- The Another Origin -   作:青葉空太

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第34話 SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING

 

 机に突っ伏した状態で、十六夜は目を覚ました。

 窓の外を見ればいつの間にか雨は上がっており、今は美しい茜色の空が広がっている。

 

 ふと、そこで十六夜は手元の腕時計を確認する。

 パネルには18:15と表示されていた。

 

「……あー、クソ。なんか、すげぇ腹減ったな」

「お! なら夕食は食べていくかいイザ兄!」

 

 ガバッと背後から抱きつく鈴華。

 気配がまったく無かったことに内心驚く十六夜だが、もちろんそんな素振りは微塵も見せない。

 

「降りろ鈴華。抱きつくなら最低Dカップ以上になってからにしろと何度言えば分かる」

「な、なんだとう!? 鈴華さんは将来いっぱい出ていっぱい引っ込んでいっぱい出てる女の子になる予定なんだぞ! 青田買いしとくとお得なんだぞ!」

「はいはい、予定は未定な。いいからどけ」

 

 むんずっ、と首根っこを掴んで引っぺがす。

 むすーっと頬を膨らませた鈴華は、スタタタタ! とドアまで駆けて行く。

 

「ふーんだ! イザ兄のことなんてもうしんないもんね! そこで餓死してろバカヤロー!」

「いや、それは困るな。夕食は食べるから用意しといてくれ」

 

 コキコキと凝りを解しつつ、ふぁ、と大きな欠伸をひとつ。

 鈴華は不機嫌そうな顔つきから一転、神妙な面持ちで十六夜を見つめると、

 

「…………ん、分かった。待ってるからねイザ兄」

 

 一瞬、不自然な間を置いて去って行く。

 入れ替わるように、今度は焔が入ってきた。

 

「お目覚めかイザ兄」

「ああ……って、またそのヘッドホンか」

「おう。ネコ耳部分を調整改良してみた。これできつくなり過ぎないはず」

「ふーん? まあ、それも後で受け取りに行く。今は遺書の続きを読むから、鈴華と一緒に夕食の準備でもしといてくれ」

「…………分かった。絶対に取りに来いよ、イザ兄」

 

 やはり不自然な間を置いて、焔も去っていく。

 その背を見送った後、十六夜は再び机の上にある遺書のページを捲った。

 

『よだれ垂らして寝るなんて、汚いわよ十六夜君』

「うるせえクソババア」

『ふてくされないでよ。これでも安心してるんだからね? 君がゲームクリアできない可能性も、0ではかなったのよ。だからこうして遺書が届いている現状は、とても嬉しく思ってる。……おめでとう、十六夜君。ここまで到達して、君はようやく権利を手に入れた』

「…………」

『ふふ。何を言ってるのか分からないって顔してるわね。うん、今は分からなくていい。ここまではある種の予定調和だから。でも人の手で扉を開くにはいくつか可能性の収束と分裂が必要なの。その収束点は本来、極僅かな範囲で偶発的に起こるものなんだけど……ああ、いいや。理論の説明はクロアにでも任せよう。ここで問題なのは、君に渡す招待状のことよ』

「招待状?」

 

 十六夜が首を傾げた直後。

 ヒラリと、遺書の下から封書が舞った。

 

『それが招待状。君の運命を変える手紙。君が今日体験したことが、君の日常になる手紙。……だけど君はこの手紙を開けずとも、この世界で幸せになれる可能性がある。その手紙のことを忘れて生きていく権利が、君にはある。焔や鈴華と共に生きる優しい未来が、この世界にはある。私は君にそれを再確認して欲しくて、このゲームを持ちかけたんだ』

「……大物をぶつけ過ぎだ。おかげで少しばかり冷や汗かいたぞ」

『何を情けない。十歳の頃の君なら喜び勇んでぶっ殺していたでしょうに。……まぁ、私がそうしないように育てたんだけどさ。君は傲慢な物言いとは裏腹に、常識へ傾き過ぎた。それだけの超常を有しながら、世界と折り合いをつけられるぐらいに。……だから、君に選択肢を与えるべきだと思ったの。きっとどちらを選んでも名残惜しい思いは残るだろうから。最後の選択は、君の手で行うべきなんだ』

「…………」

 

 ペラリと、無言で次のページを捲る。

 

『前述した通り、君にはこの世界で幸せになれる可能性がある。私が保証しましょう。しかし手紙を開ければ、その保証はすべて霧消してしまいます。

 多くの困難があなたを待ち受けるでしょう。

 屈辱的な目にも遭うでしょう。

 大切な友人と喧嘩してしまうこともあるでしょう。

 しかし、その両手に溢れるほどの人たちを救うかもしれない。

 ……だから、よく考えて欲しい。

 家族を、友人を、未来を、世界の全てを捨てる覚悟があるのなら──手紙を開けなさい』

 

 遺書はそこで終わっていた。

 金糸雀にとっての別れは、死別した時に交わしたつもりでいるのだろう。

 

 十六夜は招待状を手に取り、再度遺書を読み返す。

 

「……手紙を開ければ帰ってこれない。そういうことでいいんだな?」

 

 当然返事は無い。

 しかし十六夜は確信していた。

 

 ──遠い日の戦場見学で彼女は、戦場へ行くなら自分の意志で行けと言った。

 あれはこの時のために告げられた言葉であったに違いない。

 この600ページにもなる膨大な遺書に書かれることの無かった、金糸雀の万感の思いを、十六夜は感じ取っていた。

 

「────……ハッ。あれこれと考えるほどのもんじゃないか」

 

 スッと椅子から立ち上がり、招待状の開け口に手をかける。

 一度だけ視線を扉の方へと向けた十六夜は、

 

「──じゃあな、鈴華。焔」

 

 ただ、それだけを告げて。

 

 手紙の封を開けたのだった。

 

 

 

 

***

 

 ──“アンダーウッド”の地下都市。

 ──“ノーネーム”新宿舎。

 

 耀は落ち込んでいた。

 それはもう、かつてないほど落ち込んでいた。

 

 現在、部屋の隅で膝を抱えて丸まっている彼女は、死んだ魚の方がまだ活き活きとしているのではないか? と思えるほどの虚ろな瞳で虚空の一点を見つめ続けている。

 そのあまりの負のオーラに侵食されてか、清涼な室内の空気も心なし彼女の周りだけどんよりと淀んでいるかのようだ。

 

 その様子を少し離れた位置から見守っている日向たちも、何とも言えない憐憫の眼差しを浮かべていた。

 

「……」

 

 チラリと、飛鳥が黒ウサギに目配せする。

 その目には『何とかしなさい』という無言の圧力がこもっていた。

 

「……!」

 

 ブンブンと首を横に振る黒ウサギ。

 全力の拒否だった。

 

 チラリと、彼女は目配せをジンにパス。

 

「……」

 

 ここでジンがまさかのスルー。

 流れるようなパスワークでそのまま日向に目配せを通す。

 

「……」

 

 日向も同様に、他の誰かにパスを送ろうとするのだが──

 

「「「……」」」

 

 じーっと、三人が無言で日向を見ていた。

 満場一致だった。

 とても断れない雰囲気だった。

 

 日向は困った顔をするが、やがて小さくため息を吐くと、覚悟を決めた顔で強く一歩を踏み出した。

 その勇姿を、飛鳥たちもごくりと固唾を呑んで見つめる。

 

 やがてそっと耀の隣に腰を下ろした日向は、努めて明るく話しかけた。

 

「ま、まあほら、元気出せって耀。案外、十六夜も気に入るかもしれないぞ? ソレ」

「………………………………本当にそう思う?」

「ああ、もちろ──ごめん、やっぱごめん」

 

 肯定しかけた言葉を、日向は咄嗟に引っ込めた。

 彼女の手元にある“ソレ”を目にした瞬間、自信は一瞬で砕け散った。

 

 耀が手にしていたのは、確かにヘッドホンだった。

 先刻、フェイス・レスによって召喚された“ソレ”は、間違いなくヘッドホンではあった。

 

 ただしその形状は、日向たちが見慣れていたものとは、ちょっぴり何かが違っていて──。

 

「…………」

 

 耀は自分の手の中にある“ソレ”を、感情の抜けきった瞳で見つめながら思う。

 

 ──“どうして、こんなことになってしまったんだろう?”

 

 そんな彼女の思考は、自然と“ソレ”を召喚した場面に戻るのであった。

 

 

 

***

 

 ほんの数十分ほど前のこと。

 フェイス・レスによる召喚の儀式の最中、不意に耀の体から眩い光が溢れ出した。

 目を開けていられないほどの強烈な光に全員が視界を塞ぐ中、やがて輝きが収束する。

 

 しばらくして完全に光が消えた後、再び彼らが目を開くと、耀の頭上にはヘッドホンが出現していた。

 

 途端、飛鳥は瞳を輝かせて耀に抱きつく。

 

「可愛い! そのヘッドホン、とっても可愛いわ春日部さん!」

「え? か、可愛い?」

 

 どういうことだろう? と小首を傾げた耀は、頭のヘッドホンを外して確認。

 

 瞬間、さっと青ざめた。

 

 前に元の世界で見た時には、確かに普通のヘッドホンだったはずなのに。

 彼女が装着していたヘッドホンは、誰がどう見ても、どこからどう見ても、どうしようもなく紛れもなく、完全無欠にパーフェクトに──ネコ耳のヘッドホンだったのだ。

 

「な、なんで!? ちゃんと炎のトレードマークも付いてるのに、形が変わってる……!?」

 

 飛鳥に揉みくちゃにされながら困惑する耀。

 日向たちも、なんとも微妙な面持ちでネコ耳のヘッドホンを見つめていた。

 

「あ、あのネコ耳のヘッドホンを、十六夜さんに贈るのですか?」

「さ、さあ? 耀さん次第じゃないかなぁ」

「アレを十六夜が付けるのか……シュールだな」

「ヤホホ……でも、意外と喜ぶのではないでしょうかねぇ?」

「可愛い……」

 

 若干羨ましそうなアーシャを除き、そんな無責任な笑い声を上げる一同。

 儀式を終えたフェイス・レスは疲労の色も見せず粛々と剣を鞘に収め、耀の元まで歩み寄ると、無言で彼女を見つめ続けた。

 

「…………」

「…………?」

 

 なんだろう? と再び小首を傾げる耀。

 仮面のせいで感情も読み取れず、ただ見つめ返すしかない。

 互いに口数が少ない者同士、一向に進まないを会話を見て、日向はやむなく割って入った。

 

「えーと、どうしたんだフェイス?」

「……彼女のギフトを、見せて欲しい」

「え?」

「召喚の際、想定していた星の軌道が大幅に歪みました。……こんなことは初めてです。もし失敗だとしたら、原因は彼女が所持するギフトしか考えられません」

 

 だから確認させて欲しい、とフェイス・レスは言った。

 彼女の言葉に困惑しながらも、耀はペンダント──“生命の目録(ゲノム・ツリー)”を外して渡す。

 受け取ったフェイス・レスは、手の平に乗せて確かめる。

 

「……? これは?」

「私のギフト。父さんが作ってくれたもの」

「YES! 耀さんのギフトは“生命の目録”といって、仲良くなった異種族の力をギフトとして発現できるとっても貴重な代物なのですよ!」

 

 シャキン! とウサ耳を伸ばして同士を誇る黒ウサギ。

 フェイス・レスは顎に手を当てて考える素振りを見せたあと、ふっと耀に問いかけた。

 

「異種族のギフトを手に入れる……と言いましたね。ではこの内外を突き進む螺旋図は、系統樹を司っていると解釈してもよろしいでしょうか?」

「……? うん、たぶん」

「……なるほど」

 

 耀が首肯すると、フェイス・レスは得心がいったように頷いてペンダントを返す。

 すると踵を返し、凛とした背中を向けて去っていくが、去り際に思い出したかのように告げた。

 

「……召喚に失敗した代わりと言ってはなんですが、一つ、ご忠告を。そのペンダントに宿る力は、“他種族のギフトを戴く”というものだけではありません」

「え?」

「そのペンダントは既存の系統樹をなぞるのが役割ではないということです。収集した生命の欠片から独自の形で成長する系統樹を創り造し、次のプロセス──“目録”からのサンプリング、“進化”と“合成”をするのが本来の役割のはず」

「えーと……うん? あなた、意外に喋る人?」

「耀。話が理解できないのは分かるが、それだと嫌みにしか聞こえないぞ?」

 

 思わず苦笑する日向。

 口べたな彼女なりの精いっぱいのコミュニケーションをどう捉えたかは分からないが、フェイス・レスはしばし沈黙した後、聞き取れないほどの小さな声で──

 

「──気を付けて。本来ならそのギフトは、人間の領域を大きく逸脱した代物ですから」

 

 それだけを告げて、彼女は“アンダーウッドの地下都市”の崖を飛び降りて姿を消した。

 残された日向たちはしばし無言で立ち尽くしていたが、ハッと黒ウサギが我に返り、

 

「……えーと。結局、ヘッドホンの問題は未解決ですか?」

 

 あっ、と声を上げる耀。

 その手には炎のエンブレムが貼られたネコ耳ヘッドホン──“Crescent moon No.16”だけが残っていた。

 

 

 

***

 

 ──箱庭七七五九一七五外門区画。

 ──“アンダーウッドの大瀑布”。

 ──フィル・ボルグの丘陵。

 

 陽が沈み、星の煌めきが夜空を飾り始めた頃。

 “アンダーウッド”に到着した十六夜は、まるでショーウィンドウに並ぶおもちゃを眺める子供のように、爛々と瞳を輝かせて言った。

 

「──緑と清流と青空の舞台。ハハッ、北側の石と炎の真逆じゃねえか! ちょっと出来過ぎじゃねぇ? いや、俺は歓迎だが? むしろ抱き締めたいぐらい大歓迎だが? ちょっくら抱き締めに行っていいか、レティシア?」

「構わんよ。黒ウサギたちには私とユエから伝えておこう」

「気をつけて行って来てくださいね!」

 

 レティシアは苦笑しながら了承し、ユエは笑顔で送り出す。

 十六夜は辛抱たまらんと言わんばかりに走り出すと、“アンダーウッド”の大樹を目がけて跳躍した。

 巨大な幹をピョンピョンと軽快に跳び登っていく。

 そうしてあっさりと“アンダーウッド”の頂上に辿りついた十六夜は、寝転がるための水樹の葉と枝を押さえて確認。

 多分に水分を含んだ葉は不思議な弾力で手の平を押し返してきた。

 

「よしよし、いいぞ。シチュエーションとしては最高だ。これで肴の一つでもあれば良かったんだが……ま、今日は星空だけでいいか」

 

 どっと勢いよく葉っぱのベッドを弾ませて寝ころぶ。

 “アンダーウッドの大瀑布”の力強い水音を堪能しながら、箱庭の星空を眺めた。

 

「……星の位置は箱庭も変わらねえんだな」

 

 デネブ、アルタイル、ベガ──夏の大三角を指先でなぞる。

 

(鈴華や焔はどうしてるかな……ま、あの二人ならふてぶてしく元気にやってるか)

 

 らしくない郷愁を、軽く首を振って払う。

 その時、ふと背後に誰かの気配を感じた。

 

「よう、一人で星空の観賞か?」

「まあな。なかなか洒落た趣味だろ?」

 

 ヤハハと寝転がりながら笑う十六夜。

 日向はそんな彼の隣に腰を下ろす。

 

「黒ウサギが探してたぞ。“主催者(ホスト)”への挨拶を済ませろってさ」

「へいへい。ちゃんと後で行きますよっと。……それより、よく俺の居場所が分かったな?」

「まあ、お前のことだからな。どうせ最初はこの景色を楽しもうとして、一番見晴らしが良さそうなところに向かうだろうと思ったんだ」

「ハッ、違いねえ」

 

 短く笑う十六夜。

 ふと、日向は思い出したように話を切り出した。

      

「そういえば、お前のヘッドホンのことなんだけどな」

「ああ、あれか。春日部の三毛猫が自白でも開始したか?」

 

 ニヤリ、と十六夜は不敵な笑みを浮かべる。

 日向は思わず苦笑した。

 

「なんだ、気づいてたのか」

「まあな。つーかこんなあからさまな証拠を残されたんじゃ、探偵を気取る気にもなれねえよ」

 

 十六夜はポケットから猫の毛が入った小瓶を取り出すと、目の前にかざした。

 

「最初は春日部がやらせたのかとも勘ぐったが、そんな素振りは見せなかった。それに春日部ならもっと上手くやるだろう。となれば、あの三毛猫が単独でやったと考えるのが妥当だ」

「なるほどな。まぁ、そもそも耀はそんなことをするようなやつじゃないしな……怒ってるか?」

「別に? レティシアにも言ったが、どうせ素人が作った代物だ。一銭の価値も無い。焔のご要望通り、広告塔として付けてやっていただけだ」

「へぇ、ずいぶん律儀じゃないか」

「俺の義理堅さに感服したか?」

「ああ。脱帽しすぎて言葉も出ない」  

 

 クッ、と互いに喉を鳴らして笑い合う。

 十六夜はスッと上体を起こして日向に尋ねた。

 

「そんなことより、手紙に書いてあった“クイーン・ハロウィン”の寵愛者ってのがよっぽど気になるね。強いのか?」

「強いな」

 

 日向は即答する。

 あの日向が素直に実力を認めるほどの相手に、十六夜は好奇心を膨らませる。

 

「……そんなに強いのか?」

「ああ、強い。正直言って、俺も勝てるかどうか分からない」 

 

 ──“ま、当然負けるつもりは無いけどな”。

 

 そう言って日向は星空を見上げる。

 十六夜も満足したように星空を見上げた。

 

「そうか。ならその一点だけは、巨人族の連中に感謝しないとな。おかげで収穫祭にいられる時間が延びた」

「本格的に祭りを楽しめるのは、まだまだ先になりそうだけどな。どうせ是が非でもフェイスに相手してもらおうとか考えてるんだろ?」

「ま、それも確かに面白そうだけどな。けど今回の収穫祭は、それ以上に楽しみなことがあるんだよ」

「楽しみなこと?」

「ああ」

 

 日向は首を傾げて問い返す。

 十六夜は不意に日向を見ると好戦的な笑みを浮かべ、

 

「──ようやく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 心底喜色の籠もった声で、そう告げた。 

 日向は驚いたように目を丸くするが──やがて、同じく好戦的に笑う。

 

「なるほどな。確かに参加するギフトゲームによっては、お互いに競い合う展開もありえるか」

「ああ。第一目標はあくまで農園に必要な苗や牧畜だが、ゲームの延長上で戦り合うなら黒ウサギのやつも文句はねぇだろ」

 

 二人は視線を交わし合い、ニヤリと口元を吊り上げる。

 

「負けないぜ?」

「ハッ、そりゃこっちの台詞だ。精々俺を楽しませろ」

 

 静かだか重い戦意を漲らせる日向と、絶好の獲物を前にした肉食獣のように獰猛な戦意を滾らせる十六夜。

 彼らはしばし睨み合い──ふっと、戦意を霧散させた。

 

「ま、とにもかくにも、まずは巨人族をどうにかしないとな。お前と戦り合うにしてもそれからだ」

「ヤハハ! おうよ! 首どころか全身くまなく洗って待ってやがれ!」

「言っとけこの快楽主義者」

 

 日向と十六夜がそんな会話を交わしていると、不意に近くの葉っぱがガサゴソと揺れた。

 

「あーっ! やっと見つけましたよ十六夜さん! 早く“主催者”に挨拶を……って、あれれ? 日向さんもご一緒ですか?」

「ああ。ついさっき合流してな」

「ちょうど二人で敵情視察をしてたところだ」

 

 咄嗟に誤魔化す日向と十六夜。

 黒ウサギは不思議そうにウサ耳を傾げる。

 

「敵情って……巨人族ですか?」

「いいや。この“アンダーウッドの大瀑布”のことさ」

 

 ──へ? と十六夜の言葉に瞳を瞬かせる黒ウサギ。

 日向は立ち上がると、眼下に広がる“アンダーウッド”の景観を見渡して言った。

 

「実は前々から十六夜と話し合っててな。南側の下層で、屈指の景観を持つ水舞台。“世界の果て”の迫力とスケールには劣るものの、美しく整えられた土地は見事の一言に尽きる。そこでなんだが……なあ、黒ウサギ。俺たちも、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ニヤリ、と不敵に笑って黒ウサギを見つめる。

 虚を衝かれて固まる黒ウサギだったが、すぐすまその真意を理解して問い返した。

 

「つまり敵情視察とは……“地域支配者(レギオンマスター)”として、“アンダーウッド”を超える水舞台を整えるということですか?」

 

 十六夜も立ち上がり、大きく両手を広げて首肯する。

 

「そうだ。それはなにも二一〇五三八〇外門に限ったものじゃない。更に領地を増やせば、出来ることだって多くなる。ギフトだって集まりやすくなる。……今はまだ農園や水源施設を整える程度だが、聞けばこの“アンダーウッド”は十年で復興を遂げたそうじゃねえか。だからまずは十年、この“アンダーウッド”を目標にするってのが俺と日向の合意だ。この水舞台の景観は、目標として相応しいからな」

 

 ヤハハ! と高らかに哄笑を上げる十六夜。

 日向は静かに夜空を見上げ、黒ウサギに語る。

 

「……星空に旗を飾り、地上で最も華やかなコミュニティ。これならきっと、多くの人々の耳に届くはずだ。それこそ、行方不明の同士たちにも」

「──っ!」

 

 思いも寄らぬ真意に息を呑み、ギュッと胸の前で両手を握り締める黒ウサギ。

 十六夜は素知らぬ振りをしたまま、巨人族が進行してきた方角を見据える。

 

「だが、なによりもまずは巨人族だ。魔王の残党だかなんだか知らねえが、やることなすこと無粋にもほどがある。“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”の就任を待つまでもない。前夜祭の内に俺から乗り込んで決着を付けてやる。色々と面白そうな奴もいるみたいだし、本祭は是が非でも楽しまねえといけないからな」

「感動を求めて、か?」

「そうさ。人間が生きて行くには感動がないと腐っちまう。チャンスがあれば徹底して補充しておかないとな」

 

 日向の言葉にヤハハと笑って同意する十六夜。

 黒ウサギはそんな二人を見つめ、柔らかに微笑んだ。

 

「何だかお二人を見ていると……懐かしい方たちを思い出します」

「それって、黒ウサギの知り合いなのか?」

「それはもう。なんと言っても、コミュニティの前参謀だった方々です。御二人は義理の姉妹だったのですが、“主催者(ホスト)”をする時はいつも揃って同じことを言うのです。『主催者は参加者を感動させるのが義務だ。金銭のやり取りはその場で切れる縁だけど、感動が完全に消えることはない。なぜなら感動とは、生きるのに必要な糧であるからなのだッ!!』とか、二人仲良く語っていました」

 

 でもリピーター率は良かったんですよねー♪

 と楽しげに話す黒ウサギ。

 日向と十六夜は虚を衝かれたように驚いて返す。

 

「────……ふぅん? ソイツらはどんな奴だったんだ?」

「そうですね。姉君はレティシア様とは別のベクトルの金髪で、とても快活な方でした。対照的に妹君は艶やかな黒髪が特徴的で、落ち着いた大人の魅力に溢れる方でしたね」

「────……へぇ。その二人は、黒ウサギと仲が良かったのか?」

「仲がいいも何も、御二人とも黒ウサギが幼い頃にコミュニティで保護してくれた大恩人でございます。姉妹揃って無類の子供好きで、優しくて、聡明で……黒ウサギの憧れの方々でした」

 

 黒ウサギは夜空を見上げ、ふっと目を細める。

 

「たとえどんなことがあったとしても……あの御二人だけはきっと無事です。不思議とそんな風に思わせてくれる方々でした。だからこの窮地にこそ、黒ウサギが駆けつけ、昔の大恩をお返しするのです! そして日向さんや十六夜さんたちのことを紹介して、今より素敵な毎日を送るのですよ!」

 

 ムンッ、と健気にも気合いを入れる黒ウサギ。

 日向と十六夜は黙り込んだまま、静かに夜空を見上げた。

 その瞳は先ほどと比べ遙か遠くを見つめているようで、何も映してはいない。

 彼ららしからぬ表情に、黒ウサギは少し不安を覚えた。

 

「……どうしました、御二人とも?」

「……いや。何でもないよ」

「ああ。……そう言えば、アルタイルの星はどれだったかな」

 

 星空をなぞりながら、十六夜は誤魔化すように呟く。

 黒ウサギは自慢げにその隣で星を指した。

 

「もう、アルタイルは鷲座の首星ですよ。きっとあの辺りの星が──」

 

 ──え? と黒ウサギが声を上げ。

 日向と十六夜が目を見開く。

 すると一陣の不吉な風が三人の間をすり抜けた。

 日向たちの見間違えでなければ──一瞬、複数の星が光を無くしたのだ。

 

「……なんだ、今のは?」

 

 日向は訝しげに眉を顰める。

 しかし異変は、間を置かずに連続で発生した。

 

 

 ──目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ──

 

 

 そんな不吉な声を聴いた瞬間。

 “アンダーウッド”に、黄金の琴線を弾く音が響いた。

 

 

 

***

 

 宿舎に到着したレティシアとユエを出迎えたのは、ぷくっと仏頂面を浮かべたペストだった。

 予想だにしなかった相手に、レティシアは目を丸くして驚く。

 

「お前は……」

「こんばんは、純血の吸血鬼さん。まさか同じメイド服を着ることになるとは思わなかったわ」

 

 ふぅ、とペストは憂鬱そうにため息を吐く。

 突然すぎる再会に戸惑うレティシアだったが、彼女とのギフトゲームを思い返してハッとした。

 

「……そうか。The PIED PIPER of HAMELINの勝利条件を全て満たしてクリアしたから、隷属に成功したのか」

「そっ。魔王の隷属は、“主催者権限”を強制されたゲームに完全勝利を収めることによって達成される。……忌々しいけれど、あなたたちはそれを成し遂げた。だから隷属の契約を結ぶために、私は箱庭に召喚されたのよ」

 

 どこかうんざりしたように話すペスト。

 同じく箱庭へと再召喚された身の上のユエは、素直に感嘆の声を上げた。

 

「ふえ~、箱庭って凄いんだね。私の場合は元の世界に送り返されたところを再召喚してもらっただけだけど、確かペストちゃんて肉体そのものが完全に消滅しちゃってたんだよね?」

「……ペストちゃん?」

 

 慣れない呼ばれ方に微妙な顔をするペストだが、見た目だけで言えばユエとそう変わらない年齢であることに気づき、ひとまずは納得することにした。

 

「まぁ、そうね。正直、魔王と箱庭の制約がここまで強力だとは思わなかったわ。肉体だけでなく、魂を木端微塵にされたのよ? それを元の形に戻されるなんて、思ってもみなかったもの」

 

 そう。

 魂の死を超越して、彼女は箱庭へ呼び戻された。

 非常識極まりない力を体感し、何とも言えない複雑な表情を浮かべるペスト。

 しかしレティシアは明るく笑い、彼女の肩を親しげに叩いた。

 

「はっはっは、まあそうふて腐れるな。命あっての物種とも言うだろう? お互いに遺恨はあるかもしれないが、私は歓迎するつもりだ。ちょうど新しいメイドも欲しいと思っていたところだしな。これからは同じ旗の下で戦う同士としてよろしく頼む、“黒死斑の御子(ブラック・パーチャー)”」

「レティシアさんの言う通りだよ! これからよろしくね、ペストちゃん!」

「……ふん。旗もないのに何を言っているのかしら」

 

 柔和な微笑みを浮かべるレティシア。

 心から嬉しそうに笑うユエ。

 対照的に、呆れたように肩を竦ませるペスト。

 

「はあ~。……荷物を置いたら、ジンの部屋に来て。その後は“主催者”に挨拶だそうよ」

 

 短くそれだけを伝えて、メイド服のスカートを揺らしながら宿舎に入っていくペスト。

 レティシアとユエはお互いに苦笑を浮かべつつも、意識を切り替えて話をする。

 

「それではレティシアさん。私もお兄さんの部屋に荷物を置いてきますね」

「ああ。私も自室に荷物を置いてくるよ」

 

 そうしてユエと別れたレティシアは一人、荷物を持って自室へと向かう。

 黒ウサギは先ほど十六夜を探しに行った。

 しばらくは帰ってこないだろう。

 ……ジンと一対一で話すには、今しかない。

 

(金糸雀と忍音が外界に追放されていたことを告げるには、今しかない。コミュニティが力を付け始めた今だからこそ……今後について話し合わねば)

 

 覚悟を決める彼女だが、内心は複雑だった。

 自室の窓を開け、張り巡らされた樹の根の隙間から星空を見上げる。

 

「金糸雀、忍音……お前たちが、十六夜と日向を箱庭に送り込んだのか……?」

 

 レティシアの独白は、誰に届くでもなく夜風に溶けて消えた。

 

 かつて同じ御旗の下に集い、同じ名を担いで戦った同士たち。

 しかしもう二度と、あの日のように彼女たちと肩を並べることはないだろう。

 少なくとも金糸雀は箱庭の外の世界で、故郷に帰ることもなく……静かに息を引き取ったのだ。

 

「────、」

 

 胸を締め付けられる想いだった。

 自身、過去に魔王によって捕らわれていたレティシアも、当時は郷愁でいっぱいだった。

 コミュニティに帰ることが出来るなら、たとえどんな醜態を晒してでも帰ってきたかった。

 

 ──そしてそれは、異世界に飛ばされた金糸雀や忍音も、きっと同じだったに違いない。

 自分一人だけ帰ってきてしまったことに対する後ろめたさと、未知の土地で散ってしまった同士の訃報。

 

 辛すぎる事実に心を痛めるレティシア。

 しかし、同時に彼女の胸に浮上した困惑は、悲しみと同等かそれ以上のものがあった。

 綺羅と輝く満天の星々を見上げたレティシアは、血を吐くような想いで心情を吐露する。

 

「金糸雀と忍音は箱庭の外に追放されていた……しかしならばッ……! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!?」

 

 ──そう。

 それこそがレティシアを最も苦しめている原因だった。

 

 例えば、リリの母親。

 彼女の母親も魔王に拉致されたまま行方が分からなくなっている。

 もし彼女も箱庭の外に追放されていたら、とてもではないが救出は不可能だろう。

 

 最悪、箱庭の都市外でもまだあてがあった。

 しかしあらゆる時代と異世界に通じている、箱庭の外に飛ばされていたというのなら、それは──

 

「あの星々から砂粒一つを見つけるよりも、更に困難ではないか……!!!」

 

 窓の縁を握り潰すくらいに握り締め、声は消えそうなほど儚く……レティシアは強く歯がみした。

 

 だが、いつまでも隠しておくわけにもいかない。

 この事実をジンに伝え、今後について話さなければならない。

 なぜなら彼らの背中を押しているのは、仲間を救おうという固い決意だからだ。

 

 だが現実問題、それは不可能に等しい。

 方針の転換は必須だ。

 たとえ同士から後ろ指を指されることになろうとも、レティシアは血を流す覚悟で説得に臨むつもりでいた。

 そして出来るのであれば……一度コミュニティを解散し、新たな“名”と“旗印”を持つべきとまで考えていた。

 

(……黒ウサギやリリが聞けば、きっと泣くだろうな……)

 

 一方は、里親のため。

 一方は、両親のため。

 三年間、歯を食いしばって耐えてきた努力が実らないと告げられる彼女たちを思うと、レティシアの心情は一層辛いものがあった。

 

(しかし本来、もっと早くにそうするべきだったのだ。なのに私は主殿たちの背中にいらぬ夢を見て……不必要な重圧までかけていた)

 

 今こそ、真っ当なコミュニティの形として再出発するべきだ。

 決意を胸に、踵を返してジンの部屋へと向かおうとする。

 ──不吉な声と音色が響いたのは、その直後だった。

 

 ──目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ──

 

 えっ、と呟いたレティシアの体から力が抜ける。

 同時に琴線を弾く音色が三度響き、彼女の意識を混濁させていく。

 何が起こっているのか分からない。

 飛びそうな意識の中、かろうじて背後を見たレティシアは、クスクスと笑うローブの詩人を目撃した。

 

「──ふふ、トロイヤ作戦大成功。お久しぶりですね、“魔王ドラキュラ”。巨人族の神格を持つ音色はいかがですか?」

「き……貴様……何者、」

「あらあら、ほんの数ヶ月前の出会いも忘れちゃうなんて、少し酷いのではなくて? ……しかしそれも、すぐ気にならなくなるわ。だってあなたは──」

 

 ──もう一度、魔王として復活するのだから。

 

 

 

***

 

 ──目覚めよ、林檎の如き黄金の囁きよ。

   目覚めよ、四つの角のある調和の枠よ。

   竪琴よりは夏も冬も聞こえ来たる。

   笛の音色より疾く目覚めよ、

   黄金の竪琴よ────!

 

 その詠唱に、日向と十六夜はハッと我に返った。

 

「この詩は……まずい、黒ウサギ! 耀が巨人族から奪った“黄金の竪琴”はどこにある!?」

「え!? そ、それならサラ様が管理しているはずですが、」

「すぐに破壊するんだ!! あの竪琴は──」

「──如何にも。貴様らの想像通り、あの竪琴は“来寇(らいこう)の書”の紙片より召喚されたトゥアハ・デ・ダナンの神格武具。敵地にあって尚、目覚めの歌で音色を奏でる神の楽器だ」

 

 低く、老齢を思わせるしわがれた声。

 しかし居場所を特定させないように細工されているのか、周囲に反響して出所がわからない。

 正体不明の謎の声を聴き、日向たちは背中合わせになって警戒する。

 しかし声の主は一向に姿を見せず、嘲笑うかのように彼らへ告げた。

 

『そう急くな、“箱庭の貴族”とその同士よ。今宵は開幕の一夜。まずは吸血鬼の姫──“魔王ドラキュラ”の復活を喜ぶがいい──!』

 

 刹那、夜空が二つに裂けた。

 晴れ晴れとしていたはずの夜空は暗雲に包まれ稲光を放ち、“アンダーウッド”の空を昏く染め上げていく。

 二つに割れた空から──彼らは、神話の光景を見た。

 

「まさか……あれが………!?」

『そう。神話にのみ息づく、最強の生命体──龍の純血種だ──!!!』

 

 

「──GYEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaa!!!」

 

 

 常識外れの雄たけびは、それだけで“アンダーウッド”の総身を揺り動かす。

 頭部はかろうじて見えたものの、その全長は雲海に隠れて見えないほどの巨躯なのだ。

 

「龍……これが龍……!?」

 

 日向はかつてない威圧感に戦慄した。

 巨龍が現れた星空の歪みからは、更に巨大な城のような影が見え隠れしている。

 巨龍の雄叫びに応じて数多の落雷が降り注ぎ、“アンダーウッドの地下都市”を覆う根は一瞬にして焼け落ちた。

 居住区は瞬く間に阿鼻叫喚に包まれていく。

 そして拍車を掛けるように、見張り台の警鐘が鳴らされた。

 

「た、大変だッ! 巨人族もこっちに向かってきているぞッ!!」

「なんだとッ!?」

「ええい、この非常事態にわらわらと現れやがって……!!!」

 

 罵声と号令が飛び交う中、巨龍の雄叫びと稲妻はますます激しく“アンダーウッド”を揺らしている。

 一層大きな雄叫びが一帯を震撼させると、巨龍の鱗が雨のように降り注ぎ、その一枚一枚が巨亀や大蛇となって街を襲い始めた。

 

「鱗から分裂して新種を作り始めた……? まさか、本当に龍の純血種だというのですか!? そんな、本物の最強種が下層に現れるなんてッ……!!」

「詮索は後だ黒ウサギッ!」

「ごちゃごちゃ言ってねえですぐに降りるぞ!」

 

 日向と十六夜の一喝に、黒ウサギも我に返って頷く。

 大樹の頂上から飛び降りようとした三人はしかし、地下都市から高速で飛翔するローブの詩人と、その腕に捕らえられた──

 

「──!? レティシアッ!!!」

「日向……十六夜……黒ウサギ……!」

 

 混濁した瞳の彼女は、日向たちを視界に捉えたことで僅かに意識を取り戻す。

 空を見上げた彼女は、巨龍と空中に浮かぶ城の影を確認し、ようやく現状を悟った。

 

(私の“主催者権限(ホストマスター)”の封印を解いた……!? コイツ、まさか──!?)

 

 敵の正体に蒼白になるがしかし、その腕から逃れるだけの力はない。  

 己の運命を受け止めるようにまぶたを閉じたレティシアは、眼下の三人に訴える。

 

「──十三番目の、太陽を……!」

「え?」

 

 レティシアの微かな声に耳を傾ける。

 天高く掲げられた彼女は、全霊を込めて叫んだ。

 

 

「十三番目だ……()()()()()()()()()()……! それが、私のゲームをクリアする唯一の鍵だ──!!!」

 

 

 断末魔にも似た叫びと共に、レティシアは巨龍に飲み込まれて光となる。

 その光はやがて黒い封書となり、魔王の“契約書類(ギアスロール)”となって“アンダーウッド”に降り注いだ。

 

 

 

***

 

『ギフトゲーム名“SUN SYNCHRONOUS

          ORBIT in VAMPIRE KING”

 

 ・プレイヤー一覧

  ・獣の帯に巻かれた全ての生命体。

  ※但し獣の帯が消失した場合、無期限でゲームを一時中断とする。

 

 ・プレイヤー側敗北条件

  ・なし(死亡も敗北と認めず)

 

 ・プレイヤー側禁止事項

  ・なし

 

 ・プレイヤー側ペナルティ条項

  ・ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。

  ・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。

  ・ペナルティは“串刺し刑”・“磔刑”・“焚刑”からランダムに選出。

  ・解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。

  ※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課される。

 

 ホストマスター側勝利条件

  ・なし

 

 プレイヤー側勝利条件

  一、ゲームマスター・“魔王ドラキュラ”の殺害。

  二、ゲームマスター・“レティシア=ドラクレア”の殺害。

  三、砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ。

  四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

             “     ”印』

 





 YES! あとがき・舞台裏次回予告!!

耀「お疲れ様。舞台裏、次回予告のコーナー……です」

黒ウサギ「突如現れた謎の龍! 謎の敵! 謎の城! さらわれてしまったレティシア様を救うべく、問題児たちの激闘編が幕を開けます!」

日向「レティシア……必ず助けるからな」

十六夜「ハッ。巨龍と魔王が同時に相手とは気前がいいぜ」

飛鳥「ふふ。腕が鳴るわ」

耀「うん。私も頑張る」

ジン「ぼ、僕も活躍する予定……です」

レティシア「………皆、死ぬなよ」


全員『次章は書き上がり次第投稿予定! お楽しみに♪』

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