東方光勇者   作:奇妙な海老

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第四話

「心臓に刺してもなお、ここまで生きているなんて」

「久しぶりに食らったわよ。あんな痛いやつ」

 

紅魔館の客室で、一人の勇者が布団に入っていた。

 

「どう?あの後、フランドールは何かを壊したかしら?」

「いいえ。妹様はなにも壊しませんでした。私は一度殴られましたが」

「そりゃそうよ」

 

緋色が気絶したのは、咲夜のナイフによる物だった。

緋色は確かに咲夜のナイフを捉えたが、飛んでくるナイフは一本ではなかった。一つは確かに緋色が防いだ頭への一本。もう一つは、背中から心臓にむかって投げられていたのだ。

緋色はそれを避けようとはせず、自分の身体で受けた。これを避けてしまったら、フランドールに当たってしまうからだった。

 

「私はメイドさんの腕を掴んでいたのに、どうしてナイフが投げられたのかしら」

「掴まれる前に投げておいたんですよ」

 

あっけからんと言う咲夜。彼女の右腕にはギブスがつけられており、骨はバキバキに砕かれていた。

 

「しかし酷いですわ妹様も。私の腕をこんなふうにしてしまうなんて。お嬢様が来ていなかったらどうなっていたことか」

「自業自得でしょ。それに、フランドールはもうなにも壊さないわ。もし壊そうとしても、私が寸前で止めるから問題無いよ」

「つまりお嬢様が来ていなくても、貴方が私を助けてくれたと?」

「そういうことよ」

「腕は壊れたんですけどねぇ…」

 

緋色が刺されていることに気づいたフランドールは、延々と泣いて咲夜を怒鳴り散らした。その際に、咲夜を力の限り殴り飛ばしてしまったのだ。フランドールの捕獲という命令に従ったとはいえ、対象外の者にナイフを投げてしまったことに反省した咲夜は、その拳を甘んじて受けた。咲夜の腕の惨状は、つまりはそういう事だった。

静かに笑って目を閉じる緋色。身体を上げようと思ったけれど、傷が開くのが怖かったのでやめた。

 

「でも、お嬢様とやらには礼を言っておかないとね。私を治療してくれたんでしょ?」

「治療したのはパチュリー様ですよ」

「あぁ、あのー…えっと…」

「紫色の魔女ですよ。あの図書館にいる」

「あぁ、はいはい。あの人ね。じゃあそのパチュリーって人にも礼を言わないと」

「むしろこっちが言いたいくらいよ」

 

そこで目を開く緋色。

思った通り、そこには紫色の魔女がいた。

 

「あ、パチュリーさん。有難うございます。私の治療をしてくれて」

「いえいえ、此方こそ。妹様を宥めてくださって、本当に感謝しておりますわ」

 

すこし巫山戯て言うパチュリー。しかしその顔が真剣であることぐらい、緋色にだって分かっていた。

 

「私の傷、うまく治せたかしら?」

「ええ。少し痕が残っているかもしれないけれど、生活には支障が無いはずよ」

「それは良かった」

 

少し安心したように笑う緋色。

今の緋色の姿は、ほぼ全裸のようなものであった。

胸にサラシを巻いて、新品のパンツを履いている、ただそれだけである。露出した肌は美しく、傷どころかシミの一つすらない。

それは凶暴な魔物を相手してきた、勇者とは思えない姿だった。

 

「守り抜いたこの身体に、痕ができたのは少し勿体無いけれど、それ以上に死ななかった事が嬉しいわ。それがやっぱり一番だ」

「はぁ、勇者らしからぬ発言ね」

「あら、失礼ね。会って数日も経っていない相手にそんなこと言うのかしら」

「数日以上経ってるわよ」

「え」

 

どこからともなくカレンダーを取り出す咲夜。その速さは、光の勇者を持ってしても捉えることは不可能だった。

 

「貴方が紅魔館に入った日がこの日で、今日はこの日。6日経ってます」

「…うわ、最悪。やっぱりナイフ避けとけば良かったわ」

 

緋色の脳内に浮かぶのは、巨大な二対の角を携えた小鬼と、美しい青髪を持った天人。

心配なんかしないと思うが、一応天人の方は緋色の恩人である。緋色が幻想郷に落ちて来た時、緋色を受け止めてくれたのは他ならない彼女だ。彼女がいなければ今頃緋色は天界の変死体になっていただろうし、フランドールに出会うこともなかっただろう。

だから、緋色は天子に感謝していた。

 

「なんか昨日青い髪の女が押しかけて来たけれど、彼女は貴方の知り合いなの?」

「来てたの?はぁ…私の恩人、会いたいわ」

「タイミングが悪かったわね」

 

無表情で呟くパチュリー。

緋色はそっと上半身を上げ、背を伸ばして背骨を鳴らした。

 

「あぁぁぁぁぉ……ふぅ、もう大丈夫なようね。どこも痛く無いわ。メイドさん」

「十六夜咲夜です」

「じゃあ咲夜さん。なにか着替えは無いかしら?そろそろお嬢様とやらに会いたくてね」

「…かしこまりました」

 

咲夜の姿が一瞬ブレたかと思うと、次の瞬間には既に服を持って来ており、緋色は少し驚いた。

緋色は今だに咲夜の瞬間移動のトリックを暴けていない。瞬間移動など、光を操る自分にさえ困難であったからだ。

 

「これ、どこから持って来たの?」

「買ってまいりました」

 

パクったんじゃないかと疑ってしまうほどの手際の良さに、緋色は少し溜息を漏らす。

咲夜の持ってきた服はとてもシンプルなデザインで、襟のついた白い長袖と、ただのジーンズのような物であった。

緋色はそれを適当に着用し、その場で二、三度跳ねてから咲夜に礼を言う。

 

「ありがと、咲夜さん」

「お安い御用ですわ」

 

軽い足取りで出口へと向かう緋色。

それからお嬢様の元へ行こうとするが、最終的には咲夜が道を案内をした。

 

 

 

 

 

 

特別広い紅魔館の一室。6日寝込んだ光の勇者は、ある少女との感動の再会を果たしていた。

 

「ヒイロー!」

「フランドールー!」

 

がしぃ!

そんな音が聞こえてしまうほど、緋色とフランドールは力強く抱き合った。緋色はそのままクルクル回って、持ち上げてまた抱きしめる。

緋色の聞いた話によると、フランドールは緋色の看病を毎日手伝っていたらしい。

緋色はそれがなんとも嬉しくなって、惜しみなく感情を爆発させた。部外者である緋色の身勝手で起こった事件であったが、結果良い方向へ傾いたので誰も咎めることはできなかった。

 

「緋色、背中大丈夫?痛くない?また刺されなかった?」

「大丈夫よ。全部パチュリーさんが治してくれたわ」

 

心配そうに背中を摩るフランドールに、緋色は思わず口を緩ませる。

頭を撫でる動きが早くなってしまうのは、仕方が無いことだった。

 

「ゴホン!…フラン!」

 

そんな感動の再開に水をさすように、部屋の上段でわざとらしい咳が聞こえてきた。

そこにいるのはこの館の主、レミリア・スカーレット。500年の時を生きた吸血鬼である。

フランドールの名前を呼び、椅子から立ち上がって歩き出すレミリア。

しかしその視線は、やはり緋色を下に捉えて離さなかった。

 

「フランって誰かしら?」

「私の愛称だよ。緋色も呼んで良いよ?」

「あら、ありがと。私も何か考えようかな」

 

レミリアを軽く無視して会話を続ける緋色達。その様子にレミリアは軽く青筋を立て、頬をひくつかせながら作り笑いをした。

 

「あはは…あっはは。そこの貴方、用があるわ。私のところに来なさい」

「あら?私の事かしら。何かくれんのかな」

 

上機嫌に笑ながらレミリアの元へ向かう緋色。レミリアは堂々と仁王立ちをし、緋色が上がってくるのを待った。

 

「どうも、お嬢様。私に何の用かしら?」

「…まずは、礼を言うわ。495年の呪縛を解いてくれて有難う」

「どういたしまして、お嬢様。呪縛とはよく言ったものね。貴方が作った呪縛なのに」

「……そのお嬢様っていうのやめなさい。私はレミリア・スカーレットっていう名前があるの。この紅魔館の主をやっているわ」

 

改めて自己紹介をするレミリア。

スカートの切れ端を軽く持ち上げ、頭を下げて優雅に振舞った。

それを見た緋色は胸に手を当て、人知れず奥歯を噛みしめる。

か、可愛い…

フランドールの時にも襲って来た衝撃が、再び緋色を脅かした。

 

「あら、どうしたの?」

「あはは、なんでもないわ。なんでも」

 

ぺしぺしと頬を叩いて、なんとか頬の緩みを止めようとする緋色。気を抜くとすぐに恥ずかしい笑い声が出てしまいそうになって、頬を赤くして頭を掻いた。

 

「変な人…まぁそれで、なんと言うか…うちの者が随分迷惑をかけたらしいわね」

「別に。迷惑かけられたって自覚はないわ。私は勇者だもの。当たり前のことをしたまでよ」

 

ナイフで刺されたのは迷惑だったけれど、と付け加える緋色。

その様子に溜息を吐いて、レミリアは一つ指を鳴らした。

咲夜を召喚する合図だ。

 

「切腹ですか?」

「違うわ!まったく、よく聞きなさい」

 

完璧なようでどこか抜けている咲夜。緋色は苦笑いをこぼしている。

するとレミリアは緋色の前に立って、高圧的な態度で指を差した。

 

「ねぇ、貴方。確か…勇者だっけ?」

「緋色よ。姓はないわ」

「それじゃあ緋色。貴方、家がないそうじゃない」

「まぁ、そうね。最近来たばっかりだし、天子にでも養ってもらおうかと思ってたんだけど」

「困ってる?」

「…まぁ、そうね。困ってる…のかしらね?」

 

危機感なさそうに話す緋色。レミリアは数回頷いて、隣にいる咲夜に耳打ちをした。

すると咲夜はにっこりと笑って、その場から消え去った。

 

「どう?家が見つかるまで、紅魔館に泊まっていかない?」

「良いの!?」

「え、ええ。問題ないわ。今咲夜が空き部屋の掃除をしてくれているし」

 

天に向かって突き刺すようにガッツポーズをする緋色。家がなくとも耐えられるが、食事をしなければ死んでしまうからだ。

つまりは、タダ飯が食べられることに歓喜しているのだった。現金な勇者である。

 

「よっしゃ!勿論、食事は出るのよね!?」

「も、勿論」

「フラン。私の守るものが102に増えたわ」

「えぇ!?」

 

穏やかな朝の一室で、少女たちの声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

「…これで、良かったのか?」

「えぇ、礼を言いますわ。あの外来人を引き止めてくれて」

「……こちらとしては、嵌めているようであまり良い気はしないのだがな」

「ふふふ…」

 

突如として現れる目玉だらけの『スキマ』不気味に開く底なしのスキマから、一体の化け物が現れた。

口元に開いた扇子を当て、妖美に微笑む金髪の女性。細く鋭い眼光から、レミリアは逃れられなかった。

 

「ところで、いきなり緋色を引き止めろだなんて…どうしたんだ?」

「あら、緋色って言うのね。その外来人」

 

暗い、レミリア専用の個室。

吸血鬼の性質からか、どこか冷たい印象を受ける部屋の空気は、この二人の会話によって更に冷たくなっていた。

 

「話題を逸らすな。私の聞いていることはお前の目的の詳細だけ、今度は何を企んでいる…八雲紫」

「…うふふ、そうね。スペルカードの事もあるし、貴方には教えて上げましょうか」

 

今回の紅霧異変は、スペルカードルールを広めるために行われた作られた異変であった。八雲紫の目的は非殺傷のルールを立ち上げ、幻想郷を安定させる事。

そのルールに従わせるために、育て上げた博麗の巫女を異変に投入して、武功を上げて名声を得ようという魂胆だった。名声を手に入れ有名になった博麗の巫女は、少なからず周りに影響を与える。それを利用してスペルカードルールを広める計画だったのだ。

その計画はほぼ完璧に成功した。博麗の巫女は無事紅魔館の主を倒し、スペルカードルールはさらに広まった。だが、ここで謎の危険分子が現れてしまった。

光の勇者、緋色であった。

この存在は何をどうしたのか、八雲紫ですら感知できない方法で幻想郷にやって来た。

危険であった。この八雲紫が、今に至るまでその存在に気づけなかったのだ。

だから八雲紫は動いた。愛する幻想郷を守るために。

身構えるように指を絡めるレミリア。眼光は更に鋭くなり、額に一粒の汗が伝った。一つ深い深呼吸をし、眉間を揉んで目を閉じる。

何を恐れているんだろう?レミリアは歯を食いしばった。

緋色に危害が及ぶことか?

自分に危機が迫ることか?

 

否、全て違う。レミリアは気づいていた。495年間放っておいた分際で、今更フランを心配している。そう、フランが傷ついてしまうのが、レミリアには堪らなく恐ろしかったのだ。

 

その時レミリアの手に痛みが走った。そこには深く食い込んだレミリアの爪。レミリアは知らぬ間に自らの手に爪を突き立てていた。

 

「ふふ…そう怖がらないで。私が貴方達姉妹に危害を加えることは無いですわ」

「…くっ」

 

扇子によって揺らめく金髪。その下にあるであろう下劣な笑みに、レミリアは悔しそうに俯いた。歯の軋む音がして、その膨大な妖力が漏れ出す。

 

「怖い怖い。その妖力を止めてくださる?」

「早く教えろ」

「……分かりましたわ」

 

諦めたように肩を竦める紫。しかしその口は、歪んだまま戻らない。

ギラギラと光る牙を晒しながら、怒気を強くさせるレミリア。プライドの高い吸血鬼は、自分が下に見られることに嫌悪感を抱いていた。試されるのも嫌いだし、遊ばれることも嫌いだ。馬鹿にされることも嫌いであるし、無視されるのは以ての外。

その全てを同時にこなすような八雲紫を、レミリア・スカーレットは毛嫌いしていた。

 

「そうね、私の目的は唯の『監視』。それ以上でもそれ以下でもない」

「…本当だな?」

「無論ですわ」

 

そうか、と言って背を向けるレミリア。その背後には、八雲紫の姿はもうなかった。

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて図書館の風景にさして変わりはない。ただ巨大で古めかしい本棚が乱立し、その身を支え合っているだけの現状である。

しかしその中心には見慣れない人物が二人存在した。

両者とも美しい金色の髪を持っており、異なる事情でこの図書館の主に迷惑をかけている人物。

 

普通の魔法使い霧雨魔理沙と、光の勇者緋色であった。

 

「この本借りてくぜー!!」

「ちょっとこれ読めないんだけど!私の母国の言語は無いのー!?」

「うわあぁぁぁぁぁぉぁあ!!」

 

あまりの面倒さに発狂してしまうパチュリー。両者とも人の話を聞かないし、両者とも勝手に物を攫って行く。

床に手を当て、できる限り大声でパチュリーは喚く。紅魔館の気狂いは、これで二人になってしまった。

 

「ねぇ聞いてるのパチュリーさん!ちょっとこっち来なさいよ」

「返事がないってことは良いってことなのか?サンキュー!ありがとな!!」

 

高速で頭を回転させて引き止めるべき相手を選ぶパチュリー。魔法陣で埋め尽くされる視界。しかしその視界の中心には、黒白の魔法使いをしっかり捉えていた。

パチュリーは考える。ここで彼女を逃しては、何かを失ってしまうような気がしてならなかった。

実に何時もの彼女らしくない回答。

だが、その直感とも言える回答に、パチュリーは迷わず従った。

 

「させるか!この泥棒が!」

「おっと、勘違いしてもらっちゃあ困るなぁ…私が死ぬまで借りて行くだけだぜ!!」

「それを泥棒って言うのよ!」

 

一斉に放たれる七色の弾幕。それを物ともせず魔理沙は躱して飛翔する。幾つもの属性を携えた弾幕が魔理沙の身体を掠めて行くが、それは対した障害にはならなかった。

眺めているだけでも心奪われる光景__そして魔理沙が図書館を出て行くかと思われたその時、魔理沙の近くを緋色が通りかかった。

 

「ひ、緋色!その女を止めて!!」

「あ?」

 

最後の希望と言わんばかりに、パチュリーはその貧弱な喉に鞭を入れた。そして口を開けてそれに反応する緋色。

その瞬間、途轍もない速度で魔理沙は加速を開始した。合間に星型の弾を幾つも飛ばし、余裕の笑みで扉を目指す。

だが、魔理沙は侮っていた。緋色に速度で勝負した時点で、魔理沙の運命は決まっていたのだ。

 

「ちょっと、呼んでるわよ」

 

魔理沙の伸ばした手が扉の取っ手を掴むその瞬間、魔理沙の重心は大きく傾く。

右手が何かに引っ張られているような感覚。いや、実際に引っ張られていたのだ。魔理沙の表情は驚愕に染まる。目を大きく見開いて、後頭部を強く打ち付けた。

 

「あがっ!?」

「…大丈夫?」

 

魔理沙は頭を押さえながら悶絶する。緋色はそんな彼女に手を差し伸べ、その身をしっかりと地上に立たせた。どんななりであったとしても、それが人間ならば手を差し伸べる、勇者故の行動だ。

しかし魔理沙は思わず緋色の手を引いてしまった事を急に悔しく思い、その手を払いのける。いきなり手を叩かれた緋色は口を尖らせ、不機嫌そうに魔理沙を睨んだ。

 

「何よあんた。感じ悪いわよ」

「なんだお前こそ、ってかお前、あの時の腰抜けじゃないか」

 

腰に手を当て緋色を睨み返す。魔理沙は緋色の顔に覚えがあった。それは紅霧異変の際の事、この大図書館で魔理沙と緋色は一度遭遇していたのだ。

あの時のことを魔理沙は思い出す。

あの時緋色は魔理沙の弾幕ごっこの申し出を、即答で断ったのだ。誰が見ても魔理沙の戦いぶりに怖気付いたと思うだろう。なぜなら、魔理沙は緋色と会う前に、パチュリーと一戦交えていたからだ。

 

「ゲホッ、ゲホッ…緋色。そいつの持ってる本を取り返しなさい。ここに泊まらせてあげてるんだから、せめてそれくらいは働いて」

「…まぁ良いでしょ。なんか釈然としないけど、私は勇者で寛大なんだから」

「うわっ!」

 

喘息持ちのパチュリーは、久しぶりに酷使した喉を労って、小さな声で命令する。すると渋々といった様子で緋色の手はまっすぐに魔理沙の手元へ動き、呆気なく本は取り返された。魔理沙はその動きを避けようと奮闘して、箒から落ちて尻を着いてしまう。

 

「ほら、パチュリーさん。上手くキャッチしてね」

「むきゅっ!?ちょっと、いきなり投げないで」

 

背表紙を前にして投げ出される古本。それは風を切ってパチュリーの元へ飛び、ばらけることなく収まった。

 

「おい!何してんだよお前!」

「はぁ?こっちの台詞よ。てか誰よあんた」

「な……ッ!」

 

歯を食いしばって目を見開く。

自分のことを忘れていたと言う緋色に、何故か魔理沙は腹が立った。

実際には唯、少ししか見ていないから記憶に残っていないというわけで、魔理沙の印象が薄かったというわけではない。だが、どうやら魔理沙はそれをあまり良く無い方向へと解釈してしまったようだ。

具体的には、『気にする程の相手ではない』などと。

 

「もう許さないぞ!クソ野郎!弾幕ごっこで片付けさせろ!」

「野郎じゃないんですけど」

 

魔理沙の右手が発光し、白い長方形の物体が現れる。それとともに、八角系の物体も姿を表した。

魔理沙それを緋色に突きつけて、その名前を叫ぶ。

 

「恋符『マスタースパーク』!!」


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