういう心境の変化だ……? あれほど黒を蔑みまくっておいて、黒をデッキに入れているだと……ッ!?」
「……で、3マナタップ、『アクラサの守護者』キャストッ!」
ポルナレフキャスト:
Guardians of Akrasa / アクラサの守護者 (2)(白)
クリーチャー — 人間(Human) 兵士(Soldier)
防衛(このクリーチャーは攻撃できない。)
賛美(あなたがコントロールするいずれかのクリーチャーが単独で攻撃するたび、そのクリーチャーはターン終了時まで+1/+1の修整を受ける。)
0/4
「ああなんだ。ただの白黒賛美ートか。しかも微妙に構築向きでない」
「か、花京院!? お前いつの間に人の心を読めるようにッ……!? もしや、新たなスタンド能力が目覚め」
「これくらいMTGやってる人なら大体想像つくよ」
承太郎には上級者同士の会話としか思えなかったが、分からないところはまず聞こうと思い、申し訳ないながらも二人の会話に割り込むことにした。
「花京院、あの『防衛』とか『賛美』って何だ?」
「『防衛』っていうのは、攻撃に参加出来ない、ブロック専門だってことさ。『賛美』は、何か自分のクリーチャーが単体で攻撃に向かった時、場にある『賛美』の数だけその単身向かっていくクリーチャーを強化出来るキーワード能力さ。2文字の熟語が書いてあったらだいたいキーワード能力だと思ってくれていいよ。まぁたまに2文字じゃないのも混ざってるけど。まぁ、横に説明が書いてあるからじっくり読むといいよ。書いてなかったら聞いてくれれば教えてあげるよ」
「ブロックとかキーワード能力って何だ花京院」
「あー……えーと。ブロックは戦闘になった時教えるよ。キーワード能力っていうのは、長々と説明を書くとテキストボックスに入りきらなくなっちゃうから、短く単語でまとめた能力のことだよ。印つけとくから分かれよ、みたいな感じかなぁ」
了解した、という印の代わりに承太郎は頷いた。
「で、俺はターンエンドするぜ!」
全体場:
ポル土地 平地×2(タップ) 沼(タップ)
ポルクリーチャー アクラサの守護者
承太郎クリーチャー 東屋のエルフ(タップ)
国境地帯のレインジャー
承太郎土地 森×2(タップ)
「アンタップアップキープドロー」
承太郎ドロー:エルフの幻想家
「うん、いいんじゃない。そしたら、ちょっと中級テクニックを教えるよ」
それを聞いて承太郎は嬉しいやら困るやら、複雑な顔をした。
「それはありがたいが、あんまり複雑だとただでさえこんがらがってる頭が大変なことになりそうだぜ……」
「大丈夫だよ。結構単純だから。それは『基本的に戦闘前にはクリーチャーを展開しない』だよ」
そう聞いても、どこかテクニックなのか承太郎にはやっぱり分からなかった。
「……? 戦う前に出したらマズイのか?」
「うん、あのね。例えば承太郎が戦闘前に一体クリーチャーを出すためにマナを使いました。そして戦闘に行きました。そしたら敵が反撃してきました。手札にはそれを凌ぐことが出来るどころか、もっといい結果をもたらすことが出来るカードがあります。ところが……」
「なるほど、そういう時にマナが足りない、って状況を防ぐ為だな?」
「察しがいいね。要はそういうことさ。まぁ、例外として場に出すと強化出来るカードなんかは先に出した方がいいけどね」
そう聞いて、承太郎は自分の手札に視線を落とした。
「とすると……まずはセットランドしてから、『怨恨』をキャストか?」
承太郎セット:平地
承太郎キャスト:
Rancor / 怨恨 (緑)
エンチャント — オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーは、+2/+0の修整を受けるとともにトランプルを持つ。
怨恨が戦場から墓地に置かれたとき、怨恨をオーナーの手札に戻す。
「そうだね。あ、『怨恨』をつける先も宣言しなきゃね」
クリーチャーにつけるらしい、とテキストを読んで理解した承太郎は、『東屋のエルフ』と『国境地帯のレインジャー』を見た。
「どっちがいいんだ?」
「そうだね。これからまだまだ仕事をしてもらう『東屋のエルフ』よりも、もうすでに仕事を終えている『国境地帯のレインジャー』の方がいいかな。パワー・タフネス共にこっちのほうが強いし」
「じゃあ、『怨恨』を『国境地帯のレインジャー』につけるぜ」
承太郎キャスト:怨恨→国境地帯のレインジャー
「ゲッ!? 怨恨じゃねーかッ!?」
「まぁ仮に君が『消去』持っててもそれはそれでいいけどね。じゃあ承太郎、いよいよ初めての戦闘に入るよ。初めての戦闘が『怨恨』付きだなんて豪華だね!」
Erase / 消去 (白)
インスタント
エンチャント1つを対象とし、それを追放する。
「花京院、この『トランプル』って奴はキーワード能力か?」
「そうだよ。えーと、戦闘フェイズについて説明しちゃおうか。戦闘フェイズは細かく分けると戦闘開始ステップ、攻撃クリーチャー指定ステップ、ブロック・クリーチャー指定ステップ、戦闘ダメージ・ステップ、戦闘終了ステップの順だよ。細かいけど、各ステップの開始や最中、終了時に色々悪さが出来るからそれもまぁMTGの魅力だね。で、今とりあえず戦闘に入る、って宣言しようか」
「ポルナレフ、戦闘に入るぜ」
「おー、どうぞー……」
明らかにポルナレフはがっくりと肩を落としていた。
「……分かりやすい奴だな。じゃあ攻撃クリーチャー指定ステップだね」
「『国境地帯のレインジャー』を選ぶぜ」
「そしたら、ポルナレフ、ブロッククリーチャー指定ステップだぞ」
「……ブロックはしねーよ」
相変わらずがっくりしたままポルナレフは返事をした。
「ブロック?」
「うん、今、ポルナレフの場には『アクラサの守護者』がいるだろう? クリーチャーを盾にすることをブロックって言うんだ。これはするかしないか、基本は選べるよ。なんてったって使役してるのはプレイヤーだからね。命令は絶対なのさ」
「ポルナレフは何でブロックしねぇんだ?」
「まぁ、まだ最初のダメージだからっていうのもあるかな。ライフも立派なリソースだって考えられるようになったら初心者卒業かな? じゃあポルナレフが何もしないならこのまま戦闘ダメージ計算に入ろうか。あ、トランプルはとりあえず無視していいよ」
「こうなるとどうなるんだ花京院」
「ブロックされなかった場合は、相手本体に一直線さ!」
ポルナレフライフ:20→16
「で、戦闘終了ステップ。そして第二メインフェイズ」
「……花京院、先にターンの流れを教えてくれ」
「いいよ。各ターンの流れは、
●開始フェイズ
アンタップ・ステップ
アップキープ・ステップ
ドロー・ステップ
●メイン・フェイズ(戦闘前メイン・フェイズ)
●戦闘フェイズ
戦闘開始ステップ
攻撃クリーチャー指定ステップ
ブロック・クリーチャー指定ステップ
戦闘ダメージ・ステップ
戦闘終了ステップ
●メイン・フェイズ(戦闘後メイン・フェイズ)
●最終フェイズ
終了ステップ
クリンナップ・ステップ
こうなってるよ。承太郎、分かるかい?」
「なるほどな……メインフェイズは二回あるんだな」
「そうそう。で、みんな大体この戦闘後メインでクリーチャーをキャストしたりするんだよ。相手の出方を伺ってから動くって感じかな。自分から動くのはあんまりよくないかもね、不必要に情報与えてもこっちが不利になるだけだし」
たかがカードゲーム、と承太郎は思っていたが、かなり頭を使うゲームであるとわかり、承太郎は認識を改めた。
「色々考えてるんだな……で、えーとどうするか……」
承太郎手札:国境地帯のレインジャー、忘却の輪、エルフの幻想家、森×2
承太郎場:東屋のエルフ
国境地帯のレインジャー+怨恨(タップ)
土地:森・平地、森(タップ)
「そうだね……ここはもう一枚出しておこうか」
「分かった。森と平地をタップして、『東屋のエルフ』で森をアンタップしてもう一回森タップ、3マナで『国境地帯のレインジャー』をキャスト。平地を持ってくるぜ」
承太郎手札入り→平地
「ターンエンドだな」
全体場:
ポル土地: 平地×2 沼
ポルクリーチャー: アクラサの守護者
承太郎クリーチャー:東屋のエルフ(タップ)
国境地帯のレインジャー+怨恨(タップ)
国境地帯のレインジャー
承太郎土地:森×2(タップ)、平地(タップ)
「慣れてきたみたいだね承太郎。飲み込みが早いから僕も教えやすくていいよ」
そう聞いた途端、ポルナレフが涙目で騒ぎ始めた。
「チクショー承太郎ばっかり! 俺は? ねぇねぇ俺はァ?」
「うるさいぞポルナレフ、さっさとドローしろよ」
「ひでぇよ花京院ドロー!」
ポルナレフの引いてきたカードを見て、ジョセフは顔をしかめた。
「……ポルナレフお前、本当に引き運弱いな……」
「じょ、ジョースターさんまで!? チクショーセットランドォ!」
ポルナレフセット:平地
「だけどそこまでだぜ承太郎! 喰らえ『忘却の輪』!」
ポルナレフキャスト:
Oblivion Ring / 忘却の輪 (2)(白)
エンチャント
忘却の輪が戦場に出たとき、他の土地ではないパーマネント1つを対象とし、それを追放する。
忘却の輪が戦場を離れたとき、その追放されたカードをオーナーのコントロール下で戦場に戻す。
「うわ、またもったいない真似するなぁ……」
「うるせーうるせー! 対象は『怨恨』だ!」
「……?」
微妙な表情をする花京院に、反発するポルナレフ。承太郎は首をひねった。
「パーマネント、っていうのは場に残っている、残り続けているカード全部を指すよ。土地も入るけど、テキストには『土地ではない』ってあるから、土地は除外されるね。で、対象を取るけどポルナレフは今『怨恨』を選択した。で、『怨恨』は追放される。『破壊』ではないから注意してね承太郎。『怨恨』はまぁ、『忘却の輪』のカードの下にでも置いておこうか」
Rancor / 怨恨 (緑)
エンチャント — オーラ(Aura)
エンチャント(クリーチャー)
エンチャントされているクリーチャーは、+2/+0の修整を受けるとともにトランプルを持つ。
怨恨が戦場から墓地に置かれたとき、怨恨をオーナーの手札に戻す。
「……手札に戻ってきたりは」
「しないね。テキストには『戦場から墓地に置かれた時』ってあるだろう? 墓地っていうのは使い終わったカード、死んでしまったクリーチャーが行くところさ。怨恨の条件は『破壊』されたりしたら手札に戻ってくるけど、今は『追放』だから戻っては来ない。戻したければ『忘却の輪』を破壊しないとね」
「なるほどな」
「まだまだ俺のターン! 俺は更に黒1マナで『任務に縛られた死者』キャスト!」
ポルナレフキャスト:
Duty-Bound Dead / 任務に縛られた死者 (黒)
クリーチャー — スケルトン(Skeleton)
賛美(あなたがコントロールするいずれかのクリーチャーが単独で攻撃するたび、そのクリーチャーはターン終了時まで+1/+1の修整を受ける。)
(3)(黒):任務に縛られた死者を再生する。(このターン、次にこのクリーチャーが破壊される場合、それは破壊されない。代わりに、それをタップし、それに与えられているダメージをすべて取り除き、それを戦闘から取り除く。)
0/2
「また微妙なクリーチャーを……」
ボソッと小声で花京院は呟いたが、どうやらポルナレフの耳にはしっかり届いたらしい。あっという間にポルナレフが不機嫌になった。
「花京院!? テメー聞こえてんぞ!?」
「本当のことを言っただけじゃないか。何でそんな微妙すぎるクリーチャー入れてるんだい君は。金かけてちゃんとした白黒賛美ート組みなよ。シールド戦じゃあるまいし」
微妙微妙と連呼されている『任務に縛られた死者』だが、承太郎は絵面はまぁ悪くないな、と思っただけに何が悪いという印象は受けなかった。
「あれは微妙なのか花京院」
「正直言って、再生コストが高すぎるよ。ああ、再生っていうのは、破壊されるような時でも破壊されないようにする能力さ。わかりやすく言うと、DIOに攻撃しても攻撃しても血を飲むっていうコストを払ってることで常に死なない状態みたいな物さ」
「なるほど、身近にちょうどいいクリーチャーがいて助かったな」
「DIOって実質クリーチャーだよね。無駄にマナ・コスト高そうな黒単のクリーチャー。『グリセルブランド』みたいな」
Griselbrand / グリセルブランド (4)(黒)(黒)(黒)(黒)
伝説のクリーチャー — デーモン(Demon)
飛行、絆魂
7点のライフを支払う:カードを7枚引く。
7/7
「『グリセルブランド』ってなんだ花京院」
「マナ・コストがめちゃくちゃ高くて偉そうで、能力は高いけどなんか大雑把で、でもなんとなく愛されちゃうクリーチャーだよ」
「……なるほどDIOだな」
「ね」
あの旅を終えてDIOを倒した今となっては、もはやDIOはおちょくる対象くらいにしか思い出しもしなかった。
「DIOトークはどうでもいい! 俺はこいつが気に入ってるんだ!」
「ああそう。で、エンドだろ? さっさとターンエンドしろよ遅いな」
「花京院ひでぇぜ……ねぇ、ジョースターさん!」
「……すまん、正直何もコメント出来ん」
「……えー」
四面楚歌状態のポルナレフに、優遇されている承太郎は何も言ってやれなかった。
「……アンタップアップキープ、ドロー」
承太郎ドロー:アヴァシンの巡礼者
ひょいと承太郎のドローを覗きこんで、花京院は何度か頷いた。
「うんうん、まぁしょうがないね。どうしてもビートダウンはこうなっちゃうし。さて、怨恨もない今、攻撃しても全部止められちゃうから意味がないね。ここはクリーチャーを展開しようか、承太郎」
「ああ。セットランドして、森から『アヴァシンの巡礼者』をキャストするぜ」
承太郎セット:平地
承太郎キャスト:
Avacyn's Pilgrim / アヴァシンの巡礼者 (緑)
クリーチャー — 人間(Human) モンク(Monk)
(T):あなたのマナ・プールに(白)を加える。
1/1
「ついでに『東屋のエルフ』で森をアンタップ、今アンタップした森と、平地から合計2マナ出して『エルフの幻想家』をキャストする」
承太郎キャスト:
Elvish Visionary / エルフの幻想家 (1)(緑)
クリーチャー — エルフ(Elf) シャーマン(Shaman)
エルフの幻想家が戦場に出たとき、カードを1枚引く。
1/1
「えーと、で、ドローか」
承太郎ドロー:ウルフィーの銀心
「……承太郎、君の強運僕に分けてくれよ」
「分け方が分からん。……ええと、やれることは……」
承太郎手札:ウルフィーの銀心、森×2、忘却の輪
承太郎場:東屋のエルフ(タップ)
アヴァシンの巡礼者
エルフの幻想家
国境地帯のレインジャー×2
承太郎土地:森 平地 森(タップ) 平地(タップ)
「……ねぇな。エンド」
「承太郎君今すごいことになってるの分かってる?」
「なんかスゴソーということ以外はさっぱり分からねぇ」
「……そうかい」
全体場:
ポル土地:平地×3(タップ) 沼×1(タップ)
ポルクリーチャー:アクラサの守護者
任務に縛られた死者
承太郎クリーチャー:東屋のエルフ(タップ)
アヴァシンの巡礼者
エルフの幻想家
国境地帯のレインジャー×2
承太郎土地:森 平地 森(タップ) 平地(タップ)
現状を見て、ようやくポルナレフは焦りだした。
「ちょっとヤベェかも!? ドロー!」
「ポルナレフ、ちょっとヤベェどころじゃないぞ!」
「お! でもこれで承太郎が引いたっぽい何かに対抗できますよジョースターさん!」
ぱっと顔を輝かせてドローしたばかりのカードをジョセフに見せたポルナレフだが、ジョセフの表情は厳しいままだった。
「……一時しのぎにしかならんじゃろうがな。承太郎のデッキカラーを考えるに、ファッティが一匹二匹だけなんてことはありえんからな……」
「意外とそういう時って事故るんですよ! ってことでセットランド!」
ポルナレフセット:平地
「で、ここで沼から1マナで『任務に縛られた死者』をもう一体! 酔ってない方でアタック! 賛美がついて3/5だぜ! どうする承太郎ォー?」
得意げに言われても、不安だらけの初心者である承太郎は花京院に指示を仰ぐしかなかった。
「……花京院、これはどうしたらいいんだ?」
「通しちゃっていいんじゃないかな。たかが3点だし」
承太郎ライフ:20→17
「たかがって言ってると痛い目見るぜ? エンドだ!」
「それじゃあアンタップアップキープドロー……お。気に入ってる奴が来たぜ花京院」
承太郎ドロー:孔蹄のビヒモス
承太郎が嬉しそうな顔を見せると、花京院は妬ましげな目で承太郎を見た。
「ねぇ君の運どうなってるんだい本当に。主人公補正でもかかってるのかい」
「主人公補正って何だ花京院? とりあえずセットランド」
承太郎セット:森
「それで、森を2つに平地を1つ、『アヴァシンの巡礼者』から白1マナと、『東屋のエルフ』で森をアンタップして更に1マナ、合計5マナで『ウルフィーの銀心』をキャストするぜ」
承太郎キャスト:
Wolfir Silverheart / ウルフィーの銀心 (3)(緑)(緑)
クリーチャー — 狼(Wolf) 戦士(Warrior)
結魂(このクリーチャーか他のまだ組になっていないクリーチャーが戦場に出たとき、あなたはそれらを組にしてもよい。それらのクリーチャーは、あなたがその両方をコントロールしているかぎり組である。)
ウルフィーの銀心が他のクリーチャーと組になっているかぎり、それらのクリーチャーは+4/+4の修整を受ける。
4/4
「……花京院、出してみたはいいが『結魂』ってどういうことだ?」
「エキスパンション、『アヴァシンの帰還』で初出のキーワード能力さ。まぁ平たく言うと『はい二人組作ってー』って号令をかけられたからこの『ウルフィーの銀心』は二人組を作らなきゃいけないってわけだよ」
「ああ、体育の時間だな。こいつと誰を組にするのがいいんだ。やっぱり『国境地帯のレインジャー』か?」
体育の時間、と聞いて花京院が微妙な表情をした気がした。
「そうだね。それくらいしかちょうど良さそうなのもいないし」
承太郎場:ウルフィーの銀心→国境地帯のレインジャー
ウルフィーの銀心:4/4→8/8
国境地帯のレインジャー:2/2→6/6
「これでちょっとしたファッティが二匹でたようなもんだね。さてじゃあまた攻撃に行こうか承太郎」
「分かった。『国境地帯のレインジャー』で攻撃に入るぜポルナレフ」
それを聞いて、ポルナレフは眉間にしわを寄せた。
「あー……ここは痛ぇけどブロックしないでいいかな……」
ポルナレフライフ:16→10
「……これはマズいぞポルナレフ」
「いやいやジョースターさん、ここからですって!」
未だ希望を捨てずといったポルナレフとは対照的に、ジョセフの表情はやや悲観的だった。
「さっきはマナを残しておいた方がよかったかもしれん。そうすれば今再生持ちの『任務に縛られた死者』でブロックが出来たぞ」
「賛美ートが歩みを止めたら負けっすよジョースターさん!」
負けじと言い返すポルナレフに、ジョセフは首をひねるだけだった。
「俺はエンドだぜポルナレフ」
全体場:
ポル土地:平地×4 沼(タップ)
ポルクリーチャー:任務に縛られた死者(タップ)
アクラサの守護者
任務に縛られた死者
承太郎クリーチャー:ウルフィーの銀心
+国境地帯のレインジャー(タップ)
東屋のエルフ(タップ)
アヴァシンの巡礼者(タップ)
エルフの幻想家
国境地帯のレインジャー
承太郎土地:森 平地 森×2(タップ) 平地(タップ)
「こっから逆転アンタップアップキープドロー!」
「うわーもうワシは見たくないわい。どう見ても負けが見えとる」
「ちょ、ジョースターさん諦めないで下さいよ! ……うわ」
「今小声でうわって言ったじゃろ……」
「言ってないです言ってないですハハハハッ! ……セットランド」
ポルナレフセット:平地
「で、平地三枚でもう一回『忘却の輪』! 対象は当然『ウルフィーの銀心』!」
それを聞いて承太郎は少し寂しそうな表情になった。
「せっかくだから活躍してほしかったんだがな」
「活躍されたら俺が死ぬ!」
ポルナレフキャスト:忘却の輪→ウルフィーの銀心
「少しでもダメージ稼いどかねぇとマズいな! 『死者』でアタック!」
それを聞いて花京院はきょとんとした。
「え、攻撃に来るのかい? まぁいいけど」
だが、ジョセフは慌ててポルナレフに言った。
「それはやめておけポルナレフ! 次に備えておいたほうがいいぞ!」
「いやいや少しでも減らさないとダメっすよジョースターさん!」
何やら揉めたが、結局攻撃は取り消さないとポルナレフが堂々宣言した。
「スルーでいいな、花京院?」
「もちろんだよ」
承太郎ライフ:17→14
「よーし来るならこいエンド!」
「じゃあ遠慮無く行こうか承太郎」
にこっ、と花京院は笑った。
「えっ、マジで?」
あっという間にポルナレフはさっと顔色を変えた。
「……アンタップアップキープドロー」
承太郎ドロー:悪鬼の狩人
「……ここまで来るともうオーバーキルだね。まぁそれは放っといていいよ」
「セットランドして、森全部と平地全部で合計6マナ、『アヴァシンの巡礼者』と『東屋のエルフ』で2マナ稼いで合計8マナ……」
承太郎セット:森
「8マナじゃと!? OH MY GOD!! そんなカードをパックから引き当てたのか承太郎!?」
さすがにプレイ年数の長そうなジョセフは、何をするか想像がついたらしい。
「結構見た目も気に入ってるんだぜ……『孔蹄のビヒモス』キャスト」
ちょっとウキウキしながら、承太郎はクリーチャーを召喚した。
承太郎キャスト:
Craterhoof Behemoth / 孔蹄のビヒモス (5)(緑)(緑)(緑)
クリーチャー — ビースト(Beast)
速攻
孔蹄のビヒモスが戦場に出たとき、ターン終了時まであなたがコントロールするクリーチャーはトランプルを得るとともに+X/+Xの修整を受ける。Xはあなたがコントロールするクリーチャーの数である。
5/5
「一応説明するね承太郎。『速攻』っていうのは、召喚酔いしませんってことだよ」
「長距離移動に慣れてるんだな」
「そうだね。体が大きいからかもね。ああ、トランプルについて改めて説明するよ。トランプルは、トランプルを持つクリーチャーがブロックされた時、ブロッククリーチャーのタフネスを、攻撃しているクリーチャーのパワーが上回った時、その差の分ライフに直接振り分けられる能力だよ。貫通するイメージだと分かりやすいかな」
承太郎は頭の中で具体的な数字と置き換えてみた。
「つまり、パワー6で相手のタフネスが4なら、2点相手ライフを削れるってことか」
「そうそう。で、ついでに計算しちゃおうか。場にいるクリーチャーは、『ビヒモス』自身も数に入れていいから、みんな+6/+6だね。もう適当に全員で殴っちゃっていいよ承太郎」
半ば投げやりな感じで花京院が言ったが、承太郎は気にせず喜び勇んでタップしていった。
「そうか。じゃあ全員でアタック」
「フルアタックって奴だね」
今までの話を聞いていたポルナレフは固まっていて、一言発するのがやっとの様子だった。
「……え?」
ポルナレフ土地:平地×5 沼×1
ポルナレフクリーチャー:任務に縛られた死者(タップ)
アクラサの守護者→0/4
任務に縛られた死者→0/2
承太郎クリーチャー:孔蹄のビヒモス→11/11
国境地帯のレインジャー×2→8/8
エルフの幻想家→7/7
アヴァシンの巡礼者(タップ)
東屋のエルフ(タップ)
承太郎土地:森×4(タップ) 平地×2(タップ)
「ん? そういやタップしてる奴はブロックは出来ないんだな」
「そうだよ。攻撃に行っちゃって帰ってきてないって感じかな」
二人がのんびりと話し込む間に、ようやくポルナレフの頭は現実に追いついたらしい。
「……ちょっと待て! これどうやって止めても俺負けじゃねーか!」
「合計パワー34だポルナレフ。ほらどうにかしろよ。せっかくの白なんだから何かあるだろ」
「ねぇよ! 俺の手札これだよ!」
ポルナレフは最後の一枚だった手札を表にして見せた。
ポルナレフ手札→平地
「……承太郎、よかったね!」
それを見て、本当に逆転の手がポルナレフにないことを知った花京院は承太郎ににっこり笑ってそう言った。
「あ、ああ」
「チクショー!」
全力で悔しがる様子のポルナレフだったが、当然だろうという顔をジョセフはしていた。
「だからマリガンしろって言ったじゃろうが。というか今回『死者』のプレイミスくらいしかアドバイス出来んかったぞ」
「ジョースターさん、ポルナレフの手札って初手なんだったんです?」
花京院の問いかけに、ジョセフは指折り数えて思い出しながら言った。
「平地が三枚、『死者』が二枚、『輪』、『アクラサの守護者』じゃった」
それを聞いて花京院は渋い顔をした。
「それは普通マリガンするぞポルナレフ」
「しかもことごとく引いてくるのは平地ばかりだったな」
「ダメじゃないかポルナレフ」
怒涛の批判に、ポルナレフは再び涙目になっていた。
「……チクショー! やっぱり俺は白単があってるぜ! 変に黒なんて入れて弄るからいけねーんだ!」
そう言うと、ポルナレフはデッキから黒いカードをひたすら抜き始めた。その勢いたるや親の仇と言わんばかりであった。
「なかなか面白かった……気に入ったぜ」
「ホントかい承太郎? 今度は僕とやろうよ。あんまり強すぎるデッキは使わないからさ」
「ああ、いいぜ」
のほほんと話す二人がずるいと言わんばかりにポルナレフが叫んだ。
「俺の時は全力でぶちのめしに来たよなぁ花京院!?」
「君は教えてから大分時間が経っているだろう。始めたばかりじゃあるまいし、そろそろ本気でいいかと僕が思っただけだよ」
そう聞いて、ポルナレフはくるっと後ろを向いて拗ねた。
「……ふ、フン! いーもんねー、俺はジョースターさんに教わるからいーもんねー。ってことでジョースターさんよろしくお願いします!」
「……ポルナレフ、まずはお前のデッキの方向性を決めてからだな……ころころ変えては勝てるもんも勝てなくなるぞ」
「大丈夫ですジョースターさん、俺もう白単一本です!」
「大丈夫かのう……ならもう一度デッキを調整して今度はワシとやるかの」
「はい!」
そう言ってジョセフとポルナレフは二人でワイワイと盛り上がり始めた。
「承太郎はもう少しデッキを回してみてから直してみようか。今すごいブン回っちゃったからあんまり参考にならなかったしね……」
「うん? ブン回ったらマズいのか?」
「マズいわけじゃないけど、毎回良いとは限らないだろう? だから、何度か戦って悪いところを見つけたらそれを補ったり直したりしていかないとね」
「なるほどな」
「さて、じゃあ承太郎。これちょうど僕も新しく作ったばっかりのデッキなんだ。やってみようか。……あ、手札はオープンにしてやってみようよ。最初だしね」
「ああ、何から何まで悪いな花京院」
「仲間が増えるのはいいことだからね。気にしないでよ」
承太郎は今度は花京院に対戦相手になってもらい、遊びはじめた。
四人はこの後、閉店ぎりぎりまで遊び続け、店員に追い出されるまで楽しげに騒いでいた。DIOのいなくなった後の平穏な日常、それは彼らが勝ち得た日常であった。
「……大会?」
「ええ、フォーマットはカジュアルだそうです」
「フン……退屈しのぎにはなるか。おい、相手をしろ」
「私でよければ、仰せのままに……DIO様」
初めてMTGを扱って作品を作りました。作者はガチになりきれないカジュアルスタンプレイヤーです。
MTG自体は小学生の4年だか5年の時に1年プレイ、そのまま放置して新たなるファイレクシア発売と同時期に復帰しました。今は私生活が忙しいのとちょうどいい相手がおらず、なかなかMTGをプレイ出来ていません。せいぜいプレリか、仲間内でのシールドやドラフト、父親とリミテシールドくらいしかしません。
某笑顔動画などでMTG動画などを見ていたり、まとめブログなどでスポイラー見たりしていますが、自分自身が実際にMTGを扱って作品を作ったのはこれが初めてです。なのでもし、見づらい・表示形式をこうしてはどうか・なんかキャラが違う・カードのテキストや手札の枚数とか間違ってる・誤字脱字など、なんでもコメントしていただけると非常に助かります。自分一人では分からないことが多いので。
ちなみに私はDIO様信者です。ああDIO様今日も麗しいですね。