- The Another Origin -   作:青葉空太

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第2章 あら、魔王襲来のお知らせ?
第12話 火龍誕生祭


 

 ──箱庭二一〇五三八〇外門区画。

 ──“ノーネーム”農園跡地。

 

 無人の農園区に、日向はひっそりと佇んでいた。

 彼の視界の先には、見渡す限り荒廃しきった白地の土地が広がっている。

  

「……本当に、草木の一本すら生えてないな」

 

 ヒュウと、日向の髪を乾いた風が靡かせた。

 彼らがこの箱庭の世界に召喚されて早1ヶ月。

 このひと月の間で、日向たちも箱庭での暮らしには大分慣れたと言っていい。

 ギフトゲームには日頃から恒常的に参加しているし、それによる勝ち星も上々だ。

 毎日ご飯をお腹いっぱい食べられるようになって、子供たちの笑顔も増えてきた。

 そして尚かつ、彼らのギフトゲームによる戦果は、決して目に見えるものだけでは無い。

 目に見えない部分でも、着実に成果を及ぼし始めていた。

 

 ──まず。

 

 結論から言うと、彼らの誇る実力は、この下層七桁における一般的な水準を遙かに逸脱するものだった。

 先ほどはギフトゲームでの戦績を上々であると表現したが、実際はそんなレベルではない。

 

 常勝無敗、負け知らず。

 正に連戦連勝の一言であった。

 

 日向たちが一度ギフトゲームに繰り出せば、どんな主催者もことごとく敗北を喫せられるのだ。

 中には『調子に乗った小僧共にひとつベテランの格を見せつけてやろうかい』的なノリで、逆にゲームを仕掛ける猛者もいたのだが、結果は見事な返り討ちにあった上、仮にもゲームを受けてやったんだから高めの報酬をよこせと泣きっ面に蜂を全力投球される始末。

 

 そんな百戦百勝を地で行く彼らに、とあるウサギが喜びすぎてピョンピョンしたことは言うまでもない。

 

 “ノーネーム”は現在、近隣の外門はおろか、六桁以上の外門にまで、その名声を瞬く間に広め始めている。

 そして無論、この状況に最も一役買ったのは、やはりあの“ペルセウス”との一件に他ならないだろう。

 最下層の名無しが、五桁のコミュニティを打ち破った。

 その一報は、下層五桁以下に存在する全てのコミュニティの注意を引く上で、圧倒的な起爆剤となったのだ。

 いつかコミュニティの“名”と“旗印”を取り戻し、かつての仲間を取り戻す。

 その目標に向けて、“ノーネーム”は確かな一歩を踏み出したのである。

  

 ──だが、それだけに。

 

 日向の胸中には、ぬぐい去れない懸念があった。

 一見全てが順調に見える今だからこそ、改めてこの農園区の現状を目にすることで、その懸念は更に深みを増す。

 

(……魔王)

 

 この箱庭の世界における、唯一無二の天災。

 その存在が、常に彼の念頭にはあった。

 日向たちは未だ、本物の魔王の力を知らない。

 白夜叉の実力は底が知れず、“ペルセウス”戦でのアルゴールはすでに弱体化した後だった。

 果たして自分たちは、全力の魔王に対抗することが出来るのだろうか。

 

 そして──

 

(俺たちの掲げた“打倒魔王”という指針は、否が応でも多くの魔王を焚きつけることになる。そしてその危険性は、コミュニティの名声が高まれば高まるほど大きくなる。いつか、実際に魔王と戦うことになった時、俺は──)

 

 ──仲間のことを、守ることが出来るのだろうか。

 

 日向は改めて、農園区へと目を向ける。

 全盛期では一都市に匹敵するだけの食糧需要を纏めて担っていた農園区は、その面積も比例して膨大だ。

 しかし今は、その全てがただの無惨な荒野へと成り果てている。

 魔王の襲来から、すでに3年の月日が過ぎた今。

 それだけの年月を経てなおこの状態であるということは、即ち土地そのものが完全に死滅しているということだ。

 人の営みだけでなく、自然そのものまでもが、魔王の手によって蹂躙された。

 その脅威をあえて言葉にするならば、正しく。

 

「──天災、だな」

 

 日向の呟きは、何時になく真剣なものだった。

 そう遠くない未来、いつか必ず訪れるであろう魔王との戦いに思いを馳せる。

 

(それでも、俺は……)

 

 日向が覚悟を新たにしようとしたその時──不意に背後で声がした。

 

「あれあれ? もしかして日向さん?」

「うん?」

 

 向けられた声に振り向く日向。

 そこには声の主の黒ウサギと、その隣に連れ立つレティシアが居た。

 途端にそれまでの雰囲気を一転させ、日向は朗らかに笑いかける。

 

「おはよう黒ウサギ。レティシアも」

「YES! おはようございます!」

「ああ、おはよう主殿」 

 

 パッと元気いっぱいの明るい笑みで返す黒ウサギと、対照的に落ち着いた微笑みで返すレティシア。

 そこで日向はレティシアの姿を一瞥すると、ほんの少し苦笑を浮かべて話しかけた。

 

「何だか、レティシアはもうすっかりメイドそのものだな」

「そうか?」

「ああ。その格好も、様になってるよ」

「フフ。お褒め頂きありがとうございます主殿」

 

 レティシアは流麗な所作でスカートの両裾を摘まみ上げ、片足を半歩引いて礼をする。

 その服装は出会った当初とは打って変わり、現在は青と白を基調としたメイド服で身を包んでいた。

 飾りすぎない程度にフリルのあしらわれたメイド服は、彼女の愛用する大きなリボンとも似合っていて非常に可愛いらしい。

 

「この1ヶ月、メイドをやってみてどうだった?」

「ふむ……そうだな。こうして実際にメイド業へ従事してみると、いやいやどうして奥が深い。存外やりがいのあるものだと、認識を改めているところだよ」

「黒ウサギとしては、少々複雑な心境ではございますが……レティシア様がメイドになられてから、本拠の館が一段と清潔になった気がするのですよ」

「言われてみれば、確かにそんな気がするな。前より子供たちの清掃時間を延ばしたのか?」

「いや、より効率的な清掃の仕方を指導しただけだ。雑巾のかけ方ひとつ、箒の掃き方ひとつで、出来栄えは随分と違ってくる」

「おお、貫禄のある言葉だな」

「YES! 流石はレティシア様です!」

 

 思わず感心する日向と黒ウサギ。

 しかしレティシアは静かに首を左右に振ると、真面目な顔で否定した。

 

「何の。私など、まだまだメイドしては未熟だよ」

「そうなのか?」

「ああ。何せ私の知る真のメイドとは、主の求めであれば茶席の世話はもちろん、料理や洗濯などの基本的な家事に加え、菜園の手入れに着替えの世話、知略策略謀略も用意し暗殺から一番槍まで完璧にこなすものらしいからな」

「ぜ、前半はともかく、後半はえらく物騒ですね」

 

 真のメイド、恐るべし。

 余りに過激すぎるその業務内容に、思わずたじたじになる黒ウサギ。

 日向は面白そうに笑みを返した。

 

「ははは。まあ、レティシアに暗殺なんて物騒なことをさせるつもりは無いけどな。それに一番槍に関してだって、もっと他に適役そうな人物がいるし」

「ほえ? 一体どなたですか?」

「十六夜とか?」

「「なるほど」」

 

 すぐさま納得できた女性陣。

 確かに十六夜ならば、むしろ喜び勇んで敵地に先陣を切りそうだ。

 それも、ヤハハと笑い声を上げながら。

 ひとしきり世間話が済んだところで、レティシアは日向に問いかけた。

 

「ところで、日向はここで何をしていたんだ?」

「ん? ああ。見ての通り、農園区の見学にな。前々から話には聞いてたけど、一度実際に目にしておきたいと思ったんだ」

 

 説明しつつ、日向は農園区に向き直る。

 女性たちも隣に並んだ。

 

「そうか。ならば目的は同じだな。私も農園区の現状を確かめたいと、黒ウサギに付き添ってもらいこうして足を運んだのだが……」

 

 レティシアは美麗な金髪を靡かせながら、悲しげに表情を歪めてしゃがみ込む。

 

「……酷いな。ここがあの農園区とは、にわかに信じがたい。石と砂利しかないじゃないか」

 

 ほんの3年前まで豊潤な土壌があった土地は、今や見る影もない。

 黒ウサギはしゅんとウサ耳を伏せてうなだれた。

 

「……申し訳ありません。せめて水の都合が付けば、子供たちでも手を入れることが出来たのですが」

 

 レティシアは足場の土をひと握り掬って確かめると、静かに首を横に振る。

 

「いや、気にするな。そもそもコレは、人の手でどうこう出来るものではないからな」

 

 レティシアの言葉に、日向も頷いて続けた。

 

「そうだな。作物が育ち難いなんてものじゃない。土地そのものが完全に死んでしまっているんだ。これじゃ仮に水を与えたところで、生き物の住まう余地がない。地道に土壌を復活させようものなら、気の遠くなるような膨大な年月がかかるだろうな」

「……はい」

 

 黒ウサギは沈鬱そうに返事をした。

 箱庭における唯一にして最大の天災──“魔王”の傷跡は仲間や誇りのみならず、コミュニティの未来さえも奪うほどに強大なのだ。

 レティシアはスッと立ち上がると、メイド服の砂利を払いながら険しい声音で口にする。

 

「驚異的な力だ。私も長く生きてきたつもりだが、これほどの力を持つ魔王となると、片手の指ほどしか出会ったことがない」

 

 居住区、農園区、その双方は共に、まるで悠久の時を経たかのように奇怪な崩壊を遂げていた。

 ならば原因は明白だ。

 黒ウサギは頷くと、神妙な面持ちで告げる。

 

「時間操作による土地の自壊……これほどまでに大規模なことが可能な種は“星霊”級以上。それも星の運行を支配する類でしょう」

「ああ。星の運行を司る星霊となれば、最強のフロアマスター・白夜叉か……もしくはかの黄金の魔王“クイーン・ハロウィン”と同クラスの怪物ということになる」

 

 悪すぎる冗談だった。

 あらゆる修羅神仏の集うこの箱庭において尚、最強と謳われる三大種。

 

 ──生来の神仏である神霊。

 ──鬼種や精霊、悪魔等の最高位である星霊。

 ──幻獣の頂点にして系統樹の存在しない、龍種の“純血”。

 

 箱庭の最強種と名高いこれらの種は、もはや人智の及ぶ相手ではない。

 ましてやそれらの最上位ともなれば、その脅威は推して知るべしであろう。

 最悪と言っていい事実に歯噛みする2人。

 しかし言葉の中に聞き慣れない名称を耳にした日向は、ふと首を傾げて尋ねた。

 

「“クイーン・ハロウィン”って名前は初耳だな。そんなに凄い人物なのか?」

「それはもう! 何せこの魔王が集う箱庭において、唯一“女王”の名を冠するほどの御人ですから。その身に秘める力は、正しく絶大の一言です」

「箱庭の黎明期において、太陽の主権を争い白夜叉と壮絶な死闘を繰り広げたのはあまりに有名過ぎる話だ。現にかの女王は、白夜叉に次ぐ6つもの太陽主権をその手に収めている」

「へえ、あの白夜叉に匹敵するほどの実力者ってことか……」

 

 まだ見ぬ強大な存在を見据え、その名を胸に刻み込む日向。

 そこでレティシアが確認するように黒ウサギへ問う。

 

「しかしこれ程の力を有しているなら、コミュニティの名前ぐらいは聞きそうなものだが……何か分かったことは?」

「いえ。白夜叉様に聞いてみても、東側のコミュニティではないだろうという程度です」

「そうか……白夜叉がそう言うのなら、そうなのだろうな」

 

 レティシアは苦笑しながらも、土地を荒廃させるほどの凄惨な御技に身震いしていた。

 日向はそんな彼女の様子を見て取り、元気づけるように笑顔を見せる。

 

「ま、そんなに心配するなって。この農園も、俺たちが元に戻してみせるさ」

「YES! 日向さんの言う通りでございますよ! 何せ今のコミュニティには、日向さんを始め強力なギフト保持持が4人もいらっしゃるのですから! 皆様が力を合わせれば、この荒廃した土地を復活させることなど容易いのです!」

 

 シャキン! とウサ耳を立てて拳を握る黒ウサギ。

 レティシアも微笑んで頷いた。

 

「……ああ、そうだな。私も、主殿たちを信じているよ」

 

 2人の気遣いに、心から感謝の念を抱くレティシア。

 するとその時、突然本拠に続く道の向こうから、慌てた絶叫が木霊してきた。

 

「く、黒ウサギのお姉ちゃぁぁぁぁぁん! たたた、大変ーーー!!!」

 

 揃って声のする方へ振り向く3人。

 すると割烹着姿の狐娘リリが、今にも泣きそうな顔で駆け寄って来た。

 しかしあまりに慌て過ぎていたためか、途中で小石に躓いてしまい、そのまま日向の腹部にダイブする。

 

「わっぷ」

「おっと。大丈夫か?」

「あ、す、すいませんっ! ありがとうございます日向様!」

 

 羞恥でカァッと顔を赤くしたリリは、慌てて離れながら謝罪する。

 そこで黒ウサギが、不思議そうに問いかけた。

 

「リリ、一体どうしたのですか?」

 

 その一言で我に返ると、リリは急いで彼女に事情を話す。

 

「あの、実は、飛鳥様が十六夜様と耀様をつれて……あ、こ、これ、手紙っ!」

 

 パタパタと忙しなく2本の尻尾を振りながら、リリは黒ウサギに手紙を手渡した。

 黒ウサギは頭に疑問符を浮かべながら、手元の文面に目を通し始め──

 

「…………、」

「…………?」

「────!?」

 

 次第にワナワナと震え始める黒ウサギ。

 同時にウサ耳もかつて無いほど逆立ち始める。

 しばらくして内容を読み終えた彼女は、

 

 

「──……な、何を言っちゃってんですかあの問題児様方はあああああぁぁぁ!?」

 

 

 と、まるで悲鳴のような絶叫を上げた。

 その様子を訝しんだ日向は、黒ウサギの横から手元の手紙をのぞき込む。

 すると、そこにはこんな内容が書かれていた。

 

 

***

 

 

『黒ウサギへ。

 北側の四〇〇〇〇〇〇外門と東側の三九九九

 九九九外門で開催する祭典に参加してきます。

 アナタも必ず後から来ること。

 あ、レティシアもね。

 私たちに祭りのことを意図的に黙っていた罰

 として、今日中に私達を捕まえられなかった

 場合、()()()()()()()()()()()()退()()()()

 死ぬ気で捜してね。

 応援しているわ。

   P.S ジン君は道案内に連れて行きます』

 

 

***

 

 文面を読み終えた日向は、不思議そうに憤慨している黒ウサギへと問いかけた。

 

「……なあ、黒ウサギ。北側の祭りって何だ?」

 

 ぎくうっ! と黒ウサギのウサ耳が跳ねる。

 

「……あと、俺たちに秘密にしてたって」

 

 ぎくぎくぎくうっ! と黒ウサギのウサ耳がさらに跳ねる。

 彼女はキョロキョロと視線をさ迷わせながら、しどろもどろに答えた。

 

「え、えーと、何のことでしょうか?」

「黒ウサギ。今さら隠そうとしても、後が恐いだけだぞ」

「うう……」

 

 レティシアの言葉が胸に突き刺さる黒ウサギ。

 やがて、盛大に頭を下げた彼女は、

 

「も、申し訳ございませんでしたー!!!」

 

 全力で、謝罪したのだった。

 

 

 

***

 

「なるほど、な。北側の境界壁で開催される、“火龍誕生祭”。その招待状が白夜叉から送られてきて、それをたまたま飛鳥たちが発見した──と」

「……YES」

「そして黒ウサギたちは、元々大祭のことを俺たちには秘密にしているつもりだったと」

「うう……YES」

「あちゃー……」

 

 涙目になる黒ウサギを見て、日向はどうしたものかと頬をかく。

 最初に口を開いたのはレティシアだった。

 

「日向。あまり黒ウサギを責めないでやってくれ。彼女も決して悪気があったわけじゃないんだ」

「責めるも何も、別に怒ってないよ。ただまあ、飛鳥たちは違うんだろうなぁ。きっとかなり怒ってると思うぞ」

「あうあう……」

 

 罪悪心で胸がいっぱいになる黒ウサギ。

 日向は苦笑すると、そんな彼女の頭を優しく撫でた。

 

「まあ、そんなに落ち込むなって。今回の件は別に、黒ウサギだけが悪いってわけじゃない。路銀が足りなかったのは仕方が無いし、どちらかと言えば、俺たちの普段の行いの方に責任がある」

「日向さん……」

 

 黒ウサギは、上目使いに潤んだ瞳で日向を見る。

 日向は朗らかに笑って言葉を続けた。

 

「だからま、これを機に全力で説教してやれよ。そんでもって、ほんの少しでも罪悪感があるんなら、黒ウサギの方からも謝ればいい。それで全部解決だ。だろ?」

 

 日向はニッと笑って黒ウサギに言う。

 黒ウサギはしばし呆然とすると、やがてゴシゴシと勢いよく涙を拭う。

 そして、力強く頷いた。

 

「……YES! 絶対に問題児様方を捕まえて、お説教をしてみせるのですっ!」

「ああ、その意気だ」

 

 ──こうして、問題児たちと黒ウサギとの、壮絶な鬼ごっこが開始されたのだった。

 

 

 

***

 

 ──箱庭二一〇五三八〇外門区画。

 ──ペリベッド通り・噴水広場。

 

 黒ウサギの絶叫が農園区に響き渡る頃。

 こっそりと本拠を抜け出した飛鳥たちは、噴水広場にあるカフェ“六本傷”のテラスで席に着いていた。

 注文した品を待つかたわら、飛鳥はふと外門の近隣を見回して尋ねる。

 

「噴水広場に訪れる度に思うのだけど……あの外門の悪趣味なコーディネートは、一体誰がしているの?」

 

 外門と箱庭の内壁の繋ぎ目である石柱には、巨大な虎の彫像が掘り起こされている。

 門の上部に刻まれている旗印は、今は無きコミュニティ“フォレス・ガロ”のものだ。

 彼女の疑問に、ジンはため息混じりに説明した。

 

「外門のデザインを決める権利は、地域の権力者が、“階層支配者”の提示するギフトゲームをクリアすることで手に出来ます。一種の、コミュニティの広告塔としての役割があるんですよ」

「……そう。それであの外道の名残りが残っているの」

 

 フン、と不機嫌そうに後ろ髪を払う飛鳥。

 運ばれてきた紅茶にひと口付けると、気を取り直すように微笑を浮かべて切り出した。

 

「それで、北側まではどのような道のりになるのかしら?」

 

 紅いドレススカートからスラリと伸びる両足を組み直し、優雅な口調で問いかける。

 隣の席で、耀は小首を傾げて提案した。

 

「んー……だけど北にあるって言うなら、とにかく北に歩けばいいんじゃない?」

「おいおい春日部、それは流石に無理があるぞ」

 

 無計画過ぎる内容に苦笑いでツッコミを挟みつつ、十六夜は改めてジンに問う。

 

「それで? 我らがリーダーは、何か素敵なプランは無いのか?」

 

 その言葉にジンは盛大にため息を漏らすと、呆れたように返答した。

 

「予想はしてましたが……もしかして、北側の境界壁までの距離を知らないんですか?」

「知らねえよ。けどそんなに遠いのか?」

「……やっぱり、何も知らずに出発していたんですね。なら説明する前に聞いておきますけど。……皆さんは、この箱庭が恒星級の表面積だというのは知っていますか?」

「……え、恒星?」

 

 飛鳥が素っ頓狂な声を上げる。

 耀も無表情ながら、瞳を3度ほど瞬きする。

 十六夜は首肯しながらも、ジンの言葉に眉をひそめた。

 

「その話なら、前に黒ウサギから聞いた。けど箱庭の世界は、ほとんどが野晒しにされているって言ってたぞ。それに大小はあっても、この都市以外にも街はあると」

「ありますよ。しかしそれを差し引いても、箱庭はこの世界最大規模の都市。箱庭の世界の表面積を占める比率は、他の都市とは比べ物になりません」

「比率?」

 

 ジンの勿体つけた言い方に、飛鳥たちは全員が不穏な気配を感じ取る。

 そもそも、都市の大きさを星の比率で表すことが出来る、という発想自体が全く無かったのだ。

 

「恒星の表面積ってどれくらい?」

 

 耀の発した疑問に、隣に座る十六夜が答えた。

 

「仮に箱庭の世界の表面積を太陽と同等だと仮定した場合……地球の約13000倍ってところだな」

 

 予想外すぎる回答に、耀は目を丸くする。

 実にお馬鹿な数字である。

 十六夜は警戒心を滲ませながら、続けてジンに問いかける。

 

「だがまさか、恒星の1割ぐらいを都市部が占めている……なんてことは言わねえよな?」

「そ、それは流石にあり得ませんよ。比率といっても、その数字は極少数になります」

「そ、そうよね。それで、この場所から北側の境界壁までは、どのくらいの距離があるの?」

 

 飛鳥が回答を急がせる。

 ジンは天を仰いで考ると、

 

「そうですね。ここは少し北寄りなので、大雑把でいいのなら……980000kmぐらいかと」

「「「うわお」」」

 

 驚愕の事実に、飛鳥たちは揃って声を上げた。

 

「い、いくらなんでも遠すぎるでしょう!?」

 

 カフェのテーブルを叩き、猛抗議する飛鳥。

 ジンも負けじと怒鳴り返す。

 

「ええ、遠いですよ! 箱庭の都市は中心を見上げた時の遠近感を狂わせるように出来てるため、肉眼で見た縮尺との差異が非常に大きいんです! あの中心を貫く“世界軸”までの実質的な距離は、目に見えている距離よりも遙かに遠いんですよ!」

 

 だから止めましょうってあれほど言ったじゃないですかーッ! とジンが叫ぶ。

 一方で、十六夜は冷静に箱庭について考察していた。

 

「なるほど。箱庭に呼び出された時、箱庭の向こうの地平線が見えたのは、縮尺そのものを誤認させるような仕掛けがあったからなんだな。てことは、北側まで980000kmってのもマジな訳だ。……ちょっとばかし遠いな」

 

 軽薄な笑みを浮かべる十六夜だが、流石に打つ手が思い浮かばないらしい。

 “境界門(アストラルゲート)”を使用するという手もあるが、それには莫大な使用料がかかる。

 貧困を極める今の“ノーネーム”にとっては、難し過ぎる選択肢だ。

 ジンは再び大きなため息を吐いた後、諭すような口調で語りかけた。

 

「今ならまだ笑い話で済みます。ですから皆さんも、もう戻りませんか?」

「断固拒否」

「右に同じ」

「以下同文」

 

 ガクリ、と肩を落とすジン。

 黒ウサギたちにあんな挑発的な手紙を残してきた以上、彼らも引くに引けないのだ。

 3人は勢い良く立ち上がり、ジンのローブを掴んで走り出す。

 

「あんな事をして今更引けるものですか! 行くわよ2人共!」

「おう! こうなったら駄目で元々! “サウザンドアイズ”へ交渉に行くぞゴラァ!」

「行くぞコラ」

 

 ヤハハ! と自棄気味にハイテンションな十六夜と飛鳥に続き、その場の勢いで声を出す耀。

 ジンはダボダボのローブに首を絞められながら、そんな彼らに連れ回されるのであった。

 

 

 

***

 

 事態を把握した後の黒ウサギたちの行動は迅速だった。

 本拠内の探索を終えた子供たちが、口々に黒ウサギとレティシアに報告を告げる。

 

「食堂にはいなかったよ!」

「大広間、個室、貴賓室、全部見てきた!」

「貯水池の付近もいないっ!」

「お腹すいた!」

「それはまた後でな。……それで、金庫はどうだ?」

「コミュニティのお金に手を付けた形跡はありません。しかし皆さんの自腹で境界壁まで向かえるはずがございません! うまくすれば外門付近で捕まえることが可能です!」

「なら黒ウサギは先に外門へ急げ。万一捕まえられずとも、“箱庭の貴族”であるお前なら境界壁の起動に金はかからない。私は“サウザンドアイズ”の支店に行く。招待状を出したのが白夜叉ならば、無償で北の境界壁まで送り届ける可能性もあるからな」

 

 黒ウサギとレティシアは行動を確認し合い、頷く。

 特に黒ウサギの瞳には、かつてないほどの激しい決意の炎が灯っていた。

 

「あの問題児様方……! 今度という今度は絶対に! 絶対に許さないのですよーッ!!!」

 

 怒りのオーラで髪を淡い緋色に染め、本拠の外に出るや否や、土ぼこりを巻き上げて黒ウサギは爆走するのだった。

 

 

 

***

 

 黒ウサギたちが躍起になって本拠の捜索をしている頃。

 日向は“ノーネーム”を離れ、ひとり“サウザンドアイズ”の支店を目指していた。

 水路脇の桜に似た街路樹が立ち並ぶ石畳の街道を歩いていると、やがて目的地の目印である双女神の看板が見えてくる。

 商店の入り口では、今日も割烹着姿の女性店員が、竹ぼうきでせっせと店前を掃いていた。

 日向はそのまま歩み寄り、朗らかに挨拶する。

 

「こんにちは、今日もお勤めご苦労様です」

「ええ、ありがとございます──って、誰かと思えばあなたですか」

「どうも」

 

 営業スマイルから一転、日向を見るなり露骨に嫌そうな顔をする女性店員。

 彼女はじとっと日向を睨んで口を開く。

 

「毎回言っていますけど、うちは“ノーネーム”お断りです」

「まあまあ、そう言っていつも利用させてくれるじゃないですか。本当にありがとうございます」

「まったく……」

 

 女性店員は呆れたようにため息を吐いた。

 しかし、すぐさま諦めたように言葉を続ける。

 

「……と、言いたいところではありますが、今回だけは、あなたが来たことに感謝しましょうか」

 

 その一言で、日向は全てを理解した。

 

「ああ、やっぱり来てますか?」

「ええ。相も変わらず遠慮無用にズカズカと」

「あはは……どうもすいません」

 

 居たたまれなくなって、日向は思わず謝罪した。

 女性店員はそっと竹ぼうきを壁に立てかけると、

 

「特別に案内してあげますから、とっとと連れ返ってください」

「いやあ……善処します」

 

 たぶん無理だろうなと思いながら、日向は当たり障りのない返事をした。

 その後、女性店員に案内されて、“サウザンドアイズ”の店内を進む。

 歩みを進める傍ら、日向は軽く世間話を切り出した。

 

「そう言えば、この店ではギフトなんかも取り扱っているんですよね?」

「ええ、その通りです」

「例えば、どんなものがあるんですか?」

 

 日向の質問に、女性店員は淀みなく答える。

 

「様々ですね。武具や日用品はもちろんですが、それ以外の物も数多くあります。例を挙げれば、あなた方のお仲間である吸血鬼の彼女も、以前はうちで扱われていた商品のひとつでした」

「なるほど、本当に色々あるんですね。ちなみにそう言った商品は、一般客でも買えるんですか?」

「ええ、買えますよ。無論、ギフトの購入に関しては、うちで発行している貨幣に限られますが」

「へえ、それまたどうして?」

 

 女性店員は歩みを止めずに続ける。

 

「そもそも、箱庭の都市で発行されている貨幣は、全て同様の比率で金銀銅の物が造られます。我々はギフト以外の品に関して他のコミュニティの貨幣を用いた購入を許可していますが、支払いには必ず我々の貨幣を扱っています。これは即ち、“サウザンドアイズ”とどれほどの交流があるのかを示す目安にもなるのです。──ギフトとは、恩恵であり奇跡の結晶。より多くの交流、より多くの信頼を持ったコミュニティにギフトを授けるのは、当然のことでしょう?」

 

 なるほど、と納得したように頷く日向。

 そもそも上層部は修羅神仏なのだ。

 金だ銀だという物を欲しがることはないのだろう。

 

「……あれ? それならどうして貨幣を発行して商売なんてしてるんですか?」

「ああ、あなた方はまだ箱庭に来たばかりで知らないのでしたね。説明しますと、幾つかの貨幣の発行元のコミュニティは、その流通と価値を競うギフトゲームをしているのですよ。自らの旗印を貨幣に刻んでいるのも、そのためです」

 

 この箱庭の都市において、貨幣の価値は金の比重でもなければ銀の比重でもない。

 貨幣に記された旗印だけが、その価値を決めるのだ。

 

「なるほど。金銀銅の価値・比重が全て平等なら、より多く流通しているコミュニティの貨幣は多くの支持を得ていることになる。……貨幣の流通を競うゲーム。流石は超大手の商業コミュニティ。やるこのとの規模が桁違いですね」

「当然です」

 

 素っ気なく返す女性店員だが、その様子はどこか誇らしげだ。

 日向は納得したように話を続ける。

 

「けどこれで、“ノーネーム”お断りの理由も分かりました。流通を淀みなく行うためには、顧客の選別も必要だったって訳ですね」

「その通りです。ですから、今後うちには来ないように」

「そこを何とか」

 

 いつの間にか商売話になっていたが、間もなく目的である白夜叉の私室に到着した。

 女性店員はひとまず日向を待たせると、先んじて中にいる主に声をかけた。

 

「オーナー。お取り込み中のところ、大変申し訳ありません。不本意ですが、客人をお連れしました」

「うん? 不本意な客人だと? 一体誰だ?」

 

 白夜叉が首を傾げると同時に、日向が障子の陰から姿を見せる。

 

「どうも、不本意な客人です」

「ひ、日向さん!」

 

 朗らかに告げる日向に、ジンが驚いた声を上げる。

 対照的に、十六夜は落ち着いた様子で話しかけた。

 

「よう。思ったより早かったじゃねーか」

「まあな」

 

 そう言って互いに笑みを交わす。

 一方の飛鳥と耀は、不思議そうに問いかけた。

 

「だけど、いくら何でも早すぎないかしら?」

「どうやって、私たちの居場所が分かったの?」

「まあ、選択肢は限られていたからな。後は客観的に考えて、その中でも一番可能性が高そうな場所に来てみれば、案の定ドンピシャだったってわけだ」

 

 日向が説明を終えると共に、縁側で控えていた女性店員が居住まいを正して立ち上がる。

 

「それではオーナー。私はこれで」

「おお、案内ご苦労だったの」

「俺からも、ありがとうございました」

「いえ、それでは」

 

 短く返し、彼女はその場を後にした。

 恐らくは、また店前の清掃に戻ったのだろう。

 無難に挨拶が済んだところで、白夜叉は日向に着席を促す。

 

「取り敢えず、日向も来たのなら好都合だ。おんしも皆と並んでそこに座れ。丁度、おんしらを北側に連れていくか否かで、話をしていたところだ」

「ああ、それじゃあお邪魔します」

 

 日向が座敷に腰を下ろすと、不意に耀が小首を傾げて問いかけた。

 

「日向は、私たちを捕まえに来たんじゃないの?」

「ん? ああ。仮に耀たちが、コミュニティの資金を使おうとかしてたら、確かに止めるつもりだったんだけどな。けどま、折角白夜叉が条件次第で連れいってってくれると言ってるんだ。黒ウサギにしても、路銀さえあればって言ってたしな。金を使わずに行ける方法がちゃんとあるなら、俺もわざわざ止めるつもりはないよ。それに今さら、鬼ごっこを止めるつもりも無いんだろ?」

「「「当然」」」

「ははは、悪いなジン。そう言うわけだ。まあぶっちゃけ、俺も行きたいしな!」

「あぁ……」

 

 日向が味方ではないと知り、ガクリとうなだれるジン。

 そんな彼らの様子を面白そうに見ていた白夜叉は、ここが機と見て話を始めた。

 

「さて、一応日向にも聞いておこうかの。今し方、この4人から、おんしたちが“打倒魔王”を掲げたことについては確認した。それは日向も同意してのことなのだな?」

「ああ、その通りだ」

「うむ。ならば話は早い。実はその“打倒魔王”を掲げたコミュニティに、東のフロアマスターから正式に頼みたいことがある。此度の共同祭典についてだ。よろしいかな、ジン殿?」

「は、はい! 謹んで承ります!」

 

 子供を愛でるような物言いではなく、組織の長として言い改める白夜叉。

 ジンは少しでも認められたことに、パッと表情を明るくした。

 

「ふむ、ではどこから話そうかの……」

 

 カン、と煙管(きせる)で紅塗りの灰吹きを軽く叩き、ひと息つく白夜叉。

 そっと中庭に眼を向け、遠い眼をした後……ふと思い出したように話し始めた。

 

「ああ、そうだ。北のフロアマスターの一角が世代交代したのを知っておるかの?」

「え?」

「何でも急病で引退だとか。まあ亜龍にしては高齢だったからのう。寄る年波には勝てなかったと見える。此度の大祭は新たなフロアマスターである、火龍の誕生祭でな」

「「龍?」」

 

 キラリと光る期待の眼差しを十六夜と耀の2人が見せる。

 白夜叉は苦笑しつつ話を続けた。

 

「五桁・五四五四五外門に本拠を構える“サラマンドラ”のコミュニティ──それが北のフロアマスターの一角だ。ところでおんしら、フロアマスターについてはどの程度知っておる?」

「私は全く知らないわ」

「私も」

「俺はそこそこ知ってる」

「俺もそれなりに……だな。要するに、下層の秩序と成長を見守る存在のことだろ?」

 

 日向が確認するように説明する。 

 白夜叉はひとつ頷くと、詳細を語り始める。

 

「うむ。“階層支配者(フロアマスター)”とは箱庭の秩序の守護者であり、下位のコミュニティの成長を促すために設けられた制度だ。主務は箱庭内の土地の分割・譲渡、コミュニティが上位の階層に移転できるかどうかを試す試練を行うなど多岐に渡っておる。そしてそんな箱庭の秩序を乱す天災・魔王が現れた際には率先して戦う義務があり、その義務と引き換えに、“階層支配者”は膨大な権力と最上級特権・“主催者権限(ホストマスター)”を与えられているのだ」

「しかし、北は複数のマスターたちが存在しています。精霊に鬼種、それに悪魔と呼ばれる力ある種が混在した土地なので、それだけ治安も良くないですから……」

 

 ジンはそれだけ付け加えると、悲しそうに目を伏せた。

 

「けど、そうですか。“サラマンドラ”とは親交があったのですけど……まさか頭首が替わっていたとは知りませんでした。それで、今はどなたが頭首を? やっぱり長女のサラ様か、次男のマンドラ様が?」

「いや、当主は末の娘──おんしと同い年のサンドラが火龍を襲名した」

 

 は? ジンは小首を傾げて一拍、2度ほど目を瞬いた。

 しかし次の瞬間、驚嘆して声を上げる。

 

「サ、サンドラが!? え、ちょ、ちょっと待ってください! 彼女はまだ11歳ですよ!?」

「あら、それを言うならジン君だって11歳で私たちのリーダーじゃない」

「それはそうですけど……! いえ、だけど」

「なんだ? 御チビの恋人か?」

「ち、違っ、違います! 失礼なことを言うのは止めてください!」

 

 ヤハハと茶化す十六夜と飛鳥。

 怒鳴り返すジン。

 全く関心の無い耀が続きを促した。

 

「それで? 私たちに何をして欲しいの?」

「そう慌てるな。実は今回の誕生祭だが、北の次代マスターであるサンドラのお披露目も兼ねている。しかしその幼さゆえ、東のフロアマスターである私に共同の主催者を依頼してきたのだ」

「あら、それはおかしな話ね。北には他のフロアマスターたちが居るのでしょう? ならそのコミュニティにお願いして共同主催すればいい話じゃない?」

「……うむ。まあ、そうなのだがの」

 

 急に歯切れが悪くなる白夜叉。

 ポリポリと頭をかいて言いにくそうにしていると、察した日向が助け舟を出した。

 

「まあ、例えば幼い権力者を良く思わない組織がある──とか、ありきたりにそんな事情があるんじゃないか?」

「んー……ま、そんなところだ」

 

 途端に飛鳥の顔が不愉快そうに歪む。

 まさかそんな陳腐な話が絡んでくるとは思わなかったのだろう。

 彼女の目に見えるほど強い怒りと、落胆の色が浮かんだ。

 

「……そう。神仏の集う箱庭の長たちでも、思考回路は人並みなのね」

「うう、手厳しい。だが全く持ってその通りだ。実は東のマスターである私に共同祭典の話を持ちかけてきたのも、様々な事情があってのことなのだ」

 

 申し訳なさそうに、苦々しい顔でうなだれる白夜叉。

 重々しく口を開こうとした彼女を、日向が口を挟んで制した。

 

「ちょっと待った。その話、長くなりそうか?」

「ん? んん、そうだな。短くともあと1時間程度はかかるかの」

「日向、どうしたの?」

 

 耀が不思議そうに小首を傾げて問いかける。

 日向は苦笑して答えた。

 

「忘れたのか? 耀たちは今、鬼ごっこの最中だってこと」

 

 ハッ、と一同は気づいた顔をする。

 

「俺がここに来れたんだ。黒ウサギたちが来るのも、時間の問題だと思うぞ?」

「そ、そうだわ! 1時間も悠長にしていたら、黒ウサギたちに追いつかれてしまうじゃない!」

「……それはまずい」

 

 あっという間に危機感を抱く問題児たち。

 ジンは咄嗟に立ち上がると、 

 

「し、白夜叉様! どうかこのまま」

「ジン君、()()()()()!」

 

 ガチン! と勢い良くジンの下顎が閉じる。

 飛鳥の支配するギフトが働いたのだろう。

 その隙を逃さず、十六夜が白夜叉を促した。

 

「白夜叉! 今すぐ北側へ向かってくれ!」

「む、むぅ? 別に構わんが……何か急用か? というか、内容を聞かずに受諾してよいのか?」

「構わねえから早く! 事情は追々話すし何より──()()()()()()()! 俺が保証する!」

 

 十六夜の言い分に白夜叉は瞳を丸くし、呵々と哄笑を上げて頷いた。

 

「そうか。()()()()。いやいや、それは大事だ! 娯楽こそ我々神仏の生きる糧なのだからな。ジンには悪いが、面白いならば仕方がないのぅ?」

「……!?……!?」

 

 白夜叉の悪戯っぽい横顔に、声にならない悲鳴を上げるジン。

 しかし何もかもがもう遅い。

 暴れるジンを嬉々として取り押さえる十六夜たちと、それを隣で苦笑しながら見守る日向。

 そんな彼らを余所に白夜叉は両手を前に出し、パンパンと2つ柏手を打つ。

 

「──ふむ。これでよし。これで望み通り、北側に着いたぞ」

「「「「――……は?」」」」

 

 思わず目を点にする日向たち。

 それもそうだろう。

 北側までの980000kmというお馬鹿な距離を、あの一瞬で?

 ──という疑問はすぐに過ぎ去り、次の瞬間、4人は期待を胸に店外へと走り出したのだった。

 

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