あれから束さんとは一気に仲良くなった。前までは箒さんや篠ノ之家の両親にだけと接していたのに、今では僕もその輪の中に入っていた。いや、やっと入れたと言うのがここでは正しいんだろう。
それからは、前の自分とは信じれないくらいに生活ができたんだ。僕の周りには、誰1人として僕を蔑んだり、罵声を言ってくる人なんていなかった。それは、僕が小学校に入学したときも一緒だった。周りは僕の本当の事を知らないから、僕とは友好的に接してくれる。でもそれ以外に問題が起きたんだ。
「やーい男女!」
「男女男女‼︎」
「……」
今日は箒さんと一緒で掃除の係だったから、教室を一緒に掃除していたんだ。そんな時に箒さんが、同じクラスの男子から男女って言われていた。普段からすこし男っぽいような態度を取ることから、そう言われているみたいだった。それには箒さんも参っていた。いつも正直で、それでいて困っている人を放ってはおけない、そんな姿が同世代の女の子から見るとかっこよく見えていて、逆に男子達からしてみれば、それは面白くないように思えたんだろう。そして今回こんな事になってしまったんだろうな。
でも……もうそろそろ僕も我慢の限界だ。血は繋がっていないとはいえ、僕の姉だ。家では厳しくて、とても優しい……そんな人だ。最初の頃は引っ込み思案な子だと思っていた。でもそれは違ったようだ。同世代の異性とはあまり付き合った事がなかったから、僕の事は警戒していたと打ち解けた時に聞いた。今更ながら思うと、この姉妹には思い違いをさせられたなと思う。
まぁ、その時の僕はそんな答えが返ってくるなんて予想外ではあったけど、でもそこからは普通の家族同然に僕に接してくれた。そんな家族が今僕の目の前で辱めを受けているんだ。家族として黙っている訳にはいかない。
「もうそろそろ止めにしないか?」「お前ら良い加減にしろよ!」
(……ん? 誰かと声が被ったような……)
声が聞こえた方に顔を向ける。するとそこには、僕達と同じ掃除当番の織斑君がいた。
「さっきから男女男女ってうるさいんだよ! 用がないなら帰れよ!」
「なんだよ⁉︎ お前はそこにいる男女の味方をするのかよ!」
「篠ノ之さんは女の子だろ! どこが男に見えるんだよ‼︎」
なんかさっきから織斑君が男女と箒さんを馬鹿にしていた2人に食って掛かっていた。その剣幕に押されたんだろうか? 次は僕の方を見て織斑君に聞いたように言ってきた。というより、理解力が無いのだろうか? さっき僕も止めにかかったろう? なら答えは同じだとわかるものだと思うんだが……残念ながら小学生の頭にそれを求めるのは酷なように思えた。だから僕も言ってやったんだ。
「君達が何で箒さんにそんな馬鹿なことを言うかなんて大体の見当はつくさ。要するに面白く無いんだろう? 事あるごとに箒さんの名前が出る事が」
「な、何を言って……」
「何を言ってって、事実じゃないか。でないと君達はこんな事はそもそもしない。こんな無意味な事なんてしないはずさ。面白くないからこそ、相手を侮辱して自分達の気分を晴らす。違うかい? 違うなら聞こう。でもその代わり……」
僕は相手を睨み付ける。そして相手が怯んだと同時に言った。
「違わなかったらその時は……覚悟するんだな」
それを聞き終わったら、馬鹿にしていた2人組は一目散に逃げて行った。ふぅ、これで良い。後は掃除に続きをして、早く終わらせて箒さんと一緒に帰ろう。でもその前に……。
「箒さん、大丈夫?」
「あ、あぁ……大丈夫だ。ありがとう逢魔」
「大した事はないですよ。それと、織斑君……だったかな? さっきはありがとう。僕の姉を助けてくれて」
「私からもお礼を言いたい。助けてくれてありがとう」
「ん? いや、俺はただ当然の事をしただけだよ。それより、今篠ノ之さんの事を姉って……」
「あぁ、その事なんだけど、僕は篠ノ之さんの家に養子として迎えられているんだ。でも僕は、前まで一緒に住んでいた両親の姓を捨てたくなかったから、養子になっても苗字は変えてないんだ。少し難しい話ではあるんだけど」
「へぇ、それだったら姉弟関係なんて分かんねぇよな」
「まぁね。さて、じゃあ掃除に戻ろうか」
「あぁ! 早く終わらせようぜ!」
そうして僕達は掃除を手早く終わらせた。まぁそんな事もあって、僕達は織斑君と仲良くなった。それ以来、僕と箒さん、織斑君でよく遊ぶようになった。それで知ったんだが、彼には姉が1人いて、そしてその姉も僕の1番年上の姉、束さんと仲が良いという事だった。
僕も偶に道場で見かけた事があった。束さんと同い年の人がいるなと思っていたけど、まさかあれが織斑君の姉だとは思ってなかった。でも、よく見ると目元が似ている。まぁこれは僕の主観であるから、他の人からすると違うと言われるかもしれないけど……。
そんなこんなで、小学生になって半年が過ぎた。その時には、織斑君との接し方も変わり始めた。僕が織斑君の名前を呼ぶ時は、下の名前で一夏と呼び捨てで呼ぶようになった。箒さんも一緒だ。そして一夏は、箒さんを呼ぶ時は箒と呼び捨てに、僕を呼ぶ時は逢魔と呼び捨てで呼び合う仲にまでなった。そしてこの頃から僕達は、篠ノ之家の道場で剣道を習うようになった。僕としてはこれまで生きてきた記憶の中で習い物をした事はない。武道なんて時に記憶がない。逆に言ってしまうと、誰かを殴ったり殴り返された記憶しかない。
最初は、暴力的な自分しか想像できなかった。でも不思議なものだった。武道とはいえ、元は人を傷付ける可能性のあるものだと僕は思っていたんだ。でも竹刀を握ると、昔の僕のような暴力的な思考になるのではなく、冷静な思考を持てたんだ。だから不思議に感じたんだ。
因みになんだけど、一夏と箒さんの2人は、1本の竹刀を両手で握る型で、僕は竹刀を2つ持つ二刀流の型で鍛錬に臨んでいた。
それで毎日素振りから模擬戦まで、朝夕真剣に取り組んだ。確かに厳しくはあったけど、僕としては楽しく毎日を過ごす事ができたんだ。
でもこの時の僕は、この楽しい毎日が続かないという事を、まだ知らなかったんだ。
今回剣道の話を出しましたが、作者自身は剣道を習った事がない全くの素人です。二刀流も正式名称ではないだろうとは思っていますが、他の手っ取り早い表現が出なかったので二刀流という表現を使っています。剣道を習っている方に対しては、曖昧な表現をして申し訳なく思います。
それでは……。