遊戯王~Truth of Satellite~   作:鬼柳高原

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*過去回想編の最終回と予告していたのですが、思ったよりも長くなってしまったので2話に分けました。ご了承ください。
*今回はデュエルがありません。 ご了承ください。


第54話 未来の為に ~来伸の計画~

「大地さん! 何処行ってたんだ?」

 

「それはこっちの台詞だ! それよりも……」

 

大地と呼ばれた青年は瓦礫の山から下りて来ると、宝月を睨み付ける。

 

「よくも仲間を…! 今度は俺が相手してやる!」

 

大地は決闘盤を宝月に向かって構えると、来伸は慌てて立ち上がり、二人の間に入る。

 

「いてて……待ってくれ大地さん! この人は”決闘者”だ!」

 

「”決闘者”…?」

 

体の痛みでよろけている来伸を大地は支えながら宝月を見据えていたが、やがて大地の体や顔から警戒を解いた様にフッと力が抜ける。

 

「…来伸がそう言うなら間違いないだろう。 だがこの有様はなんだ?」

 

大地は支えている来伸の体を軽く揺すると、来伸はばつが悪そうに苦笑する。

 

「まあ、それはだな―――」

 

「やっと追いついた!」

 

突然来伸達の後方から声が上がる。

全員で振り向くと、一人の少女が走って来ていた。

背に大きめなカバンを背負い、長い後ろ髪に赤いリボンで結んでいる。

 

「あ、まだ付いてきてたのか。 はぐれた時にビビッて帰っちまったのかと思ったぞ」

 

「…はぁ……はぁ……ここまで来て帰る訳ないでしょ! …っとそれより大地さん!」

 

デュエル・ギャングの来伸相手に怯むことなく強気な態度の少女。

接し方や彼等と同じ赤い布を身に付けている事から彼女も仲間なのかもしれない。

だがどう見てもデュエル・ギャングには見えない、シティで見かけそうな一般の少女である。

 

「走るの速すぎよ! 見失っちゃったらどうするのよ! 私は”サイコ・パワー”なんて持ってないんですからね!」

 

「す、すまん…」

 

「勝手について来たんだから文句言うなよ」

 

この時の男性3人の表情はバラバラ。

大地は申し訳無さそうに謝ったが、来伸は顔を顰めている。

そして宝月はある言葉に首を傾げていた。

 

「(サイコ・パワー…?)」

 

「何よ! 私が一人になった所を襲われてもいいって言うわけ!?」

 

「ハハハ! そんな物好きがいるのかよ!」

 

来伸がそう笑うと、少女は言葉のマシンガンを来伸に浴びせる。

もはや何を言っているのか解らない程だ。

大地が必死になって少女を宥めている。

完全に忘れられている事を悟った宝月は大きな咳払いをして一言。

 

「賑やかになってきたな……」

 

「あ! そうだよ喧嘩してる場合じゃないって!」

 

来伸は助かった、と言わんばかりの眼を宝月に向ける。

 

「そう言えば大地さんが”あっちで誰かがデュエルしている!”って言って走り出したのよね。 で、来たわけだけど……もう終わっちゃったの?」

 

「じゃなきゃこんなになってねーよ」

 

来伸は大地に支えられている自分を指差す。

 

「えー? あんた負けたの~~? めずらし~~見たかったな~~あんたが負けるなんてそうそう見れないわよ~?」

 

「こいつ~…」

 

おちょくった態度の少女を来伸は悔しそうに睨む。

彼女の言葉と、宝月と互角に渡り合った事から、来伸はマーシャル・レッド内でも飛びぬけた強者である事が分かる。

 

「でも楽しかったぜ! この人はすげぇ人だ! 負けちまったけど今までで一番価値のあるデュエルだった!」

 

「お前にそこまで言わせるなんてな……」

 

大地はそう呟くと、宝月に向き直り頭を下げる。

その眼には畏敬の念が見えた。

 

「俺はこいつの仲間でマーシャル・レッドの一員の”西野 大地”といいます」

 

「礼儀正しいな。 本当に君達はデュエル・ギャングか?」

 

来伸といい、大地といい、宝月は不思議でならなかった。

 

「じゃあ次私ね、私は広川 遊芽(ひろかわ ゆめ)、カードデザイナー志望です! よろしくね! 凄いお爺さん!」

 

「カードデザイナー? デュエル・ギャングではないのか?」

 

「まっさかー! お爺さん、私をこんなのと一緒にしないでよ~!」

 

「何だと!」

 

ヘラヘラと笑う遊芽に来伸が食って掛かる、が、彼女は怯みもしない。

 

「何よ? ホントのことじゃない? あんた幾つよ? 何その格好?」

 

遊芽は来伸が身に付けているマントを指差す。

 

「カッコイイだろ! な!」

 

来伸に同意を求められ、困ったような顔をする宝月。

偶然眼が合った大地は苦笑いを浮かべている。

 

「それにあんたの自称! 何”ディー”って? 似合ってない上意味解らないわよ!」

 

「何だと! なら教えてやる! ”ディー”には色んな意味が―――」

 

「いい加減にしろ! 今は自己紹介だろ!」

 

堪りかねた大地が二人を大声で制すると、遊芽は気が付いた様に口元を押さえる。

 

「あ、ごめんなさい! えーと……何だったっけ?」

 

間の抜けた遊芽の様子に吹き出しそうになるのを堪え、改めて質問をする。

 

「君がデュエル・ギャングではないのは解った。 では何故彼等と共に?」

 

「取材よ! 私デュエル見てるとこう……インスピレーション? みたいな……とにかく”くる”んです! 良い絵が描けるんです!」

 

「そうか……じゃあ何故デュエル・ギャングに? 危険じゃないか?」

 

宝月が当然の疑問を口にすると、遊芽は微妙な顔をしながら腕を組む。

 

「……私ドラゴンを描くのが好きなんです。 こう大きくて、かっこいい……でも駄目なんですよ! そこらへんのデュエルじゃ……プロデュエルでも浮かばなくなっちゃったんです! で、そこで思ったの! デュエル・ギャングの危険で刺激的なデュエルなら”くる”んじゃないかなって!」

 

「おいおい…(何て恐いもの知らずな娘だ…)」

 

宝月は本気で遊芽の事が心配になってきた。

デュエル・ギャングに関わる事自体が問題だが、来伸や大地、そして彼女自身を見る限り、マーシャル・レッドなら間違いは無いのかもしれない。

だがもしマーシャル・レッド以外に取材しに行っていたらどうなっていた事か、考えるだけで身震いする。

 

「(これが親の気持ちか……)で、そんな危険な事をして、閃く事はあったのか?」

 

「それがね! もう1年だって言うのにまだ一回もドラゴンが浮かんでこないの! どうなってんのよ~!」

 

遊芽が悔しそうに足踏みしていると、来伸が呆れた様な表情をする。

 

「まだ言ってんのか? ”アレ”じゃ駄目なのかよ? いいじゃん、”アレ”」

 

「駄目じゃないわよ、それどころか自信作よ。 だけどやっぱり一番描きたいのはドラゴンなの」

 

「”アレ”とは何だ?」

 

宝月が尋ねると、遊芽は背中のカバンからスケッチブックを一冊取り出す。

 

「この1年間、ドラゴンが浮かばなかっただけで、”くる”ものは結構あったんです。 その中でも一番よかったのがこれなんですよ。 ドラゴンじゃないけど、胸を張って世に出せる自信作です!」

 

宝月は遊芽からスケッチブックを受け取り、ページを捲る。

そこに描かれていたのは十人の戦士達。

人間もいれば獣人もいる、個性的な戦士達であった。

 

「面白いな。 正に十人十色だ」

 

「でしょ! 名前は”X-セイバー”!」

 

「ちょいとゲテモノ多いけど、俺もこれは良いと思うぜ! カッコイイよ!」

 

「ゲテモノとは何よ! …まあ、ありがとう」

 

突っかかりながらも、来伸に対して礼を言う遊芽。

自分の作品を褒められて悪い気はしないのだろう。

 

「おっと、自己紹介だってのにまた脱線しちまったな。 爺さん、改めて自己紹介するぜ! 俺の名は”近衛 来伸”、マーシャル・レッドの……って、ここら辺はいいか」

 

「ああ、君の事はよく解ってるよ。 デュエルは口以上にものを語るからな」

 

「あ、宝月 仁の言葉ですね」

 

大地の思わぬ言葉に目を丸くする宝月。

これは宝月の信条であり、よく口にしていた言葉なのは確かである。

だが宝月が現役だったのは40年以上前であり、彼等は生まれてすらいない。

どうしてそれを知っているのか宝月は不思議に思った。

 

「…よく知っているね」

 

「宝月 仁? 誰だっけ…? 聞き覚えはあるけど…」

 

「おいおい来伸! 決闘者なら覚えて置けよ! 宝月 仁と言えば伝説の決闘王だろ!」

 

「で、伝説……」

 

この40年間、自分がそこまで持ち上げられている事をまったく知らなかった宝月。

それだけ宝月は人々に愛された決闘王だったのだ。

 

「…あー! 思い出した! 本屋で大地さん何か買ってたよな。 その人の本みたいの」

 

「本!? (それで彼は知っていたのか……しかし誰だ? 勝手に私の本なんて書いたのは…)」

 

宝月は気恥ずかしい気持ちになる。

そんな宝月の横で遊芽はカバンを漁り、雑誌を一冊を取り出す。

 

「これの事?」

 

雑誌には”月刊デュエル・クロニクル 伝説の決闘王 宝月 仁特集”と書かれている。

どうやら昔の決闘者を取り上げる雑誌のようだ。

表紙にはデカデカと若い頃の宝月の写真が載せられていた。

 

「(し、知らなかった……まあ行方不明だからな。 報せようがない…)」

 

「いいよね宝月 仁! 何たってかっこいいドラゴンを持っているのよ! ホラこれ! 私もこんなドラゴン描いてみたいな~!」

 

遊芽が雑誌を開いて宝月に見せる。

そこには決闘場に立つ若き日の自分と、掛け替えの無い”相棒”が写った写真があった。

 

「……”相棒”」

 

「? どうしたのお爺さん? 何かしんみりしちゃって……って、来伸?」

 

その時、来伸は宝月が見ている写真の隣を食い入る様に見ていた。

それは来伸にとって初めて見るものではなく、ついさっきまでそれと対峙していた。

 

「…《宝玉獣》」

 

「ああ、”レインボー・ドラゴン”と同じ様に、宝月 仁の象徴と言えるカードだな。 前に一回教えたって言うのに、すぐ忘れるんだお前は……って、もう大丈夫なのか?」

 

体のダメージが良くなったのか来伸は大地から離れ、宝月の前に立つ。

 

「爺さん……あんたは……」

 

「……私の自己紹介がまだだったな。 私の名前は”宝月 仁”、その写真は若い頃の私だ」

 

宝月が正体を明かすと、3人は凍りつき、B.A.D地区に何時もの静寂が戻ってくる。

その静寂を最初に破ったのは遊芽。

 

「ええ~~~!!? 嘘ー!?」

 

「…やれやれ、年は取りたくないな。 イメージを崩してしまって申し訳ないが、これが今の私だ」

 

申し訳無さそうに溜息をつく宝月を、大地は遊芽から引っ手繰った雑誌の写真と見比べている。

 

「俺が勝てなかったんだ! 絶対に只者じゃないって思ってたぜ!」

 

来伸は納得した様に頷いているが、大地と遊芽は未だに信じられないといった表情をしている。

 

「何だよ二人とも! 本当だって! デュエルの記録見せてやるよ!」

 

 

   ・

   ・

   ・

 

 

「……間違い無い。 俺は宝月 仁のデュエルをビデオで見た事がある……本物だ!」

 

来伸の決闘盤に記録されていたリプレイを見終わると、大地は感激して宝月に向き直る。

 

「まさか……まさか本物の宝月 仁に会えるなんて!」

 

「凄かったわね! ところで宝月さん! よかったら”レインボー・ドラゴン”を見せてもらえませんか?  出来ればソリッド・ビジョンで! 生で見て見たいんです!」

 

遊芽が両手を合わせ、嬉々として宝月にねだる、が―――

 

「……すまない、もう……私も……俺も逢う事が出来ないんだ」

 

「え…?」

 

遊芽は宝月の言葉の意味が解らなかったが、今レインボー・ドラゴンは手元には無いという事、そして宝月の様子から見て、それには何か訳があるという事を遊芽は察した。

 

「(何かあったのかな……)」

 

「それよりも爺さん…じゃなかった、宝月さん。 伝説の決闘王が一体こんなとこで何してんだ?」

 

「そうです! 何をしていたんですか? 貴方が行方不明になって40年、多くの人が心配していたと聞いています。 ”ゼロ・リバース”に巻き込まれて死んだ、何て噂もあったくらいです」

 

「”ゼロ・リバース”……」

 

大地の言葉に宝月は顔を顰める。

宝月は40年前の―――死を覚悟したあの瞬間を一時だって忘れた事はない。

 

「そう言えばもっと酷い噂もあったよね……」

 

遊芽が眉を顰めて呟く。

 

「宝月さんはプロ決闘者を引退してからモーメント開発の責任者になったでしょ? で、実験中に”ゼロ・リバース”を起こしちゃって、その責任から逃れる為に失踪しちゃったっていう……」

 

「へ! デマデマ! そんな卑怯者じゃねーよこの人は!」

 

来伸は遊芽が話した噂を一蹴し、笑い飛ばす。

だが宝月は首を横に振る。

 

「…いや、ある意味、その通りだ」

 

宝月の言葉に来伸はよろけて体勢を崩しそうになるが持ちこたえ、そのまま宝月に勢いよく振り向く。

 

「ええ!? 何でだよ!」

 

「…”ゼロ・リバース”の責任は全て私にある。 必ず生きて責任をとる。 だがその前にやらねばならない事がある。 …その為に私はここにいる」

 

再び場が静寂に支配される。

宝月は3人を見渡した後、下ろしていた腰を上げて立ち上がる。

 

「さて、もういいだろう……君達はここを出るんだ。 実はセキュリティを呼んである。 ここはセキュリティですら出入りを禁じているのだが、もう大分時間がたったからな。 緊急事態という事で乗り込んでくるかもしれない。  見つからないように裏口から出よう、案内する」

 

「待ってくれよ」

 

歩き出そうとする宝月を来伸が引き止める。

その顔はデュエルをしている時の様に真剣であった。

 

「その”やらねばならない事”って何なんだ?」

 

「…知ってどうする?」

 

「来伸! 宝月さんにも事情があるのよ」

 

「そうだ来伸、無理に聞きだそうとするのは良くない」

 

遊芽と大地が引き止めるが、来伸は引き下がらない。

 

「そんな大きな責任を後回しにする程大事な事なんだろ? しかも何十年も経っても終わらないような事だ。 なあ宝月さん、教えてくれよ。 よかったら俺達も力になるぜ! 大変なんだろ?」

 

 

「…必要ない。 君達には関係の無い事だ」

 

宝月は来伸を冷たくあしらう。

話しても到底信じて貰えるような事ではない。

そして何よりも、無関係で未来のある彼等を巻き込みたくなかった。

だが来伸は未だに食らい付いてくる。

 

「じ、じゃあせめて何があったか教えてくれよ! じゃなきゃ俺、納得出来ないぜ!」

 

「納得しなくてもいい。 …聞いても納得出来る話じゃないからな」

 

宝月はまたしても来伸を冷たくあしらう。

来伸は宝月を睨み付けると、その場に胡坐をかいて座り込む。

 

「…何のつもりだ?」

 

「宝月さん! あんた俺の事を嘘つきだとか言ったけど、あんただってそうじゃないか!」

 

来伸は怒りの表情で宝月に指を突きつける。

 

「あんた、口では俺達の助けは必要ないとか言ってるけど、あんたを初めて見かけた時も、そして今も! 苦しそうていうか……寂しそうていうか……とにかく”暗い顔”してたじゃねーか!」

 

「…!」

 

宝月は無意識に自分の顔を触る。

今自分がそんな顔をしていたなんて、宝月は思いもしなかった。

 

「あんたはこうも言ったよな? ”デュエルは口以上にものを語る”って。 それで宝月さんは俺の事解ってるって言ってたけど、俺だって同じだ! 宝月さんの事解ってるつもりなんだ! 解り合った”決闘者”同士だからこそ、俺はあんたを助けたい! 助けになれないのなら、せめて知っておきたい! …頼むよ! 宝月さん!」

 

来伸は宝月に向かって頭を下げる。

宝月は不思議な感動を覚えていた。

ここまで自分に―――自分すら気付かなかった”宝月 仁”に気付いた者がこれまでにいたか。

 

「来伸! 子供じゃないんだからこれ以上宝月さんを困らせないの!」

 

遊芽が来伸を立たせようとするが、来伸は頭すら上げようとしない。

 

「……分かった。 話そう」

 

「本当か!?」

 

下げていた頭を勢いよく上げて立ち上がる来伸。

 

「ほ、本当にいいんですか? 俺達に話しても……」

 

大地が不安そうに尋ねると、宝月は諦めたように溜息をつく。

 

「…話すだけだ、それだけなら問題無い。 それにさっきも言ったが、到底信じられない様な話だ。 

それでも聞くか?」

 

「くどいぜ宝月さん! 聞かせてくれよ!」

 

先程までと打って変わって笑顔を見せている来伸。

そんな来伸の横に立った遊芽が宝月に頭を下げる。

 

「ごめんなさい宝月さん。 来伸が勝手な事ばっかり言って……さっき来伸にあんな事言ったけど、私も宝月さんの話を聞きたいです。 私も宝月さんの事、知りたいです」

 

「来伸は頑固ですけど、人を見る目は確かです。 そんな来伸がここまで入れ込むなんて滅多にありません。 …俺からもお願いします」

 

遊芽に続けて、大地も頭を下げる。

 

「…分かった。 長い話になる、私の家で話そう。 セキュリティが来るかもしれないしな」

 

巻き込むつもりは無い、だが話せば何かが変わるかもしれない。

自分の心情に気付き、そして自分に対して必死になってくれた来伸を見て、宝月はそう思った。

 

* * *

 

 

サテライト  B.A.D地区  宝月 仁の家

 

宝月は3人に40年前の”全て”を話した。

 

「…そんな……物語みたいな事……」

 

「……」

 

遊芽と大地の反応は宝月の予想通り、信じられない、といった表情をしている。

来伸は考え事をする様に目を閉じたまま動かない。

 

「これで解っただろ? 物語みたいな話だ。 老人の戯言だと思って忘れてくれ」

 

「た、”戦いの覇者”だとか”大いなる力”とか……”レインボー・ドラゴン”の事はともかく、悪いのはその天馬会長って人でしょ? 宝月さんは悪くないじゃない!」

 

遊芽が宝月を擁護するが、宝月は首を振る。

 

「気持ちは嬉しいが、あの時生き残ったのは私だけだ。 モーメント開発責任者として、私が責任を取らねばならない」

 

「そんな……」

 

湿っぽい空気の中、黙って目を閉じていた来伸が目を開け、口を開く。

 

「宝月さん。 ”レインボー・ドラゴン”と”大いなる力”は?」

 

その言葉を聞き、宝月は暫く考えた後、立ち上がって別室へと移動する。

少しして戻ってくると、宝月は虹色の箱に入れられた”黒い何か”を持って現れる。

 

「!?」

 

「嘘……これ……」

 

「まさか……そんな馬鹿な」

 

”黒い何か”を見た瞬間、3人は戦慄する。

宝月がこれを初めて見た時と同じ感覚なのであろう。

 

「これは……信じるしかない……本当の、事なんですね」

 

「…そうだよ、大地。 これが”大いなる力”、そしてこれが私の”相棒”だ」

 

宝月は虹色の箱を撫でる。

 

「感じる……この黒いのからの恐い感じじゃなくて……小さいけれど、優しい、暖かい感じ……これが”レインボー・ドラゴン”……」

 

遊芽は突然カバンからスケッチブックと鉛筆を取り出すと、絵を描き始める。

箱を見詰めていた来伸は顔を上げて宝月に向き合う。

 

「なあ宝月さん。 やっぱり俺も手伝えないかな?」

 

「…駄目だ。 デュエル・ギャングに手伝える事は無い」

 

来伸はきっと自分の力になってくれる―――宝月はそう感じているが、やはり巻き込みたくは無い。

来伸は将来、自分をも凌ぐ決闘者になる。

だからこそ自分には関わらず、このまま来伸には”決闘者”としての道を走り続けて欲しい、宝月はそう思っていた。

 

「…あーそうかい! 解ったよ! じゃあ―――」

 

 

 

デュエル・ギャングなんて辞めてやる!

 

 

 

来伸の突然な引退宣言に大地は眼を見張り、遊芽は動かしていた鉛筆を止める。

宝月も一瞬呆気にとられてしまう。

 

「…い、いや来伸、そう言う問題じゃない……」

 

「え? ああもしかしてデュエル・ギャングが駄目なのって馬鹿だからか? なら心配すんな! 確かに俺は頭良くはないけどさ、俺の親父はデュエル研の所長なんだ! だから親父の所で勉強してくる! そうだなぁ……3年! 3年待ってくれ! それまでに宝月さんを助けられるくらいにはなってみせるからよ!」

 

勝手に話を進めていく来伸。

言葉が出てこない宝月に代わって大地が来伸の前に出る。

 

「…来伸、宝月さんはそういう意味で言ったんじゃない。 お前を巻き込まないように―――」

 

「大地さん! 俺の考えには大地さんが絶対不可欠なんだぞ!」

 

「ええ!?」

 

来伸が大地の言葉を遮ると、まっすぐに宝月を見る。

 

「宝月さん! 俺にいい考えがあるんだ!」

 

「い、いい考え…?」

 

来伸の勢いにおされ気味な宝月。

そんな様子の宝月に構わず続ける来伸。

 

「”大いなる力”、”戦いの覇者”がまた復活するかもしれない、で、宝月さんはそれを防ぐ為に消滅させる、または復活しないようにする為の方法を探している、そうなんだよな?」

 

「ああ」

 

「だけど俺はもう一つ方法があると思うんだよな。 しかも前の2つよりもずっと解りやすいの」

 

「……それは?」

 

来伸は笑みを浮かべ、決闘盤を構える。

 

 

 

「簡単だ! ぶったおす!」

 

 

 

「「はあ!?」」

 

大地と遊芽が同時に呆れたような声をだす。

 

「復活してきたらまたぶったおせばいいんだ! 復活する度に何度でも! そうすりゃ何時か諦めるだろ……っていて!?」

 

「馬鹿! そう簡単にいかないから困ってんでしょ! 宝月さんがやっとの思いで倒した相手なのに!」

 

遊芽がスケッチブックで来伸の頭を叩く。

スケッチブックには”レインボー・ドラゴン”のラフ画が描き上げられていた。

 

「…遊芽の言う通りだ。 私にはもう”奴”と戦う力は残されてはいない……」

 

「宝月さん、そこがあんたの悪いところだよ! ここにいるじゃないか! 頼ってくれよ!」

 

来伸は自分と大地を指差して胸を張る。

宝月は顔を顰め、勢いよく立ち上がる。

 

「”奴”を甘く見るな! 自分なら何でも出来ると思うんじゃない!」

 

「甘く見てなんかない! 宝月さんの全身全霊を出し切り、そして”レインボー・ドラゴン”がいて何とか勝てた相手だ。 悔しいけど、俺じゃ勝てないかもしれない……だけど、大地さんならその可能性を持っている!」

 

「何…!?」

 

宝月は大地に眼を向ける。

指名された本人も思いがけない事だったらしく、目を丸くしている。

 

「大地さんの”あの力”ならきっと対抗出来ると思うんだ!」

 

「…”あの力”とは、遊芽が言っていた”サイコ・パワー”とかいうやつか?」

 

さっきから気になっていた宝月はその詳細を来伸達に尋ねる。

サイコ・パワーとは、”サイコ・デュエリスト”が使う力の総称であり、サイコ・デュエリストとは、ここ数年で発見された超能力者で、特にデュエル時に強い力を発揮する為、そう呼ばれる。

大地はそのサイコ・デュエリストであり、来伸と宝月を探し当てたのもその力だという。

 

「大地さんは凄いんだぜ! 俺達と縄張り争いしてたチームにとんだリアリストがいてな、デュエルに負けそうになると卑怯な手を使って勝ちに来るんだ。 イカサマからリアルダイレクトアタックなんて当たり前、うちのメンバーも何人かやられちまった……ケガ人も出た」

 

来伸は拳を震わせて怒りを顕にしているが、宝月はそもそもデュエル・ギャングがそういうものだと思っていた為、そこまで驚きはしなかった。

むしろ来伸達の様なデュエル・ギャングがいた事を嬉しく感じている。

 

「(だからと言って、デュエル・ギャングをしている事自体は良い事ではないがな)」

 

「そこで大地さんがサイコ・デュエルでそいつをのしちまったんだ! いやー爽快だったぜ!」

 

「あの時大地さん、ヒーローだったわよね!」

 

「……そんなにいいものじゃない」

 

当時の事を思い出してはしゃいでいる来伸と遊芽とは違い、大地は暗い表情をしている。

 

「コントロールが難しくて思うがままとはいかない……少し感情が昂ると勝手に発動してしまう……それで俺は何人も傷つけた。 …妹は俺を解ってくれたけど、親は……気味が悪いって」

 

大地の表情が益々暗くなっていき、下を向いてしまう。

大地がデュエル・ギャングになっているのも、こういった事情があったからなのかもしれない。

 

「おかげで大好きなデュエルも……心の底から楽しめない……何で……こんな”力”が俺にあるんだろうな…」

 

「大地さん! それは違う!」

 

突然な来伸の叱咤に大地は驚いて顔を上げる。

 

「皆聞いてくれ! 俺、思うんだよ……大地さんみたいなサイコ・デュエリストは、この世界を守る為に生まれたんじゃないかって!」

 

「お、俺が…!?」

 

困惑している大地を他所に、来伸は興奮した様子で立ち上がる。

 

「だってそうだろ? サイコ・デュエリストは最近発見されたんだ! 宝月さんの戦いのずっと後にな! …きっと神様って奴はいるんだ。 ”その力で宝月さんを助けてやれ!”、神様がそう言ってサイコ・デュエリストを生み出したんだ!」

 

来伸は大地の肩を正面から掴み、向き合う。

 

「大地さん! この世に不必要なものなんて有りはしない! 大地さんの”力”にだって意味はあるんだ! 誇るんだ! 大地さんの”力”は”大事なものを守れる力”なんだよ!」

 

「来伸…」

 

大地は咄嗟に目頭を押さえる。

大地のサイコ・デュエリストとしての苦悩は宝月達には解らない。

だが来伸の言葉が彼の心に響いた事は確かであった。

 

「だが俺に勝てるのか……それに、”戦いの覇者”にこの”力”が通用するのかも解らないし…」

 

「心配すんな大地さん! 宝月さんの”相棒”の様に、きっと通用する! それに大地さん一人に戦わせはしないぜ! 俺も戦うし、それにまだ考えがあるんだ! 遊芽! 紙と筆借りるぞ!」

 

「あ! ちょっと!」

 

来伸は遊芽からスケッチブックと鉛筆を取り上げると、白紙のページの上部に大きな円を描く。

 

「まずは組織を作るんだ! マーシャル・レッドよりも大きな奴をな! で、集めるんだ!」

 

「集める…? 何をだ?」

 

「決まってるだろ大地さん! ”サイコ・デュエリスト”さ!」

 

来伸は円の上部に”決闘者”と書き、大地の名前と、小さな丸を幾つも描く。

おそらく、小さな円は人の事だろう。

 

「”サイコ・デュエリスト”の軍団を作る! いざという時にこれで”戦いの覇者”に対抗するんだ!」

 

「…だがしかし―――」

 

「おおっと宝月さん! 解ってるよ! ”幾らサイコ・パワーがあろうとも、デュエルが強くなきゃ意味が無い”、だろ? 確かに誰しもが宝月さんの領域に到達出来る訳じゃない……だけど後押ししてやる事は出来る! それがこれだ!」

 

来伸は上部に描いた円に一部重なる様に、左下にも大きな円を描く。

そこに”研究所”と書き、自分の名前と、先程と同様に幾つもの小さな円を描く。

 

「”カード”を創るんだ! ”戦いの覇者”に対抗する為のな! 俺が親父の所へ勉強に行くのもその為だ!」

 

「な、何!?」

 

これには宝月も驚く。

カードのオーダーメイドするには莫大な資金と地位、そして非常に多くの手続きが必要である。

その事を来伸に告げても、来伸は表情を変えない。

 

「ああ、それくらい知ってるよ。 だからこっちで勝手に作るんだ」

 

「勝手に……コードはどうするんだ? 決闘盤に認識されなければ意味が無い」

 

「それも大丈夫、言ったろ? 親父がデュエル研の所長だって。 ちょっと頼めばきっと”Xコード”を分けてくれるよ」

 

「…幾ら親子だからってそんな貴重な物を簡単に分ける訳ないだろう……駄目だったらどうする?」

 

「……ちょろまかすしかないなぁ」

 

宝月は呆れて思わず天を仰ぐ。

それを見て来伸はばつが悪そうに頭を掻く。

 

「…まあいいじゃんか! こっちは世界の未来の為に戦うんだ! それにそんな便利な物を使わずに保管しとくなんて勿体無いぜ!」

 

「…前はともかく、後は完全に泥棒の理論よね……」

 

「う…」

 

遊芽の言葉が胸に突き刺さる。

 

「まあそれよりもさ、何でここに私の名前が入ってんの?」

 

遊芽は”研究所”の円の中に書かれた自分の名前を指差す。

 

「何言ってんだよ? カード創るんならイラストも描かなきゃだろ? お前が描くんだよ」

 

「ええ!?」

 

「え?」

 

遊芽が素っ頓狂な声を上げる。

その反応を来伸は予想していなかったのか、彼自身も小さく声を上げた。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! 何で私も巻き込まれてるわけ!? 私はマーシャル・レッドに取材に来ているだけよ! マーキングの為にこの赤いのつけてるけど、仲間じゃないんだから! それに私にはデュエル研の専属デザイナーっていう進路があるんですからね!」

 

「ええ!?」

 

今度は来伸が素っ頓狂な声を上げる。

本当に予想外の事らしく、さっきまでの余裕な態度から一変、焦りを見せている。

 

「ま、待ってくれ! お前程良い絵を描く奴を俺は知らないんだ! 頼むよ! 俺達の所に来てくれ! 給料も弾むし、えーと……肩も揉んでやるから! 俺達の所でカッコイイドラゴン描いてくれよ~~~!」

 

来伸が遊芽の前で拝む様に手を合わせる。

遊芽は困ったように腕を組む。

暫くして遊芽が溜息を付く。

 

「……しょうがないわね、私がいないと駄目だなんて。 …いいわ、これも何かの縁ね、契約してあげる」

 

「おし! サンキュー! よろしくな!」

 

来伸はガッツポーズをとった後、遊芽の手を握る。

その瞬間、宝月は遊芽の顔が赤くなったのを見た。

 

「…まあここまで”戦いの覇者”と戦う為の準備について話してきたわけだけど、宝月さんが探してきた”封印・消滅法”を諦めた訳じゃないんだ。 むしろこれからも続けていくべきだと思う。 戦わないで済むに越した事はないし、勿論俺達も探すのは手伝う! で、そこで思ったんだけど、どうせならさ、”宝月さんの責任”も同時に果たしておこうぜ」

 

「な、何だって!?」

 

驚く宝月の前で、来伸は”軍団”の円と”研究所”の円に一部重なり合う様に、右下に大きな円を描く。

そこに”表の顔”と書き、幾つもの小さな円を描く。

 

「軍団創ってる事とか、カード創ってる事とかは秘密にして、表では何かの会社って事にするんだ! で、大儲けする」

 

「大儲け……活動資金にするのか?」

 

大地の予想に来伸は首を振る。

 

「いや、これは俺達に使う金じゃない。 サテライトの為に使うんだ」

 

「!? まさか来伸……」

 

来伸の言葉に宝月は目を見張る。

来伸が言った”責任を果たす”事の意味を宝月は理解した。

 

「そうさ! 大儲けした金でサテライトをまたシティの一部に戻すんだ! 壊れた建物も、ふざけた社会も、全部直してやるんだ!」

 

荒廃した都市、差別社会、”ゼロ・リバース”が生み出した”全て”を―――宝月が背負った責任を、来伸は消そうと考えていた。

 

「……これが俺が考えた計画だ。 どうだ皆?」

 

「…どうだも何も、無茶苦茶よ。 大儲け、って言ったって具体的にはどうするつもりなのよ?」

 

「そんなの後で考えりゃいいんだよ! そうだ! マーシャル・レッドの皆にも協力して貰おう! 皆で考えりゃきっといい考えが浮かぶぜ!」

 

遊芽の問い掛けに、来伸は笑って答える。

 

「まだ何も考えてないんだな……それはそうと、この計画、随分と長く、大きなものだ。 …お前はこれに人生を賭ける気か?」

 

「当たり前だ! 宝月さんだって人生の大半を賭けたんだ!」

 

大地の眼に見える来伸は本気そのもの。

こいつは本当に成し遂げるかもしれない―――根拠は無いが、目の前の来伸を見て大地はそう思った。

 

来伸は最後に3つの円の中心部―――重なり合っている部分に”宝月”と書く。

 

「…なあ宝月さん、一人で戦おうなんて思わないでくれ! 皆でやればきっと上手くいく! …宝月さんは俺達には関係無いって言ったけど、俺達だってこの世界で生きているんだ! 俺達もこの世界を守りたい! この世界で生きる皆で……戦おう! 宝月さん!」

 

「……まったく、人の気も知らないで」

 

宝月は俯いてそう呟く。

怒りに震えた声であった。

 

「来伸……君は馬鹿だ。 君には決闘者としての輝かしい未来が待っているはずなのに……それを捨てると言う」

 

「その未来が危ないから戦うんだ! …それに、ここで引いたら絶対に後悔する! 俺がのうのうと自分の道を進んでいる時にも、俺が尊敬する決闘者が独りで戦っているなんて……そんなの堪えられねぇよ! そんな思いを抱えて進む未来なんてお断りだ!」

 

来伸は涙を流し、宝月に頭を下げる。

 

「頼む宝月さん!!!」

 

これで何度目か、再び場が静寂に包まれる。

どれ位の間頭を下げていたのか、来伸も解らない。

暫くして来伸が顔を上げると、目の前の宝月も涙を流していた。

 

「ほ、宝月さん……」

 

「来伸……すまない……そしてありがとう……」

 

 

 

 

私と共に……戦ってくれ!

 

 

 

 




見通しの甘さが相変わらずですOTL
後編は出来上がり次第投稿します。
半分はもう書けているので1週間以内には。

お待ちくださいm(_ _)m
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