遊戯王~Truth of Satellite~   作:鬼柳高原

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*今回はデュエルがありません。 ご了承ください。


第50話 総帥 ~アルカディア・ムーブメント~

「ごめんね、空……あなたから貰ったロケットを落としてしまうなんて……」

 

七海は空から手渡されたロケットを見詰める。

 

「ううん、ロケットを落とした位で私とお姉ちゃんの”絆”は切れたりしないもん。 私は……お姉ちゃんが帰ってきてくれただけで十分よ」

 

「空……ありがとう……」

 

鋼牙の治療が終わり、七海達は鋼牙が目覚めるのを待っていた。

だがここに留まっているのはそれだけが理由ではない。

今、この大広間に遊伸の姿はなかった。

 

 

……暫く、一人にさせてください。

 

 

そう言って遊伸は広間を出て行った。

皆は何も言わず、遊伸の背を見送った。

 

「……訳が解らねぇよ、色んな事ありすぎてよ」

 

鋼貴が隣の高尾に呟く。

 

「……そうだな、後悔はしていないが、とんでもない戦いに身を投じたものだ」

 

「……だけどよ、これで終わったんだよな?」

 

鋼貴が柱に縄で括りつけたテオドールを見る。

気絶したままで目覚める気配は一向にない。

 

「……まだ”あれ”が残ってるけどな」

 

高尾は玉座の方を見る。

その後ろには巨大な”黒い何か”が未だに渦巻いてる。

 

「だけどあれはまだ不完全なんだろ? テオドールがそれを復活させる為にデュエル・エナジーを送ってたんだ、俺達は復活阻止に成功した、だから終わりだろ?」

 

「だけど”あれ”自体は残っているだろ、まずは”あれ”をどうするか考えるべきじゃないのか?」

 

「……俺達だけじゃどうにもなんねぇよ、兄貴と遊伸を待って、グレイグ迎えに行った後に考えようぜ……お」

 

鋼貴が入口に振り返ると、丁度遊伸が戻ってきた。

全員で遊伸に駆け寄る。

 

「……もう大丈夫か?」

 

「うん、ありがとう鋼貴」

 

鋼貴は遊伸の顔を見る。

目が少し赤い、泣いていた様だ。

 

「七海さん、父さんの話をありがとうございます」

 

「…ごめんなさい遊伸君……少し急な話だったわね」

 

七海は遊伸に頭を下げる。

 

「いえ……よかったです、父は……僕が望んでいた”決闘者”でした……」

 

「遊伸……」

 

空が遊伸に声をかける。

 

「空……大丈夫さ、僕と父さんにも”繋がり”が……”絆”があるから」

 

遊伸は自分の決闘盤を翳す。

 

「……うん、そうだよね! 遊伸のお父さんは何時も遊伸と一緒にいるもんね!」

 

「ああ!」

 

遊伸は空に笑いかけた後、七海に向き合う。

 

「七海さん、七海さんが父さんの事を知らせてくれたのと、X-セイバーを届けてくれたのは解りました。 七海さんはその後、父さんの遺言にしたがって10年間活動をしていたんですか?」

 

「あ! そうだったよ! お姉ちゃん、それから10年間何してたの? ……ちょっとも家に帰れない程忙しかったの?」

 

空が少しだけ寂しそうな表情をする。

 

「……ごめんなさい、空……デュエルやサイコ・デュエルの修行に集中する為、そして意志が揺らがない様にする為、家には帰らない様に言われていたの……」

 

「七海さん、修行してたんすか!?」

 

鋼貴は驚きの声を上げる。

 

「ええそうよ、私はあの後遺言にしたがって”ある人”の元に向かい、10年間活動をしていたの、修行もそこでつけて貰ったのよ」

 

「じゅ……10年……俺だったら逃げ出してるぜきっと……」

 

「お姉ちゃん、凄い! 頑張ってたのね! 私だったら我慢出来ずにお姉ちゃんに逢いに行っちゃってるよ!」

 

空は寂しい表情を振り払ってそう言うと、何故か七海は気まずそうな顔をする。

やがて七海は意を決したように口を開く。

 

「……実はね空……今さっきあんな事言ったけど私……何度も空に逢いに行ってたの」

 

「ええ!? 私一度も逢ってないよ!? どういう事?」

 

空は驚いた様子で七海に尋ねる。

 

「……その度に先生に連れ戻されるか、自分で思いなおしたりして結局逢わずに帰ってきてたの……」

 

「な、何で繰り返したんですか? せっかく思いなおしたり、連れ戻されたりしていたのに……」

 

今度は高尾が尋ねる。

 

「……私が挫けそうだったからよ……結構きつかったのよ、サイコ・デュエルの修行……別れ際に空に”挫けちゃ駄目”なんて言って置きながら……情けないわ」

 

七海は自分の顔を両手で覆ってしまう。

きっと下は真っ赤であろう。

 

「……ふふ……アハハハハ!」

 

そんな様子の七海を見て、空は笑い始める。

 

「……あんまり笑わないで、空……」

 

「お姉ちゃんよしよし!」

 

その場で屈んでしまった七海の頭を空が撫でる。

 

「そ、空……あんまり笑っちゃ駄目だよ……七海さんも寂しかったんだ……」

 

「違うよ遊伸! 私安心したの! お姉ちゃんはひと時も私の事を忘れてなかったんだって! お姉ちゃんも帰りたがってたんだって!」

 

七海は立ち上がると、空を抱きしめる。

 

「忘れた事なんてないわ……空の事も、来伸さんの遺志も……それがあったから、私はここまで強くなれた……テオドールを倒す事が出来た」

 

「お姉ちゃん……」

 

「! 鋼牙さん!」

 

高尾が声を上げる。

どうやら鋼牙が目を覚ました様だ。

 

「ぐ……う……」

 

「兄貴、大丈夫か!」

 

鋼貴が鋼牙に声を掛ける。

 

「鋼貴……すまんな……俺が不甲斐無いばかりに……テオドールにいい様に使われてしまうとは……」

 

「兄貴!? 覚えてるのか!? 操られていた時の事を!?」

 

鋼貴は驚いて鋼牙に尋ねる。

 

「ああ……感情を眠らされていただけだからな……意識はあった……夢の様な感覚だが、覚えているぞ……見事だった、鋼貴、遊伸……」

 

「おはよう藤堂君、久しぶりね」

 

七海が鋼牙の前に立つ。

 

「………うおぉぉぉ!!!」

 

鋼牙は痛みも忘れ、両手足を使って勢いよく後ろへと下がる。

 

「あら………やっぱり嫌われてたかしら?」

 

「お、お、驚いた!? 何でこんな所に先輩が!?」

 

鋼牙は幽霊でも見るような眼で七海を見ている。

 

「色々あったのよ、藤堂君、大きくなったけど、中等部の時からあんまり変わってないわね、すぐ分かったわ」

 

「先輩こそ……大分変わりましたが、分かりましたよ……あの、何か話しました?」

 

鋼牙は恐る恐る七海に尋ねる。

 

「私に挑戦から呆然まで」

 

「ほぼ全部じゃないですか……」

 

鋼牙は落ち込む様に項垂れる。

 

「兄貴、恥かしがる事はねぇよ、誰にだってそういう時期はあるよな」

 

「……そのニヤケ面をやめてから言え鋼貴」

 

 

* * *

 

 

サテライト  B.A.D地区  出発地点への道中

 

「……という訳なの、お姉ちゃん何か分かる?」

 

空は皆より後方で七海に精霊が見える事、そしてそれに関係する、今まであった事を七海に話していた。

 

「……ごめんなさい、私にもよく分からないわ……でもそうね、もしかして空は”新しいサイコ・デュエリスト”なのかもしれないわね」

 

「新しいサイコ・デュエリスト?」

 

空は首を傾げる。

 

「サイコ・パワーは”思い”の力なの、それが強ければ強い程、その力は増していくわ。 ……空はガスタ達を大切に思ってるわよね?」

 

「うん! 皆はお姉ちゃんと同じ私の大事な家族だよ!」

 

空は七海の前でデッキを広げて見せる。

 

「そう、空のその”思い”が……空のサイコ・パワーが形となって、ガスタ達の精霊が生まれたんじゃないかしら」

 

「ええ!? じゃ、じゃあ私がガスタ達の……お母さん?」

 

空が首を傾げてそう言うと、七海は噴出す。

 

「ふふ…! そうね、空から生まれたから、そうなのかもね。 ダイガスタ・エメラルもそう、遊伸君との一件で空のガスタ達への思いが強まったから生まれたのね」

 

「成る程~……あれ? それじゃあ……精霊は”サイコ・パワー”であって……本当はいないの?」

 

再び寂しそうな顔をする空。

 

「あくまで私の推測よ、空はガスタと話せるんでしょ? 只の力の具現ならそんな事は出来ないわ」

 

七海はそう言って空に微笑む。

 

「! そうだよね! 皆はここにいるもんね!」

 

笑いながらカードを見る空を見ながら、七海は思う。

 

「(空のカードの精霊が、サイコ・パワーだけでなく”闇のデュエル”のダメージまで防いだ……普通のサイコ・デュエリストの力じゃ防ぐ事は出来ない……”あの人”やお父さん、来伸さんが信じた”可能性”を空は持っている……お父さん達の考えが正しかった事を、空が証明したんだわ)」

 

「ありがとう……空」

 

七海は再び微笑んでそう呟く。

 

「え? どうしたのお姉ちゃん?」

 

「ううん、何でもないわ……そういえばね、私も感じた事があるわ、精霊を……」

 

「え!? 本当! お姉ちゃんにも精霊が見えるの!?」

 

空が期待を込めた眼差しを送る。

 

「ごめんね、見える訳じゃないの、ただ”意思がある”……そう感じた事があるだけなの。 あれは1年と少し前かしら……空に逢いに行こうとした最後の脱走の時だったわ……」

 

……

…………

………………

……………………

 

約1年前  シティ沿岸部 海岸

 

「……何をやってるのかしら、私は……」

 

七海は自嘲気味に呟く。

これで何度目か分からない脱走。

口ではサイコ・デュエルの修行がキツイと言っていたが、来伸の遺志である”未来”を守る事、それを思えば修行自体、苦ではなかった。

だが”寂しさ”だけはどうにもならなかった。

空との”絆の証”であったロケットを無くしてしまい、七海は余計に空を遠く感じてしまっていた。

空に、最愛の妹に逢いたい、その感情が爆発する度にこうして脱走を繰り返してきた。

だが走っている間、少しづつ理性が戻ってくる。

修行をしなくてどうする、強くなろうとしないでどうする、それじゃ遺志を継ぐ事なんて出来ない、”未来”を救うなんて事は出来ない。

何より―――このまま戻って空に逢った後、空から離れる事が出来るのか。

 

「(出来ないに決まってる……)」

 

そういう考えに至り、足を止め、自分で帰るか先生が迎えに来る、それを今まで繰り返してきた。

 

「…デュエルの腕が上がっても、”心”はまったく成長出来てないみたい……」

 

七海は再び自嘲する。

ここで七海はあるカードを取り出す。

来伸から貰った竜のカード。

このカードを見ると何故か心が安らぐ、元気が湧いてくる。

 

「(……弱気になっちゃ駄目……もうこんな事はやめよう……これじゃ来伸さんにも、お父さんやお母さんにも笑われちゃう……何より、空にこんな私は見せられない……強くなって、胸を張って……空の所に帰ろう…!)」

 

七海が決意を新たにしているところに、突然声を掛けられる。

 

「お姉さん、どうしたの?」

 

「! …ちょっと考え事をね」

 

声を掛けてきたのは小学生程の少女。

自分の思い出の中にいる空より少し大きい。

その瞬間、七海は”声”を聞いた。

 

「(え…?)」

 

「それカード? じっと見てたね」

 

少女が七海が持っているカードを指差す。

 

「ええ…このカードよ」

 

「わあ! 綺麗なカード…」

 

七海は確信する。

先程の声はこのカードからの声だと。

根拠はない、しかし七海はそう感じた。

 

「(……この子のところへ行きたいの?)」

 

そう感じ取った七海、七海は少女に声を掛ける。

 

「このカードね、私のじゃないの、持ち主がこのシティにいるはずなんだけど……見つからなくて」

 

「そうなんだ…」

 

「…ねえ、よかったらこのカード、あなたに預かって貰えないかしら」

 

「え? どうして? 持ち主さんがいるんじゃないの?」

 

「…私ね、事情があってすぐにシティを離れなきゃならないの、そしたらこのカードを持ち主に返せなくなっちゃうから、もしあなたが持ち主に会えたらこのカードを返してあげてほしいの」

 

七海は急ごしらえの嘘をつく。

とにかく渡す理由が欲しかったからだ。

 

「…うん! 分かった! お姉ちゃん、私にまかせて!」

 

七海は”お姉ちゃん”という言葉に決意が揺らぎそうになるのを感じる。

そんな自分を内心で叱咤し、七海は少女にカードを渡す。

 

「ありがとう…それじゃあね」

 

「うん! バイバイ!」

 

 

……………………

………………

…………

……

 

 

「…私はその”声”を聞いたの、来伸さんから貰ったあのカード……”エンシェント・フェアリー・ドラゴン”の”あの子の所に行きたい”という声を……後悔はしていないわ、来伸さんには申し訳無いけど……でも、あれでよかったと思うの……」

 

その話を聞いた空は目を丸くしている。

そして一目散に遊伸に駆け寄ると、遊伸に耳打ちをする。

 

「空?」

 

七海が不思議に思い声を掛けると、遊伸も同じ様子で七海に駆け寄る。

 

「七海さん! これ……」

 

遊伸が自身のエクストラデッキからカードを取り出す。

 

「!? これ……”エンシェント・フェアリー・ドラゴン”……どうして遊伸君が…?」

 

遊伸はその事について七海に話す。

 

「そうだったのね……」

 

「僕はこの”エンシェント・フェアリー・ドラゴン”を元の持ち主に返すように鈴ちゃんから頼まれています。 返すとしたら父さんか七海さん……父さんにはもう返す事は出来ません……ですからこれは七海さんにお返しします」

 

遊伸は七海に”エンシェント・フェアリー・ドラゴン”を差し出す。

 

「……あなたは誰の所にいたい?」

 

七海は”エンシェント・フェアリー・ドラゴン”に語りかける。

 

「……遊伸君、”エンシェント・フェアリー・ドラゴン”は鈴ちゃんに返してあげて……何となくだけど、私が持っているべきカードじゃないと思うの」

 

「……解りました、それじゃあ今度、僕と一緒に鈴ちゃんの所に返しに行って下さい。 七海さんの口から言わないと鈴ちゃんも納得しないと思うので……シティに空と一緒に帰って、一段落したら行きましょう」

 

遊伸は笑顔でそう言う。

 

「そうね……ありがとう遊伸君、解ったわ」

 

「お姉ちゃん! 鈴ちゃんと会ったら謝らないとね! 嘘ついたんだから!」

 

そう言って空は笑う。

 

「そうだったわね……謝らなきゃ」

 

「お! 見えてきたぞ!」

 

鋼貴が声を上げる。

ようやく出発地点に到着した様である。

 

 

* * *

 

 

サテライト  B.A.D地区  出発地点

 

「おお! お前等! よくやったぞ! とうとうあの野郎を……って、今度は増えてやがる! どうなってんだ!?」

 

グレイグは訳が解らないといった様子。

 

「今説明してやるよグレイグ」

 

「待って鋼貴、それなら燃次達を起こしてからにしよう。 …七海さん、お願いしてもいいですか? 彼等は僕等の大事な仲間なんです」

 

七海は遊伸の言葉に頷くと、燃次と冷次の前に座り、額に手を当てる。

 

「……藤堂君程、酷くはないわ。 これならすぐに意識を取り戻せるはずよ」

 

「あ、あの姉ちゃんは何してんだ……?」

 

「二人が起きたら説明するからちょっと待っててグレイグ!」

 

空がグレイグの肩を叩く。

 

「……自分だけ知らないというのは嫌なもんだな」

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

数時間後

 

「……よくもまあこれだけの事が起きたもんだ」

 

グレイグは呆れた様子で呟く。

 

「……なあ冷時、全部理解出来たか?」

 

「……体中痛くて、正直集中出来なかったが……重要な事は解った」

 

目を覚ました燃次と冷次、燃次はあまりの事に頭が少々ついていってない。

 

「……まあそんなもんでいいんじゃねぇか? とりあえずテオドール倒した、俺の兄貴と空の姉貴が帰ってきた、これからどうする、この3つさえ解ればよ」

 

鋼貴が頭を抱えている燃次にそう言う。

 

「で、これからどうするか……その”大いなる力”がまだ残っているんだろう? それを何とかするって話か?」

 

グレイグが七海に尋ねる。

 

「……その事について、皆さんに”ある人”に会って欲しいんです」

 

「あ! それってもしかしてお姉ちゃんの先生って人?」

 

空の推理に七海は頭を振る。

 

「残念ながら、その人じゃないわ。 会って欲しいのは”アルカディア・ムーブメント総帥”よ」

 

「アルカディア・ムーブメントの総帥!? それってテオドールじゃねーのか?」

 

燃次が疑問の声を上げる。

 

「いいえ、テオドールはその人からアルカディア・ムーブメントを奪い、利用していたのよ」

 

「じゃあ私が戦うはずだったのをお姉ちゃんが倒しちゃった社長……えーとなんだっけ?」

 

空が言おうとしているのは代野の事だろう。

セブンスターズの一員であり、テオドールからアルカディア・ムーブメントの”表の経営”を一任されていた男である。

実は第3の試練で彼を倒していたのは七海であり、空は道中でその事を聞いた。

七海は遊伸達の助けになれば、と善意で行ったらしいが、空は少し不満気。

空も決闘者、やはり自分で戦いたかったようである。

 

「あの男は社長代理、元々そんな大役が務まる様な人物じゃないわね……」

 

「そっかー……よくよく考えたら手下なんだから”奪う”っていうのはおかしいよね……」

 

空は自分の頭を抱える。

 

「”その人”は今から二十数年前に私と空のお父さん、そして来伸さんと共にアルカディア・ムーブメントを創設したの」

 

「父さんと!?」

 

遊伸が驚きの声を上げる。

やはり父である来伸はアルカディア・ムーブメントにいたのだ。

 

「ええそうよ、表ではサテライトの開発事業を、裏では”大いなる力”に対抗する為の研究をしていたの……」

 

「じゃあテオドールの仲間じゃない……ていうのは当たり前か、奪われてんだからな。 それに七海さんが会わせたがってるんだし……一体どんな人なんすか?」

 

鋼貴が七海に尋ねる。

 

「……信じられない、って位の人よ。 会って貰った方が早いわ……それでも信じ難いでしょうけど」

 

「(い、一体どんな奴なんだ……?)」

 

そんな話をしていると、ドームの出入口に人影が立つ。

 

「……迎えが来てくれたわ」

 

「あ! お前は!」

 

鋼貴が出入口に立つ人物を指差す。

その人物はテオドールの居城で遊伸達を案内した男であった。

 

「何時の間にかいなくなってたと思いきや、テオドールの仇討ちにでも来たのか?」

 

高尾が鋼貴と共に男に対して構えるが、七海が二人を止める。

 

「落ち着いて、あの人は味方よ」

 

七海がそう言うと、男は頭を下げる。

 

「改めまして皆さん、お待ちしておりました。 私は”アルカディア・ムーブメント総帥”に仕えております、フレデリックと申します。 以後お見知りおきを」

 

「はあ? お前さっきテオドール様に仕えてるとか言ってたじゃねぇか!」

 

鋼貴がそう言って再び指差すのを、ある事に気付いた高尾が下げさせる。

 

「まて鋼貴……もしかして”スパイ”とかいう奴か?」

 

「その通りよ高尾君、あの人は私達の味方……私のサイコ・デュエルの先生でもあるわ」

 

「お姉ちゃんの!? 凄い人だ!」

 

空が笑顔になって手を叩く。

 

「主に隠密活動を行っています。 あなた達やテオドール達の動向から、デュエル研への情報提供まで、私が行っていました」

 

「デュエル研への?」

 

「あれじゃないのか? 《セイヴァー》、それなら奴が持っていたという話も納得出来るぞ」

 

遊伸が小首を傾げると、グレイグが前に出て来て指を立てる。

 

「その通りです、スターダスト・ドラゴンの強化形態、《セイヴァー》の情報を友河氏に伝えさせて頂きました」

 

「やっぱりな、だが腑に落ちん事もある。 何故わざわざ情報を流した? そっちで作って直接遊伸に渡せばいいじゃねぇか」

 

グレイグが当然の疑問を口にする。

 

「…当然な疑問です、実は我々が保持している”Xコード”が底を尽きてしまったのです……その為、後回しになっていたスターダスト・ドラゴンの《セイヴァー》をこちらでカードにする事が出来ず、デュエル研に頼らざるを得なかったのです」

 

「Xコード!? じゃあデュエル研からXコードを持ち出していたのはアルカディア・ムーブメント……いえ、父さんだったんですね?」

 

遊伸がフレデリックに尋ねる。

 

「そうです、近衛博士が齎したXコードのおかげで”レッド・デーモンズ”、”スターダスト”を創作する事が出来たのです」

 

「と、父さんは博士だったんですか!?」

 

「そうね、間違いじゃないわ。 カード研究の総責任者だったらしいから」

 

フレデリックと七海の話に遊伸は驚く。

どう考えても自分が知っている父からでは想像出来なかった。

 

「それにしても、友河氏の決断力と仕事の速さには感服いたしました。 あれは殆ど賭けに近かったので……」

 

「そうだよな、よく友河さんもマイルさんもそんな何処の誰とも知らない奴から聞いた怪しい情報をカードにしたよな」

 

鋼貴が腕を組んで頷く。

今頃話の二人はくしゃみをしているかもしれない。

 

「……それでは向かいましょう、”あの方”がお待ちです」

 

フレデリックは遊伸達を連れ、出発地点のドームを出た。

 

 

* * *

 

 

「あれ?  B.A.D地区内なのか?」

 

フレデリックが用意していた、おそらくセブンスターズが移動に使用していたヘリコプターで降りた場所を見て鋼貴が呟く。

そこは南の決闘場よりさらに南。

さらに南の奥を見渡せばサテライトが出来る前から未開発だった地域だろうか、荒野が広がっているのが見える。

 

「すげぇ! サテライトを越えた先ってこうなってんだな!」

 

今までネオ童実野シティから出た事がなかった燃次はやや興奮した様子で荒野を眺める。

 

「では皆さん、こちらへ」

 

フレデリックが瓦礫を退かし、隠されていたレバーを引く。

すると地面が開き、階段が現れる。

 

「秘密基地か……こんなとこに作って奴らにばれないか?」

 

冷次がフレデリックに尋ねる。

 

「B.A.D地区の拠点は奴らが造った物ではありません。 知った気になって居座っているだけです。 それに奴らが絶対に気付かないように工夫も凝らしてありますのでご安心を」

 

そう言ってフレデリックは階段を下りていく。

七海が迷わず続いたので、遊伸達も続いた。

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

「おいおい……カードキーから金庫みたいのまで……幾つ扉があるんだよ。 もう大分歩いたぞ」

 

鋼貴はフレデリックに愚痴を言う。

遊伸達はここまでで数十の扉を潜ってきた。

もう数十分は歩き続けており、まだ完全に体力が戻っていない鋼牙や燃次達に肩を貸して歩いているので、鋼貴が愚痴を言うのも仕方がない。

 

「すいません、厳重にしなければサイコ・パワーで感付かれてしまいますから……これが最後、到着です」

 

フレデリックが前方を指差す。

そこには今までと比べると大きめな扉があった。

しかし鍵はついておらず、フレデリックは普通に扉を押し開ける。

 

「総帥、ただいま戻りました」

 

フレデリックはそう言うと、総帥と呼んだ人物の横に立つ。

 

「あれがアルカディア・ムーブメント総帥……」

 

「何だ? ヨボヨボじゃねーか……乗っ取られるはずだぜ」

 

遊伸と鋼貴が目の前の人物を見る。

見るからに老人であり、それもかなりの高齢に見える。

その老人は目を瞑っていたが、やがて目を開き、遊伸達の方を見る。

その目には”強い意志”が宿っており、遊伸達は少し圧倒される。

 

「……よく来てくれた……来伸の子は、どなたかな…?」

 

老人は遊伸達に向かって声を掛ける。

 

「あ、ぼ、僕です……」

 

遊伸は前に出て手を挙げる。

 

「……昔の来伸にそっくりだ……話は聞いているよ、テオドールを倒してくれたそうだな……ありがとう、そしてよく来てくれた」

 

老人はそう言って微笑む。

 

「い、いえ! 完璧に倒したのは七海さんですよ!」

 

「あれは私の力だけじゃないわ、遊伸君達が戦っていてくれたから、私はこうして無事でいる事が出来たのよ」

 

慌てて手を振る遊伸に七海が笑いかける。

 

「そうだぜ遊伸! お前も胸を張れ! 俺達は勝ったんだ!」

 

鋼貴が遊伸の横に並び、胸を張る。

 

「…そうだね! あ、話の途中に失礼しました……あなたがアルカディア・ムーブメント総帥……」

 

「ご紹介しましょう」

 

フレデリックが前に進み出る。

 

「このお方の名前は―――」

 

遊伸達はこの老人の名に衝撃を受ける事となる。

 

 

 

 

 

 

―――宝月 仁。

アルカディア・ムーブメント創設者にして総帥、そして―――伝説の”決闘王”です。

 

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