遊戯王~Truth of Satellite~ 作:鬼柳高原
シティ内陸部 ポッポ・タイム
「本当に困っちゃうのよねぇ~,日曜のこの時間に来て、毎回喧嘩していくのよ」
遊伸達は大きな鳩時計が入り口の前に飾られている時計屋、その女主人と共に店内から外を見張っていた。
「私もね、注意してるんだけど、止めてくれなくてねぇ、最初は放って置いたんだけど、やっぱり止めないとねぇ、セキュリティを呼ぶほどじゃないからあなた達に来てもらったのよ」
「来たよ!」
女主人の話を聞いているうちに件の人物達がやってくるのを空が見つける。
店の向かい側から歩いてくるのは二人。
一人は釣り目で赤いバンダナを頭に巻き、左手には決闘盤を装着している。
もう一人は細い垂れ目で首に青いネッカチーフを巻き、右手に決闘盤を装着している。
「やい! 今日こそお前が悪いってことを解らせてやる!」
「俺は悪くないから一生解らないな」
二人が決闘盤を展開しようとした時、遊伸達が止めに入る。
「おい! お前ら!」
鋼貴が声をかけると二人が振り向く。
「何だ! お前ら! 俺達の決闘を邪魔する気か!」
「邪魔なのはお前らだ! デュエルの喧嘩ならデュエル・スペースでやれ! つーか何でここにわざわざ来て何度も喧嘩してんだ!」
鋼貴がそう言うと青いほうが言う。
「ここが全ての発端だからだ」
「はあ?」
こちらからすればまったく訳の分からない返答をされる。
「ちょっと待てよ! 俺の質問に答えてねーじゃねーか! お前ら何なんだよ!」
赤い方が強気に言う。
「俺達はデュエルチーム「マーシャル・レッド」だ! お前らの喧嘩がうるせーから止めるようにと依頼を受けてここに来た! さあ解ったならとっとと喧嘩やめて帰れ!」
「デュエルチームだぁ? ホントかよ?」
「証拠見せてみろ」
「くそ、めんどくせぇ奴らだ! ほら、治安維持局発行のライセンス!」
「これ私の!」
二人に言われて渋々デュエルチームとしてのライセンスを見せる鋼貴、空もついでと自分のライセンスを出す。
「(僕あれ持ってないや、作らなくていいのかな?)」
何気に重要な事をしてない遊伸はおいといて、赤い方が空から受け取り、青い方が鋼貴から受け取る。
「カラ?」
「ソラ!!」
「藤堂 鋼貴…解った、本物だな」
「解ったなら帰った帰った! そしてもうここで喧嘩すんなよ!」
鋼貴が踵を返して行こうとすると、青い方が呼び止める。
「まて、デュエルチームが来たからという理由でこのまま大人しく帰ったら、今まで注意を無視して喧嘩してきた俺達の面目がたたん」
その言葉に赤い方が続く。
「そうだ! 大体、デュエルチームだからって偉そうにすんな!」
「何が言いたいんだよ」
鋼貴が振り返り、睨みながら言う。
「俺達とデュエルだ!!」
「お前達が勝ったら俺達は喧嘩を止める、ここで二度としない」
「…本当だな? その言葉忘れんなよ!」
「後、拘束装置は使わないでくれ、痛いだろ、あれ」
「あっさりとこっちへの好条件出してきた理由はそれか…」
鋼貴は遊伸と空に振り向く。
「だそうだが、どっち行く?」
空が遊伸に手を差し出す様に向ける。
「遊伸どうぞ、何か掴んだんでしょ? いい機会じゃん」
「うん、それじゃあ僕が行くよ」
「おし、じゃあ俺が青い方とやるから、お前赤頼んだぞ」
「分かった」
「よし! やってやる!俺の名は
赤い方が名乗ると、続けて青も名乗る。
「俺は
「それじゃ冷次、お前はこっち、燃次はあっちの遊伸とだ」
鋼貴は遊伸を指差して燃次に言う。
「遊伸? あの弱そうな方か、まあいい! おい冷次! このデュエル、相手に負けた方が悪かったってことにしねーか? お前が負ければこいつらの鼻を明かすのと一石二鳥だぜ!」
「後悔するなよ」
「ヘッ!言ってろ! それじゃやろうぜ!」
「よろしく、燃次」
「「「「デュエル!!!」」」」
二箇所でデュエルが開始される。
先攻:燃次
「俺のターン! ドロー!」
燃次 手札:5+1
「俺はモンスターをセット! ターンエンドだ!」
フィールド
― ― S ― ―
― ― ― ― ―
LP:8000
手札:5
・セットモンスター
「…」
遊伸はドローもせず、目を閉じて静かに深呼吸をしている。
「(僕の欠点は経験不足、だけどそれだけじゃない)」
「(僕は諦めず、カードを信じる、それだけしていればいいと思ってた、でも違う、そうじゃない、僕は…何も考えていなかった!)」
遊伸は父の言葉を思い出す。
…
……
…………
………………
……………………
カードがお前に懐いてないからだ
カードだって負けたくない、上手く使ってくれなきゃそりゃ懐かないさ
今解らないならそれでいい、そのうち…解るときがくる。
父さんの言うことが今なら解る、戦うのはカード、でもカードを動かすのは「デュエルをする者」だ。
鋼貴も空も、僕の戦法を読んでカードを動かしていた。
…でも二人と違って、僕がやっていたのはカードを動かすことじゃなく、カードに任せるままに、ただ前の敵を倒す、それだけだったんだ。
カードに意識がある訳じゃない。
でも、僕はならなきゃいけない、カードに任せるだけの奴じゃない、カードを信頼し、デュエルを考え、カード達に信頼されるような「指揮者」に! 「決闘者」に!!
……………………
………………
…………
……
…
「(今まで僕はデュエルを考えてなかったんだ、信じればカード達が何とかしてくれる、何て思っていた。 考えなきゃ、カードを信じて、自分で勝利を掴む!)」
「おい! 何してんだよ! 早くしろ!」
燃次が動かない遊伸に苛立ち、催促する。
「ごめん! 僕のターン!(僕自身が強くなっていく為に…これからも力を貸してくれ! 僕のデッキ!)」
「ドロー!」
遊伸 手札:5+1
「僕は「X-セイバー ウルズ」を召喚!」
ATK:1600
「さらに魔法カード「
ATK:1600
「チューナー!? もうかよ!」
燃次は焦った様に言う。
「レベル4 「X-セイバー ウルズ」に、レベル3「X-セイバー エアベルン」をチューニング!」
「十の剣に名を連ねし剣士よ! 双剣を振るい、己の力を刻み込め! シンクロ召喚! 荒ぶる剣! 「 X-セイバー ウルベルム」!!」
エアベルンとウルズにより作られた光の柱、そこから出てきたのはウェインでも、スターダストでもない新たな戦士。
その姿はどう好意的に見ても正義の味方には見えない、荒くれ者のそれであった。
ボロボロの赤いマントに牛の様な角のついたヘルム、双振りの長剣を背にその戦士は相手を威圧する。
ATK:2200
「(あれ? あのシンクロモンスター遊伸の記録には無かったね、初めて見た)」
空は遊伸の出した答えを知るため、遊伸のデュエルを見ていた。
「手札から装備魔法「ビックバン・シュート」をウルベルムに装備! 装備モンスターの攻撃力を400ポイントアップし、守備表示モンスターを攻撃した時、 その守備力を攻撃力が超えていれば、 その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える!」
ATK:2200→2600
ウルベルムがオーラに包まれる。
「ウルベルムでセットモンスターを攻撃! 「クロス・セイバー」!」
ウルベルムは背中の双剣を握るとセットモンスターに向かって飛ぶように迫り、十字に斬りつける。
セットモンスター、プロミネンス・ドラゴンは四つに斬られ、破壊される。
「うおお!?」
燃次 LP:8000→6400
「ウルベルムのモンスター効果発動! 相手の手札が4枚以上の場合、このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、 相手の手札をランダムに1枚選んで持ち主のデッキの一番上に戻す!「セイバーリターン」!」
燃次 手札:5-1
「僕はカードを一枚セットしてターンエンド!」
フィールド
― ― A ― ―
― ― S ― ―
LP:8000
手札:2
・ X-セイバー ウルベルム
・伏せ一枚
「…俺のターン、ドロー」
燃次 手札:4+1
「あれ? 急に元気が…」
「…ターンエンド」
・
・
・
「チクショー! 負けたー!」
「まさか手札が上級モンスターだらけで何も出来なくなっちゃったなんて…」
「ウルベルム・ロック…まさか決まるとは思わなかった…」
空と遊伸はあまりの決着の速さに少し戸惑っている。
その時、隣でもデュエルが終了した。
「おう、随分速かったな、こっちも終わったぞ」
「無念…」
「案の定、て言うか想像以上に弱かったな」
鋼貴が燃次と冷次を身ながら言う。
「くそ…!」
「負けたから何も言い返せないな」
「二人とも負けたってことは…二人とも悪いってことで丸く収まるのかな?」
空が遊伸に聞く。
「それはどうだろう…そもそも二人の喧嘩の原因って何なんだい? ここが発端とか言ってたけど…」
遊伸が訊ねると冷次が話し始める。
「始まりは今年の2月の末、3月にあるデュエルアカデミアの入試を控えた俺達は、この鳩時計に合格祈願に来た…」
「まてまて、何で鳩時計なんだ、普通はデュエル地蔵だろ」
デュエル地蔵とは、シティ繁華街にあり、とてもご利益があることで有名な地蔵で、アカデミアの受験生がその時期になるとお参りに来るのが通例となっていた。
「あれ? 鋼貴知らないの? 「鳩時計シュート」、結構有名なのに」
「は? なんだそりゃ?」
「デュエル地蔵に対抗するように出てきた都市伝説でね、深夜0時前にあの大きな鳩時計の前で鳩が出てくる扉が開くまでお願いして、0時になって扉から鳩が飛び出したら扉にお賽銭を投げ入れるの! で、上手くゴールすれば願いが叶うって話」
「なんだそりゃ…うさんくせー」
「ホントに叶った人っているの?」
今度は遊伸が空に聞く。
「噂ではね、それにあの扉に入れるのは簡単そうなんだけど、深夜でここら辺は明かりが消えてるから殆ど成功した人はいないんだって」
「それだ! だからこそ俺達はデュエル地蔵ではなく、ここに来たんだ!」
「難易度が高いからな、普通に祈るだけのデュエル地蔵よりご利益がでかいと思ったんだ」
「それで、その時何があったんだい?」
「それはだな…」
…
……
…………
………………
……………………
今年2月、ポッポ・タイム
「もうそろそろだな…」
「おう! へへ! 俺なんか500円玉持ってきたぜ! お前は?」
「これだ」
「…お前、何だそりゃ」
「飴玉」
冷次が包み紙に包まれた飴玉を出す。
「…ふざけてんのか!! てめぇ!!」
「静かにしろ…見つかるぞ」
冷次が口に指を当て辺りを見渡す。
「黙ってられるか! なんで飴玉なんだよ!」
「実技試験の為の対策カードを買ったから金が無いんだ」
「だからって飴玉でいい訳ねえだろ!」
「大丈夫だ、要は気持ちだ、きっと天も分かってくれるだろう」
「落ちたらお前のせいだからな!」
こうしてる間に秒読みが近くなったので、二人は合格を願った。
……3……2……1……
0時になった瞬間、模型の鳩が飛び出す。
二人は音を頼りに一斉に投げこんだ。
聞こえて来たのは、飴玉が鳩時計内を落ちていく音と、硬貨が跳ね返り、石畳に落ちる音。
「あ…」
「おい、何外してんだ」
燃次はとっさにライトを取り出して硬貨を探し出し、今度は時計屋の屋根に向かって投げる。
「これでよし!」
「よしじゃねえよ、外したのに何で、しかもなぜ屋根に」
「こ、この時計は時計屋のだろ! だからこれでオッケ! 同じ!」
「そんな屁理屈通用するか! 落ちたらお前のせいだからな」
……………………
………………
…………
……
…
「それで結局、俺達は入試落ちてしまってな…こいつが外したせいで」
「お前が飴玉入れたからだろ!」
あまりのくだらなさに遊伸も空も言葉が出ない。
何とか鋼貴が口を開く。
「…おい…ツッコミどこが多すぎるぞ……言いたいことはすげー有るけどよ、もうめんどくさいからとりあえず二つだけ言わしてもらうぞ」
「飴玉入れなかろうが、500円玉外さなかろうが、お前達のさっきの実力じゃどの道無理だと思うぞ、て言うか、神頼みにそんだけ全力出してる時点でもう駄目だ」
「後…そんなくだらねえ理由で4ヶ月も喧嘩してんじゃねえ! 今6月だぞ!」
鋼貴が力を振り絞って突っ込む。
「よっぽど悔しかったんじゃない…?」
「二人とも…一応さっきの約束で僕達が勝ったから喧嘩はもう止めてね」
遊伸と空もようやく言葉を口にする。
「その約束は守ろう、だが俺達もお前達に言うことがある!」
「…なんだよ」
ウンザリしたように鋼貴が答える。
「鋼貴、さっきから俺達のことを案の定だの、思ったより弱いだの言ってくれているが、俺達は弱くはない」
「俺達はここらでは負け無しで有名なタッグなんだぜ!」
「タッグ? タッグデュエルの事?」
遊伸が聞くと燃次が胸を張って言う。
「ああ! そうだ! 燃次と冷次、このコンビで中学の時は幅を利かせてたぜ!」
「だからアカデミアでも同じ様にして、行く行くはプロに…だったんだが、今回の悲劇だ」
続けて冷次が言う。
しかし、それを聞いた遊伸はあっけらかんとして二人に言う。
「何だ、最終的にプロを目指すならアカデミアに行かなくてもいいじゃないか」
「何!」
「何を言う、プロになるなら一番の近道なんだぞ」
二人が反論するが遊伸は二人に続ける。
「そうかも知れないけど、他にプロまでの道が無いわけじゃないよね? それとも君達のコンビはアカデミアに入れなかった位で諦めてしまう様なものなのかい?」
遊伸は挑発すると燃次が言う。
「そんな訳ねえ!! そうだ! 俺達は無敵だ! そうだろ! 冷次!」
「そうだな、ここまで言われて下がる訳にはいかんな、やってやろう、燃次」
二人は腕を組み合わせる。
「これで一件落着だね」
「遊伸巧いね」
「あいつ等が単純なだけだろ…それじゃ俺達は依頼主に報告して帰るとしますか」
遊伸達が再び踵を返そうとすると、燃次が声を掛ける。
「待った! 待ってくれ!」
「まだ何かあんのか?」
鋼貴はさっき以上にウンザリしながら振り向く。
冷次が答える。
「俺達ともう一戦してくれ、それもタッグでだ」
「あんな負け方じゃすっきりしねえ! 頼む!」
燃次が拝む様に頼み込む。
「僕は君達のタッグがどれだけすごいのか興味あるからいいけど、鋼貴は?」
「…乗りかかった船だ、付き合ってやるよ。 …さっきと変わらなかったら承知しねーからな!」
「よっしゃ! さっきの様にはいかねーぞ!」
「それじゃあ早速…」
「まった」
ここで始めようとした二人を遊伸が止める。
「デュエル・スペースに移動しよう、ここでやる必要はもうないしね…依頼主さんに今回の件を伝えてから行こう」
5人はデュエル・スペースへと向かった。