遊戯王~Truth of Satellite~ 作:鬼柳高原
遊伸がシティに来てから早一ヶ月、その間に遊伸は仕事をこなしていき、経験を積んでいた。
そんなある日の昼下がり…
シティ内陸部 マーシャル・レッド事務所付近
「…それでよ、グレイグが言うんだよ、「宝月 仁曰く、だ」ってな、自分で考えやがれってんだ!」
「そうだね、はは!」
遊伸と鋼貴は一仕事終え、事務所に帰る途中であった。
遊伸は宝月 仁と聞き、鋼貴に問いかける。
「そういえばその宝月 仁って人、どんな人なの? 最初にグレイグさんが話してたけど」
「宝月 仁、って言ったら、おそらくシティの決闘者で知らない奴はいないと思うぜ」
「そんなに有名人なの?」
「有名人って言うか、偉人だな、ネオ童実野シティの初代決闘王(デュエルキング)だ」
「決闘王?」
シティに来て一ヶ月でもまだまだ世間知らずの遊伸。
「…プロで一番強い奴のことだよ、プロがあるのは知ってたのにお前…」
「これだけ盛んならプロぐらいあるんじゃないかって位には思ってたから…」
遊伸は頭をかきながら言い訳をする。
「…まあいいか、で、その宝月 仁は歴代キングでも最強だと言われている、決闘王になってから負け無しだったらしいぜ」
「凄い…」
「ああ、でもかなり早く引退したんだよな、何でもモーメント開発の責任者でもあったからその為とか」
「モーメントって…その人どれ位前の人なの?」
鋼貴は思い出そうと顎に手を置き、目線を上げる。
「70年位前じゃねーかな、生きてたとしたら今90歳位か?」
「…もう亡くなってるの?」
「それがよ、引退してからモーメント開発に関わったっていうは分かってるんだが、それ以降の話がまったくねーんだ、死んだのか、生きているのかもな」
「そんなに有名な人なのに?」
「一説では"ゼロ・リバース"の責任を負わされて失脚したとか、現場にいて巻き込まれて死んだとか、まあ責任者って話だから有り得るかもな」
シティの一部を吹き飛ばし、サテライトが出来る原因となった大災害、ゼロ・リバース。
今から70年前にモーメントの暴走事故で起きたそれは研究者達のモーメントによる実験の最中のことであった。
そうなることを見越して、その一帯の住民は退避させていたので犠牲者自体はごく僅かだったと言う。
「無敗神話、謎に満ちたその後、こういうことがあって、宝月 仁は伝説化してるんだ。 アカデミアの教科書にも載ってるぜ」
「じゃあグレイグさんがよく名前をだすのも…」
「そ、グレイグが宝月 仁の無敗神話とその言葉に心酔してるからさ」
遊伸は納得すると同時に気になることが出来た。
「…その人が初代決闘王なんだよね? 今の人は?」
鋼貴は一瞬不思議そうな顔をしたが、遊伸の事情を思い出す。
「…そうか、お前は知らないんだったな、今の決闘王は…と着いたな、続きは報告の後にな」
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「お願いです、絶対に許すことは出来ないんです…!」
遊伸達が事務所に戻ると、既に新しい依頼が持ち込まれていた。
この男の名はユアン・フラナガン。
一年前、決闘王殺害事件で亡くなった決闘王、アーノルド・フラナガンの弟である。
決闘王殺害事件とは、一年前に行われた決闘王の称号を賭けたタイトルマッチ、その時にに起きた事件である。
試合会場はシティ沿岸部にあるデュエルスタジアム、そこの決闘場はタイトルマッチ特別仕様で、かなりの高さまで迫上がり、観客席から決闘者と同じ目線で見ることが出来るという仕掛けがあった。
挑戦者はランディ・ベルタン、アーノルドとランディはその舞台の上でデュエルを行った。
結果はランディの勝利、そしてその直後、事件は起きた。
アーノルドが突然後方へよろめき倒れ、そのまま舞台から落下したのである。
救護班が駆けつけ、すぐに病院に運ばれたが、手遅れだったという。
一方、ランディは舞台の高さが元に戻ると突然笑い出し、そのまま会場から逃げ去った。
セキュリティは彼が何らかの方法でアーノルドを決闘場から落とし、殺害したと見て行方を追っているが、未だに見つかっていない。
「事情は分かりました、しかしですな…」
グレイグが厳つい顔を渋らせる。
ユアンが持ち込んだ依頼、それはランディの捕縛であった。
あの事件から一年間、ユアンはランディの消息を追い続け、ようやくダイモン・エリアにいることを突き止めた。
「セキュリティだと感付かれて逃げられる可能性があります、そこでデュエルチームにお願いしようと多くのチームを回ったのですが…どこも断られてしまって…」
「(そりゃ決闘王も倒す殺人犯なんて誰も相手にしたくねーだろ…)」
鋼貴は内心で突っ込む。
「お願いします! 無理に捕まえろとは言いません! 危険を感じたら逃げても構いません! ですからどうか…兄の仇を…」
ユアンの目には涙が溜まっていた。
「…」
流石に殺人犯の捕縛は命に危険を伴う可能性がある。
いつも勝手に依頼を受けてしまうグレイグであったが、今回は承諾しかねた。
「…グレイグさん、その依頼、僕に受けさせてくれませんか?」
遊伸が進み出て言う。
「おい! 遊伸! 本気か!?」
鋼貴が後ろから遊伸の肩を掴む。
「…相手はキングを倒したプロだぞ」
グレイグは遊伸を見据えて言う。
「確かに僕じゃ勝てないかもしれない…でも、このまま放って置けばまた犠牲者が出るかもしれない! それにダイモン・エリアはサテライトと近い環境です、僕が適任だと思います」
「…」
グレイグが返事を渋っていると鋼貴が溜息を吐いて言う。
「グレイグ、俺も行くぜ、可愛い後輩が行くって言ってんだ、先輩の俺が行かないでどうするよ!」
「鋼貴…」
「…分かりました、その依頼、受けましょう」
グレイグが溜息を吐き、承諾をする。
「本当ですか! ありがとうございます! これが前金です、どうかよろしくお願いします…」
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ユアンが帰った後、グレイグが厚い前金の封筒の中身を二つに分け、遊伸と鋼貴に渡す。
「その前金はお前らにくれてやる、それで装備を整えろ。 …本当は俺も行きたいとこだが、俺は昔ダイモン・エリアでドンパチやってたからな、顔が割れてる、行かない方がいいだろう…」
申し訳無さそうにグレイグが言うと今度は強く言い放つ。
「必ず無事に帰って来い! 帰ったらボーナスだからな!」
「おっしゃ! 忘れんなよ! 遊伸、行こうぜ!」
「うん!」
* * *
シティ沿岸部 繁華街 カードショップ
遊伸と鋼貴は打倒ランディ・ベルタンの為の戦力を増強するために、繁華街にあるカードショップにやって来ていた。
「こんにちは!」
「店長! カード見せてくれよ!」
「おや、いらっしゃい! 珍しいね、カード買いに来るなんて」
店長が店の奥から出てくる。
「今度の仕事がちょいと厳しくなりそうなんでな、戦力アップの為に来たんだ」
「そうかい、それなら好きなだけ見てっていいよ…そうだ! ちょっと聞いてよ!」
そう言うと、店長はレジの後ろからチラシを取り出し、遊伸達に見せた。
鋼貴が受け取り、目を通す。
「何だ? デュエルチーム対抗デュエル大会?」
「そう! うちの店が主催する大会で、参加者は全員デュエルチームに限定しているんだ」
「どうしてデュエルチーム限定でやるんですか?」
遊伸が疑問を口にする。
「だってほら、デュエルチームってさ、仕事柄いがみ合ってるでしょ? だから今回の大会は親睦会も兼ねてるんだ。 僕としては皆大事なお客さんだからね、仲良くしてほしいよ」
デュエルチームは基本、他のチームとは折り合いが悪い。
仕事の取り合いにはなるし、仕事上で対立する事もあるからだ。
「(デュエルで優劣をつけるような物を親睦会にしたら逆効果じゃねーかな)」
鋼貴がまた内心で突っ込む。
「開催日は今月末の予定だからマーシャル・レッドさんもぜひ来てね!」
* * *
ダイモン・エリア 表通り
「とうとう来たぜ、準備は大丈夫だな?」
「うん」
繁華街でカードその他色々準備を整えた二人は現在、この通りのどこかにいるランディを探し始めた。
ダイモン・エリアとは元々、サテライトには居たくない、しかしシティでもまともに歩けない、歩きたくない者たちが集まる場所であった。
現在ではシティとの繋がりにより、以前よりもサテライトの治安がセキュリティによって幾らか改善された為、このダイモン・エリアにサテライトの荒くれやならず者が流れてくるようになったという。
「おい、ランディ・ベルタンを知っているか?」
鋼貴は家の扉の前にいる男に尋ねる。
「…さあ、知らないな…」
「…そうかい」
鋼貴が立ち去ろうとした瞬間、男が飛び掛ってくる。
「(そら来たよ、返り討ちに…)」
鋼貴が振り返ると、遊伸が男の脇腹を蹴り飛ばしていた。
ごふ! っと男は言うとそのまま勢いで横に倒れる。
「鋼貴、危なかったね、こういう奴らだらけだから気を付けよう」
「お…おう……遊伸」
「何だい?」
「お前…リアルファイト強いのな…」
「サテライトで育ったからね、叩き込まれたよ」
「…恐るべし、サテライト」
遊伸と鋼貴がそんな事を話していると、後ろから声を掛けられる。
「お前達、ランディを探してんのか?」
「…アンタは?」
鋼貴が警戒しながら聞き返す。
「俺はダイモン、ここを仕切っている者さ」
「何!?」
鋼貴と遊伸は身構える。
ダイモンは笑いながら話を続ける。
「ハハ! そう身構えるなって! 俺はお前等に協力したいんだからよ! 捕まえたいんだろ? ランディ」
「は?」
「悪いが立ち聞きさせてもらったぜ、どうだ? 協力しねぇか?」
「協力してくれるんですか!」
「まて遊伸! …どうして協力が必要なんだ? アンタここの頭だろ? 人一人どうにでもなるだろ」
「それはだな」
その男、ダイモンが言うにはランディは現在、このダイモン・エリアでダイモンが経営している賭け決闘場での賭けデュエルをして生計を立てているらしく、勝っては荒稼ぎをしているらしい。
「そこまでは問題ねぇ、このダイモン・エリアは来る者を拒まず、犯罪者だろうが何だろうが関係ない、勝ち続けるのも、経営的には痛いが、話題になり、挑戦者や大穴狙いがここに来て金を放り込んでくれる……だがな」
ダイモンは間を入れる。
「相手を殺すのは勘弁して欲しいんだよな」
「!?」
「何だと!?」
鋼貴はダイモンに詰め寄る。
「アイツ、キング以外にも殺してんのか!?」
「殺すっていうか……戦った相手がぶっ倒れちまうんだよ」
「それってどういう…」
「ランディとデュエルした奴は皆デュエルが終わるとぶっ倒れる、殆どの奴が意識不明、運が悪い奴は死んだ…原因は不明、どうやってんだか検討もつかん」
「(決闘王の時と似ている…)」
遊伸は鋼貴に聞いた話を思い出す。
「…流石にそこまでされると客が寄せつかなくなる、だからとっととお捕まりになってほしいのよ」
「言っても聞かないんですか、殺すな、って」
「…どうやって殺してるか分からないんだぞ、一部では呪いとか言ってる奴もいるし……つまり、近付きたくねぇ、誰も死にたかねぇってことだ」
「案外裏の人間も意気地ねーな…」
鋼貴がそういうと
「俺達だって人間だぜ? 命は惜しい」
とダイモンは返す。
「…ま、事情は分かったよ、その話、乗るぜ」
「おお、助かるぜ」
ダイモンはそう言うと捕縛の為の作戦を話す。
まずダイモンが経営している賭け決闘場で大きな賞金が出るトーナメントを開く。
ランディは賭けデュエルで生計を立てているが、あまりにも勝ちすぎた為、殆どの者がデュエルをしたがらなくなり、稀に怖いもの知らずが挑んでくる程度であるという。
「トーナメントはうちじゃよくやっているから怪しまれん、奴はきっと金に困ってるからな、釣れるぜ」
「で、俺達はどうすればいいんだ?」
「トーナメントに出場してもらう、で、どっちかが決勝でランディとデュエルして、拘束装置でとっ捕まえる」
「あの、何で決勝なんですか? 最初の内に当たって捕まえた方が楽じゃ…」
遊伸はもっともな意見を言う。
「お前等はここの奴らと毛色が違う、下手したらランディがお前等の素性に感付いて逃げるかもしれねぇ、だからまずランディを引けない状態にしたい」
決勝戦まで進めば賞金まで後一歩である。
金欠なランディとのデュエルの舞台を決勝戦にすればランディは確実にデュエルに応じる、とダイモンは言う。
「で、でも決勝で当たるようにしたら僕と鋼貴が途中で当たると思うんですけど…」
「勝った方が決勝に行けばいいだろ、それにどうせ最後は二人係なんだしな」
「え?」
ダイモンの言葉に戸惑う遊伸、その遊伸に鋼貴が言う。
「拘束装置の「バトル・ロイヤルモード」を使うんだよ、あれを使えばたとえデュエル中でもデュエルに割り込んで参加出来るんだ、流石に決闘王クラスの殺人犯にタイマンは実力的にも精神的にもきついだろ?」
「なるほど…」
説明を終えたダイモンが立ち上がる。
「それじゃ決闘場に案内するぜ! その後俺が出場者募ってくるからよ!」
二人はダイモンに続いて行った。
* * *
ダイモン・エリア 賭け決闘場
「まあ、ランディがでるから案の定、人数は集まらなかったぜ」
遊伸、鋼貴、ランディを除いて集まったのは5人だけであった。
「別にいいじゃねーか、集まらない方が早く当たるだろ」
「経営的にはもっと集まって欲しかったんだがな、まあいいだろう」
ダイモンはトーナメント表を取り出して遊伸達に見せる。
「これがトーナメントだ、ランディももちろんエントリーしてるぜ」
トーナメントは8人で対戦回数は3回、遊伸と鋼貴が順調に行けば、二回戦でお互いが、決勝戦でランディとぶつかる事になる。
「まずは一回戦を絶対勝たないとね」
「おう、負けんなよ、遊伸!」
「もうそろそろ始めるぜ、控え室に行ってくれ、決勝戦以外、デュエルの順番じゃない奴は控え室にいて貰うことになっている」
「はあ!? 何で! ランディのデュエル見れねーじゃねーか!」
鋼貴が文句を言うとダイモンが言い返す。
「最初にも言ったろ、ランディに警戒されないようにだよ、お前らの手の内も奴に見られないし、俺がそれなりに伝えてやるからよ」
「…まあ、そういうことなら、遊伸、行こうぜ」
「おっと、言い忘れたことがあったぜ」
ダイモンは遊伸達を呼び止める。
「ここ、ダイモン・エリアでのデュエルは「アンティ・ルール」が決まりだ、レアカードのみのな」
「アンティ・ルール?」
遊伸が鋼貴に聞く。
「お互いカードを提示して、勝った方が負けた方が提示したカードを貰えるルールさ、一般では禁止されている。 …ここがどういうとこだか忘れてたぜ」
鋼貴はウンザリしたように言う。
「そ、そんな、大事なカードを…」
「そんなの負けなきゃいいじゃねえか、逆にぶんどってランディとの戦力にしちまえよ」
ダイモンは軽く言う。
「……」
「ま、こっちはランディさえ何とかしてもらえりゃそれでいい、たのんだぜ」
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遊伸が控え室に入ってしばらくたった。
遊伸の試合は第4試合、遊伸が試合する時には鋼貴もランディも試合が終わっている。
遊伸がデッキの確認をしていると、扉が叩かれる。
「試合だ、出てきてくれ」
ダイモンの声だった。
部屋から出てきた遊伸にダイモンは報告する。
「お前の仲間は勝ったぞ、ランディもだ」
「…ランディとデュエルした人は?」
「倒れた」
「そうですか…」
遊伸は決闘場へと向かう。
「(相手の人には悪いけど、僕も大事なカードをとられる訳にはいかない…勝たなきゃ)」
遊伸が決闘場に着くと観客席から様々な声が飛ぶ。
「あれがデュエルすんのか?」
「絶対勝て! 大穴でお前に賭けてんだ!」
「負けたら承知しねーぞ!」
「ビビッて帰るなよー!」
「(これが賭け決闘場か…)」
遊伸が立ち位置に立つと対戦者が声を掛ける。
「てめえが相手か、捻り潰して……!? て、てめえは!?」
「あっ!?」
遊伸の対戦相手。
それは遊伸が始めてシティに来たときに戦った…あの男であった。