家賃1万円風呂共用幽霊付き駅まで縮地2回   作:ウサギとくま

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でもパロディ系のサブタイトルってちょっと逃げた感があるんだよな……やっぱりやめようかな

 

 ――プリズンブレイカー辰巳、前回までのあらすじ!

 

 体に彫ったたタトゥー(シール)を何やかんや利用し、遂に雪菜ちゃん監獄を脱出(ブレイク)した俺。

 だがそれは雪菜ちゃんの功名な罠だった。

 脱出したと思い、安堵の表情を浮かべる俺の前に、蕩けるような笑みを浮かべる監獄長――雪菜ちゃんが現れる。

 全ては彼女の計算尽くだった。

 俺は彼女の手のひらの上で泳ぐ1匹の魚だったのだ。

 監獄を脱出する為に試行錯誤したあらゆる策――例えば若本ボイスのティー〇ッグとかいう囚人に俺の(尻)バックを貸したのも、調達屋にリタヘイワースのポスターを頼んだのも、過去にタイムトラベルして両手に鉛筆をぶっ刺したのも、あれれぇ?たつみぃのカイチューとまっちゃったのも、あれもこれもそれも……全て雪菜ちゃんの策の内だった。

 驚愕の事実を知って、心が折れかける俺……だが、それでも雪菜ちゃんが知らないだろう最後の一手がまだあった。

 俺は最後の切り札を彼女に突きつける――そう、あれは彼女が小学3年生の頃、まだ今の様に氷の女王と呼ばれていない年相応の幼い少女であったあの頃――母親が町内会の温泉旅行で不在であり2人きりで怖い映画を見たその後の深夜、おもむろに彼女は眠る俺を起こし涙を拭いながら大好きな熊ちゃん人形を抱き締めていて『兄さん、ひ、一人じゃ怖いからおトイレに――』

 

 ん? あれ、これ違うあらすじだな。

 はー、混線(シャッフル)混線(シャッフル)。

 

 本当のあらすじはこっちか。 

 

 自分の下駄箱に入ってたどこぞの美少女のパンツ(注:肌着。美少女が履いた(だろうだけの)物を指す)を遠藤寺にまんまと奪われた俺。

 お の れ 遠 藤 寺 ! !

 憤りつつ、今日の講義は全部一緒だし、どうにかその間に奪い返すチャンスを虎視眈々と狙っていたが……

 

「……」

 

 講義中、ずっと遠藤寺がこっちを見て来る。

 講義の始まりから終わりまで、ずっとずっとこっちを見ている。メトメガアウーとかいうレベルじゃない。机に肘をついてグーにした左拳に頬を乗せてこっちを見ている。結構間にバーのカウンターに2人並んで座った時を思い出す。あの時もジッとこっちを見てたっけ。

 ちょっとした隙に奪い返そうとか思ってたけど、こんなに見られてちゃムリのムリムリ!

 

「……♪」

 

 めちゃくちゃ見てるよー! あっち向いてよー!

 

 つーか何なん? 俺の顔に何かついてるのか? あれか? 額に竜の紋章でも出てんのか? もしくは十字傷?

 それか俺の目論見に気づいて、監視してんのか?

 心の中までまるっとお見通しの探偵とか最強すぎるだろ……むしろ番組としてはつまらんわ。

 

「……ふふ」

 

 そして俺の顔を見ながらたまにクスリと笑う。意味が分からん。

 1限、2限と何とか我慢できたが、耐えられたのはそこまでで、とうとう3限目の途中に降参してしまった。

 講義中に小さく両手を挙げる。降参だ。

 

「さっきから何なん?」

 

 講師に聞こえないように、小さな声で遠藤寺に語り掛ける。

 

「ん?」

 

「いや『ん?』じゃないよ。さっきからずっと俺のことジッとみてただろ(因縁)」

 

 ここで実は俺を見ていたわけではなく、俺の向こうにある窓から空を見ていただけさ……なんて恥ずかしい勘違いだったら、恥ずかしさのあまり顔から火が出るタイプの能力者としてアベンジャーズもしくはチアフルーツの一員になって、世界の平和を守る業務に取り組みまーす。担当果物? ……ドラゴンフルーツとか? 火だけに。

 

 俺の質問に遠藤寺は少し照れたように(ここ重要)笑って答えた。

 

「ああ、すまないね。ほら、なんだ、今日の講義は特に退屈だろう? レジュメ通りに進めているだけで、何も面白味もないし得るものもない。だから気が付いたら君の顔を見てしまっている。授業を聞くより、君の顔を見ていた方がが何倍も有意義だからね」

 

 講師が聞いたらプンスコしそうな発言をしつつ、今も遠藤寺の手はノートの上を滑っていた。講義を見てはいないが、講義自体は聞いているらしい。いわゆるマルチタスクというやつか。テ〇アナ・ランスターさんが得意なやつだ。誰? パンツめくれぇぇ!の人だよ。

 流石は遠藤寺。属性『両刀使い』なだけある。

 

 しかし――

 

「……俺の顔なんか見て楽しいか?」

 

「ああ、楽しいとも。とてもね。見ているとあっという間に時間が過ぎる。まるで何度読み返しても飽きない名作小説のようさ。まったく……不思議だね」

 

 不思議だね、じゃねーよ。人の顔を小説代わりに使ってんじゃねーよ。全く不思議……まったくふしぎ……M(まったく)F(ふしぎ)……MF文庫? リ〇ロ様とかノゲ〇ラ殿とか変態猫やらアリア(実はアスト〇ノトの方が好き)、今ヒモ(つよい)、ギャルゴ!!!!!(一番好き)の出版会社様じゃねーか! 訴えられたら即負けM(マゾ)F(〇ァック)確定じゃねーか。

 やべーな、今の内に謝っとこ。ぺこりこぺこりこ。

 

「ふん」

 

 そっちがその気なら、いいぜ。俺だって見ちゃうもんね! 見つけるってことは見つめられる覚悟があるってことだろ? 深淵を見つめるとき、深淵もまたこちらを覗いてるんだぜ?

 ジー(ジッパーを開ける音じゃなくて、見つめる音ね)

 きめ細かい遠ちゃんのすべすべお肌を穴が開くほど(トンネル効果的な意味で)見ちゃう! ……しかしコイツ、マジで肌綺麗だな。しかも柔軟剤使ってるレベルで柔らかそう。触るまでもなくモチモチしてて、この時期の高齢者の方が見たら問答無用で喉詰案件だな……。この場合、誰か責任とるんだ? 行政? 

 

「……ふふ」

 

 スーパーマンだったら光線が出るレベルで見つめる俺に対して、余裕の笑みを浮かべる遠藤寺。

 効いてないだと……! ははーん、さては『視線耐性』スキル持ちか。探偵には必須スキルよね。

 クッ、このままでは負けてしまう!

 

 

『お主は一体何と戦っとるんじゃ……』 

 

 

 分からん! 分からんが、意地があるんだ、男には! 

 負ける……ものかぁぁぁ!(アルベ〇ン流最終奥義っぽく) 

 あ、でも見つめるのってやっぱり恥ずかしい……。

 

「……っ」

 

「おや、うっすら顔が赤くなったね。どうかしたのかい?」

 

 面白そうにクスクス笑う遠藤寺。

 だって恥ずかしいもん! 改めて遠藤寺の顔見ると……可愛いもの! 造形が整い過ぎてるんだもの! マジで同じ人間なのか? 同じ染色体を保有してるとは思えんな……。俺らが保有するXY染色体以外に新たにZ染色体とか持っててもおかしくない……! 美を司る系の神様がきっといい事があってハッスルしちゃったんだろう。転生者ガチャで当たりでも引いたのか? マ〇サツグ様とか。そのハッスルを少しでも俺に分けてくれてばなぁ……俺もなぁ。

 

 だがここで顔を背ければ何か負けた気がするので、恥ずかしさをSATUGAIしつつ、MITUME返す。

 

「……ふふふ」

 

 くそっ、余裕ぶりやがって……!

 だが、まだだ……まだ終わらんよ!(終わるフラグ)

 授業そっちのけで、遠藤寺を見つめ続ける。今なら街中でメンチビームをぶつけ合うヤンキーたちの気持ちが分かる。目を逸らした瞬間、魂が敗北するのだ。敗北した魂ほど情けないものはない。そんな魂を抱えて生きているくらいなら死んだほうがましなのだ。

 だから死ぬ気で見つめ続ける。魂が『もう無理ッス! 諦めて白旗あげましょう! 腕が! 腕が動かないんです!!』と泣き言を喚き散らす。うっせ! お前のせいで4は駄作扱いされてんだよ!発売日に買って特典のソウルイーターストラップ貰ってニヤニヤした俺に謝れ!(言い過ぎ) 6が出たら他の真の紋章とか出て、ビッキーの謎も解けて後ついでに紋章おばさんの謎も解けたんだよ畜生! ティアクライスとか紡時とかどうでもいいんだよ! ラプソディアは許す! 3の公式コミックはクオリティ高いけど値段もちょっと高くて学生にはキツかった! ナッシュとシエラの二次創作はおおむねクオリティが高いんだよなぁ……! ……ふぅ。

 

「……ぐぬぬ」

 

 見つめ合って素直にお喋り出来ない時間がどれくらい経っただろうあ。

 余裕ぶっている遠藤寺の表情だが、よくよく見ると――汗が浮かんでいた。小さな、とても小さな汗だ。

 だがその小さな汗は、俺にとっては大きな汗だ(何言ってんだコイツ) この汗がヤツの牙城を崩すカギだ。

 さらに見つめ続ける。

 

「……むぅ」

 

 遠藤寺がふいに下唇を噛んだ。

 何かを堪えるかのように。これは……まさか。効いてるのか? うん効いてるよ!

 更に追撃のビッグヴァイパー!

 すると……何ということでしょう。

 

「……うぅ」

 

 遠藤寺の顔が薄っすらと赤くなった。

 水面に赤い絵の具を一滴垂らすかの如く――

 

「君……いくら何でもそんなに見つめられたら……流石のボクも少しその……照れる」 

 

 とモゴモゴ言いながらうつむく遠藤寺。

 やった! 勝ったぞ!  

 いや、引き分けか? でも負けではない。そう負けではないのだ。勝ちでもないけどね。

 ここまで真剣に見つめあっていたら、勝ちとか負けとかどうでもいいわ。

 

「全く、やれやれ……もうこんな時間だ。今日は君と顔を突っつき合わせていただけだったね。まあ……そういう日があっても悪くはない、か」

 

「え?」

 

 時計を見る。既に本日最後の講義が終盤に差し掛かっていた。

 へー、遠藤寺の言う通りだ。ただ顔見てただけなのに、あっという間に時間が過ぎてった。多分これが相対性理論ってやつだな。アインたん(説明するまでもないけど、アインシュタインの略)の先見パネーな。

 つーか今日の講義、全く一切これっぽちも1ミリも聞いてない。近代国家のGNPがどうとか言ってたけど……GNPってなんだっけ? OOガンダムのアレとは違うか。頑張(G)ったら何枚(N)パンツ(P)食べられるかの略か? まあ、大家さんのパンツだったらお湯に通せばスルッツルンと行けちゃいますわな。エンドレスに。あれ……でも着物の下って下着を履かないんだよな……つまり大家さんに関していえばGNPは0? いや、Pがパンツじゃなくてパイだとしたら? 大家さんのパイ……大パイ……小さいのに大パイ……はー、GNPって奥が深い。

 

「では今日の講義は……ここまでとする」

 

「……あれぇ?」

 

 講師の声がホールに響く。

 授業全部終わったわ。隙を見つけるチャンス無くなったわ。パンツ奪還作戦失敗だわ。

 遠藤寺と見つめあって、この国のGNPをプチ考えてただけで1日が終わったわ。クッソ無意味な1日だったなオイ。まあ、大学生ってはこんなもんか。

 俺がポケーっとしていると、遠藤寺はテキパキとノートやら筆記用具を片付けていた。

 

「さて、ボクは用事があるから先に帰るよ。じゃあ、明日は頑張って。朗報を期待してるよ」

 

「明日?」

 

「何だい呆けた顔をして。明日はダイエットの最終日なんだろう? その結果如何で、君の今後の進退が決まる重要な日だろうに」

 

 遠藤寺は呆れたように笑いながら、そんな事を言った。

 

 そうだ。パンツで頭がいっぱいだったけど、明日が最後の日だった。

 指定時間までに規定体重まで減量してないと、雪菜ちゃんが派遣するむくつけきラガーマンズによってボールみたいな扱いをされつつ実家に連れ戻されるのだ。

 文章だけ見てたら、ウチの妹完全にヤベー奴だな。割と昔からだけど。

 

「ボクも酒飲み相手がいなくなるのは非常に惜しいからね。せいぜい頑張ってくれたまえ。帰りに買い食いなんてするんじゃにぞ? ……まあ、君が今日までダイエット頑張っていたのはボクがよく知っている。きっと大丈夫だろうさ、多分ね、フフッ」

 

「多分てお前」

 

「ん? ……多分、か。多分、ね。……こんな曖昧な言葉、探偵として生きてきて初めて使ったよ」

 

 何がおかしいのか片手で口を押さえながらクスクス笑う。

 ちゃっかり板書していた俺の分のノートを置いて、遠藤寺はテペテペ帰っていった。

 

「俺も帰るか」

 

 今日はさっさと帰ろう。

 もしかすると今日がエリザと過ごす最後の日になるかもしれないからな。

 

 

■■■

 

 

 夕暮れの眩しさに少し目を細めながら、現在在住のアパート『一二三荘』に到着。

 もしかすると今日がこのアパートで過ごす最後の日かもしれない。

 そう思うと何だかこの当たり前の光景がとても眩しくなって、尊いものに思ってしまう。

 

「ただいま一二三荘……そして――」

 

 万感の想いを込めつつ、門柱に挨拶をする。

 アパートの門を通ってすぐ、側の茂みから何かの気配を感じた。

 

 ――何奴!?

 

 

「ニャァーン。うにゃーん、ゴローニャーン」

 

 

 茂みから鳴き声が聞こえる。

 

「何だ猫か」 

 

 この鳴き声……間違いなくイカ、もとい猫だ。

 それもこんな聞いてるだけで頬がトロトロに緩んじゃう可愛らしい鳴き声……さぞ可愛さに特化した極振り猫さんだろう。

 ぜひとも愛でたい。愛ですぎて猫ちゃんが『愛ーでー(Mayday)! 愛ーでー(Mayday)!! ワレ愛ーでー(Mayday)!!!』とか助けを呼んじゃうくらい過剰に愛でたい(新年最初のの目出度いギャグ)

 

「うにゃーん、にゃぁん、ごろなー、ふなぁー」

 

「出ておいでー猫ちゃーん」

 

「まーお、まーお、くにゃーん」

 

 なかなか出てこないな。

 さっさと出てきて俺に撫でられてばいいものを。

 

「ほら、プシッ! プシ!」

 

 こうすれば猫はイチコロだって、吉影さんが言ってた。

 

「ふにゃぁ……んなぁ~」

 

 どっかで聞いた鳴き声だな。主に四層で。

 

「にゃぁにゃぁ……にゅ、にゃ……はっぴぃにゅうにゃあ」

 

「調子に乗っちゃダメーwww――ん?」

 

「あ」

 

「……」

 

 コイツ、本当に猫か? 怪しいな……。

 

「……おい」

 

「にゃ……にゃあ! あにゃにゃあにゃにゃんあにゃあにゃにゃん」

 

 で、出たーwww頬に思った事が出る可愛奴www

 この元ネタ知ってる人、どんだけいんだろ。

 つーかコイツ、絶対獣畜生じゃねーわ。

 

「ちょっと。そこに隠れてる怪しいやつ。出てこいや」

 

「にゃ、にゃーん?」

 

「にゃーんじゃないし。本当に猫か?」

 

「猫です、よろしくお願いします」

 

 何だ、やっぱり猫だったのか。

 

「つーか、もういいですよ。大家さん、早く出てきてくださいよ」

 

 草むらに向かって声を放つ。

 暫くしてから、何かが飛び出してきた。

 

 

「――かわいい猫ちゃんだと思いました? 残念! 大家さんでした!」

 

 

 実はここだけの話最初から気づいていたが、やっぱりやせいのおおやさんがとびだしてきた!

 どうしますか?

 

 ゲットする

 捕まえる

 ⇒ハイエースする

 ワンピースする

 

 ですよねー。お持ち帰りー♪して愛でたいですよねー。色んなところにタッチしたいよねー・

 でもね、それやっちゃうとポリスメンがカミングスーンなんですよね……世知辛いよね……。

 この時代、パイタッチすんのと法にタッチはすんのは同じ意味なんすよ……とてもかなしい……。

 

「そんなところに隠れて、何やってんすか大家さん」

 

「モチのロン! 一ノ瀬さんのお出迎えですよー。えへへ、どうです猫(ニャンコ)ちゃんの真似、似てましたかニャ? にゃにゃん?」

 

 猫ちゃんのポーズをとりつつ、首を傾げる大家さん、もとい大家にゃん。

 似てるか似てないかで言ったらまあ……可愛すぎて患ってもいない猫アレルギーが発症するレベルで似てましたわ。

 両腕を使いつつ、片足をぴょこんと上げ(ちょっと和服の裾がめくれ上がってる)、ウインクしてる猫ポーズはwikiの代表画像にしてもいいと思う。だよな?

 

「猫真似上手いっすね、大家さん」

 

「にゃははー。だろうでしょー、新年会忘年会の一発芸はこれで乗り切りましたからねー。いやぁ、サークルの先輩がねー、いっつも突然無茶振りしてきてもー大変だったんですよー」

 

 俺の胸元にテシテシ猫パンチをしながらそんな事を言う大家さん。

 新年会……忘年会……サークルの先輩……いやいや、大家さんは年齢不詳……年齢不詳のロリ……シュレティンガー歳……間違っても成人とかの枠に囚われてないんだ……。

 

 しかし実際、大家さんの猫真似は超上手かった。

 いやぁ、いい物まねを見せてもらいましたわ。今夜はこれをオカズにハッスルするかぁ。

 ホッホッホ……いやいやいや……

 

「じゃ、大家さんお疲れ様でーす」

 

「はい! お疲れ様です――一ノ瀬さぁぁぁぁん!?」

 

 

 猫ポーズの大家さんの横を通り過ぎようとした俺だったが、猫並みの反射神経で腰辺りに飛びつかれ、動きが止まってしまった。

 

「な、何すか大家さん! なに!? 何男ですか!」

 

「次女ですぅぅぅ! ……じゃなくて!」

 

 早く帰って幽霊少女との最後の晩餐(仮)を過ごしたい俺に対して、腰にしがみつきながらも引きずられ地面にズリズリ線を描く大家さん。

 

「つーれーなーいー! つれないですよ一ノ瀬さぁん!」

 

「はぁ?」

 

「こうして久しぶりに顔を合わせたのに! RPG風に言うならエンカウントしたのに! つれないじゃないですかぁ! もっとお喋りしましょうよぉ……! うぅ……最近、通学時間を変えたからか、全然会えないのに……」

 

 ホロホロと涙(ちょっとワザとらしい)を流しながらそんな事を言う大家さん。

 

「いや、この間も会ったばっかり……」

 

 いや……そういえば、あの時はアレか。徹夜続きで頭のおかしい大家さんが俺のことを一ノ瀬ファントムさんとかいう頭おかしい呼び方で勘違いしてたんだっけ。

 そう考えると、普通に大家さんと会うのは久しぶりだな。

 

「ふぐぐぅ……朝起きて、庭をお掃除しながら、寝坊して一限目、二限目をサボりつつ通学する一ノ瀬さんと下らなくも楽しいお話をするのが、私の楽しみだったのに……最近は全然会えなくて、やっと今日会えてウキウキして封印した猫ちゃんの物まねまでして出迎えたのに……うぅ……。年齢も近くて、趣味も合う一ノ瀬さんとのお話が私のふわふわタイムだったのに……ぐすん、あぁクスンクスン――チラッ――ああ寂しいグスンクスン、一ノ瀬さんが相手してくれなくてとても悲しいなぁ……チラッ、チラチラッ」

 

 大家さん……俺とのクッソ下らない雑談にそこまで喜びを感じてくれていたなんて……。

 嬉しすぎる~~! おおやさん、すき~~~!!!

 と思う一方、少し面倒くさいなこの人……と思う俺であった。さっきから袖で顔を隠しつつ、こっちをチラチラ見てるから、ウソ泣きだって丸分かり。

 俺は早く帰ってエリザとの週一度の映画観賞会を楽しみたいんだよ……今日は近所の麦わら小学生に勧められたオススメ映画『メタルマン』を見るんだよ! そういえばレンタルした時、定員さんが『本当に申し訳ない……』って顔だったんだけど何でだろ……。

 

「ごめんなさい。この後ちょっと用事が……」

 

「あぁ……せっかく、一ノ瀬さんにご馳走しようと手作りのおはぎをたーんと用意してたのに……」

 

「ほら、さっさと行きますよ大家さん」

 

 手のひらクルノ瀬と呼ばれても構わない。だってよ、大家さんの手作りおはぎなんだぜ……。

 大家さんがこのちっちゃくてぷにぷにした手で、にぎにぎしたはぎはぎなんだぜ? 略してにぎはき。おおやさんがにぎにぎ、おおやさんにぎにぎ、おおやさんがにぎにぎしたおはぎ――おはぎ! そうか、おはぎの語源ってこんなところにあったのか。

 これは食べないとご先祖様に申し訳がないわ。

 

「くっくっく……その言葉を聞きたかったです! さあ、早く私のお部屋に行きましょう! この間お部屋に来てから、全然来てくれないんですから。私はいつでもウェルカムなのに。ま、いいです、さあさあ行きましょう」

 

 俺がポロっとこぼした言葉を聞いた大家さんはケロリと泣き止んで、今まで引きずられていたのが嘘のように、反対に俺を大家さんの部屋に引きずっていった。 

 先ほどまでの大家さんの様に、引きずられていく俺。

 ウーン、大家さんってば思っていた以外とパワフルなんだなー。

 そりゃこんな小さい体でアパートの掃除とか管理とかするんだし、体力も力もあるよなー。

 

「ふっふっふ……それにしてもチョロイ、チョロイですよ一ノ瀬さん。ちょっと泣くフリしただけでコロっと騙されちゃって……でもそういう所、可愛いかも……うふふ」

 

 ズリズリ俺を引きずりつつ、そんな事を呟く大家さん。聞こえてまーす。

 果たしてチョロインの男版はなんていうんだろうか。ヒーロー+チョロイだから――チョーロー? 長老、超漏……ウムム、早いとか遅いとかで人の価値を図るとかクソの所業だよね。などと思いつつ、大家さんの部屋に引きずる込まれる俺であった……。

 

■■■

 

「お邪魔しまーす」

 

 大家さんのお部屋にお邪魔する。

 俺の部屋と同く6畳間の部屋に入った瞬間、大家さんの匂いを感じた。まるで大家さんに包まれているような感覚。

 夏の日差しにサンサンと照らされスクスクと成長する向日葵の様なスメスメ(匂い)。うーん、めっちゃサマーホリデー。大家さん以上に夏という言葉が似合う婦女子はこの世に存在しない。この場で宣言しちゃう。

 

「ふぅー……」

 

 いや、いい空気いい香り。

 この大家さんの匂いが充満する部屋にいるだけで、2~3年は寿命は延びそうだ。

 あなた方の行く先に、いつも温かな空気(エア)がありますように……そんなパクリ感満載のセリフを送りたくなるほどこの部屋の空気は心地よい。うーん、住みた過ぎる~~!! いや、そこまでワガママは言わないから、せめて来世はこの部屋の畳に生まれ変わりたい。大家さんのおみ足で踏まれるだけの人生とか最高だろ、でも来世倍率高そう。今の内に勉強して備えとくか。

 

『お主はマジで一体何を言っとるんじゃ』

 

 今日も幻聴さんの声は可愛いなぁ。

 

「どぞ、どぞー。座っててくださいねー」

 

 大家さんに誘導されて、部屋の中心に置いてある卓袱台の前に座る。

 卓袱台の前にあぐらをかき、周りを眺める。

 大きめのクローゼット、テレビ、目の前の卓袱台、床には大家さんに毎日踏まれて羨ましい畳、廊下にはキッチン……一見すると普通の部屋だ。俺の部屋と同じ間取りの部屋。

 だが俺は知っている。

 本来壁があるはずの部分にある……扉。その先には大家さんの趣味である漫画が大量に蔵書されてある漫画部屋が存在する。更にその部屋にも扉があり、その先にはゲーム専用の部屋があるのだ。つまり大家さんは彼女の権限を使って三部屋をぶち抜いて自分の部屋にしているのだ。ぶっちゃけかなりの暴君である。暴君大家ちゃま。

 漫画部屋、ゲーム専用部屋……そんな風に分けて生活できるのは、大家さんか金持ちのボンボンくらいだ。

 俺だって実家にいくつものゲームやらマンガを置いてきた。でもこうして専用部屋があるなら、そこに保管できただろうなぁ……いやぁ、羨ましい。

 

 

「ん?」

 

 

 ふと、扉の向かいにある壁を見た。

 本来ならばただの壁があるはずの場所に……もう1枚扉があった。全く同じ扉(引き戸)が向い合せに存在していた。

 

「は?」

 

 

 ――扉は2つあったッ!!!

 

 

 見間違いかと思い目を擦る。

 だがこの間来た時には無かったはずの扉は、やはりそこにあった。

 なに、どういうこと?

 これもしかして俺にしか見えないタイプの扉? この眼鏡(シルバちゃん)の力で見えてたり? あれか、異世界につながってたりするのか。異世界にある食堂やら居酒屋、スローライフ満喫中主人公に繋がっててエルフやらドラゴンが働いてたりするのか。すげーな。これで俺もアニメ化か……出来たら声優さんはトム・クノレーズか、古河徹人さんであって欲しい。背景は劇団犬カレ〇さんでお願いしたい。

 

「ふっふっふ、流石一ノ瀬さん、気づいてしまいましたか……」

 

 大家さんがお茶が乗ったお盆を持ちながら入ってくる。

 視線は俺が見ている扉に向けて。

 そりゃ無かったはずの扉が現れたら気づくわ。

 

「あ、あの扉……前来た時無かったですよね?」

 

「そうですねー、無かったですねー、不思議ですねー、えへへー」

 

 何だか楽しそうに頭を左右に揺らしながら言う。

 めっちゃ聞いてほしそう。

 

「も、もしかして……」

 

「はいっ、もう1部屋作っちゃいました! ぱんぱかぱーん!」

 

 『家庭科の授業でクッキー☆を作っちゃいました!』みたいなトーンで衝撃の事実を打ち明ける大家さん。

 つまり、自分の部屋以外に三部屋を自分用に増築したってわけ? あれ、この人案外ヤバくね?

 

「マジっすか……って、あの部屋、人住んでましたよね!? あの、確か……アイドル志望の女の人が……」

 

「…………」

 

 俺の質問に、大家さんは笑顔のまま無言になった。

 怖い。

 確かにそうだ。大家さんの隣の部屋には、アイドルを目指していた女性……25歳メイド喫茶でバイトをしていた女の人(おっぱい小さい)がいたはず。たまに庭で踊ってたから覚えてる……! 内心『死霊の盆踊りかな?』と思ってしまったほど踊りのド下手な彼女がいた……いたのだ……!

 

「あの女の人、どこにやったんです……?」

 

「……勘のいい、一ノ瀬さんは……フフフ……」

 

「あわわ……」

 

 実写化の波がここまで……!

 錬金術の等価交換ってこういうことなの? 空き部屋とアイドルが等価交換とか修羅過ぎない?

 錬金術界隈(しゅらのくに)に驚愕する俺。

 

 だがどうやら、話は違うらしい。

 

「フフフ……そうなんですよぉ! お隣さん、今度デビューが決まって見事アイドルデビュー! 寮生活になったんですよぉ! いやー、自分の事みたいに嬉しいですよね! で、空き部屋になったし、嬉しさのテンションで隣の部屋も活用することにしちゃいました、えへへ」

 

 大家さんが両手を合わせながら微笑む。

 

 よかった……犬と融合したアイドルはいなかったのか……。

 いや、まあそれでも速攻で空き部屋を自分の趣味部屋にするのは正直どうかと思うけど……まあ、でも1部屋自由に出来るのは羨ましい。

 

「えっへっへ……あの部屋、何の部屋にしたと思います?」

 

 大家さんが楽しそうに頭を揺らしながら聞いてくる。

 漫画部屋、ゲーム部屋に続く第三の部屋か……。俺だったらどうするかなぁ……自分が好きにしていい部屋か……。

 うーん、考えるだけで妄想が捗るなぁ……。

 まあ、例えばだけどポリスメンの捜査能力がそこまで及ばないとしたら……大家さんか麦わらロリを捕まえて、ガチコスプレ撮影部屋にするわな(おさわり禁止)もしくは厳重に部屋を施錠して遠藤寺と一緒に監禁されて『キス(キスの定義は個人によって違うとする)しないと出られない部屋』にしちゃうとか……思い切って無人島っぽく改造して美咲ちゃんと無人島生活2泊3日を送るとか……はたまたデス子先輩と一緒に『この部屋の外は世界が滅亡してるけどどうするシチュ』をエンジョイして行けるところまで行っちゃう(アダイブ的に)とか……わぁ、俺ってイマジネーション豊か過ぎ! 妄想で取り締まられる世の中が来たら、間違いなくしょっぴかれてるな俺……。でもまだそういう世の中になってないから無罪! 無罪確定!

 

『その妄想を取り締まり抜き(ダイレクト)で聞かされてる妾の事をどうか、どうか慮ってほしい、よしなに』

 

 で、結局大家さんの『第三の部屋』が何に使われていたかというと……工作部屋だった。

 コスプレ衣装作ったり、プラモデル作ったり、『悪用するんじゃないぞー』みたいな道具を作っちゃう部屋だった。ガチの工作道具があって、ちょっと引いた。

 てっきり最近流行りのVR専用ルームとかだと思ってたから、壁に掛けてある呼び方も分からないような工具を見て、真顔になってしまった。

 

 でもこういう努力で、お風呂の壁の絵とかアパートの修繕してるんだなぁって思うと、大家さんスゲーなーって思う。

 でもやっぱり使ってない部屋の壁をぶち抜いてマイルームにするのはどうなんだろうなぁ……と思う俺だった……TTM(たつみ)

 

 

 

■■■

 

 

 

「さて、さて……えへへ……一ノ瀬さんが私の部屋に…久しぶり………えへへ……」

 

 何が嬉しいのか、大家さんはお盆を胸の前でギュッと抱えたままエヘヘと笑う。

 俺は普通の卓袱台の前に座りつつ、その笑顔を受け止めることしかできない。

 

 ――ぐ~

 

 ふと空腹の音が部屋に響く。

 この場にいるのは俺と大家さんなので、その2人のどちらかだ。

 どちらかが犯人か殺しあって判明する前に自白するが、犯人は俺だ。朝はエリザの朝食、昼もエリザの弁当……と召し上がったが、やはり夕方になると空腹を避けられない。辛うじてまだ成長期の俺だ。

 

「おっと、一ノ瀬さん。空いてますね~、うふふ、お腹空いちゃってますね~」

 

 両手を合わせつつ、笑顔で言う大家さん。

 おはぎが用意してあるのだろう。まあ、俺も一般的な成人男性だ。おやつにおはぎを食べた後、エリザが作る夕食を食べても特に問題ないだろう。

 故に大家さんの手作りおはぎ、いただきまーす!

 

「ではではお待たせしました――はい、おあがりよ!」

 

 暫くワクワクしながら待っていると、笑顔の大家さんが大皿を抱えながら台所から出てきた。

 

「どーぞ、私がはぎはぎした――おはぎでーす! おかわりもいっぱいありますよー!」」

 

 大家さんが抱える大皿を見る。

 彼女が背後にスっ転びそうな大きな皿には、やはり大きなおはぎが、大量に載っていた。

 卓袱台を半分隠すほどの大きな皿に大量のおはぎ。

 黒いおはぎはあんこで包まれている。黄金色のそれは、恐らくきなこだろう。

 そんなおはぎの群れがひしめきあうように、大皿に載っている。

 

 え、多くない……?

 

 ――食べる

 

 無論、食べる。このアパートを統べる大家さんが、てづから作ってくれたおはぎだ。

 当然、食べる。だが……ダイエット。

 

 そう、ダイエットだ。

 

 明日にはダイエットの成果、体重測定の結果が出て、その結果の如何によってはマイホームにバックトゥザホーム(物理)することになる。

 故に食べすぎはよくない……

 

「いただきます」

 

「どーぞ♪ たーんと召し上がってくださいね」

 

 食べすぎはよくないのだが……ニコニコしながらこちらを見る大家さんの期待は裏切れないし、おはぎから大家さん成分が飛ぶ前にペロリと行きたいしで、結局……全て食べてしまった。

 

「はわー、流石男の子ですねー」

 

「美味しかったです……けふ」

 

「えへへ、そう言ってもらえると作った甲斐がありますっ。では、第二弾行ってみますか」

 

 その後、すかさずおかわりを持ってきた大家さんに対して、流石にこれ以上食べるとヤバイと思った俺は逆に大家さんに食べさせて消費するという恐ろしいアイデアを生み出し実行。大家さんのお口に黒い物(おはぎ)を突っ込むという素晴らしくも淫靡なレクリエーションを堪能した。

 

「あーん……もぐもぐ。むぅ……おはぎを山ほど食べさせて一ノ瀬さんをぷっくり太らせようとしたのに……まあ、これはこれで嬉しいからいいですけど、えへへ」

 

 大量のおはぎという予想外のカロリーを摂取してしまったが、大家さんにおはぎを食べさせる行為が思っていた以上に緊張やら照れで心臓がドキドキ動きまくってカロリーを消費してるからきっとプラマイゼロだろう。

 

『なんじゃそのガバガバな理論は……』

 

 大家さんにおはぎを食べさせながら、下らなくも楽しい雑談をする。

 やっぱり楽しい。

 もし実家に帰ってしまったら、こんな楽しいこと出来なくなるんだよな。

 やだなー。ダイエット失敗したらどうしよう。

 こうなったら失敗したときのことも考えて、ラガーメンを返り討ちにする方法も一応考えとかないと。

 

「ほらほら一ノ瀬さん、なにぼんやりしてるんですか? 可愛い大家さんがお口を開けて次を待ってますよー、うふふ」

 

 取り合えず帰ってから考えるか。


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