遊戯王~Truth of Satellite~   作:鬼柳高原

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第49話 決闘者 ~七海とおじさん~

七海はアカデミア中等部卒業後、進学せずにアルカディア・ムーブメントに入社した。

今までお世話になっていた叔母にこれ以上迷惑と心配を掛けたくない、その為に早く自立しようと七海は思っていた―――これが空が叔母から聞いていた理由、しかしそれだけではなかった。

実は12年前、七海と空の父親、西野 大地(にしの だいち)は生前にサイコ・デュエリストとしてアルカディア・ムーブメントに勤めており、未開発地域の開発現場での作業中に事故で亡くなったのだと言う。

 

母親はその事のショックが原因で体を壊し、その翌年に後を追う様に病死した。

 

七海はその事故の原因を突き止めたかった訳ではない。

七海は父の仕事について殆ど知らなかった。

父の事が知りたい、父が見ていた”世界”を見てみたい、父を亡くして七海はそう思ったのだ。

勿論叔母には止められた、”あなたにまで何かあったらどうする”と。

叔母も七海がアルカディア・ムーブメントに就職した事を知っていたのである。

結局七海の意志が強く、叔母が折れる形で七海の就職を許す事となった。

”一度決めたら折れないところはそっくりね”、その時叔母はそう呟いた。

 

七海はアルカディア・ムーブメントでその実力を認められ、サイコ・デュエリストとして期待された。

普段はシティの支社で表の仕事をし、月に一度サテライトの本社に向かい数日滞在、そこでサイコ・デュエルの訓練を受けていた。

そして七海は訓練後、サテライトの社員寮を抜け出し、未開発地域”B.A.D地区”を散策するのがサテライトでの習慣となっていた。

 

父は未開発地域で事故に遭い、亡くなった。

つまり父はここで仕事していたのである。

若さ故の好奇心にも後押しされ、七海は時間が出来る度にB.A.D地区に侵入し、その荒廃した世界を見て回った。

抜け出した事や勝手に侵入している事がばれない辺りは流石姉妹、といったところか。

 

 

そんなある日の事―――

 

 

10年前  サテライト  B.A.D地区

 

「…今日はここまでかな」

 

その日、七海は午前訓練の後の数時間を使ってB.A.D地区を散策していた。

そろそろ戻ろうかと考えていたその時、爆発音が聞こえた。

 

「(今のは……感覚からしてデュエルのものだったけど……)」

 

七海は音のした方向へと向かう。

その場所に辿り着き、物陰から覗く。

七海の予想通り、デュエルをしていた様である。

決着はもうついた様で、負けた相手が倒れている。

 

「(! …あれって!?)」

 

七海はデュエルに勝利した人物に驚く。

 

「(テオドール……テオドール・ハイドフェルド!? 3年前の決闘王が何でこんな所に……)」

 

七海や鋼牙の世代で当時テオドール・ハイドフェルドを知らない決闘者はいなかったと言える。

16歳、自分達の年齢と殆ど変わらない王者、誰しもが注目したにも関わらず、突然の引退、まさに”幻の決闘王”、伝説的人物であった。

 

「……まさかこんな近くで1枚目を見つけるとはな」

 

「案外散らばった範囲は狭いのかもしれませんね」

 

テオドールの横には安藤、そしてもう一人。

 

「(あれは……社長!?)」

 

その人物の名は代野 勉(かの つとむ)

セブンスターズの一人であり、第3の試練で空が戦うはずだった男である。

彼は裏で活動しているテオドール達の代わりにアルカディア・ムーブメントの運営を任されていた。

 

「しかしこれが”大いなる力”……その欠片ですか、確かに凄い力でしたな」

 

代野が負けて倒れた相手の決闘盤に置かれているファントム・オブ・カオスを見ながら感心した様に頷く。

 

「そうでなければ手にする意味が無い……安藤」

 

「はい」

 

安藤が黒いガラスの板を取り出し、ファントム・オブ・カオスに押し当てると、中に吸収される。

 

「おお、上手くいきました。 数日間様子を見て、逃げられなければ成功です」

 

「よくやった安藤……そこにいるのは誰だ?」

 

「!?」

 

七海は反射的に身を隠す。

何故ばれたのか、これがサイコ・パワーによるものだという事はまだ未熟な七海には解らなかった。

 

「な、何ですって!? 一体何処から……」

 

「落ち着いてください、あそこの物陰です」

 

どうやら代野は気付いていない様である。

これだけで代野と二人の間のサイコ・パワーの実力差が窺える。

 

「出て来い、逃げようとしても無駄だ」

 

テオドールがそう言うと、七海は観念して物陰から出てくる。

 

「お前は!?」

 

「おや、知り合いですか? 代野さん」

 

驚いた様子の代野に安藤が尋ねる。

 

「この娘は西野 七海……西野 大地の娘です!」

 

「ほう……あの男のか、何故その娘がここにいる?」

 

テオドールが代野に尋ねると、代野はドキリと一瞬動揺する。

 

「あ、その……この娘は今年アルカディア・ムーブメントのサイコ・デュエリストとなりまして……」

 

「ほう、それは初耳ですね。 どうして私達に報告しなかったのですか? もしかしたら父親の事を調べにここへ来たのかもしれませんのに」

 

安藤が代野を問い詰めると、代野は苦笑いしながら答える。

 

「いや……その……当時はまだ子供だったので……そういう事は知らないかと……」

 

「またですか……好色なのは結構ですが、アルカディア・ムーブメントは貴方の私物ではありません、自重してください」

 

安藤が呆れた様子で注意する。

どうやら代野は七海に下心があったらしく、何れ自分のものにする為にテオドール達には黙って七海をアルカディア・ムーブメントに入社させたようである。

それも七海だけではないらしく、こういった事は今までに何度かあった事らしい、とんだ職権乱用である。

 

「どういう事なの! 貴方達はここで何をしていたの! 父の何を知っているの!」

 

七海が叫ぶ。

この者達と父の間で何かあった、七海はそう確信した。

 

「女、お前が”西野 大地”の娘だという事だけで俺達がお前を消す理由としては十分だ……そしてお前は見てはいけないものを見た……お前には消えて貰う、質問はあの世で父親に直接する事だな」

 

七海は感じ取る、テオドールの殺気を。

それを感じた瞬間、自分の中で警報が鳴る、”逃げなければ”と。

七海は後ろへと全力で駆け出す。

 

「お、追います!」

 

代野が駆け出そうとすると、テオドールが腕で制止する。

 

「お前達は各々の仕事に戻れ、あの女は俺が一人で仕留める……西野 大地には手間を掛けさせられた借りがあるのでな。 それに今は機嫌がいい、少し遊びたくなった」

 

「そうですか、そう仰られるなら、私達は先に引き上げさせて貰います。 研究がありますから……」

 

「……解りました」

 

安藤は嬉々として、代野は不服そうに引き上げていった。

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

「はあ…はあ……」

 

七海は瓦礫の山を背に座り込んでいた。

今まで感じた事がない恐怖、七海はアルカディア・ムーブメントに入ってから他の者にサイコ・パワーで負けた事はなかった。

七海は実力の差を思い知る。

 

「(テオドール・ハイドフェルドがサイコ・デュエリストだったなんて……一体この会社は何なの? お父さんに何があったの?)」

 

「見つけたぞ」

 

七海は心臓が飛び出したかの様に感じた。

声の方に振り向くと、そこにはテオドールが立っていた。

 

「ど……どうして…」

 

「サイコ・パワーでお前が垂れ流している”恐怖”を追跡すれば造作の無い事だ……どうした? 抵抗もしないのか?」

 

「(このまま殺されるなら……いや! 私には空がいる! ここで……空を残して死ぬ訳にはいかない!)」

 

テオドールが迫って来ると、七海は腕に装着していた決闘盤を展開させ、構える。

 

「おお、そうでなければつまらん……足掻いてみせろ」

 

テオドールは笑みを浮かべ、決闘盤を展開し、構える。

 

「(お父さん、お母さん……空、私に力を…)」

 

 

「「デュエル!!!」」

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

数ターン後

 

「ターンエンド、そらどうした? もう後が無いぞ?」

 

LP:8000

手札:1

モンスター

・エクスプロード・ウィング・ドラゴン

・ランス・リンドブルム

魔法・罠

・無し

 

テオドールは七海に決定打を与えず、甚振る様に攻撃していた。

 

「く……私の……ターン…ドロー!」

 

七海 手札:0+1

 

「…カードを伏せてターンエンド」

 

LP:2300

手札:0

モンスター

・クレボンス

魔法・罠

・セット

 

「俺のターン、ドローだ」

 

テオドール 手札:1+1

 

「《アックス・ドラゴニュート》を召喚」

 

テオドールの場にアックス・ドラゴニュートが現れる。

 

ATK:2000

 

「バトル! アックス・ドラゴニュートで攻撃!」

 

アックス・ドラゴニュートが大斧を振り上げ、道化師の様なサイキック族モンスター、クレボンスへと迫る。

 

「クレボンスの効果! LPを800払い、攻撃を無効に!」

 

七海 LP:2300→1500

 

アックス・ドラゴニュートがクレボンスに大斧を振り下ろすと、クレボンスはシールドを張り、攻撃を防ぐ。

 

「ランス・リンドブルムで攻撃!」

 

柄の両方が尖ったランスを持ったドラゴンがクレボンスに突きかかる、

 

「クレボンスの効果で無効…!」

 

七海 LP:1500→700

 

「LPが足らなくなったな、これで最後だ! エクスプロード・ウィング・ドラゴンで攻撃! 《キング・ストーム》!」

 

エクスプロード・ウィング・ドラゴンが放った炎がクレボンスに迫る。

 

「罠カード《ダメージ・ダイエット》を発動! このターン自分が受ける全てのダメージは半分になる!」

 

「エクスプロード・ウィング・ドラゴンの効果発動! このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つモンスターとこのカードが戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊、そしてその攻撃力分のダメージを相手LPに与える」

 

火炎がクレボンスを消滅させ、七海を襲う。

 

「きゃああ!!! …うう」

 

七海 LP:700→100

 

とうとう限界なのか七海は膝をつき、そのまま座り込んでしまう。

 

「ハッハッハ! 凌いだか! ターンエンド!」

 

LP:8000

手札:1

モンスター

・エクスプロード・ウィング・ドラゴン

・ランス・リンドブルム

・アックス・ドラゴニュート

魔法・罠

・無し

 

「(ここまでなの……?)」

 

絶望的状況に七海の戦意が尽きようとしたその時、七海とテオドールの間に何かが投げ込まれる。

それが破裂すると大きな音と共に白い煙が広がる。

 

「な、何!?」

 

「七海ちゃん! 逃げるぞ!」

 

突然テオドールではない男性の声が上がると、七海は体を抱え込まれる。

 

「え!? な、何なの!?」

 

「貴様その声! ”ディー”だな! ようやく姿を現したか!」

 

テオドールが白煙の中で声を上げる。

ディーと呼ばれた男はそれを無視してその場を離れた。

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

「ここまで来れば大丈夫だろう……悪いな、途中で走らせてしまって。 流石の俺でも人一人担いで逃げるのはキツイからね。 追手の心配はしなくていい、あの煙は特殊なジャマーになっている。 決闘盤の通信からサイコ・パワーまで何でも狂わせるから奴は追ってこれん」

 

七海と男はここら一帯では珍しい、形が残った建物の中にいた。

中はボロボロだがかなり大きい建物である。

男は瓦礫に腰掛ける。

七海は息を整えて男に向き合う。

 

「…まずは助けてくださってありがとうございます……失礼ですけど、貴方は一体誰ですか? 私の事を知ってるみたいですけど……」

 

七海は感謝しつつも、訝しそうに男を見る。

 

「覚えてないか、君が生まれた時や小さい頃に会ってるんだがな」

 

「……もしかして父の知り合いの方ですか!?」

 

七海は驚いた表情で男に詰め寄る。

 

「ああ、そうだよ七海ちゃん、大地さんにはよくお世話になってたよ、何十年もの付き合いだった」

 

「…そうですか……失礼しました、改めてありがとうございます、助かりました」

 

七海は丁寧にお辞儀をする。

 

「構わんさ、それにしても七海ちゃん大きくなったね、担いでる時おじさんドキドキしちゃったよ、フフフ」

 

「……失礼します」

 

七海はそう言って出て行こうとする。

 

「待って待って、冗談だって!」

 

「……セクハラですよ」

 

七海は男を少し睨みながら再び元の位置へと戻る。

 

「いや、すまない、若い子見るとついからかってみたくなるんだ。 俺の息子がからかうといい反応するもんだからさ」

 

「…不憫ですね、息子さん……」

 

男は一回咳払いをすると自己紹介をする。

 

「俺の名はディー、見ての通り決闘者だ」

 

ディーは左腕の決闘盤を翳す。

 

「……どう考えてもそれ偽名ですよね、おじさん日本人じゃないですか」

 

「その通り、これはあだ名だ」

 

「ディー……D? どうしてディー何ですか?」

 

七海はディーに疑問を尋ねる。

 

「色んな意味がある、デストロイのD、ドリームのD、後は……大好きおじ様のDかな。 出来れば最後の意味で呼んでほしい、特に君みたいな若い娘には……フフフ」

 

「失礼します」

 

再び七海は立ち去ろうとする。

 

「待って待って! 冗談だよ! 解んないかなぁ……」

 

「…解りません」

 

「やり辛いなぁ」

 

ディーは溜息を一つ吐くと、七海に質問をする。

 

「ところで、君はここで何をしていたんだい? どう考えても女の子が一人で来る様な場所じゃないと思うが……」

 

ディーにそう尋ねられると、七海はアルカディア・ムーブメント入社からここまでの経緯を話す。

 

「……そうかい、大地さんはいい娘を持ったなぁ……だが深入りしすぎたな、まさかテオドールに遭遇しちまうとは……」

 

「ディーさんはここで何をしていたんですか?」

 

今度は七海がディーに尋ねる。

 

「さっきみたいに”おじさん”でいいよ、テオドールと一緒だ、テオドールが倒した相手から奪ったカード、”ファントム・オブ・カオス”を回収しに来たんだが……先を越されてしまった」

 

「…おじさん、聞きたい事が沢山あります。 テオドールはあそこで何をしていたんですか? ”ファントム・オブ・カオス”って何なんですか? ……昔父に何があったんですか?」

 

七海は不安そうな顔でディーに問いかける。

 

「……出来ればもう何も聞かずに帰って欲しいが……引く気は無いのか?」

 

七海は真っ直ぐディーを見ながら頷く。

七海はどうしても知りたかった。

 

「……解った、教えなければ君は大地さんの事を調べようとしてまた危険な目に遭う……教えよう、だが覚悟して聞いてくれ、”ファントム・オブ・カオス”や大地さんの事を話すとなると、それに関わる事全て話さなければならなくなる。 それは信じ難いような話だ……少しでも信じられない、馬鹿らしい、そう思ったら聞くのを止めて帰る意志を示してくれ、送っていこう」

 

そう言ってディーは話始める。

ファントム・オブ・カオスの事、”大いなる力”の事、テオドールの事、父親の事、そして―――”真実”の一部を。

 

「…嘘……そんな……そんな事って……」

 

七海は驚愕した様子で呟く。

 

「信じられなければそれでいい、送っていく」

 

「こんな事聞かされたら……信じられなくても引けませんよ!」

 

七海は怒りを顕にする。

だがそれはディーに対してではない。

 

「……俺がこの話をしたのは、大地さんが最期まで立派な人だった事を君に知って貰いたかったからだ……君がこの事に関わる必要は無い……出来ればこの事を忘れて平穏に暮らして欲しいと俺は思ってるよ……戦うのは俺達で十分だ」

 

「そんな事―――」

 

「見つけたぞ」

 

突然入口からの声。

七海とディーが入口に振り返ると、そこにはテオドールが立っていた。

 

「テオドール!?」

 

「…サイコ・パワーは使えないはずだが、どうやって追って来た?」

 

ディーが立ち上がり、テオドールを睨む。

 

「俺は運に恵まれている……サイコ・パワーを使わずとも西野 七海を見つけ、そしてディー、お前まで見つけられるとはな」

 

テオドールはディーを指差す。

 

「ディー、この1年間、随分と探させてくれたな……渡して貰うぞ、”もう1体の竜”を!」

 

「残念ながらもう俺の手元には無い、持ってても渡さんがな」

 

「フン! ならば捕らえて場所を吐かせるまでだ!」

 

テオドールが決闘盤を展開し、構える。

 

「七海ちゃん、下がってな。 ……こいつとのデュエルは骨が折れる」

 

「おじさん! 気をつけて!」

 

そう言ってディーは七海を下がらせ、自分も決闘盤を展開し、構える。

 

 

「「デュエル!!!」」

 

 

先攻 テオドール

 

「俺のターン、ドロー!」

 

テオドール 手札:5+1

 

「俺はモンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンド」

 

LP:8000

手札:3

モンスター

・セット

魔法・罠

・セット

・セット

 

「らしくない布陣じゃないか、俺のターン! ドロー!」

 

ディー 手札:5+1

 

「このカードは相手の場にのみモンスターが存在する場合、レベル4として特殊召喚出来る! 《レベル・ウォリアー》を特殊召喚!」

 

ディーの場にレベル・ウォリアーが現れる。

場に立つと、胸部と頭部の星のマーク全てが点滅する。

 

ATK:300

 

「そしてチューナーモンスター《復讐の女戦士ローズ》を召喚!」

 

ディーの場に復讐の女戦士ローズが現れる。

 

ATK1600

 

「レベル4《レベル・ウォリアー》に、レベル4《復讐の女戦士ローズ》をチューニング!」

 

ローズが自身を4つの光輪へと変えると、レベル・ウォリアーを囲み、4つの光、そして光の柱へと変える。

 

「戦士の決断! 今! 赤く滾る炎を宿す真紅の刃となる! 熱き波濤を超え……現れよ! シンクロ召喚! 炎の鬼神! 《クリムゾン・ブレーダー》 !」

 

光の柱から現れたのは背と腰にマントを付け、両手に長剣を持った赤い剣士。

その赤い剣士は両手の剣を振り、テオドールに対して構える。

 

ATK:2800

 

「行くぞ! クリムゾン・ブレーダーでセットモンスターを攻撃! 《レッドマーダー》!」

 

クリムゾン・ブレーダーがセットモンスターを斬りつける。

 

セットモンスター:仮面竜

 

「《仮面竜(マスクド・ドラゴン)》の効果発動! 戦闘破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族を1体特殊召喚出来る……俺はもう1体の《仮面竜》を特殊召喚!」

 

テオドールの場に仮面を被った様に見える赤いドラゴンが現れる。

 

ATK:1400

 

「だがそれを次に繋ぐ事は出来ん! クリムゾン・ブレーダーの効果! 戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、次の相手ターン、相手はレベル5以上のモンスターを召喚・特殊召喚する事が出来ない!」

 

「(凄い…! これならテオドールの強力なドラゴンを封じる事が出来る…!)」

 

七海はディーの戦術に驚くが、テオドールは不敵な笑みを浮かべている。

 

「ほう、ならば今召喚するとしよう。 罠カード《血の代償》を発動、500LPを払う事で自分のメインフェイズ、または相手のバトルフェイズ時に通常召喚を行える……仮面竜をリリース! 《ストロング・ウィンド・ドラゴン》をアドバンス召喚!」

 

テオドール LP:8000→7500

 

仮面竜が消えると、テオドールの場に逞しい筋肉質な体をした緑のドラゴンが現れる。

 

ATK:2400

 

「くっ! クリムゾン・ブレーダーの”穴”を抜けたか……」

 

「それだけではない! ストロング・ウィンド・ドラゴンの効果発動! ドラゴン族をリリースしてこのカードのアドバンス召喚に成功した時、このカードの攻撃力はリリースしたドラゴン族1体の元々の攻撃力の半分の数値分アップする! 仮面竜の攻撃力は1400、よって攻撃力は―――」

 

ATK:2400→3100

 

「いけない!? クリムゾン・ブレーダーの攻撃力を上回った!」

 

七海は慌てるが、ディーは落ち着いたまま七海に振り向く。

 

「七海ちゃん、心配いらんよ、まだデュエルは始まったばかりだ、それにこんな”小僧”に負ける程年は取ってない」

 

「小僧? 誰の事だ?」

 

ディーの言葉にテオドールが反応する。

 

「お前の事だテオドール、決闘王だろうが何だろうが、俺から見れば17の洟垂れだ……いや、今は19か? まあどっちも一緒だな」

 

「……その言葉を言った事を後悔するんだな」

 

テオドールの顔から笑みが消える。

 

「俺はカードを3枚伏せてターンエンド!」

 

LP:8000

手札:1

モンスター

・クリムゾン・ブレーダー

魔法・罠

・セット

・セット

・セット

 

「俺のターン! ドロー!」

 

テオドール 手札:2+1

 

「《ランス・リンドブルム》を召喚!」

 

テオドールの場にランス・リンドブルムが現れる。

 

ATK:1800

 

「バトル! ストロング・ウィンド・ドラゴンで攻撃! 《ストロング・ハリケーン》!」

 

ストロング・ウィンド・ドラゴンが口から突風の様な炎を放つと、クリムゾン・ブレーダーは炎に包まれ、破壊される。

 

「ぐお!」

 

ディー LP:8000→7700

 

「まだだ! ランス・リンドブルムで攻撃!」

 

ランス・リンドブルムがディーに向かって槍を突き出す。

 

「ぐわぁぁぁ!!!」

 

ディー LP:7700→5900

 

「おじさん!?」

 

ディーはランス・リンドブルムの攻撃を受け、膝をつく。

 

「サイコ・デュエリストではない貴様に何処まで耐えられるかな? ターンエンド!」

 

LP:7500

手札:2

モンスター

・ストロング・ウィンド・ドラゴン

・ランス・リンドブルム

魔法・罠

・血の代償

・セット

 

「おじさん! しっかりして!」

 

七海は必死に呼び掛ける。

ディーは立ち上がると、苦笑いしながら七海に振り向く。

 

「かっこ悪いとこ見せてしまったな……」

 

「そんな事言ってる場合じゃ……」

 

「これ位問題ないさ、俺のLPと、カードがここにある限りな! 俺のターン! ドロー!」

 

ディー 手札:1+1

 

「罠カード《ロスト・スター・ディセント》を発動! 自分の墓地からシンクロモンスターのレベルを1つ下げ、攻撃力を0にし、守備表示で特殊召喚する! 来てくれ! 《クリムゾン・ブレーダー》!」

 

ディーの場に再びクリムゾン・ブレーダーが現れる。

 

DEF:2600→0

レベル8→7

 

「チューナーモンスター《アタック・ゲイナー》を召喚!」

 

続けてディーの場にアタック・ゲイナーが現れる。

 

ATK:0

 

「レベル7《クリムゾン・ブレーダー》に、レベル1《アタック・ゲイナー》をチューニング!」

 

アタック・ゲイナーが自身を1つの光輪へと変えると、クリムゾン・ブレーダーを囲み、7つの光、そして光の柱へと変える。

 

「集いし心が、更なる響きを轟かす! シンクロ召喚! 打ち砕け! 《ギガンテック・ファイター》!」

 

光の柱から現れたのは、白いアーマーに身を包んだ巨体の戦士。

場に降り立つと、右拳を地面に叩き込み、衝撃波を発生させる。

 

ATK:2800

 

「アタック・ゲイナーの効果発動! シンクロ素材として墓地に送られた時、相手の場のモンスター1体の攻撃力を1000ポイント下げる! 対象は《ストロング・ウィンド・ドラゴン》!」

 

「何!?」

 

ATK:3100→2100

 

「ギガンテック・ファイターの効果! 墓地に存在する戦士族の数だけ攻撃力を100ポイントアップする! 墓地に存在する戦士族は4体! よってギガンテック・ファイターの攻撃力は―――」

 

ATK:2800→3200

 

「さらに装備魔法《アサルト・アーマー》を《ギガンテック・ファイター》に装備! そして効果発動! このカードを墓地に送る事でこのターン装備モンスターは2回攻撃が出来る!」

 

ディーが装備魔法を墓地に送ると、ギガンテック・ファイターが金色のオーラに包まれる。

 

「バトル! ギガンテック・ファイターでストロング・ウィンド・ドラゴンを攻撃! 《ギガンテック・フィスト》!」

 

ギガンテック・ファイターが咆哮を上げ、右拳を左掌に打ち付けると、ストロング・ウィンド・ドラゴンにに向かって右拳を突き出す。

それをまともに受けたストロング・ウィンド・ドラゴンは殴り飛ばされ、破壊される。

 

「ちぃ!」

 

テオドール LP:7500→6400

 

「もう一度くらえ! 《ギガンテック・フィスト》!」

 

ギガンテック・ファイターがランス・リンドブルムに振り向くと、同じ様に右拳を叩き込み、破壊する。

 

「おのれ…!」

 

テオドール LP:6400→5000

 

「ターンエンドだ!」

 

LP:5900

手札:0

モンスター

・ギガンテック・ファイター

魔法・罠

・セット

・セット

 

「(凄い…! 決闘王のテオドールに逆転するなんて……)」

 

七海は驚きを隠せない。

自分がまったく歯が立たなかったテオドールに逆転してしまったのだ。

七海は一人の決闘者として、ディーに尊敬の念を抱いた。

 

「調子に乗るな! ディー! 俺のターン! ドロー!」

 

テオドール 手札:2+1

 

「魔法カード《調和の宝札》を発動! 手札から攻撃力1000以下のドラゴン族チューナー1体を捨て2枚ドロー!」

 

捨てたカード

インフルーエンス・ドラゴン

 

テオドール 手札:1+2

 

「そこまでだディー! ”王”の力を見せてやろう!」

 

「またそれか……テオドール、お前は”王”が何なのか解って言っているのか?」

 

ディーは呆れたような顔をした後、急に真顔になり、テオドールに問いかける。

それを聞いたテオドールは大笑いする。

 

「ハッハッハッハッハ! それを”王”に聞くか! ならば今教えてやる! 相手の場にのみモンスターが存在する場合、攻守を半分にして特殊召喚出来る! 《バイス・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

テオドールの場にバイス・ドラゴンが現れる。

 

ATK:2000→1000

 

「チューナーモンスター《デブリ・ドラゴン》を召喚!」

 

テオドールの場にデブリ・ドラゴンが現れる。

 

ATK:1000

 

「デブリ・ドラゴンの効果発動! 召喚に成功した時、墓地の攻撃力500以下のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する! チューナーモンスター《インフルーエンス・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

続けてテオドールの場に青い竜人のモンスターが現れる。

 

ATK:300

 

「行くぞ! レベル5《バイス・ドラゴン》に! レベル3《インフルーエンス・ドラゴン》をチューニング!」

 

インフルーエンス・ドラゴンが自身を3つの光輪に変えると、バイス・ドラゴンを囲み、5つの光、そして光の柱へと変える。

 

「王者の鼓動! 今ここに列をなす! 天地鳴動の力を見るがいい! シンクロ召喚!! 我が前に姿を現せ! 紅蓮魔竜! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!!!」

 

光の柱から現れたのは紅蓮魔竜、レッド・デーモンズ・ドラゴン。

 

ATK:3000

 

「レッド・デーモンズ…!」

 

「ハッハッハッハ! どうだ? 自分達が創り上げたカードと対峙する気分は? 安心するがいい、このレッド・デーモンズも、もう1体の竜も、この俺の僕として使ってやる!」

 

テオドールは高々と笑う。

 

「(こ、これがおじさんが言っていた”大いなる力”に対抗する為の竜の1体……)」

 

七海はこれまでに無い威圧感に耐えられず、その場に座り込んでしまう。

 

「(自分の……自分の力がこんなにも弱いなんて……)」

 

七海は自分の力不足を痛感する。

優秀だ、将来有望だ、今まで言われてきたこれら言葉が七海の中で虚しく響く。

 

「血の代償の効果発動! LPを500払い、《ドル・ドラ》を通常召喚!」

 

テオドール LP:5000→4500

 

テオドールの場に両腕が竜の頭となった奇形の竜人が現れる。

 

ATK:1500

 

「レベル3《ドル・ドラ》に、レベル4《デブリ・ドラゴン》をチューニング!」

 

デブリ・ドラゴンが自身を4つの光輪に変えると、ドル・ドラを囲み、5つの光、そして光の柱へと変える。

 

「王者の叫びが木霊する! 勝利の鉄槌よ、大地を砕け! シンクロ召喚! 羽ばたけ! 《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》!」

 

光の柱から現れたのはエクスプロード・ウィング・ドラゴン。

レッド・デーモンズ・ドラゴンと並んで咆哮を上げる。

 

ATK:2400

 

「2体目!? でもまだおじさんの場には攻撃力3200のギガンテック・ファイターがいる…!」

 

ギガンテック・ファイターはシンクロ召喚が生み出された初期に創られたシンクロモンスターを代表するモンスターである。

有名なカードであるので、七海も知っていた。

ギガンテック・ファイターは戦闘破壊され、墓地に送られた時、墓地の戦士族モンスターを特殊召喚する効果を持つ。

そしてその効果は自身を対象にする事も出来るので、間接的に戦闘耐性を持つ事になる。

 

「女、ギガンテック・ファイターの事を俺が知らないとでも思ったか? 何の為に俺がエクスプロード・ウィング・ドラゴンを召喚したと思っている?」

 

「!? まさか…!?」

 

「そのまさかだ! バトル! エクスプロード・ウィング・ドラゴンでギガンテック・ファイターを攻撃!《キング・ストーム》!!」

 

エクスプロード・ウィング・ドラゴンが口から火炎を放つ。

 

「罠カード《シンクロ・ストライク》を発動! シンクロモンスター1体の攻撃力をエンドフェイズ時までシンクロ素材×500ポイントアップさせる! 対象は《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》!」

 

ATK:2400→3400

 

「いけない!? あのモンスターの効果は!? おじさん!!!」

 

「もう遅い! エクスプロード・ウィング・ドラゴンの効果発動! このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つモンスターとこのカードが戦闘を行う場合、ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊! そしてその攻撃力分のダメージを相手LPに与える!」

 

火炎がギガンテック・ファイターを包み、焼き尽くすと、そのままディーを襲う。

 

「うおぉぉぉーーー!!!」

 

ディー LP:5900→2700

 

炎に包まれるディー。

炎が消えると、その場に両手両膝をつく。

 

「おじさん!!?」

 

「ほう、まだ意識があるのか、だがこれで終わりだ! レッド・デーモンズ・ドラゴンで直接攻撃! 《灼熱のクリムゾン・ヘルフレア》!!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴンが口から火炎を放つ。

 

「ト……罠発動! 《ガード・ブロック》! ダメージを0にして1枚ドロー!」

 

ディー 手札:0+1

 

ディーは力を振り絞り、罠を発動させ攻撃を防ぐ。

 

「凌いだか、ターンエンドだ!」

 

LP:4500

手札:1

モンスター

・レッド・デーモンズ・ドラゴン

・エクスプロード・ウィング・ドラゴン

魔法・罠

・血の代償

 

「どうだディー! これが答えだ! ”王”とは全ての者を蹂躙し! 屈服させ! 畏怖される”力”を持って頂点に立つ者の事だ! そしてこの俺はその”力”を持っているのだ! ハッハッハッハ!」

 

テオドールは勝ち誇った様に笑い声を上げる。

ディーは立ち上がり、テオドールを睨む。

 

「…不正解だ、それは”王”じゃなくて……”小僧”だ!!! 俺のターン! ドロー!!!」

 

ディー 手札:1+1

 

「…何だと?」

 

テオドールの顔が怒りで歪む。

 

「何度でも言ってやる! それは”王”じゃない! お前は”玩具”を与えられ、調子に乗ってはしゃいでいるだけの”小僧”だ! 罠カード《無謀な欲張り》を発動! これから先の2ターン、ドローフェイズをスキップする事で2枚ドロー!」

 

ディー 手札:2+2

 

「ふざけるな!!! ならば貴様が言う”王”とは何なのだ!!!」

 

再び小僧呼ばわりされたテオドールは怒り心頭、ディーに指を突きつける。

 

「…俺は……”王”を……”決闘王”を知っている! ”決闘王”はな、ただ”強い”だとか、”偉い”だとか……そんなもんじゃない……”決闘王”は”先導者”だ!」

 

「先導者……」

 

「七海ちゃん、デュエル、楽しいよな?」

 

「え」

 

突然問いかけられて七海は反応が一瞬遅れる。

 

「た、楽しいです」

 

「だよな! テオドール、お前にも昔はあったんじゃないか? こんな気持ちが……」

 

ディーは自分の胸を押さえる。

 

「デュエルは俺達に色んな物を齎してくれる……デュエル中に湧き上がる熱い気持ち、勝った時の嬉しさ、負けた時の悔しさ、その後の好敵手(とも)との語らい、そこから生まれる”絆”……こんな素晴らしい物がもう100年近く続いているんだ! 何故だと思う?」

 

七海は語るディーを見る。

その姿はまるで”子供”の様に見えた。

テオドールの様な我侭意のままを通そうとする”小僧”とは違う、自分を待っている”見果てぬ未来”を信じて疑わない、夢を語る”少年”に見えた。

 

「それは”決闘王”がいたからだ! ”決闘王”は決闘者の頂点、皆の憧れだ! 皆が見ているんだ! 皆”決闘王”を追いかけるんだ! ”決闘王”は輝きながら皆の前を走る……何時か限界が来るまで……自分を越える決闘者が現れるまで!」

 

ディーは声を張り上げる。

 

「そうやって歴代の”決闘王”を中心に、決闘者達が熱き魂をぶつけ合い! 追いかけて、追い越して、輝きを放ち、この100年、デュエルという”道”を走り続けてきたんだ! そしてこれからも走り続ける! …テオドール、”王”はな、皆の”光”なんだ! 皆に”未来”を示し、皆の為に輝き、皆の前を走る……この素晴らしきデュエルが絶えない様に……”未来”へと続く様に! これが……俺が信じてついて来た”決闘王”の……”王”の姿だ!!!」

 

「……何を言い出すかと思えば……ふざけるなよ!!!」

 

テオドールは激昂して叫ぶ。

 

「貴様が言う”決闘王”とはあの”老いぼれ”の事か! ろくに動けもしない! 笑わせるなよ! いいか? この世界は弱肉強食! 弱者を葬り、蹴落とし、最後に”頂点”に立っていた者が”王”だ!!! 貴様の言う事は全て”弱者の馴れ合い”なんだよ!!!」

 

テオドールはそう言い放つ。

ディーの言葉はテオドールには届いていなかった。

 

「…テオドール、お前はデュエル界の未来を先導する事が出来るはずだった……ずっと、ずっと先まで……”大いなる力”は危険だ! お前は今、それを復活させようとする事でデュエル界の……この世界の”未来”を閉ざそうとしている……俺はお前を止めてみせる! 俺は……”未来”を救う!!!」

 

「やってみるがいい! 俺は貴様を葬り、”全て”を手に入れる!」

 

デュエルが再会される。

しかしディーの場にはカードは0、手札は4枚あるが無謀な欲張りの効果で次のドローは無い。

つまり、ディーは手持ちの4枚で勝負を決めなければならない。

ディーの眼には”覚悟”があった。

たとえ自分がどうなろうともテオドールを倒す、そんな”覚悟”が。

 

「《切り込み隊長》を召喚!」

 

ディーの場に切り込み隊長が現れる。

 

ATK:1200

 

「切り込み隊長の効果発動! 召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚出来る! 来い! 《トライデント・ウォリアー》!」

 

ディーの場に三叉槍を持った戦士が現れる。

 

ATK:1800

 

「はっ! そんなモンスターで何が出来る! チューナーでもなければ融合素材の組み合わせでもない! 諦めろ! そして俺に跪け!」

 

ディーの場を見て笑うテオドール、だがディーは真剣な表情を変えず、1枚のカードを手札から取り出す。

 

「このカードは”大いなる力”に対抗する為に俺と大地さんで創り上げたカードだ」

 

「(お父さんと!?)」

 

七海はディーから父親がディーとアルカディア・ムーブメントで一緒に活動していたのは聞いたが、カードまで創っていたとは聞いていなかった。

 

「だがこれは”失敗作”だ。 カードにサイコ・パワーを込め、俺の様なサイコ・パワーを持たない決闘者でも”大いなる力”と戦える様にする……そういうコンセプトだったんだが……」

 

ディーの表情が曇る。

 

「このカードを使うと相手だけではなく、使用者まで傷つけるというとんでもない物に仕上がってしまった。 俺達はこれを”闇のカード”と呼び、企画自体を凍結させた……俺は”未来”を守る為、お前に対してこれを使う事に躊躇いはない! 行くぞ!」

 

ディーは手札を1枚捨て、カードを発動する。

 

「速攻魔法《超融合》を発動! 手札を1枚捨て、自分・相手の場から融合素材を墓地へ送り、融合を行う! お前の《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》と俺の《切り込み隊長》を超融合!!!」

 

「な、何だと!?」

 

ディーとテオドールの間の空間が歪む―――いや、歪むなどという生易しい物ではなかった。

それはとてつもない”力”を発している。

それをこの場にいる全員が感じた瞬間、とてつもない”力”で辺りの物を引き寄せ始める。

それは正に”ブラックホール”と言うに相応しい物であった。

 

「うおぉぉぉーーー!!!」

 

「ぐわぁぁぁーーー!!!」

 

突然、決闘場の二人が叫び声を上げる。

 

「な、何!? 何が…!?」

 

七海は感じる。

二人の”力”があの”ブラックホール”に吸い込まれていくのを。

そして場の4体のモンスター達。

それぞれ吸い込まれまいと耐えていたが、とうとう力尽きたのかエクスプロード・ウィング・ドラゴンと切り込み隊長が吸い込まれてしまう。

 

「おおお!!! …くっ! 融合召喚! 現れろ! 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!!!」

 

”ブラック・ホール”が閉じ、その場から波動が放たれ、ドラゴエクィテス が空間を開いて現れる。

 

ATK:3200

 

「な、何だこの竜は……もしやこれが!?」

 

「残念ながら……”もう1体の竜”じゃない……このドラゴエクィテスは……その”プロトタイプ”だ」

 

テオドールもディーも超融合の力によりかなり消耗してしまっている。

特にディーはサイコ・デュエリストではないせいか、息は荒く、もはや立つ事も出来ずに片膝をついてしまっている。

 

「今のは一体何だったの……どうしておじさんがこんな事に……」

 

七海はディーのただならぬ様子に不安を隠せない。

目尻には涙が浮かんでいる。

 

「大丈夫だ七海ちゃん……俺は……勝つ!!!  ドラゴエクィテスの効果発動! 1ターンに1度、墓地に存在するドラゴン族シンクロモンスター1体をゲームから除外し、エンドフェイズ時までそのモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る事が出来る! 俺はお前の墓地の《エクスプロード・ウィング・ドラゴン》を除外して名前と効果を得る! 《エフェクト・シンクロ》!!!」

 

ドラゴエクィテスの前に半透明のエクスプロード・ウィング・ドラゴンが現れると、ドラゴエクィテスの体に重なり、炎の様なオーラが湧き出る。

 

「エクスプロード・ウィング・ドラゴンの効果だと!?」

 

「その通りだ! これで……これで決着をつける! バトル! ドラゴエクィテス(エクスプロード・ウィング・ドラゴン)でレッド・デーモンズ・ドラゴンを攻撃! 《キングストーム・ジャベリン》!!!」

 

ドラゴエクィテス(エクスプロード・ウィング・ドラゴン)が槍に炎を纏わせ、レッド・デーモンズ・ドラゴンへと投擲する。

 

ドラゴエクィテス(エクスプロード・ウィング・ドラゴン)の効果発動! このカードより攻撃力が下の(レッド・デーモンズ・ドラゴン)を破壊し、その攻撃力分のダメージを相手に与える!」

 

槍がレッド・デーモンズ・ドラゴンを貫き、そのままテオドールへと命中する。

この時、超融合により融合召喚されたドラゴエクィテスには超融合のサイコ・パワーが帯びていた。

 

「ぐわぁぁぁーーー!!!」

 

テオドール LP:4500→1500

 

テオドールはドラゴエクィテスがサイコ・パワーが帯びている事を知らない上、超融合により大半の力を吸収されていた。

まともにダメージを受け、建物の入口付近に立っていたテオドールは建物外まではじき出される。

 

「ぐは!!!」

 

そして地面に叩きつけられた。

 

「ぐ……あ……」

 

そして限界がきたのか、ディーもその場に倒れこんでしまう。

 

「おじさん!?」

 

七海が駆け寄り、容態を見る。

まだ意識は保っているが、ダメージが酷い。

未だに意識があるのが不思議な位である。

 

「早く手当てをしないと……!?」

 

七海がふとテオドールの方を見ると、何とテオドールもまだ意識がある。

だが立ち上がれないようで、上体を起こしてはいるが、立ち上がろうとするとバランスを崩し、腕をつく。

 

「(何故俺にサイコ・パワーのダメージが……あの”闇のカード”とやらのせいか)」

 

テオドールはディー達を見る。

 

「(奴の場には攻撃力1800のトライデント・ウォリアー……俺の場にはモンスターがいない……LPは1500……これをくらえば俺の負け……俺の負け? 馬鹿な!!! そんな馬鹿な!!!)」

 

「奴に……奴に止めを……」

 

ディーは力を振り絞り、攻撃宣言を行う。

 

「ト、トライデント……ウォリアー……で……」

 

この瞬間、テオドールが咆哮を上げる。

 

「そんな馬鹿な事があって堪るかァーーー!!!」

 

「ぐう……」

 

「きゃ!」

 

テオドールからサイコ・パワーが放出される。

だが弱い、テオドールには殆ど力が残っておらず、怒りによって搾り出したそれはディーと七海を怯ませる程度であった―――が、”ある物”に止めを刺すには十分であった。

 

「な、何? この音……」

 

「ま、まずい…! 七海ちゃん……逃げろ―――」

 

時既に遅し、ディーと七海が中にいる建物が崩れ始めたのだ。

60年以上前のゼロ・リバースを耐え抜いただけでも奇跡に近いのに、歳月による老朽化、サイコ・デュエルによる衝撃、そしてテオドールのサイコ・パワーが止めとなり、とうとう崩壊を始めたのだ。

 

「(このままじゃ瓦礫の下敷きに!? どうすれば―――)」

 

七海はディーを見る。

この人を死なせてはいけない、デュエル界の、世界の”未来”を救う力を持つこの人を、七海はそう思った瞬間、自身のデッキからカードを引く。

 

「速攻魔法―――」

 

この瞬間、建物は完全に崩壊し、全てが瓦礫となる。

テオドールは暫くして立ち上がると、瓦礫の前に立つ。

 

「フ、フフフ……アーハッハッハッハッハ!!! 俺の……俺の勝ちだ!!! ……ウオォォォーーーーー!!!」

 

テオドールは高らかに笑ったかと思いきや、突然怒声を上げる。

生き残った故の”勝ち”、だが彼は”勝負(デュエル)で負けて”いたのだ。

今まで無敗を誇っていた彼のプライドが大きく抉られた瞬間だった。

 

「………ん?」

 

テオドールはふと手前の瓦礫の山に眼をやると、なにやら光る物が瓦礫の間に落ちているのが見える。

テオドールは瓦礫をどかし、それを手に取る。

それは七海が誕生日に空から貰ったロケットペンダントだった。

テオドールはそれを開けると、このロケットの持ち主が七海だと理解した。

 

「……俺は……この屈辱を決して忘れんぞ……戒めとしてこれは貰っておく……」

 

テオドールはそう言うと、ロケットをしまい、重い体を引きずりながらこの場を後にした。

 

 

* * *

 

 

テオドールとデュエルを行った場所から少し離れた場所に、ディーと七海はいた。

七海は自分が発動したカードに眼をやる。

 

「(”緊急テレポート”……まさか本当に成功するなんて……サイコ・デュエルって、本当に何なのかしら……)」

 

七海は自分が使った力に驚いている。

 

「な……七海ちゃん……」

 

その声に考え込んでいた七海は我に返る。

 

「おじさん!? おじさんしっかりして!」

 

ディーは殆ど虫の息であった。

七海は感じ取ってしまう、この人はもう長くは持たないと。

テオドールのサイコ・パワー、そして闇のカード”超融合”、それらはディーから殆どの生命力を奪い去った。

 

「おじさん! まだ死んじゃ駄目! 息子さんまでいるのに……それにおじさんがいなくなったら……誰が”未来”を救うの!?」

 

七海は必死にディーへと呼びかける。

未熟な彼女には鋼牙に行っている様な治療はまだ出来なかった。

 

「七海ちゃん……君に……頼みがある……」

 

ディーは苦しげに喋る。

 

「……何ですか」

 

「こ……これを……」

 

ディーが懐から赤と青の二通の封筒、そして一つのデッキケースを取り出す。

 

「あ、青い封筒を……サテライトにある孤児院の院長に渡してくれ……俺に何かあった時の為に……息子の事を任せてある……」

 

「……解りました、サテライトの孤児院、ですね」

 

七海は青い封筒を受け取る。

 

「そして……このデッキを……”X-セイバー”を……俺の息子……”遊伸”に渡す様にと伝えてくれ……」

 

「”X-セイバー”……」

 

七海はデッキケースを受け取る。

 

「”X-セイバー”は……死んだ俺の妻がデザインし……俺がカードとして作り上げた……俺達親子を繋ぐ”絆”だ……すまないが、必ず届けて欲しい……」

 

「……はい、必ず……必ず届けます……」

 

ディーの手元に残された封筒は一通、しかしディーはそれを七海に渡すのを躊躇っている。

 

「……七海ちゃん……この封筒は俺の”遺言書”だ」

 

「じゃあ、これも息子さん……遊伸君に?」

 

「いや……これは家族への遺言じゃない……”遺志を継いでくれる者”への遺言だ」

 

「え…?」

 

ディーは苦笑いをする。

 

「関係ないだの……平穏に暮らして欲しいだの言ったが……もう……頼めるのは君しかいないんだ……軽蔑してくれてもいい……だけど……どうしても……どうしても俺は”未来”を守りたい……偉大なる先人達、そして今を生きる”決闘者”達が走り続けてきたこの”道”を……その”先”を……閉ざしたくないんだ……」

 

ディーはそう言って涙を流す。

 

「……おじさん……軽蔑なんて出来ませんよ!!! おじさんは……おじさんは”決闘者”です! 私が今まで見てきた誰よりも……! 私にとって……おじさんこそが”決闘王”です!!!」

 

七海の眼から涙が噴出す。

もう止める事は出来なかった。

 

「…フフ……君を巻き込んだだけでも大地さんに怒られてしまいそうなのに、そんな事言われたらもっと怒られてしまうな……七海ちゃん……これを」

 

ディーは赤い遺言書の他に自分のエクストラデッキと場から1枚ずつカードを取り出す。

場からは”波動竜騎士 ドラゴエクィテス”、エクストラデッキからはデュエル中には見なかった竜。

 

「ドラゴエクィテスは……遊伸のデッキに……もう1枚は……君にあげよう……俺からの……餞別だ……」

 

「このドラゴン……」

 

七海はその竜を見詰める。

見ているだけで心が安らぐのを感じる。

七海の涙はこの時だけ止まっていた。

 

「さて……もう……時間の様だ……」

 

「!? おじさん!?」

 

ディーが死ぬ、七海はそう感じ取る。

まだ別れたくない、話していたい、死なないでほしい。

考えた末、七海が発した言葉は―――

 

「おじさん! おじさんの……おじさんの名前を教えてください! ”ディー”じゃない……本当の名前を……」

 

七海は知りたかった。

自分が尊敬する”決闘者”の名を。

 

「……俺の名は……近衛 来伸(このえ らいしん)……決闘者だ……よかったら……覚えておいてくれ……」

 

「忘れない……忘れませんよ……来伸さん……」

 

再び七海から涙が溢れる。

 

「フフ……遊伸……お前との約束を……破ってしまって……ごめんな……」

 

来伸は眼を閉じ、そして―――息を引き取った。

 

「来伸さん!? ……くっ!」

 

七海は流れてくる大量の涙と共に上げそうになる声を抑える。

これから自分は来伸の遺志を継ぐ、泣いていたくはない。

だが涙は溢れてくる、心から悲しみや寂しさが湧き上がって来る。

せめて叫ばないように堪えていた。

だがどうにも押さえられない。

七海は自分の胸元に手を伸ばす。

空から誕生日に貰ったロケット、あれが一人でいる時の七海の心の支えであった―――しかし。

 

「!? 無い!? ロケットが……」

 

七海は気付いていなかった。

緊急テレポートをした時にロケットが自身の体から離れていた事を。

支えを失い、さらに増した悲しみで一杯の七海の心は―――決壊する。

 

 

 

 

「……うあぁぁぁ……!」

 

七海はその場で来伸の体に寄りかかり、声を上げて泣いた。

 

 

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