高二病でも恋がしたい   作:公ノ入

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第七話

 

 

八幡「要は、雪ノ下と凸守、両家の母親が啀み合っているのが原因で、陽乃さん達は巻き込まれているだけだと。そういう訳ですか」

 

陽乃「うん、そーそー。ぶっちゃけ私達が一番の被害者だからー。あ、ここ良いんじゃない、ここ。部屋に専用の露天風呂ついてて、夜はカニだってカニ。カニ貪り食えるよー」

 

凸守「牛も必要DEATH。グラム数千円クラスの牛もないと、この心の傷は癒やせないDEATH」

 

陽乃「だよねー。和牛もいるよねー、ビール飲んで肥え太った牛も貪るべきだよねー」

 

 

 小会議室の片隅で。

 

 陽乃さんと凸守はドンヨリとした瞳でブツブツ言葉をかわしつつ、ひたすら旅行雑誌を眺めていた。

 

 どうやら会議の後に行われる、この現実逃避のための旅行計画だけが、二人の心を辛うじて繋ぎ止めている癒やしであったらしい。

 

 母からの無茶振りを受けるたびに旅行予算は跳ね上がり、もうすぐ七桁に突入しそうだとのこと。

 

 仕事に疲れきったOLかよ。

 

 

富樫「けど凸守のお母さんって、クリスマスの時に一度会ったけど、全然そんな感じじゃなかったぞ? 凄いおっとりした感じの人っていうか……」

 

凸守「確かにウチの母は普段、大抵の事なら『あらあら、まぁまぁ』で済ませてくれます。ですが、雪ノ下の名が関わった場合のみ、その後ろにハイライトが消えた瞳での『ウフフ』笑いが加わるDEATH……」

 

 

 なにそれちょうこわい。

 

 

陽乃「ウチもねぇ……普段は仕事に私情を挟まない、徹底的なまでの効率主義者なんだけど……」

 

 

――Piririririri

 

 唐突に鳴り響いた携帯の音に、二人が揃って方を震わせた。

 

 携帯を取り出し、一方は安堵の吐息を、もう一方は顔を引き攣らせて呻き声を上げる。鳴っているのは、陽乃さんの携帯であるらしかった。

 

 相手は、言わずもがなであろう。

 

 

陽乃「はい、陽乃です……ええ、はい。会議は終わりました……」

 

 

 立ち上がり、部屋の隅に行って俺達から背を向ける陽乃さん。

 

 すると何を思ったか、雪ノ下も立ち上がって陽乃さんに歩み寄っていくと、相変わらずのキラキラ顔で正面に回り、下からその表情を覗きこみだした。

 

 すかさずターンを決める陽乃さん。しかし雪ノ下も負けじと更に回りこむ。

 

 回る。更に回る。しつこく回る。

 

 

結衣「ヒッキー……。ゆきのんが、あんなにはしゃいでるよ……」

 

八幡「十数年分のストレスを開放してんだ……。今はそっとしといてやれ……」

 

丹生谷「何なの? 一体……」

 

凸守「歪んだ姉妹愛DEATH」

 

八幡「確かに。アイツ、何だかんだで姉ちゃん好きだよな」

 

凸守「雪ノ下家の女子は、総じてツンデレDE……ですからね」

 

 

 総じてツンデレ……。なるほど。陽乃さんのアレも、見方によっては超変則的なツンデレなのだろうか。興味深い。

 

 しかし、それはそれとして気になったことが一つ。

 

 

八幡「お前、こないだ言ったことまだ気にしてんの?」

 

凸守「う、うるさいDEATH!!」

 

 

 俺達の会話も余所に。

 

 グルグルグルグルと結局電話中ずっと、「ねぇねぇ、今どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち?」とばかりに、雪ノ下は陽乃さんの周囲を回り続けた。

 

 

     ▽

 

 

 結局あの後凸守にもメールが入り、二人は揃って肩を落として帰っていった。

 

 ちなみにこの小会議室は、一応17時まで取っているので、好きに使ってくれていいとの事だった。

 

 チッ、帰る理由を失った……。

 

 

いろは「せんぱーい……。それで、結局コレどうすればいいんですかね? そろそろお爺ちゃんの胃に穴が開きそうなんで、本気でどうにかしたいんですけど……」

 

八幡「あー、そうだな……」

 

 

 チラっと雪ノ下に視線を向けるも、さっきまでの上機嫌さはどこへやら。今は椅子に座り、何かを真剣な様子で考え込んでいる。

 

 なんか初対面の時並に話し掛けづらいんだが、一体何を考えているのか。

 

 仕方ない、取り敢えずコッチで勝手に進めていこう。

 

 

八幡「まぁ、取り敢えずそもそもの原因と、問題点は見えたからな。まずはその辺を――」

 

 

 喋りながらホワイトボードに置かれていたマジックを手にとったところで、ふと思いとどまる。

 

 

八幡「……いや、やっぱお前が進めろ。いい練習だろ」

 

いろは「は?」

 

 

 戸惑う一色にマジックペンを投げ渡し、俺はそそくさと椅子に座った。

 

 

いろは「ち、ちょっと先輩!? 進めろって言われたって!」

 

八幡「俺が全部進めてちゃ、奉仕部の理念に反するだろうが。ほれ、やり方はクリスマスイベントん時に教えたろう。生徒会長なんだから、頑張ってみなさいよ」

 

丹生谷「え゛? 生徒会長?」

 

 

 なんか知らんが、横で丹生谷が愕然とした顔をしていたが、触れると面倒そうなので見なかったことにしよう。

 

 

いろは「うぅー……。じ、じゃあ、進めますけど……」

 

 

 おっかなびっくりといった感じで前に立ち、小会議室に座る面々に了解を得るように視線を向けた一色が、ある一点でピタリと止まった。

 

 

いろは「何で誠もそっちに座ってんの?」

 

誠「へ?」

 

いろは「あんたも依頼主の側でしょおー! こっち! あんたもこっち!」バンバンバン!

 

誠「わ、分かったよ……」

 

いろは「はいペン持って! あんた書記ね!」

 

誠「はいはい……。それは良いんだけどさ……」

 

いろは「なに?」

 

誠「先に、自己紹介しとかね? さすがに名前も知らないまま話し合いって不便だろ」

 

 

 え、そう? 別に困らなくない? クリスマスイベントの時も結局、副会長の名前とか知らないままだったんだけど。

 

 

富樫「ああ、確かにそうだよな」

 

いろは「ふむ、誠のくせに一理ありますね……」

 

結衣「じゃあ、先に名前だけでもやっとこうか」

 

 

 あるぇー? みんな同意してるよ? 俺がおかしいの?

 

 名前なんて、脳内で適当な呼び名勝手につけときゃ事足りると思うんだけどなー。バカップルA・Bとか、黒めぐりん(髪色の事だよ)とか。

 

 

富樫「それじゃあ、俺から。富樫勇太。銀杏学園の二年です」

 

六花「小鳥遊六花。邪王真眼を瞳に宿し不可視境――」

 

富樫「今はそういうのはいいから!」ベシッ

 

六花「あうっ」

 

結衣「あははは…………ホントに中二と一緒だ……」ボソッ

 

 

 そんな俺の疑問を挟む余地もなく、あれよあれよと自己紹介は進んでいった。

 

 ふむ。黒めぐりんは、五月七日くみんさんというらしい。なんか声までめぐり先輩に似ていた。癒やされた。他はまぁ、どうでもいいや。

 

 そうして、俺もまぁ無難に当たり前のようにどもりつつも、なんとか名前を伝えたわけだが……。

 

 

雪乃「……」

 

結衣「ゆきのん?」

 

 

 自分の番になってもまだ、雪ノ下はブツブツと考えに没頭していた。

 

 

八幡「雪ノ下。おい雪ノ下」

 

雪乃「ッ! な、なにかしら? 今忙しいのだけれど」

 

八幡「忙しいって……。お前、さっきから何ブツブツ考えこんでんだよ?」

 

雪乃「決まっているでしょう? 祭りの問題を解決しつつ、如何に姉さんを最大限苦しめ抜くかよ」

 

八幡「どこの星のバカ王子だお前は」

 

 

 お前ホント、キャラ崩壊もいいかげんにしなさいよ?

 

 

雪乃「けどまぁ色々と考えたのだけど……」

 

八幡「けど?」

 

雪乃「…………無理ね」

 

 

 ふっ、と全てを悟りきった遠い瞳で、雪ノ下は自らの髪を撫で上げた。

 

 うん、そうだよな。やっぱお前はどう考えてもクラフト隊長タイプだよ……。

 

 

 


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