遊戯王~Truth of Satellite~ 作:鬼柳高原
デュエルに勝利した遊伸。
緊張が解け、その場に膝をつく。
「(…勝った……あの鋼牙さんに……ありがとう……僕のデッキ…)」
遊伸は鋼牙の方を見る。
何と鋼牙は拘束装置の最大出力を受けたのにも関わらず、立ち上がろうとしていた。
「ぐっ……くう……」
「そ、そうだった! 拘束装置が……鋼牙さん!」
遊伸が立ち上がり、走り寄ろうとするのを鋼牙は腕で静止する。
「大丈夫だ……拘束装置で倒れるほど柔な鍛え方はしていない……」
鋼牙はゆっくりと立ち上がる。
鋼牙は遊伸に向かい合い話す。
「もう何度目か分からんが、言わせて貰う……見事だ、近衛 遊伸。 完敗だ……学ばせて貰ったぞ、俺はまだまだだ……」
「鋼牙さん……僕も同じです。 鋼牙さんのおかげでまた一つ、強くなれました」
遊伸はそう言って両手を差し出す。
「……楽しいデュエルをありがとうございました、覚悟は示した通りです、僕を捕まえてください」
鋼牙は暫く遊伸の両手を見つめた後、背を向ける。
「鋼牙さん…?」
「俺はあの時、先代隊長の言いつけを破り、セキュリティとしての自分ではなく、一人の男としてお前に勝負を挑んだ……お前が戦ったのはセキュリティではない、セキュリティではない男がどうしてお前を逮捕出来る?」
「こ、鋼牙さん……でも」
するとパイプラインの先から走ってくる足音と遊伸を呼ぶ声が聞こえてくる。
「遊伸! 大丈夫か!」
何と正志が引き返してきたのだ。
遊伸は驚いて声をかける。
「ま、正兄!? どうして戻って……」
「遊伸! 俺にとってもお前は家族だ! なら捕まる時だって一緒だ! お前が一人で捕まるなんて俺には……って……あれ……?」
正志は今の遊伸達の状況を見る。
相手のセキュリティは満身創痍の様子。
対して遊伸はそれほども無い。
正志は予想もしていなかった状況に目を白黒させる。
「え……どういう事?」
状況を飲み込めない正志。
鋼牙は振り向き、正志に突然声をかける。
「小谷 正志」
「は、はいぃ!?」
突然セキュリティに話しかけられ、驚いて返事の声が裏返る正志。
「2つだけ聞かせろ、まず一つ目、大半のお前の仲間はお前の事を売った、だが一部の奴は「異様な様子のライバルチームのリーダーとデュエルした近藤 武雄がデュエル後倒れ、死亡し、ライバルチームのリーダーは逃走した」……そう言っていた、お前はどうだ?」
鋼牙がそう聞くと正志は必死に頷く。
「! そ、そうだ! 俺はやってない! その通りだ! リーダーが突然死んじまったんだよぉ!」
「そうか……では二つ目、そのデュエルを見ていたな? その時、異様な様子の相手と同様、そいつは異様なカードを使っていたか? 一言で言えば”形容し難いカード”だ、どうだ?」
鋼牙がそう問いかけると思い当たるのか正志は跳びあがる。
「そう! その通り! 変なモンスターだ! それのせいでリーダーが負けちまったんだ!」
「そうか……よく解った」
鋼牙は何かを確信したように頷くと、バイクに跨り、ヘルメットを被る。
「近衛 遊伸、次はセキュリティとしてお前に勝つ! ……これからも鋼貴とよろしく頼むぞ、さらばだ!」
そう言うとバイクを発進させ、元の道を引き返していく。
「鋼牙さん…」
遊伸は感謝の念を込めてその背中を見送る。
「えっと……俺達、助かったのか?」
正志は遊伸にそう尋ねる。
何が何やら、そんな表情だ。
「うん、助かったんだよ正兄。 ……とりあえずこのままサテライトに向かおう」
* * *
翌日 シティ内陸部 マーシャル・レッド事務所
「……という訳だったんだ」
「……まさか兄貴に勝っちまうとは……」
遊伸はサテライトから戻り、昨日の事を鋼貴達に話していた。
「鋼貴のおかげだよ、鋼貴からアームズ・エイドを交換して貰ってなかったら今頃僕は刑務所にいたと思うよ」
「…いや、そこまでの結果に持ち込めたのはお前の力だ、俺はタダのきっかけだ! もっと誇れよ! あの兄貴だぜ! …本当にすげぇよ遊伸、最初は俺より弱かったのに……お前はどこまで行くんだろうな」
鋼貴は少し寂しそうに呟く。
「こ、鋼貴…」
「おっと、気にすんな! 俺がモタモタしてたのが悪いんだ……よし! 遊伸! 今からお前が俺の最大の目標だ! お前もモタモタしてたらすぐに追いついてやるからな! 覚悟しておけ!」
鋼貴が笑ってそう言うと、遊伸も釣られて笑う。
「分かったよ鋼貴! 負けないぞ!」
鋼貴と遊伸が笑い合う。
本当は悔しくないはずは無い。
だが鋼貴が幼い頃から兄を追うことで持ち続けた向上心は、こんな事では折れはしない。
ここが鋼貴の強いところである。
「あーズルイ! 二人で青春してる! 私も混ぜてよ~それに鋼貴は遊伸の前に私でしょ~」
自分が蚊帳の外の様に感じた空は二人の間に入って文句を言う。
「あーそうだったな、でももしかしたら俺空に追いついてるかもな! この間スピードデュエルで俺空に勝ったしな!」
鋼貴は得意げに言う。
スピードデュエルとは普通のデュエルを簡略し、手軽に出来るようにした物。
遊伸達は仕事の合間やちょっとした時間が出来ると何時もやっている。
「だって私スピードデュエル苦手なんだもん!」
「ほーう? アカデミアで習わなかったか? ルールが変わろうとも、決闘者なら文句を言わずに臨機応変に対応せよ、中等部で習うはずだぜ? 高等部からの俺ですら知ってるのに、差がついちまったなァ、空」
「あーーー言ったね!!! もう怒った! 鋼貴デュエル! ギャフンと言わせちゃうからね!」
空は決闘盤からデッキを取り出してテーブルに置く。
「おーやるか? 遊伸、デュエルシート貸してくれよ、あれ使いやすいんだ」
「いいよ、はい」
鋼貴は遊伸からデュエルシートを受け取るとテーブルに敷き、空とデュエルを始める。
遊伸はコーヒーでも淹れようと立ち上がるとグレイグに呼び止められる。
「おう遊伸、そういえばあいつは結局どうするつもりなんだ?」
遊伸は自前のマグカップを取り出しながら答える。
「正兄ですか? 正兄はほとぼりが冷めても、シティには帰らないでサテライトに残るそうです。 サテライトで暫くどうするか考えて、答えが出るまでは孤児院の手伝いをするって言ってました」
遊伸がそう話すとグレイグは鼻で笑う。
「俺はずっとそこにいることを勧めるがな、あいつは適応力はあるみてぇだが、その分録に考えてないみたいだからな、シティに来てもまた同じ様な事に巻き込まれて泣きついてくるに違いねぇ」
遊伸は反論しようにも、グレイグの言う通り、正志は昔からそうだった。 遊伸はその事をよく知っているので何も言えずに苦笑いしていた。
何とか擁護しようとして言葉を見つける。
「……グレイグさんの言う通りですけど、多分大丈夫ですよ。 正兄だって今回凄く反省してましたし、もし正兄が今度シティに来る時には、正兄が道を外れないように僕が何とか導いてみますよ」
「あんまり甘やかすとつけ上がるぞ……」
グレイグが呆れた様に溜息を吐く。
遊伸はコーヒーを淹れながら昨日の事を考える。
ランディの事件と今回の事件の類似性。
そして鋼牙が正志に聞いた事、”形容し難いカード”とは?
鋼牙は今回の事件とランディの事件の繋がりについて、何か知っているのではないか?
今の遊伸には知る術はなかった。
前回がかなり長くなったのでデュエル後を分けたんですけど、思ったよりデュエル後が短くなってしまいました。
今度からはちゃんと調整するようにします…OTL