異世界転生にハーレムを求めて何が悪い!   作:壟断

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09:世界で一番深い街

 17階層の洞窟を抜けた先に広がる広大な18階層の森。

 ここは、迷宮内でいくつか存在する安全階層の一つ。

 中層に足を踏み入れた冒険者たちにとってひとつの到達点であり、深層を目指す冒険者にとっては一息つける中継点でもある。

 

「クラネル君たちは、本当に運が良い」

 

 リューたちの予想通り18階層をめざし、階層主をやりすごして無事にここへたどり着いていた。

 再会の喜びに抱きしめあっていたベル・クラネルとヘスティアの姿を羨み、クラネルと同じく無事な姿を見せたリリルカがクラネルからヘスティアを引きはがしたりする姿を妬んでし

 

まっている自分に呆れた私は、ひとり18階層に設置されているリヴィラの街を目指した。

 瀕死の状態だったクラネルたちを助けたのは、アイズ・ヴァレンシュタインとそのファミリアである【ロキ・ファミリア】だった。

 運よく18階層に到達。

 運よくギリギリで階層主を回避。

 運よく深層からの帰還途中だった知り合いの上級冒険者に拾った。

 運も実力の内、というのは冒険者の基本らしく、私の価値観でもそれは真実だ。

 それでも彼に対する妬みは尽きない。

 別に彼の死を願っていたわけではない。

 個人的に『他人の不幸は蜜の味』なのだが、この世界に来てからの私はそれを貫き通せていない。

 妬みや恨みはすれど、本当の意味で他者を嫌うことが難しくなっている。

 どんなにむかつくイケメンやハーレム野郎を見ても爆発しろと思うだけで、実際に殺すような危害は加えていない。

 せいぜい酔った勢いで理不尽な攻撃を仕掛けるくらいで、たいていの場合は手痛いしっぺ返しを食らうのが常だ。

 大きな力を持てば、私はきっと他者を殺すような外道だと思っていたのだが。

 まあ、私自身にそれだけの豪胆さがなかったというか、私のキャラに冷徹だとか冷酷だとか、無情だとかが似合わないだけなのかもしれない。

 無事なクラネルの姿を見たヘスティアの表情を見たらクラネルに対する嫉妬の念は抑えられた。

 やはりいい女は他人事でも快くしてくれる存在だ。

 せっかくヘスティアが私の内面を良い気持ちにしてくれたのでクラネルや【ロキ・ファミリア】に喧嘩を売ってしまわないように私は彼らと別行動を取ることにした。

 クラネルたちは、捜索に来た【タケミカヅチ・ファミリア】のメンバーを見て思うところがあったらしく今は、【ロキ・ファミリア】から借り受けたテントの中でお話し中だ。

 私はいつも通り、リヴィラの街に仕事をしに向かう。

 そんな平常運転(ボッチ)の私を呼び止める声があった。

 

「ダイシン氏、少し待ってもらいたい」

 

 振り返るとそこには頭から若草色のローブを被り、申し訳程度に顔を隠しているリュー・リオンがいた。

 

「リューか、君もリヴィラに行くのか?」

 

 ここでデートに誘うという選択肢を取らないのは答えが分かり切っているからであり、そこまで恰好を付けられないからだ。

 酔っていればいけると思うが、スキルの影響がなくなったとしても私のような男のそんな軽薄な態度をリューが好むとは思えない。

 

「いえ、私は皆さんが帰還する準備を整えるまで森の中で待っています」

 

 私の内なる苦悩を気にするような気配もなく接客時のような淡々とした声音で言う。

 

「言いそびれていたのですが、リヴィラの街や【ロキ・ファミリア】の方たちの前で私の名を出さないようにお願いしたい」

 

「それは……ああ、なるほど」

 

 淡々とした声音の中にもどこか鋭い気配が混じったことで私は彼女の経歴を思い出す。

 これまでは深く関わることもなかったから特に彼女から注意されることもなかったが、オラリオに長くいるベテラン冒険者たちにとってリュー・リオンの名はそれなりに影響がある。

 クラネルたちや桜花たちはリューの事情をまだ知らないから名を出しても咎められなかったが、リヴィラの街では違う。

 かつては『疾風のリオン』と呼ばれた凄腕冒険者が今では酒場のウェイトレスをしている理由。

 それも私が興味を持って調べたオラリオの事件の一つからたどり着いた事実。

 私自身は彼女をそのネタでどうにかしようとは思わないし、過去の彼女の行いを否定も肯定もしない。

 強いて言うならば、私の価値観の中で彼女の決断は正しいと思った。

 

「この街は力がものを言う。君なら気にする必要もないと思うが……気を付けよう」

 

「お願いします。私からはそれだけです」

 

 私が納得するとリューはあっさりと踵を返して森の方へと歩いていく。

 ここでもう少し思わせぶりな視線やら意味深なセリフとかがあれば脈ありと判断してデートに誘うなどの賭けに出てみたいのだが、本当に何の思いの残滓も感じさせないリューを私は

 

呼び止めることができない。

 私にできることなど、去りゆく背で靡くマントの裾から見え隠れする形の良い臀部を目に焼き付けつつ佇んでいることだけだった。

 

 

 18階層の西部地帯にある湖に浮かぶ島上に造られた街リヴィラ。

 仕切りが存在しないドーム状の大空間となっている18階層の天井からは膨大な量のクリスタルが咲き誇り、その明滅により、昼と夜が18階層には存在する。

 切り立った階層の岩壁のいたるところからクリスタルの輝きが咲き、階層南部から東部にかけて広がる森には清水を湛える川や泉がある。

 北部にある湿地帯には別階層から入ってきたモンスターたちが渇きを潤し、豊かな実りの恵みにあやかっている。

 モンスターが発生することがない安全階層といってもこのように別階層のモンスターが入ってくるので散発的な戦闘は起こってしまう。

 たまにリヴィラの街も襲撃を受けて崩壊するが、冒険者たちはそのたびに街を捨ててモンスターが居なくなってからまた街を造るということを繰り返している。

 私が前に訪れた際は、その襲撃を受けたすぐ後だったために街はほぼ破壊されていたが、驚いたことに人的被害はかなり少なかった。

 18階層に常駐するような冒険者たちは、モンスターの襲撃に慣れているため引き際を弁えているらしい。

 あの時は再建の程度の手伝いや多少の物資供給程度しかできなかったが、街は随分と形を取り戻しているようだ。

 

「げ、てめぇは!?」

 

 一月ぶりの街を散策していると見知った冒険者と遭遇した。

 

「ああ、アンタ等か。元気なようで安心したよ」

 

「ど、どの口が言いやがる!」

 

 私の軽い挨拶に冒険者の男が喰ってかかってくるがそれを男の仲間が抑える。

 

「おい、こんな疫病神と一緒にいちゃまたとんでもねえ化物を押し付けられるぞ」

 

「そうよ、今回は早目に地上へ戻りましょう」

 

 両脇から仲間に抱えられた冒険者の男は何か言いたげな表情を私に向けながら引き摺られていった。

 

「はっはっはっ! 疫病神たぁ、テメェはどこに行っても厄介者だなぁおい?」

 

 冒険者たちが悪態を残して去ったところにドスの効いた声がかかる。

 声の方に視線を向けると共通語(コイネー)で買取所と書かれた簡易な小屋の中から棍棒を肩に担いだ眼帯の大男が私を睨みながら鎮座していた。

 

「ボールス、私に対して示威行為は意味がないのは分かっているはずだ」

 

「はっ、俺はいつもこんなんだからよ。そんな風に見えてんならそりゃあ、テメェがビビってるからじゃねえのか?」

 

 私の指摘に変わらず横柄な態度で返す買取所の主ボールス。

 

「この前の襲撃以来だから一月ぶりか? ずいぶんとまあ険の取れた緩い顔しやがって」

 

 ボールスのこちらを値踏みするような視線は相変わらずだ。

 以前はスキルの影響でひどい扱いを受けていたが、気にならなかった。

 いまだに弱かった頃の名残で威嚇されると少し動悸が早くなるが、それも丁度よい警戒心として受け入れている。

 

「そう見えるというのなら前の貴方は私を恐れていたんじゃないのか?」

 

「ルーキーが言うようになったじゃねぇか」

 

 私の返答に歯を剥き出しにした粗野な笑みを見せるボールスの姿にため息が出る。

 

「貴方と会話を楽しむつもりはないよ」

 

「そりゃあ、お互い様ってやつだぜ? さっさと今回の分を寄越しな」

 

「私たちの関係は売り手が優位だというのを忘れないで貰いたいな」

 

 ボールスの催促に私は秘密道具のひとつである『無限鞄(バックパック)』から道中で採取したアイテムを取り出す。

 

「おお、相も変わらず何でも出て来やがるな?」

 

「無駄口を叩く前にさっさと換金してくれ」

 

「け、せっかちなやろうだ」

 

 言いながらもボールスは私が渡したアイテムを鑑定し始める。

 私が持ってくるアイテムは、モンスターからドロップした素材や道中で作成した物も合わせて十数品目ある。

 上層や中層では絶対に入手できないようなレア素材や地上で売れば一つ数十万ヴァリスする薬系アイテム。

 すべて合わせれば地上価格にして1000万ヴァリスを超える額になるはずだ。

 そんな高額アイテムをすべて確認したボールスは大きなため息を吐きながら買値を出した。

 

「全部まとめて特別価格の150万ヴァリスだな」

 

「アンタの目は腐ってる」

 

「はっ、いやなら他所に行きな」

 

 このやり取りも一か月ぶりだった。

 本来の相場を大幅に下回る買値に普通の客なら激怒するところだが、私はすでに慣れてしまった。

 ダンジョン内では、必要以上のアイテムや魔石は移動の邪魔になるだけなので余剰分はどうしても手放さなければならない。

 ただ捨てることになるのなら少しでもお金に換えられた方が良い。

 そういった冒険者たちの足元を見るのがここの商売だった。

 捨てるはずだった物とはいえ、お金に換えられると思えばそれ相応の額を期待するのは欲を持つ者の性だろう。

 そして、ここでは買取だけでなく販売価格にも同じような影響が出ている。

 何を買うにしても地上価格の何倍もの額を吹っ掛けられるのだ。

 それはサービス業に関しても反映されており、食堂や宿泊所もありえないほどの額を要求される。

 そのため18階層をよく利用する冒険者たちは、食料や野宿装備を整えている場合が多い。

 町中で飲食や寝泊りをしているのは、必要に迫られた者やここで商売をする者の関係者ばかりだ。

 私なら十二分に物々交換で衣食住を確保できるが、それを続けると要らぬ面倒に巻き込まれる可能性が高い。

 それを回避するために私は、この町のまとめ役であるボールスのところでのみ取引をするようにした。

 私自身、ダンジョン内でアイテムの販売を行っているがこの町の半分以下の価格で販売している。

 それでも地上価格の倍近い額だが、15階層から下層になれば十分な良心価格である。

 そんな私の商売を快く思わない者もいるが、こうしてボールスと取引をしている限りは表立った邪魔などは入らない。

 

「いい加減、てめえもここで商売を始めたらどうだ?」

 

 アイテムを収めたボールスは取引の証文を渡しながら言う。

 

「てめえくらいの実力と技術があれば、いくらでも稼げるだろうに」

 

「私はもう十分稼いだよ」

 

「欲のねえ野郎だな」

 

 ボールスやこの町の冒険者たちがお金にがめついだけだ。

 私がダンジョン内で商売をしているのは、『青の薬舗』を宣伝するのが目的だった。

 スキルの影響で店員ができない私だが、ダンジョン内でやむにやまれない状況になっている者たちは、多少の忌避感を感じながらも私の商品を購入する。

 ダンジョン内でたまたま購入したアイテムが他店で購入したアイテムより、明らかに効果が勝っていたら?

 街に戻った際、アイテム補充を考えた段階でとりあえず店を覗いてみようと考える。

 そして、店舗内にならぶ商品の価格を見て多くの冒険者たちは思ったはずだ。

 ダンジョン内で購入したアイテムと同じものが『青の薬舗』では、さらに安価で手に入る。

 もちろん、原価を割るわけには行かないため同じ商品名でも他店より高めの価格設定であるが、そんなことは問題ではなかった。

 『青の薬舗』まで足を運んだ冒険者たちは等しく、そこにならぶアイテムが信用にたる品質であることをダンジョン内で経験していたからだ。

 私がダンジョン内で商売を始めてから僅か一ヵ月でミアハ・ファミリアにあった数億ヴァリスという多額の借金は完済された。

 この商売以外にも希少素材やアイテムの採取などを含めた収入額は大規模ギルドの遠征時の利益を遥かに上回っていた。

 

「それで? これからもダンジョンで商売は続けるのか?」

 

 渡された証文の内容を確認していた私にボールスが伺うように訊ねてくる。

 

「そのつもりだが、供給量は減らすつもりだ。資金に余裕もできたからそろそろファミリアの強化を優先していこうと思っている」

 

「ギルドの強化? てめぇんとこは商売系ファミリアだろ?」

 

「商売をするにしても素材集めや商売敵の妨害工作なんかに対応しなければいけないからな」

 

 地上の商売は、ギルドの目があるため表立った衝突はなかなか行われないが、見えないところでさまざまな工作がされている場合も多い。

 

「はっ、地上の商人さまは陰険なんだな?」

 

「そうだよ、地上の商人たちに比べればアンタらの方が分かりやすいし、可愛いものさ」

 

「そりゃあ、おっかねぇな」

 

 私の軽口に大口を開けて笑うボールスに別れを告げて店を離れる。

 

 スキルの影響が抑制されている状態であってもここまでフレンドリーな対応をするボールスの言動に驚きがあった。

 どうにも私は、粗暴な者たちに好まれる性質でもあるのだろうか?

 ボールスや助けてやった冒険者たち、いちおう女の部類であるロキとか。

 ロキは粗暴ではなく、雑な奴か。

 どちらにしろ、あまり嬉しくない状態だな。

 いや、ロキは中身はオッサンだけど見た目は綺麗だし、酒が入ればスキンシップが気持ちいし、無乳でゴシゴシされるのも嫌いではない。

 

「げっ、テメェは!」

 

 先日の『豊饒の女主人』亭でのことを思い出しつつ悶々としてきたところに野太い男の呻き声で現実に戻される。

 

「……誰?」

 

 ちょっと生え際が後退している中年っぽい冒険者と細面のオネェ系とガチムチ系の三人組。

 どこかで見たことがあるようなないような。

 

「っ! ついこの間俺たちを殺そうとした癖に忘れてんじゃねぇ!」

 

「ちょ、モルド! こいつに関わっちゃだめよ!」

 

「は、離しやがれ!」

 

 仲間に両脇から抱えられ暴れながら引き摺られていくモルドという男の姿でようやく思い出す。

 

「相変わらず、三下が似合うな」

 

 ある種の尊敬を込めた感想で見送りながら私は街の外へ向かう。

 私が関わりたいのは、可愛い女の子であってむさ苦しいオッサンと何度も遊んでいる暇はない。

 

「……もうこの際、娼館でもいいか」

 

 出会いがあっても触れ合いがない。

 私には、圧倒的に愛が足りていない。

 多額のヴァリスを積んでも恰幅の良いおばちゃんしか相手をしてくれない『豊穣の女主人』亭もそろそろ卒業する頃合いか。

 そう思っていると遠目に白髪赤眼の少年が、ロリ巨乳やロリっ娘や女剣士や褐色貧乳やらに囲まれてわいのわいのしている姿が見えた。

 ついでに椿・コルブランドの豊満な胸にホールドされる赤髪鍛冶師の姿も見える。

 さらにおまけでほかの者たちと離れた場所でタケミカヅチ・ファミリアの大男と前髪系美少女がいい雰囲気を作っているように見えた。

 

「ミアハ様、俺は、地上に戻ったら絶対に可愛い女の子とちゅっちゅしする……例え、娼館に行ってでも」

 

 とりあえず、今日はどのキノコを刈り取ることにしようかな。




ご無沙汰しておりました!

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