ISとACを知ってる人なら一度は思い付く物。
多分続かず。

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時系列などが繋がって居ません。
また、設定が合っていない場合がございますのでご注意を。


IS/AC

何処かに、きっと何処かに。

生きた証があると信じていて。ただそれだけを求めた。

数知れぬ程殺して。生き抜く為にも、自分の為にも。

ただ、ただ。我武者羅に、引き金を引いて。立ちはだかる全てを壊した。

気付けば、もう引き返すことなんて出来なかった。

辞めようとも思った。けれど、世界はそれを許さない。

だから、もう。壊れてしまおう。

夢を見る自分に。平和を夢見た自分に。笑い会える夢を見ていた自分に。

さようなら、ありがとうと。引き金を引くことは慣れていたから。

 

だから。死んでくれよ、知らない人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氷が、音を立てて溶ける。ロックグラスに付着した水滴が、指先に触れる。

覗き込むようにして、グラスを揺らす。

ロックアイスに差し込んだ光が、プリズムのように反射する。分かれ道のようだと、自虐する。

笑えない、冗談だ。そのまま呷る。アルコールの独特の味が広がる。詳しく味なんて分からないが。どうでもよかった。ただ、"代わり"を求めているだけだ。どうせ、満たされないと分かっているが。

 

グラスを置く。それと同時に、入り口のドアが開いた。バーテンダーが、目線を向けてこちらに戻す。どうやら、来たらしい。いつもの事のようにバーテンダーはカウンターの奥へと向かった。

足音が近くまで聞こえる。ハイヒールの高い音が反響する。目線を向けず、グラスにウォッカを注ぐ。

 

「また、ここか。前なら、探すのに苦労していたが、今ではそうでもないな」

「そうか」

「しかし、どうだ。分からないと言われていたが、随分と分かってきただろう。昔のように心配になることもない」

「……。」

「今度は私のお気に入りの店に連れて行ってやろう。彼処は良いぞ。彼処はーー」

「依頼は」

 

面倒だ。どうだっていい。飢えて堪らない。

硝煙の香りが。動く事も出来ない死の香りが。殺したと言う満足感が。

欲しくて、欲しくて。堪らない。

 

「……。依頼は無い。今回はその為に来たわけじゃない。少し、手伝いを頼みにな」

「お好きに」

 

遠のいた戦場の香りに、落胆を隠せない。余り表情に出る事はないが。

そもそも、頼まれ事には良いイメージはない。厄介事しか持ってこないからだ。

だが、拒否は出来ない。雇い主として 、俺が俺として生きる意味をくれる人に。

無下には、出来なかった。

 

「内容は聞かないのか?」

「……。」

「そう、か。まあなんて事は無い。ただ戦って貰えばいい。所詮、練習試合の様な物だ」

「了解」

 

何も惹かれない。多分、IS学園の誰かに訓練を付けるとか言う事だろう。グラスを傾ける。液体が、喉を通っていく。自然と体に熱が篭る。ふと、目線を相手に、向けると。

悲哀の様な、憐憫の様な。そんな表情を浮かべていた。

……。気に入らない。同情される事も、憐れむ事も、何もかも。自分が選んだ道に––––何の悔いがある?

 

「なあ、ニル。酔っ払いにはならないでくれよ。後処理が面倒だ」

「ならないさ」

「そうか」

 

そうだ。例えその選択が、狂っていたとしても。受け入れるのは。決断するのは。

どうあろうと"自分"だ。そこに、迷いなんて存在しない。

 

「詳しい内容は、メールを送っておく。ではな」

 

店を出て行く。最後まで見ずに、グラスに手を伸ばす。その手が空を切った。見上げると、マスターがにっこりと笑って、スコッチのボトルとグラスを持っていた。

––––別に、本当に酔っ払いになる訳じゃない。

そう思い、不服な顔をしたが。今日は手にグラスは戻ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタリと、揺れ動く。ヘリコプターの羽音が機体に振動していた。使い慣れたコンソールに、データが休む間もなく表示されていく。

片目で確認しつつ、通信回線を開く。いつものように聞きなれた声が響く。

 

「やあ!ニル君!どうだい、元気だったかい?」

「……。」

「いやー、あいも変わらず無口だね。まあ、そこがいいんだけど。で、だ。どうだい調子は?」

 

コンソールに表示される機体の状態を目視する。Le2L-B-V15–––前の世界では、軽量二脚と分別されていた。今ではこんなデカブツなどと、淘汰されてしまうが。

軽くペダルを踏み、脚部にエネルギーが滞りなく届くか試す。……、十分だ。

次に腕、コア、頭部と、チェックをしていく。そうして、ハンガーに差し掛かった時、違和感を覚えた。

武器が、いつも通りではない。近接専用と化していた。

 

「これは」

「あ、気付いた?今回、ニル君の相手は近接しか無くてね。ブレード一本なんだ。それに君が使いたい放題ならすぐ終わっちゃうでしょ?」

「了解」

「うんうん。余計な説明しなくて助かるよ。

普通の人ならこうも行かないからねぇ」

 

別に、支障はない。使えない物など存在しないからだ。どうであろうと、殺せるなら同じだ。

ああ、殺しては駄目だったか。

ハンガーを操作する。両手のX-100 MOON LIGHTをハンガーに仕舞い、MURAKUMO mdl.1を引き出す。

動作チェックを終わらせ、また切り替える。

 

「もうすぐ、投下地点だよ。いいかい?君の仕事は、白式の機体と戦闘。データ収集と言う名目で––––、場をかき乱してくれれば良い。今まで、秘密裏に動いていた君が登場して大暴れしてくれれば、世界は面白いことになるよ!ISとは全く違った、戦術兵器が登場ってね!まあ、私が仕組んだなんて誰も思わないけどね!」

「了解」

 

ふと、思い出す。この事を織斑に伝えたのだろうか。反対しそうな物だが。

その事が通じたのか、言葉が紡がれる。

 

「ちーちゃんには言ってないよ?言ったら反対されるのは目に見えてたし、何よりこれは邪魔だけはされたくないし」

「今頃ニル君を待ってるんじゃないかな?まあ、しょうがないよ。"私達"の考えは、受け入れられないだろうし。ちーちゃんは真面目だからね」

「だから、心配ないよ。ニル君。壊してしまえ。ISに、篠ノ之 束––––私に、依存した世界に。全てを壊せ」

 

その言葉を区切りに、機体を投下される。

ゆっくりと、眼前の世界を見渡す。ここは、綺麗で。穢れを生み出してもなお、飲み込んでいる。その世界に。何も感じる事は無かった。

ジェネレーターが、熱を帯びる。けたたましく音を響かせ、鼓動を感じさせた。

ブースターを起動させ、落下速度を落としていく。そのまま地面へと降り立った。反動が体に来る。目の前には、2体のISが存在していた。ミッションにも2体とは言われていなかった。

 

……。問題はない。早々に退場して貰う。

頭部パーツ、HF-227に光が宿る。そのままブースターを吹かし、詰める。イレギュラーに対して惚けて居たのか、動きが遅い。反応仕切れていない。そのまま。ただ、そのまま。

両腕を振る。雄々しい、蒼色の閃光が相手を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

威力が何時もより、弱い。リミッターを掛けられていた。現に、呑み込み、壊した筈のISは半壊までにしかならなかった。止めを刺す為に、もう一度振り被る。ジェネレーターの音が一層鳴り響く。振り下ろそうとした刹那、その場所から飛び退いた。地面を滑るように下がり、止まる。立っていた場所に斬りかかって来ていた。それと同時に半壊のISから脱出している。させてたまるか。

ブースターを起動した瞬間。通信回線が開く。

 

「ストップ!君の仕事は暴れまわることだよ?壊していいとは言ってないけど?それに目標は違う方!」

「……」

 

ペダルを緩ませる。脱出させていくのを黙って見ているのは、気に入らないが仕方ない。

コンソールに目線を移すと、通信回線が届いている。開いていないとなると、1人しか居ない。

 

「ああー、ちーちゃんからかぁ。さっきから私の方にも来てたんだよね。無視しちゃっていいよ」

「……」

 

回線を切る。どうやら向こうも終わったらしく、こちらを睨んでいる。

 

––––良い目だ。怒りに燃えていながら、冷静でいて居られる。それ程恐ろしいものはない。

ブースターを吹かす。どちらともなく、動き始める。始まりの合図なんて物はないが。出来ることなら。

 

長く。長く。この戦場を。この舞台を。味わっていたい。

 

ペダルを踏み込み、一気に速度を上げる。短く区切るように、左右に揺れる。攻めあぐねているのか、向こうも同じく付いてくるだけだ。違う点を挙げるなら、向こうが空中に浮いている。土煙を上げながら走るこちらを、どうやら浮く事が出来ないと判断したのか。それとも、出方を待っているのか。

ならば。ブースターを瞬間的に止め、慣性の法則に則るようにして、後ろを向く。そのまま、ブースターを最大まで噴出させる。

体が悲鳴を上げるような重力が掛かった。

一気に加速し、ISの下を通り抜ける。そのまま、アリーナの壁を蹴り上げ空中に浮く。

本来なら、必要ないが。残念ながら、近距離でしか戦えない。

速度を維持しつつ、懐へと入り込む。相手も間合いを取るようにして、下がる。

だが、甘い。今までならば、良いかもしれないが。こちらは話が違う。ブースターが唸りを上げる。更に速度は上昇し、その勢いでレーザーブレードを振り切る。反応されたが、遅い。青白い、死神の鎌が白式の肩に触れた。

……。致命傷ではない。ただ、シールドを削るまでだった。白式が高度を落とす。それに合わせる。食いついたら離さない。

ペダルを調整する。射程距離内に居ながら、離脱も出来るように。

白式が振り切る為に、スピードを上げ空中へと舞い戻ろうとする。

ただ、直線的だ。それでは甘い。ペダルを踏み込む。ブースターが唸りを上げて、機体を押し出す。土煙を切り裂くように、そのまま右腕を振るう。

 

直撃。間違いなく、寸分の狂いもなく。白式のシールドはもう、半分程の筈だ。

その場から離脱する。追い討ちは、不要だ。

それに。これで終わって欲しくない。

長く。永く。出来るだけ。味わって置きたい。

土煙が晴れると、白式がまだ立っていてくれた。それでいい。ペダルを踏み込もうとして、相手がオープンチャットで何か言っていることに気付く。少し耳を傾ける。

 

「この感覚––––もしかして、ニル、さん?」

 

驚いた。会ったことはあるが、数える程だ。

織斑一夏。織斑千冬と同じく。分かるはずもない物を、感じようとする厄介な人間。

 

「……」

「いや、やっぱり。そうだ」

 

確信を持ったらしい。こちらを見つめる目には決意が籠っていた。

 

「ニルさん、どうして––––。……いや、何でも」

「……?」

 

何を聞こうとして、辞めたのか。だが、どうでもいい事だった。誰であろうが、関係などない。そうだった筈だ。それなのに。

 

「ニルさん。俺は、貴方に勝ちます。勝って貴方に、貴方達に。この世界も悪くないと、認めさせます」

「……」

「だから。ニルさんも本気で来てください。貴方に勝てなければ、いけないんだ」

「そうか」

「ええ。そうです。今は届かなくても、不甲斐ない俺を貴方に見せたくないから」

 

面白い。嗚呼、面白い。この世界で、諦めていた世界で。こうも自分を戻させてくれる奴が居るなどと。口角が自然と上がる。手に自然と力が入る。

 

さあ。来てみろ。

 

「行きます!」

 

刹那、爆音と共に踏み込んでくる。それに合わせて、ブースターを点火させた。雪片弐型が這うようにして、機体に迫り来る。まるで、猛獣の様な咆哮を、感じる。ペダルを踏み込み、ブースターの出力を上げた。

切先を横に飛ぶ様にして避ける。更に距離を離そうとして、辞めた。既に、迫って来ていた。蛇の様に食らいついてくる。ならば。

追い討ちをかけた方が、優勢な訳ではない。

入ってくる獲物を待つ様に、留まる。右腕のレーザーブレードの出力が高まっていく。

飛び込んでくる織斑一夏に向けて、右腕を振るった。

 

「せぁあああああ!」

織斑一夏が、叫ぶ。

悪寒が走る。こうも簡単に入ってくるか?

慢心など、していない筈だ。

答えは、直ぐに出た。

 

X-100 MOONLIGHTが放つ青白い閃光が、切り裂かれていく。雪片弐型の鏡のような、刃が光の様に、閃光の中を進んでいく。

言い知れぬ何かが、自分に訴える。このままでは、不味いと。即座に、武器をパージさせる。右手から離れた武器はまるで、バターの様に真っ二つに斬られた。

出力を最大まで引き上げる。爆発の様な光が、機体を動かす。距離を取り、ハンガーのブレードを片腕に装着させる。金属の切先が怪しく光る。

 

あれは、何だ。見たことの無い、武器に心が躍る。笑みを抑えきれない。肌に感じる脅威が心地良い。久しい感覚に震える。

目線を織斑一夏に、固定する。向こうも同じ様な笑みを浮かべていた。

自分に一手報いた喜びか、それとも戦う事への喜びか。そんな事どうだっていい。戦える事に意味がある。

ブースターを点火させ、出力を上げる。それと同時に、一つの懸念材料が浮かぶ。

レーザーブレードは、使いにくい。無効化されると、同時に。降る時の硬直が、致命傷になり兼ねない。当てる自信が無ければ使えない。そう、結論付ける。

だが、それは。レーザーの場合だ。

 

織斑一夏が、合わせるようにして向かってくる。恐らく、同じ様な形に持ってくる筈だ。

そう簡単に持って行かせるか。ブースターを多段に分けて、吐き出させる。左、左、右、左、右と。ランダムの様に、動き撹乱させる。織斑一夏の動きが、遅くなった。そこだ。

スピードを保ったまま、織斑一夏へと動く。

そして、そのまま、レーンの様に。ブレードの刃を引き出す。切先が、敵を抉らんと言わんばかりに潜り込もうとする。

すんでの所で、避けられた。機体はそのまま流れていく。ブースターを起動させる。反復横跳びの様に、逆に跳ねる。

もう一度同じ様に振るう。今度は切先が肩に当たった。弾かれたように、後ろへと下がる。

MURAKUMO mdl.1の良い所はここだ。隙が少ない。これに収束させられる。流し打ちと言う言葉がある様に、流し切りが可能だ。

無論、遠距離武器を使われてしまえば、途端に当てるのは難しくなるが、今は違う。

近距離ともなれば、レーザーブレードとは違う恐ろしさがある。

 

同じ様に何度も、流し切りを実行する。だが、何度も食らうほど織斑一夏は甘くない。

目線と体で、タイミングを計っていた。

次に同じ事をすれば、確実に刃が機体に当たってしまうだろう。けれど、それを分かっていて食らうほど甘くはない。食らわずに、ダメージを稼ぐにはどうしたらいいか。

意表を突けばいい。そして、此方にはその材料が揃っている。ISにもACにもある物で、向こうからしたら、この巨体がしてくるとは思わないだろう。

 

それは––––蹴りだ。

アリーナを登る時に蹴り上げたが、織斑一夏は登る為の手段としか、思っていないだろう。現に、何度か蹴りのタイミングを計ったが、警戒はされていない。

ならば、実行に移すまで。

今迄の様に、流し切りをしようとする。織斑一夏は完全にタイミングを掴んだのか、落ち着いていた。そこが、抜け目だ。

ペダルを一気に押し込む。流し切りの態勢だった機体が、織斑一夏へと、一直線に向う。

気付いて、飛び下がる。だが、蹴りは、機体は追従し続ける。そうして、蹴りが炸裂した。

金属の重い音が響く。いくらシールドが守ろうとも、衝撃は抑えきれない。ISが飛んでいくが、踏ん張るようにしていた。衝撃を消す方を選んだようだ。だが、それは悪手だ。

一気に詰め寄る。ジェネレーターが熱を帯びて、機体にエネルギーを張り巡らせる。そうして、絶対に避けられぬ位置で、レーザーブレードを当てる。織斑一夏は咄嗟に、左腕を盾に出す。閃光が埋め尽くす。土煙が舞う。

当たった感覚がある。だが、この言い知れぬ不安は何だ?

 

機体を下がらせる。その判断は正しかった。土煙の中から、織斑一夏が、飛び出す。獣の様な眼で見ていた。左腕は壊れていた。パーツから、腕が見える。どうやら左腕を犠牲にして、本体を守ったらしい。

凄まじいスピードで、迫ってくる。切先が向けられる。貫こうとしていた。引き付ける。

直前まで引き付けて、ブースターで横へと移動する。切先は、すぐ横を通り過ぎていく。

一瞬の交差。目が死んでいなかった。何かを狙っている。

 

「っ、ぁああああ!」

 

身体を地面と水平にさせ、ぐるりと身体を回転させる。雪片弐型の切先が、地面を走る。

何という、強引な技だ。それと同時に、ISがISであるという事を再認識させられた。普段では思いつかない事が、こうも簡単に起きるとは。心の何処かに、慢心があった事を確認する。刃が、肩に走る。甲高い音が響いた。

 

その瞬間、ジェネレーターが、悲鳴を上げ始めた。出力が、切れる。アラート音が鳴り響く。エネルギーが、一瞬消失した。

2秒程かかり、すぐに復旧するが。その2秒が命取りだ。織斑一夏はもう直前まで迫ってきている。逃げるか?いや、逃げても意味はない。このタイミングで逃げても、切先は当たる。当たって仕舞えば、終わりだ。

では、逃げないのならば。どうしたらいい?

 

答えは、簡単だ。

剣が振り下ろされる。織斑一夏の目には勝利が浮かんでいる。だからこそ、甘い。

振り下ろされた剣に、寸分の狂いもなく、ブレードを展開させる。引き出された刃は、煌めき。振り下ろされた刀の、鎬の部分に吸い込まれていく。金属と金属がぶつかり合う音が鳴る。衝撃が、来た。

目論見通り。レーザーブレードの様な機体と繋がっている武器では無く、ブレード単体として振る武器ならば、あの厄介なシールド消失を受けなくて済む。当てる事は難しいが、不可能なわけじゃない。

ブレードがそのまま、前へと押し切る。横からの衝撃を受けた織斑一夏は、態勢を崩していた。ここで決める。

ブレードを収納される時間すら惜しい。左腕のレーザーブレードに光が宿る。避けられぬ時は、今だ。青白い閃光が排出されていく。

手に力が入る。機体が、唸る。そうして、左腕を振おうとして。

 

目の前に入り込んでくるISに、止められた。

 

「そこまでだ!」

「っ、千冬姉ぇ?」

「漸く、バリアを破る事が出来た。済まなかったな、一夏。お前に任せる形になった」

 

通信回線が開く。篠ノ之束の声が聞こえてくる。

 

「時間だよー、ニル君。いやー、十分暴れてくれたね!」

「……」

「まあまあ、そんな不機嫌にならないでよ。それにさ」

 

言葉を切った。次の言葉を溜めている。予想はつくが。満面の笑みを浮かべている姿が見える。

 

「ここで、本気を出す訳にはいかないしね」

 

理解はしたく無いが、本当の事だ。それに、楽しみも出来た。機体を下がらせる。

 

「じゃあ、回収ポイントに急いでー。他のISが向かってるよ?後始末が面倒だし、ね?」

「了解」

 

ペダルを踏み込んで、離脱しようとする。

刹那、呼び止められる。

 

「待て!ニル!」

「……」

 

少し待つ。そうした理由は、分からないが。ただ、楽しみが出来た今、少し軟化しているのかも知れない。

 

「何故だ?束も、お前も。どうして、どうしてそうなってしまうんだ?」

「私には、分からない。分からなくなってしまった。世界を壊そうとする理由が、私には理解が出来ない!」

 

当然だ。壊れていない人間に、理解などされてたまるか。内に秘めた獣が、食い殺そうと動き始める。目線を向ける必要などなかった。

 

「なあ、ニルさん」

「一夏……?」

 

声が聞こえる。闘志が込められた声に、笑みが溢れた。

 

「次は、負けない」

 

嗚呼、本当にこいつは。どうしてこうも心を躍らせてくれるのか。オープンチャットを開く。

 

「待っている」

「ああ」

 

ペダルを踏み込む。アリーナを蹴り上がり、飛んでいく。回収ポイントにたどり着き、回収された。ラボへと向う途中、回線が開かれた。

 

「ねえ、ニル君。この世界をどう思う?」

「さあ」

「ふふふっ。そう言うと思ったよ!」

 

空を見上げる。穢れも無い空に、不思議と嫌気は刺さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物音が、吸収されてしまう程静かな部屋。

ただ、静かに。機械が熱を排出するファンの音だけが、支配している。

ただ、笑みを浮かべている篠ノ之束の顔が印象に残る。

 

「それで、束様。ニル様が留まる理由は出来たのですか?」

「うーん。半々ってとこかなー。この先どう成長するかにかかってると思うんだけどねー。まあ、今の所は大丈夫かな!」

 

子供の様に、からからと笑う。その言葉を聞いて、クロエ・クロニクルは安堵を覚える。

酷く、ここ数日眠らない原因が消える。

消えてしまう事に、大きな不安を抱えていた気持ちが溶けていく。

 

「……それは、良かった」

「でも、まだ足りないよー?どう成長するかにかかってるし––––それに、永遠じゃない」

「……ええ。分かっております」

 

不安が産まれていく。此処から居なくなると言う事に限りない不安が、襲う。

自然と、握っていた掌に力が入っていた事に気付く。重くなった、唇を開く。

 

「……。全て。全て壊れて仕舞えばいいのに。壊れて仕舞えば、同じ世界に––––」

「それは無理だよ。くーちゃん」

 

分かっていた。求めているのは、この世界じゃなくて。向こうの世界だと言う事に。

 

「でも。無理だからこそ出来ることもあるよー?この世界でしか出来ないことが、ね?」

「それには、くーちゃんの協力が––––」

「やります」

「そう言うと思った」

 

当たり前だ。ニル様を向こうの世界などに渡してたまるものか。私の世界には、束様とニル様さえ居れば良い。私を"私"としてじゃなくて。"私だからこそ"必要としてくれた束様に。私を誰とも変わらない、普通の人として扱ってくれるニル様に。それ以外など必要ない。

 

「それじゃあ––––始めよっか」

 

その言葉に頷く。二人の目は。

 

 

黒を映して。


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