遊戯王~Truth of Satellite~ 作:鬼柳高原
現在 サテライト B.A.D地区 宝月 仁の隠れ家
「…これが、私と来伸達との出会いだった」
「……驚いた。 お前達の親父は俺の大先輩か」
グレイグは遊伸と西野姉妹を見渡す。
「私もびっくりしちゃった。 お父さんもマーシャル・レッドだったのね……遊伸?」
空は何気なく遊伸を見ると、遊伸は何か言いたげな表情をしている。
案の定、遊伸は宝月に向かって言葉を発する。
「あの……宝月さん」
「ああ遊伸、君が聞きたい事は何となく解る……遊芽の事かな?」
「遊芽? 話に出てきたデザイナーのか? その子がどうしたんだよ遊伸?」
鋼貴が尋ねると、遊伸はデッキを取り出して答える。
「僕の……母さんだよ」
「何!? マジかよ!?」
鋼貴は驚いて仰け反る。
そんな鋼貴の肩をグレイグが叩く。
「やっぱり”情報整理ゲーム”お前だけやるか?」
「ええ!? な、何か聞き落としてたっけ?」
鋼貴は慌てて遊伸に確認すると、遊伸は笑って手を振る。
「はは! グレイグさん、これはしょうがないですよ。 鋼貴、僕も母さんの名前くらいは知ってるよ。 それに……」
遊伸は七海を見ると、七海はそれを察して頷く。
「七海さんの話で父さんが言ってた。 ”X-セイバーは死んだ妻がデザインした”って……だから間違いないと思う」
「ああそういや……すっかり聞き落としてたぜ」
鋼貴は合点がいった様に頷く。
ここで話を聞いていた七海が突然小さく笑う。
隣にいて気付いた空が不思議そうに七海を見た。
「お姉ちゃんどうしたの?」
「フフ……来伸さんにもこんな若い時期があったんだな、って」
「そうだね、大分印象違うかも。 …大人の来伸さんはちょっと宝月さんに近い感じがしたね」
空は頭の中で七海の話の来伸と、宝月の話の子供っぽい来伸を比べる。
空から見て20年後の来伸は大分老成している様に感じた。
「大先輩だって人間だ。 大なり小なり、時間が経てば変化する。 未来を担う、若い決闘者を案じる宝月さんの気持ちが、大人になって解ったんだろう。 七海を巻き込むことを最後まで渋ってたのも、それがあったからだろうな」
グレイグは10年前の来伸の心情を推察した。
それを聞いた七海は少しだけ考える様に俯いた後、顔を上げる。
「そうですね……でも来伸さんにも変わらないところがありました……年をとっても、”変わらない大事なもの”がありますね」
七海が微笑みながら言うと、グレイグが豪快に笑う。
「ハッハッハ! そりゃそうだ! じゃなきゃ俺は宝月さんと逢って感動なんかしない! 宝月さんだってこんな所にいない!」
グレイグはその笑顔を宝月に向けると、釣られて宝月も笑う。
「ここまでのお話、ありがとうございました。 …一人の決闘者として、感服しました」
鋼牙が前に進み出て宝月に頭を下げ、セキュリティらしく敬礼をする。
「ですがまだ”あの男”が出て来ていません……本番はここからですね?」
鋼牙の言葉に、遊伸達の体に緊張が走る。
来伸達の計画を乗っ取った”あの男”―――テオドールの姿が脳裏をよぎる。
「…続きを話しましょう……っと、忘れていた。 すまない遊伸、遊芽の事がまだだった」
「お願いします。 母さんの事は殆ど覚えていないんです……」
宝月は遊芽について語り始める。
遊芽はデュエル・アカデミア中等部に所属する将来を期待されたデザイナーの卵であり、本人の言葉通り、中等部卒業後にデュエル研からのスカウトを受けていた。
「か、母さん……そんな大事な時期に
「デュエル・ギャングと1年行動してただけでもアウトだろ……」
「ばれなきゃ平気よ」
頭を抱える遊伸と、苦笑いをする鋼貴。
空はその横で何でもないといった表情。
B.A.D地区での出会いの後、大地は情報収集兼シティ・サテライト間の連絡係、来伸はデュエル研で修行、そして遊芽は予定通りデュエル研と契約し、専属デザイナーとなった。
「え? 父さんとの約束は…?」
「勿論守ったさ。 来伸が勉学を終えた3年後、デュエル研との契約を破棄して来伸と共に私の所へと戻ってきた……のだが」
宝月は苦笑いを浮かべる。
「来伸の去り方がまずかった。 彼は碌な説明もない書き置きを残しただけだったらしくてな、そこへ遊芽の突然な退所……これではまるで駆け落ちだ。 相当な騒ぎになったらしい」
「何か面白くなってきたな」
「人事だからって……そ、それでどうなったんですか?」
口笛を鳴らして笑う鋼貴を軽く睨んでから遊伸は前に乗り出す。
「我々がそれを知ったのはそれから数年後、来伸を引きずって大慌てでシティに戻った遊芽を今でも覚えている。 無事二人で戻ってきたから、何とか丸く収まったのだろう……結婚したのもその後だ」
それを聞いて遊伸は胸を撫で下ろす。
結婚した後、遊芽はカードデザイナーを続けながら来伸を支え続けた。
後に遊伸も産まれ、カード制作も順調、何もかも上手くいっていた矢先に―――悲劇が起きた。
「……私も、大地も、一番近くにいた来伸だって予想していなかった。 誰よりも元気で、今まで病など一度も罹らなかったのに……」
遊伸が産まれて2年、遊芽は突然重い病に罹り、亡くなった。
29歳という短い生涯であった。
「…今思えば、彼女は死期を悟っていたのかもしれない。 彼女は病に罹る前に、必要なカードデザインを全て描き上げていたからな」
「母さん……」
遊伸は胸を押さえて俯く。
おぼろげな母の姿を、何とか思い出そうとしていたが、どうしても見えてこない。
それが悲しかった。
「…ありがとうございました。 申し訳ありませんが、続けてお願いします。 出会いの後を…」
「ああ、ではその3年後から話そう」
出会いから3年後、宝月達は宝月の残った財産を元手に企業を立ち上げる。
来伸の言う”神様”が後押ししたのか、それは面白いくらい上手くいった。
僅か1~2年で大企業と化したのである。
「ここまでは順調だった……問題は次、シティ・サテライト間の関係修復。 これが一番苦労した」
宝月達の想像以上にシティ側の差別意識が強かった。
現在でも桐原の様な考えを持つ者がいるのである。
説得は容易なものではなかった。
「これに関しては来伸達を初めとするマーシャル・レッドがよく動いてくれた」
マーシャル・レッドはデュエル・ギャングながら決闘者としての仁義を弁えており、一般の決闘者やデュエルを愛好する者達からの評判が良く、シティ・サテライトの両制覇を成し遂げ、両方の世界を見てきたマーシャル・レッドの言葉には説得力があった。
マーシャル・レッドの粘り強い説得を受けた者達から徐々に広がっていき、数年の歳月の後、治安維持局の了承の下でネオ童実野シティの階層社会は終わりを迎えた。
「ここでようやく動き出したのだ。 サテライト開発会社”アルカディア・ムーブメント”が」
カード開発と各地から集めたサイコ・デュエリスト達の訓練と並行して行う開発事業。
その初めに造られたのは歴史に残るであろうシティ・サテライト間を繋ぐ巨大な架け橋―――
―――ダイダロス・ブリッジである。
「ダイダロス・ブリッジを見た時、私は思い知ったよ。 私一人だったら使命も責任も、何一つ果たせてはいなかっただろうと。 仲間達となら、何だって出来るであろうと。 …私は来伸に感謝しても仕切れない」
そして月日は流れていく。
順調なカード開発、サイコ・デュエリストの協力者の充実、そして悲劇―――
「色んな事を乗り越えて向かえた18年目、”あの男”を迎えた年の事だった……」
…
……
…………
………………
……………………
出会いから18年後 現在から12年前 サテライト B.A.D地区 研究所
「…」
「Dr,ディー…いや、来伸」
目の前の機械を睨んだままの来伸に大地が話しかける。
「少しは休めよ。 最近上手くいってないのは解るが、根を詰めすぎても上手くいかないぞ。 最近家にもあまり帰ってないそうじゃないか? 近くに正夫や友達がいると言っても、遊伸は寂しがっているだろう」
機械に向き合ったままだった来伸がようやく大地の方に顔を向ける。
ちなみに正夫とは元マーシャル・レッドの一員であり、遊伸がいた孤児院の院長でもある。
この事を遊伸は知らない。
「…遊伸には悪いと思っているよ。 だけどもう少しなんだ。 もう少しでこれが完成するんだ」
来伸はモニターに移っているフレームだけのカードを指差す。
「…まだそれを……一体何なんだそれは? イラストも無いし、テキストも無い、何を創っているんだ?」
「俺が創っているんじゃない。 決闘者が創るんだ」
「??? 昔からお前の考えは読めないよ……」
大地が溜息をつくと、大地の後ろに控えていた初老の男が前に出る。
「そういえば前に伝承の事やらなんやらの本を漁っていたな。 それと何か関係があるのか?」
この男の名前はセドリック。
アルカディア・ムーブメントのサイコ・デュエリストであり、精鋭部隊”セブンスターズ”の一人である。 実力もあり、宝月達とは10年以上の付き合いで信頼もされている。
「ああそうだよ」
「”セイヴァー”や”バスター”だけでも十分の様な気がするがなぁ。 …と言うかそれらもまだカードにしてないって言うのに……」
「いや大地さん、十分なんてものは無いんだ。 …世の中何が起こるか分からないからな」
来伸の言葉を聞いて大地は俯く。
遊芽が亡くなってから4年、未だに信じられないという気持ちが大地の中にあった。
「それに大地さん、言い返すけど大地さんだってたまには帰れよ。 俺とそんなに変わらないだろ? 七海ちゃんはもう思春期だし、空ちゃんは遊伸より下だ。 父親らしくしてないと忘れられるぞ?」
「……そうだな、今のは正しい、明日帰る事にするよ。 だからお前も帰りな」
「……これが終わったら帰るよ」
暫くの間会話が止まった後、書類資料に視線を落としていた来伸が思い出した様に顔を上げて大地に尋ねる。
「そういえば大地さん、”レッド・デーモンズ”をあのガキンチョに渡したって本当か?」
「ガキンチョ? もしかしてテオドールの事か?」
幻の決闘王”テオドール・ハイドフェルド”。
彼はこの年にアルカディア・ムーブメントに入った。
決闘王を引退後、ストリート・デュエルをしている所を大地が発見、その時のデュエルでサイコ・パワーの片鱗を見せた。
この時17歳。
「(テオドール……間違いなく戦力になる!)」
そう思った大地はテオドールをスカウトした。
話に乗ったテオドールを連れ帰り訓練をさせたところ、異常な速さでサイコ・パワーを上げ、一月も経たずにアルカディア・ムーブメント内で最強と言ってもいい程のサイコ・デュエリストとなった。
「”セブンスターズ”の中で一番適していると思ったのがテオドールだったんだ。 ドラゴン族の使い手だし、セドリックもそう思うだろう?」
「ああ、妥当だろう。 来伸、誰が使うかはリーダーの大地に任せると言っていたじゃないか、その大地の決定に何が不満なんだ?」
セドリックがそう尋ねると、来伸は不快を隠さずに答える。
「…俺はあの小僧が気に食わないんだ」
「き、気に食わないって……確かに傲慢だし、気に食わないと言うのも解るが、実力は確かだ! そこは我慢しないか? それに……何が起こるか分からないんだろう? 強い奴がいる事に越した事はない」
大地が来伸を宥めるが、来伸は更なる不満を吐き出す。
「…大地さん、すまないが言わせてくれ。 正直セブンスターズの大半が気に入らない……一緒に戦おうという気が起きない」
「な!? あ、安藤は? お前の助手につけた……」
「あいつは優秀だがネチネチとうるさい。 やれ自分も研究したいだの、”闇のカード”の研究させろだの」
「や、”闇のカード”に興味を持ったのか……」
闇のカードはサイコ・デュエリスト以外にもサイコ・デュエルを出来る様にする為に開発された物だが、”超融合”の例もあり、開発は中止されていた。
「夜霧は何考えてるのか解らないし、バッドは口を開けば不満しか言わない。 そして代野はなんだ? ただちょっとデュエルが出来る、それだけじゃないか」
「し、仕方無いだろう……サイコ・パワーとデュエルの実力を兼ね備えてる奴は少ないんだ……」
「代野よりいい奴はいるだろう? 例えばセドリック、俺はフレデリックがいいと思うんだがどうだ?」
「大地にも頼まれたが、あれはまだ未熟だ。 後2年は待ってもらいたい」
息子じゃまだ力不足、セドリックはそう言い切った。
来伸は溜息をついて項垂れる。
「…大地さん、ケチつけてすまなかった。 大地さんだって悩んで決めたのにな…」
「…いや、いいんだ。 邪魔して悪かった、失礼するよ」
そう言って大地とセドリックは研究所を後にした。
* * *
サテライト B.A.D地区 地下移動通路
「Dr.ディー……似合わんなぁ」
大地と並んで歩いていたセドリックはそう呟いて笑う。
「なあ大地……遊芽が亡くなってから来伸は……何と言うか……クールになったな」
「ああ……そして怯えるようになった。 俺も来伸も、先の見えない……何が起こるか分からない”未来”にな……」
「それが焦りにもなっている……か。 …大地、本当に”アレ”は復活するのか?」
セドリックが問いかけると、大地は立ち止まり、天井を見上げる。
「…分からない。 明日なのか、何十年も先か、あのままなのか……封印も、消滅の方法もまだ見つかっていない……とにかく、まだ俺達は備える事しか出来ないんだ」
大地がそう言って溜息をつくと、セドリックは大地の背を力強く叩く。
「お前は俺達サイコ・デュエリストのリーダーなんだ。 そんな不安げな溜息はするもんじゃない。 堂々としていないと示しがつかないぞ。 それに来伸はお前に”スターダスト”を託すと言っているんだ。 その期待にも答えんとな」
「あれか……あれは不思議なカードだ…」
天井を不安げに見上げていた大地の顔に安らぎが浮かぶ。
まるで綺麗な星空を見上げている様な顔だった。
「一度来伸に見せてもらったが、あれを見ていると不思議と心が安らぐ……あれがあれば何が来ようと平気な気さえする程だ。 X-セイバーや他のドラゴンもいいけど、遊芽のデザインの中ではあれが一番の傑作だと思うよ。 …だからこそ、”セイヴァー”と”バスター”の完成を急いで欲しいのだが…」
「来伸はそれらをそっちのけで別のカードを創っている。 しかも我々には訳の解らないカードだ」
「…きっと来伸にも何か考えがあるんだろう……それとセドリック、あれは俺達と宝月さんしかまだ知らされていない極秘カードだ、無闇に口にするなよ」
「おっと、年を取ると口が軽くなっていかんな」
* * *
サテライト B.A.D地区 砦(現テオドールの居城)
ここは”大いなる力”の監視所、そして来る時の為の”決闘場”でもある。
現在の王が住む様な城の外見ではなく、侵入・破壊不可、または一度入ったら出られない、そう思わせる程の強固な造り―――”砦”の様な建物だった。
その砦の大広間に、二人の人間が立っていた。
齢80を越え、杖を突いて歩く宝月 仁と、それに付き添う当時18歳であったフレデリック、その二人が台座に置かれた虹色の箱―――その中の”黒い何か”を眺めていた。
「つき合わせてすまないな、フレデリック……」
「いえ、自分でよろしければ何時でも。 それに宝月さんの側にいるのはとても勉強になります」
「ありがとう……ところでフレデリック、最近の来伸や大地を見て感じる事は無いか?」
宝月に問われたフレデリックは少し考える。
フレデリックは普段、父のセドリックの下で修行するか、宝月や来伸の研究所で手伝いをするかで過ごす。
普段大地と接触が少ないので、大地の事は答えかねたが、来伸の事はよく見ていた。
「大地さんは分かりませんが、Dr.ディー……来伸さんは何と言うか……焦っているように見えます。 ここ最近はカード開発に没頭していて家にも帰っていないようで……何が来伸さんを駆り立てているのでしょう?」
「…成る程、セドリックにも聞いたが、大地に関しても同じ答えだった。 …もしかしたら二人も私と同じものを感じているのかもしれん…」
「同じもの…?」
老いた宝月の頭の中で鮮明に残っている半世紀以上前の記憶。
それが最近の記憶と混ざり合い、強烈な不快感を生み出す。
「…!? もしや”大いなる力”……”戦いの覇者”が復活を!?」
険しい表情で”大いなる力”を睨んでいる宝月を見てフレデリックが叫ぶ。
「分からない……だがありえなくは無い。 …頼む相棒、我々にもう少しだけ時間をくれ……戻ろうフレデリック」
宝月は虹色の箱となっている”相棒”に頭を下げると、踵を返す。
不快感の原因の一つである最近の記憶、その記憶から浮かび上がってくる男の顔―――
「(テオドール・ハイドフェルド……)」
宝月は数ヶ月前、セブンスターズとなったテオドールに”大いなる力”の全てを話した。
フン、プロデュエルはぬる過ぎて退屈だった。 そいつは俺の相手になるんだろうな?
話を聞き終えたテオドールは強気な発言と共に、復活するかもしれない”戦いの覇者”と戦う事を承諾した。
だがこの時、宝月は喜びを感じるどころか、危機感を覚えていた。
「(テオドールに話した時のあの目……私はずっと昔にあれと同じ目を見た事がある)」
テオドールと同じ目をした男―――”大いなる力”を手にしようとして、身を滅ぼした”あの男”。
「(…あくまで予感だ……それだけでテオドールを疑ってはならん……)」
心に重いものを抱えたまま、宝月は砦を後にした。
* * *
数日後 サテライト B.A.D地区 研究所前
「…何だこれ」
大地とセドリックは来伸を訪ねて研究所にやってきていたのだが、インターフォンは反応せず、扉の前には”面会謝絶”と書かれた板が吊るされていた。
「どうやらラストスパートに入ったみたいだな。 集中したいんだろう」
「ようやく終わりか、これで”セイヴァー”や”バスター”に取り掛かってくれるかな」
二人は納得して来た道を戻ろうとすると、セドリックの携帯から音がなる。
セドリックが取り出し確認すると、それはフレデリックからの電話であった。
「今の音はフレデリックか?」
「ああ、もしもし―――」
「父さん! 大変です! 今すぐ砦に―――」
その瞬間、通信が途切れる。
「大地! 砦だ!」
「どうした!? 何があった!」
「後だ! とにかく来い!」
* * *
フレデリックの連絡から数分前 サテライト B.A.D地区 砦門前
今日も大広間で宝月とフレデリックが”大いなる力”の様子を見ている時、砦の門に3人の男が近づいていた。
門衛がそれに気付き、声を掛ける。
「これはセブンスターズの皆様! こちらにはどの様なご用件で?」
先頭に立つ若い男―――テオドールがそれに答える。
「中に用がある。 開けろ」
「ならば許可証をお見せください。 セブンスターズの皆様と言えど、ここへの立ち入りは総帥の許可が必要です……ぐっ! あ……」
突然応対していた門衛をもう一人の門衛が殴り、気絶させる。
殴った門衛が門を開くと、テオドールに向かって跪く。
「目的のものは奥の広間にあります」
「よくやった夜霧……行くぞ」
* * *
サテライト B.A.D地区 砦 大広間
「!? 宝月さん! 誰かがこの砦に!」
フレデリックは才能があるサイコ・デュエリスト、テオドール達が侵入してきた事をすぐに感じ取る。
「…来てしまったか……」
「え? し、知っているのですか? この侵入者を!」
「ああ……間違いなく戦いになるぞ」
宝月は悲しげな顔で自分の決闘盤を撫でると、フレデリックは自分の決闘盤を用意し、次に父親に電話を掛ける。
「父さん! 大変です! 今すぐ砦に―――」
その瞬間、通信が途切れる。
サイコ・パワーによって強制的に切られたのだ。
「手間取らせる事をするな、フレデリック……」
広間の入り口にテオドールが立っていた。
側にはセブンスターズのメンバー、夜霧、バッド、代野が控えている。
「テオドール!? 何故君が…!」
フレデリックが驚くと、テオドールは不敵な笑みを浮かべて宝月達の後ろにある虹色の箱を指差す。
「それを渡してもらおう。 それは俺が持つに相応しい”力”だ」
「な、何を言っているんだ……皆さんまで……」
フレデリックが他の3人に眼を向けると、バッドが鼻で笑う。
「見て解らねぇのか? クーデターだよクーデター! これからは好き勝手やらせて貰うんだよ俺達で! ……ただ新リーダーがこんなガキなのが気にいらねぇけどな」
バッドがそう言うと、夜霧が突然バッドに掴みかかる。
「貴様! 弱者の分際でほざくな!」
「何だとこの野郎!」
「黙れ!」
テオドールが一喝すると、軽い衝撃波が広がる。
それを受けた宝月はよろけたところをフレデリックに支えられ、夜霧とバッドはお互いに離れる。
「も、申し訳ありませんでした」
「解ればいい夜霧。 …バッド、次は無いぞ」
バッドは納得がいかない様な顔で小さく舌打ちをする。
「テオドール……やめるのだ! ”あの男”と……”天馬会長”と同じ過ちを犯す気か! あれは……人に扱えるものではない!」
宝月が精一杯声を張り上げると、テオドールはそれを掻き消してしまうような高笑いを上げる。
「ハッハッハッハ! 出来るんだよ! 貴様等老いぼれに出来なくとも、この俺にはな!」
「…愚か者…! 貴様などに渡すものか…!」
宝月は決闘盤を構え、展開しようとするが、フレデリックに阻まれる。
「フレデリック…!?」
「宝月さん! ここは私が!」
そう言ってフレデリックは自身に決闘盤を展開させる。
「フ……懸命だな。 サイコ・デュエリストではないそこの老いぼれでは一撃も持たんだろう。 だが半人前のお前でも結果は同じだ……」
「黙れテオドール! お前は宝月さんの期待を裏切った! 私はお前を許しはしない! デュエルだ!」
* * *
フレデリックの連絡から数十分後 サテライト B.A.D地区 砦門前
「ようやく辿り着いた! …見ろ! 門衛が!」
セドリックが倒れている門衛に駆け寄り、声をかけながら揺さぶる。
門衛は目を覚ますと、ここでの出来事を話す。
「セ、セブンスターズのテオドールが……砦の中に……」
「何だと!? テオドールが……テオドールがやったのか!」
大地が門衛に詰め寄ると、門衛は力なく頷く。
大地もそれに合わせて天を仰ぐ。
「何という事だ……」
「嘆いていても仕方が無い! 俺達も行くぞ!」
セドリックは大地を促し、砦の奥へと進む。
広間に辿り着くと、そこにはデュエル終了のアラームが鳴り響いていた。
入り口側にはテオドール、そして向かい側で倒れているのは―――フレデリック、
「フレデリック!!!」
セドリックは驚き、大地と共にテオドール達の間をすり抜けてフレデリックの元へと駆け寄る。
「すまないセドリック……私を庇ってテオドールと戦ったのだ…!」
宝月は申し訳無さそうにセドリックに頭を下げる。
「いえ……それでいいのです。 その為に息子を貴方に付けたのですから。 …よく持たせた、後は任せろ、自慢の息子よ……」
「間違いではないな。 半人前だと思っていたが、中々やる……そこの二人よりもずっとマシだな」
「何だと!」
テオドールはバッドと代野に眼をやると、バッドは憤慨して叫ぶ。
だがそれだけであり、先程のテオドールの言葉があるからか、バッドはすぐに大人しくなった。
セドリックはフレデリックを離れに横たわらせると、テオドールを睨み付ける。
「テオドール! 貴様は大地と宝月さんの期待を裏切った! 俺は貴様を許しはしない! デュエルだ!」
「フン! 同じ台詞を吐くとは流石親子だな! だが状況を良く見ろ! こちらが4人、そっちは3人、その3人の内一人は元決闘王だがサイコ・デュエリストではない年寄り! 勝負は明らかだぞ! おっと、ディーを待っても無駄だぞ? あっちには安藤が向かったからな!」
今まで一言も喋らなかった代野がここぞとばかりにベラベラと喋り出す。
これでセブンスターズはセドリック以外のメンバー全てが裏切った事になる。
「安藤まで向こうか……(どうやら俺には人を見る眼が無いらしい……すまない来伸……)」
大地は決闘盤を展開し、前に出る。
「テオドール! 次の相手は俺だ!」
「大地……」
心配そうな声を出す宝月に大地は笑みを浮かべながら振り向く。
「大丈夫です、相手は決闘王ですが、サイコ・デュエル暦は一年も経っていません。 それに……小僧に遅れを取るほど歳取ってないですよ」
「…いいだろう、相手をしてやる。 だが一人一人相手してやるほど俺の気は長くない。 後ろの奴らもデュエルしてもらうぞ」
テオドールが目配せすると、夜霧がセドリックの前に進み出て決闘盤を展開させる。
「お前は必ず我等の障害になる……消えて貰うぞ!」
「抜かせ小童、負けても泣くんじゃないぞ」
同様にセドリックも決闘盤を展開させる。
それを見たバッドは宝月の前に進み出て決闘盤を展開させる。
「何だよ、俺の相手は爺か。 ま、元キンなら少しは楽しませろよ?」
「…面倒だ、そっちも来い。 纏めて”俺が”相手してやる」
宝月は眼つきを変えると、代野を手招きする。
「舐めてんじゃねぇぞ!!! ならお望み通りにしてやる! こい代野! この爺をぶっ殺すぞ!」
「あ、ああ」
代野はバッドの剣幕に押されながら横に並び、決闘盤を展開して構える。
「行くぞ―――」
デュエル!!!
* * *
サテライト B.A.D地区 研究所
「……よし! 完成だ!」
来伸は機械から取り出したカードを見て笑みを浮かべる。
だがそのカードは数日前のイラストもテキストも描かれていないフレームだけのカード。
「後は……決闘者だけだ」
そう呟くと来伸は脱力した様に椅子に座る。
「さてと、今度は”セイヴァー”と”バスター”を仕上げるか。 散々大地さんに言われてたから急がなきゃな」
「ごめんください」
来伸が立ち上がろうとすると、後ろから声をかけられる。
来伸が振り向くとそこには安藤と数人の男が立っていた。
「…外の札が見えなかったか? まあ今外そうと思っていたところだが……あ、でもここ俺の部屋じゃねーか、やっぱり勝手に入ってくるなよ」
「失礼しました、急ぎの用だったので……Dr.ディー、今すぐ”セイヴァー”と”バスター”を含める全てのデータの譲渡を要求します。 拒否権はありません」
安藤が手を挙げると、後ろに控えていた男達が来伸を取り囲む。
「…テオドールの差し金か?」
「おや、鋭いですね。 その通りです、所謂クーデターというやつです。 それを指揮しているのが彼ですね」
「…何してくれてんだよ」
来伸は溜息をつくと立ち上がり、安藤に向き直る。
「お前はあれか? ”闇のカード”をそんなに研究したいのか?」
「そうですね、それが大きいです。 つまらないじゃないですか、したい事が出来ないなんて。 あ、もし今から研究のお許しがいただけるならそっちに寝返ってもいいですよ」
「…ふざけんじゃねぇ!!!」
来伸はそう叫ぶと、床に何かを投げつける。
投げつけられたそれが破裂すると、中から白い煙が噴出す。
「! これは……只の煙じゃないですね……感覚を研ぎ澄ませても、何も感じない……やられましたね」
煙が晴れた時ににはもう既に来伸は姿を消していた。
周りの男達は宝月を追おうとするが、安藤がそれを制止する。
「止めなさい、後はテオドールさん達に任せましょう。 大事なのはこちらですから」
そう言って安藤は来伸の研究データを探し始めた。
* * *
サテライト B.A.D地区 砦
「どうした小僧! 大口を叩いておいてこの程度か!」
「くっ……おのれ……」
状況
セドリック 夜霧
LP:5500 LP:3500
手札:2 手札:2
モンスター モンスター
・裁きの龍 ・無し
魔法・罠 魔法・罠
・無し ・無し
何も無くなった場に佇む聖なる光の龍。
その龍の痛烈な一撃を受けた夜霧は歯を食いしばって立ち上がる。
「くそ! くそ! どうなってやがんだ! ふざけんな!」
「(セドリックは優勢……だが……)」
状況
宝月 バッド
LP:8000 LP:2400
手札:1 手札:2
モンスター モンスター
・宝玉獣 アンバー・マンモス ・神獣王バルバロス
・宝玉獣 アメジスト・キャット 魔法・罠
・宝玉獣 サファイア・ペガサス ・無し
・宝玉獣 ルビー・カーバンクル
魔法・罠
・宝玉の解放(アンバー・マンモス)
・強者の苦痛
こちらは宝月とバッド・代野によるバトルロイヤル形式のデュエル。
老齢な宝月がサイコ・パワーを受ける事は致命的、なので宝月は堅実な戦法を取り、隙を突いていった結果、無傷で代野を倒し、バッドを追い詰めた。
「役立たずめ! くそ!」
バッドが拘束装置によって気絶した代野に悪態をついているこの時、宝月は隣の大地の身を案じていた。
「(くそ……小僧でもやはり決闘王か……)」
「手こずらせてくれたな、伊達にセブンスターズを束ねてはいないということか……だがここまでだ」
状況
大地 テオドール
LP:2700 LP:4000
手札:0 手札:1
モンスター モンスター
・メンタルスフィア・デーモン ・レッド・デーモンズ・ドラゴン
魔法・罠 魔法・罠
・アポート ・セット
やはり他の3人よりもテオドールの実力は飛びぬけており、大地は押されていた。
「焼き尽くせ! 《灼熱のクリムゾン・ヘルフレア》!」
レッド・デーモンズ・ドラゴンが放った火炎により、 メンタルスフィア・デーモンは咆哮を上げ、燃え尽きる。
「ぐうっ!」
大地 LP:2700→2400
「ターンエンドだ」
「負けるか……俺は負けんぞ! 俺のターン! ドロー!」
大地 手札:0+1
「永続魔法《アポート》の効果発動! 相手の場のみモンスターが存在する場合、800LPを払って手札からサイキック族1体を特殊召喚する! 来い! 《マスター・ジーグ》!」
大地 LP:2400→1600
大地の場に瞬間移動してきたのは卵の様な形をした丸いモンスター。
頂点には頭部、そして体からは鋭い突起や管が突き出ている。
ATK:2600
「マスター・ジークの効果発動! 1000LPを払い、自分の場に表側表示で存在するサイキック族の数だけ相手の場に存在するモンスターを破壊する! 《カース・サイキック》!」
大地 LP:1600→600
マスター・ジークが凄まじい叫び声を上げ、体から電気の様な念動波を放つと、レッド・デーモンズ・ドラゴンも咆哮を上げ、そのまま地に倒れ消滅する。
「ちっ…!」
「バトル! マスター・ジークで直接攻撃!」
マスター・ジークがその丸い体で跳び上がり、テオドール目掛けて落下する。
テオドールはサイコ・パワーを集中させた左腕の決闘盤をかざし、マスター・ジークを受け止める。
「ぐ……フンッ!」
テオドールは左腕を振り上げ、マスター・ジークを弾き飛ばす。
テオドール LP:4000→1400
「ターンエンド! テオドール! 諦めろ!」
「宝月さん! 大地さん! セドリック! 無事か!」
大地のエンド宣言の瞬間、来伸が広間に到着する。
「ディーだと!? 安藤は何をしている!」
夜霧が驚いた様子で来伸を見る。
安藤が来伸を見逃し、自分の目的を優先させている事を、夜霧は知る由も無い。
「おお…! よく来てくれた…」
「遅いじゃないか」
宝月と大地が安堵の表情を浮かべて来伸を迎える。
来伸は二人の間に走り寄り、セドリックに一瞥すると、セドリックは笑みで返す。
「…馬鹿な事しやがって……降参しろ! 俺が来たからにはもう勝ち目は無いぞ! 拘束装置を使えば誰の所にも割り込めるからな! …そんなデュエルを俺にさせるんじゃないぞ!」
幾ら元決闘王と言えど今来伸に割り込まれればひとたまりも無い。
サイコ・パワーでデュエルを中断させたくとも、相手にサイコ・デュエリストがいれば防がれてしまうのだ。
この様に圧倒的不利の状況だが、テオドールの様子からは微塵も焦りが感じられなかった。
「フ……羨ましいぞ宝月……有能な手下を持っている。 …それに比べて、こちらは期待はずれだな」
夜霧は申し訳無さそうに、バッドは悔しそうに項垂れる。
「……この3人は私の手下ではない、友だ。 そして……君達ともそうでありたかった……テオドール、もうやめるんだ。 今からでも遅くは無い、考え直してくれ……」
宝月が説得するが、テオドールはそれを無視してデッキに指を掛ける。
「俺のターン! ドロー!」
テオドール 手札:1+1
「永続罠《リビングデッドの呼び声》を発動! 蘇れ! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」
テオドールの場に再びレッド・デーモンズ・ドラゴンが現れると、来伸は決闘盤を展開し、デュエルに割り込む。
だがテオドールの眼は来伸に向いてはいなかった。
「俺が信じるのは……圧倒的な”力”だ! 《アブソリュート・パワーフォース》!!!」
燃え盛るレッド・デーモンズの右腕、向けられたのはマスター・ジークでも、来伸でもない。
それらを飛び越えて、右腕を振り下ろすその先は―――
「!? いかん! 奴の狙いは……”相棒”!?」
「やめろぉぉぉーーー!!!」
宝月と来伸が叫ぶも虚しく、その拳は虹色の箱を砕く。
箱が砕けた瞬間、宝月は”相棒”の悲鳴を聞いた気がした。
砕けた破片は瞬く間に中の”黒い何か”に取り込まれる。
その瞬間、石ころの様に小さかった”黒い何か”―――”大いなる力”が膨張し、バスケットボール程の大きさとなる。
「あ、ああ……”相棒”……」
「!? 宝月さん!」
宝月はショックのあまり膝から崩れ落ちてしまい、来伸に支えられる。
「何て事だ……あれが”大いなる力”……蘇ってしまったのか!?」
虹色の箱に入っていた時以上の不快感と威圧感、大地は”大いなる力”の圧倒的な存在感を感じていた。
「クク……これが”大いなる力”……”王が持つ力”か! 手にしてみせるぞ……俺が”王”だ!」
テオドールが”大いなる力”に近づこうとすると、突然”大いなる力”が鼓動を打つ様に振動し始める。
「!? 全員離れろぉーーー!!!」
何かを感じ取った大地がそう叫ぶと、各々の意思でデュエルを中断させ、”大いなる力”から離れる。
その瞬間、”大いなる力”から7枚のカードが飛び出す。
この場にいる全員が驚いて空中を飛びまわっているカードを見上げていると、7枚中6枚が壁をすり抜け、砦の外へと飛び出していく。
残った1枚は―――
「な、何……ぐわぁぁぁーーー!!!」
バッドに張り付き、黒いオーラの様なもので包み込む。
「ほ、宝月さん! あれは……」
来伸が宝月に尋ねるも、宝月は放心したように虚空を見上げている。
「ククク……アッーハッハッハッハッハ!!!」
黒いオーラに完全に包み込まれると、バッドは狂ったように笑い出す。
「デュエルだぁーーー!!!」
バッドが再び決闘盤を展開させ、宝月に向かって構える。
「危ない!」
危険を感じた大地がバッドと宝月の間に立ち塞がると、大地の決闘盤が強制的に展開される。
「大地さん!」
「心配するな! 俺が何とかする!」
大地は異常な様子のバッドを見据える。
血走った眼をして、今でも小刻みに笑っている。
「(あれは”戦いの覇者”なのか? …いや違う、本体はあそこにある)」
台座の上に大きくなった”大いなる力”が変わらずに存在している。
では先程のカードはなんだったのか。
「(…今はとにかく勝つ!)デュエルだ!」
「ハッハッハッハッハ!!! デュエル!!!」
この瞬間、大地が驚いた様に周りを見渡す。
「どうした大地さん!」
「く、黒い炎が……見えないのか!?」
「何も無いぞ! 一体どうしたんだ!?」
大地が周りを指差すが、炎の外にいる来伸達にはそれが見えない。
「ハッハッハ! 見せて貰うぞ! ”大いなる力”を!」
テオドールが楽しげに笑うのを合図に、大地とバッドのデュエルが開始された。
・
・
・
状況
大地 バッド
LP:4600 LP:6800
手札:1 手札:1
モンスター モンスター
・クレボンス ・神獣王バルバロス
魔法・罠 魔法・罠
・無し ・無し
「はあ……はあ……くっ!」
「ヒヒヒヒ……ハハハハ!」
戦況は大地が押されている。
普段のバッドと大地の実力差からでは想像もできない状況であった。
「ど、どうしてバッドがあんな力を……」
目を覚まし、状況をセドリックに教えられたフレデリックが驚きの眼でバッドを見る。
「おそらく、”大いなる力”のせいだろう……そうじゃなきゃこの状況の説明がつかん。 …そして妙だ」
セドリックが大地に眼をやる。
大地のサイコ・パワーは強力であり、バッドの攻撃によるサイコ・パワーは全て防ぎきっていた。
だが大地はダメージを受けたかの様に消耗してしまっている。
「(自分の中の”何か”が毟り取られる様なこの感覚……一体何なんだ?)」
大地自身にも解らない不可解なダメージ。
危険を感じた大地は状況を変える為に動き出す。
「クレボンスをリリース! 《マックス・テレポーター》をアドバンス召喚!」
クレボンスが消滅すると、宝月の場にマックス・テレポーターが現れる。
ATK:2100
「2000LPを払って効果発動! デッキからレベル3のサイキック族2体を特殊召喚する! デッキから2体の《サイコ・コマンダー》を特殊召喚!」
大地 LP:4600→2600
マックス・テレポーターが念を両腕に集中させ、自分の両隣にかざすと、2体のサイコ・コマンダーがテレポートして現れる。
ATK:1400
ATK:1400
「レベル6《マックス・テレポーター》に、レベル3《サイコ・コマンダー》をチューニング!」
サイコ・コマンダーが自身を3つの光輪に変えると、マックス・テレポーターを囲み、6つの光、そして光の柱へと変える。
「心の深淵から湧き上がる強き思いよ! 信念の矢となりて道を開け! シンクロ召喚! 来い! 《ハイパーサイコガンナー》!」
光の柱から現れたのはサイキック族のエースモンスター、 ハイパーサイコガンナー。
場に降り立つと、バッドの場にいる百獣の王、”神獣王バルバロス”に照準を合わせる。
ATK:3000
「バトル! ハイパーサイコガンナーで攻撃! 《ハイパー・サイコ・キャノン》!」
ハイパーサイコガンナーが念動砲を放つと、バルバロスはそれを受け止める。
「ダメージステップ時に《サイコ・コマンダー》の効果発動! 自分の場のサイキック族が相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ時に1度だけ100の倍数のLPを払う事で、払った数値分相手の攻守を下げる! 一度に払えるのは500までだ! 俺は500払って《神獣王バルバロス》の攻守を500下げる!」
大地 LP:2600→2100
神獣王バルバロス ATK:3000→2500
サイコ・コマンダーが乗っているUFOについている砲身をバルバロスに向け、ハイパーサイコガンナーの援護を行う。
不意を疲れたバルバロスは念動砲に押し負け、消し飛ばされる。
「クックックック……」
バッド LP:6800→6300
「サイコ・コマンダーで直接攻撃!」
続けてサイコ・コマンダーがバッドを砲撃する。
「ギャア! …ハァーーーハッハッハ!!!」
バッド LP:6300→4900
大地のサイコ・パワーを受けて仰け反るも、すぐに何もなかったかのように大笑いをするバッド。
「駄目だ! 殆どサイコ・パワーが攻撃に乗っていない! 一体どうしたんだ大地は!」
「大地さん……」
「…ターンエンド」
LP:2100
手札:0
モンスター
・サイコ・コマンダー
・ハイパーサイコガンナー
魔法・罠
・無し
息を荒くしている大地を不安気な表情で見るセドリックと来伸。
大地は何とか息を整え、エンド宣言をする。
そしてバッドのターン、バッドがデッキトップに指を掛けた瞬間、デッキが黒く光る。
「俺のタァーン!!! ドロォー!!!」
バッド 手札:1+1
「《死者蘇生》を発動ォ! 来い《神獣王バルバロス》!!!」
バッドの場に再びバルバロスが現れる。
ATK:3000
「またか…! …!?」
この瞬間、大地は異様な気配を感じる。
それはバッドが召喚したカード―――
「……召喚ッ!!!」
バッドの場に現れたのは形容し難い”黒い何か”。
それは紛れもなく”大いなる力”そのものであった。
「馬鹿な!? これは……」
「宝月さん!?」
放心状態だった宝月はバッドの場の”黒い何か”を感じると、意識を覚醒させる。
宝月は鮮明に思い出す、”戦いの覇者”と対峙した事を。
そして実感してしまう、”大いなる力”が蘇ってしまった事を。
「い、いかん……大地を……大地をこのまま戦わせてはならない!」
宝月は自分を支えている来伸に訴えると、来伸は悔しそうにバッドを睨んだまま答える。
「宝月さん……駄目なんだ。 セドリックとフレデリックがサイコ・パワーで、俺が拘束装置でそれぞれ割り込もうとしたんだが……何故か弾かれてしまう! くそ! どうなっているんだ!」
来伸の叫びを余所に、デュエルは続けられる。
バッドが墓地から一枚のカードを取り出すと、それを”黒い何か”に放り投げる。
カードを取り込んだ”黒い何か”は膨張し、姿を変えていく。
完全に姿を変えると、そこには鋼鉄の巨人が立っていた。
デュエル中にバッドの墓地に送られたモンスター、”鉄巨人アイアンハンマー”の姿である。
ATK:900
「す、姿が!?」
「アイアン・ハンマーの効果発動ォ! 自分の場のモンスター1体を選択ッ! このターン選択したモンスターは相手に直接攻撃出来る! バルバロスを選択! ぶっ殺せぇぇぇーーー!!!」
バルバロスが大槍を大地目掛けて投げつける。
バルバロスの大槍は―――大地を貫いた。
「うわぁぁぁーーー!!!」
大地 LP:2100→0
「「大地!!!」」
「「大地さん!!!」」
サイコ・デュエルとはいえ、ソリッド・ビジョンである。
本当に貫かれた訳ではない。
大地が感じているのはサイコ・パワーの衝撃と―――自分の”力”が抜けていく―――いや、奪われていく感覚だった。
「(流れていく……槍で貫かれた場所から……俺の”生命”が……)」
目の前が暗くなる、力が抜けていく、苦しかったはずの感覚が―――楽になっていく。
「(七海……空…………来伸……)」
デュエル終了のアラームと共に、大地は倒れた。
来伸達が急いで駆け寄る。
「大地さん! 大地さんしっかりしろ!!!」
「駄目だ…! もう……もう……」
セドリックの言う通り、既に大地は事切れていた。
だが涙を流しながら、尚も起こそうとする。
「おお……大地……何という……何という事だ……」
宝月は大地の亡骸に縋り、泣き崩れてしまう。
大地に止めを刺したバッドは甲高い笑い声を上げると、広間から走り去る。
「夜霧! 追え! 絶対に逃がすな!」
「ハ、ハッ!」
夜霧は慌ててバッドを追う。
それを見届けたテオドールは”大いなる力”に近づく。
「素晴らしい! バッド程度の雑魚が、一欠片であのような”力”を手にした! それがこの”本体”ならばどうなるか……フハハハ! 必ず! この”力”を我が物にするぞ! ……さて」
今度は来伸達の方へ振り向く。
それを見たセドリック親子が庇う様に立ち塞がる。
「…次はお前達の処遇だ。 宝月、お前にもう用はない。 本来ならば消すところだが……俺をここまで導いた事には感謝している。 見逃してやろう。 そこのセドリックと共に消え去れ」
次にテオドールは来伸とフレデリックを見る。
「ディー、お前はここに残ってカード開発を続けてもらうぞ。 そしてフレデリック、お前は見所がある。 俺の側に置いてやってもいい」
「誰がお前なんかに―――」
「テオドール!!!」
後ろからフレデリックの言葉を遮る様に来伸が怒鳴る。
「俺は……諦めない! 俺は未来を繋ぐ!!!」
そう言って来伸はテオドールの足元に何かを投げつける。
今度は煙ではなく、目を貫くような閃光が放たれる。
「うおっ!!!」
暫く広間を眩い光が包む。
光が収まった時には来伸達は姿を消していた。
「……今は気分がいい、見逃してやろう。 だが何時までも逃げ切れると思うな……ディー!」
* * *
サテライト B.A.D地区
「来伸、ここは?」
「緊急用の隠れ家だ。 まさか使う事になるとはな」
砦から逃げ出した来伸達。
何時間も南へ走り続け、ようやく隠れ家に辿り着いた。
来伸は大地を背負い、セドリックは宝月を背負っている。
来伸は隠されたレバーを引き、階段を出現させた。
「”まさか”、か……”まさか”の連続だ」
セドリックは声を震わせて溜息をつく。
「これから……どうするんですか?」
テオドール戦のダメージが残る体を引きずりながら、懸命についてきたフレデリック。
そんな彼の顔には疲れと不安が満ちていた。
その時、セドリックの背に体を預けている宝月が口を開く。
「来伸……どうしたらいい?」
「え…?」
「…我々は……失いすぎた……遊芽も……大地も……アルカディア・ムーブメントも…………”相棒”も……私達はどうしたらいいんだ……来伸」
セドリックの背で涙を流し続ける宝月。
来伸は3人を見渡してから答える。
「…宝月さん、俺は……諦めない……フレデリック、すまないが大地さんを頼む」
そう言うと背中の大地を下ろし、フレデリックに手渡す。
来伸はフレデリックの背に移った大地に話しかける。
「……大地さん……俺は絶対に諦めない。 遊芽や大地さんが生きたかった”未来”……そして、俺達の子が生きていく”未来”を……俺は守ってみせる。 ……遊芽にもよろしくな」
次に来伸は宝月に向き直る。
「宝月さん、確かに俺達は掛け替えのない多くのものを失った。 だが”未来”は失ってはいない! だから宝月さん、”希望”だけは見失わないでくれ!」
「来伸……」
友に別れを告げ、未来を守る事を改めて誓った来伸は、広いB.A.D地区の西の果て、そこに沈んでいく夕日を――――――沈みきるまで見詰め続けていた。
……………………
………………
…………
……
…
「お父さん……」
父の最期を知った空は七海の胸に抱かれて涙を流す。
七海も同じ様に涙を流し、空を抱きしめていた。
この姉妹と同様に、亡き父へ思いを馳せていた遊伸は、ふと思う。
「……フレデリックさん、セドリックさんは?」
「…父は数年前、ファントム・オブ・カオスの捜索に向かったまま、帰って来ませんでした……おそらくは……」
フレデリックはそれ以上言わず、俯いて口をつぐむ。
「そんな……」
「…父も近衛博士……来伸さんの様に最期まで戦ったのだと、私は信じます。 …遊伸君、我々は守っていかなければならない……父達が繋いできた”現在”を、そして”未来”を」
「はい…」
「皆さん……聞いてください」
話を終え、一息ついていた宝月が皆に呼びかける。
「…私は来伸が死んだと聞いた時、目の前が暗くなりました。 今度こそ、終わりだと。 しかし私の中で来伸の言葉が響きました」
”未来”は失ってはいない! だから宝月さん、”希望”だけは見失わないでくれ!
「…この言葉が、私をここまで生かしました。 …信じて、信じて、そして現れた。 七海を始めとする、皆さんが……来伸達の遺志を受け継ぎ、未来を担う”決闘者”達が…! …本当にありがとう…!」
宝月は声を震わせ、この場にいる全員に対して頭を下げる。
「宝月さん……こちらこそありがとうございます。 宝月さんが戦い続けていなければ、きっと僕等は出逢うことも……強くなる事も出来ずに……ただ支配されるだけだったと思います」
「遊伸の言う通りだぜ! それに宝月さん、まだ終わってないんだろ? 勿論俺達も手伝うからさ! 協力して封じ込める方法を探そうぜ! なあ皆!」
鋼貴が同意を求める様に見渡すと、ここにいる”決闘者”達が全員頷く。
宝月が感極まり、涙を流した瞬間、部屋に拍手の音が鳴り響く。
全員がその拍手の音の方へ顔を向けると、そこには男が立っていた。
何時、何処から、どうやって入ってきたのかは誰にも分からない。
その男は当たり前の様に、そこに立っていた。
「…長い、長い戦いだったな、宝月 仁……だがその戦いも、ようやく終わる……」
誰もが自身の眼を疑い、声を発する事が出来ない。
最初に口を開いた遊伸が、その男の名を呼んだ。
「……テオドール」
これにて過去回想編は終了です。
長かった……主人公がまったくデュエルしてないよ(笑)もう7話くらいかな?
次回は最終決戦となります。
少し時間がかかるかもしれませんが、気合入れて頑張って書くので、どうぞお楽しみに
m(_ _)m