研究施設を僕は壊した。その理由としては、僕の様な体験を他の人がすることの無い様にだ。僕としてはそれが良い。そんな理由で僕は壊した。そこで働いている人の職を潰すことにはなるが、僕としてはこんな所で非人道的な実験などをするのではなく、人に対して役に立つ事をして欲しい。
確かに今は、お姉ちゃんがISを作った事によって女尊男卑となり、世界中がおかしくなっているのかもしれない。でもそれはお姉ちゃんが悪いわけでは無いし、ましてや世界が悪いわけでも無い。ただただ、それを悪い方向にだけしか見ず、自分達の欲望のままに物事を進めようとしている……そういう考えを持った人達がいるから、僕の様な事になる。ISを作ったお姉ちゃんとは親戚だが、ただそれだけのことで後は何も知らない。完全に無関係というわけでは無い……それは確かに僕自身も分かっている。だから僕は、他の大切な人達が巻き込まれるのは良しとせず、僕だけが犠牲になる事を選んだ。箒さんとの約束を破ってまでだ。
僕は知っている。箒さんがどんな思いで僕に謝ろうと、そして感謝をしていたのか。そして……どんな思いでお姉ちゃんが僕たちの前から去ったのかを。2人とも僕にとってはこの世界で大切な存在だ。その人達が傷付くぐらいなら、僕1人が犠牲になってでも守る。そして、どんな汚名だって着せられても良い。
だって僕に……こんな僕を、優しくしてくれたから。こんな醜い僕と側に一緒にいて寄り添ってくれたから。そんな毎日を僕に与えてくれたから……だから僕はもう、いつ死んでも後悔は無い。大切な人のために死ねるなら僕は……。でもそれは、僕の醜い部分を見ていないからかもしれない。だからこんなにも優しく接してくれたのかなって、そう思う時があったんだ。だから正直……不安になった。僕の本当の姿を知ってしまったら箒さんは……そしてお姉ちゃんは、僕の事をどんな目で見てしまうのかな?
その状況が、今僕の目の前で実際に起こってしまっていたんだ。
(何で……何でここにお姉ちゃんが……)
「もぅ……おっくんどうしたの? そんな強張った顔しちゃって? 2年ぶりに再会できたんだよ? もう少し喜んでも良いんじゃないかな?」
お姉ちゃんは、今の僕の姿を見てもあの時の様に……僕に声をかけてくれていた。それでも僕は……俯向くことしかできなかった。
「おっくん? 本当にどうしたの?」
そう言ってお姉ちゃんが僕に近づいてくる。でも僕は後ずさる。
「おっくん……どうして離れるの?」
お姉ちゃんは後ずさる僕に近づく。でも僕は……。
「僕に近づかないで!」
「……おっくん?」
お姉ちゃんは、僕の一言で止まった。そしてその顔は、僕に拒絶されて悲しそうだった。本当は……僕だってこんな事は言いたくない。でも見られてしまった。僕の今の姿を……こんな醜い姿を。そして、こんな姿を見られてしまったんだ。こうなった以上……もう僕はお姉ちゃん達とは……楽しい日常に戻れないよね。
「僕は……こんな醜い姿をお姉ちゃん達に見られたくなかった」
「こんな姿?」
「うん、こんな姿だよ。だって、こんなの醜いでしょ?」
僕が言った通り、今の僕の姿は醜い。まず肌は全体的に白い。これは、僕が今なっている生物の特徴の1つが体に表れている。そして指の側面には、黒い斑点が2つないし3つずつ付いている。そしてその手からは……少しばかり電気を帯びている。手だけじゃない。足からも胴部からも……そして頭にも電気を帯びていた。こんな事……人間じゃありえないんだ。それに顔も……電気を帯び始めて少し皮膚が剥がれている。でもこれもプラナリアの能力であっという間に治ってしまう。そんな事は問題じゃない。問題なのは……。
(問題なのは……こんな醜い姿をお姉ちゃんに見られてしまった事)
「こんな姿見て、正直気持ち悪くなったよね? 怖く……見えたよね? 僕は……こんな姿をお姉ちゃん達に見られたくなかった。お姉ちゃん達は……こんな僕に優しく接してくれた。でもこんな姿見たら……絶対に近づきたくないって思う。昔の様に優しくも接してくれないと思う。だからも「そんな事ないよ」……えっ?」
「そんな事ないよ」
お姉ちゃんは1歩僕に近づく。
(やめて……)
「例えおっくんがどんな姿になったとしても」
(やめて……)
「おっくんがどんな姿になっても、私はね……」
(それ以上近づいたらダメだよ……)
「私はおっくんのお姉ちゃんで、それで……」
(近づいたらダメだ……それ以上近づいたら……)
「おっくんは……私の大切な人なんだから」
お姉ちゃんは、僕に抱きついた。自分の体に僕が帯びている電気が流れようとも御構い無しに……。それに次第に抱き着きが強くなる。それに比例してお姉ちゃんに流れる電気の量も多くなる。それでもお姉ちゃんは僕から離れようとしない。
「なんで……なんでそこまでしてお姉ちゃんは……」
僕がそんな事を言うと、お姉ちゃんは僕の顔を向いて笑顔で言ったんだ。
「なんでって、そんな事は当然なんだよ? だって、おっくんの事が好きだもの。世界で最愛の弟なんだから、こんな事ぐらいお茶の子さいさい、だよ!」
そしてさらに抱き着きを強くする。その時には薬の効力が切れたのか、次第に姿も戻っていった。そしてお姉ちゃんに流れる電気も無くなった。
「うっ……うぅ……」
僕はそんな事を言われて泣いた。2年前……お姉ちゃんと別れた時のように……中学生にもなって恥ずかしいと自分でも思っている。それでもやはり、僕の心は正直で、泣くのをこらえようとしても目から涙が溢れてくる。僕は……いつの間にこんなに弱くなったのかな?
(いや……最初から僕は弱かったんだ。元の体の時からずっと、自分の弱い心を冷たくて硬い鎧で覆ってた……ただの意固地だったんだ)
そんな僕の体を……心を……目の前にいる人が簡単に突き破ってくれた。こんな醜い姿の僕を初めて肯定してくれた。こんなにも嬉しい事なんてない……。
それに付け加えて僕はこう思ったんだ。僕が今まで一生懸命醜い姿を隠してきたのはなんだったのか? ってね。そう思うと、今自分を抱きしめてくれている人に隠してきた事が馬鹿馬鹿しく思えてきたんだ。
そしてこう思った瞬間、僕はこの世界で、本当の意味で1人ぼっちでは無くなったんだ。だって、目の前に僕を肯定してくれる人がいる。
(もう僕は……1人ではない)
そう思いながらなおも泣く僕を……お姉ちゃんは優しく抱きしめて頭を撫で続けてくれた。そして僕は、監禁された疲れも出たのか、いつの間にか眠っていた。
書き終えました。
さて、次回はどんな物語になるのやら……。
乞うご期待。