遊戯王~Truth of Satellite~   作:鬼柳高原

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*デュエル前の前置きが長くなったと思ったのでデュエルパートを次話に分けました。 なので今回はデュエルがありません。 ご了承ください。


第18話 探求 ~決闘者とデザイナー~

デュエル研襲撃事件から一週間後 シティ内陸部 マーシャル・レッド事務所

 

時間は朝の8時、遊伸は事務所のテーブルにカードを広げていた。

どの様にデッキを組めば良いのか、遊伸は入院中、そして退院してからもずっと考えている。

何しろ今まで一度も考えなかった事だ、遊伸のデッキ作りは難航していた。

 

「う~ん…」

 

遊伸がカードを見ながら唸っていると、鋼貴と空がやってくる。

鋼貴が遊伸に声を掛ける。

 

「おう遊伸、相変わらず悩んでるようだな」

 

声を掛けられてから2秒程に遊伸が気付いて顔を上げると二人に挨拶をする。

 

「や、やあ2人とも、おはよう」

 

「…退院してからずっとこんな感じのやり取りじゃない? 根を詰め過ぎだよ遊伸……」

 

空が呆れた様にそう言うと、遊伸は面目無さそうに頭を掻く。

この所、遊伸は仕事中でも上の空である事が多い。

 

「…前にも言ったけどな、焦るなよ。 焦ったっていいデッキは出来ないぜ」

 

「…一度考え出したら止まらなくて」

 

遊伸の言葉に鋼貴は溜息を吐くと、遊伸が広げているカードに目をやる。

横にはカードだけではなく、レシピ制作の為のメモと筆記用具も置いてある。

 

「どれ、ちょいと見せてくれよ。 何か手助け出来るかもしれないからな。 空も一緒に見てくれ」

 

「うん」

 

「助かるよ、これが今作ってるレシピなんだけど……」

 

そう言うと遊伸はメモを鋼貴と空に見せる。

どうやらまだ未完成で、今は以前のデッキから引き続き使用するカードを抜き出したのみの様だ。

鋼貴はその内容を見て一つの疑問を口にした。

 

「…お前、まだX-セイバーを使うつもりなのか?」

 

「え!? そ、そのつもりだけど……どうして…?」

 

鋼貴の思わぬ言葉に動揺する遊伸。

 

「いや、まあ珍しいカードだし、お前にとって思い入れがあるのは解るけどよ……でも、パッとしないだろ? 特に最近は……」

 

鋼貴の言いたい事は遊伸も解っていた。

X-セイバーには幾つかの欠点がある。

まず一つは一部のX-セイバーの扱い辛さ。

メリットとデメリットを併せ持つアタッカーのガラハド。

戦闘耐性を持つがLPが毎ターン削られるデメリットウォールのパシウル。

効果の使い所が難しいウルズとアクセル。

シンクロモンスターであるウェイン、ウルベルムは強力な効果を有しているがレベル相応の攻撃力を持たない。

ソウザは両方を備えているが、効果の使用と召喚素材に条件を持つ。

遊伸のデュエルを見ると最近ではこれらのカードよりも制限も無く扱いやすいスターダストドラゴンやセブン・ソード・ウォリアーを多様していることからも扱い辛さが分かる。

さらに遊伸が使用しているデッキは戦士族が中心となっている為、戦士族以外の種族が多数存在しているX-セイバーが余計に扱い辛い。

鋼貴はこのX-セイバーを使い続けるよりも、自分が機械族で固める様にいっその事戦士族で固めた方が良いのではないかと思っていた。

 

「そうだけど……でも、僕はX-セイバー達は外したくはないんだ……」

 

父への拘りは捨てたが、X-セイバーへの拘りを捨てない遊伸。

高尾がVWXYZを捨てない様に、既にX-セイバーは”自分にとって譲れない拘り”となっていた。

 

「そうか……でもそれだと難しいな……」

 

「私思ったんだけど……もしかしてX-セイバーってまだ未完成のシリーズなんじゃないかな?」

 

遊伸のカードをじっと見ていた空が突然そう言った。

X-セイバーの扱い辛さがそんな根本にあると思っていなかった遊伸は動揺しながら空に聞く。

 

「え!? ど、どういうこと?」

 

「デュエルモンスターズのカテゴリシリーズにはそれぞれ何かしらの特徴があるでしょう? でもX-セイバーにはその特徴が見当たらないの」

 

空の言う通り、空のガスタなら墓地からモンスターをデッキに戻して効果を使用する、鋼貴のガジェットなら同カテゴリのモンスターをサーチする、獏葉のリアクターなら特定の行動に反応してダメージを与えるまど、カテゴリシリーズにはそれぞれの個性がある。

しかしX-セイバーにはX-セイバーというカテゴリ特有の個性が見当たらない。

名前や属性はともかく、個々の効果や種族の統一性は少ない、全体の攻撃力が高い訳でもない。

強いて言うなら緊急指令やウェインによる展開力があるが、それでもカテゴリの長所とまでは行かない、中途半端なのだ。

 

「きっとまだ完成してないの、特徴を付けてないから。 X-セイバーって珍しいカードでしょ? 遊伸が使うまで私も鋼貴も知らなかった位だし、普通に売ってる様なカードじゃないでしょ? だから私思ったの、もしかしたらX-セイバーって世に出る前に、そして完成する前に遊伸の手に渡ったんじゃないかな、って」

 

「そうか! それなら納得出来るぜ! 見たことねぇカードだったしな!」

 

鋼貴は納得した様子だったが、遊伸はそうではなかった。

遊伸はデュエル関連で珍しく空に反論する。

 

「でもそれだと一つ疑問があるよ」

 

「どうして? 何なの?」

 

空が首を傾げて聞き返す。

 

「名前さ、X-セイバーって言うのはね、「十の剣」、転じて「十人の剣士」って意味なんだ。 つまり、名前通りならもう完成してしまっているんだよ、X-セイバーは……」

 

「ええ!? そうだっけ? ええと……アクセル、アナペレラ、ウェイン、ウルズ、ウルベルム…」

 

空は指を折りながら思い出す様に数える。

 

「エアベルン、ガラハド、ソウザ、パシウル、パロムロ……ホントだ、もう全員揃ってる~…」

 

空は気落ちした様に肩を落とす。

 

「…それに扱い辛い原因が分かっても、このX-セイバーを使い続けるなら分かったところで何の意味もないな……」

 

鋼貴の言葉に3人共沈黙する。

すると突然事務所にある電話が鳴り響く。

普段はリーダーであり、所長のグレイグが電話に出るのだが、今日は珍しくグレイグは一人で仕事に出ている為、鋼貴が変わりに受話器を取りに行く。

 

「おっと……仕事か? …よっと、はいもしもし、こちらマーシャル・レッド事務所」

 

鋼貴が電話に出ると知り合いだったのか鋼貴の声の調子が変わる。

 

「あれ? マイルさんじゃん、どうしたのさ、また強盗?」

 

電話の主はデュエル研所長、コンラード・マイル。

一週間前のデュエル研襲撃事件以来である。

 

「はあ……分かりました、二人にも伝えますよ、それじゃあ……」

 

鋼貴が電話を切ると二人の方を向いて電話の用件を伝える。

 

「デュエル研のマイルさんから依頼だ、詳しくはあっちでだと」

 

「マイルさんから? 今度は何だろう?」

 

机のカードを片付けながら遊伸が言う。

 

「少なくとも強盗じゃねぇみたいだけどな、因みに俺たち三人指名だ、行こうぜ。 …ロートン! 留守番頼むぜ!」

 

鋼貴が奥で事務仕事をしているロートンにそう声を掛ける。

おーう、と奥から聞こえると三人は決闘盤を身に付けてデュエル研へと向かった。

 

 

* * *

 

 

シティ内陸部  治安維持局  デュエルモンスターズ研究所

 

遊伸達がデュエル研に着くとまた入り口前でマイルが出迎える。

 

「やあ! 待ってたよ! よく来てくれた!」

 

「あれ? マイルさん今日ちゃんとしてるね」

 

空が慌てて走り寄って来るマイルの顔を見てそう言う。

一週間前はボサボサ髪の無精髭だったのが今日は髪を整え、髭も剃っている。

 

「ああ、一週間前の事件の件で連日セキュリティや治安維持局のお偉いさんに会ってたからちゃんとしなくてはいけなくて……ってそんな事言ってる場合じゃなかった!」

 

「一体何があったんです?」

 

遊伸がマイルにそう聞くとマイルが紙の束を取り出して遊伸達に見せる。

それは企画書の様な物に見えた。

 

「何だこりゃ」

 

「海馬コーポレーションで新しく発売する新パックの企画書さ」

 

「へぇ~新しいの出るのか! …て、俺達にそれ言っていい事なのか?」

 

鋼貴にそう言われるとマイルはしまった、といった顔をした。

相変わらず口が軽い様である。

 

「…こ、この際いい! で、その新パックに収録する為のカード制作をうちで頼まれてて、もうすぐ作ったカードを納品しなくちゃいけないんだけど……実はまだ一部のカードが出来上がってないんだ……」

 

「どうして一部だけ? 他は完成してるんですか?」

 

遊伸がマイルにそう聞くとマイルがその理由を答える。

 

「うちのカードデザイナーは複数人いて、それぞれでデザインするカードを分担しているんだ。 で、あるデザイナーがその出来てないカードのデザインを担当していたんだけど……スランプになってしまった様で……それが原因なのか彼がこのデュエル研から脱走してしまったんだ!」

 

「だ、脱走!? …と言う事は僕達はその脱走したデザイナーさんを探せばいいんですか?」

 

「ああ、その通りだ!」

 

遊伸の問いにマイルが力強く頷く。

 

「でもよ、逃げ出した奴に描かせようとしても無理なんじゃねーか? いっその事代わりの奴用意するのは駄目なのか?」

 

鋼貴がマイルにそう言うと、マイルは首を横に振りながら駄目だと言う。

 

「彼は特別なデザイナーなんだ! 今回だって海馬コーポレーションはデザイナーに彼を指名してきている! それに彼が描かないと君も困ると思うよ鋼貴君!」

 

「ええ? 何でだよ?」

 

鋼貴は怪訝そうな顔をする。

 

「脱走したデザイナーは友河 士郎(ともかわ しろう)君なんだ」

 

「ま、マジかよ!?」

 

鋼貴が仰け反る様に驚く。

そんな鋼貴を見て遊伸は空に聞く。

 

「ねえ、友河 士郎ってどんな人? 鋼貴の様子だと凄い人みたいだけど…」

 

「友河さんはね、凄く有名なデザイナーさんだよ。 もう20年近くカードデザインをしてるベテランさんで、主に機械族をデザインする人だよ」

 

「今回、彼が担当しているのも機械族だよ」

 

空とマイルの言葉を聞いて鋼貴の様子を納得する遊伸。

 

「い、急いで探すぞ! 新パックに機械族が入らなくなるぞ!」

 

鋼貴は踵を返して探しに飛び出す。

 

「あ! 待ってよ鋼貴!」

 

空はそう言って鋼貴を追いかけていく。

遊伸も続こうとするとマイルに呼び止められる。

 

「遊伸君待つんだ! 君は彼の顔を知らないだろ! これを持って行くんだ!」

 

マイルは遊伸に友河の顔写真を渡す。

 

「そ、そうだった! ありがとうございます!」

 

「頼んだぞ!」

 

 

* * *

 

 

シティ内陸部 中央広場

 

遊伸達は三手に別れ、友河を探していた。

あれからかなりの時間が経った。

デュエル研を出た頃はまだ朝だったが、今ではもう昼下がりである。

 

「どこにいるんだろう……ん?」

 

遊伸が前方をよく見ると子供の人だかりが出来ている。

その中心にはデュエルシートを敷き、二人の子供が向かい合ってデュエルをしている。

そしてその横で場を指差しながらデュエルを教えている男がいた。

 

「ここをこうして……ほら! 君の勝ちだ!」

 

「そっか~こうしてれば良かったんだ~悔しいな~」

 

「ずるい! 僕にも教えてよ!」

 

遊伸は顔写真を見る。

黒く短い髪、年は30代後半であり、そしてもうすぐ40歳には見えない様な童顔をしている。

そこにいる男は友河 士郎に間違いなかった。

遊伸は近づき、声を掛ける。

 

「あの、友河 士郎さんですか?」

 

友河は遊伸に気付き、頭を上げ、立ち上がる。

 

「はい、そうですが……」

 

「僕はデュエルチーム、マーシャル・レッドの近衛 遊伸と言う者ですが……」

 

遊伸は自分の事や依頼された事を話した。

話が終わると友河は観念した様に息を吐く。

 

「ご迷惑を掛けて申し訳ありませんでした……依頼料の方は私が払わせていただきます。 戻りましょう」

 

意外な事に友河はあっさりと戻る事を承諾した。

 

「え……いいんですか? 何か訳があったんじゃ……」

 

「いや、衝動的に飛び出してしまったんです……それで取り合えず気晴らしに外をブラブラしていたら……こんな事してました」

 

友河は子供達に手を向ける。

 

「ねえおじさん、どうしたの? もっとデュエル教えてよ!」

 

子供達が友河に教えを催促する。

 

「すまない、私はもう行かなくてはならないんだ。 次に会った時に教えてあげよう」

 

えー、と不満の声を上げる子供達を宥め、遊伸と友河はデュエル研に戻った。

 

 

* * *

 

 

シティ内陸部  治安維持局  デュエルモンスターズ研究所

 

「どこ行ってたんだい友河君! 心配したよ!」

 

「この大事な時に申し訳ありませんでした……」

 

遊伸は鋼貴と空に連絡して合流し、全員で友河を連れて戻って来ていた。

駆け寄って声を掛けるマイルに友河は頭を下げる。

 

「いや、こちらこそ君の負担を考えていなくて申し訳なかった! だが今度から出かける時は一声掛けてくれよ! 気晴らしくらい工面する! 私は度量の狭い男ではないからな!」

 

「ありがとうございます所長……」

 

再び頭を下げる友河。

 

「ああ! …だが今回は本当に時間がない……気晴らしでスランプの方は何とかなったか?」

 

「……残念ながら、未だに直りません……どうしてもアイディアが浮かばなくて……まだうまく描けません」

 

「ううむ…そうか……」

 

マイルが残念そうに唸る。

 

「…帰りたくないとか言われずにあっさり連れ戻せたのはいいけどよ……描けないんじゃ意味がないぜ……」

 

「どうしよう……何かいい方法ないかな……」

 

鋼貴は両手を挙げ、空は頭を捻って考える。

すると遊伸が前に進み出て友河に提案をする。

 

「友河さん、僕とデュエルしてみませんか?」

 

遊伸の言葉に全員が驚く。

 

「ゆ、遊伸君!? こんな時にデュエルをしてどうするんだ?」

 

至って真剣な顔な顔の遊伸にマイルが聞く。

 

「こんな時だからこそ、だと思うんです。 友河さんのスランプの原因は誰にも解らない……だからここで話し合っていても仕方ないと思います。 それに……宝月 仁曰く、デュエルは口以上に物を語る……だったよね、鋼貴」

 

「ああ……そう言えばグレイグがそう言ってたな」

 

遊伸が鋼貴に振ると、鋼貴は思い出す様にして言う。

遊伸が最初に聞いた宝月 仁語録だ。

 

「僕はこの言葉、本当にそうだと思います。 僕はこれまで色んな人とデュエルして、その都度多くのことを学んで来ました。 デュエルは色んな事を教えてくれます! もしかしたら、今回もデュエルすれば何か分かるかも知れません……どうでしょう、友河さん」

 

友河は考える様に目を閉じる。

そして目を開け、遊伸に言う。

 

「…やってみよう、近衛さん、よろしくお願いします」

 

「はい! あ、それと僕は年下ですし、敬語は使わないでください、呼び名も遊伸でお願いします」

 

「分かった、遊伸君、お願いするよ」

 

こうして二人はデュエルする事になった。

遊伸がデュエルを申し込んだのは友河の為だけではなく、自分の為でもあった。

遊伸も現在、壁にぶつかっている。

遊伸も答えを見出したいのだ。

二人が答えを出せるかどうかは、このデュエルに掛かっていた。

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