遊戯王~Truth of Satellite~   作:鬼柳高原

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*今回もデュエルがありません。 ご了承ください。 


第15話 デュエル研 ~美女と兄貴~

大会から数日後  シティ内陸部  遊伸のアパート

 

「えーと……これでいいかな」

 

遊伸は自宅でナンバーズの報告書を書いていた。

報告書の提出は、毎月10日までに届くようにして送らなければならない。

遊伸は何とか期日までにホープとゴールドラットの報告書を書き上げた。

現在朝6時30分。

 

「よし! 行くか!」

 

遊伸は支度を終え、仕事へ行く途中で報告書を投函した。

 

 

* * *

 

 

シティ内陸部 マーシャル・レッド事務所

 

遊伸は何時も朝早く事務所へ行く。

事務所のテレビを見る為だ。

遊伸にはテレビを買う余裕が無い為、何時も朝早く来てグレイグが見ているニュースを見に行く。

 

「おはようございます!」

 

「おう遊伸、見に来たのか、見に来るのは構わんが新聞じゃ駄目なのか? 大体内容は同じだぞ」

 

「すいません、テレビが珍しくて…」

 

「…そういう環境だったな、俺はちょっと席を外すから好きに見てていいぞ、その代わり今日もきっちりと働いてもらうからな」

 

「はい!」

 

グレイグが席を立つと遊伸は既に画面に映し出されているニュース番組を見る。

すると遊伸にも関わりの深いニュースが流れた。

 

ランディ・ベルタン逮捕

 

「!…捕まったのか!?」

 

ニュースによると先日、サテライトで逃走中だったランディがセキュリティによって捕らえられた。

上手く追い詰め、何とデュエルで倒して捕まえたと言う。

 

「凶悪犯、ランディ・ベルタンにセキュリティ機動部隊、藤堂 鋼牙(とうどう こうが)隊長が挑み、見事打ち倒したとのことです。 凶悪犯ランディはデュエル後、特別仕様の拘束装置の衝撃により倒れ、セキュリティ病院へと搬送されました」

 

ランディと捕まえた隊長の顔写真が映し出される。

 

「凄い……一人で倒してしまうなんて……ん? 藤堂?」

 

 

   ・

   ・ 

   ・

 

 

朝8時、この時間に全員が集まる。

 

「よし、お前等! 聞いて驚け! 今回の依頼はなんとデュエル研からだ!」

 

「はあ? デュエル研がデュエルチームに何を頼むんだよ? セキュリティに頼むだろ普通」

 

鋼貴の言うことは尤もである。

デュエル研は治安維持局管轄の研究機関である。

つまり、 治安維持局直属の公安組織であるセキュリティ本部とは繋がりが強いはずである。

 

「それについては向こうで説明するそうだ、とにかく行って来い」

 

「またアンタは行かねえのかよ」

 

「行かねえも何も俺は呼ばれて無い、何故か知らんがお前等を指名してきた」

 

「はあ!? 何で!」

 

「知るか!! 早く行って来い!!」

 

どうやら自分だけ呼ばれてないことを気にしているようだ。

何故この3人が呼ばれたかは定かではないが、実際いつも現場に出てるのはこの3人である。

グレイグが呼ばれないのは仕方が無いと言える。

 

 

 

* * *

 

 

 

3人がデュエル研に向かう途中、遊伸は朝のニュースについて鋼貴に聞いてみることにした。

 

「ねえ鋼貴、朝のニュースの事なんだけど……」

 

「ランディのか? 捕まったな……まあ相手が悪かったな」

 

「何の話? 今朝ニュース見てないの私」

 

空が横から聞く。

 

「ランディが捕まったんだよ、その事について鋼貴に聞きたいことが……ってそういえば君にも聞きたい事があるじゃないか。 いい加減教えてよ、あれは何だったんだい?」

 

「だから精霊って言ってるじゃん、あの時教えてあげるって言ったけど、やっぱり自分で気付いてほしいからこれ以上は駄目!」

 

空と話をしたあの夜から早数日、カードがソリッドビジョン無しで実体化した事について遊伸が聞いても空はこの様に教えてくれない。

遊伸はその晩気になって眠れなかった程なのに。

 

「あ、お前等! 久しぶりだな!」

 

突然後ろから声が掛かる。

3人が振り向くとそこには燃次と冷次がいた。

 

「久しいな、遊伸以外はタッグデュエルの時以来か」

 

冷次がそう言う。

 

「ああ、お前等か」

 

「反応薄!! ライバルとの再会なんだからもっと驚けよ!」

 

「いや……ライバルと言う程でもないだろ、タッグ前提じゃねーかお前等」

 

「その通りだから何も言い返せないな、ところで何処に行くんだ?」

 

「仕事だ、デュエル研までな」

 

デュエル研と聞いて二人は驚く。

 

「デュエル研!? 何でデュエル研で仕事があるんだよ! セキュリティいるじゃねーか!」

 

燃次もさっきの鋼貴と同じことを言う。

 

「俺らも分からん、とにかく依頼されたから行くんだ。 それじゃあな」

 

鋼貴達が行こうとすると燃次が呼び止める。

 

「おい待ってくれ! 俺達も連れてってくれ!」

 

それを聞いて鋼貴が眉をひそめる。

 

「…遊びじゃねぇんだぞ! それに仕事としてついてこようとしてもお前等決闘者じゃねーだろ! この前見せたライセンスあるだろ、あれないとデュエル研で門前払いだぞ!」

 

鋼貴の言うライセンスとは治安維持局が発行している決闘者証明証のことである。

これが無ければ決闘者として認められず、デュエル事業を行うことも出来ない。

このライセンスを得るには、アカデミア生なら高等部入学後に渡され、それ以外は治安維持局が実施している試験に合格しなければならない。

ちなみに遊伸は勉強し、ダイモンエリアに行く前にこの試験を受け、ライセンスを修得している。

 

そんな遊伸が鋼貴に言う。

 

「鋼貴、多分この二人は大丈夫だと思うよ」

 

「はあ? 何でだよ」

 

「その理由はこれだ」

 

冷次は懐からデュエルモンスターズではないカードを取り出す。

 

「ライセンス!? 何でお前等が持ってんだ!? そして何で遊伸お前が知ってんだ!?」

 

「試験会場で会ったんだよ」

 

「そして俺達は合格したんだ」

 

遊伸と冷次がそう答える

 

「だけどよ! お前等シングルは異様に弱いじゃねーか! どうやって実技通ったんだ!」

 

鋼貴が聞くと燃次が答える。

 

「治安維持局の人がな、意外と話が分かる人でよ! 実技タッグにしてくれ、って頼んだら本当にそうしてくれてよ!」

 

「その代わり二人で一枚だが」

 

よく見るとライセンスに二人分の顔写真がついている。

 

「…本当に治安維持局がそんなこと許可したのか?」

 

「そういえば私聞いたことあるよ、治安維持局の今年の標語は「熱意」と「可能性」だって……そう言うことじゃない?」

 

空がそう言うと鋼貴が呆れた様に溜息を吐く。

 

「マジかよ…」

 

「頼む! デュエル研なんて滅多に行けねぇ! 仕事はちゃんとするからよ!」

 

「連れてってくれないと遊伸がライセンス持ってないのに仕事してたこと治安維持局にチクるぞ」

 

必死に頼み込む燃次と脅してくる冷次。

どの道この二人は引きそうにない。

 

「…分かったよ、その代わり余計な事するなよ! そしてめんどくさい仕事はお前等がやるんだ! 解ったな!」

 

鋼貴の言葉に燃次が飛び跳ねる。

 

「よっしゃー! 話が分かるぜ!」

 

「そう言って貰えると信じていたぞ」

 

「青いの、脅迫した癖に何言ってやがる」

 

こうして二人を加え、5人はデュエル研へと向かう。

 

「(そういえば鋼貴にセキュリティの隊長について聞きそびれちゃったな……後でゆっくり聞こう)」

 

* * *

 

シティ内陸部  治安維持局  デュエルモンスターズ研究所

 

「ここが…」

 

遊伸は目の前の大きな建物を見る。

さらに奥に見える治安維持局の建物よりは小さいがそれでも十分な程の大きさである。

入り口付近にはモンスターの銅像が並んでいる。

 

「やあ! 待ってたよ! マーシャル・レッドの諸君!」

 

出入口で出迎えたのは白衣を着た男。

髪はボサボサで無精髭を蓄えている。

 

「よく来てくれた! 私はコンラード・マイル、このデュエル研所長兼カードクリエイト部門総責任者だ」

 

「カードクリエイト……ということは…」

 

「その通り! モンスター・エクシーズ、つまりナンバーズを創ったのもこの私さ遊伸君! ゴールドラットの件もホープの譲渡の件も聞いてるよ!」

 

遊伸が言おうとすると先にマイルが言う。

 

「で? どうだい遊伸君! ナンバーズは?」

 

マイルが遊伸に詰め寄る様に近づく。

 

「え、えーと……今日報告書を投函しましたので、そちらを見ていただけたら……」

 

「ハッハッハ! はっきり言ってくれてもいいさ! ホープはともかく、ゴールドラットは使いづらいだろう? 数ある物には当たり外れは付き物だからね! ちょっとしたお遊びのつもりだったんだ」

 

「おい! それじゃあゴールドラットのあの弱さはわざとか!」

 

鋼貴がマイルを問い詰める。

 

「そのとおり! 外れ中の外れ! 全然実用性考えて無いよ! でもそういう物を使いこなしてこそ真の決闘者ってやつじゃないか? もしかしたら無理やりでも使ってくれる人もいるかもしれないしね! 作って後悔してないよ!」

 

「…おいおい、これがカード作ってる奴らの頭かよ……」

 

「現実はこんなもんだよ……しかし人数多くないか? 大会で上位4人に入ってたのって3人だろ?」

 

「あ……こいつらは…助っ人だ! デュエル研からの依頼だから一応人数いた方がいいと思って…」

 

マイルがそういうと鋼貴が取り繕う。

 

「…まあいいけど、でも報酬は変えられないよ?」

 

「大丈夫だ! こいつらはボランティアだ!」

 

鋼貴の言葉に燃次と冷次が噴出す。

 

「ちょ…ボランティアなんてそれはあんまりだぜ!」

 

「なら帰ってもいいんだぞ? 無理やりついて来たのはお前等だからな」

 

鋼貴の言葉に燃次は黙ってしまう。

 

「鋼貴、確かにそれはあんまりじゃないかな、手伝って貰えるんだし…」

 

遊伸がそう言うと冷次が言葉で止める。

 

「いや遊伸、確かにその通りだ。 無理やりついて来ておいて、さらに報酬まで要求するのは図々しいにも程だ。 燃次、授業料だと思って諦めろ」

 

「…そうだな、その通りだ……ライセンスの受験料で懐がカラカラになっちまったからつい…」

 

「へえ、冷次解ってるじゃねえか! てっきり報酬よこせって脅してくんのかと思ったぜ」

 

「…よくよく考えたら脅迫は犯罪だったからな、こっちもチクられたらライセンスを取り上げられるからお互い内密に…」

 

「もういいかい君達…」

 

「す、すいません…」

 

マイルが待ちかねて声を掛けると遊伸が謝る。

 

「それじゃあ中に入ろう。 詳しくは所長室で、そこに着くまで研究所内を案内しよう」

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

マイルに連れられて研究所を歩く遊伸達。

粗方の部屋を案内され、所長室の前の最後の部屋に案内される。

その部屋の窓から一人の女性がシミュレーターでデュエルしているのが見える。

 

「おい見ろよ! 美人の姉ちゃんがいるぜ!」

 

「マジかよ! どこ!」

 

「ホント! 綺麗な人!」

 

鋼貴がデュエルしている女性に対して声を上げると、燃次と空が窓から覗く。

特に目立った反応しなかった遊伸に冷次が言う。

 

「遊伸、どう思う?」

 

「いや……どうと言われても……綺麗な人じゃないかな?」

 

「…綺麗と思っててその反応とは……老成しすぎじゃないのか? それとも逆か?」

 

冷次にそう言われ、少しだけムッとする遊伸。

 

「き、君だって同じじゃないか…」

 

「俺的に年上はちょっと……それよりマイルさん、ここは?」

 

「ここはサイコ・デュエル研究室だ、彼女はそのデータを取るのに協力してもらってるサイコ・デュエリストさ」

 

「サイコ・デュエル?」

 

「私が教えてあげる!」

 

いつの間にか窓から戻って来ていた空が遊伸に言う。

 

「サイコ・デュエリストっていうのはね、所謂”超能力者”のことだよ!」

 

「ちょ、超能力!?」

 

遊伸は驚く。

自分は驚いてばかりだと遊伸は少し情けなく感じる。

 

「そう! 不思議な力でソリッドビジョンに影響を与えることが出来るの! 変に思うかも知れないけどちゃんと社会的に認知されている力なんだよ!」

 

「ソリッドビジョンに? どんな?」

 

遊伸に聞かれ、空はにやりと笑いながら答える

 

「ふふふ…! それはね、ソリッドビジョンを実際の物にしちゃうの!」

 

「え? どういうこと…?」

 

「実際見てもらった方がいいだろう、光円寺君! 頼めるかい!」

 

マイルが部屋にいる女性に声を掛けると女性が手を上げる。

 

「やってくれるそうだ、さあ部屋に入ろう」

 

 

 

 

5人が部屋に入ると女性もシミュレーターを終了して決闘場に立っていた。

 

「すげぇ! 間近に見るともっと美人だ……光円寺さんか、いいなぁ」

 

鋼貴はすっかり彼女に夢中だ。

オレンジ色で首あたりまで伸びた短めの髪、顔も類い稀な程美人でスタイルもいい。

モンスターにすら反応する鋼貴でなくても、寄ってくる男は多そうだ。

光円寺は準備を終えると決闘盤を構える。

しかし向かい側には相手がおらず、人形が置いてあるだけである。

 

「ブラッド・ヴォルスを召喚!」

 

場に独特な形をした斧を持った獣戦士が現れる。

 

「ブラッド・ヴォルスで直接攻撃!」

 

ブラッド・ヴォルスが人形に向かって斧を投げる。

が、その斧はすり抜けず、人形に当たると人形は吹き飛び、壁に叩きつけられる。

 

「!?」

 

「す、すげぇ!? どうなってんだ!?」

 

「まあ、これがサイコ・デュエルだ。 本当に実体化する訳じゃないが、ダメージは本物になるんだよ。 所謂”念動力”ってやつかな、ソリッドビジョンを通してそれが相手にぶつかっているんだ」

 

これには空以外の4人は驚きを隠せない。

空が遊伸に聞く。

 

「どう? 解った?」

 

「どういうものかは解ったよ……空は何でそんなに詳しいの?」

 

「それはねぇ、私の…」

 

「そうか! 分かったぞ!」

 

空が言おうとすると遊伸が思い出したように言う。

 

「空もサイコ・デュエリストなんだ! だからこの前の…」

 

「違うよ、だからあれは精霊」

 

「ええ~!? じゃあ何なのさ~」

 

自信があったのか遊伸は不満そうな声を出す。

そんな事をしていると光円寺がこちらへやってくる。

 

「坊や達は社会見学? 偉いわね。 私は光円寺 陽子(こうえんじ ようこ)、”アルカディア・ムーブメント”から研究の手伝いに来たの、よろしくね」

 

「アルカディア・ムーブメント?」

 

遊伸がそう言うと鋼貴が驚いたように答える。

 

「おいおい!? サテライトに住んでたのに知らねぇのかよ!」

 

「う、うん、そんなに有名なの?」

 

「アルカディア・ムーブメントって言えば、サテライトの開発事業を行う、つまりお前の故郷の復旧活動している会社だ。 ちなみにダイダロスブリッジを架けたのもアルカディア・ムーブメントなんだぞ。 つまり、アルカディア・ムーブメントが無ければお前はここに来ることすら出来なかった訳だ……本当に知らなかったのか?」

 

「うん……知らなかった、何でそんな大事なこと知らなかったんだろう……」

 

落ち込んだ様子の遊伸。

 

「後はあまり知られてないことなんだけど、アルカディア・ムーブメントはサイコ・デュエリストの養成機関でもあるの。 見て貰ったけど、私もアルカディア・ムーブメントのサイコ・デュエリストよ」

 

「何でサテライトの開発事業をする会社がサイコ・デュエリストの養成何てしてるんだ?」

 

燃次が光円寺に聞く。

 

「元々会社にサイコ・デュエリストが多かったのが一つ、そしてもう一つがサテライトという環境よ。 ここでなら何かの事故があっても被害が少ないわ、それにまだサテライトには未開発地域が沢山あるから、そこを有しているアルカディア・ムーブメントならどんな実験でも、迷惑も被害なく行えるわ」

 

「そう言う訳で治安維持局はサイコ・デュエリストの育成をアルカディア・ムーブメントに委任しているのさ! ちなみに一人前になったサイコ・デュエリストはセキュリティの特殊部隊に配属されたりとかしているよ!」

 

「へぇー、思ったより凄い企業なんだな!」

 

「アルカディア・ムーブメントがそういう企業だったなんて俺も初めて知ったよ」

 

光円寺とマイルの言葉に燃次と冷次が納得した様にしているが、遊伸は一人そうではなさそうな顔をしていた。

アルカディア・ムーブメントを知らなかったとはいえ、サテライト育ちの遊伸はここの誰よりも長くサテライトを見てきている。

遊伸は今の話から違和感を感じ取っていた。

ダイダロスブリッジが架けられる前からあるということは、少なくても20年以上前からある会社である。

そんなに昔から復旧活動をしているのに、遊伸には自分の故郷がそこまで復旧が進んでいる様には見えなかったのである。

 

「(意外と大変なのかな…)」

 

「どうした、遊伸?」

 

「!…いや、何でもないよ」

 

「さあ! それじゃあ長くなったけど所長室に向かおうか! 光円寺君ありがとう!」

 

話が終わるとマイルが皆に移動を促す。

 

「光円寺さん! また会いに来ていいですか!」

 

「ええ、いつでもいらっしゃい」

 

鋼貴は光円寺と別れるのが名残惜しいのかそんな事を言って部屋を出る。

遊伸も続けて部屋を出ようとすると空が一人何かを思案しているのを見つける。

 

「空?」

 

遊伸に名を呼ばれ我に返る空。

 

「な、何?」

 

「移動するよ……どうかした?」

 

「な、何でもないよ! 今行く!」

 

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

 

デュエル研 所長室

 

「それでは本題に入ろう」

 

マイルが遊伸達にソファーに腰掛けるように促し、自分も座る。

そして依頼内容について話し出す。

 

「実はちょっと研究に協力してほしいんだ」

 

「研究?」

 

鋼貴が聞き返す。

 

「ああ、実はね、あの時の大会をお忍びで見に行ってたんだ。 弱いと言っても大事なナンバーズの所有者を決める大会だからね、見ておこうと思ったんだ」

 

「しょ、所長がそんな事してていいのかよ…」

 

「言っただろう、お忍びだって。 ばれなきゃ平気さ!」

 

鋼貴は呆れる。

 

「それでびっくりしたよ! まさか上位を一つのチームが独占しまうなんてさ! だから君達に興味が沸いてね、是非データを取らせてほしいんだ」

 

「成る程な……俺はいいぜ、もっとめんどくせぇ仕事かと思ってたが、それ位なら楽そうだ。 二人は?」

 

「僕は構わないよ」

 

「私も良いよ」

 

鋼貴が聞くと遊伸と空は同意する。

 

「……なあ冷次、もしかして俺達余計?」

 

「間違いなく余計だろ、することもない」

 

燃次と冷次がそう言うとマイルが言う。

 

「いや、やっぱり君達にもいて貰いたい」

 

「! 俺らのデータも取るんすか!!」

 

「いや、そう言う訳じゃないが……一つ心配事があってね」

 

がっくりと項垂れる燃次を横にマイルが話し始める。

 

マイルが言うには、どうも最近セキュリティが極秘で捜査を進めているらしく、精鋭部隊は殆どで払っているらしい。

そのせいかここの警備に就いているセキュリティはやる気の見られない怠惰な者が多く見えるという。

 

「あんまりセキュリティさんを悪く言うのは気が引けるんだけど……どうも頼りないんだよ。 何かを警戒している訳じゃないけど、警備があれだから不安なんだよ。 午後から始めるから……多分終わるのは夜遅くなる、その間二人には警備に加わって貰おうと思ってるよ」

 

「…本当にセキュリティが怠惰なんですか?」

 

「私さっき警備のセキュリティの人が居眠りしてるの見たよ」

 

遊伸が疑問に思い聞くが、空が話を裏付ける。

 

「…まあせっかく来たからやっていくよ、燃次もいいな?」

 

「ああ…」

 

燃次と冷次も警備を承諾する。

 

「頼んだよ、今日だけでいいんだ。 さっきセキュリティに連絡したら明日には入れ替えの人員を送ってくれるそうだから…」

 

そう言うとマイルは席を立ち上がる。

 

「さあ! それじゃあ私は準備をしてくるよ! さっきも言ったけど午後からだからね! それまで自由にしてていいよ! ただあんまり研究室とか覗いちゃ駄目だよ! 機密もあるからね! それじゃあ!」

 

そう言って部屋を出て行く。

 

「よし! それじゃあ俺らもまた見て回ろうぜ冷次!」

 

「そうだな、警備員なのに研究所内知らないとか洒落にならないからな」

 

そう言って燃次と冷次も出て行く。

 

「…はぁ~、本当にあれで所長が務まるのかよ……」

 

鋼貴が呆れた様に溜息を吐くと、遊伸が気になって聞く。

 

「どうしたの?」

 

「あの所長さん、普通に「セキュリティが極秘で捜査を進めている」とか言っちまったぜ、普通言っちゃ駄目だろ……極秘なら」

 

「本当だ……まあそれだけ僕達を信頼してくれてるんじゃないかな?」

 

「会って数時間の俺達をか?」

 

「まあまあ……それにしても極秘任務ってなんだろうね」

 

「さあな……それじゃ俺もちょっと用事あるからまた後でな」

 

そう言って鋼貴は出て行こうとすると遊伸が見透かした様に後ろから声を掛ける。

 

「あんまり光円寺さんに迷惑掛けちゃだめだよ」

 

「おお、何で分かった?」

 

「さっき会いに行くって言ってたじゃないか」

 

「はは、そう言うこった! それじゃあな!」

 

今度こそ鋼貴が部屋から出て行く。

すると今まで黙っていた空が遊伸に声を掛ける。

 

「ねえ遊伸」

 

「何だい?」

 

「もしかしたら……お姉ちゃん、アルカディア・ムーブメントにいたかもしれない」

 

「ええ!? どういうことだい?」

 

「私がサイコ・デュエリストに詳しいのはね、お姉ちゃんがサイコ・デュエリストだからなの」

 

「空のお姉さんが?」

 

空の話によると、空の姉である七海は、姉妹で世話になっていた親戚である叔母に迷惑は掛けまいと在籍していたアカデミアの中等部から高等部に進まず、その力を活かして就職したのだという。

空はこの話をその叔母に聞いていたのだが、どこに就職したのかを七海は叔母にも伝えておらず、空と叔母はそろって心配していたのだと言う。

 

「だから、もしかしたらお姉ちゃんはサイコ・デュエリストとして アルカディア・ムーブメントにいたかもしれない……」

 

「……そうだったのか」

 

「…さっき聞きそびれちゃったけど、やっぱり光円寺さんに聞いてみる! 10年前だけど、もしかしたら何か知ってるかも!」

 

「そうかもね、僕も行くよ、アルカディア・ムーブメントについて聞いてみたいし! 鋼貴を追っていこう!」

 

そう言うと遊伸と空も所長室を出る。

 

「そういえば空、お姉さんがサイコ・デュエリストだって知ったとき、やっぱり驚いた?」

 

「うん、私は驚いたけど、叔母さんはあまり驚いてない感じだったよ。 何でもお父さんもそうだったんだって」

 

「へぇ、凄いなぁ…(だったら空のあれもサイコ・デュエルのような気もするけど、本人は違うって言ってるし……うーん)」

 

遊伸達が話しながらさっきの研究室に向かっていると、気落ちした鋼貴が向かいから歩いてくる。

 

「あれ? 鋼貴じゃないか、光円寺さんに会いに行ったんじゃないのかい?」

 

「…今日はもう宿場に戻ったってさ、残念だ…」

 

「ええ~そんなぁ…」

 

空も肩を落とす。

 

「? 何だ、お前等も光円寺さんに会いに来たのか?」

 

「アルカディア・ムーブメントについてちょっと聞きたいことがあったんだよ」

 

「そうなのか、まあまた今度にするか……それよりすること無くなっちまったぜ、早いけどメシにするか?」

 

「そうだね、空もそうする?」

 

「うん」

 

3人は研究所を出た。

 

 

* * *

 

 

シティ内陸部 治安維持局 デュエル研前

 

「向こうにうまい店があるらしいからよ、行こうぜ」

 

鋼貴が治安維持局が見える方を指す。

しばらく歩いていると遊伸は途中でセキュリティ隊員を見かける。

普通のセキュリティの制服を着たセキュリティ隊員が、他とは違う制服を着たセキュリティに何かを報告している様に見える。

その報告を受けている人物に遊伸は見覚えがあった。

 

「(あれ、ランディを捕まえたセキュリティの隊長さんじゃないか?)」

 

遊伸はそう気付くと鋼貴と空に声を掛ける。

 

「ねえ二人とも! ランディを捕まえた人だよ! それで鋼貴、気になることが…」

 

「ゲッ!」

 

遊伸がそう言い、鋼貴が振り向いてそう洩らすと鋼貴は逃げようとする。

 

「ちょっと!? 鋼貴!」

 

遊伸の声にその隊長が振り向くと、隊長は走って逃げようとする鋼貴を見つけ、呼び止める。

 

「待て! お前鋼貴か!」

 

名前を呼ばれ、立ち止まる鋼貴。

観念して振り向く。

鋼貴にその隊長が近づいてくる。

 

「やはりそうだったか! 鋼貴、こんな所で何をしているんだ」

 

「兄貴…」

 

今の会話で遊伸はようやく朝の疑問が晴れた。

藤堂 鋼牙

藤堂 鋼貴

同じ苗字だからもしやと思っていたが、やはり兄弟であった。

 

「仕事だよ、兄貴こそなんでこんなとこに……」

 

「俺も仕事だ、どうだ? うまくやっているのか?」

 

「まあボチボチ……」

 

鋼牙が鋼貴に近況を聞き始める。

 

「それにしても鋼貴のお兄さんがセキュリティの隊長だなんて驚いたなぁ」

 

「それどころかお父さんは長官だからホント凄い家系だよね」

 

空の言葉に耳を疑う遊伸。

 

「え? 長官?」

 

「うん、治安維持局長官。 あれ? 遊伸聞いてなかったの?」

 

「ええーーー!? し、知らなかった……聞いてないよ」

 

「まあ鋼貴はあまり話したがらないから、幾ら遊伸でも話してないかもね。 鋼貴の家凄いよ、桐原なんて目じゃないくらいだもん」

 

空が二人を見ながら言う。

聞くとだんだん話が説教じみてきていた。

 

「…それに殆ど実家に帰ってないそうじゃないか、親父もお袋も心配しているぞ、たまには顔を見せてやれ」

 

「いいじゃねぇか別に……分かったよ、年末には帰るよ」

 

「よろしい……それじゃ俺は行くぞ、しっかりやれよ!」

 

そう言って鋼牙は去っていく。

 

「…はぁー…ったく、子供じゃねぇんだからよ……遊伸、さっきの話聞こえてたぞ。 …俺は俺だ、家は関係ないからな!」

 

「解ってるよ、逆に今の話がしっくりこないくらいさ」

 

遊伸は笑いながらそう答える。

 

「うし! 解ってるじゃねぇか! …後空、何でそこまで知ってんだ、お前にも話したことねぇぞ」

 

「グレイグに聞いたの、酔っ払ってるときにベラベラ喋ってた」

 

「あの野郎……まあいいや、あれが俺の兄貴だ。 何時までも俺を子供扱いしやがる……だけど」

 

一瞬悔しそうな顔をする鋼貴。

 

「それだけ俺と兄貴とじゃ差があるのが事実だ、デュエルも俺が知る限り一番強い、だから、何時か兄貴に勝つのが俺の目標だ!」

 

鋼貴の言葉に遊伸は納得する。

何せ、決闘王を倒した相手を倒しているからである。

 

「さて、それじゃあ気を取り直してメシ行こうぜ」

 

「そうだね、行こうか」

 

3人はその場を後にした。

 

 

 

「そういえばどうして逃げたんだい?」

 

「…小言がうるさいからだよ」

 

 




実は考えていた先の物語でちょっと無視できない構成ミスを見つけたので急遽変更し、その為この話に色々詰め込んだのでデュエルを入れることが出来ませんでした。
次回はデュエルします。
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