東方光勇者   作:奇妙な海老

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第三話

「すごい!よけられるんだね!」

 

地下にフランドールの声が響く。

その視線の先には、弾幕と戦う健気な人間の姿があった。

 

「空を飛べないって…本当に…不便っ!?」

 

全身を覆うような弾幕の嵐。

四方八方から襲いかかる青色の大玉に、緋色はなんとも悩まされた。

助走をつけて大ジャンプ。そのまま勢いに任せて弾幕に突っ込み、身体を僅かに動かして細かい物を回避する。そのため身体中に細かい傷が入り、服もボロボロになっているが、緋色は一度として被弾しなかった。

しかし、これは能力の力では無い。緋色の能力は、弾幕決闘においてまさに禁手。これを使ってしまってはあまりにも勝負にならないので、緋色はこの能力をスペルカードに封印した。

 

「ぐうっ!」

 

脇目も振らず壁を蹴る。片足ではなく両足で。すると緋色の身体は僅かに宙に浮き、その下を大量の弾幕が通った。そのまま手を下にして地面をつき、腕力だけでジャンプする。

 

「こっちからも行かせてもらうわ」

 

空中で体勢を立て直しスペルカードを出現させる。スペルカードは緋色の人物像を表すかのように発光し、その中でも緋色は目を閉じなかった。

 

「勇符『母国の下の大迷宮』!!」

 

緋色の周囲から黒い人型の人形が現れ、フランドールの弾幕を消し去ってゆく。

緋色以外のあらゆる物に襲いかかる人形。フランドールが迎え撃つが、人形は穴を開けただけで、すぐに復活してしまう。

そして適当に暴れまわった後、それぞれ違う場所にとどまって動きを止めた。

 

「…終わり?」

「まさか」

 

その瞬間、人形に突き刺さる光の矢。胸に穴を開けた人形は、身体を膨らませ爆発する。

人形の血肉は弾幕となり、細長いレーザーと共に歪んだ形をした弾幕がフランドールを襲った。

 

「私のスペルが終わった時に…タイミングが悪い!」

 

空を飛び、弾幕の隙間を縫って行くフランドール。グレイズを繰り返し、ギリギリで弾幕を避ける。

急停止して宙返り。そのまま天井に向かって飛び、天井を駆ける。

小さくジャンプ。翼の力を逆噴射し、強制的にスピードを落とした。

 

「禁忌『レーヴァテイン』!!」

 

フランドールの手に巨大な炎剣が出現する。それを後頭部まで振りかぶって、緋色に向かって一気に振り切った。

 

「う、おぉぉぉおおおおお!!!」

 

いきなり放たれた剣撃に、思わず大声をあげて驚く緋色。脳天目掛けて振り下ろされる炎の剣を、肩を引いて鼻先で避け、勢いを殺さないままバックステップ。傍らに人形を従えて、再度フランドールに突っ込んだ。

 

「何体いても変わらないよ!」

 

総勢數十体もの人形が、フランドールの炎剣によって駆逐されて行く。しかし、緋色の目的はなにも人形を精製するだけのことではなかった。

 

「雷鎚『ミョルニル』!!」

 

人形が消え去り、ようやく視界が晴れるフランドール。するとその先には、アイデンティティである長い金髪をたなびかせた緋色が立っていた。その手には、レーヴァテインとタメを貼るほど巨大な、金槌の形をした光。

しかしこれはただの光では無い。フランドールはおろか、幻想郷にいるどの人物も拝んだことが無いだろう、電子で作ったハンマーだった。

 

「見てよこれ。強そうでしょう?でもね、別にあっても痛く無いわよ。これは弾幕ごっこ用」

 

これが本当に弾幕決闘初心者同士の戦いなのか。空を飛べないはずの緋色が、アクロバティックな動きで狭い部屋を動き回る。ミョルニルと呼ばれた電子の金槌を振り回し、フランドールのレーヴァテインと鍔迫り合う。そしてとうとう部屋の扉を突き破って、緋色達は地下の階段を高速で駆け上がった。

 

 

 

 

 

 

赤い館の門前で、青い髪の少女は立っていた。

 

「退屈だわ…ねぇ、私が紅魔館に入ってはいけないの?」

「いけませんね。今は両者とも白熱してるようですし、何より妹様が動いてらっしゃる」

 

天子のが話しかけるのは、ボロボロの門で横たわっていた赤髪の妖怪。

この館の門番を務める、紅美鈴と言うらしい。

美鈴は先程まで気絶していたとは思えないほど軽やかに動き、地面に手を当て何かを拡散させた。

 

「あ、グングニルを出しましたね。決着をつけるつもりでしょう」

「ねぇ、あんたには何が見えてるの?訳分かんないんだけど」

「あ、咲夜さんの方はもう終わったようですね。馬乗りしてナイフを首に当てている…本当に弾幕ごっこですかこれ」

「ねぇ、そろそろ怒るわよ」

 

天子を無視して呟く美鈴。

美鈴が今行っていることは、美鈴の能力を応用した、気の動きを読んで今の状態を確認すると言う離れ技。

美鈴の脳裏に浮かんでいる光景は、白黒の魔法使いを打破した上司と、グングニルを取り出した主。

美鈴は冷静にそれを見分け、戦況の判断をして行く。

__戦況は劣勢。お嬢様は押されてますね。

しかし、そんな判断をしても、美鈴の顔色は変わらない。

美鈴のする仕事は、門を守ることだけでは無い。

美鈴の預かった本当の仕事は__

 

「フランドール様。私に手間かけさせないでくださいよ」

 

__フランドールと言う少女を、決して外に出さないことだった。

 

 

 

 

 

 

「どけえぇぇぇえ!!」

「きゃあぁぁぁああ!!」

 

図書館に響き渡る高い声。

その声は主はなんと、あの動かない大図書館、パチュリー・ノーレッジの物であった。

 

「こっここ、小悪魔!直ちに防御呪文を!!」

「ひぃぃぃ!無理でぇぇす!!」

 

必死に本棚にバリアーを張っているパチュリーと、無様に吹き飛ばされている従者の小悪魔。

彼女達の視線の中心にいるのは、地下に封じ込めた化け物と、それを引き摺り出した勇者。

何が勇者よ!とパチュリーは憤怒する。何せそこで戦っている金髪の勇者は、封印したはずの魔王の封印を、いとも簡単に解いてしまったからだ。

 

「雨よ!雨を降らせえぇぇえ!!」

 

思わず叫んでしまうパチュリー。魔法一つ使うにも、いちいち叫んだりしなければもうやっていけないのだ。

 

「だ、駄目です!赤い霧が邪魔になって上手く魔力が回りません!」

「ほ、本当だ!レミィぜってーぶっ殺す!!」

 

最早先程までの落ち着いた雰囲気の彼女はいない。ここにいるのは、うっかり余所者を地下に招いてしまった魔女と、その行動を咎めなかった気の弱い悪魔。

まさに自業自得、身から出た錆。

その事を頭では理解しているパチュリーだからでこそ、つい怒りの矛先を親友に向けてしまうのだ。

…まぁ、親友にも一応非はあるのだが。

 

「あらら、そろそろ効果が切れて来たわ。次のスペルに行こうかしら」

「行かせないよ!禁弾『カタディオプトリック』!!」

 

パチュリーの目の前に広がる地獄絵図。四人の妹様がそれぞれ炎の大剣を持って暴れまわる姿。

それはもう、絶望の具現化でしかなかった。

 

「小悪魔!レミィを連れて来なさい!咲夜でも良いわ!」

「で、ですが!お嬢様は今博麗の巫女と…」

「良いから!レミィと博麗の戦いなんてどうでも良いから!速くっ!速くしてぇ!!」

「はいぃぃい!」

 

目尻に涙を浮かべながら飛び去って行く小悪魔。その背中を見送りながら、パチュリーは親指の肉を噛みちぎった。

傷口から溢れる生暖かい血。パチュリーはそれを垂らしながら、赤い魔法陣のような物を空中に書いて行った。

そして、完成する魔法陣。魔女の血を対価に支払ったその魔法には、途轍もない量の魔力が込められていた。

 

「火水木金土符『賢者の石』!!」

 

刹那。化け物と勇者の周りを、五色の弾幕が駆け巡る。それらはランダムで乱走し、瞬く間に彼女達の逃げ場を封じた。その弾幕は、既に弾幕ごっこの物では無い。避ける隙間の一切無い、壁のような弾幕であった。

勇者の頬が釣り上がり、第三者の乱

入を歓迎する。

化け物は空高く飛翔し、自らの分身をその身に戻して叫んだ。

 

「邪魔しないでっ……

秘弾『そして誰もいなくなるか』」

 

その瞬間、化け物の体は消え去った。

 

 

 

 

フランドールの身体が闇に消え、その空間に勇者だけが取り残される。

 

「いなくなった…?」

 

突如として姿を隠したフランドールに、嫌な予感を感じた緋色。

そこから少し飛び退いて、思ったとおり弾幕が炸裂した。

 

「うわっ!」

 

頭を逸らして弾幕を回避する。

そのまま出した情けない声とは反して、身体が前に駆け出した。

 

「とおっ、って…はあ!?」

 

フランドールの弾幕を避けようと、前に走って行った緋色。その背中を、謎の弾幕が襲う。

前から飛んでくるフランドールの弾幕と、背後から迫ってくる五色の弾幕。

いくら緋色が超人的な動きができるからと言って、絶対の物では無い。

それこそ、こんな状況をひっくり返せるのは、博麗の巫女程度の物であったが…

 

「勇者総代として、負けるわけにはいかない!光符『光の因果』!!」

 

二つの光球が高速回転し、周りを突き刺すような光で照らす。

襲いかかる何百もの弾幕。しかし緋色は動かず、その場にただ立ち尽くした。

そして、躱す。躱す躱す躱す。

身を少し引くと大量の弾幕が虚空を切り、前に向かって走ってるだけでもその身に弾幕が当たることはない。

まるで弾幕が緋色を避けているようだ。しかし、これは単なる偶然の賜物などではない。緋色は何から何まで計算し、最適な動きを導き出しているのだ。

それは、緋色の能力によるもの。今代の勇者の真骨頂は回避。二つの光球の発する光が、反射するものを観測し、あらゆる攻撃を分析する。そしてその結果を回避する為の最良の動きに変化させるのだ。

故に弾幕にできた穴を通ることもできるし、必ず当たると思われる状況でも何が何でも回避する。それこそ、関節を外したりも平気でする。勿論、その際の痛みもなんやかんやで回避するが。

緋色の能力は、もはや『光を操る程度の能力』と言っても過言ではない。光の全てを観測し、それらを自由自在に操る。今代光の勇者は、まさに光の勇者であった。

そして勇者は弾幕を避けながら図書館を駆け回り、五色の弾幕の発生元を見つける。

 

「あんたか!変な弾幕出してんのは!私はフランドールと遊んでるの。邪魔しないでくれるかしら!」

「こっちの台詞よ!妹様を外に出さないでいただける!?」

「なんでさ!あの娘は495年間あの部屋にいるらしいじゃない!どんな事情があるのかは知らないけど、もうそろそろ出してあげても良いんじゃなくて?」

「駄目よ。彼女は情緒不安定で、なにをしでかすか分からないわ!」

「そんなの誰だってそうだわ!大体、あんたが私を部屋に入れたんじゃない!」

「貴方が勝手に入ったゴホッ!…ゴホッゴホッ!!」

 

急にむせだすパチュリー。腰を屈めて苦しそうに咳を吐く。

それを見て多少は心配する緋色だったが、その間にも自分はずっと弾幕を避けていることに気づいて馬鹿らしくなった。

 

「まぁ良いわ。あの部屋も適当にぶっ壊れてたし、数日は戻れないわねぇ」

「…それは貴方がやったこと?」

「いいや、違うさ。これやってる間に壊れたんだ。恨むなら私じゃなくて、これ考えた奴にしてください」

 

そう言って緋色は手にスペルカードを召喚する。そしてすぐに消して、その場で宙返りをした。

そして溢れ出す弾幕。

緋色はそれをやはり回避した。身体を何度か捻って弾幕を受け流し、安全地帯へ着地する。パチュリーにはまるで緋色が踊っているように見えただろう。

 

「……スペルカードルールで、物が壊れることは少ないわ。勿論、人が傷つくこともない」

「あら、そうなの?」

「けれど、貴方はボロボロで血を出している。擦りもすれば多少は傷つくけれど、貴方のそれは異常だわ」

 

パチュリーの言うことは正しかった。確かに、緋色の服はボロボロで、ほぼあらゆる部位から血を出している。しかし、その傷は既に弾幕ごっこの範疇に収まる物ではなく、完全に戦闘による物だった。

 

「この様子では地下の部屋ももう原型は無いでしょう。つまりはそういうことよ。分かったかしら?あの娘の異常性」

「…成る程」

 

そして消える弾幕。

闇からフランドールが現れて、緋色の前に立った。

 

「非殺傷を貫く弾幕ごっこで、人が死ぬ弾幕を放っている、と」

「……手加減できないの」

「ふーん」

 

パシュ。

小さな音が図書館に響いた。

フランドールは目を丸くして緋色を見上げる。

 

「はい被弾。私の勝ちよ。コインいっこくださいな」

「…は?」

 

緋色はフランドールの頭を撫でながら、腰を折って頭身を合わせる。

緋色が放った小さな弾は、フランドールに被弾して儚く散った。

 

「それで人命買いに行きましょう?私の治療、早くしないと死んじゃうわ」

「…でもまだ一枚残って」

「良いじゃない。私はスペルカード五枚しか無いの。最後のスペルカードは外で使いましょう?外はとっても楽しいわ。495年間なんて、きっとすぐに忘れちゃうわよ」

「……」

「…なんて、本当はもうやめてほしいだけ」

 

フランドールは、呆然とした表情で緋色を見る。緋色は、満面の笑みでそれを返した。

 

「ふふ、私もね、貴方ほどでは無いにしても、ずっと一人ぼっちだったのよ」

「…どうして?緋色はこんなに強いのに」

「そりゃ、勇者だからよ。生まれた時から戦って、殺して、滅ぼして。六歳くらいの時よ。最初に殺したのは貴方みたいな魔物だったわ」

 

ピクリと跳ねる肩を撫でながら、緋色は優しく過去を語る。

 

「それからはずっと、誰も話しかけてくれなかったわ。そりゃそうよ、だって、六歳のガキンチョが、魔物をバッサリ殺しちゃったもんね」

 

なんの気負いもすることなく、ただ笑いながら言う緋色。その笑顔には何時ものような光が無くて、何処か萎れているような印象を、フランドールは受けた。

 

「貴方は人を殺したことある?同族を殺したことはある?」

「…多分、無いと思う」

「…凄いのね。本当に凄いわ。私より長く生きてるのに、私よりも良い子だなんて」

「でも、それは私が引きこもっていたからで…外に出たらすぐ…」

 

緋色の頭に手をかざすフランドール。

 

「キュッとして」

「ッ!?」

 

反射的に頭を倒す緋色。

 

「ドカーン」

 

フランドールの手が縮んで、後ろの壁が崩壊した。

空中で粉々になる図書館の壁。塊の一つ一つが分解され、やがて全て塵となった。

 

「…これが、貴方の能力か」

「なんでも壊しちゃうの。この手で」

 

確かに危険な能力だ。

今のが反射的に出る物ならば、途轍もない脅威となるだろう。制御できないということは、無差別兵器と同じであるからだ。

 

その瞬間、突然立ち上がる緋色。顔のすぐそばに手を上げて、思わずフランドールは目を瞑った。

 

「…危ないわね。フランドールよりも、もっと」

「そうかしら」

 

フランドールの背後に現れたメイド服の女。銀色の三つ編みを左右に揺らして、右手にナイフを持っている。しかしその手は緋色に掴まれて、フランドールに当たる寸前で止まっていた。

 

「咲夜…」

「妹様、外に出てはなりません。今すぐお戻りください」

「駄目よ。部屋はもう無いわ。今頃瓦礫の中よ」

「…」

 

空気を切るような特徴的な音。緋色は空いた左手を頭上に上げ、何かを掴んだ。緋色はゆっくり手を開いて、掴んだ物を確認する。手の中にあったのは抜き身のナイフ。銀色に輝いて、緋色の光を反射した。

いつ投げたのかと推測するも、すぐに取りやめ投げ捨てる。そして緋色は笑顔を浮かべ、フランドールの頭を撫でた。

 

「大丈夫よフランドール。私を誰だと思ってるの?」

「…緋色」

「そう、ヒーローよ。だから助けてあげるわ」

「でも…私は妖怪だよ?」

「ヒーローは妖怪でも助けるのよ。彼奴らは化け物よりも化け物なんだから」

 

やがて、メイドの抵抗はなくなり、ナイフを下ろして手を下げる。

緋色は顔を近づけて、自由になった両手でフランドールを強く抱きしめた。

 

「貴方が一日100壊すなら、私が一日101守るわ。1は貴方よ、フランドール」

「……うぇ」

 

ぐすぐすと泣き始めたフランドール。

緋色はその身体を抱きしめて、眠るように気絶した。

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