遊戯王~Truth of Satellite~   作:鬼柳高原

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*今回デュエルはありません。 ご了承ください。
*今回は前回の後日談です。 何時もより大分短いです。


第17話 デュエルの道 ~拘りか、強さか~

太陽龍インティの炎が遊伸を襲い、LPを0にする。

デュエル終了のアラームが鳴り響くとソリッドビジョンが消え、遊伸を襲う炎も消える。

遊伸はその場に崩れ落ちる様に倒れる。

 

「「「遊伸!!!」」」

 

「遊伸君!!!」

 

鋼貴達が遊伸へと駆け寄る。

 

「お願い遊伸しっかりして!! 目を開けて!!」

 

「大丈夫だ空君、息はある……だがこのダメージ……早く医者に見せねば…」

 

目に涙を溜めながら必死に遊伸に呼びかけ、体を揺する空と遊伸の容態を見るマイル。

 

「思ったより長引いてしまったわ……さ、そこを通してくれる?」

 

光円寺がそう言うと鋼貴が睨みつけ、決闘盤を構える。

 

「よくも…よくもやりやがったな!! 今度は俺が相手だ!!」

 

「あら、約束が違うわね? それともあなたはそこの坊やより強いのかしら?」

 

光円寺が遊伸の方を向いて言う。

 

「鋼貴君駄目だ! 戦ってはいけない! 酷な事を言うが君が戦っても彼女には勝てない!」

 

マイルが鋼貴を引き止める。

鋼貴が空を見ると、空は口には出さず、鋼貴に行くなと目で訴えている。

 

「くっ…そぉ…」

 

鋼貴が悔しそうに決闘盤を収める。

 

「懸命ね……さて、じゃあ通して…」

 

この時、突然アラーム音が鳴る。

光円寺が小さい機械を取り出す。

そこから鳴っている音のようだ。

 

「月子? …ええ、まだよ……そう、分かったわ」

 

どうやら小型の電話の様な物らしい。

会話を終えると光円寺は機械をしまう。

 

「…これからもう少し他の場所を探してみようと思ったけど……時間切れね、このまま大人しく帰らせて貰うわ。 それと、そこの坊やが起きたら伝えておきなさい……もう二度とそうなりたくなければ粋がるのはよしなさい、って。 それじゃあね」

 

光円寺は鋼貴達の横を堂々と通るとそのまま階段を上っていってしまった。

 

こうしてデュエル研襲撃事件の幕は降りた。

 

あの後マイルが保管庫を調べ、本当に何も盗られていないかを確かめると、実際に盗られているカードは無かった。

 

上に上がると殆どの強盗犯がセキュリティに捕まえられていた。

鋼貴達はセキュリティに光円寺の事を聞くが見かけなかったと言う。

 

セキュリティが強盗犯を尋問したところ、強盗犯は雇われただけであり、光円寺やアルカディア・ムーブメントについては何も知らなかった。

 

この事をデュエル研は治安維持局に報告し、治安維持局がアルカディア・ムーブメントに直接問い合わせたところ、アルカディア・ムーブメントは既に存在しない会社となっていた。

シティにある支社、サテライトにある本社にセキュリティに調査に行かせたところ、どちらも既に蛻の殻となっていたと言う。

 

今回の事件をアルカディア・ムーブメントの仕業と治安維持局は断定したが、何の為にデュエル研を襲撃したのか? なぜアルカディア・ムーブメントの人間は何処に行ったのか? 謎は多く残ったままであった。

 

治安維持局とセキュリティは今回の事件を隠蔽し、調査を続けることに決めた。

デュエル研は治安維持局の管轄であり、セキュリティとも繋がりが深い施設である。

そこを容易く襲撃され、内通者までに入り込まれていたなど知られることはセキュリティにとって汚名以外の何物でもない。

幸い事件は研究所内だけで起こった事なので隠蔽は容易であった。

 

 

 

 

事件から翌日 シティ沿岸部 病院

 

「そんな事があったなんてな……」

 

グレイグは鋼貴と空から事件の話を聞いていた。

現在3人は遊伸のいる病室へと向かっている。

遊伸はあの後直ぐに病院へと運ばれた。

幸い命に別状は無く、しばらく療養すれば問題はないと言う。

今朝目覚めたと病院から連絡があったのでお見舞いに行くところであった。

 

「俺が挑んでも無駄だったかもしれねぇが……くそっ! やっぱり俺も戦えばよかったぜ!」

 

「駄目よ! 遊伸が押されっぱなしだったんだよ! それにあの人、様子からして全力を出してなかったし…」

 

「お前等、病院なんだからもう少し静かに話せ……ここか」

 

遊伸の病室に辿り着く。

この病室にいるのは遊伸のみでガランとしている。

その遊伸は自分のベッドに座って窓の外を見ている。

上の空の様でグレイグ達が入ってきたのに気付いていない。

 

「遊伸」

 

グレイグが声を掛けると遊伸が驚いた様に振り返る。

 

「グレイグさん、鋼貴と空も…」

 

鋼貴が前に出る。

 

「おう遊伸! 体は大丈夫そうだな」

 

「ありがとう……鋼貴、あの後どうなったの?」

 

遊伸が鋼貴にそう聞くと、鋼貴が昨夜の事を話す。

 

「…そうか。逃げられてしまったんだね」

 

「お前のせいじゃねぇぞ、被害も無かったんだ」

 

「もうっ! 本当に心配したんだから! …仕事柄危険な目に遭うのは仕方ないことだけど……もう無茶はしないで……少なくとも危ない時は一人で走らないで頼ってね、私達、仲間なんだから…」

 

空は昨日の事を思い出して泣きそうになるのを堪えているのか顔を顰める。

 

「ごめんよ空、心配掛けて……」

 

そう言うと遊伸は天井を見上げる。

 

「全力だった……カード達もそれに答えてくれた……でも、負けた」

 

「お、おい……あんまり気にすんなよ、たかだか一回の負けじゃねーか、弱気なんてらしくねぇぞ」

 

鋼貴が遊伸を励ます。

遊伸は視線を鋼貴達に戻して言う。

 

「ありがとう鋼貴、大丈夫、弱きにはなってないよ……あの人には否定されて、さらには負けてしまったけど、僕はこの信念を変えるつもりはないよ。 でも…」

 

遊伸は俯く。

 

「きっと僕が負けたのは何か要因があるんだ、運とかじゃなくて、きっと何か……あの人にあって、僕にはない物がある様な気がするんだ」

 

遊伸がそう言うと今まで無言だったグレイグが口を開く。

 

「…教えてやろうか?」

 

「え?」

 

「お前が勝てなかった理由だ」

 

グレイグがそう言うと遊伸が跳びつく勢いでベッドから出ようとする。

 

「そ、それはっ! …つっ!」

 

体が治りきってないことを忘れていた遊伸。

 

「おら、無理すんな……難しいことじゃねぇ、鋼貴、空、分かるか?」

 

「いや、そもそももう俺より強いしな遊伸……足りないと言われても俺じゃ分からねぇよ……やっぱり運じゃねーか?」

 

「私は一つ思うことがあるけど……遊伸はあまりしたくないんじゃないかな…」

 

「空は分かってる様だな、それじゃ教えてやろう、お前の敗因は…」

 

遊伸は息を呑む。

 

「デッキだ」

 

「…え?」

 

「だからデッキだ、確固たる信念、天性のデュエル・タクティクス、お前にはそれらが備わっている。 じゃあ後足りないのは、って言われたら、もうデッキしかない」

 

遊伸は呆然とした顔で空を見る。

空は遠慮がちに頷く。

 

「遊伸、お前は何回デッキを改造したことがある?」

 

「え…ええと…」

 

「当ててやろう、一回も無い……違うか?」

 

「!」

 

グレイグの予想は当たっていた。

遊伸はこのデッキを受け取ってから一度も中を変えたことが無い。

変化があったのはダイモン・エリアに行く前に立ち寄ったショップで購入した《大地の騎士ガイアナイト》と《セブン・ソード・ウォリアー》、そして鈴から託された《エンシェントフェアリー・ドラゴン》をエクストラデッキに加えたのみである。

 

「お前の昨日のデュエル、お前等が話している間に記録を見させて貰ったけどな、相手の女、おそらく相当の場数を踏んでると見た。 事実、お前は相手に乗せられっぱなしで怯ませることも出来てないからな、経験の差だ。 …これはお前がここに来てからずっと課題にしてきた事だったな?」

 

「…はい」

 

遊伸は頷く。

 

「根本的に見れば敗因はこの経験だ。 遊伸、デッキってのはな、決闘者がデッキに持てる知恵と信念……”魂”を注ぎ込んで作り上げ、そして多くのデュエルを経験し、己の成長と共に改造し、研磨していく……言わば自分のもう一つの”魂”だ。 しかしお前はデッキにそれをしていない……」

 

グレイグが人差し指を立てる。

 

「宝月 仁曰く、「デュエルの道に終わりは無い」……その通りだ、成長の早さの差こそあれど、決闘者に限界なんて物は無い、成長し続ける、だがデッキは違う、使ってても勝手に成長はしない、決闘者自身が、己の力で成長させなければならない……遊伸、お前にはそれが出来るか?」

 

「僕は…」

 

遊伸には難しいことであった。

遊伸のデッキは父親が使っていた物で、遊伸の今までのデュエル人生には必ずこのデッキの存在があった。

遊伸の父の形見のデッキに対する思い入れは相当なものであり、カードを多少加える事はしても、デッキの大々的な改造を考えた事は一度も無かった。

 

「何も全部変えろと言っている訳ではない、決闘者には譲れない拘りがある物だからな、その拘りを軸にしていかに強く改造するかが、その決闘者の永遠の課題だな、高尾を見れば解るだろ?」

 

遊伸は横に置いてあった決闘盤から自分のデッキを取り出し、見つめる。

 

「…もしかして、そのデッキであること自体がお前の拘りか?」

 

「…」

 

「…そうか、それならそれでいいだろう。 無理に拘りを捻じ曲げてもいいデッキは作れん、だが覚えておけ、そのままでは何れ無いはずの”限界”が来る……鋼貴、空、行くぞ、仕事だ。 遊伸、早く治して戻って来いよ、邪魔したな」

 

「お、おいグレイグ…」

 

グレイグが立ち上がり、病室を出ようと扉に向かう。

鋼貴がグレイグを呼び止めようとすると、思い出した様に突然グレイグが振り返った。

 

「遊伸、一つ言っておく。 これは宝月 仁ではなく、俺が思うことだが……」

 

そう言ってグレイグは腰のカードホルダーからデッキを取り出す。

ここにいる3人が見たことが無いグレイグのデッキ。

 

「さっきも言ったがデッキは決闘者のもう一つの”魂”だ、デッキには自分の魂がこもっている。 ……なら、デッキだって持ち主の勝利を望んでいるはずだ……デッキだって勝ちてぇのよ」

 

「!」

 

 

カードだって負けたくない、上手く使ってくれなきゃそりゃ懐かないさ

 

 

遊伸はグレイグの言葉に驚き、目を見開いてグレイグを見る。

子供の時に父親から言われた事と同じ様な言葉だったからである。

 

「で、何が言いたいのかと言うと……あ~、やっぱり宝月 仁の様にはいかねぇな……分からなくなった、忘れてくれ。 それじゃあな」

 

グレイグは病室を出る。

 

「おい! グレイグ! …ったく何が言いたかったんだ?」

 

「…僕は何となく解った様な気がするよ」

 

「本当かよ……まあいいや、でもその前の話、俺も理解できたぜ……とてもグレイグがする話には思えなかったぜ…」

 

「私も……どうしちゃったの? 今日のグレイグ」

 

鋼貴と空が何気に失礼な事を言う。

今頃本人はくしゃみをしているかも知れない。

 

「ま、とにかく、グレイグ……と言うより宝月 仁の言う通りだ、デュエルに終わりはねぇ、焦らずじっくり考えてみろ、この事はお前自身で何とかするしかないからな」

 

「うん、解ってるよ、二人とも、今日はありがとう」

 

「どういたしまして! それじゃまたね遊伸! お大事に!」

 

鋼貴と空も病室から出る。

自分以外いなくなった病室で、遊伸は一人静かにデッキを見ていた。

 

「(そうだった……僕だけじゃない……カード達も勝ちたいんだ……僕はカードの為に勝たなくちゃいけない……その為にも、そして自分の為にも、強くなりたい…)」

 

遊伸は手の中でデッキを広げる。

 

「(デュエルの道、何時までも父さんにしがみついていたら先に進めないんだ……父さん、今までありがとう、これからは……自分の足で進んで行くよ、この道を…)」

 

 

 

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