高二病でも恋がしたい   作:公ノ入

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第二十五話

 

 

八幡「…………」ジー…

 

 

鈴木「ちょっとモリサマー……。アイツどうしたの? 携帯見つめたまま全く動かないんだけど……」ヒソヒソ…

 

モリサマー「私にだって……分からないことぐらい……あります……」クッ…

 

鈴木「キバヤシかあんたは」ヒソヒソ…

 

 

――ピロリン

 

八幡「――!?」ガバッ

 

 

佐藤「なんか……もの凄い反応したけど……」ケホケホ…

 

ソフィア「メールが来たみたいだね……」

 

 

八幡「…………」カチカチ…ピツ

 

《なにそれウケる!》

 

八幡「……ッ」パアァァ…!

 

 

鈴木「うッ、まぶしい! まぶしいけどキモい!」

 

モリサマー「工業排水が垂れ流された中国のドブ川に描かれる虹のような輝きが……!?」

 

佐藤「あ、あんた等……」ケホケホ…

 

ソフィア「すんごい嬉しそうだねぇ……」

 

 

八幡「…………」ポチポチ…ポチポチ…

 

 

鈴木「…………やっぱあれ、女? 彼女できた?」

 

佐藤「ゲェッホゲホ! ゲホゲホゲホ!!」

 

モリサマー「ふ、何をバカな……彼は灰色世界の不浄王ですよ? 何者とも交わること叶わない隔絶された存在が、ツガイを持つなどと……」

 

鈴木「アンタそれ、何気にスゲェ酷いこと言ってるわよね」

 

ソフィア「…………………………騙されてる?」

 

「「「……………………」」」

 

 

八幡「…………」ソワソワ…ソワソワ…

 

 

モリサマー「…………と、とにかく。様子を見ましょう……」

 

ソフィア「そ、そうだね……」

 

佐藤「急にバイトとかし出したら……要注意ってことで……」ケホケホ…

 

鈴木「美人局とかじゃないことを祈るわ……」

 

 

――ピロリン

 

《それあるー!》

 

八幡「……ッ」パアァァアア…!

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

――スパァンッ

 

雪乃「話は聞かせてもらったわ。何かアイデアが出たそうね」

 

 

 計ったようなタイミングで勢いよく襖を開き、開口一番雪ノ下はそう問いかけてきた。

 キバヤシかこいつは。

 

 

八幡「ああ。そっちのその……なんだ。会議? は終わったのか?」

 

雪乃「ええ、おそらく一過性のものであろうと判断を下したわ。要経過観察ね」

 

八幡「あっそう……」

 

 

 まったくもって意味は理解できなかったが、どうでもいいので適当に相槌を打っておく。

 

 

雪乃「比企谷君の方は保護観察処分よ。良かったわね、実刑が降りなくて」

 

八幡「あ、有罪は既に確定なんですね……」

 

 

 裁判を受ける権利すら俺には与えられないらしい。この国の司法は崩壊した!

 

 

いろは「で? どんなアイデアなんですか?」

 

 

 ヒョコッと雪ノ下の背後から顔を出し、一色が上目遣いに聞いてくる。

 相変わらずあざとい仕草が骨の髄まで染み付いてんな。こいつの骨髄とか移植するとえらい事になりそう。ちょっと雪ノ下あたりに移植してみてくんないかな。絶対適合しないだろうけど。

 

 

八幡「そう大したアイデアじゃない。イベント案の中に、『宝探し』ってあったろ。あれをやろうって話だ」

 

勇太「伝承とはどう繋げるんだ? 話の中に、宝物なんて出てこなかったろ」

 

 

 この場にいる全員の疑問を代弁す様な形で、富樫が声を上げた。

 

 

八幡「さっきも言ったように見つけて貰うのは宝物じゃない、物語だ。真実のほうのな」

 

雪乃「…………なるほど。伝わっている伝承が二つ存在することを利用するのね」

 

 

 続けられた雪ノ下の言葉に、幾人かが「あ!」と得心の声を上げる。若干名いまだ疑問符を浮かべたままの人もいますが、本人の名誉のため伏せておきますね。

 

 

結衣「どういうこと?」

 

 

 はい、伏せた意味ありませんでした。

 

 

八幡「参加者にはまず、一般的に伝わっている伝承についての資料を配布する。で、その資料の中には真実の伝承にたどり着くためのヒントが、幾つも散りばめられてるわけだ。話の矛盾点とか、隠されたエピソードが存在することの示唆とかな。それを元に、参加者は校庭に再現された村――これは簡単なハリボテで十分だと思うが、その中を探し回って、本当の伝承の断片――まぁ、エピソードか書かれたカードみたいなイメージか? それを見つけていく。この辺は、案の中にあった『リアル脱出ゲーム』の要領だな。謎解き要素を盛り込んでいこう」

 

雪乃「そうして、全てのエピソードを集めて伝承を完成させればゲームクリア、というわけね」

 

八幡「ま、そういうことだ……。ついでに利点を挙げるなら、まず祭りを楽しむ邪魔にならない。初めに伝承の資料さえ受け取れば、後は好きな時に村の中に入って調べてもらえばいいからな。出入りも自由」

 

結衣「そっか。途中で抜けて出店とか回ってもいいんだ」

 

勇太「グループでの参加もしやすそうだよな。家族とか、友達同士とか」

 

八幡「まぁ親と一緒に回れば、小さい子供でも十分楽しめるだろ。友達は知らんが」

 

丹生谷「何でわざわざそこを否定するのよ……」

 

 

 知らんもんは知らんのだから仕方がねえだろうが。

 

 

八幡「で、もう一つの利点。これがある意味一番重要かもしれんが――」

 

雪乃「両家の顔を立てやすい、ということよね」

 

 

 俺の言葉を遮り、やや得意げな微笑を浮かべて雪ノ下が答えた。

 ア、ハイ……。正解です……。ポイントとかあげた方がいいですか?

 

 

八幡「ま、まぁその通りだ。村を再現する会場の設営は雪ノ下家に、謎解きと言ったゲーム部分の構築はハンマーツインテールの……なんてったっけ?」

 

雪乃「凸守家」

 

八幡「ああそうそう。凸守家にそれぞれ協力を仰げるだろう。どちらもイベントを実現するに当たって重要な部分だし、負担も重すぎもせず軽すぎもしない、ちょうどいい塩梅だ。両家の顔を潰さず納得させる条件は、十分に満たしていると思うが……」

 

 

 どうだろう? という意味合いをこめて、俺は室内の面々を順繰りに見渡した。

 

 

誠「……いいんじゃね? イベント自体も面白そうだし」

 

勇太「ああ、伝承との繋がりもクリアしてるしな。なんせそれ自体が謎解きの題材だ」

 

結衣「うん……いいと思う!」

 

七宮「真実を見つける為の試練……心躍るね!」

 

六花「ハイ! バトル要素はありますか!?」

 

八幡「ああ、まぁ……野盗に扮したスタッフにゲームかなんかで勝てば新たなヒントがもらえるとか、やり様はあるだろ」

 

六花「ふ……パーフェクトだ、ウォルター」

 

八幡「感謝の極み」

 

 

 眼帯娘に対し、反射的にニヤリと返す。

 まさか人生で一度は返したい返答トップ5に入るこの言葉を言える日が来ようとは……。けど、ムフフンと満足そうな笑みでこっちを見てくる眼帯娘がちょっとウザいです。

 

 

くみん「決まりっ! だね」

 

 

 わーぱちぱちぱちー、と朗らかな笑顔で拍手する黒めぐりんさん。

 ほっこり……。とても暖かい気分になった。

 

 

雪乃「では、後は私の方で企画書をまとめておくわ。一色さん、当日のプレゼンは貴方にやって貰うから準備しておいて頂戴」

 

いろは「ええ!? わ、私ですかー……?」

 

雪乃「当たり前でしょう。雪ノ下家の人間である私が提案したら、纏まるものも纏まらないわ。それにそもそもの依頼人はあなたでしょう?」

 

いろは「そこのコイツ! このハゲもです!!」

 

誠「ハゲ言うんじゃねえよ! ちゃんと生えてるだろ!!」

 

雪乃「では二人でやってちょうだい」

 

 

 

切り捨てるようにそう言って、雪ノ下はやれやれと溜息をついた。

 そのままリビングの隅へとイソイソと移動したところで――

 

 

勇太「それじゃ夕飯にちょうどいい時間帯だし、近くのファミレスにでも行こうか?」

 

雪乃「え゛?」

 

 

 

富樫が上げた言葉に、雪ノ下は絶望に顔を歪めて振り返った。

 しゃがみ込んで伸ばされた手の先、ほんの数センチのところで子猫が腹を見せてウネウネと体をくねらせている。

 

 

勇太「…………」

 

雪乃「…………」

 

 

 あ、あれ? 雪ノ下さんちょっと泣きそうになってません……?

 

 

勇太「っと…………思ったけど、よく考えたらこの人数で入れるかわかんないもんな! き、今日は出前でピザでも取ろうか!? たまにはいいよな樟葉!?」

 

樟葉「う、うん、いいんじゃないかな! ピザ食べるの久しぶりだし! た、楽しみだなー!!」

 

 

 スゲェ無理矢理なテンションで叫びながら、富樫兄妹がわっほいわっほいと宅配ピザのチラシを取り出してきた。

 それに乗っかり、他の連中も「あ、あたしもちピザ食べたいー!」「や、やっぱ生地は薄生地ですよね!」「さ、サイドメニュー何がいいかなー!」等と言いつつ、全てを見なかったことにしてチラシに群がっていく。

 

 

雪乃「…………」

 

 

 そんな中、雪ノ下は真っ赤な顔で俯いたまま、プルプルといつまでも震えていた。

 

 

 




このSS書く上で何が一番悩んだかって、このイベントをどうするのかにほかなりませんでした。
ぶっちゃけコレが自分の中でまとまらなくて、時間稼ぎのために途中のエピソードちょっと引き伸ばしたまである。

結果、こういったものになりましたが……そ、そう悪い案じゃないですよね?

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