高二病でも恋がしたい   作:公ノ入

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中学編再開。


第八話

 

 

――Priririri……Priririri……

 

 

八幡「はい……もしもし……?」

 

モリサマー『……きこえますか……きこえますか……不浄王よ……モリサマーです……。今…あなたの…心に…直接…呼びかけていm……』

 

八幡「聞こえません」ブチッ

 

 

――プー、プー、プー…

 

 

八幡「……さて、寝直すか」

 

 

――Priririri!! Priririri!!!

 

 

八幡「…………」

 

 

――Priririri!! Priririr…ピッ

 

 

八幡「なんの用だ?」

 

モリサマー『何故切るのですか……』

 

八幡「心に直接呼びかけられるなら、携帯切っても問題ないだろ」

 

モリサマー『…………』

 

八幡「…………と言う訳で切るぞ?」

 

モリサマー『待ちなさい』

 

八幡「……呼びかけられないのか?」

 

モリサマー『今日はちょっと……その、精霊が……』

 

八幡「精霊が?」

 

モリサマー『せ、精霊の密度が薄くて……。バリ3……精霊がバリ3で立っていれば……!』

 

八幡「精霊がバリ3ってどういう状況だよ。つーか今どきバリ3なんて言葉、久々に聞いたわ」

 

モリサマー『うぐぐ……』

 

八幡「で? 結局何の用なの? 俺もう少ししたらプリキュア見なきゃなんねんだけど」

 

モリサマー『…プリキュアを…見る場合では…ありません…仮面ライダー某でも…ありません……公園です…亀治公園に…来るのです……』

 

八幡「そのネタ続けるならマジで切るぞ」

 

モリサマー『…………上着、返したいんだけど』

 

八幡「あー……」

 

モリサマー『…………』

 

八幡「……10時頃でいいか?」

 

モリサマー『分かった』

 

 

 

…………………………

 

…………

 

 

 

 

いろは「えっと、じゃあ先ずは……今回のお祭りイベントの問題点? を上げていきます。……でいいですよね?」

 

八幡「いちいち確認しなくても大丈夫だぞ。間違えた瞬間、そこにいる自動迎撃装置が作動するから」

 

雪乃「それは誰のことかしら……?」

 

 

 しかも最上位の氷属性付き。相手は死ぬ。

 

 

いろは「全然安心できないんですけど……。ま、まぁとにかくとして……。問題はやっぱり、イベントの規模が大きすg」

 

雪乃「それは違うわよ」

 

いろは「いきなり!?」ガンッ

 

 

 

六花「今の、超早かった……」コソコソ

 

勇太「言い終わる前にかぶせてきたな……」コソコソ

 

七宮「アイス・エンプレスって名付けよう……。その言葉は時すらも凍らせ、相手に凍結という名の支配を与える……」コソコソ

 

六花・勇太「「なにそれかっこいい」」コソコソ

 

 

 雪ノ下がギロッと視線を向けた瞬間、3人は慌てた様子で口を噤み、姿勢を正した。

 

 良かったな雪ノ下。中二連中の間で、お前のキャラが着々と固まりつつあるぞ。しかも本質捉えまくってるよ、流石だねッ。

 

 まぁ、それはそれとして。

 

 

八幡「確かに規模はデカイが、あの二人は本気で実現できちまうからな。それが問題ってわけじゃない」

 

雪乃「そう、それがクリスマスの時とは違う部分。けれど同じ部分もあるわ。というよりも問題の本質は全く同じね。よく思い出してみなさい」

 

いろは「はぁ……。えーっと、あの時は色々とアイデアはいっぱい出てたけど、それがまとまんなくて……」

 

 

 

丹生谷「ねぇ、ちょっといい?」

 

結衣「え!? あ、あたし?」

 

丹生谷「ええ、由比ヶ浜さん……っで良かったよね? ちょっと聞きたいんだけど、さっきから言っているクリスマスイベントって何?」

 

結衣「ああ……。えっと、いろはちゃんが生徒会長をやっているって、さっき言ってたでしょ?」

 

丹生谷「……ええ」

 

結衣「その関係の話。ウチと、海浜総合高校の生徒会が一緒になってクリスマスイベントを行おうって。でも色々あってイベントの計画がなかなか進まなくて、それでヒッキーとゆきのんと、あと一応あたしもだけど、いろはちゃんのお手伝いをしたんだよ」

 

丹生谷「アイツが? 本当に?」

 

結衣「うん。あたし達、奉仕部だから。あ、でもヒッキーが手伝ったのは、奉仕部関係無かったっけ。でもまぁ……あれだよ。ヒッキーだから」

 

丹生谷「……そう」

 

 

 

いろは「まとまらなかった理由は……トップに、決断力が無いこと、ですか?」

 

雪乃「そういうことね」

 

八幡「まぁ玉縄と違って、お前の爺ちゃんの場合は仕方ない部分もあるけどな。あの状況でどっちか片方切り捨てろって言われても無理があるわ。両家の力がデカ過ぎる」

 

いろは「ですよねぇ……」

 

誠「んな事させたら、じいちゃん本気で倒れちゃうって」

 

 

勇太「なあ、それって匿名の多数決とかで決めるんじゃダメなのかな?」

 

八幡「どうだろうな。陽乃さん達……と言うより、両家の母ちゃん二人がそれを許すかだが……」チラッ

 

雪乃「最終的にはそういう決着になるでしょうけど、それは確実に勝てるという確証が得られてからよ。今の段階で、それを認めることはないでしょうね」

 

八幡「つまりアレか……あの馬鹿げたイベント案は、自分たちの力を示して、裏で町内会員を抱き込むためのもんか?」

 

雪乃「ええ。もっと言えば、半ば脅しね。ここまで資金を出し、準備を進めているものをご破産にする気か? というね」

 

いろは「先輩……なんか急に怖くなってきたんですけど……」

 

八幡「そうだな、怖いな。俺、逃げていいか?」

 

いろは「絶対逃しません」

 

 

 わぁ、すげぇいい笑顔。なのにこの笑顔にはあざとさを欠片も感じない。不思議!

 

 

八幡「まぁ、アレだな。お前の爺ちゃんやら、陽乃さん達やらの多大な負担を無視していいなら、取り敢えず何もしなくても最終的にはまとまるらしいぞ。解決じゃね?」

 

いろは「な訳ないじゃないですか!」

 

雪乃「その男の妄言は置いておいて……。最終的な決着を待てないなら、それ以外の解決法を用意するしか無いわね」

 

いろは「それ以外の解決法って……どうするんですか?」

 

雪乃「それを考えるためのこの場でしょう……」

 

 

 一色の言葉に、雪ノ下は呆れたような溜め息をもらす。

 

 と、そこで予想外な人物が手を上げた。

 

 

六花「はい」

 

いろは「え? ……えっと、小鳥遊さん……じゃないや、小鳥遊先輩? 何かアイデア、あるんですか……?」

 

 

 おそらく見た目から完全に戦力外として捉えていたのだろう。戸惑いを含んだ一色の問いかけに、小鳥遊は「うむ」と大仰に頷いた。

 

 椅子から立ち上がり、片目を手で覆うルルーシュポーズを決める(覆うまでもなく眼帯をしているのだが)と、ゆっくりと一同に流し目を送ってくる。

 

 あ、この何かやらかしそうな雰囲気すごく身に覚えがあるわ。

 

 

六花「奴らには、我々など大して眼中に入っていない」

 

 

 

いろは「は?」

 

 

 一色が、この場の大多数の気持ちを代弁する声を吐いた。

 

 

七宮「奴らの関心は全て、凸守家と雪ノ下家。言葉で何か言っても意に介さないだろう」

 

 

 すると今度は七宮も立ち上がり、不敵な笑みを浮かべながら言葉を繋いだ。

 

 

六花「ならば我々がする事は、言葉で何か言う事ではない」

 

 

 流々と歌うように紡がれる言葉は、協奏的に。

 

 二人、合わせ鏡のように背中を預け合い、ビシリと拳を突きつけ――

 

 

 

 

六花・七宮「「最高のタイミングで、横合いから思い切り殴りつける!!」」

 

 

 彼女らはキメ顔でそう言った。

 

 

 

 

「「「……………………」」」

 

 

 沈黙が小会議室を支配する。

 

 雪ノ下はお決まりの頭痛を堪えるポーズだ。お前、それ好きだよな。

 

 

雪乃「比企谷君……。申し訳ないのだけど、通訳をお願いできるかしら……」

 

八幡「あー……アレだ。多分、俺達でイベントの第三案を出して、争いを収めようって事だと思うぞ」

 

 

 俺の言葉に、二人は満足気にコクコク頷いた。正解だったらしい。

 

 

雪乃「ふむ……なるほど。では比企谷君、彼女らにこう伝えて頂戴。『そう言うからには何か具体案があるのかしら?』と」

 

八幡「分かった。……邪王真眼、ソフィアリング・SP・サターン7世。その自らの矮小さを顧みぬ蛮勇、まずは褒めてやろう。しかし、かの両家の闇は、貴様らが想像するよりもはるかに深く、強大だ。それに挑まんとするならば、まずはコキュートスの永久凍土に座するアイス・エンプレスに、その力を示してみせるがいい」

 

雪乃「私はそんな馬鹿げた名を名乗った覚えはないのだけれど……」

 

 

 空気を読まない雪ノ下のツッコミは、取り敢えずスルーしておこう。

 

 

六花「フッ……舐めないでもらおうか、不浄王。このような場で安易に手の内を見せるほど、私は愚か者ではない」

 

七宮「相手の強大さは百も承知。けれどそれで引き下がっては、魔法魔王少女の名折れさ。どのような敵が相手であろうと、私は決して背を見せない!」

 

六花「私達が今示せるものは唯一」

 

六花・七宮「「全てを貫き通す、漆黒の意志のみ!!」」

 

八幡「そうか」

 

 

 二人の言葉に深く頷き、俺は雪ノ下に振り返った。

 

 

八幡「ノープランだそうだ」

 

 

――ガタタッ、と一色と由比ヶ浜がコケた。

 

 

結衣「何でそれ伝えるだけで、あんな長い台詞になるの!?」

 

いろは「ていうかクリスマスイベントで発言しだした時も思いましたけど、先輩って妙な所でノリがいいですよね……」

 

 

 割りと楽しかったのは秘密だ。

 

 

勇太「なんか……スマン……」

 

雪乃「まぁ、予想はしていたから構わないわ。それに、見当外れな意見というわけでもないもの」

 

いろは「え? でもあんな規模のイベントに対抗できる案なんて、私達じゃ……」

 

八幡「そうでもないぞ。イベントの規模は問題じゃないってさっき言ったろう。むしろプラスに働くまである」

 

いろは「どういうことですか?」

 

八幡「自分の身になって考えりゃわかる。アレだ、例えばお前が雪ノ下家の人間だとして、自分のイベント案が採用された場合のメリットって何がある?」

 

いろは「え~っと…………あぁ……ビックリするぐらい何もないですね……」

 

雪乃「では、デメリットは?」

 

いろは「めっちゃ財布が痛いです」

 

八幡「相手に負けたくはない。けれど、勝てば多大な資金と労力を強いられる。そんなところに出てきた3つ目のイベント案」

 

結衣「そっか。それが選ばれれば、負けもしないしお財布も傷まないもんね」

 

雪乃「そういうことよ」

 

八幡「まぁ、今まで自分たちの案を主張してきた手前、あんまいい加減なイベントじゃ、賛同できないだろうがな。規模は小さくても、そのへんを納得せるだけの要素を持ったイベントなら、十分に勝機はある」

 

いろは「なるほど~……。で、その納得させる要素を持った案て言うのは?」

 

 

 コイツ……マジで自分で考える気ねぇな。

 

 まぁ俺もまだ思いついてはいないわけだが……。

 

 

丹生谷「……神社は?」

 

八幡「ん?」

 

 

 今まで殆ど発言のなかった丹生谷のもらした呟きに、全員が――いや、約一名はいつの間にか熟睡していたが――視線を向けた。

 

 

丹生谷「だから、鶴御(つるご)神社よ。このお祭りって、あの神社に由来した風習なんでしょ? なら、その由来ってのを元にしたイベントを考えればいいんじゃない?」

 

勇太「おお! それなら確かに納得させられるかもな!」

 

雪乃「悪く無いわね……。それで行きましょう」

 

結衣「じゃあまずはその由来ってのを調べないとだよね。どうやって調べるの? 図書館?」

 

雪乃「そうね図書館で郷土資料を閲覧してみましょう。後は、神社の人間に直接聞くのがっ手っ取り早いかしら……」

 

八幡「二手に別れるか? 俺んち神社方面だから帰りに寄ってくわ」

 

雪乃「そうね……次の会議までにはある程度案をまとめておきたいし、早いに越したことはないわね。一色さん達は、取り敢えず今の話をおじいさんに伝えておいてもらえるかしら?」

 

いろは「了解ですー」

 

 

 よし、図書館で調べるよりも神社で話し聞くだけの方がはるかに楽だしな。

 

 それに確か、雪ノ下の家は図書館と近かったはずだ。由比ヶ浜の家もそっち方面。

 

 アイツら二人が一緒じゃなければ、適当に要点だけ聞いてさっさと家に帰れる筈――

 

 

丹生谷「なら私も神社に行くわ。同じ方向だし」

 

結衣「え?」

 

八幡「……うん?」

 

 

 おや? 由比ヶ浜の様子が……。あれ? なんか急に空気が冷たく……。

 

 

雪乃「…………そうね、では私と由比ヶ浜さんも一緒に神社に行きましょう」

 

八幡「へ?」

 

雪乃「富樫君、と言ったわね。そちらは図書館の方を任せてもいいかしら?」

 

勇太「ああ。家からそう遠くないし、問題ないよ」

 

八幡「ちょ、まっ――」

 

雪乃「何か問題でも?」ニコッ

 

結衣「別にないよね? ヒッキー?」ニコッ

 

八幡「…………はい」

 

 

 はちまん、しってるよ。笑顔って元は威嚇の表情だったんだって……。

 

 どうしてこうなった。

 

 

 


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