遊戯王~Truth of Satellite~   作:鬼柳高原

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*今回はデュエルがありません。 ご了承ください。


第51話 真実 ~Truth of Satellite~

遊伸達は驚きを隠せなかった。

”宝月 仁”、その強さと人柄から、最強にして最高の”決闘王”との呼び声が高く、70年程たった今でも彼を敬愛する決闘者は多い。

そんな決闘者の一人であるグレイグが最初に声を上げる。

 

「ちょっと待て! 証拠はあるのか! 嘘だったら承知しねぇぞ!!!」

 

グレイグはフレデリックに怒鳴る。

グレイグは宝月 仁に心酔し、尊敬している。

確かに目の前の老人が”宝月 仁”だとすれば、年齢的には辻褄が合う。

だがグレイグにとっての”宝月 仁”とは若い時の、”決闘王”時の記録に残っている姿だけであった。

年老いた彼を想像する事が出来ず、認める事が出来なかった。

 

「……ふふ……こんな老いぼれが嘗ての”決闘王”……信じ難いでしょう……そこの貴方、どうやら”宝月 仁”の事を知っていらっしゃるようですが……」

 

宝月がグレイグに尋ねる。

 

「当たり前だ! 俺は”宝月 仁”からデュエル人生を学んだんだ! 彼は俺がこの世でただ一人尊敬する男だ!」

 

「……そうですか……嬉しい限りです……貴方なら解るかもしれません……こちらへ」

 

宝月はグレイグに手招きすると、腕につけている決闘盤からカードを引き、グレイグに渡す。

グレイグは宝月に近づき、それを受け取り、確認すると目を見開く。

 

「こ、こいつは!?」

 

「お、おいグレイグ! どうしたんだよ!」

 

呆然としているグレイグに鋼貴が声をかける。

 

「……間違いねぇ、この人は……”宝月 仁”だ! このカードは世界に1枚だけの……”宝月 仁”だけが持つ切り札だ」

 

グレイグは目に歓喜を表して宝月 仁にカードを返す。

 

「感激だ! まさか……まさか生きている内に貴方に会えるなんて!」

 

「ありがとう……私も感激したよ」

 

グレイグと宝月は握手を交わす。

 

「しかし……一体何故貴方がアルカディア・ムーブメントの総帥に? 確か決闘王を引退した後は”モーメント”の開発責任者になったはずでは?」

 

「……貴方達を呼んだのも、その事について話したかったからです……どれ位の事まで知っていますか?」

 

遊伸達は宝月に自分達が知っている事の範囲を伝える。

 

「……そうですか……先程も言いましたが、貴方達に伝えたい事があり、この場に来て貰ったのです」

 

「…それは一体…?」

 

遊伸が息を呑んで尋ねる。

 

「……”真実”、我々アルカディア・ムーブメントの……”大いなる力”の……ネオ童実野シティの……サテライトの……”真実”……この戦いに勝利してくれた貴方達には知る権利が……いえ、知って貰いたいのです……」

 

宝月の言葉に遊伸は仲間達を見渡す。

全員頷き、遊伸は再び宝月へと向き直る。

 

「…聞かせてください、その”真実”を」

 

「ああ……あれは70数年前の事……」

 

 

……

…………

………………

……………………

 

70数年前、宝月 仁は”決闘王”となった。

昔から大好きだったデュエル、親の反対を押し切り、プロ決闘者の道へと進んだ。

そしてプロ2年目で栄光を勝ち取る。

テオドールが現れるまでは最速で最年少の”決闘王”であった。

彼は”決闘王”として、”先導者”として、歴代で最高の”輝き”を放ちながら、その”道”を走って行った。

 

だがそれは長くは続かなかった。

 

宝月 仁の父が倒れたのだ。

父は新世代エネルギー永久機関”モーメント”の開発責任者であった。

父は才能があり、信頼出来る息子の仁に跡を継いで貰いたかった。

 

宝月は父が嫌いな訳ではない。

人類の未来の為、偉大な研究をしていた父を尊敬していた。

跡を継ぎたくない訳ではない、だがそれ以上にデュエルが好きだった。

 

「お願いします! 必ず跡は継ぐ! 勉強も怠らない! だから……若い間は俺にデュエルをさせてくれ!」

 

宝月はそう言って父に頭を下げ、二十代を終えるまで”決闘者の道”を歩む事を許された。

 

だが父が倒れた。

余命は長くなく、宝月はすぐにでも跡を継がなければならなかった。

宝月は父との約束を守る為、決闘者としての人生に幕を下ろす事に決めた。

勿論未練はある、だが父との約束は破れない。

最初は大喧嘩したが、最終的には認めてくれ、応援までしてくれた父。

自分が父を助けなければ、宝月は強くそう思った。

 

宝月 仁、引退。

プロで競いあったライバル達、ファン、各業界の関係者―――この報には誰もが驚き、彼の引退を惜しんだ。

プロ入りから7年、5度目の防衛戦兼引退試合に勝利し、宝月 仁は多くの人に見送られ、デュエル界を去る、この時25歳。

 

それから1年後、父が亡くなり、宝月 仁が跡を引き継いだある日の事―――

 

 

 

ネオ童実野シティ  フォーチュンエリア(現サテライト B.A.D地区)  モーメント開発機構  

 

 

「よし! 異常なし!」

 

モーメント開発責任者となった宝月 仁はモーメント制御室にて、目の前にあるモーメントの定時点検を行っていた。

現時点でネオ童実野シティの全エネルギーをこれ一つで賄っても余裕がある程のエネルギー機関である。

暴走を起こしてしまったら大惨事、慎重に運用しなければならない。

 

「もう少し研究が進めば運用が楽になるかもなぁ」

 

宝月は背筋を伸ばすと、制御室に白衣を着た研究員が入ってくる。

 

「所長、お疲れ様です」

 

「お疲れ様です」

 

月島と如月、父の代から研究に参加している研究員である。

 

「ああ、お疲れ。 ようやく交代だよ……それにしても月島さん、私の勤務時間長すぎやしないかい?」

 

「それはそうですよ、責任者ですし、跡を継いでまだ1年です。 まだ不安ですからね、急いで先代と同じ技術を身に付けて貰わなければ」

 

当然と言った顔で月島は人差し指を立てる。

 

「フフフ……それはどうかな? 実は月島さんと如月さんに見て欲しい物があるんだよ」

 

「何ですか?」

 

宝月が小さな円盤の様な物を取り出す。

 

「これは……小型モーメント! 先代が開発途中だった!?」

 

如月がその円盤を見て驚く。

 

「(ほう……先代はこの才能を見抜いていたのかもしれないな)失礼しました、お見事です、一体何時の間に?」

 

月島は笑みを浮かべて目を細め、宝月に尋ねる。

 

「空いた時間にちょっとずつね。 小型モーメントを組み込めばどんな物でもエネルギー供給要らず! 車やバイク、”決闘盤”だってね! こんなに便利な事はない! だから頑張って作ったよ!」

 

宝月は笑いながら左腕の決闘盤を翳す。

宝月は父の跡を継ぐ事に決めたがデュエルを忘れる事が出来ず、せめて、という事でどうしても邪魔になる時以外は常に決闘盤を身に付けていた。

 

「私もやるもんだろう? …さて、それじゃ後を頼むよ」

 

宝月はそう言って制御室を出て行く。

 

「…やっぱり変わりませんね、所長」

 

如月が月島に呟く。

 

「ああ、デュエルにまだ未練があるんだろう……あれ位好きじゃなきゃ”決闘王”にはなれないのかもしれないな」

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

「あ、所長!」

 

廊下を歩いていた宝月を研究員が呼び止める。

 

「どうした?」

 

「探しましたよ、所長に面会希望が来てますよ」

 

そう聞いた瞬間、宝月は申し訳無さそうな顔をする。

 

「あー……申し訳無いがお引取り願って貰っていいかい? ”ここまではご遠慮ください”って言ってあるんだけどな~……」

 

宝月が言っているのは自身の”熱狂的なファン”の事である。

宝月が研究に集中出来る様に、関係者以外は面会禁止となっていた。

だがそれでもしつこく会おうと何度もやって来るファンがいるのである。

 

「いえ、そうじゃないんですよ。 何でも”I2(インダストリアル・イリュージョン)社”からだとか……」

 

その会社の名前を聞いた瞬間、宝月の顔色が変わる。

 

「I2社から!? …今待合室かい?」

 

「ええそのはずですが…って所長!?」

 

宝月は研究員の肩を叩き、素早く礼を言うと一目散に駆け出す。

I2社は海馬コーポレーションが存在する以前にデュエルモンスターズの生産、販売を行っていた大企業であり、プロ決闘者であった宝月のスポンサーであった。

 

「(一体何なんだろう? デュエル関連の相談かな?)」

 

プロ決闘者、そして決闘王であった自分を支えてきてくれた恩のある会社、無碍にする事は出来ない。

宝月は急いで待合室へと向かった。

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

「やあ宝月君、久しぶりだね」

 

「て、天馬会長!?」

 

宝月は待合室で待っていた初老の人物を見て驚く。

天馬 昇(てんま のぼる)、I2社の会長にして、考古学者であり、何とデュエルモンスターズを生み出した大人物でもある。

二人は歩み寄り、握手を交わす。

 

「まさか会長自ら御出でなさるなんて……一体どうしたんですか?」

 

宝月はそう言いながら天馬にソファーに座るように促すと、自身も向かい側のソファーに座る。

 

「いや、実は相談事があってね……以前君に私の研究の話をした事があったね?」

 

「デュエルモンスターズの起源になったという”戦いの儀”の事ですか?」

 

プロ決闘者時代、宝月と天馬は雇用関係でありながら友人としても付き合い、宝月は考古学者でもある天馬の研究の話をよく聞いていた。

”戦いの儀”とは、数千年前の古代人達が魔術により石版に封じ込めた魔物を召喚して戦うというものらしく、古代人達はこれにより覇権を競っていたと言われる。

”戦いの儀”を研究していた天馬は現代でそれを再現出来ないかと考え、カードを石版に見たてたゲーム”デュエルモンスターズ”を創り上げた結果、世界を代表するカードゲームとなってしまったのである。

 

「天馬会長の研究が無ければ、この世にデュエルモンスターズは生まれなかった……本当に感謝仕切れませんよ」

 

宝月は自分の決闘盤を撫でる。

 

「あの頃の私も予想していなかったよ、ここまで人気になるとはね……所で宝月君、”戦いの覇者”の話を覚えているかね?」

 

”戦いの覇者”、”戦いの儀”を勝ち抜き、全てを手にした”王”の事である。

 

「”戦いの覇者”……古代最古の”決闘王”ですね」

 

「ああ、私は近年その”戦いの覇者”についての研究を進めていた……これを見てくれ」

 

天馬は写真を取り出す。

写真には文字らしき物が彫られた石版が写っていた。

 

「これはその事について書かれた石盤だ。 解読は済んでいる」

 

天馬はその内容を要約して宝月に聞かせる。

 

「”戦いの覇者”……そうだな、”戦いの儀”を行う者達を解りやすく”決闘者”と呼ぶ事にしよう。 ”戦いの覇者”は”天才的な決闘者”だった」

 

遥か古代、”戦いの天才”が生まれた。

その天才はとにかく”勝利”に貪欲であり、勝つ為の”力”を常に欲した。

その才能を発揮し、あらゆる戦術を考え、優秀な力を持った魔物を集めた。

時には自分以外の”力ある者”の”力”を”模倣”し、盗んで自分の物とした。

”力”を手に入れる為、とにかく手段を選ばなかった。

 

「そして”天才”は”戦いの覇者”となった……」

 

全てを手に入れた―――”勝利”したのだ。

自分こそが頂点―――”王”なのだと。

 

「だが彼にも手にする事が出来ない物があった……」

 

それは生きとし生けるもの全てを縛る”時”であった。

時の流れは”老い”をもたらし、”力”を奪い去る。

”戦いの覇者”はそれを何よりも恐れた。

失いたくない―――この”力”を、”勝利”を、それらを得た事による”絶頂”を。

 

「そして彼は驚くべき方法で”時”から逃れようとした」

 

「その方法とは……?」

 

宝月が前のめりになって緊張が混じった眼差しを天馬に向ける。

 

「……”融合”だ、”自身と力”を”融合”したのだ」

 

「ゆ、融合!? 融合ってあの……」

 

「想像通りだ、老いて”力”を失う、ならば自身が”力”と一体になればいい。 老いていく人間ではなく、誰もが平伏す”大いなる力”として存在しよう……彼はそう考えたのだ」

 

”天才”の思わぬ発想、宝月も思わず度肝を抜かれる。

 

「余程必死だったのだろうな、周りが諌めるのも聞かず、自身と体に宿る魔力、僕の魔物……自身が持つあらゆる”力”を融合素材に用いて、前例の無い無謀な”融合の儀式”に挑んだ……」

 

「……結果は?」

 

「……失敗だった……融合自体は成功したが、その途中で”力”が暴走し、”力”が放出されてしまったのだ。 儀式後、その場には”力”を失った”融合体”が落ちていただけであったそうだ……これがこの石版に書かれた内容だ」

 

話を聞き終えた宝月はゆっくりと息を吐き出し、座っていたソファーの背もたれにに寄りかかる。

 

「そんな伝承があるなんて驚きました」

 

「信じられないような話だが、実際あった事なのだよ宝月君」

 

「ハハハ! 疑ってはいませんよ! お話、楽しかったです!」

 

そう言う宝月であったが、この話が本当にあった事であるとは思っていない。

宝月で無くとも本当にあった話と言われても信じがたいであろう。

宝月はあくまで”物語”として聞いていた。

 

「……さて、ここからが本題だ。 宝月君、君に頼みがあるんだ」

 

「何でしょう? 他ならぬ天馬会長の頼み、出来る限りの事は協力しますよ!」

 

宝月は自身の胸を叩く。

 

「ありがたい……実は宝月君、私は―――」

 

 

 

”大いなる力”を手に入れようと思っている。

 

 

 

「……え?」

 

その瞬間、天馬の雰囲気が変わる。

それに動揺して言葉が出ない宝月。

 

「ふふふ……さっきの話の事だよ、”戦いの覇者”がしがみついた”力”……それを手に入れようと言うのだよ」

 

天馬は静かに笑う。

その笑いに宝月は狂気を感じた。

 

「て、天馬会長、ご冗談を……失礼ですがそれは何千年も昔の話です。 本当に存在したかはまだ分からないですし、そもそも儀式が失敗して”力”が無くなってしまったんでしょう?」

 

「宝月君、これを見たまえ」

 

天馬は小さな箱を取り出し、宝月の前に差し出し、蓋を開ける。

そこには異様な気配を放つ黒い石の様な物体が入っていた。

 

「な、何だ……」

 

宝月はその異様な気配に体を仰け反らせる。

今まで感じた事のない嫌な感覚であった。

 

「宝月君、これが何か分かるかね?」

 

「こ、これは一体……」

 

天馬は宝月の反応に笑みを浮かべながら口を開く。

 

「これは”戦いの覇者”とその”力”の残骸……先程話した儀式によって生まれた”融合体”だ」

 

「そんな!? まさか……まさか……」

 

馬鹿な、そう続けようとしたが、宝月から否定の言葉が出なかった。

目の前にある黒い石、それが放つ異様な気配―――それらにより、天馬の話が”本当の事”である事を宝月は本能で感じ取ってしまった。

 

「この”融合体”は先程の石版を見つけた遺跡の奥の奥、隠された部屋に厳重に保管されていた……そして」

 

天馬はさらにもう一枚、石版の写真を取り出す。

 

「これは”融合体”が隠された部屋にあった石版だ。 先程の石版と合わせて、どうやら”戦いの覇者”に忠誠を誓った臣下が書いた物らしい……この石版にはある事が書かれていた」

 

「それは一体……」

 

宝月は先程話を聞いていた時とは一変、緊張と不安を顔に浮かべている。

 

「儀式だよ……”大いなる力”を復活させる為のね」

 

「な!?」

 

驚く宝月を前に天馬は解読した内容を話し始める。

全体から見れば”融合の儀式”は失敗していた。

だが融合自体は成功していたのである。

足りない物は何か、それは放出された”力”である。

これを”融合体”に与える事が出来れば、”大いなる力”を復活させる事が出来るのだ。

 

「この”融合体”にも残された物がある……それは”力”の型、記憶……そう、この融合体から放出されたのは単純な”エネルギー”だったのだ! その”エネルギー”を供給すれば”大いなる力”が復活するのだ! …古代には”大いなる力”を復活させる為のエネルギー源が存在しなかった。 だから臣下達は賭けた! 遥か未来に、”大いなる力”を復活させる程の”エネルギー”が現れる事を! …これが2枚目の石版の内容だ」

 

話を聞き終えた宝月の顔は驚愕に染まっていた。

そして恐る恐る口を開く。

 

「わ、私に頼みたい事……もしやそれは!?」

 

「気付いたか。 そう、私の目的はエネルギー永久機関”モーメント”だ。 無限にエネルギーを供給するあれなら”大いなる力”を復活させられる……どうだ宝月君? 協力してくれるかね?」

 

宝月は俯き、膝の上で両手の拳を握り締める。

暫くそうしていたが、やがて顔を上げる。

 

「……その”大いなる力”を手に入れてどうするつもりなんですか?」

 

「君は話を聞いていたのかね? ”大いなる力”がどういう”力”なのかを。 それはこの世の全てを手に入れた”王の力”! つまり、私は全てが欲しいのだよ。 その為に”大いなる力”が必要なのだ!」

 

天馬は高らかに腕を上げて立ち上がる。

もはや最初に会った時の面影は無い。

 

「……そうですか。 天馬会長、申し訳ありませんが、協力する事は出来ません」

 

「何故?」

 

「…モーメントは父の代から研究を続けていますが、未だに未知数な部分が多く、非常に不安定なエネルギー機関です。 一つ扱いを間違えれば大惨事につながります……それに、私は感じるんです。 その”大いなる力”は危険な代物だと……その様な物をモーメント開発責任者として、モーメントに近づけさせる訳には行きません……」

 

宝月は不安が混じった真剣な顔で天馬と向かい合う。

 

「出来れば天馬会長には”大いなる力”から手を引いて欲しいです。 上手く言えませんが……これは危険です」

 

宝月は”融合体”が入った箱を指差す。

 

「そうか、なら仕方が無い」

 

天馬の言葉に宝月が胸を撫で下ろした瞬間、出入口のドアから黒いスーツの男性数名が部屋に入り込み、宝月達を取り囲む。

 

「な、何だ君達は!?」

 

「我が社の人間だよ宝月君。 残念ながら君には選択権は無いのだよ……さあ大人しく協力してもらおうか」

 

宝月は天馬を睨む。

悔しさと悲しみが混じった視線だった。

 

「天馬会長……貴方という人は…!」

 

「宝月君、君なら理解してくれるだろう? ”頂点”に立つ快感を。 …考古学の第一人者、大企業I2社の会長、世界一のカードゲームの生みの親……私は多くの”頂点”を経験してきた。 それらは何時も私に快感と充足感を与えてくれた! …私は味わってみたいのだよ、全ての”頂点”を」

 

宝月は悟った。

目の前にいる天馬はもう自分が知っている天馬ではないと。

宝月は隠し持っていたPDAを起動させ、あるボタンを押す。

 

「!…何をしている宝月君?」

 

天馬がそれに気付くと、宝月の後ろにいる男にPDAを取り上げさせる。

 

「…いざという時の為の緊急信号を治安維持局に送りました。 セキュリティがここに駆けつけるはずです……もう一度言います、手を引いてください」

 

変わってしまっても天馬はプロ決闘者の自分を支えてくれた恩ある人物である。

ここで引いてくれれば宝月も穏便に済まそうと思っていた―――しかし。

 

「宝月君……残念ながらセキュリティは来ない……セキュリティどころか、治安維持局……政府だって動かないさ」

 

「何だって!? そんな馬鹿な!?」

 

何故、宝月の脳内でその言葉が駆け巡る。

治安維持局長官は父の研究を認めてくれた。

モーメントはネオ童実野シティの未来を担う、そう太鼓判を押してくれた。

それなのに―――モーメントが危険に晒されようとしているのに何故助けてくれないのか。

 

「簡単な事だ宝月君……君が私を甘く見ていた。 私は全能とはいかんが、既に強大な”力”を持っているのだよ……例えばこれ、とかね」

 

天馬は右手の人差し指と親指で輪を作る。

 

「いや、財力とは素晴らしい。 大抵の事はこれで解決出来るからね……だが突き詰めれば限界がある。 私はね、限界の無い”大いなる力”が欲しいのだよ。 …さあ、君にはもう味方はいない、我々に協力して貰えるかね?」

 

「………」

 

宝月は何も言わず、体を震わせて俯いている。

天馬への怒りよりも、何も出来ない事の悔しさの方が大きかった。

 

「ふふふ……無力だな”決闘王”……”頂点”と言えども所詮はカードゲーム……お遊びの王……そうだな、”遊戯王”と言ったところか……さあ、返事を聞かせて貰おうか”遊戯王”?」

 

ここで自分が断れば、おそらく天馬は強行手段に出るだろう。

それこそモーメント暴走に繋がるかもしれない。

今一番まともにモーメントを制御出来るのは自分だけ―――宝月は覚悟を決めた。

 

「……一つだけ条件がある」

 

 

* * *

 

 

宝月は天馬の要求を承諾した。

それから一ヶ月経った現在、モーメント開発機構―――否、フォーチュンエリアを含めるネオ童実野シティの南側全域にいるのは天馬とその手下、そして宝月だけであった。

宝月は承諾の条件として、研究所の自分以外の所員全員及び一体の住民の強制退去を要求したのである。

 

「(もしもの時に犠牲になるのは自分だけで十分だ……)」

 

「元決闘王ともあろう君が、何時に無く弱気じゃないか? まあいいだろう、君が納得するならね」

 

天馬はこれを承諾、治安維持局に話を通し、”モーメントの大規模点検”という名目で住民を退去させた。

幸い居住区が少ない地区であった為、退去はスムーズに進んだ。

 

 

一ヶ月後  フォーチュンエリア  モーメント開発機構大型  モーメント制御室

 

「宝月君、君は私に従ってモーメントを制御してくれればいい、解ったかね?」

 

「……(居住区へのエネルギー供給をカット……)」

 

宝月は天馬の言葉に反応せず、黙々と準備を進めている。

”一つの間違いで大惨事”、宝月はこの言葉を胸に、慎重に作業をしていた。

そんな宝月の心を知らず、天馬は話を続ける。

 

「…君がそこまで心配性だなんて思わなかったよ。 宝月君、はっきり言おう。 失敗による事故など起こらんさ……何故だと思う?」

 

天馬は笑みを浮かべて宝月に問いかける。

宝月にはその笑みがとても邪悪で醜い物に見えた。

 

「それは私が”強者”であり、”勝者”だからさ。 私は人間としての栄華を極めたと言ってもいいだろう。 私は特別な人間なんだ……君には出来なくとも私なら出来るのだよ! ハッハッハ!」

 

「……準備が整いました。 今からこの大型モーメントからエネルギーを汲み上げます」

 

宝月が装置を起動させようとすると、天馬がそれを制止する。

 

「いいや宝月君、それじゃあ駄目なんだ」

 

天馬がそう言って懐から”融合体”の入った箱を取り出す。

 

「この”融合体”にエネルギーを与えてもすぐに抜け出てしまうのだ。 一々汲み上げてから与えていては何時まで経っても復活などしないのだよ」

 

「…それじゃどうしようもありませんよ」

 

ウンザリとした表情の宝月に天馬は先程と同じ笑みを浮かべる。

 

「なに、方法はあるじゃないか……要は”抜け出る隙を与えず、供給し続ければいい”のだ。 つまり―――」

 

天馬は大型モーメントを指差す。

 

 

 

「あの中に直接”融合体”を放り込む」

 

 

 

「な!? だ、駄目です!?」

 

宝月がモーメントを庇う様に立ち塞がる。

 

「モ、モーメントの中にそんな物を入れるなんて駄目です!!! やめて下さい!!!」

 

「宝月君、心配は要らんよ。 ”大いなる力”を補うだけのエネルギー……それだけ搾り取れば幾らモーメントとはいえ暴走するだけの力なんて残りはしないだろう。 それに見たまえ」

 

何時の間にか大型モーメントの周りに黒いローブを纏った男が複数人立っていた。

 

「私は”大いなる力”の研究と並行して魔術の研究も進めてきた。 ”大いなる力”を押さえつける為にな。 準備は万全、心配などない……さあ、これをモーメントの中へ」

 

天馬は手下に”融合体”を渡すと、手下がモーメント内部へ入る為の点検用の入り口を開き、”融合体”を投げ入れる。

 

「やめろぉぉぉ!!! …!?」

 

その瞬間、モーメント内に見えるエネルギーが急速に減っていく。

 

「おおいいぞ! 吸収している! そして―――」

 

減っていくと思いきや、エネルギーの減りが弱まる。

モーメントから更なるエネルギーが生成されているからだ。

 

「その調子だ…! エネルギーは無限にある! どんどん吸収しろ!」

 

天馬が興奮して声を張り上げる中、宝月はある事に気付く。

 

「(何だ…? これは……増えている!?)」

 

今度は逆にエネルギー生成の出力が上がっている事に気付いた宝月は備え付けられている計器を確かめる。

 

「な、何だ!? モーメントの回転が速くなっていく!?」

 

モーメントは内部でタービンを回転させ、エネルギーを得る。

そのタービンが異様な速度で回転していたのだ。

流石の天馬もモーメントの異常に気付く。

 

「お、おい宝月君! ”融合体”がエネルギーを吸い続けているはずなのにモーメント内のエネルギーが増え続けているぞ! どうなっている!?」

 

「(こちらでは何もしていない……一体何故……まさか!?)」

 

宝月は急いでタービンの回転を弱めようとするが、依然にタービンは高速回転を続ける。

 

「…考えられるのは一つ、信じたくはないが……間違いない! ”融合体”だ! ”融合体”がエネルギーを吸収しようと無理やりタービンを回転させているんだ!」

 

「何だと!? このままだとどうなる!?」

 

「…モーメントが暴走し、この辺り一帯、かなりの広範囲を吹き飛ばすでしょう……」

 

宝月の言葉に天馬は歯を食いしばる。

 

「…仕方が無い! まだ途中だが”融合体”を止める! やれ!」

 

天馬が黒いローブの男達に命令すると、一斉に詠唱を始め、結界の様な物を張るが、すぐに掻き消えてしまう。

 

「何故だ!? 魔術は完璧なはず!?」

 

天馬の考え通り、魔術は正しく発動していた、

古代の術を見事に再現していたのである。

だが対象の位置が悪かった。

発動した魔術は対象の力を封じ込め無力化する物、これにより”融合体”を封じ込め、タービンの回転を止めようとした。

しかし”融合体”はモーメントが発生させているエネルギーの中にあった為、魔術が阻まれて届かないのである。

宝月は壁にもたれかかり、脱力して座り込む。

 

「何をしている! このままでは我々も吹き飛ぶぞ! 何とかしろ!」

 

天馬が宝月に向かって怒鳴る。

その顔には焦燥と恐怖が表れていた。

 

「……解り切っていた事でしょう…! …これは”罰”ですよ」

 

宝月は天馬に怒りの表情を向ける。

 

「な、何!?」

 

「貴方は”力”に溺れ、欲で心が曇り、そしておこがましくも過ぎた”力”を求めた……全てを危険に晒して……そんな貴方と、貴方を止める事が出来なかった私への……”罰”ですよ」

 

「そ、そんな事があってたまるか! おい! 魔術を―――」

 

天馬が黒いローブの男達に命令するが、男達は我先にと逃げ出そうとしていた。

 

「こら逃げるな! …ああ!?」

 

天馬がモーメントを見上げると、既に内部はエネルギーの光で満ちていた。

この後どういう事が起きるか、誰にでも想像出来た。

 

「(父さん……済まない……父さんの夢を……モーメントを守る事が出来なかった……)」

 

宝月は心の中で懺悔する。

父に、ネオ童実野シティとその住民達に、そして―――

 

「(私の元に残ったのがデッキだけとは………私は……俺はやはり”決闘者”らしい……)」

 

宝月は自分の腕に装着している決闘盤を見る。

 

「(…済まない相棒達……俺と……最期まで一緒にいてくれ……)」

 

取り乱して騒ぐ天馬を他所に、宝月は決闘盤を抱きしめるようにしてうずくまる。

 

「(…支えてきてくれた人々に……熱く競い合ってきた決闘者達に……そして、俺に夢を与えてくれたデュエルモンスターズに……感謝します……さらば、我が人生……)」

 

 

 

 

 

                  この瞬間

 

 

 

 

 

            大災害”ゼロ・リバース”が起こった。

 

 

 

 




かなり間が空きましたOTL
最初の一週間くらいはリアルでの忙しさからだったんですけど、それ以降は中々書く気が起きず……
以前にもアドバイスを頂いていたのですが、本当に間を空けると書けなくなりますね。 身に沁みました。

ようやく復活して投稿……だけどデュエル無しOTL
次回はありますのでもうちょっとお待ちくださいm(_ _)m
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