遊戯王~Truth of Satellite~   作:鬼柳高原

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*今回はデュエルがありません。 ご了承ください。


第32話 理由 ~第2の試練と譲れぬ思い~

「さあ、鋼貴達と合流しよう!」

 

BFリーダーを倒した遊伸と空は鋼貴とグレイグ達を探しに行く事にした。

だがその直後、聞き覚えのある声が遊伸達を呼ぶ。

 

「おおーい! そこにいんの遊伸か!?」

 

遊伸と空が振り向くと、鋼貴がやって来る、よく見ると高尾も一緒だ。

 

「鋼貴! 高尾さん! 無事だったんだね!」

 

「心配したのはこっちだぜ! お前が突然おかしくなって先に行っちまうもんだからよ、グレイグと急いで準備して追いかけたらびっくり仰天、もう”試練”が始まってやがった、しかも一人どころじゃねぇ! うじゃうじゃいやがる! しかも全員ブラックファイアだ! もう何が何だか…」

 

鋼貴はお手上げ、といったような身振りをする。

今度は高尾が口を開く。

 

「本当に驚いた、セキュリティとブラックファイアが入り乱れていてな、あの時アカデミアはちょっとした混沌(カオス)に陥れられていたな。 しかもブラックファイアの連中が強いの何の、俺達も随分苦戦した、セキュリティの中にもやられる奴が出て来て、押されていた位だ。 …それと遊伸、お前の言っていた”闇のデュエル”……想像以上に恐ろしい物だった……」

 

”闇のデュエル”という言葉に鋼貴が反応する。

 

「おお! そうだ! ”闇のデュエル”だよ! あっちの方がびっくり仰天だ! 死ぬかと思ったぜ! …でもよ、おかしな事があんだよ」

 

「鋼貴、それってもしかして……」

 

「ちょっと待って、鋼貴、さっきから私に気付いてないのはわざと?」

 

空が喋ろうとしていた遊伸の前に出て、鋼貴に対して目を細めて睨む。

鋼貴はばつが悪そうに頭を掻く。

 

「あー、その、すまん、声のかけ方が思いつかなくてな……でもその様子だと、もう大丈夫なのか?」

 

「うん! もう大丈夫! 心配かけてごめんね」

 

鋼貴に対して空は何時もの笑顔に戻り、謝る。

 

「…おう! それでこそ空だ! …で、遊伸何だ? 何か言いかけてたけどよ」

 

「ああ、鋼貴が言いたいおかしな事なんだけど、それって多分僕にも分かるよ」

 

「おお、言ってみな」

 

「多分こうじゃないかな、”闇のデュエルをしたのに相手は闇のカードもファントム・オブ・カオスも持っていなかった”……どう?」

 

「マジかよ……何で分かったんだ?」

 

鋼貴は驚いた顔をして聞く。

 

「実は鋼貴、僕はテオドールに課せられた”第1の試練”をクリアしたんだ」

 

「な、何だって!? 本当かよ!?」

 

「いや、鋼貴、おそらく本当だ、さっき突然ブラックファイアの連中が気絶したのも、遊伸がクリアしたからじゃないのか? 仕組みは解らんが……遊伸、多分そうだな?」

 

高尾が遊伸に尋ねる。

 

「はい……実は僕と空はさっきまでブラックファイアを相手に”闇のデュエル”をしていたんです。 そしてそのデュエルに勝利した途端に、周りのセキュリティ達のデュエルも終了したんです。 …ブラックファイアの方が気絶して……」

 

「成る程な! そいつが親玉、試練の相手って事か! ゲームとかじゃよくあるパターンだぜ、親玉を黙らせれば子分は止まる、つまり遊伸と空が倒したって訳だ!」

 

鋼貴は自信あり気に言う。

 

「本当にそういうものなんだ……」

 

「ふふん、ほら、私の言った通りでしょ?」

 

空が遊伸に得意げに言う。

 

「鋼貴、これはゲームではないぞ、空も本当の理由を知ってるだろ、遊伸、決定的証拠があるんじゃないのか?」

 

高尾が遊伸に聞くと、遊伸は頷く。

 

「はい、僕達が戦った相手は持っていました、”闇のカード”、そして”ファントム・オブ・カオス”を」

 

「何!? おいおい、それを先に言えよ!」

 

鋼貴は不満気な声を上げる。

 

「成る程な……予想だが、ファントム・オブ・カオスはボスに取り憑けば子分も同じ様に出来ると見た。 それなら鋼貴の親玉理論に納得出来る」

 

「ファントム・オブ・カオスは複数いる訳じゃないって事ですね……」

 

遊伸が高尾の考えに頷く。

 

「そういえば鋼貴、グレイグは? 一緒じゃないの?」

 

空がここにいないグレイグの事を鋼貴に尋ねる。

 

「ああ、ブラックファイアの奴らとやり合ってる内にはぐれちまったんだよ、んで、探してる時に会ったのが高尾だったんだ。 …ったく、どこ行ったんだ? 無事ならいいんだけどよ」

 

「おお、お前等揃ってるじゃねぇか」

 

「おお! 遊伸! 会いたかったぜ~!」

 

「右に同じく」

 

突然鋼貴の後ろから声が聞こえ、全員で声の方向に向くと、グレイグがこちらに歩いて来ていた。

そしてその後ろには2人の少年。

 

「グレイグさん! 無事だったんですね……ってあれ!? 君達は!?」

 

遊伸が後ろの二人を見る。

何と二人は遊伸もよく知るタッグ決闘者、燃次と冷次であった。

 

「何だ!? お前等まだいたのかよ!」

 

鋼貴が二人に向かって言う。

 

「えーと……鋼貴は知ってる様だけど……どうして二人はここに?」

 

遊伸が二人に尋ねる。

 

「そりゃ勿論ナンバーズ展示会を見る為だ!」

 

燃次が笑いながら答える。

 

「え…? …学園祭は明日の予定だったはずだよね?……延期になったけど……」

 

遊伸は空に振り向き尋ねると、空は頷く。

 

「そりゃ解ってるよ! 俺達はアカデミア関係者の為の先行公開を見に来たんだ! 当日は絶対込んでるからな! 俺達は邪魔されずじっくり見たいんだ!」

 

「……お前等関係者じゃねーだろ」

 

鋼貴が正論を言うと、燃次に代わって冷次が答える。

 

「ライセンス使えば入れると思ったんだがな……甘かった」

 

「…成る程な、遊伸、こいつらがライセンス使って守衛に交渉してる時に、俺とグレイグが通りかかったんだ……そこで俺が声掛けたよな、お前等? ”ここは危険になるから帰れ”って、何でまだここにいるんだよ?」

 

鋼貴がそう尋ねると、燃次が思い出したかのように言う。

 

「そこだ! 何でお前等はライセンス見せただけで通れるのに俺らは駄目なんだよ! それに納得いかなくてよ、そこからまた守衛との口喧嘩だ! なあ冷次!」

 

「ああ……そういえば鋼貴達が通る時に言ってた”カイザー”って何だ? 守衛も何かそう言ってたが……」

 

「お前等……」

 

鋼貴は呆れてものも言えない様子。

 

「でよ! お前等が行った後にな、今度は同じカッコした二人組が来てな、驚いたぜ、近くにいたセキュリティに拘束装置使ってな、倒しちまったんだよ」

 

「お前等のとこにも来てたのか!?」

 

鋼貴の驚いた声に燃次はたじろぐ。

 

「な、何だよいきなり……でな、そいつらが今度は俺らに拘束装置使ったんだよ、変な拘束装置」

 

「お、お前等デュエルまでしたのか!?」

 

鋼貴はまた驚く、信じられない、そんな顔をしていた。

 

「おう、かなり強かったけど勝ったぜ、なあ冷次」

 

「ああ……それにしても珍しい拘束装置だったな、起動された時に黒い炎に囲まれた時は度肝を抜かれたぞ、ソリッドビジョンかあれ?」

 

「そうだよな! もしかしてあれ何かのイベント用の演出なんじゃねーの? 迫力めちゃくちゃあったし、リアルすぎてデュエル中怖くて寒気がしたしな!」

 

「寒気というか……痛い位だったぞ、どういう仕組みだ? あれは」

 

「…よく無事だったなお前等……色んな意味ですげぇよ」

 

鋼貴は呆れるを通り越して感心する。

 

「で、手当たり次第ブラックファイアの奴らを片付けてた俺が近くに来た時、こいつらがデュエルしているのを見つけて合流した訳だ、こいつらのデュエル、中々よかったぞ」

 

グレイグが燃次と冷次を見ながら言う。

 

「へぇ! 二人とも、また腕を上げたんだね!」

 

遊伸がそう言うと、燃次が親指を立てる。

 

「あったぼうよ! その内お前らにリベンジするからな!」

 

「それはそうとあの連中は一体何なんだ? 拘束装置を持っているから……セキュリティに対するデュエルチームのデモか何かか?」

 

「…まあそんなとこだ」

 

鋼貴は冷次の質問に曖昧に答える。

彼らは今のところは何も知らず、無関係なので巻き込む必要はない、鋼貴はそう考えた。

 

「あ! そうだ遊伸! ファントム・オブ・カオスをどうにかしなくちゃ!」

 

空が気を失っているBFリーダーを指差す。

 

「あ!? あいつブラックファイアのリーダーじゃねーか!? …まあブラックファイアの親玉はこいつか……」

 

「その口ぶりだと、鋼貴の想像と違ったの?」

 

空が首を傾げながら鋼貴に聞く。

 

「俺は桐原だと思ってた。 何かそういう役回りあってるだろあいつ、リーダーより傲慢だしな。 …そういえばあいつ見てないな、他の奴と同じ様にそこらへんで寝てんのか…」

 

鋼貴がそう言って辺りを見渡した瞬間、鋼貴の横を男が横切り、BFリーダーに接近すると、決闘盤に腕を伸ばす―――が、その腕を何時の間にか近くに寄っていたグレイグに掴まれる。

 

「あいつは……確か夜霧!」

 

高尾はテオドールの側についていた男を思い出す。

 

「おいおい、決闘盤ならお前も着けてるじゃねぇか、なら他人の決闘盤に何て用はねぇだろ、それともカードか?」

 

「…できる! だが!」

 

「うおっ!?」

 

夜霧は隠し持っていたナイフを掴まれていない腕でグレイグ目掛けて振るうと、グレイグはかわす為腕を放し、距離を離す。

その隙に夜霧は決闘盤をBFリーダーの腕から取り外す。

高尾が拘束装置を起動させるも、鋼貴の時の様に遮断されてしまう。

 

「おいグレイグ! 持ってかれちまうぞ! 捕まえろ!」

 

鋼貴が慌てて叫ぶ。

 

「相手はナイフ持ってやがる! 無理だ!」

 

「何だよ! その面でナイフにびびってんのか!」

 

「喧しい! この顔の傷はな、ナイフでつけられたんだぞ! ちょっとしたトラウマもんだったんだ!」

 

鋼貴とグレイグが言い合ってるうちに、夜霧が駆け出し、その先にいる男の側に控え、決闘盤を操作し、墓地からファントム・オブ・カオスを取り出すと、黒いガラスに取り込む。

 

「ファントム・オブ・カオス、回収完了しました」

 

「同じ様な”心の闇”を持つものならば複数同時に憑依させる事が出来る……実験は成功ね。 ただ、力を分散させてるせいか、ファントム・オブ・カオスを持っている本人ですら、”闇のデュエル”を行っても力が弱いわ。 負けたセキュリティが、死に至る程のダメージを受けていないもの」

 

男の後ろにいるのは光円寺、その髪はオレンジ。

その二人に気付いた遊伸が叫ぶ。

 

「テオドール!! それに……光円寺 陽子!」

 

「久しぶりね坊や、話は月子から聞いているわ、あれから随分強くなったようね」

 

陽子はデュエル研の時と同じ妖艶な笑みを浮かべる。

 

「小僧、よくぞ”第1の試練”を突破した、褒めてやろう」

 

「テオドール! どうして関係の無いブラックファイアの人達にファントム・オブ・カオスを!」

 

遊伸がテオドールに問い質すと、テオドールは鼻で笑う。

 

「フッ、簡単な事だ、全員ファントム・オブ・カオスを憑依させるのに適した”心の闇”を持っていたからだ、そしてその”心の闇”……憎しみ、嫉妬、全てが貴様らに向いたものだったのだ。 貴様らがここにいる、その一言だけでそいつらはアカデミアに向かっていった」

 

「な…!?」

 

テオドールの言うことは有り得なくは無い。

ブラックファイアは元々弱小チームであったマーシャル・レッドに”カイザー”の称号を奪われている、多くのメンバーがマーシャル・レッドを恨んだであろう。

2度も敗北しているBFリーダーは尚更であろう、そのせいでファントム・オブ・カオスを持たせられたのかもしれない。

 

「それにしてもだ、この結果は意外であったぞ、もう少し被害は大きく出ると見ていたが……成る程、レベルの高い決闘者が揃っているようだ」

 

テオドールは遊伸達を見渡すと、空の姿を見つける。

 

「ん? 昨日泣き崩れて気を失った小娘がいるではないか、家に帰って姉の名でも叫んでいると思ってたぞ?」

 

「テオドール! お姉ちゃんが帰ってくるまで、私はあなたなんかの言葉に負けない!」

 

空はテオドールを睨み付けて言い放つ。

 

「フン、愚かな……ならば永遠に帰ってこない姉の幻想を抱き続けるがいい。 さて小僧、”第2の試練”と行こうではないか」

 

遊伸はとっさに身構える。

その時、バイクに乗ったある人物が、遊伸とテオドールの前に躍り出る。

 

「見つけたぞ!」

 

その人物はバイクから降り、ヘルメットを取る。

 

「あ、兄貴!?」

 

鋼貴がその人物を見て叫ぶ。

セキュリティ機動部隊長、藤堂 鋼牙であった。

 

「”政府の犬”の隊長か、何の用だ?」

 

テオドールが鋼牙に対して、何時もの不敵な笑みを浮かべながら尋ねる。

 

「これは”あのカード”を使った犯行だな! おかげでセキュリティの大半の者が倒れた! 俺と勝負しろ! 今日こそ捕まえてやる!」

 

「……生憎貴様を相手にしている暇はない、そこの小僧という先客がいるのでな……それにだ、貴様はそんな事をしていていいのか?」

 

「どういう意味だ!」

 

この瞬間、アラーム音が鳴る、光円寺 陽子がその音源を取り出すと、会話を始める、どうやら通信機のようだ。

会話を終え、再び通信機をしまうと、その内容を陽子はテオドールに伝える。

 

「王様、月子から連絡です、セキュリティ本部への襲撃に成功、”ファントム・オブ・カオス”3枚の奪取を完了、セブンスターズ、月子含め4人共無傷で帰還したそうで……これで7枚全て揃いましたわ」

 

「何だと!? しまった……こちらは囮か!?」

 

陽子の報告と鋼牙の驚愕の声を聞き、テオドールは笑う。

 

「フハハ、気にする事は無い、こちらが貴様らに”預けて”おいた物を返して貰っただけだ……さて小僧、話の続きと行こう」

 

「あ、ああ……(何でセキュリティに……どういう事だ?)」

 

遊伸は混乱しつつもテオドールの話に頷く。

 

「第2の試練……その場所はここだ」

 

テオドールが1枚のカードを遊伸に投げる。

遊伸はそのカードを受け取ると、そのカードはデュエルモンスターズでは無く、地図であった。

 

「ここは……サテライト!?」

 

「その通り……1週間後、その地図を頼りにサテライト未開発地区、”B.A.D地区”に来い、そこに我らの本拠がある……そうだな、ファントム・オブ・カオス も揃った事だ、盛大にやるとしよう……そこにいるお前の仲間でも、政府の犬でも誰でもいい、我ら”セブンスターズ”と同じ、実力のある7人で来るがいい……待っているぞ」

 

テオドールがそう言うと、夜霧が昨日と同じ様に煙幕玉を投げる。

 

「うわっ! くそ! 獏葉みてぇな事しやがって!」

 

鋼貴達は煙を避ける様に移動する。

やがて煙が消えると、テオドール達の姿が消えていた。

 

「…さて、また一気に情報が入ったな、主に何だったか……遊伸、言ってみてくれ」

 

グレイグが遊伸に尋ねる。

 

「…アルカディア・ムーブメントの本拠地がサテライトにある事、そしてそこで次の試練を行う事、ファントム・オブ・カオスが複数、7枚もある事、そして……セキュリティ本部に何故かファントム・オブ・カオスが3枚もあったことです……」

 

「おい兄貴! どういう事だよ! 遊伸からや直接話しを聞いた時も、どこかおかしいと思ってたんだ! 兄貴、セキュリティは何か隠してんのかよ!」

 

鋼貴が鋼牙を責めるように問い質す。

 

「…鋼貴、一旦静かにしろ……グレイグさん、緊急の依頼です」

 

鋼牙は一旦弟を黙らせ、グレイグに向き合う。

 

「おう、何だ?」

 

「詳しい事は明日、治安維持局にてお話しますので、鋼貴達マーシャル・レッドのメンバー……それと他に実力のある決闘者の当てがありましたら連れて来てください……その場でこちらの事、そして知っている情報をお話します」

 

「実力のある……それは今奴が言ってた”試練”のメンバーの事か?」

 

「はい、それと……」

 

鋼牙は遊伸に振り向く。

 

「遊伸、俺をそのメンバーに加えてくれ、奴には借りを返さねばならん」

 

「分かりました、鋼牙さんがいてくれるなら心強いです」

 

遊伸は鋼牙の同行を許可する。

 

「…ちょっと待て、何故遊伸の試練のメンバーに加わる? セキュリティはセキュリティで乗り込めばいいんじゃねぇのか? そこに地図だってあるんだからよ」

 

グレイグは遊伸が手に持っている地図に目をやり、鋼牙に問い掛ける。

 

「……情けないですが、セキュリティの主力は今回のアカデミア防衛戦で多くの負傷者を出しました……息はありますが、とてもすぐには復帰できません。 さらに、先程のセキュリティ本部の襲撃が本当なら、本部も無事ではないでしょう……”あのカード”が奪われた以上、一刻も早く取り返さなければなりません。 ですが、セキュリティには遠征するだけの戦力はもうありません、この都市の守りも必要です……」

 

鋼牙は悔しそうな顔をして視線を落とす。

 

「本来なら貴方達を行かせる訳には行きません……デュエルチームだって守らなければならない市民です、ですが……今は貴方達に頼るしか無いッ…!」

 

鋼牙は目を閉じ、悔しそうに歯を食いしばる。

 

「…分かった、明日……今の時間と同じ位に伺おう」

 

「ありがとうございます……自分はやる事がありますのでこれで……」

 

鋼貴は一礼するとバイクに跨り、ヘルメットを被るとバイクを走らせ行ってしまう。

 

「兄貴……」

 

鋼貴は遠ざかっていく兄の背を見送る。

 

「遊伸! 勿論俺も頭数に入れてくれるよな? 俺の覚悟は変わらん!」

 

高尾が遊伸の前に進み出る。

 

「……ありがとうございます、高尾さん、よろしくお願いします」

 

「おい遊伸!」

 

燃次と冷次が遊伸の前に出る。

 

「何だかよく解らねぇが、あのデュエル研で見た女が一緒にいるって事は悪い奴って事だな! 決闘者が必要なんだろ! だったら俺達が強力してやるよ! あの偉そうな野郎に一泡拭かせてやろうぜ!」

 

「…言うと思ったぜ、遊伸、ここまで知られちまったんだ、いっそ全部話しちまって、ビビらせて考え直して貰おうぜ」

 

「うん、危険だしね…」

 

遊伸は燃次と冷次に全てを話す―――が。

 

「……俄かには信じがたいが……成る程、あの痛い位の寒気が……だが」

 

「そんな事聞いちゃ引き下がれないぜ! 友達がヤバイ事に脚突っ込むなら助けなきゃな! 人数も足りないんだろ?」

 

余計にやる気になった二人に鋼貴は溜息を吐く。

 

「…逆効果かよ、あのなぁお前等、デュエル研の時とは違うんだ! 敵の本拠なんだぞ! 本当に死ぬかも知れないんだぞ!」

 

鋼貴の言葉に燃次は顔を顰める。

 

「…さっきから俺等の事あぶねぇあぶねぇ言ってるけどよ、だったらお前等はどうなんだよ! お前等だってあぶねーだろうが! だったら俺等もお前等を止めるぞ!」

 

「その通りだな、友達がヤバイ事に脚突っ込むなら意地でも止めなきゃな……よくよく考えたらこっちの方が正しいな」

 

「おいおい! 何でそうなるんだよ!」

 

「いや、そいつらの言ってる事の方が正しいぞ」

 

会話を静かに聞いていたグレイグが横から口を出す。

 

「な、何でだよグレイグ! 危険だろこいつらには!」

 

「燃次だったな、お前の言葉を使うぞ、”だったらお前等はどうなんだよ”……お前等だってプロでもない、セキュリティでもない、”カイザー”とはいえアマチュア決闘者なんだぞ、命掛けて戦わなければならない義務なんてない、こいつ等と何が違うんだ? まさか自分は正義のヒーロー、とでも言いてぇのか?」

 

「そ、それは……」

 

鋼貴はグレイグの言葉に反論が出来ない。

 

「遊伸、鋼貴、空、お前等だって危険なのは変わらねぇ、それでも、どうしても戦いに行きてぇと言うなら、それなりの”理由”を言え! どうしてもお前等が行かなきゃならねぇ”理由”を! 俺が納得しねぇ”理由”、もしくは”理由”なんて無ぇとほざく奴は行くんじゃねぇ!! …まずは遊伸、お前は何の為に戦いに行く? 言っておくが”試練を与えられたから”は”理由”にならねぇぞ」

 

聞かれた遊伸は目を閉じる。

暫くそうした後、目を開け、理由を述べる。

 

「…僕は、ファントム・オブ・カオスが関わる事件の幾つかを聞き、ある時は目の当たりにしてきました……アーノルド・フラナガン、ランディ・ベルタン、デュエルギャングのリーダー達、獏葉、ブラックファイア……皆最終的には不幸になりました」

 

遊伸は拳を下げたまま強く握る。

 

「そんなファントム・オブ・カオスを使って、自分の野望を叶えようとしているアルカディア・ムーブメントの王、テオドール・ハイドフェルド……あの男は、危険な事に平気で人を利用して……その人がどうなろうと知らない顔をして……そして、平気で空の心を傷つけて……追い詰めて……」

 

遊伸は怒りでさらに拳に力を入れて握る。

拳に入れていた力が腕を伝って、遊伸の体全体に広がる。

 

「遊伸……」

 

空はそんな遊伸を見詰めている。

 

「グレイグさん……僕はグレイグさんの言う通り、ヒーロー気取りなのかもしれません……でも、僕は許す事が出来ないんです……仲間を傷つける……そして、デュエルを使って人々を不幸にするあの男を……テオドール・ハイドフェルドを……」

 

遊伸はそこまで言うと、力を抜き、姿勢を正すと、グレイグを真っ直ぐ見据える。

 

「だから僕は戦います、アルカディア・ムーブメントと……テオドールと、危険だと解っていても……このまま黙っていることは……”決闘者”である僕自身が許さないんです! …これが僕の”理由”です」

 

「……分かった、次、鋼貴」

 

「おう」

 

遊伸が後ろに下がると、鋼貴がグレイグの前に出る。

さっきまでとは比べ物にならない程に真剣な顔付きである。

 

「…俺の”理由”も、大体は遊伸と同じだ、だが俺には”俺自身の為の理由”がある!」

 

「…それは何だ」

 

グレイグが表情を変えずに鋼貴に問う。

 

「俺は遊伸と一緒にテオドールの奴に挑んだ、だが俺は途中でダメージに耐えられず、気絶した……俺はデュエルの決着の場に立つ事すら出来なかったんだ! 俺は何度も負けを経験してきた、だがあんな負けは初めてだった!」

 

鋼貴は吼える様に上を向いて喋る。

 

「俺は……あんな負け方のまま引きたくねぇんだ! …悔しいが、俺は遊伸や空より実力が劣る……グレイグの言う通り、俺の危険度は燃次や冷次と変わらないかもしれねぇ……」

 

鋼貴は下を向くが、すぐに首を上げ、前を向く。

 

「それに試練を出されたのは遊伸だ、テオドールと再戦出来るのは遊伸だけ、俺が行ってもテオドールとはデュエル出来ねぇ……だが! 俺は諦めたくない! 俺は奴から引く事だけはしたくねぇんだ!」

 

鋼貴は自分の胸を手で押さえる。

 

「仲間を侮辱し、デュエルを汚す、そんな奴を許せねぇ! だがそれ以上に、負けたまま何もしねぇ自分は許せねぇんだ! 遊伸と同じだ! テオドールにリベンジが出来ないと解っていても……無様に負けたまま引く事は……俺の中の”決闘者”が許さねぇんだ! グレイグ! 今の俺にとって、引く事は死ぬより辛い! だから頼む! 俺を戦いに行かせてくれ!!! ……以上だ」

 

話を終えると、鋼貴は後ろへ下がる。

 

「…次、空」

 

「うん」

 

今度は空がグレイグの前に出る。

 

「…お前は聞かなくても、大体想像はつくな、姉貴の事だろ?」

 

グレイグの言葉に空は頷く。

 

「うん、私……テオドールにお姉ちゃんが死んだ、って言われた時、凄くショックだった……でも今は大丈夫、私……お姉ちゃんを信じてるから、生きてるって……」

 

「…つまり、お前はテオドールに復讐しようだとか考えている訳じゃないんだな? 姉貴は生きてる、それがお前の主張だ、なら戦いは他に任せてもいいんじゃねぇか?」

 

その言葉に、空は頭を振る。

 

「それは出来ないよ、私はテオドールに……私自身が直接聞かなきゃならない事があるの」

 

空は首に掛けているロケットを握る。

 

「テオドールがお姉ちゃんの話をした時の様子……きっと昔、テオドールとお姉ちゃんの間に何かあったのよ、テオドールがお姉ちゃんのロケットを持っていた事だってそう……まだ私の知らない事は沢山あるの」

 

空はロケットを開け、自分と七海が写った写真を見る。

 

「お姉ちゃんはアルカディア・ムーブメントで働いていた、その本社があった場所も、テオドール達の本拠も同じサテライト……きっとサテライトに……この戦いに行けば、何か分かるはず……それが私にとって”知りたくなかった真実”だとしても、私は知らなきゃいけないの……」

 

空はロケットを閉め、グレイグに向き合う。

 

「私はお姉ちゃんを信じてる、お姉ちゃんだって私に逢いたい……そう思ってくれてるはず! もう待ってるだけじゃ駄目! 私からもお姉ちゃんを探してあげなきゃ! 危険だって事も解ってる、でも大丈夫! 私には……”仲間”も”家族”もいる……そして私も皆を守る! だから……お願いグレイグ! 私も試練に行く事を許して!」

 

空はそう言うと、頭を目一杯下げる。

グレイグは一息吐くと、3人を見渡す。

 

「…これで遠征部隊が決まったな、鋼牙、高尾、燃次と冷次、そして……俺達マーシャル・レッド4人だ!」

 

グレイグの言葉に3人は歓喜を上げる―――が、鋼貴は幾つかの、ある疑問に気付く。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! グレイグ、幾つか聞きてぇんだがいいか?」

 

「おう何だ?」

 

「あいつ等には聞かないのか?」

 

鋼貴は高尾、燃次、冷次を指差す。

 

「高尾は昨日、燃次達はさっきから何度も言ってたろうが、”お前等という友の為”、それで十分だ」

 

「ええ~!? 俺結構必死だったぞ! 本心から言葉引っ張り出すの! ハズいしよ! ズリーぞ!」

 

「”俺が納得”すりゃ何でもいいんだよ、ダチ公を守る、戦う”理由”なんて、俺はそれだけで十分だと思うぜ」

 

「…マジかよ~」

 

鋼貴は思いっきり脱力し、頭を垂れる。

 

「いいじゃん鋼貴! 合格貰えたんだし!」

 

「僕は自分の中の意志を再確認出来てよかったと思うよ」

 

空と遊伸が同時に鋼貴の肩を叩く。

すると鋼貴は思い出したように突然頭を上げ、グレイグに尋ねる。

 

「忘れるとこだったぜ! グレイグ、さっき”俺達マーシャル・レッド4人だ”って言ってたが……あんたも来るのか?」

 

「当然だ、メンバーのお前等が行くんだ、リーダーの俺も行くに決まってんだろ、部下だけに危険な真似はさせられん……それとも何か? まだ俺の腕を疑ってるのか?」

 

「いや……そうじゃねえよ、あんたの実力は今回でよく解ったよ、だがよ……それじゃあ”8人”じゃねーか!」

 

「「「「「あ」」」」」

 

鋼貴とグレイグ以外のメンバーが間の抜けた声を出す。

 

「た、確かに……ここにいる7人の他にも、鋼牙さんがいる……定員オーバーだ……」

 

高尾はしまった、といった表情で右掌を顔に当てる。

 

「ど、どうするの遊伸! 誰を置いて行くの?」

 

空が遊伸に問うと、グレイグ以外のメンバーが遊伸に視線を送る。

 

「ちょ、ちょっと待って! グレイグさん、どうすれば…」

 

遊伸がグレイグに助けを求める。

 

「そんなもん簡単だ、こいつ等を一纏め、二人で一人にすりゃいいんだ」

 

グレイグは燃次と冷次を指差す。

 

「……は、はぁ!?」

 

鋼貴は呆気にとられる。

 

「話は道中こいつ等のデュエルを見ていて、タッグデュエルの腕は大したもんだ、プロでもここまで息を合わせられるタッグは無いだろう、だが見ていて分かった、シングルは話にならん、デッキもタッグ前提の作りになっていたしな」

 

「おう! その通りだぜ!」

 

「タッグを極める為、デッキの作りも完全にタッグ用にしている」

 

燃次と冷次が自信有り気に頷く。

 

「だからこいつ等はタッグ専門、二人で一人として数えさせ、タッグデュエルで戦わせられるようにする、そうすれば”シングルが駄目な戦力外二人”が”戦力になる一人”になるという訳だ」

 

「馬鹿かよ! 敵がそんな屁理屈な要求呑むか!」

 

鋼貴はグレイグの突拍子のない案に突っ込む。

 

「いや、呑むぞ、あのテオドールとかいう男は」

 

「どこにそんな根拠が……」

 

「鋼貴、グレイグさんの言う通りだと思うよ」

 

鋼貴が納得しないでいると、遊伸がグレイグの言葉を肯定する。

 

「遊伸まで何言い出すんだよ!」

 

「鋼貴、悔しいけど、今の時点で僕らはテオドールに歯が立たなかったんだ……あの男は余裕だよ、今回の試練だって……」

 

 

そうだな、ファントム・オブ・カオス も揃った事だ、盛大にやるとしよう

 

 

「……テオドールは楽しんでいる位だ、僕等がこの要求をしようと、きっとあの”笑み”を浮かべて承諾すると思うよ……」

 

遊伸は思い出す、テオドールが浮かべるその不敵な”笑み”を。

 

「その通りだ、ああいったお高くとまってる野郎はな、自分が負けるなんぞチリにも考えてねぇ野郎だ、そしてお高い所でこっちを見下し、俺達を”脅威”とも思ってねぇ……なら俺達はそれを存分に利用させて貰おうじゃねぇか、そんでもって余裕こいてる野郎の面に”俺達”という存在を叩きつけてやるんだよ! 解ったかお前等!」

 

「「おう!!!」」

 

鋼貴と燃次がグレイグの言葉に大声で答える。

鋼貴は先程とは打って変わって乗り気である。

 

「おう、何若い時みたいな顔して騒いでんだ?」

 

突然聞こえた遊伸達が振り向くと、そこにはロートンがいた。

 

「何だロートン、留守を任せたはずだぞ」

 

「ああ、だから大人しく留守番をしてた。 だがその時お前が今日受ける約束だった依頼の主からの伝言を伝える為に電話したのだが、お前は携帯電話の電源を切っていたせいで出ない、だからここまで重い足を引きずって伝えに来てやったんだ、感謝しろ」

 

「デュエルに水をさされたくないんでな、デュエル中は電源を切ってる、入れ忘れてた俺が悪いが、お前もこのことは知ってるだろ?」

 

「お前がデュエルしたのか、成る程、あの若い時の様なテンションはそのせいか……」

 

ロートンは納得した様に頷く。

ロートンはグレイグがデュエルをしているとは思っていなかった。

それ程グレイグはここ最近、まともにデュエルをしていなかったと思われる。

 

「おう、久しぶりに火が点いたぞ、やはり俺も”決闘者”みてぇだな……で、伝言は何だ?」

 

「この依頼は午後からだったが、状況が変わったらしい、だから今すぐ来てくれ、との事だ」

 

「おう分かった、遊伸、鋼貴、行くぞ! 空、お前はここに残ってセキュリティの相手をしろ、一応奴らから受けた依頼だからな、話を聞かれるかもしれん」

 

「うん! 解った!」

 

丁度アカデミアの友人達に礼を言いに行きたいと思っていた空はアカデミア残留を喜んで引き受ける。

 

「アルバイトにそんな重要な事を丸投げするな……俺も残ろう」

 

「ありがとうロートン!」

 

空はロートンに頭を下げる。

 

「残りのお前等、明日今と同じ位に治安維持局に集合だ! 遅れた奴はメンバーから外すからな! 遅れるなよ!」

 

「解りました」

 

「解ってるって! なあ冷次!」

 

「重大イベントに遅れた事は無い、安心してくれ」

 

高尾、燃次、冷次も了解する。

 

「よし、さあ急ぐぞ! 来い!」

 

駆け出したグレイグに遊伸と鋼貴が続く。

 

「はぁ~、あんな激戦の後だっていうのに、ついてないぜ……グレイグの奴は何か火が点いて妙にやる気だしよ……」

 

「まあまあ鋼貴、滅多に見れないよ、あんなグレイグさんは」

 

こうしてアカデミアでの騒動は幕を引いた。

遊伸の中には、今だに多くの謎が渦巻いている。

明日になれば解るのだろうか、遊伸はそう思いながら、グレイグの背を追って走るのであった。

 




今回で25話から続いたアカデミア騒動は完結です。
次回は治安維持局へ向かい、デュエルもありますので、暫くお待ちください。
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