遊戯王~Truth of Satellite~ 作:鬼柳高原
前回から数日後 シティ内陸部 治安維持局 デュエルモンスターズ研究所
「待たせたね」
マイルが研究所の奥から戻ってくる。
遊伸達3人は現在、闇のカードである《漆黒のズムウォルト》の解析をマイルに依頼しに来ていた。
「どうでしたマイルさん?」
遊伸がマイルに尋ねると、マイルはうーん、と唸る。
「まずは一言……見事だね、盲点だった、よく作ったよこんな物」
「具体的にどうだったんだよマイルさん、そんなにすげぇもんなのか?」
鋼貴が聞くと、マイルは手に漆黒のズムウォルトを持ちながら説明を始める。
「分からない事も多かったんだけど、確実に分かった事がある。 …君達は決闘盤がカードをソリッドビジョンで実体化する仕組みは解ってるかい?」
「確かカードにカードのデータ見えないコードが書き込まれていて、それを決闘盤が読み込むことでソリッドビジョンを作り出している……ですよね?」
マイルが問いかけると、遊伸がそう答える。
「そうそう! 一時期マイルさんがそのコードの作り方を洩らしたんじゃないかって思ったよな!」
「し、失敬な! 私はそう何でもベラベラ喋ったりしない! 大体口を滑らせた位の情報量で作れる物じゃないよ!」
鋼貴の言葉にマイルは怒る。
あまり強く怒らないのは自分の口が疑われても仕方が無い程軽い事を自覚しているからであろう。
「まったく……話を戻そう。 大体遊伸君の言う通りだ、正確にはカード情報をカードに書き込まれた認証コードに入れ、それを決闘盤がコードを読み込み、情報を引き出し、ソリッドビジョンを作り出す」
マイルが遊伸の決闘盤を指差す。
「こちらで作った認証コードが無ければ召喚しても決闘盤はカード情報を引き出そうとしない、カードとして扱われず、ソリッドビジョンも作られない……だがこのカードは逆にカードから決闘盤に無理やりデータを送り込むんだ」
「カ、カードから逆に…?」
イマイチ理解出来ていない遊伸にマイルは話を続ける。
「いいかい? 決闘盤は認証コードを先に読み込み、公式カードだと認識すると、初めてカード情報を読み込む。 だがこの闇のカードは逆に決闘盤にカード情報を直接送り込み、ソリッドビジョンを作らせる。 解り易く言うと、認証コードが無いせいでカードを読み込もうとしないなら、こちらか無理やり読ませよう、って訳さ。 ちょっとしたウイルスみたいな物かな、認証コードの読み込みは正偽を確かめる為の物で、そういった物を遮断する物ではないから、決闘盤に送り込まれたらそのまま反映されてしまうのさ」
マイルなどのカード制作者達は、コードの制作方法が洩れているのではないか、そう考えていた。
しかし実際はコードのシステム自体を無視されていた、という訳である。
「なるほど…」
遊伸は納得した様子を見せる。
「読まぬなら、読ませて見せよう、ってか、でもそれより重要な事があるぜ、サイコ・デュエルの力の方はどうなってんのさ?」
鋼貴が一番の疑問をマイルに尋ねるが、マイルは難しい顔をする。
「…残念ながらサイコ・デュエルの力に関しては殆ど分からなかったよ……サイコ・デュエルの研究自体はしてたけど、半端な所で光円寺君が……ね」
「ああ……そうだった」
鋼貴はデュエル研襲撃事件の事を思い出し、頷いた。
「あの……マイルさん」
遊伸がマイルに話しかける。
その手には数十枚のカードを持っていた。
「ん? 何だい遊伸君?」
「このカードも闇のカードの様に解析して貰えませんか?」
遊伸が手に持っていたカードを差し出す。
それはXX-セイバーを除くX-セイバーとスターダスト・ドラゴン、そしてドラゴエクィテスであった。
「どうしたんだよ遊伸? お前のカードは闇のカードじゃないだろ?」
鋼貴は遊伸に問いかける。
「そうだけど、気になるんだ。 僕が使うまでX-セイバーやこの2枚の事は誰も知らなかった、父さん以外誰も持っていなかったんだ。 XX-セイバーもそうだけど、誰が作った物なのか、何時作られた物なのか、どうして父さんが持っていたのか、どうしても気になるんだ……」
「うーん、誰が作ったかは難しいけど、何時作られた物なのかは分かるかもね。 コードには登録番号のデータも書かれているから、それを見れば分かるはず、早速見てみようか」
・
・
・
「お待たせ」
解析の為に再び研究所奥へと向かったマイルが戻ってきた。
「どうでしたマイルさん?」
遊伸がマイルに結果を聞くと、マイルは先程の様にうーん、と唸る。
ただその声には先程より驚きが混じっていた。
「いやぁ、驚いたよ……遊伸君、本当にこのカードは君のお父さんが持っていた物なのかい?」
「は、はい、その通りです……」
真剣な顔で念を押すマイルに遊伸は少したじろく。
「このカードに使われているコード、これは”Xコード”だね」
「Xコード? それって何なんですか?」
遊伸が質問すると、マイルは手に持っていた遊伸のカードを遊伸に手渡し、説明を始める。
「Xコードというのは、特注品のカードに使われるコードの事さ、その人だけに作られたカード、だから試作品でもないし、量産して世に売り出す訳でもない。 だから区別の為にこのXコードが使われるのさ」
「まあそうだよな、見た事も無いし、近い様なもんも見た事無いしな」
鋼貴が納得した様に頷く。
「でもカードの特注は誰にでも出来る事じゃない、お金は掛かるし、それなりに認められた人にしか許可は下りないしね」
「どういった人に許可が下りるんですか? お金が要るから……お金持ち?」
空がマイルに聞くと、マイルは頷いて答える。
「そうだね、それが前提かな。 会社の社長とか、ある程度の権力者、それと……上位のプロ決闘者とかかな」
「へぇ~! じゃあ遊伸のお父さんって凄い人なんだね!」
空が遊伸にそう笑いかける。
遊伸は自分の父親の姿を思い出す。
「そんなに偉い風には見えなかったけどな…」
遊伸は首を傾げながら腕を組む。
「…ここまでだったら、私もそんなには驚かなかったんだがね、実は不思議な事があるんだ」
「? それは…?」
遊伸が腕組を解いてマイルに聞く。
「特注品でも何でも、カード制作は普通このデュエル研で行うんだ。 だから特注したなら記録に残っていると思って調べたんだけど……一つも無かったんだよ、記録が」
マイルは何も持って無い、といったように両腕を広げる。
「記録が無いって……ここで作ったんじゃないのか?」
鋼貴がマイルに問いかけると、マイルは頭を振る。
「記録が無いんだからここでカードは作ってないね」
マイルの言葉に遊伸はある事に気付く。
「ここで……という事はここじゃないどこかで作られた、って事ですか?」
遊伸がそう言うと、マイルは頷く。
「その通り、コードの方を調べたら、Xコードを使って作られたカードの枚数以上のXコードが作られていたんだ。 ここでカードを作ったら記録に残るはず、だからコードだけ書かれたカードを持ち出して、別の所でカードを作った、ってところかな。 …どうしてそうしたかは分からないけどね」
「(記録に残したくなかったから? いやそれだと何で記録に残したくないのか…)」
遊伸は父から貰ったカードを調べる事で、自分が知らない父の事を知ることが出来るのではないか、と考えていた。
しかし逆に分からない事が増えてしまった。
「まあこちらで作ったコードを使ってるから、不正カードではないと思うよ、安心してくれ……さて、申し訳無いが、私はこれからデュエル・アカデミアへ行かなければならないんだ。 今日はここまでにさせて貰うよ」
「え? マイルさんがどうしてアカデミアに? 学園祭は明後日ですよ?」
明後日の土曜日と翌日の日曜日にデュエル・アカデミアで学園祭が開かれる。
明日が開催なのに今アカデミアへ行くと言うマイルに空が尋ねると、マイルも驚いた様子で答える。
「そりゃ会場準備さ……空君聞いてないかい? ある意味学園祭の中でも1,2を争うイベントだと思うんだけど…」
「…ごめんなさい、私殆ど企画に関わってなくて……クラス以外の出し物については知らないんです……何があるんですか?」
空は申し訳無さそうにもう一度尋ねる。
「いや、謝る事は無いよ、実はね、アカデミアの学園祭でナンバーズの展示会をやる事になったのさ!」
「何だって!? い、今まで見せたこと無かったのにか? 何で急に?」
鋼貴が驚きの声を上げる。
鋼貴が言う様に、ナンバーズは今まで一般的に公開された事は無かった。
「いやぁ皆やっぱり気になると思ってね! こういうイベントを機会に公表する事にしたのさ! ただ殆どのナンバーズはもう配っちゃってるから、99枚のナンバーズは全部原画とカード情報を展示する形になるけどね」
「へぇ~! すごーい!」
「見てみてぇな!」
空と鋼貴が納得して期待を膨らませていると、遊伸がある事に気付く。
「99枚のナンバーズは…?」
「お! 遊伸君いいとこに気付いたね!」
マイルが待ってました、と言うような顔で遊伸を指差す。
「実は「オーバーハンドレッドナンバーズ」がようやく完成したんだ! 詳細は友河君から聞いているよね?」
「はい、新しいナンバーズですよね?」
オーバーハンドレッドナンバーズとは喪失した8枚のナンバーズの埋め合わせに作られ、続きの番号を与えられた8枚のカードである。
「その通り! で、せっかくだからその出来たばかりのそれも展示会で展示する事にしたんだ! こっちは原画じゃなくて本物さ!」
「おいおい、大丈夫かよそれ? 盗まれたらどうすんだ」
鋼貴が心配しながらマイルに問いかける。
「大丈夫さ! 今日から学園祭終了までセキュリティさんが警備についてくれるから!」
「いや、前例的にそれも不安なんだけど…」
鋼貴の言う前例とは、デュエル研襲撃事件のことである。
セキュリティ側に強盗の内通者がいた為、襲撃を許してしまった。
マイルは鋼貴の言いたい事を理解すると、笑い出す。
「ははは、鋼貴君は心配性だな! 大丈夫さ! 今回はちゃんと素性がハッキリしていて優秀な人を寄越してくれるように頼んだからね!」
「それならいいんだけどよ……あ、そういえば学園祭は明後日だよな? 何で今からもう準備するんだ? 明日準備すればいいじゃん、その方が安全だし」
「今日準備するのはね、今日と明日で当日持ち場から離れられない生徒の為の先行公開をするんだ、どうだい? 君達もこれから見に来ないかい?」
マイルがそう持ちかけると、空は笑いながら答える。
「偶然ですね! 実は私達もこの後準備の為にアカデミアに行こうとしてたんですよ!」
「おお! そうだったのかい! 私達、ってことは二人もかい?」
「はい、手伝いで」
「何か最近仕事無いんだよな……カイザーって実は大した称号じゃないんじゃないか?」
遊伸は頷き、鋼貴はやれやれ、といった様子で首を振る。
「よし、なら一緒に行こうじゃないか! 送っていこう!」
* * *
シティ内陸部 デュエル・アカデミア
「それじゃあ私は準備をしに行くから頃合を見て来てくれ! 場所は体育館だからね、それじゃ」
マイルは箱を一つ持って体育館の方へと向かう。
箱の中身はおそらくオーバーハンドレッドナンバーズであろう。
「それじゃあ私達も行こう! うちのクラスは校庭だよ!」
「校庭? じゃあ今年はお前のクラスがアレやるのか」
「アレ?」
鋼貴の言葉に遊伸が首を傾げる。
「アカデミア学園祭の伝統の出し物、”コスプレデュエル”だ」
「コ、コスプレ? コスプレって何?」
遊伸が聞くと空が答える。
「えっとね、皆でデュエルモンスターの格好してデュエルするの」
「そ、そうなんだ」
「何故か毎年やるクラスが出て来るんだよなアレ」
3人がそう話しながら歩いていると、前方に見知った顔の人物が歩いて来るのが見えた。
「あれ? 高尾じゃねぇか、何でこんなとこにいるんだ?」
鋼貴が高尾に声を掛ける。
高尾もこちらに気付くと近づいて来る。
「おおマーシャル・レッド3人組、ここで会うとはな。 俺は後輩に頼まれて手伝いにな」
「…そっちも依頼無いのか?」
鋼貴が高尾にそう聞くと、高尾は頭を振る。
「いや、明日は依頼が入っている。 それに依頼ならカイザーになったお前達の方が多いんじゃないか? 話は聞いているぞ? カイザーになったって」
「どうなってんだ…」
「きっと名声よりも人脈が物を言うんだよ鋼貴…」
釈然としない表情の鋼貴を遊伸は宥める。
「…まだお前達がカイザーになった事が広がってないのかもしれないな、今度いい依頼があったらそっちに回してやろう……おっと、後輩が待ってるからもう行くぞ、それじゃあな」
高尾はそう言うとその場を立ち去る。
「そうだよ! 私達も皆を待たせてるじゃん! 早く行こう!」
空は遊伸と鋼貴を引っ張りながら校庭へと向かった。
* * *
シティ内陸部 デュエル・アカデミア 校庭
「皆ごめーん! 遅くなっちゃった!」
校庭に辿り着いた空は作業しているメンバーに声を掛ける。
それに気付いた晴男が駆け寄ってくる。
「空遅いぞ……っと遊伸さんチィッス!」
晴男は遊伸がいるのに気付くと頭を深く下げる。
「そんな……そこまでしなくていいよ、空と同じ様に接してくれれば」
遊伸は困った様子で晴男に言う。
「そうっすか? じゃあそうさせてもらうっす…っと」
晴男は遊伸の横にいる鋼貴に気付く。
「えっと……そうだ! 空が言ってたバイトの先輩だ! え~……鋼貴さん!」
晴男は閃いた様に左掌を右手でポン、と叩く。
「ああ、その通りだよ、俺はお前らの先輩だけど遊伸や空と同じ風にしていいからな」
「はいっす!」
「空来たわね、遊伸さん、藤堂先輩、こんにちは」
元気よく返事をする晴男の後ろから雪江がやってくる。
遊伸と鋼貴もそれぞれ挨拶を返す。
「こんにちは」
「おう、それと苗字じゃなくて名前にしてくれ、ここじゃ藤堂って言ったら兄貴だからな」
そう言うと鋼貴は校舎の方を向いて目を細める。
鋼牙も鋼貴もこのアカデミアに入学し、卒業している。
首席で卒業したエリートの兄である藤堂 鋼牙の後に入学した鋼貴、あの”藤堂”の弟と、大きな期待を寄せられたであろう。
鋼貴はその期待によるプレッシャーを3年間受けてきたのである。
兄と同じ藤堂の姓で呼ばれるのを嫌がるのも、そのせいであろう。
「(結局俺はアカデミア時代で兄貴を越える事は出来なかった……だが見てろ! 俺は必ず兄貴を越えて見せる……そして、その先にいる……)」
鋼貴はアカデミアから視線を遊伸へと移す。
「ん? どうしたの鋼貴?」
視線に気付いた遊伸は鋼貴に声を掛ける。
「いや、何でもない。 それより俺達は手伝いでここに呼ばれたんだが何すりゃいいんだ?」
鋼貴が雪江にそう尋ねると、雪江は少し困った顔をする。
「そうなんですか? でももう殆どお任せ出来る事無いんですよね……決闘場のライン引きも観客席も全部もうやってありますし……」
雪江と鋼貴が辺りを見渡すと、芝生の上に白いラインで長方形の決闘場が描かれており、それを遊伸達や生徒達がいる校舎側以外の3方向を観客席が囲んでいる。
見渡していると今度は愛雨が遊伸達の所へやってきた。
「あ! 空来た! それと遊伸さん……と、空が言ってた鋼貴さんかな? こんにちは」
愛雨が挨拶をすると、遊伸と鋼貴も同様に挨拶を返す。
「やっぱりまだ衣装足りないと思うわ、出来る限り作りましょ!」
愛雨がそう言うと、雪江は反論をする。
「ええ? もう十分じゃない? 前回の時に使われてた衣装だって残ってるんだから…」
「でもボロボロの多いじゃん! 何人参加するか分からないんだし、作っておいて損は無いわよ! デザイナー志望の私に任せなさい!」
「デザイナーって言ってもあなたはカードデザイナーでしょ…」
雪江は呆れた様にそう言う。
「ふふん、創作に壁なんて無いわ! さあ空、早速仕事! 図書館に行ってカードカタログを借りてきて! 参考にしたいから!」
「ええ~パシリ~……まあいいや、殆ど手伝えなかったし。 遊伸、鋼貴、一緒に行って探すの手伝って」
愛雨の頼みを受けた空は遊伸と鋼貴に振り向いてそう声を掛ける。
「分かったよ」
「本くらい遊伸がいれば十分だろ? 俺はここで話をさせて貰うよ、始業式の時に知り合ってる遊伸はともかく、俺は空の同級生とは初対面なんでね、親交親交」
鋼貴はそう言って校庭に設けられた作業場へと行ってしまう。
「…本探すのめんどくさいだけでしょ……まあいいや、遊伸行こ!」
空は遊伸を連れて図書館へと向かう。
「それにしてもアカデミアの女子は相変わらずレベルが高いよな~、さっきの子達とか、空も寸胴じゃなきゃ……ん?」
鋼貴がそんな事を考えながら歩いていると、どこか見覚えのある男子生徒が作業場で衣装を仕立てている。
鋼貴はこの少年を見たことがある。
今は眼鏡を掛けていてマントも羽織っていないが、鋼貴はその少年が誰なのかすぐに分かった。
鋼貴は近づき声を掛ける。
「…よう」
「ん……ひっ」
少年は声を聞いて顔を上げてその声の主が鋼貴と知ると驚き、顔が青ざめさせる。
「ああ……その……もう大丈夫か? 板垣……」
鋼貴が話しかけた少年、闇の貴公子こと板垣は暫く青ざめたまま鋼貴を見上げていたが、ようやく落ち着いたのか口を開く。
「え、ええ……あの時はご迷惑をお掛けしました……で、出来れば……もうあの時の事は忘れてください……お願いします……」
板垣はそう言うと下を向き、作業に戻ってしまう。
すると後ろから愛雨がやってくる。
「あれ? 鋼貴さん板垣君と知り合いですか?」
「あ、ああ……まあ……」
愛雨にそう聞かれた鋼貴は板垣を見る。
板垣は哀願する様な顔で鋼貴を見ている。
「(解ってるよ……言わねぇって) …まあそんなもんだ」
「へぇ! そうなんですか! 板垣君、裁縫上手なんですよ! おかげで作業が捗ってるんです!」
あのマント、自分で作ったんかな、愛雨の話を聞いて鋼貴はそう思った。
* * *
シティ内陸部 デュエル・アカデミア 図書館
アカデミア敷地内には校舎とは別に図書館が設けられている。
ここには普通の書籍以外にも様々なデュエルに関する書籍、映像などのあらゆる資料が揃っているので、ここを利用する生徒は多い。
しかし現在生徒達は学園祭の準備で忙しい為、今ここを利用している者は遊伸達を除いて殆どいない。
「あったあった! これがカタログだよ、それじゃ借りて戻ろうか!」
空は目当ての本を見つけると真っ直ぐ貸し出しカウンターへ走って向かおうとする。
「あ、空待って…」
遊伸もその後に続こうとした時、空の後姿を見てふと思い出す。
先々月の大会後、空をアカデミアまで送ったあの日の夜、寮へ走って帰る空の後姿。
そしてある疑問を解消する為に寮へ帰ろうとする空を呼び止めた時のことを。
遊伸はあの時の様に空を呼び止める。
「あ! そうだ空! 聞きたい事があるんだけどいいかい?」
「? なあに?」
空が動きを止め振り向く。
「最近すっかり忘れてたんだけど、空の言う”精霊”って何なんだい? 空は僕に自力で気付いてほしいって言うけど、やっぱり自力じゃ解らないよ」
遊伸がそう言うと、空は自分のデッキからカードを一枚取り出し、自分の横を指で指し示す。
「遊伸、見える?」
「…うっすらだけど、ガスタ・ガルド……やっぱり決闘盤を使ってない、一体……」
「だからこれが精霊! カードに宿ってるね!」
「ええ…?」
遊伸は何が何だか、という表情、空は溜息をつく。
「難しく考えなくていいのに……そうだ!」
空は何かを思い出したかのように本棚へと向かう。
その場所は小等部向けの児童書コーナー。
「どうしたんだい空?」
遊伸は本を探している空に後ろから声を掛ける。
「前見た様な気がするんだよね~…あ! あった!」
空が本棚から1冊の絵本を取り出す。
「はい遊伸これ!」
遊伸は空から渡された絵本の表紙を見る。
そこには「僕とクリボー①」と書かれていた。
「クリボー…ってデュエルモンスターの?」
遊伸がそう聞くと、空は頷く。
「その絵本はね、クリボーの精霊が主人公の話なの! 読んでみて! 精霊のことが解るよ!」
遊伸は絵本を開き、読み始める。
物語は精霊界に住むクリボーが現実世界に迷い込み、もう一人の主人公である少年と出会い、一緒に過ごしていく、という話である。
①と書かれているのでこれは第1巻なのだろう、少年とクリボーが出会い、これからどうなる、という所で終わっている。
「どう? それが精霊、解った?」
そう言う空の隣で半透明のガスタ・ガルドが羽ばたいている。
「(これは……認めざるを得ないな……精霊自体意思を持っているとか、決闘盤を使ってないのに姿が見えるとか……この絵本の精霊と、空のガスタはまったく同じだ……)」
遊伸は空の言葉に頷き、口を開ける。
「…本当に……いるんだね、精霊って……驚いたよ」
「だから言ったでしょ? やっと解ってくれたね!」
遊伸の言葉に空は満足した様に頷く。
しかしここで遊伸に新たな疑問が湧く。
「それにしてもどうして空のガスタに精霊が宿ったのかな? あの絵本のクリボーは偶然精霊界から迷い込んでカードに宿った、ってことだけど…」
遊伸がそう言うと、空は自分のデッキを取り出して手の中で広げる。
「ガスタの皆はどうしてこのカードに宿ったかは分からない、って言うんだけどね、私は解ってるよ!」
「…それは?」
遊伸が聞くと、空は笑顔になって答える。
「私が寂しくないように、ってお姉ちゃんが宿してくれたのよ!」
「…七海さんが?」
七海とは10年前に行方不明となった空の姉である。
「うん! このガスタはね、お姉ちゃんがくれたの! 10年前、お姉ちゃんがいなくなる少し前……私と、お姉ちゃんの誕生日の日に……」
…
……
…………
………………
……………………
10年前 西野家自宅 空 5歳
「ただいま」
玄関の扉を開け、一人の少女が帰宅する。
空の姉、西野 七海である。
「お姉ちゃん! お帰りなさーい!」
姉の声を聞きつけ、妹である空が駆け足で玄関に来るとそのままの勢いで七海に抱きつく。
「こらこら空、嬉しいのは解るけど、それじゃあお姉ちゃんがお家に上がれないでしょ。 お帰りなさい七海」
空に続いて中年女性が奥から現れる。
七海が学校や仕事で空の面倒を見れない時、代わりに何時も面倒を見ていてくれた近所に住む叔母である。
「ただいま叔母さん、今日もありがとうございます」
七海が空の頭を撫でながら叔母に礼を言う。
ようやく空は七海から離れる。
「お姉ちゃんちょっと待っててね!」
そう言うと空は家の奥へと再び駆け足で戻って行く。
「空! 家の中で走ったら危ないわよ! …さあ、ご飯も出来てるから居間に入りましょう」
「ありがとうございます……ごめんなさい叔母さん、叔母さんにもご家庭があるのに……」
叔母の言葉に七海は頭を下げる。
「うちの事はいいわよ気にしなくて! …本当はあなた達を引き取ってあげたいけど、やっぱり七海は空とここに住みたいんでしょ?」
「…父と母が残してくれた……思い出のある家ですから」
七海は申し訳無さと寂しさが混じった声でそう言うと玄関を見渡す。
「…兄さんも義姉さんも、きっと天国で喜んでるわね……七海は立派になったって」
「叔母さん…」
「お姉ちゃーん!」
空が何かを持って戻ってきた。
どうやら箱の様で綺麗にラッピングされている。
「はい! お誕生日おめでとうお姉ちゃん!」
空は元気よく手に持っていたプレゼントを七海に渡す。
「…これを、私に?」
七海は驚いた様子で箱を受け取る。
「空がね、何時も自分が貰ってばかりだから、今年はちゃんとお姉ちゃんにプレゼントをあげる、ってずっと言っててね、だから今日昼間に二人で買いに行ってたのよ」
叔母が笑いながら七海に説明する。
「開けて見て!」
七海が箱を丁寧に開けると、そこに入っていたのは風車の様なマークが入った翡翠色のロケットペンダントだった。
「…綺麗ね……これって…」
あることに気付いた七海は空を見ると、空は笑いながら答える。
「えへへ! ガスタのマーク!」
「空はこう言っているんだけど、何のことかしら? 七海は解る?」
叔母が七海に尋ねる。
「…この子が欲しがっているカードについている紋章です……よっぽど気に入ったのね」
「うん! 大きくなったらガスタのカード買って、お姉ちゃんとデュエルするの!」
空は決闘盤を構えてドローをする真似をする。
「七海、そのロケット、開けてみなさい」
「え? 何か入っているんですか?」
そう聞く七海にいいから、微笑みながら答える叔母。
七海がロケットを開けると、そこには自分と空が写った写真と、メッセージが書いてあった。
七海お姉ちゃんお誕生日おめでとう! 大好き! 空より
七海は泣きそうになるのを堪えて空を抱きしめる。
「ありがとう……空」
「…えへへ」
空は姉の胸の中で少しはにかみながら笑う。
「…それじゃあ今度は私の番ね、いらっしゃい、空」
七海は空を離すと自室へと向かう。
・
・
・
「はい、誕生日おめでとう、空……これがお姉ちゃんからのプレゼント」
七海は自室の机からデッキを取り出すと空に渡す。
「ガスタ!?」
そう、七海が渡したのはガスタで構築されたデッキだった。
「ありがとうお姉ちゃん!! でもどうして? お姉ちゃんカードはもう少し大きくなってからって言ってたのに」
空は首を傾げながら姉に尋ねる。
「…空からこの素敵なプレゼント貰ったら、お姉ちゃん嬉しくなっちゃって……お姉ちゃん、空の喜ぶ顔を見たくなっちゃったの、だから少し早いけど、それを空に…」
七海が微笑んでそう言うと、空は満面の笑みを浮かべて再び七海に抱きつく。
「お姉ちゃん! 大好き!」
「空……」
私もよ……空
……………………
………………
…………
……
…
「…その後、お姉ちゃんは行方不明になったの……それから、私が皆を見ること、そして聞くことが出来るようになったの」
空は手に持ったデッキを見る。
「もし皆がいなかったら私、お姉ちゃんとの約束をここまで守れなかったかもしれない……寂しくて、耐えれなかったかもしれない……私思うの、お姉ちゃんは私が寂しくないように、って、このガスタ達の精霊をカードに宿してくれたんじゃないかな……」
空は目を瞑り、デッキを胸に当てる、遊伸にはそれが最愛の”家族”を抱きしめている様に見えた。
「空……うん、そうだね! きっとそうさ! 僕と父さんのX-セイバーの様に、ガスタは空と七海さんを繋ぐ”絆”、そして”希望”なんだね」
遊伸が自分のデッキを取り出しそう言うと、空は微笑みながら頷く。
「うん! …私と遊伸て、同じ様な家族との”絆”を持ってるね、そっくり! …何か運命を感じるよ」
空の言葉に遊伸も同じ様に頷く。
「運命か……確かにそうだ、父さんとの約束……”絆”が無ければ、僕は……シティにすら来なかったと思う。 空や鋼貴、沢山の人々や決闘者とも会うことは無かったんだ。 …これは、運命だよ!」
遊伸は笑いながら腕を広げ、力強く言う。
「私も同じだよ! お姉ちゃんとの”絆”があったから、今の私がここにいる……私……遊伸に逢えてよかった……遊伸! これからもよろしくね!」
「ああ!」
遊伸と空はお互いに笑い合う……と、急に空が思い出したかのように声を上げる。
「あ!! いけない! お使いの途中だったの忘れてた!」
「…すっかり忘れてたね」
二人は急いで図書館を出る。
「そういえば絵本どうだった? 私は子供の頃あの絵本大好きだったの!」
「面白かったけど、クリボーが少し勝手だったのが気になったなぁ」
「まだ1巻だからだよ、これからカードの持ち主の男の子と一緒に成長していくんだから…」
そんな話をしながら、二人は急いで校庭へと戻った。
5D'sと言ったら絆パワー……5D'sなのは一部設定だけですけど。