遊戯王~Truth of Satellite~ 作:鬼柳高原
シティ内陸部 マーシャル・レッド事務所
「これで最後だ!」
「ぐぁあああ!」
LP:3000→0
目の前のテレビに映っているデュエル。
マーシャル・レッド5人はソファーに座り、その映像を見ていた。
相手に止めをさしたのは今や故人のアーノルド・フラナガン。
高らかに腕を上げ、その後相手に指を突きつける。
「俺は負けん! このアーノルド・フラナガン、誰の挑戦でも受ける! 俺の栄光のロード、誰にも止められはしないのだ! ハッハッハッハッハ!」
アーノルドがそう言うと、エンディングとスタッフロールが流れてくる。
空が拍手しながら息を洩らす。
「はぁ~……面白かったね!」
今テレビで放送されていたのは映画「ロード・オブ・ザ・キング」、決闘王であり、兼業で映画俳優でもあったアーノルド・フラナガンが主演であり、自らのキングとしての戦いを描いた映画作品である。
今日、8月31日はアーノルド・フラナガンが決闘王の称号を手にした日であり、特別追憶番組としてこの映画が放送されたのである。
「凄いな……これがキングのデュエルか」
遊伸が感嘆の声を洩らす。
「まあストーリーは一部創作したもんだが、デュエルは実際の物を使っているらしいぜ。 …でも遊伸、驚いてる様だがお前の方がアーノルドより強いだろ」
鋼貴が遊伸の肩を突きながら言う。
「え!? 何で僕がキングより……」
「そりゃお前、アーノルドを倒したランディを倒した兄貴を倒したんだからな、お前の方が強いだろ?」
鋼貴がにやけながらそう言うと、遊伸は頭を振る。
「そうとは限らないよ、相性とか……」
「謙遜すんなよ! コノー!」
鋼貴は遊伸の頭を力強く撫でる。
「あいたたた! 鋼貴強い強い!」
「強いのはお前だろ~」
二人がじゃれているとロートンが低い声で呟く。
「しかし、随分と決闘王も色物になったもんだ……デュエルに専念してれば殺される事も無かったんじゃないか?」
アーノルドが決闘王であった期間は8年、歴代キングでも最長である。
それなのに宝月 仁の影に隠れるのは、おそらく彼のデュエルに対する姿勢のせいだろう。
映画俳優、それだけでも多くのファンがいたことだろう。
しかし、真剣にデュエルに打ち込んでる者にとっては面白い話ではない。
デュエルに全力を注がなくても、決闘王であり続けることが出来るのである。
その才能を褒め称える者もいたが、やはり決闘者からの支持は少なかった。
決闘者からの支持だけならテオドール・ハイドフェルドの方が上かもしれない。
アーノルドがランディに殺害されたのも、ランディがアーノルドを妬んだから、と世間では言われている。
「そうだなぁ、俺もアーノルドって何か好きになれねぇんだよな、スカしたナルシストで態度もでけぇらしいしよ、スキャンダルも多かったしな……妬ましいとかじゃねーぞ」
遊伸をようやく解放し、腕を組みながら鋼貴が言う。
「確かにな……弟とは正反対だな」
鋼貴の言葉にグレイグが頷く。
グレイグが言った弟とは、アーノルド・フラナガンの弟、ユアン・フラナガンのことである。
一度兄を殺したランディの捕縛の件について、マーシャル・レッドに依頼をしに来たことがある。
ふとロートンが時計を見る。
時間は午後11時。
「おい空、こんな時間までここにいていいのか? 明日から学校だと言っていただろう?」
ロートンが空にそう言うが、空は平気な顔をしている。
「大丈夫! そんな事もあろうかと……じゃん!」
空はそれなりに大きなカバンを取り出す。
「……何でそんな大荷物持って来てるんだと思ったら……泊まる気か?」
「うん! この映画、私も皆で見たかったし、遊伸達もこの時間じゃもう帰らないでしょ? 寮には朝早く戻れば大丈夫だし、だからいいよねグレイグ!」
空がグレイグに了承を求めると、グレイグは呆れた顔をする。
「……こんな男だらけの場所に泊まるのかお前は……間違っても他所でそういうことするんじゃねえぞ、分かったな……空は空き部屋使え、遊伸、鋼貴、お前等はここで寝ろ」
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翌朝5時、空はアカデミアへと向かおうとしていた。
朝の早い遊伸と、それにつられて起きた鋼貴が見送る。
「忘れ物はないかい?」
遊伸がそう尋ねると空は元気よく頷く。
「それじゃイテキマース!」
「何だその言い方……」
鋼貴が突っ込みながら空の背中を見送る。
鋼貴は見送り終わると欠伸をする。
「さて、もう一眠りするか……」
鋼貴は事務所の中へと戻って行く。
遊伸はふと思った。
「(そういえばアカデミアを僕は暗がりの中でしか見たことなかったけど、どういう所なのかな)」
* * *
シティ内陸部 デュエル・アカデミア
空は急ぎつつ、こっそりと女子寮へと戻った。
アカデミア女生徒の赤いブレザーへと着替え、寮長に挨拶をする。
「あら、西野さん何時戻って来ていたの? アルバイトで遅くなるから夕食は要らないと聞いてたけど……戻って来ていたなら声を掛けていってね」
寮長の言葉に空は右手を後頭部に回してぎこちなく笑う。
「あ、あはは……すいません、部屋に戻ったらすぐ寝ちゃって……挨拶忘れちゃいました」
「お家の事情は解っているから、遅くまでのアルバイトを許してはいるけど、出来るだけ遅くならないように」
「はい、解りました…」
一応、空は教師達の間では優等生で通っているので、夜遊びをしていると疑われたりはしない。
空はそれを理解した上で遅くまで外に出ているので、この様なやり取りをする度に少しだけ罪悪感を感じる。
空は朝食を食べ、登校の時間まで適当に時間を潰した後、校舎へと向かった。
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空が校舎へ向かう道中、見知った後姿を見つける。
身長は空より額一つ分高い。
空と同じ赤いブレザーを着ていて、長い黒髪を左右に揺らしながら歩いている。
空は後ろから近づいて大声で挨拶をする。
「おはよー! 久しぶり雪ちゃん!」
雪ちゃんと呼ばれた女生徒は一瞬体を震わせると後ろを向く。
「……びっくりした、おはよう空」
彼女の名前は
空の中等部からの同級生であり、友人グループの一人である。
優秀な生徒であり、デュエルの実力も学年ではトップクラスに入る。
「雪ちゃん夏休みどうだった?」
「そうね、あまり遠出とかはしなかったわね、あなたが出てた大会を見に行ったくらいだわ」
「え!? 見に来てたの?」
雪江の言葉に空は驚く。
「ええ、ちょっと気になったから……空が前に言ってた近衛 遊伸、凄かったわね」
「でしょ! 驚いた?」
空が笑いながらそう聞くと、雪江は勢いよく言葉を返す。
「そりゃ驚いたわよ! プロ候補生の桐原先輩を倒しちゃうし、私でも勝てない中等部首席のあなたまで倒しちゃったのよ! …上には上がいるのね」
雪江は頷きながら腕を組む。
そしてここから、といった感じで右手の人差し指を立てる。
「それと桐原先輩とのデュエル……決闘者として尊敬に値するわ。 …晴男辺りにも見習って欲しいわね」
雪江がそう言うと空は噴出す。
「あはは! そうだね! …あ、そうだ! 私最近デッキを大幅に改造したの! 今日は始業式だけだし、放課後に一戦やらない?」
空が雪江にそう持ち掛けると、雪江は一瞬凍りつき、空に言う。
「…空、もしかして今日始業式の後にある小等部への高等部生講義、その担当が私達のグループだって忘れてない?」
雪江が空にそう言うと、空も一瞬凍りつき、暫くして口を開く。
「…忘れてた」
「…もしかして空、その講義内容を考えて来るのを引き受けたのがあなただって事も忘れてる?」
「…それは忘れてない、でもその内容を書いたノートを忘れてきちゃった」
雪江がため息をつく。
「…今からなら間に合うわ、急いで寮に取りに行ったら?」
雪江がそう言うと、空は頭を振る。
「…違うの、寮に忘れたんじゃなくて……」
* * *
8:45 シティ内陸部 マーシャル・レッド事務所
遊伸と鋼貴はグレイグとの朝の連絡を済ませ、事務所の応接間でくつろいでいた。
「せっかくカイザーになったっていうのに、意外と来ないもんだな、依頼。 まあ楽でいいか」
鋼貴がソファーに寝転がりながらそう言う。
「僕達が楽かどうかはともかく、依頼が来ないのは平和な証拠さ、良い事だよ」
遊伸は本を読みながら鋼貴に言う。
読んでいる本の表紙には「「それはどうかな」と言えるデュエル哲学」と書かれている。
「何言ってやがる! 依頼が来なきゃ俺たちがおまんま食い上げになるんだぞ! まったく……」
「す、すいません……」
グレイグが遊伸を叱り付けると事務所の奥へと行ってしまう。
「ま、いいじゃねーの、うちがカイザーなんだし、何かありゃこっちに回ってくるだろ……さて、遊伸、このまま依頼来なきゃデュエル研に行こうぜ」
鋼貴が起き上がり、遊伸にそう言うと遊伸も頷く。
デュエル研に行くのは、数日前にあった闇のカードの件について報告する為である。
板垣とデュエルし、月子と会ったあの後、報告の為にデュエル研に向かったのだが、その時マイルは出張しており、報告する事が出来なかった。
そして昨日戻ってきたとの連絡があったので、今日会いに行こう、という訳である。
「何時に行こうか……ん?」
遊伸はふと目の前の応接テーブルの下の棚に目をやると、一冊のノートが置かれているのを見つける。
「何だこれ……あ! 空のノートだ!」
「忘れていったのか? どれ見せてみろよ!」
鋼貴が遊伸の腕からノートを引っ手繰り、ページを捲る。
「あ! 勝手に見ちゃ駄目だよ人のノートを……」
遊伸が横でそう言うと、鋼貴はその内容を見て懐かしそうに言う。
「こりゃ高等部生講義の計画書だぜ、懐かしいな、俺もやらされたぞ。 決闘者足る者、デュエル位教えられるようになれ、みたいな事言われてな」
「? それって何なの」
遊伸がそう言うと、鋼貴が説明する。
「大変だ! 届けなきゃ!」
「そうだな、あれ結構重要なんだぜ」
高等部生講義にはアカデミア外の第三者の審査員を招き、講師役の生徒に評価をつける。
少しでも講義の流れが滞ると減点、時間通りに終わらなければ減点、内容が悪いと減点など、その評価はかなり厳しい。
その代わり資料などの持込は許可されている。
鋼貴によると、しっかりと用意しておけばそこまで苦戦もしないという。
「? 審査ってアカデミアの先生じゃ駄目なの?」
遊伸が当然の疑問を鋼貴に言う。
「何でも昔、生徒と教師の結託があったらしいぜ。 それを防ぐ為らしいな……って、届けるんだったらもう急いだ方がいいぜ、今は8時50分、始業式真っ最中、そして終わるのが9時、始業式が終わり次第に第1グループの講義が始まる。 このノートによれば空は第1グループだ」
「ええ!?」
想像以上に時間が無い事に驚く遊伸。
「お前が全力出して走ればおそらく9時に間に合うぞ」
「わ、分かった! 行ってきます!」
遊伸は事務所の扉に向かって走り出す。
「ああ! マイルさんとこには代わりに行っといてやるから安心しろ!」
鋼貴がそう言う頃には遊伸は扉を開けて外に出ていた。
しかしちゃんと聞こえていた様で、外から「ありがとう」という声が聞こえてきた。
「…でも空ならアドリブで何とかなりそうだがな……」
鋼貴は遊伸が出て行った扉を見ながらそう呟いた。
* * *
8:15 シティ内陸部 デュエル・アカデミア 校舎内
空は雪江と共に教室へ向かっていた。
「…まあ無い物は仕方ないし、内容は一応覚えてるんでしょ? アドリブで行くしかないわよ」
「うん……ごめんね」
「気にしないで、空らしくないぞ! きっと皆も気にしないし、覚えてる内容教えてくれれば私もフォローするからさ!」
しょげている空を雪江が慰める。
「…そうだね、ありがとう! 皆で頑張ろうね!」
空がいつもの笑顔に戻る。
雪江も笑って返す。
そうこうしている内に教室へと辿り着く。
「おはよう!」
「うおぉぉぉん! アーノルドォォォ!!!」
空が元気よく教室に入って挨拶すると、飛んできたのは泣き声。
「ちょっと! 何!?」
雪江が空の後ろから今の泣き声を聞いて何事かと顔を出す。
空と雪江の元に、眼鏡を掛け、赤みのかかった髪を肩まで伸ばした女生徒がやってくる。
「空、久しぶり、雪江もおはよう……もっと静かな場所で再会したかったわ……」
「あ! 愛ちゃん久しぶり! どうしたの雷蔵? あんなに泣いて……」
彼女の名前は
空の友人グループの一人である。
彼女は決闘者ではなく、デザイナー志望であり、基本的にはデュエルをしないが空達決闘者とは仲がいい。
本人曰く「デュエルはカードイラストと同じで見てる方が楽しい」とのこと。
久しぶりに友人である空と再会したというのに、その顔はうんざり、といった様子であった。
そして朝から泣き喚いているのは青いブレザーの男子生徒、短く切った青い髪の頭を両手で抱えて机に両肘をついている。
彼の名前は
彼も友人グループの一人であり、自他共に認めるアーノルド・フラナガンの熱狂的なファンである。
将来はアーノルドの様な決闘者になり、そして決闘王のアーノルドと同じ決闘場に立つ事が夢であった。
一年前、アーノルドが死亡すると彼は毎日泣き喚き、立ち直るのが物凄く大変だったと言う。
そして今回、またあの時の様に泣き喚いている。
「カードじゃないけど、《悪夢再び》よ。 一年前も宥めるの大変だったんだから」
愛雨は雷蔵をうんざりとした顔で見ながら腕を組む。
「…読めたわ、昨日の映画見て思い出したんでしょ……」
雪江も一年前を思い出したのか、愛雨と同じ顔付きになっている。
「うおぉぉぉ!」
泣き喚いている雷蔵に空が声を掛ける。
「ほら雷蔵、泣き止んで、皆心配してるよ」
「うおぉぉぉん……何故……何故逝ってしまったんだ……これからだったではないか…おおぉぉぉ…」
空が話しかけてもまったく泣き止む気配がない。
「うーん……参ったね……あ、そういえば晴男と雲太郎は?」
空が愛雨に尋ねる。
「あの2人ならもう来てるわよ、今秘密兵器を買いに……あ、戻ってきた」
愛雨が教室出入口を見てそう言うと、2人の男子生徒が駆け足で入ってくる。
「待たせたな! …っと、おお! 空に雪江も来たか!」
「ま、待って……晴男……速いですよ……」
先に入ってきた男子は黒いボサボサした髪は重力を無視したように立っていてトサカに見える。
そして後から息を切らして入ってきた男子は小柄で身長も空達と殆ど変わらない。
彼らは
彼らを合わせて友人グループ全員である。
「ほら雷蔵! アーノルドのプロマイドだぞ! 予想した通り、昨日の映画に合わせて再販してたぜ!」
晴男が雷蔵の机に沢山のプロマイドをぶちまける。
雷蔵はそれを見るとようやく泣き止む。
「アーノルド……」
「そんなにアーノルドが好きなのかよ……」
晴男がそう呟くと、雷蔵が晴男に食って掛かる。
「何を言う! アーノルドこそ王者だろ! 男なら普通憧れるだろ!」
「解った解った……何度目だよこのやり取り……」
晴男は面倒な様子で雷蔵をあしらう。
「でも雷蔵が憧れるのも無理は無いですよ、何たってアーノルドは光属性の名手ですからね! 同じ傾向の決闘者を尊敬するのは自分にとって大きなプラスになるのは間違いないですよ」
雲太郎が人差し指を立てる。
雲太郎はデュエルの腕こそ並みだが、デュエルの知識や情報を多く有している理論派の決闘者である。
同級生に対して敬語を使っているのは、彼が真面目な人物だからという訳ではない。
本人曰く、「ため口と敬語を使い分けるのが面倒だし、それに普段から敬語の方が理論派に見えるから」だそうだ。
「そうだ! 雲太郎解ってるじゃないか!」
「うわわわ!?」
雷蔵が雲太郎の肩を思いっきり揺する。
「ようやく静かになったわね、それじゃ行きましょ、もう始業式の時間よ」
雪江が教室の時計を指差す。
時刻は8時25分、始業式は30分から始まるのでそろそろ式場の体育館に移動しなければならない。
教室にいた他の生徒は既に移動していた。
「あ、そうだね! よし、皆行こー!」
空がそう言うと6人は体育館へ移動を始めた。
* * *
9:00 シティ内陸部 デュエル・アカデミア 正門前
「はあ…はあ……着いた……」
遊伸はデュエル・アカデミアに到着した。
現在時刻は9時丁度、鋼貴の話では始業式が終わる時間である。
「(ギリギリか…? とにかく急がないと……入っていいのかな)」
遊伸が門の前で辺りを見渡すと、二人組の男が守衛に話しかけているのが見える。
「すいません、今回……えーと…」
「アニキ! 審査員ッス!」
「そうだそうだ! 講義の審査員で呼ばれた者ですが……あ、これ招待状です」
二人組のアニキと呼ばれた方が守衛に手紙らしき物を渡す。
この二人組、サングラスとマスクをつけた以下にも怪しい格好をしている。
守衛も最初は怪しんでいたが、手紙を見ると二人に来客用のパスを渡し、通してしまう。
「(何だあの二人……まあいいや、あそこで許可を貰うんだな)」
遊伸も先程の二人組の様に守衛に近づく。
「あの……すいません、自分はデュエルチーム「マーシャル・レッド」の者ですが、同じチームでアルバイトしている西野 空という生徒に忘れ物を届けに来ました。 なので中に入って届けたいんですけど……」
守衛は遊伸を疑わしいといった目で見る。
「…デュエルチームの? ライセンスをよろしいですか?」
「あ! はいどうぞ」
遊伸は慌てて守衛に自分のライセンスを渡すと、守衛は何かの機械にライセンスを読み込ませ、情報を引き出す。
「ん? あなた”カイザー”のメンバーですか?」
「え、あ、はい、カイザーの、マーシャル・レッドの一員です」
「何だ、それなら話が早い」
守衛は笑いながらライセンスと、首に掛けられる紐のついた来客用のパスを遊伸に渡す。
「カイザーのメンバーにはデュエル関連の施設に無制限の立ち入りが許可されています、覚えておいた方がいいですよ」
「そ、そうだったんですか……ありがとうございます(これが鋼貴や空が言っていたカイザーの特典か)」
遊伸は来客用のパスを首に提げ、守衛にお礼を言うと、門を通る。
しかし遊伸はある重要な事に気付く。
「あ! どこでやってるのか聞いてなかった!」
遊伸はすぐに守衛の元に引き返した。
* * *
9:05 シティ内陸部 デュエル・アカデミア 体育館
始業式も終わり、体育館には空達と講義を受ける小等部1年生が残っていた。
空達は講義に必要な物を壇上に上げ、自分達も壇上に立ち、審査員を待った。
司会は空、後の5人は空の指示で動くアシスタントである。
始まる前に、空が計画ノートを忘れた事を雪江以外の4人に話す。
「まあ何とかなるだろ」
「晴男、君が司会する訳じゃないでしょう…」
楽観的な晴男に雲太郎が突っ込む。
「私達他にやる事があるから、って空に全部押し付けちゃったからね、私達には空を責めれないよ」
愛雨がそう言うと、空が不思議そうな顔をする。
「あれ、そうだっけ? 皆は何してたの?」
空がそう言うと、雪江が呆れた様にため息を吐く。
「空……忘れすぎよ、来週何があるか覚えてる?」
空はそう言われると、あ!っと声を上げる。
「学園祭だ! すっかり忘れてた~!」
恥かしそうに笑う空。
「空、幾らなんでも物忘れが多いですよ、その年で大丈夫ですか?」
雲太郎が心配して空に言う。
「ご、ごめんね、夏休みにちょっと色んな事がありすぎて……それで薄れちゃってた」
「…その色んな事がどんな事なのか気になるけど、まあ今度でいいわ。 私達は夏休みの間にアカデミアで定期的に集まって学園祭のクラスの出し物の準備をしてたのよ、空にはバイトがあるって事で、家でも出来る講義の計画を任せた、って訳」
雪江が空にそう説明すると、空は納得した様に何度も頷く。
「そうそう! そういう経緯だったね! どう準備は? 問題ない?」
「こっちの事は後で教えてやる、今は講義だ、ほらもう審査員も来たぞ」
雷蔵が空にそう言い、体育館の出入口を指差す。
先程遊伸が見た二人組だ。
「…何でサングラスとマスクしてるの?」
「風邪でも引いてんじゃねーの?」
雪江は当然の疑問を口にするが、晴男はまったく気にしてない様子。
空がマイクを手に取り、いざ講義を始めようとしていた。
「はーい! 注目! これからわた「動かないで静かにしろぉ!!!」
突然審査員を名乗る二人組が大声を上げる。
空達が目を向けると、男の一人が小等部の男子生徒を一人抱き上げている。
その男の左腕には決闘盤、しかも唯の決闘盤ではなく、プレートの先端に電気が走っている、どうやらスタンガンのようだ。
「な、何!? どうなってんの? え、強盗? え、映画?」
愛雨は今の状況を理解出来ず、混乱している。
そこにまた男の大声。
「こいつは人質だ! 今から言う要求に応えれば開放してやる!」
「マ、マジモンの人質だぜ!? ど、どうすんだ!?」
さっきまで楽観的だった晴男も面食らった様子。
この場には空達と他の小等部生、そして引率の教師がいる。
教師は生徒が人質に取られているので、迂闊に手を出せない。
小等部生は怯えて一部泣き出している者もいる。
「俺達の要求は”ナンバーズ”のカードだ! アカデミアの生徒が持っていることは知っている! 全部よこせ!」
アカデミアはデュエル研と繋がりを持っており、アカデミアの一部の生徒がナンバーズ・テスターに選ばれている。
この男達はそのナンバーズを狙って来たのである。
「アニキアニキ、ほらあそこ! あそこにいる可愛い子!」
「あん? 何だよ?」
アニキと呼ばれた男がその弟分が指差す方向を見る。
その指の先は空に向けられていた。
「俺知ってるッス、あの子大会に出てました! 持ってましたよ! たしか……そう! 希望皇ホープっていうナンバーズ!」
弟分がそう言うと、アニキはサングラスとマスクの下の顔をニヤつかせる。
「ほう! いきなりついているぜ! おいそこの女! 大人しくナンバーズを渡しな! さもないと人質がどうなるか、解ってんだろうな?」
アニキが決闘盤スタンガンをチラつかせ、人質の生徒を軽く締め上げる。
生徒は恐怖と痛みで泣き出してしまう。
「静かにしやがれ! くそっ! これだからガキは……さあどうすんだ!」
「空! 悔しいかもしれないけど、背に腹はかえられないわ、渡しましょう……」
雪江は空にそう言うが、空は困った顔をしている。
「どうした空! まさか後輩よりもカードの方が惜しいなんて言うんじゃなかろうな!」
雷蔵が責める口調で言う。
「ち、違うの! わ、私……」
「もうホープ持ってない……」
空の言葉に5人は固まる。
「え……嘘、無くしちゃったの?」
愛雨がそう聞くと空は頭を振る。
「ううん、あげちゃったの、遊伸に……」
「はあ!? あげたぁ!? ナンバーズを!? なんで!?」
晴男が驚いて空に詰め寄る。
「遊伸の方が上手く使えると思って……優勝のお祝いに……」
「…空らしいと言えば空らしいですね……」
雲太郎が諦める様に肩を落とす。
「…不味いわね、あの強盗達に無いって言っても多分信じないわよ、あの子分ぽいの、空がホープ使ってる所見てるみたいだし……」
雪江が悩む仕草をする。
「おらどうした! 渡すのか渡さねぇのか! …くっそー! うるせぇ! 泣くんじゃねえ!」
アニキは泣き止まない生徒の頭を一回叩くと生徒はさらに泣き喚く。
その頃、体育館に一人の決闘者が近づいていた。
「ここか……」
そう、空にノートを届けに来た遊伸である。
彼は体育館の閉まっている入口に近づくと、子供の泣き声を聞き取る。
話によれば今ここで空が講義を行っているはずである。
おかしいと感じた遊伸はゆっくりと体育館の扉を開けると、案の定おかしな事になっていた。
自分の目の前には泣き喚く子供を腕に抱えた男が、決闘盤を子供に突きつけながら大声で何かを言っている。
その横には同じ格好をした男が一人、間違いなく先程正門で見た男達だ。
奥を覗くと、大勢の子供達、そして空が壇上で見知らぬ少年少女5人と一緒にいるのが見える。
おそらく同級生だろう。
男達は自分の声と子供の泣き声で遊伸が扉を開けて入って来た事に気付いていない。
遊伸が再び空の方を見ると、空と目が合う。
「(遊伸!? どうしてここに!?)」
空は驚くがすぐさま冷静になり、遊伸に向かって右手の甲を向け、右手首を左手で掴む。
これはマーシャル・レッド内で予め作っていた合図である。
その内容は……《突撃指令》。
遊伸は扉の影から勢いよく飛び出すと、アニキの無防備な左脇腹に後ろから思い切り蹴りを入れる。
「ごっふぉ……!!!」
アニキが体勢を崩すと、遊伸はすかさずアニキの腕から子供を奪い取り、叫ぶ。
「空!!!」
すると空が壇上から跳び下り、アニキに向かって駆け出す。
アニキが立ち上がる前に有効範囲に辿り着くと、講義で実演する為に装着していた自分の決闘盤を展開させる。
「デュエルモード、強制発動!」
空がそう言うとアニキの決闘盤がデュエルモードへと移行し、スタンガンが収納される。
これで空にデュエルで勝たなければスタンガンを使うことは出来ない。
「…今私から逃げると警報鳴るよ……さっきあの子をぶったでしょ」
空は遊伸の腕の中で泣いている生徒を見る。
「あんな小さい子をぶつなんて……私はあなたを許さない! デュエルよ!」
アニキは立ち上がり、辺りを見渡す。
弟分は遊伸がアニキを蹴り倒した時に恐れをなして一人で逃げ出してしまっていた。
「くそ……逃げやがって……(アカデミア生か……勝てるか?……いや、大丈夫だ。 こんな時の為の”秘策”と”切り札”があるからな……)」
アニキは含み笑いをすると、決闘盤を構える。
「いいぜ……やってやる!」
空はそれを聞くと、遊伸に振り向く。
「遊伸! 先生と一緒に小等部の子達を安全な所に誘導してあげて! その後はその子についていてあげて! こいつは私が倒すから!」
「…分かった! 空、気を付けるんだよ! 先生、お願いします!」
遊伸はここまでの出来事に頭が着いて行かず、呆然としていた引率教師に声を掛け、生徒達を外へと誘導し始める。
壇上にいた5人も下りてきて空に駆け寄る。
「すげー! 何だあれ!」
「空の名前を叫んでいましたが……知り合いですか?」
晴男は興奮した様子で、雲太郎は晴男程ではないが驚きの表情をしている。
雲太郎の質問に雪江が答える。
「あれが空の言っていた近衛 遊伸よ……また驚かされたわ……今回は別の意味で」
「ホントよ! ドラマの1シーンかと思ったわ!」
愛雨は未だに信じられないといった顔をしている。
「(遊伸ヒーローだね) 拘束装置が切れちゃうから遊伸の質問は後でね。 …行くよ!」
「「デュエル!!!」」
後編のデュエルパートとデュエル後に続きます、完成するまでお待ちくださいm(_ _)m